アーロニーロ宮。本来なら
尤も、アーロニーロとヤミーがまず外されないと知っているのは原作知識を持っているアーロニーロと、外すつもりが無い藍染だけである。
アーロニーロはデザイン性ばかり考えられたような外装を一瞥すると、扉を開けて中に入る。入ってすぐは侵入者をそこで迎撃する為の大広間である。柱と壁が無いそこは、アーロニーロが解放しても戦える十分な広さがある。
窓すらないその大広間は、虚夜宮の天蓋の中で能力をフルに使える貴重な場所の1つとなる。しかし、壁は宮として中腹に当たる関係上分厚いが、虚閃といった攻撃で容易に破壊できてしまう。
アーロニーロが全力で戦う為には日光を遮る壁が必要だというのに、その壁を守るために気を回して戦わなければならないというジレンマを生み出してしまう環境なのだ。
流石にそれは不味いので、壁を更に分厚くするといった補強はする予定である。
「なんだ、あたしらの新しい家には窓がないのか?」
「持ち主みたいに閉鎖的だね」
「お止しなさい二人とも、思っていても言うのは本人がいない時にしておきなさい。どれだけ思っていてもですわよ」
(つまりお前もそう思っていると…)
騒々しく入って来た三人の
「つーかハリベル様も心配性だよな。いくらハリベル様の破面化が先送りにされているからって、それまでアーロニーロの従属官をやっていろとか」
破面化したアパッチは、オッドアイで左目の周りに隈模様があり、額に鹿のではない鋭い角と頭頂部を守るように後頭部まで仮面の名残りが存在している。服装は胸元を開けた半袖と標準仕様の袴である。
「悔しいけど、ハリベル様のお考えは正しいよ。あたしらレベルがゴロゴロいるのが普通なんじゃ、虚の頃とあんまし状況が変わらないよ」
ミラ・ローズは、首輪に帽子の骨とでも言えばいいような飾りとして仮面の名残りがある。服装は痴女にしか思えない重要な部分とその周りしか隠さない上半身に、スカートに切れ込みをいれて布を束ねただけのような下半身。ハッキリ言って、露出が変態と言えるレべルであった。
「…そうですわね。力で女破面を屈服させようという野蛮人がいないとも限りませんものね」
スンスンは、額の右目の上辺りに髪飾りのように仮面の名残りがある。服装はアーロニーロと似通っていて、端的に説明すればヒラヒラの上着を着ていないだけである。他の違いとしては、手が隠れてもなおかなりの余裕があるくらいに袖が長いのと、腰にバツ印になるように布の飾りがあるだけである。
三人がアーロニーロの従属官になっているのは、ハリベルにそうするように言われたからであった。
従属官になるということは、その“刃”の従僕になるということである。だが同時に、“刃”の庇護下に入ると言うこと。“刃”が許す限りは宮で何をしようが自由であり、“刃”が後ろ盾になるのだからただの『数字持ち』よりかは一目置かれる。
しかし決定権は“刃”にあり、『数字持ち』がどうこう言ってどうにかなるモノではない。未だに虚のままのハリベルが言ってどうこうなるモノではないのは言わずもがな。
だが、アーロニーロはその言を聞き入れた。藍染からハリベル達の護衛任務完了を言い渡されない以上は、続行しか意味を持たない。
『数字持ち』は虚の頃と同じで集合住宅のような宮にいれられるので、護衛するなら従属官にして自分の宮に招き入れてしまった方が都合が良い。
なので、アパッチ達だけではなくハリベルもアーロニーロ宮に来る予定である。ただし、『数字持ち』ではないので従属官としてではなく、客人としてだが。
虚の一斉破面化。その一大イベントから漏れた虚は数こそ少ないがヴァストローデのハリベルのように確かに存在した。
ハリベルの場合は、藍染への高い忠誠心とヴァストローデである事を買われて、敢えて破面化を先送りにされたのだ。藍染がやった破面化は、確かにこれまでの破面化よりも完成度が高いが完璧ではない。
実践したデータを集めればより完成度を高められる可能性がある。故により高い完成度での破面化をハリベルに施すために、ハリベルの破面化は先送りにされているのだ。
「藍染様が居ようが居まいが、結局は
力こそ理。その真理は不変の事実としてそこにある。その事は虚であるなら重々承知であったが、藍染に膝を屈した多くの虚は平穏を手に入れて、いざこざで殴り合いに発展しても喰い合いにまでは行かない事がほとんどになった。
それはアパッチ達もそうである。アーロニーロとハリベルに連れられて虚夜宮の外に出て他の虚を喰うなどしているが、護られているのには変わりない。
故に忘れている。相手を叩き潰し、そして上へと伸し上がる感覚を。虚夜宮での上なら“刃”しかないが、それはあくまでも形式上はというものだ。
明確でなければ、数字持ちの中で誰が強いなどは噂という形で語られてはいる。
「破面化デ虚ノ限界ハ突破シタ筈ダカラ、後ハドレダケ鍛エラレルカガ今後ノ分カレ目ダロウネ」
嗤いながら、アーロニーロは続ける。
「現状を生かすも殺すもお前たち次第だ。従属官なら、ただの『数字持ち』より勝手が効くからな。喧嘩も売り放題だ」
アーロニーロの言葉に、3人は言わんとしている事をようやく理解した。
自分達と同じレベルがゴロゴロしているという事は、ようは相手に事欠かない。そして、従属官という立場上はただの『数字持ち』を襲おうが報復など起きにくい。
“刃”は部下の処罰用に『
従属官が何か悪さをしても、それを罰するのが従えている“刃”では行為自体を黙認している場合がある。そうなればただの『数字持ち』は泣き寝入りするしかない。
ただ、東仙要なら、秩序の為とでも言えば動く可能性が無くも無い。尤も、女破面を見下している破面がただでさえ傷ついたプライドを、更にズタズタにする気概があればの話になるが。
「強ク、ナリタインダロウ?」
アーロニーロの問いに、三人は頷く。強くなると決めたのだ、敬愛する主の力に成れるように。
その為に闘争に身を置くのを躊躇うような覚悟ではない。例え片腕を犠牲にするようになっても、片腕くらいなら喜んで差し出してしまえる覚悟が三人にあった。
三人への誘導が完了すると同時に、再び宮の扉が開かれた。入って来たのは、もちろんハリベルだ。
破面化を先送りにされたので、ハリベルはヴァストローデのままである。だが、その恰好は着衣することで変わっていた。胸の下部分が出るのに、目元近くまで襟がある長袖に、標準仕様の袴がハリベルの服であった。それと、右腕と一体化している剣の鞘替わりにと布が巻かれている。
「話の途中だったか?」
「いや、終わったところだ。ああ、これから部屋に籠るが、藍染様が呼んでいる以外では絶対に邪魔をするな。何があってもだからな」
ハリベルに言っておけば大丈夫だろうと、アーロニーロはさっさと自室に向かう。部屋に入れば、せいぜい寝るだけの部屋であろうに無駄に広く、物がほとんどないので殺風景という有様であった。
ベッドに胡坐をかいて座ると、アーロニーロは『捩花』を取り出して膝の上に乗せる。
これからしようとしているは“刃禅”。斬魄刀との対話の為に編み出された技術であり形。教育を受けた死神であるなら、必ず学んである事であるソレをアーロニーロは細部まで志波海燕の記憶から引き出した。
そして埋没する。己の精神世界へと……
――――――
見渡す限りの平坦な地面。そこには積み上げられた
アーロニーロの
死体を観察すれば、それらがかつて喰らった虚だとアーロニーロはすぐに気付けた。月があるから今が夜なのか、それとも夜しかないのかは判断ができなかったが、アーロニーロはおそらく後者だとあたりをつけた。
闇が無ければ能力を使えない身で、精神世界は太陽に照らされているなど、馬鹿馬鹿しい。精神世界を見るのは鏡を見るのと変わりない。
そこにあるのは自分自身であり、それ以外は何も映し出さない。だというのに、異物がそこにあった。『喰虚』で他の虚を取り込みまくっているアーロニーロにすれば、異物など今更なのかもしれないが異質ではあった。
見た目は巻貝で、それ以外に何かを上げるとすれば異常に大きい事だけだ。
「『捩花』だな……」
確認するように、アーロニーロはソレに問う。精神世界で虚以外の異物など、志波海燕か『捩花』しかない。志波海燕の方はメタスタシアと一体化しているので死体塚の一部になっているであろう。
〈そうであり、そうではない〉
煮え切らない答えをした『捩花』にアーロニーロはやはりかと思う。
死神の斬魄刀内に存在する中の人。写し取った死神その者と性質を同じにしながら、決して同一の存在ではない。刀としての
斬魄刀と死神の絆は固く、本来では何者の直接侵入を拒む精神世界に土足で上がりこめるほどだ。
しかし、目の前の『捩花』を斬魄刀とその前に『捩花』とすら呼べるかは謎だ。
確かに元は志波海燕の斬魄刀『捩花』であろう。なのだが、メタスタシアの能力によって『捩花』は一度分解されてから取り込まれた。
能力の方はなんら遜色無く使えるのだから問題はないであろう。そうであっても、使えること自体が問題なのだ。
死神の斬魄刀は持っていれば使える便利な道具などではなく、その能力を使えるのは魂を写し取らせた死神だけだ。斬魄刀を体の一部にする事で、アーロニーロはその前提を覆した。
しかし、しかしだ。尚も『捩花』の意識は残っている。死神と斬魄刀なら互いを高め合うことで実力を伸ばせるが、虚と斬魄刀ではそれはない。
虚にとっては斬魄刀は、己を刻み魂を浄化する事で虚と言う存在そのものを消す大敵。斬魄刀にとっては、己が最も守りたい主人を傷付ける大敵。
死神に属する斬魄刀と、浄化される虚。相性が良い訳が無い。
「全部ヲ寄越シナヨ。1カラ10マデ、全部ノ力ヲ」
〈断る〉
『捩花』はアーロニーロの一部になっており、『捩花』の力を使えるのはそこに起因する。始解が使えるだけでも十分に凄いが、アーロニーロはそこで満足などできない。上があると判っているのだから、そこを目指さない理由はない。
「だろうな。だから、お前を死神のやり方で屈服させる」
宣戦布告をすると、アーロニーロは踵を返す。『捩花』とここで戦う事もできるが、卍解の習得はできない。卍解はアーロニーロが欲するものの1つだ。
始解が使えるのだから、正規の手順をこなせば卍解までも手に入れられる可能性は非常に高い。故に手を伸ばす。己が可能性へと……
『捩花』は、そんなアーロニーロを黙って見送るだけだった。自分という意識が残っているだけでも奇跡であり、正規の手順を踏まれては『捩花』にはどうしようもない。
なにより、自分からは絶対に逃げられないのだから……
ハリベルがまだ虚
独自です。3の数字にはネリエルが来るのが確定しているので、3に座らせると一旦十刃落ちにしなくちゃならないのと、3以外に座らしたくなくてこうなりました。
アーロニーロの従属官
独自です。原作ではいなかったもよう。
ですが、ハリベル達の保護との名目で一時的に従属官にしました。
『捩花』の中の人健在
独自です。始解をそのまま使えるのだから、中の人が健在でもおかしくはないと思います。