一護なんて葬討部隊20人に後を追われてるのに、ウルキオラに穴あきにされて放置される未来が確定してるんだよ?
グリムジョーが織姫連れて向かってなかったら、その場で首をもがれてお持ち帰りされる展開なんだよ
リネとヴァスティダ。本来であれば、この組み合わせは非常に強力である。2人とも帰刃すると機動力が落ちるが、下手な遠距離攻撃でそう簡単には倒れないヴァスティダが盾となって時間を稼ぎ、その間にリネが『魅惑』で相手を堕ちさせる。例え近付かれようとも、そうなればより強力にリネの『魅惑』が作用するだけである。
ただし、これらは相手がヴァスティダの防御力を上回る攻撃を出来ないか、リネの『魅惑』に堕ちる事が前提である。
「蝕め、『黒病鬼』」
故に、アーロニーロにとっては必殺にはなりえない。
『乱夢兎』に『黒病鬼』と、2種の帰刃をしたアーロニーロの姿は足に鎧を付けて黒いマントを纏っただけで、大きな変化はない。だが、『黒病鬼』は2人にとって天敵と言っていい帰刃であった。
視認することの出来ない極小の世界、そこでは一方的な蹂躙が行われていた。『魅惑』の根源たる花粉に『黒病鬼』の病原菌が取り付き、垂れ流しのアーロニーロの霊圧を糧に増殖して、花粉を灰のようなものに作り変える。
「タネが解っていれば、こんなもんだ」
防御力が意味を成さず、病原菌が花粉を駆逐する。この組み合わせを、殺す為だけに存在するかの様な凶悪さであった。
「尤も、俺とお前の霊圧差なら、タネなんぞ解らなくとも無意味だったかもな」
口の両端を吊り上げた邪悪な笑みを浮かべ、アーロニーロは駆け出す。迫る虚閃は捩花と龍波濤で潰し、わざわざ反応できる速度で追い詰める。
状況は既に詰みの段階。ここで火事場の馬鹿力で、まだ眠っていた力を呼び覚ませばよし、そうでなければそのまま殺すだけ。
(おっと、流石に死神の斬魄刀でトドメを刺すのは不味いか)
わざわざ肉袋にする必要も無いだろうと、捩花を手放す。踵落としでヴァスティダの頭蓋を砕き、そのままの勢いで背中のリネに右手を伸ばす。その軟らかい喉を貫き、頚椎を握り潰す。
(…つい手袋をしたままやってしまったが、この汚れは落ちるか……?)
手袋に付いてしまった血を一舐めし、アーロニーロは今はそんな事はいいかと思い直して、左手の『口』を開くのだった。
――――――
今日この日、茶渡泰虎は非常に運が良かった。肩から脇腹辺りまでバッサリと斜めに斬られて、運の良し悪しどころか今日が命日になりそうに見えるが運が良かった。このまま放置されていれば、そのまま死んでしまうがソレは運が良かったからだ。
当然の話になるが、死にそうと死んでいるでは大分違う。泰虎が死にそうで済んでいるのは、2つの幸運があったからだ。
まず1つ目は、対峙した『十刃落ち』がガンテンバインであったことだ。ガンテンバインが泰虎の力に気付き、それを引き出させようとしたから、まだ軽症と言える状態で泰虎は勝てたのだ。
仮に、ドルドーニであれば勝てたとしてもより手酷いダメージを受け、チルッチであれば裂傷を幾つも作る事になっていたであろう。
更に、ガンテンバインの死体の確保は、アーロニーロの中では優先度が低かった。その為、本来ならばガンテンバインの確保に動く葬討部隊は予定を変更し、ドルドーニの確保の為の増援にされていた。だから、葬討部隊がたどり着くのが大幅に遅れた。
2つ目は、対峙した十刃がノイトラであったことだ。戦闘狂であるが、自分からして雑魚相手の生死に頓着しない。だから、泰虎の息があると承知の上で放置などしたのだ。他の十刃であれば、トドメを確実に刺していたであろう。
どちらかが違っていれば、泰虎の命は今日此処までであったであろう。だが、泰虎の命を繋ぐにはまだ足りない。まだ、死にそうであって、このままでは死んでいるになってしまう。
しかし、そんな事にはならない。なぜなら、今日の泰虎は非常に運が良いからだ。葬討部隊よりも先に、護廷十三隊からの増援として、救護に秀でた四番隊の隊長と副隊長がたどり着いたのだから、どうなるかなど語るまでもないだろう。
――――――
(予定通りに、隊長が数名虚夜宮で乗り込んできたか。此処までは藍染様の計略通り……)
自宮にて、アーロニーロは、『反膜の糸』と探査回路に葬討部隊で虚夜宮で起きている戦いを把握していた。
十刃での脱落はグリムジョーと閉次元に幽閉されたウルキオラだけであり、戦況としては優勢であろう。まだ戦力として1~3の十刃に、藍染達死神が残っていると考えれば、虚圏での戦闘に勝つのはそう難しくは無い。
(まぁ、そうはならないか…)
今後の予定まで聞かされているアーロニーロは大きく溜め息をつく。虚圏での戦闘で隊長が死ぬのは、藍染にとっても都合が悪い。なぜかと言えば、藍染には護廷十三隊を滅ぼすつもりなどないからだ。まかり間違って滅ぼせば、そう遠くない日に現世と尸魂界の魂魄のバランスが崩れて世界が崩壊してしまう。
隊長の1人2人いなくとも、護廷十三隊は正常に稼動し続けるのだが、既に3人も抜けている状態である。これ以上抜けるようなことがあれば、まだ小さな問題であることが、大きくなるのも眼に見えている。具体例を挙げるとすれば、隊長を失った隊の副隊長が書類に殺されるであろう。
そういった事態にならないように、状況は変化しつつある。
「そこな破面、
あれ呼ばわりされたルキアは、血こそ止まっているが、四肢を棒状のモノで床に縫い付けられて気絶している。他の侵入者をおびき寄せる生餌としての処置である。
「ああ、そうだ」
「そうか」
増援として現れた護廷十三隊六番隊隊長、朽木白哉の眉がピクリと動く。苗字から解るように、倒れているルキアの義兄である。
表面上はいつもどおりであろうが、その心中は激しい怒りが滾っているであろう。今は亡き妻の妹を、本当の妹とそう変わらないように愛しているのだから、そうなっているのだ。
「コナイノ?」
始解を解いておいた捩花を抜きながら、アーロニーロは白哉に問う。怨敵を前にしているのに、何も感じていないかのような静けさであった。
「そいつを助けたいのなら、回道の使い手が必要になるぞ」
貫通している傷は、どんなに小さくとも重症である。何かが刺さっている場合は、それが傷口を塞いで出血が抑えられて多少の猶予はある。しかし、治療するとなれば刺さっている異物を取り除き、すぐに傷口を塞ぐほかない。そうしなければ、失血死しかねないのがルキアの現状だ。
つまり、回道が熟達していない白哉では助けられないのだ。
「そうであろうな」
瞬歩で、白哉はアーロニーロの後ろを取る。
そしてソレが判らぬ白哉ではない。直接助けるのが無理ならば、遅れてやってくる四番隊第7席、
「助けようなどと、無駄な事です」
アーロニーロの後ろを取った白哉の更に後ろを、新たな人物が取る。肌は黒人寄りな褐色、頭部に髪は無く、代わりに仮面の名残である棘のようなものと、ピアスとネックレス。
アーロニーロの振り向きざまの攻撃と、ゾマリの斬魄刀による攻撃が白哉を挟み撃ちにする。ゾマリの攻撃を斬魄刀で逸らし、アーロニーロの攻撃は体を捻ってギリギリでかわすと、瞬歩でその場から離れる。
「解せない、そう言いたそうですね」
伏兵の警戒は白哉もしていた。最初から真っ先にアーロニーロに斬りかからなかったのは、近くに霊圧を抑えて潜んでいる者がいないか探ったからだ。
「なに、羞ずべき事ではありません。
聞かれてもいない事を、ペラペラと喋るゾマリに白哉は眉を顰める。護廷十三隊が手に入れている情報では、アーロニーロの能力は『乱夢兎』だけである。蹴りに関する能力であるなら、まだ不自然ではないのだが、能力を複数持っていても方向性がある虚では、まったくの別方向の能力は不自然である。
「喋リ過ギダヨ」
「…失礼」
少々浮かれている自覚のあるゾマリはアーロニーロに謝罪すると、白哉に向き直る。
「さて、ご覧の通りに2対1です。降参でもしますか?」
「痴れた事を抜かす。2人でなら、この私と並べると?」
再び瞬歩。また後ろに回り込もうとするフェイントから、今度はゾマリを真正面から斬る。返す刀でアーロニーロも斬ろうとするが、コレは避けられる。
「縛道の六十一、
ならばと縛道ですかさず拘束に掛かる。あの夜一と戦える者を早々に捕らえきれるとは、白哉とて思ってはいなかった。六つの光の帯が、アーロニーロをその場に縫い止めんと胴体を狙って突き進む。
「水天逆巻け、捩花!」
されどもアーロニーロは、それを良しとはしない。石突きを床に叩き付け、自分を取り囲むように渦巻く波濤でもって六杖光牢を押し流す。
「縛道の三十、嘴突三閃!」
続けて縛道でもってアーロニーロは白哉に逆襲する。
「散れ、千本桜」
このままでは拘束されてしまうと、近接戦闘をする為にしていなかった始解をする。千本桜は、刀身が無数に分裂して対象を切り裂く斬魄刀だ。その能力でもって、迫る3つの嘴を切り裂いて無力化する。
「始解をしましたね…」
その直後、嗤っている2人目のゾマリが白哉の目に入る。
刀身が単独での飛行能力を得るので離れた相手も切り裂けるのだが、刀身が無くなるのだから刀としては使えなくなってしまう。つまり、縛道を発動し始解もした今この瞬間、白哉を守る物はその身と刀身の無い斬魄刀だけという、非常に無防備な状態であった。
まず一刀。その命を刈り取らんと繰り出された一撃を、白哉は左手で横に逸らす。
ならば二刀。双児響転により3人目のゾマリが白哉の右手側に現れる。その攻撃は、千本桜の鍔をゾマリの斬魄刀の鍔にぶつけて凌ぐ。
トドメの三刀。両手が塞がり、これ以上の防御は不可能な無防備な白哉の背中に、4人目のゾマリが斬魄刀を突き立てる。
「さようなら、六番隊隊長、朽木白哉」
予めアーロニーロから聞いていた隊長の特徴と一致する人物の名を口にし、ゾマリは戦いの幕を引いた
「隠密歩法"四楓"の三、『空蝉』」
つもりだった。白哉を貫いた筈であったのに、斬魄刀が貫いているのは隊長羽織のみ。
「奴に習った術など、使いたくなかったのだがな。
それよりも……」
ゾマリなぞ意に介さないと、白哉が視線を注ぐのは捩花とアーロニーロの仮面。
「ッチ、弱点を教えた上で隙を作ってやったのに、仕留め損ねるなよ」
顔が見たいだろうと、海燕の顔にしてから仮面を取る。白哉の目の色が変わった。
「申し訳ありません、アーロニーロ。少し甘く見ていたようです」
「少し…だと…?」
驚愕を一瞬で治めた白哉は、ゾマリの言葉に反応する。
「とんだ驕りだな十刃。
だが、案ずるな。貴様等が敗北するのは、その驕りの為ではない。
ただ純粋に、格の差だ」
「挑発に乗る…」
「やっと追いついた!!
置いていくなんて、ひどいですよ、朽木隊長!!
僕あやうく、迷子になるところ…」
緊張感が漂う戦場に、人畜無害そうな者が飛び込んできた。白哉と一緒に乗り込んできた山田花太郎である。
「わあ!!!あの格好は現世に侵攻した十刃!
わあっ!!こっちにはルキアさんが大変な状態に!?」
1人で大盛り上がりしている花太郎に3つの冷たい目線が突き刺さっているが、本人は気付いていないようである。
「ふむ、これで2対2ですか。本気を出すとしましょう…」
(え…?僕も戦闘員に数えられてる……)
条件さえ揃えば大虚に傷を負わせられる花太郎であるが、瞬歩が出来なかったりと破面相手の戦闘は到底不可能である。
「鎮まれ『
胸の前に斬魄刀を浮かせてゾマリは解号を口にする。無理に折り畳もうとしたかの様に、斬魄刀は渦巻状に刀身が曲がっていく。曲がった箇所から粘着質な煙が出て、ゾマリの姿を覆い尽くす。
煙が粘液となって完全に落ちれば、下半身が蜜柑のような形状になり、体の至るところに目がある姿になったゾマリが、床から僅かに浮いていた。
リネ「ん?この退き、前の話みたいだな」