アーロニーロでBLEACH   作:カナリヤ

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波間の進退

(なるほど、強い)

 

 白い長髪が特徴的な十三番隊隊長浮竹(うきたけ)十四郎(じゅうしろう)へのハリベルの純粋な感想がソレであった。

 二刀流は流派によって様々な違いがあるが、総じて得物を1つだけ振るうより技量と筋力が必要とされる。ただ一撃を極めるのであるならば、更木剣八が納得したように、両手で得物を振った方が同じ筋力であろうともより強力な一撃を繰り出せる。

 しかし、一撃の強さで負けようとも、手数や動きの臨機応変さであれば―――使いこなしているとの前提であるが―――二刀流の方が優れている。

 斬魄刀の刳り貫かれている腹に当たる部分に霊圧を充填し、ハリベルは直接斬りかかる。ソレを浮竹は左の斬魄刀で受け流し、右の斬魄刀はハリベルを裂こうと突き出される。

 

「無駄だ」

 

 アーロニーロより教わった霊圧の鎧を纏った左手で突き出された斬魄刀をいなし、そのまま浮竹に掴みかからんとする。掴まれれば分が悪いと、浮竹は瞬歩で距離を取る。

 

波蒼砲(オーラ・アズール)

 

 充填された霊圧が刀身より解放され、浮竹へと迫る。飛ぶ斬撃のような黄色の弾丸を回避し、反撃に出る。

 

「破道の六十三、雷吼炮!」

 

 浮竹の右手より放たれた雷を帯びた霊圧の塊は、ハリベルを肩から焼き喰らわんと飛来する。雷を帯びているとあって、防御しても確実にダメージを与えてくるであろう。

 能力が未知数な相手に負傷はまだ早いと避ける。

 

「縛道の六十三、鎖条鎖縛!」

 

 追撃に繋げる為の縛道が浮竹の指から放たれる。ハリベルの斬魄刀を巻き込んで、ハリベルを畳みに掛かる。

 

「ック……波蒼砲!!!」

 

 そのままでは縛道の鎖を断ち切れないと早々に判断し、無理矢理持ち替えて波蒼砲を撃つ。見事に鎖条鎖縛を打ち砕き―――

 

「なん…だと!」

 

―――ハリベルの肩を穿った。

 撃ち出して帰ってくる筈のない波蒼砲が肩を穿つという、有り得ない出来事にハリベル平常心を欠く。

 

「嶄鬼」

 

 そこへ、スタークと戦っている最中である筈の八番隊隊長京楽(きょうらく)春水(しゅんすい)が上より強襲した。

 

――――――

 

「どーした副隊長!フィンドールの野郎をヤッたのはマグレかよぉ!?」

 

「…ック!」

 

 出来るなら柱から離れるべきでない檜佐木であったが、現在は柱から離れてアパッチ、スンスン、ミラ・ローズの3人の足止めをしていた。

 

(実質一対一とは言え、流石にキツイな…)

 

 足を止めているのは3人だが、戦っているのはアパッチだけという状況であった。最初こそ3人同時であったが、檜佐木と実力差が然程ないと判ると、一番血気盛んなアパッチに任せて後の2人は休憩にしているのだ。

 だが、檜佐木は休んでいる2人の動きにも注意を払うしかない。最初のように3人で来られるだけで、檜佐木は負けてしまうからだ。

 

(だが、余裕はある)

 

 それでも膠着状態が続いているのは、偏に互いに全力ではないからであろう。檜佐木が3人の足止めをしているのは、柱の破壊を防ぎ、隊長と十刃の戦いを邪魔させない為だ。

 対する3人は、バラガンが命令として出した柱の破壊などするつもりはなく、ハリベルの戦いに他の隊長が横槍を入れないようにする為だ。

 現時点での護廷十三隊側で温存されている隊長は2人。負けた一角の代わりにポウを撃破した七番隊隊長狛村(こまむら)左陣(さじん)と、元柳斎である。駒村は体力の温存も兼ねて副隊長である射場(いば)鉄左衛門(てつざえもん)と共に、負傷した一角とその治療をしている吉良の護衛中。元柳斎は、『城郭炎上』に封じている藍染に動きが無いか注視している。

 そのどちらも、動こうと思えば動ける状態である。檜佐木が休んでる2人にも意識を割いているように、3人も休んでいる隊長に意識を割いていた。

 

「縛道の六十二、百歩欄干!!!」

 

 ふと、ある事に気付いた檜佐木は笑うと、3人へと縛道を襲い掛からせる。ほんの短い時間とはいえ、フィンドールを拘束した縛道だ。当たりさえすれば効果はある。当たりさえすれば。

 

「んなモン当たるかよォ!」

 

 隙を突いた訳でない上に、一息入れる為に開けた距離は対処するには十分であった。

 

「なんでこっちまで攻撃してくんだか…」

 

「まったくですわ」

 

 回避するのには好条件でも、不服なのは休んでいた2人だ。まったく意図の読めない攻撃であったので、頭を捻るがそれらしい答えは出ない。

 

「隙だらけだよ…」

 

 暗く、まるで闇から滲み出したような声がその答えを持ってきた。

 

「ッ!?」

 

 ミラ・ローズがその声と殺気に反射的に伏せて凶刃を回避する。7の字に見える刀身を持つ侘助が、先程まで首があった場所を引いて切る。

 一見しただけでは失敗した攻撃。だが、侘助が次に繋げるには十分すぎた。体に追従しきれなかった髪を数本切る程度であったとしても……

 

「さて、今切った髪を仮に5本としても、元の体重の32倍にもなる。破面の身体能力なら動けなくも無いだろうけど、まともに戦えるかな……?」

 

 吉良の言葉にミラ・ローズの顔は苦しげに歪む。

 侘助の能力は切った物の重さを倍にする事だ。重ねがけも可能とあって、近接戦闘しか出来ない者には天敵と言ってもいいものだ。

 

「この…」

 

「弾け、飛梅!」

 

 ミラ・ローズを助けようと動こうとしたスンスンに、火の玉が襲い掛かる。

 その火の玉の出所から、景色が剥がれるように消えていき、5番隊副隊長雛森(ひなもり)(もも)が姿を現す。

 

(本当に、大丈夫だろうか……)

 

 一見普段通りに見える雛森に、吉良は心配そうに見る。自身もそうであるが、信じていた隊長に裏切られた副隊長だ。その痛みの大きさこそ違えど、どういったモノかはよく解っているつもりである。

 起きれるまでに身体は回復しても、心の方はそうはいかない。酷く取り乱した回数は一度や二度ではないと聞いている。

 「護廷十三隊五番隊副隊長として、この戦場に赴いた」との覚悟を聞き、彼女の鬼道で姿と霊圧を消して不意打ちを成功こそさせた。だが、吉良としては出来れば退いて欲しかった。

 心の傷もそうだが、この戦場に四番隊の隊長も副隊長もいないのも退いていて欲しい理由だ。その2人は、一護が万全の状態でこちらの来れるようにする為に虚圏に出張中だ。

 

「ミラ・ローズ、スンスン!!」

 

「おっと、お前の相手はこっちだ」

 

 ミラ・ローズとスンスンが一撃を貰ったとあって、思わずアパッチは2人の元に駆け寄ろうとする。しかし、檜佐木はソレを許さない。

 漸く数で同等になったのだ。敵の1人は既に侘助の効果を受け、その首を落とすのは時間の問題であろう。最悪、3人の中で一番弱い雛森が負けようとも、それまでに自分の敵を倒せていれば、どうにかできる展開であった。

 

「邪魔くせえぞ!!突き上げろ、『碧鹿闘女』!!」

 

「なっ!?」

 

 されども、アパッチは迷う事なく帰刃して、檜佐木を無理矢理に退かす。

 

「しまッ…!」

 

 アパッチの向かう先はミラ・ローズの元。いくら短い時間且つ、片方は思うように動けないしても二対一は拙い。

 

「飛梅!」

 

 不機嫌そうにしているスンスンに動きが無いのを気にしつつも、足止めをしようと雛森が今度はアパッチに向けて火の玉を斬魄刀から放つ。

 

「絞め殺せ、『白蛇姫』」

 

 不敵にスンスンは笑い、自分も帰刃する。この中で自分が一番弱いとの自覚がある雛森は、それだけで絶望したように目を見開く。

 向かってくるアパッチに、これ見よがしに帰刃したスンスン。そのどちらも吉良の眼中には無い。

 大切なのは、邪魔が入る前にケリを着けられるかだ。既に満足に動けないほどに重さを増やしこそしたが、帰刃後でもそうとは限らない。

 必殺の首か、それともより能力を重ねがけする為に髪を切るか。

 

(今此処で殺す!)

 

 固定砲台になられても厄介だと、吉良はミラ・ローズを殺すべくその首を刈らんと動く。

 侘助の能力にやられていなければ、ミラ・ローズには幾らでもやりようはあった。真正面から打ち合う事も、響転で撹乱して切り結ぶことも。

 だが、今は疲労もないのに手足は鉛を詰められたように重く、響転どころか普通に走るのも難しい。

 

(だったら、動かずに対処するしかないね!)

 

 左の掌に霊圧を収束させて球状にまとめる。ミラ・ローズの虚閃を撃つ予備動作であり、普通ならこの後は右手で殴るようにして撃ち出す。だが、ミラ・ローズは右手で殴らずに、そのまま左手で握り潰す。握り潰そうとした虚閃以上の霊圧を込めれば、そのまま虚閃を封殺できる行為だが、そうでなければ収束が乱れて調節が効かなくなる。

 即ち、その場で爆発する。

 

「正気か!?」

 

 爆発に反射的に下がった吉良は、思わず叫んだ。普通に虚閃を撃ったとしても、その緩慢な動きでは相手を捉えきれないと解っていての行動であろう。だが、自爆してまでも攻撃を当てに来るとまでは吉良には思い当たらなかったのだ。

 

「食い散らせ、『金獅子将』!!!」

 

「くっ……!」

 

 血の滲む様な咆哮と共に帰刃を許してしまう。明らかな失態であった。

 

「ッチ、厄介な能力だ…」

 

 手を閉じたり開いたりと、少し体を動かしながらミラ・ローズは悪態を付く。帰刃前と比べれば格段にマシにはなったが、やはり体は重いままなのだ。

 

「あれで一気に片付けるよ」

 

「そのつもりだ」

 

「仕方ありませんね」

 

 3人が帰刃状態で発動できる技。使わなくても勝てるだろうが、時間を掛ければ不利になりかねない能力を相手が持っているのだ。ミラ・ローズの提案に他の2人も賛成する。

 

「なにッ!?」

 

 大剣で切り落とす。引き千切る。捻じ切る。それぞれの方法で左腕を切り離すその光景は、生け贄を神に捧げるようであった。

 

「『混獣神(キメラ・パルカ)』。

 解放した、あたしたち3人の左腕から作った。あたしたちのペットだ。

 名前は"アヨン"」

 

 鹿のような角に足。筋肉質な体と長髪は怪物を思わせ、蛇が尻尾となっているのは継ぎはぎな全体と相まって、合成獣を連想させる。

 大きさとしてはアジューカスであるが、左腕を失くせば戦闘能力が下がるのは明白。3人がそこまでやったのだから、下手をすれば3人合わせたよりも強いのだろう。

 

「…え?」

 

 不気味な風貌のアヨンを前にして、雛森は油断などしていなかった。弱いとの自覚があったからこそ、誰よりもアヨンの挙動を注意していた。

 だがしかし、アヨンはそんな警戒など無意味な速度で雛森を殴った。斬魄刀を真正面に構えていた御蔭で、僅かばかりの防御となったが、致命傷を防ぐには至らない。

 

「雛森ぃ!」

 

 力無く飛ばされる様は死んでいるようにしか見えないが、まだ霊圧を感じられるのだから死にかけで踏み止まっているのだろう。だが、そのまま落下すれば死ぬのは避けられないだろう。そうなる前に受け止め、適切な治療を施さなければならない。

 

「クソッ!」

 

 考えている時間は無いと、檜佐木は雛森を助ける為に駆け出す。後先考えずに真っ直ぐに。

 瞬歩より遅いが、雛森はそれなりの速度で落ちている。それだけでアヨンの攻撃の威力が凄まじかったとの現れであろう。

 そんな攻撃をしたアヨンのすぐ脇を通り抜けようなど、自殺行為であろう。それでも、死にかけである仲間を救う為に選んでいる余裕は無かった。

 

「あ……」

 

 無慈悲にも、アヨンの拳は檜佐木を捉え、雛森と同じ運命を辿らせる。

 

「卍解!黒縄天譴明王(こくじょうてんげんみょうおう)!」

 

 されども希望は潰えない。卍解によって助けが入る。

 

「鉄左衛門!」

 

「判っておりやす、隊長!」

 

 黒縄天譴明王はその巨体からは考えられない優しさで雛森を受け止め、射場は違う方向に殴り飛ばされた檜佐木を受け止める。

 2人が一撃でやられて、動きを止めていた吉良はそれを見て安堵の息を漏らす。

 

(こうしている場合じゃない!2人には今すぐに治療が必要だ!)

 

 落下による死亡こそ回避したが、治療が必要なのには変わりが無い。この場で唯一と言ってもいい、鬼道による治療が可能が自分が行うしかないと、アヨンに注意を払いながら2人の元に急ぐのだった。




京楽「不意打ちが出来る距離で戦っているのが悪い」

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