異世界って聞いたら、普通、ファンタジーだって思うじゃん。 作:たけぽん
渋谷と別れ、自宅に戻り携帯を見ると、ひなからラインが来ていた。
『望月君ごめん!明日から一週間、塾の関係で勉強会参加できなくなっちゃった……』
なるほど…まあテスト前だし、塾が忙しくなるのは当然だな。
『わかった。亜季斗たちには伝えておく。塾頑張ってな』
しばらくするとひなからスタンプが帰ってきた。
しかし、ひなが来れないとなると同じ塾の瑠璃も来れ無いわけで、そうなると俺一人で亜季斗たちを見てやらないといけないのか……。
……無理だ。でも赤点で追試になったらあいつら俺の事恨むだろうなあ……。
まあ、手段はあるが、少々面倒だな。
翌日の放課後、亜季斗たちを先に図書室へ向かわせ、俺は1年D組の教室へやってきた。
近くにいた女子たちに要件を伝えた。女子たちは俺をみて何か小声で話していたが、とりあえず目的の人物に取り次いでくれた。
「というわけで、D組の渋谷に勉強会に参加してもらうことになった」
「よろしく……」
渋谷は仏頂面であいさつする。そんな顔するなら断ってくれても良かったんだけどな。
「はああああああ!?」
しおりが驚きを表す。
「図書館では静かに」
「いや、だって、望月、あんたねえ!?」
まあこれが面倒だった訳だ。とりあえずこれ以上注目を集める訳にも行かなかったので、しおりを連れて廊下にでる。
「ちょっと、どういうつもりよ望月!」
「少し落ち着け、目立つだろ」
その言葉で、しおりも声が大きかったことに気付いたのか落ち着いてくれた。
「あいつ、体育祭の時のやつでしょ?」
ハッキングを頼む上で、しおりには渋谷の一件については一部始終を話している。それゆえの驚きだろう。
「そうだ」
「そうだ…じゃなくて!あいつがひなにしようとしたことはあんたが一番知ってるじゃない!」
「だからお前に協力してもらって解決したじゃ無いか」
「あいつを許したってこと?友達を苦しめようとしたあいつを」
当然の問いだな。だが、俺も考えなしにやってるわけじゃない。渋谷がひなにしようとしたことは紛れもなく悪事なのだから。
「なあ、仮にクラスでいじめが起きたら、責められるべきなのはだれだ?」
「は?何よ急に」
「良いから答えろ」
「そんなの、加害者に決まってるじゃない」
当然の回答だ。まともな感性を持つ高校生に聞いたら大半はそう答えるだろう。
「確かに、加害者には大きな責任がある。だがな、だからと言って100パーセント悪と決め付けるのは傲慢な考えだ。被害者にだって攻撃を受ける理由はある。たとえば、調子に乗ってるとか、誰かを傷つけたとか。人間の感情が関わる問題に関してはっきり善悪を判断するのは不可能だ」
「ひなに何の原因があるって言うの?」
「それは渋谷にとって重要な問題だ。俺からは言えない」
だが、しおりは釈然としない様子だ。言葉では理解しているが、感情が理解していない。まあ、高校生が簡単に割り切れることでも無い。
「それにな、しおり」
「なによ?」
「渋谷が参加しなければお前と亜季斗は追試確定だ」
「あいつに頼るくらいなら追試受けたほうがマシ」
「楽しい夏休みをおくりたいのなら、我慢したほうがいいと思うぞ?」
「うぐっ」
その言葉によってしおりは折れてくれた。夏休みの力ってすげー。
そうして勉強会はスタートした。
渋谷のやり方はひなとはちがって、問題集では無く過去問を利用した難しい内容だった。
当然、しおりと亜季斗は困惑している。
「ちょっと、これ難しすぎない?」
「見るだけで意識が遠のく……無念」
さて、どうする渋谷先生?
「望月から聞いた感じだとこの問題は沢渡ひなが教えた内容を使えば出来るレベルよ。問題をみて嫌になるだろうけど、まずは考えてみるのが大事よ」
素晴らしい。教師になりたいと言った通り、渋谷は教えるのが上手い。
「望月、あんたも見てないでこの過去問やって。」
ああ、はいはいっと。
一時間後。
「……」
「……」
信じられるか?これ、真面目に勉強してるんだぜ?
「渋谷氏、ここはx=2でいいのだな?」
「うん。後はその数字をこっちに当てはめて計算すれば答えが出るわ」
比較的簡単な問題だが、それでも亜季斗が理解できるようになっている。。しおりのほうも、英文の和訳スピードが向上しているし、俺も問題がスラスラ解ける。渋谷先生まじパねえ。
「どうだ?渋谷に頼んで良かったろ?」
小声でしおりに問いかける。
「まあ、教え方に限って言えばひなより分かりやすいわ。でも…」
しおりはまだ不満なようだ。
そして次の日の放課後。ホームルームが終わり、俺は渋谷と図書室に向かっていた。
「それにしてもお前、あっさり引き受けてくれたよな。びっくりしたわ」
もし断られたら、また脅そうと思っていたが、渋谷はあっさり承諾してくれた。俺個人に教えてくれるのならまだ分かるが、亜季斗たちにまで教えてくれるのは意外だった。
「まあ……そうね」
「なんか理由があるのか?」
「あんたが言ったんじゃない。その、『友達を助けるのは当たり前だ』って……」
渋谷は俯きながらそう言う。自分でも似合わないことを言ったと自覚しているのか、耳まで赤くなっている。
「それなら、これからは俺たちと一緒にいるか?」
しおりの承諾を得るのは困難だろうが、俺個人としては渋谷が俺以外の友達を作るのも必要だと思っている。悪い話では無いと思うが…。
「遠慮しとく。あんたはともかくあの赤坂って子は私を良く思って無いみたいだし、それに……」
「それに?」
「多分、それだとまた沢渡ひなになにかしちゃいそうだし」
なるほどね。自分ではもうあんなことはしまいと思っているのだろうが、ひなと近くにいることでどうにかなってしまうかもしれない、という不安があるのだろう。まあ、友達ってのは無理に作るものでもないし、渋谷のペースでいいか。
「そうか、まあそれなら仕方ないな」
そうして、俺たちの会話は終わり、図書館へと歩いて行く。
「あ!望月君!」
職員室の前でひなに会った。
「よう、ひな。なにしてんだ?」
「体育祭の報告書を提出して、それで今終わったところだよ。これから塾に行くの」
「報告書なんてあるのか。そりゃお疲れさん」
実行委員長も大変だな。テスト勉強と並行してそんなことまでしないといけないなんてな。
「あれ?渋谷さん?」
どうやら渋谷に気付いたようだ。渋谷は鳩が豆鉄砲食らったような表情だ。できればこのまま話が終わってほしかったのに、まさか話しかけられるとは思って無かったんだろう。
「ど、どうも……」
「あーそっか!望月君が勉強会に誘ったんだね?」
「まあ、他に適任を知らなかったからな」
渋谷は尚も気まずそうだ。まあ当然だよな。
「ありがとね!渋谷さん!」
「別に、あんたの為じゃ……」
「期末テスト、負けないからね!お互い全力で頑張ろうね!」
「……!」
ひなの言葉に渋谷は面喰っていた。俺はあの屋上での渋谷の言葉を思い出した。
―――――あいつの目には、私も泉も映って無い――――――
それは渋谷が事件を起こした理由の一つであり、最も大きな要因だった。
だが、それは違った。ひなは渋谷をライバルと認識していたのだ。おそらく泉の事も。
「それじゃあ、また明日ね!」
ひなはそう言って去って行った。
「良かったな」
「別に……。」
そうは言っているが渋谷の表情は明るい。
「バカみたいって思ってる?」
「いや、全く」
誰かに認めてもらえるというのは、それだけで心の支えになる。その大きさは俺も知っているから。
赤坂しおり (あかさか しおり)
1年B組 部活動 アニメーション研究会(半幽霊) 誕生日 8月9日
学力 C 知性 B- 判断力 B+ 身体能力 C 協調性 C+
長い黒髪が特徴の女子生徒。理数以外の点数は壊滅的。だが、プログラマーおよびハッカーとして一流クラスの才能を持っており、体育祭の一件では武哉を助けた。幼馴染の亜季斗に好意を寄せている。さくら荘の赤坂龍之介の大ファン。