アーロニーロでBLEACH   作:カナリヤ

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進みて

 丸く食い破られたような三日月から降り注ぐ月光。それに照らされるのは無限に続くのではないかと錯覚するほどの広さの砂漠に、石のような木。

 実際には砂だけでなく、アジューカスがねぐらにできる広さの洞窟がある岩石地帯も存在はする。しかし、そういった場所は少ない方であり、虚圏に満ちているのは砂ぐらいのものである。

 その中を駆ける四つの影は、『ピクニック』をしていた。

 

「なぁ、ミラ・ローズ」

 

「なんだい、アパッチ」

 

「あたしら、ピクニックに来たんだよな?」

 

「こんなのをピクニックと言うんならね」

 

 ピクニック。一般的に言わせれば、どこか景観の良い場所に食事の用意をして行くのが相当するであろう。しかし、アーロニーロは『ピクニック』と言ったが、行き先未定、食事(虚)は現地調達、移動は基本駆け足。という、ピクニックよりもサバイバル訓練と言った方が良さそうな代物であった。

 

 

 それでも三人が全員参加なのは、アーロニーロとハリベルがそれとは関係無く虚夜宮の外へと出るからである。

 二人の間に恋愛感情など微塵も見られないが、万が一も考えられなくは無い。尤も、人間だった頃のちょっとした名残で、三人の誰も本気では考えていない。虚の雌雄の差など、容姿と声くらいのものなのだから当然と言えば当然なのだが。

 

「つーかどこまで走るんだよ」

 

「なんだい、もう疲れてきたのかい」

 

「ンなわけねぇだろ。てめの方こそ遅れてんじゃねぇか?」

 

 久々に外に出たからか、アッパチとミラ・ローズは何時もの元気を取り戻しつつあった。

 

「2人とも、口より足を動かさないと遅れてしまいますわよ」

 

「「てめェスンスン、なに前を走ってやがる!!」

 

 2人が何時もの調子を取り戻している隙に、さり気なく前に出ていたスンスンに2人は食って掛かった。

 

 その様子を見て、ハリベルは安堵の息を吐いていた。ここ最近三人はいつも気怠げな空気を纏い、動きにもキレのない無気力状態であった。

 なんとかその状態を脱させたいとは考えてはいたが、虚夜宮でできる事などかなり限られていた。

 

 それなら外出でもするしかないが、流石にヴァストローデであるとはいえ一介の虚でしかない自分が―――基本は不在である―――主にいきなり面会するのは如何なものかと思った。

 そこでよく外出するアーロニーロに相談したら、そのまま外出の許可を取って来てくれて現在に至っている。

 

「ところでアーロニーロ、私達は今どこに向かっている?」

 

 とりあえずは三人は大丈夫だろうと、ハリベルは全てを任せてしまったアーロニーロに目的地を聞くことにした。

 

「この前外出した時に見つけたアジューカスのコロニーだ」

 

「…」

 

 目的地を聞いて、ハリベルは判り易いぐらいに表情を歪める。目的地がそこなら、アーロニーロがやろうとしている事も想像がついたからだ。

 

「マダ抵抗ガアルノカイ? 虚ガ強クナルノナラ、同ジ虚ヲ喰ラウノガ一番ダロウ?」

 

 虚としての壁にぶち当たった三人にも、その行為が必要なのはハリベルも解っていた。しかし、その行為を止めさせたのは自分である。

 理想を実現させるのには力が必要。そうは解っていても、自分だけが強くなって三人を守れれば良いのではないかとどうしても考えてしまう。

 

「ヴァストローデのお前なら、その事は俺達よりも解っているだろう」

 

「解った時には、その力の分だけ犠牲を強いたのを悔いた…」

 

 苦々しげにハリベルは呟いた。

 なにもハリベルは、最初から他人に犠牲を強いるのを避けていたのではない。ヴァストローデに上り詰めるにあたって、必要以上に虚を喰わないなどありえない。

 ギリアンとアジューカス時代が必ずあるのだ。そして、ハリベルはその時代を暴虐の限りを尽くして過ごした。

 

 砂ばかりの虚圏でありながら、現世であれば海に生きる(サメ)の姿をしたアジューカス時代は、虚と見れば見境無く喰いに掛かる狩人であった。

 砂漠を泳ぐ鮫型の虚は、アジューカスが集まるコロニーでは一種の畏怖の対象とされていた事もあった。

 

 鮫の虚に気をつけろ。背ビレが見えたら岩場に逃げろ、運が良ければ逃げ切れる。運が無ければ足から喰われていく。

 

 そう言われるくらいには、ハリベルはアジューカス時代に暴れに暴れていたのだ。

 

 だが、そのアジューカス時代が終わりを告げ、ヴァストローデになった途端に、ハリベルの手元には虚しさと力しか残らなかった。

 虚を喰らうたびに得ていた力の増幅と幸福感は消え去り、代わりに人の姿に近付いたからかこれまでよりもずっと冷静に思考ができた。それが当時は不幸であった。

 

 かつてのように虚を喰らっても、虚しさを埋める幸福感は得られない。それどころか、力の増幅も微々たるものとなって無駄な行為をしたかのような錯覚すら覚えた。

 冴えた思考はそんな現状を自業自得と捉え、孤独である事も加わって後ろ向きな事ばかりを考えてしまっていた。

 

 きっとこれが罰なのだ。他者に犠牲を強いて、ただただ強くなった自分に対する。

 

 必要最低限の虚を喰らうだけにして、虚圏を彷徨い歩くだけだったハリベルを変えたのは、偶々助けた同じ雌であったアジューカスであった。

 助けるつもりなど無かった。結果的にそうなっただけであったが、ハリベルはようやく自分の力の使い道を見つけられたのだ。

 

 この強大な力は、守る為に使おう。犠牲にさせず、犠牲を強いさせない為に。

 

 力に意義を見出すと同時に孤独を脱したハリベルは、雌の虚に自分を重ねて助けるようになった。雌の虚は雄の虚よりも弱かったので、助けられて仲間になったのは三人だけだったが、それでもハリベルは満足していた。

 

 その状況を一変させたのが藍染だ。今の力で十分と思っていたが、それを足りないと感じた。だから、今度は自分の明確な意志で欲するのだ。力を、自分の仲間を確実に守れるだけ。

 その為には、禁じていた虚を必要以上に喰らうという選択も考えられた。確かに力の増幅は微々たるものにはなったが、頭打ちになった訳ではない。力の差があり過ぎて、上昇量が相対的に少なく感じるだけである。

 

 尤も、最早必要以上に喰わないのは習慣になっており、いきなり食べるようになるのは拒食症の患者の如く無理であったのだが……

 それでも、アーロニーロに頼み込んで虚の肉を分けて貰って食べるなどの努力はしている。

 

 しかし、ハリベルが一番可能性を見出しているのはやはり破面化である。藍染に着いて行くのは諭されたのもあるが、誰に犠牲も強いることなく強くなれる方法があるのだ。ソレを求めずにはやはりいられない。

 

「マア、今回ハ見テイルダケデイイヨ。別ニ反藍染様ノグループヲ潰シニ来タ訳ジャナイカラネ」

 

 ハリベルが遠い目をしているので、アーロニーロは過去に色々とあったんだろうと適当にあたりをつけてそのまま流す。

 傍から見ればハリベル達を気遣った提案であるが、アーロニーロからすればそんな訳はない。既に能力持ちのアジューカスを何体も喰らっており、その能力の試し撃ちが目的だ。

 大量にいればそんな余裕もないだろうが、数として五体しかいないのは既に前回で確認は済ませている。

 

「この辺で待っていろ」

 

 嗤いながら、アーロニーロはアジューカスを喰いに行った。ハリベルは、ただただソレを見送るだけであった。

 

――――――

 

「っま、こんなものか……」

 

 ただの一方的な虐殺は、さほど時間は掛からなかった。しかし、アーロニーロは不満であった。折角手に入れた能力のほとんどが、使えない程度のものばかりであったからだ。

 仮にもアジューカスが持っていたというのに、使えそうなのは爆発性の粘液を出すくらいであった。もう一つ使えそうな能力として、光を屈折させる能力があった。だが、能力の範囲が自分の肌の付近とかなり限定され、更には全ての光を屈折させる事ができないという―――アーロニーロの弱点である日光を遮れない―――弱小とも言えるものであった。

 

 尤も、これは仕方が無い事であった。ギリアン以上の虚のそのほとんどが、基礎的な身体能力に重きを置いている。なぜそうなるかと言えば、霊圧の上昇で真っ先に恩恵を受けるのが身体能力であるからだ。

 最初から持つ能力が喰うのに役に立たなければ、それをわざわざ鍛える虚など稀である。身体能力が高ければ能力など無用であり、かなり強力な能力でもなければ、大抵はその能力は弱いままのが当然であった。

 もし能力だけを見るなら、普通の虚や巨大虚の方が数が多い上に多彩である。

 

「アタリガイタラ良インダケド……」

 

 期待するだけ無駄かと先程の虐殺を思い出す。

 あいさつ代わりの虚閃を放ち、攻撃してくるのを待っていれば五体とも能力を使う素振りも見せずに直接攻撃をしてきた。

 力の差は薄々感じていたのだろう。その一撃は紛れも無く本気を感じ取れた。

 

 しかし、いくら覚悟があろうとそんなモノだけで覆る筈も無い。一通り能力の試し撃ちをしてから、『剣装霊圧』で両断してやったのだ。

 

 必ず初手では殺さない。これはアーロニーロが狩りで決めたルールである。

 どのような能力を持っているか、そしてどんな使い方をするのかを見る為に決めた事である。しかし、今の所は役には立っていない。

 

 三体を喰らって、残りの二体を引きずってハリベル達が待っている場所まで戻る。

 

「ピクニックの食事だ」

 

 冗談めかして言いながら、アーロニーロはアジューカスの死体をそれぞれに分ける。

 しかし、ハリベル以外は明らかに手を出すのを躊躇っていた。分けられた量が、多すぎるのだ。

 

「これは私の我が儘だ。私は更に強くなりたいと思っている。だから、これからは機会があればこうして必要以上でも虚を喰らう。

 強制はしない。なんなら、私の元を離れても構わない。これはかつてお前たちに説いた事への、裏切りなのだから……」

 

 ハリベルはそう言うと、進んでアジューカスを喰らい始める。

 それを見て、三人はそれでも付いて行くと言わんばかりに、自分達もアジューカスを喰らい始めるのだった。




ハリベルのアジューカス時代
独自です。ヴァストローデになるのは数が少ない事からかなりの時間などが掛かると想像できます。アニメオリジナルでのヴァストローデ時代でのハリベルの性格がアジューカスからだったと考えると無理があるので、アジューカス時代はヤンチャだったという事にしました。

大虚は能力が弱い者が多い
独自です。原作では大虚以上の出番が少ないからか、能力持ちがほとんどいません。
能力で言ったら、初期の虚とかの方が出番の数だけあったりしますしね。
霊圧を上げて、物理で殴ればいいような気がします。能力を使って強くないけど巧いというキャラなんていないようですし……

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