異世界って聞いたら、普通、ファンタジーだって思うじゃん。   作:たけぽん

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だいぶ間が空いてしまって申し訳ありません。


23. 友達

 

迷った。ことにしておこう。実際のところ、意図的にはぐれたのだけれど、私にはそうするしかなかった。

怖かったのだ。今日を楽しんでいる自分が。

私は今まで、友達と遊んだことは無い。私の家はそこそこ立派な家系で、昔から優秀な人物が排出されている。私も、その家の一人として、必死に勉強してきた。それこそわき目もふらず。そのおかげで、小学校も中学校も、私は一番の成績を収めてきた。この世の中は、学力が物を言う。勉強が出来れば、全てが手に入る。でも、私には友達はいなかった。

そんなものは勉強の役には立たないから。学問を究めることと、人と仲良くすることは両立できない。それが私の考えだった。

 

でも、高校で私は二番だった。それ自体はそこまで問題じゃ無かった。悔しくはあったけど、一番の奴も私と同じ努力をしていたのだろう、だからもっと努力すればすぐに一番になれる。そう思ったからだ。でも、違った。一番の人間は私とは違った。私が選んだものも、切り捨てたものも、どちらも持っていた。私は、悔しかった。自分が努力してきたことを否定されたようで。だから、一番の人間を苦しめてやろうと思った。そのために策を弄した。他人を使ってまで。でも、一番でも二番でもない人間に私の策は破られた。そいつの目は私の全てを見透かしているようで気味が悪かった。そいつは言った。『友達を助けるのは当たり前』だと。友達のいない私には分からなかった。何よりショックだったのは、眼中に無かった奴に負けたこと。私はそいつを恨み、嫌った。

でも、今日私はそいつと行動を共にしていた。心底嫌っていた人間と行動するなんて本当に不快だった。でも、いつの間にか私の中には不快感より、『友達と遊ぶってこういうことだろうか』という考えが浮かんできた。自分でもおかしいとは思ってる。でも、私は今日を楽しんでいた。それがたまらなく怖かった。自分が自分じゃ無い気がして。凄く気分が悪い。

 

 

 

 

 

 

渋谷の奴、遅いな。これは迷子の可能性が出てきたな。仕方ない、電話するか。

発着履歴から渋谷の番号を探し、リダイヤルする。しばらくコールした後、渋谷は電話にでた。

 

『何よ?』

「ずいぶん長いトイレだと思ってな」

『バカじゃないの』

「バカはお前だろ、あの場所で迷子になるとか」

『……』

「下は混んでるから上の階で合流するぞ。これ、命令な」

 

渋谷は何も言わなかったが、おそらく了承したのだろう。

エレベーターで上階へ上がり、指定の場所へ向かう。渋谷はベンチに座っていた。

「遅かったわね」

「お前が早いの間違いだろ」

 

どこかで聞いたやり取りをし、俺は隣に腰かけた。

 

「俺と一緒にいるのがそんなに苦痛だったか?」

「最初からそう言ってるでしょ」

「でも、心の中で楽しんでいる自分がいて、それが気持ち悪い。ってとこか?」

「……っ!」

 

まさかそんなことまで見透かされているとは思わなかったのだろう。渋谷は面喰っている。

 

「さて、VRの会場に行こうか」

 

再びエレベーターに乗り込む。一階のボタンを押すと降下していく。

 

「あのさ……」

 

渋谷が口を開こうとしたその時、

 

――――ガコン  

 

エレベーターに異変がおきた。照明が消え、大きく揺れた。どうやら停止したようだ。

 

「……で、なんだ?」

「そんな場合じゃないでしょ。どうすんのよこれ」

 

確かに、このままってわけにもいかないな。とりあえず非常通話ボタンを押してみる。が、反応は無い。電源ごとやられたようだ。

 

「とりあえず、エレベーターが止まってるのは外部でもわかってるだろうし、助けを待つしかないな」

 

「落ち着いてるわね」

 

というわけで俺たちはエレベーターの中で待機することにした。

 

 

「なあ渋谷」

「何…」

「いや、見るからに具合悪そうだぞ、お前」

「そうね…。なんだか体が重いわ」

 

熱中症だな。昼飯食って無いし、ここは暑いし、何より精神的に弱っている。

 

「とりあえず、お茶でも飲め」

「もう、空っぽ…」

 

まあ、今日は暑かったし、こまめに飲んでれば、無くなってもおかしくはないか。

 

「じゃあ、これやるよ、まだ開けてないから」

 

ここへ来る途中に買っていたいろはすを渡す。

さて、熱中症か。処置の仕方を調べるか。スマホを取り出し、検索をする。大抵は救急車を呼べと書いてあるが、この状況では不可能だ。他を探すか。

 

「渋谷、とりあえず俺の膝の上に足おいて横になれ」

「は?何言って…」

「さっさと従え、命令だ」

 

渋谷は言われたとおりにした。とりあえず足を心臓より高くすることには成功した。これで血流はなんとかなるか。

 

「つぎは濡れタオルか」

 

鞄からタオルをだし、さっきのいろはすで濡らす。ちょっとぬるいが、無いよりマシだろう。

 

「これ体に当ててろ」

 

「で、何々…なるほど」

 

俺は渋谷のベルトに手をかける。

 

「ちょっ!どさくさにまぎれてなにする気よ!」

「勘違いするな、緩めるだけだ。こんなところで襲うわけないだろ」

「他の場所なら襲うわけ…?」

「うん。これは重症だな。しっかり休めよ?」

 

危ない、あやうく血迷うところだった。俺も暑さにやられてるな。

 

 

とりあえずやれるだけの処置をした。かれこれ20分は経っているが、一向に救助は来ない。

 

「ねえ…」

「なんだ?あまり喋ると体力を奪われるぞ」

「なんで、助けてくれるの?私はあんたの友達でもないし、むしろあんたの友達を苦しめようとしたのよ…?」

 

まぁ確かに、そう考えるのは当然だな。

 

「あのな、お前は目の前で知り合いが困ってるとき、見ないふりをして、快く飯が食えるか?」

「それだけ?」

「後は…お前みたいなやつの苦しみを知っているからだよ」

 

俺は渋谷のように勉強ができる訳でもないし、こいつが勉強に固執する理由なんて知らないし興味もない。だが、こいつの戸惑いや葛藤なら理解できる。それは俺が今抱いている物と似ているからだ。自分が思っていることと現実で自分が感じていることのズレ、違和感。そうじゃないと理性を働かせ正当化しようとしても、感情がそれを許さない。結果、感情に流され自分の信念を捻じ曲げてしまうのだ。自分はここにいていいのか、楽しんでいいのか、笑っていていいのか。『力』に関しても、『気持ち』に関しても、こいつは俺と似ているのだ。

 

「何それ…意味わかんない…」

「なあ、お前って夢とかあるか?」

 

話題を変えよう。どうも最近の俺は余計なことを言いすぎる。

 

「……突然ね。まあ、ついさっき考えたのならあるわよ」

「それは?」

「教師になりたいの。教育機関が今より良くなれば私みたいに、勉強一辺倒になって、後で後悔する人もいなくなるかなって」

 

つまり、渋谷は友達が欲しかったのだろう。それでも、勉強に固執する理由があった。それが何かは知らないが、渋谷にとっては大事なことなのだろう。それでも、今はその理由よりも、渋谷は友達を欲している。

 

「渋谷、ひとつだけ言わせてもらうと、俺はお前の勉強中心の人生が間違っていたとは思わない」

「……!」

 

話題を変えたのにまた余計なこと言ってるな、俺。

 

「人生ってのは限られている。その中で出来ることもまた限られている。そんな中でお前は勉強を選んだ。俺には分からないがきっと大切な理由があったんだろう。でも、それだけ頑張ってやってきたことを、否定される辛さは俺にも分かる。俺とお前は似ているからだ。でも、違うのは、お前は過去を否定し、俺は今を否定しているってところだ」

「どういうこと…?」

「今を否定している俺にはきっと未来なんて無いだろう。でも、過去を否定するお前は、これから変わろうとしたお前には、未来がある。だからこそ、今は否定していても、お前は、その過去を肯定できる時が必ず来る。だから…。」

「だから…?」

「それまで、俺がお前の友達になるよ」

 

こんな言葉は、こんな感情になったのは随分と久しい、いや初めてのような気もする。それでも、俺はそう言いたかった。それは、渋谷の語った夢と同じ、自分のような奴を作らないためだ。

 

「渋谷…?」

「うっさい…ホントにうっさい…」

 

そういって、渋谷の意識は消えた。その頬には涙が流れていた。

 

 

 

 

その後、エレベーターは復旧し、俺たちは助かった。渋谷も応急処置のおかげで医務室では簡単な治療を受ける程度で済んだ。だが、意識が戻るまで時間がかかりそうだったので俺はベッドの横の椅子に座っていた。

 

何というか、少し感情的になりすぎたな。とうの昔に捨て去った過去への思いが少しぶり返したようにも感じる。「友達になる」なんて事を自分から考えたのも言ったのも随分久しぶりなもんだ。全く、失った時の辛さを理解しているのに、バカらしいな。でも、これが、俺が本当に求めていたものに最も近いものだろう。

 

 

「……ん」

「起きたか、具合はどうだ」

「えっと…、そうか、エレベーターで…」

 

渋谷は状況を整理しだした。まあまともに思考できるなら大丈夫だろう。

 

「ねえ」

「なんだ?」

「寝顔、見た?」

「必死に介抱したんだからそれくらいの見返りがあってもいいだろ」

 

渋谷の顔が羞恥に染まっていく。今日一日でこいつのいろんな顔を見てきたが、一番感情むき出しだな。

 

「忘れて…。忘れないならあんたを殺して私も死ぬ」

 

すごく物騒な発言だな。

 

「わかった。忘れる。だから枕を投げようとするな。それ堅い奴だろ、意外と痛い奴だろ」

 

死にたくないので、忘れることにした。

その後、渋谷も元気になったので、俺たちは帰ることにした。結局VRは試遊出来なかったが、緊急事態だったし仕方ないな。

 

「あのさ」

 

渋谷の言葉に振り返る。

 

「……あ、あり…あり……」

「どういたしまして」

「ち、違う!このクズ!」

 

そう言った渋谷は、笑っているように見えた。

 




沢渡ひな (さわたり ひな)

1年B組 部活動 無所属 誕生日 2月12日

学力 A+ 知性 A+ 判断力 C 身体能力 D- 協調性 B-

ヒロイン。1年B組所属。主人公・望月武哉の同級生。高校の入学式に欠席した武哉の様子を見に来たことから、登下校を共にすることとなる
とても純粋な心の持ち主で、かなりチョロイン。自分とは違い、表情を全く変えない武哉に興味を抱く。
かなりの秀才で、入試は全科目満点、学年1位。だが、運動だけは平均以下。同じクラスの高松瑠璃とは小学校からの友人。

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