異世界って聞いたら、普通、ファンタジーだって思うじゃん。   作:たけぽん

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 現在、1話から順に随時、追記・修正を入れていってます。既に読んでいただいた話数でも細かい内容が追加されてる場合があるので、もう一度読んでみても面白いかもしれません。


15. 面倒

 

 体育祭では全15種目の中から一人3種目以上の参加を義務付けられている。

俺は100メートル走、棒倒し、借り人競争の3種目に参加することになっている。正直一つも出たくなかった。まあ瑠璃なんかは9種目も出る訳だが、やはり適材適所ということだろう。俺の適所は座席だな。

 

 

『男子100メートル走に参加する選手はトラック前に集まってください』

 

100メートル走を選んだのも、一番最初に終わるからだ。その後の競技までゆっくり休める。

さて、俺の順番は6番目か。暇だなあ。

 

「望月!さっそくお前との勝負とはな!」

 

聞きなれない声だと思ったら、それもそのはず、ついさっき知り合った人物だった。

 

「安藤先輩…でしたね、言っておきますが俺と瑠璃は……」

「貴様、また高松を名前で……!絶対に俺が勝つからな!」

 

このデュエリストガチ勢が…。そもそも帰宅部の俺と陸上部の安藤では勝負にならないだろ。まあ、勝てば満足してくれるだろう。適当に流すか。

 

「次―6組目準備しろー」

 

やっとか、てか安藤、俺の事睨みすぎだろ。めんどくせえ。

適当にクラウチングスタートらしき体勢をとりスタートの合図を待つ。速く終わらねーかな。

しばらくして合図が鳴った。俺はそこそこ気張ってスタートした。まあ分かってたことだが、俺は選手の中で大体真ん中の順位を走る。となりのレーンからスタートした安藤はきれいなフォームで前方を走っている。

 

 

 

なんとか走り終えた。本当に疲れた。順位は3位。まあ6人中の3位ってことは平均的だな。俺らしい。

 

「ふん。どうだ望月!思い知ったか!」

 

ああはいはい。安藤は一位だった。凄い凄い。

さっさと座席という名のオアシスに戻ろう…。

 

 

ぼーっと競技を眺めていると隣に居たひなが話しかけてきた。

 

「次、瑠璃ちゃんが200メートル走に出るんだよ。一緒に応援しよ!」

 

さっきの競技にも出ていた気がするが、陸上部の実力ってやつか。

瑠璃の順番まで時間があるし、何か適当な話題でも無いかな。

 

「なあ、やっぱり人を名前で呼ぶのって変わってるかな?」

「え?うーん確かにちょっと抵抗あるかな。小学校の時は特に気にしてなかったけど。おかしな話だよね」

 

 やはり、高校生になって名前で相手を呼ぶことは何か特別感があるのだろう。そういえばひなも最初に俺が名前で呼んだ時、驚いていたな。しかも瑠璃の場合、俺をあだ名で呼んでいるのだから、安藤のように勘違いする奴がいても不思議じゃない。

 

「でも望月君ってあたしや瑠璃ちゃんたちは名前で呼ぶけど池内君とかは名字で呼ぶよね?どうして?」

「距離が近い人間は名前で呼んだほうが気分が良いからだ。池内とかは対して親しいわけじゃないしな」

 

 そんなことを言ってはみたが、実際のところ前の世界で高校生になった頃から俺は他人を名前で呼ぶことが増えた。理由はいろいろあるが、それを言ってもひなには伝わらないだろう。

 

「そっか……距離が近い、か……。えへへ」

 

相変わらずのチョロイン具合だな。敬礼。

 

「そろそろ瑠璃の番じゃないか?」

「え?あ、ホントだ!瑠璃ちゃん頑張って―!」

 

 200メートル走は男女それぞれでひと組ずつ交互に走る。瑠璃のグループは今走りだした男子の次だ。

ふと、トラックに目をやると安藤が走っていた。さっきも走ってたよな。ひょっとして瑠璃の出る競技すべてに出るのだろうか。それにしても速い。特にコーナーが。

 

 そして瑠璃の組が走りだした。トップはやはり瑠璃。速いなあ。

200メートル走も終わり、俺は飲み物が無くなったのでまた自販へ買いに行った。家から持ってくればよかったかな…。

オレンジジュースにしようかアクエリアスにしようか悩んでいると木崎先生がやってきた。

 

「体育祭は楽しんでいるか?」

「楽しんでるように見えますか?」

 

生意気に返すと木崎先生は笑みを浮かべていた。そんなに面白かったか?

 

「何か用ですか?」

「実行委員の件ではよくやってくれた。それを言いに来たのと、お前に一つ質問があってな」

「教師が生徒に質問とは珍しいですね。答えられる範囲ならお答えしますよ」

 

本当はさっさと戻りたいのだが、どうせまた合気道有段者だとか脅してくるだろうから応じることにした。

 

「なぜ犯人を学校側に告発しなかった?」

 

ああ、あの事か。木崎先生の言う告発とは、体育祭の準備期間に起こった渋谷たちの一件についてだろう。

 

 渋谷たちを告発しなかったのは、流石にハッキングで手に入れた証拠を学校に提示するわけにはいかなかったからだ。木崎先生なら上手くやってくれたかもしれないが、先生の目がしおりに向くのもしおりに悪い気がする。それに、変に告発するよりも、渋谷や泉を証拠で脅したほうが体育祭の準備をスムーズに進められると考えた。

 

 他にも理由はある。俺には、事件を起こした彼女たちの苦悩が少しだけだが分かる気がした。努力して手に入れた自分の力を他者に否定される苦しみが。その否定に意図があったか、なかったかは関係ない。

しかし、それら全てを話すのは面倒なので、

 

「先生からの依頼は仕事の遅れを解消することだったので」

 

と返しておいた。

 

「……そうか。まぁいい」

「ところで、実行委員の監視役がこんな場所でうろついてて良いんですか?」

「ふっ。本当に面白いなお前は。今度、私のお勧めの本を貸してやろう」

 

いらねえよ。どこの世界に生徒に官能小説を貸す教師がいるんだ。ああ、この世界か。

ウーロン茶を買ってその場から退散した。逃げるは恥だが役に立つんだな。

 

 

 そんなこんなで午前の競技は終わり昼食の時間になった。一年B組は瑠璃の活躍もあってかなり上位だ。弁当を広げて楽しそうに話しながら食事をとっている生徒もいるが、生憎、俺は弁当なんて持ってきていない。なので購買に行くことにした。

 

「……とりあえずサンドウィッチでいいかな」

 

弁当派が多いので購買は人が少なかった。俺はツナサンドを買ってグラウンドへ戻ろうとしたが、ある人物と目があったのでそちらへ行くことにした。

 

「何?別に呼んでないけど」

「ものすごい視線でこっちを見てただろうが。何の用だ渋谷」

 

渋谷と言葉を交わすのはあの時以来だ。最近よく見る悪夢と関係があることは明らかなので話しかけた次第だ。

 

「なんで何もしないの?」

「何のことだ?」

「カメラの映像で脅せるでしょ。体育祭でも泉に八百長を要求したり出来るじゃない」

 

確かに、他クラスでスポーツの得意な生徒を封じ込めるのはクラスの勝利へつながる。渋谷はそれを危惧していたのだろう。

 

「別に、俺は体育祭で勝利したい訳じゃないしな。特別点には興味が無いんだ」

「あんた、何のためにこの学校に入学したのよ…」

「さあな」

 

流石に「転生したら勝手に入学してました」なんて言えんよな…。

渋谷は完全に呆れている

 

「あの時は凄いキレ者だと思ったけど、こうして話すと凡人って感じね、あんた。小テストの結果をみると国語は得意みたいだけど」

 

 凡人…か。おそらくひなの得点を確認するときに俺の得点を見たのだろう。だが、俺から見ても渋谷はある意味で普通の高校生だ。こうして話しているとますますそう思う。よくもまあ実行委員を“妨害しよう”なんて思ったもんだ。妬みってのは人に“行動力”まで与えちまうのか。

 

それ以上は特に話すこともなく、渋谷との会話を終えて、俺はグラウンドの座席へ戻った。

 

「も、望月君……。あたしお弁当作りすぎちゃってさ……良かったら食べない?」

 

ひな、弁当のおすそわけは嬉しいが場を考えてくれ…。池内たちの視線が痛い。どうしよう。だが、ここで断るのは失礼だろう。もらっておくか。

 

「何がお勧めだ?」

「えっと、望月君が好きそうなのは唐揚げ、とかかな」

「よく俺が唐揚げ好きだって知ってたな」

 

何気なくそう返したが

 

「え!?それは、その……何となく。べ、別に望月君のお昼ごはんを毎日見てたとかでは無くて…」

 

毎日見られていたのか……。少しヤンデレっぽいが、まあ女子には色々あるのだろう。

ふむ、この唐揚げ美味しいな。やはり頭が良いと料理も上手だったりするのだろうか。

 

「瑠璃、勝負の調子はどうだ?」

 

近くにいた瑠璃に全容は伏せて質問する。

 

「今のところ良い調子って感じかな♪」

「さいで。まあ頑張れよ」

 

 なんて会話していると、後ろからものすごい視線を感じた。振り向くと通りかかった安藤だった。もうめんどくさいから俺は特にアクションを起こさないことにした。私は石、私は石、私は石……。

 




次回予告

武哉「次回予告の時間だ。今回のゲストは…」

泉「1年D組、泉忠則です」

武哉「……」

泉「……」

武哉「あーその……」

泉「次回はかなり重要な出来事が起こるとか」

武哉「そ、そうなんだよ!いやー楽しみだな!」

泉「……」

武哉「……次回、『実力』」

泉「お楽しみに」(気まずい……)

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