異世界って聞いたら、普通、ファンタジーだって思うじゃん。   作:たけぽん

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29. 常夏

 

 

 

土曜日。携帯のアラームがなる少し前に目が覚めた。珍しいこともあるもんだ。意外と俺も乗り気ということかもしれない。

布団をけっ飛ばし、ベッドを後にする。着替えて、洗面所で顔を洗い、冷蔵庫から食材を出し、適当に朝飯を作る。今日のメインは野菜炒めだ。速く起きたおかげで、いつもと違う味付けを試してみる。ほほう、これはなかなか……。

 

 

「まずい」

 

 

想像以上のまずさ。マヨネーズなんて入れるんじゃなかった。いや、ほら、マヨネーズ万能説ってのを試したかったんだよ。もしかしたらって思ったんだよ。

あまりにもまずいが、捨てるのも気が引ける。仕方ないので冷蔵庫に入れた。晩飯までになにか一緒に食べられる物を探そう。

 

空腹をこらえつつ、今日持っていく物を鞄にいれ、時間までテレビを見る。どうやら水着特集の用だ。

 

「今年のはやりは、これ!」

 

そういって出てきたのは、俗に言う白ビキニだった。そういや氷菓のOVAで千反田さんがこういうの着てたな。

 

「特にベストな髪型はポニーテール!」

 

へえ。白ビキニにポニテが今年の流行なのか。知らなかった。そもそも水着に流行があることすら知らなかった。無縁の人生だったからなー。

 

なんて思っていると、インターホンが鳴る。お迎えが来たようだな。

 

「はいよ」

 

扉をあけると、まあ当然だがひながいた。なんだかもじもじしているが、まあ気にしないでおこう。

 

「おはよう、望月君」

「おはよ。んじゃ行くか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

市民プールへの道のりは近いようで遠い。その理由は信号が多かったり、暑かったりするからというのもあるが、一番は俺たちが無言で歩いているからだ。

 

「……」

「……」

 

前にもこんなことがあったな。しかし、これからプールでアゲアゲウェーイするんだから(いやするかは知らんが)、多少は何か会話して準備したいものだ。

 

「今日も暑いな」

「え?う、うん。そうだね」

 

……。会話が途切れてしまった。下手か。下手だね。

 

「そういえば、朝、テレビで水着の特集やってたんだけど……」

「え!?う、うん」

 

なんだろうこの反応は。おかしいな、どういうわけだか今のひなの感情が読めん。朝にマヨネ炒めなんて食べたからだろうか。いや、単純に俺の知らない領域の感情なのかもしれない。

 

「今年は白ビキニが流行なんだってな、知ってたか?」

「う、うん。まあ……」

 

 

なんだこれは。もう辛すぎる……。

 

「望月君は、その、好みの水着とかある?」

「無いな」

「即答!?」

「俺は基本的に本人に似会っていればそれでいいのスタンスだ」

「そ、そっか。じゃあ頑張らないと……」

 

ひなが何を言ったか聞き取れなかった。やれやれ、俺も難聴系主人公の仲間入りか。やれやれとか言っちゃってるし。

 

 

とか何とか言っていると市民プールはすぐそこに見えていた。なんだかもう疲れたな、今日はプールサイドで座っていよう。

 

「おはよー!お二人さん。今日も熱いねえ♪」

「そうだな、今日は真夏日だな」

 

 

瑠璃の冷やかしを適当にかわし、俺はさっさと建物に入ろうとする。

 

「ちょっと待ちなさいよ望月」

 

しおりに呼び止められた。

 

「なんだよ、暑いからさっさと冷房にあたらせてくれ」

「まだ、委員長来てないから」

 

本当だ。亜季斗がいない。あの野郎、あと10分以上待たされたらキーホルダーの真相を暴露してやる。

 

それから5分ほどして亜季斗はやってきた。ものすごい寝ぐせで、量産されたアホ毛をぴょんぴょんさせている。こころがぴょんぴょんしたりしているんだろうな。

 

「委員長おそい!」

「いやあ、すまぬ!もうそ……ゴホン。ではなく物思いにふけって夜更かししてしまってな!」

 

今絶対妄想って言おうとしただろ。これが思春期ってやつだな。子供とはそういうもの、ワシにも憶えがある。いや、別に伏線でも何でもないです。俺はバイクと合体したり自らの足で走りだしたりしないです。

 

とりあえず建物に入り、更衣室の前で男女で別れる。

夏休みだけあってなかなか混んでいる。なんとか開いているロッカーをみつけ、貴重品をしまい、服を脱ぐ。

 

「なんだ武哉、随分と貧弱な体だな!」

 

亜季斗は暑かろうがなんだろうがこのテンション維持できるのか。尊敬しちゃうなあ(棒)

 

「やかましい、そう言うお前はどうなんだ……!」

 

そう言って亜季斗の方をみると、超絶にマッスルなボディをしたイケメンが。

 

「いや、誰だよ」

「いや、我だよ」

 

嘘だろ、眼鏡外して服脱いだだけでこんなに人って変わるの?その理論だと丸尾くんとか凄そうだなおい。

 

「おまえ、運動部だっけ?」

「いや、我はアニ研所属だ。体に関しては小中と武道をやっていたってだけだぞ?」

 

亜季斗に武道とは、野菜炒めとマヨネーズのような組み合わせだが、しかしそれにしたってその筋肉は凄いな。

 

「そんなことより武哉!お前は期待に胸躍らのか?」

 

この話題を始めたのは亜季斗の方だった気がするが、話題の鮮度が落ちるのは早いな。

 

「期待って?」

「ああ!それって女子たちの水着?」

 

どこのアンデルセンだお前は。

 

「で?水着がなんだって?」

「水着だぞ?あの沢渡氏の水着だぞ?もうしんぼうたまらんだろ!」

 

怖い。思春期男子怖い。

 

「なぜひな限定なんだ」

「なぜって、貴様!何のために体育に出ているのだ!体育は沢渡氏の乳揺れをみるためのものだろうが!」

 

とりあえず武藤先生に謝った方がいいなこいつは。

 

「ひなってそんなにでかかったか?」

「モチの論だ!!!!」

「そ、そうか」

「あれはDかEはあるぞ!」

 

さいで。ぶっちゃけた話しDでもEでもどれくらいの大きさかは俺にはわからん。だって、童貞だもの!

 

「てか、今日は別にひなだけじゃないだろ。瑠璃は?」

「……あれは今後に期待だな」

 

お前殺されっぞ。悪いこと言わねーから辞めとけって。

 

「しおりは?」

「いや、しおりはまあ、普通だな」

 

ええ……。俺はしおりのサイズがいかほどか知らんが、亜季斗の反応はもはや悟りを開いているレベルだ。幼馴染ってこういうものなのか?

 

「さあ、行くぞ武哉!夢と希望と!ロマンの世界が、我らを待っているぞオオオオオオ!」

「へいへい」

 

 

 

 

 

プールサイドに出てみると、やっぱり多少は暑い。というか俺は最初屋内プールを想定していたんだが、完全に屋外だった。騙され……てはいないな。俺が聞かなかったんだ。

 

「おまたせー!」

 

後ろから瑠璃の声がする。女子たちも準備ができたようだ。亜季斗が勢いよく振り向き、勢い余って転ぶ。

 

「なにしてんだ亜季斗」

 

そう言いつつ俺も振り返る。

 

「……おお」

 

そこには(当然だが)水着の彼女たちが。

瑠璃の水着はワンピース風のものだった。発育に関してはまあ、亜季斗の言いたいこともわからんでもない。

 

「もっちー、なにか言いたいのかな?」

「いえ、よくお似合いです」

「ならよし」

 

危ない、殺されるところだった。

 

しおりの水着は、ラッシュガードという奴だ。この前スポーツ用品店で見たな。何と言うか守りに入っている感じがするが、まあいいか。発育は、この水着だとよくわからんな。

 

「どう?委員長……」

 

しおりは亜季斗に感想を求めるが、亜季斗はその隣のひなにくぎづけだった。

ひなの水着は、白ビキニ。で、髪型はいつも通りのポニーテール……って朝の特集のまんまじゃねーか。なんか会話に詰まると思ったら俺が水着について半分核心ついてたからか。申し訳ない。発育に関しては、概ね亜季斗の言うとおりだった。確かにこれならクラスの男子たちが体育を楽しみにしても不思議じゃないな。

 

「も、望月君……。その、どうかな」

「最高だぞ沢渡氏!」

「お前いつから望月武哉になったんだ」

 

どう、と言われてもなあ。これまで女子の水着に感想なんて述べたことが無いし、どういう言葉が適切かわからない。似あっているよと言えばいいのかそれとも他に気のきいたセリフがあるのか。ううむ。どうしようか。

 

 

「もっちー、早く言ってあげなよ」

「ん?ああ、そうだな……うーん」

 

駄目だ、全然まとまらん。おかしいな、瑠璃としおりにはそこそこ感想をもてたんだがなあ。

 

「望月君……」

「……ん?なんだ?」

「その……さすがにそんなに見られると恥ずかしい、かな……」

「あ、ああすまん」

 

そんなに見てたか俺。しかし、なんだか全く言うことが思いつかない。

 

 

「やれやれ、もっちーも男子だねえ。ひなの水着じゃなくて体そのものにご執心なようで」

「へ?」

「ふぇ!?ちょ、ちょ、ちょっと瑠璃ちゃん!」

「うわあ、望月、あんたってやつは……」

「うむ、最低だな」

 

あらぬ誤解を受けてしまった。いや、そりゃいつまでも言わない俺が悪いんだろうけどさ。というか亜季斗、お前には言われたくない。さっきのしおりの表情を見せてやりたいな全く。

 

「ま、もっちーがケダモノなのはさておき、そろそろプールで遊ぼうか♪」

「うむ!そうだな!レッツゴオオオオオ!」

 

そう言って亜季斗が走りだす。って、プールサイド走るなよ。

 

「おい亜季斗、転ぶぞ」

「オウット!」

 

俺の言葉より先に亜季斗は足を滑らせる。まずいな。このままだと子供用プールに倒れこむぞ。亜季斗はともかく、子供たちが危ない。が、俺が走っても間に合わないのも事実。

 

「ヌオオオオオオ!ってあれ?」

 

亜季斗は転ばなかった。近くにいた監視員が亜季斗を支えることができたようだ。亜季斗は何か注意を受けているようだ。

 

「危なかったな」

「ホントよまったく。委員長のバカ」

「でも、あの監視員さんすごいね。とっさに城之内君の体を支えるなんて」

「それに、帽子かぶってって少しわかりづらいけどあれはかなりのイケメンだね。ラッシュガード着てる所からして日焼けとかも気にしてる美肌男子かも」

 

瑠璃さん、視力良すぎじゃないですか?今日はコンタクトのようだが、それ性能良すぎじゃない?

 

ぐう。腹の虫が鳴る。これは本格的に何か食べないと死にそうだ。そういえば向こうで軽食販売してたな。あとで買いにいくか……。

 

 

 

 

 

 

 

 




城之内亜季斗 (じょうのうち あきと)

1年B組 部活動 アニメーション研究会  誕生日

学力 D 知性 C 判断力 B- 身体能力??? 協調性 A+

クラス委員長にして激しくあつかりしオタク。武哉とはアニメやらラノベの趣味がとてもあうオタ友。だがしかし委員長。スクールカースト?知らん、そんなことは俺の管轄外だ。
しおりとは幼馴染だが、彼女と違い恋愛感情は抱いていない模様。ある意味こいつが一番ラノベ主人公に向いている気がする。

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