異世界って聞いたら、普通、ファンタジーだって思うじゃん。   作:たけぽん

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4. 本音

 

 俺がこの世界に来てからしばらく経った。とりあえず、学校生活はそこそこといったところだろうか。ひなとの疑惑も完全に消えたわけではないが、高校生は常に最新の獲物を求める。そんな訳で周りは少し静かになった。

 

「つまりい!一月一日生まれの我は原初にして創始者!世界を掌握する力を持っているのだあああああああああああ!」

 

 嘘です。うるさいです。亜季斗まじうるさい。今、俺は放課後の教室で宿題の作文をしていた。別に出し忘れたとかではなく、今日出た課題をさっさと済ませようと思っただけだ。テーマは『中学での思い出と高校でやりたいこと』。そんな勤勉な俺の机の周りは騒がしい。

 

「いや、委員長うるさいから。これそういう占いじゃないから。あとうるさい」

 

しおりか。こいつ、いつも亜季斗罵倒してるな。

 

「まあまあ、しおりーそんなにいったらそのうち委員長ハートブレイクしちゃうよ?」

 

瑠璃か。どういうわけか、瑠璃、しおり、亜季斗は休み時間や放課後、俺の近くにいる。

 

「望月君は?」

 

あとひなもいる。……ん?俺、今呼ばれたか? いや、気のせいだろ、作文作文と……。

 

「ねえ、望月君ってば!」

「!?な、なんだ!?」

「もっちー聞いてなかったねえ?愛しのひなたんのお話を!」

「ちちちちちょっと瑠璃ちゃん!何言ってるのさあ!」

 

このやりとりはもう既に何度も繰り返されているので気にはしていない。ひなは気にしまっくているが。チョロインすぎ。

 

「聞いてなかった。何の話だ?」

「誕生日占いだよ。モテ月くん♪」

 

しおりに名前を意図的に間違えられた気がするが気のせいだろう。で、なんだ? 誕生日占いだって?

 

「俺は占いに興味はない。大体、誕生日占いなんて一番当てにならん。4月生まれは温厚ですと書かれていようが4月生まれの凶悪犯罪者なんてざらだろう」

 

と持論を展開してみると、

 

「うわ、でた、望月のひねくれ理論。」

 

としおりに一蹴され、

 

「ふぅん。ロマンの分からん凡骨が」

 

と亜季斗に海馬っぽく言われ、

 

「よっ!ひねくれエンペラー!」

 

と瑠璃に褒められた。もうやめて! 俺のライフはゼロよ! ひな……お前は何も言うなよ?

 

「望月君……あくまで占いだから、必ず当たるわけじゃないんだよ?みんなで楽しむのが大事なんだよ?」

 

ぐはっ。ド正論で返された……。

 

「あーもう分かった分かった。てかお前らいると課題できんわ。もう帰ろうぜ。」

 

論点をすり替える作戦で行こう。

 

「ん?そうだな。すでに日も落ちた……我はこれより帰宅し政府へ報告をせねば……」

「委員長、何言ってんの?あとうるさい」

 

計画通り……(ゲス顔)。てかうるさくはなかっただろ……。そういうことで、俺たちは帰ることにした。ちなみに、作文は一文字も書けていない。

 

 

 俺とひな以外のメンバーは正門を出てから帰り道が逆方向なので、必然的に二人きりになる。そりゃ噂もされるわな。というわけで俺はそれを避けるために、

 

「俺、晩飯のおかず買いにスーパー行くから」

 

よし。完璧だ。ところが帰ってきた答えは……

 

「あ!あたしもおつかい頼まれてたんだ!!思い出せてよかった~」

 

なん……だと……。いやいや待て待て。二人でスーパーに行って買い物して一緒に帰るとか流石に見る人が見たら絶対に誤解される。よし、作戦プランB(急増)に移行する!

 

「あーでも冷蔵庫に昨日の残り物あったっけ。なら大丈夫か」

 

よし。完璧だ。(二回目)。あれ、なんかこれいやな予感が……。

 

「そっか……」

 

 ひなはうつむき、寂しそうな表情を浮かべている。マズい……流石にこの状況で一人で帰れるほどの度胸は俺にはない。何よりも、このことがもし瑠璃の耳に入ったら……うん。よし……ここはどこぞの省エネ主人公に倣うことにしよう。

 

「はあ……分かったよ。可処分エネルギーは残ってる。それに明日の分のおかずがないしな」

 

やらなければいけないことなら手短に。便利だな、ほうたる。さて、ひなの反応はどうだろう。

 

「……よ、よかった!それじゃ、駅前のスーパーだね!今日あそこ特売日なんだよ!ほらほら早く!」

 

チョロすぎるだろ……。そんなこんなで駅前のスーパールートに変更されましたとさ。

 

 

スーパーで特売の野菜やら肉やらを少々買い、両手に重い荷物を持ちながら帰路についていた。何故、少々買っただけなのに両手に重い荷物を持っているかというと、

 

「ごめんね望月くん……。ちょっと買い過ぎちゃって……。」

 

ということである。俺とスーパーに行くのがそんなに嬉しかったのか、テンションがリミットブレイクしたひなは、黙示録の雷のような速さで店内をめぐり、特売品を買い込んだのである。その容量は小柄な女子が持つにはキャパオーバーであり、俺が持つことにした。

 

「くぅ……流石に買いすぎだ……」

「ご、ごめん!重いよね!やっぱりあたしが持つよ!!」

 

と、言われても……

 

「駄目だ。こんな重いもん持って歩いてたら、次の下り坂で転ぶかもしれないだろ?そうなると俺が困る」

「望月くん……」

「だってめんどくさいだろ?」

「うんうん……って、なにそれ!あたしを気遣ってくれたんじゃないの!?もう、望月君のバカ!」

 

はいはい。はあ、まったく。異世界に転生したはずなのにやってることが地味過ぎるだろ。本当にここは何の世界なんだか……。

 

「んじゃあ、またな。」

 

なんとか家の前まで到着。頑張った、俺は頑張った……帰ったらすぐに寝よう。

 

「うん……荷物持ってくれてありがと……それから……」

 

うん? あとは「またね」で解散の流れじゃないのか。流石にこれ以上は俺のHPが持たない。

 

「その……おやすみ!」

 

バタン! そう言ってひなは家に入った。

 

「返事くらい待てないのか……」

 

まあいいや。俺も寝るか。

 

 

 

 

 

――――――『中学での思い出と高校でやりたいこと』、作文のテーマだ。俺が今日、作文を一文字も書けなかったのは別に周りがうるさかったからじゃない。何も思いつかなかったからだ。いや、違う。何もなかったからだ。中学の思い出と言われても、俺はこの世界では高校生からのスタートなのだから、そんなものは存在しない。それに、だ。前の世界での中学での出来事……あれを思い出とは言えない。思い出というのは思いがないと思い出とは呼べない。逆に言えば、つらかろうが楽しかろうが思うところがあれば思い出と呼べるのだ。

俺は……あの頃には何も思うところがない。いや、思うことに疲れてしまったのかもしれない……。

 




武哉「高校生活ってのも大変なんだな……」

瑠璃「何言ってんのもっちー!まだ始まったばかりだよ!お楽しみはこれからだ!」

武哉「そうだよな、文化祭やテスト……それに彼女ができればクリスマスなんかも……」

瑠璃「次回はラブコメパートらしいよ?」

武哉「なにっ!?それは気を引き締めていかねーとな!」

瑠璃「いいよもっちー!その調子♪」

武哉「次回『休日』」

瑠璃「もっちーのラブコメじゃないみたいだけどね♪」

武哉「」

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