アーロニーロでBLEACH   作:カナリヤ

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家臣として

 アイスリンガーにとって、主とは藍染でありアーロニーロだ。

 どちらも寡黙で、その胸の内を詳らかにする事はない。それが意味するのは、自分達に使い道がないからというのを重々承知していた。

 藍染にとって使える駒に成れるのは十刃くらいで、アーロニーロは元々部下など必要としない質なのだ。いくら忠誠や隷属を誓おうとも、無価値なモノとされているのはアイスリンガーも知っている。そのことは、他の3人も感じているであろう。

 そう断じれるのは、自分達が何一つとて命令をされた事がないからだ。動く必要が出れば自力か髑髏兵団で事を成し、それをただ見ているだけの日々しか過ごしてきていない。

 だから、22号地底路の警備増強に派遣されると聞き、事実上の放逐だと悟った。理由が「護廷十三隊、もしくは黒埼一護が率いる一団による侵攻が予想される為」と至極当然であったとしてもだ。

 侵攻を予想して警備を増強するのは理解できた。その為に、黒腔が開きやすい場所などに繋げている地底路の人員を増やすのも理解できた。個々の戦闘能力が低く従属官であった自分達を使う理由も、使い捨てと考えれば理解できてしまった。

 間違い無く、侵入者が来る来ないが運命の別れ目であり、今の自分達を終わらせる事象であった。

 

――――――

 

「ふむ……」

 

 もし、自分達が侵入者を捕縛できれば、使えると判断されるだろうかと画面を見ながらアイスリンガーは熟考する。でた答えは、ありえないであった。

 画面に映されている侵入者は、事前に情報を渡されている黒崎一護、石田雨竜、茶渡泰虎の3名。だがしかし、その3名が束になろうと無数の虚に元とは言え十刃さえも束ねたアーロニーロに勝てるとは思えなかった。つまりは、仮にそのまま通しても討たれるのは時間の問題でしかない。

 その程度の相手。だが、アーロニーロにとってその程度であろうとも、自分達にはどうしようもない強者であるのも間違いは無かった。

 かつては神経毒によって相手を戦闘不能にしていたが、もうその毒は手元に無い。更に付け加えるなら、まともにダメージを与える手段も無いのだ。

 それでも、負けるのが確定的だとしても番人なのだから立ち塞がるしかない。最初で最後の従属官の仕事だと、気を引き締めてアイスリンガーは他の3人に連絡をするのだった。

 

――――――

 

 初手にホーロスの狂音で侵入者を襲わせる。その奇襲は成功した。その大きさからして威圧感のあるデモウラで追い立てて誘導したのだ、成功しない方がおかしい。

 取り決め通りに、一護にシャークス、泰虎にアイスリンガー、雨竜にデモウラが襲い掛かる。必勝の為には一撃で決める必要があった。シャークスが一護を斬り捨て、アイスリンガーが泰虎の喉笛を打ち抜き、デモウラが雨竜を叩き潰すとの結果が……

 

「うおおおおおおおおおおおお!!!」

 

 だが、一護は耳を塞ぎ、雄叫びを上げながら無理矢理に動いた。ホーロスを蹴り飛ばして狂音から仲間を解放した。その時点で、アイスリンガー達の目論見は失敗した。

 

「ホーロス!黒埼一護を中心に牽制しろ!」

 

 指示を飛ばしたアイスリンガーは自分の相手に向き合う。右腕が変異する特異な人間。動きは遅く、右腕以外は普通の人間と考えれば勝てない相手ではない。

 故に警戒すべきは、一護か雨竜と交代される事だけであった。

 手数と速さしか能が無いアイスリンガーでは、そのどちらか片方だけでも相手より劣れば負ける可能性が高くなる。

 無論、泰虎の一撃を受けでもしたらアイスリンガーは戦闘不能になる可能性も十分にある。尤も、泰虎の速さでは、響転で動いている限りは捕捉されないとの確信をしていた。

 しかし、千日手に持ち込んだだけだ。アイスリンガーでは変異した右腕を傷を付けることができず、その護りを突破したければシャークスでなければ不可能であった。そのシャークスは、一護の相手で手一杯であった。

 

「クソッ!」

 

 繰り返し放たれる狂音に辟易しながら、一護はシャークスの猛攻を凌いでいた。シャークスが別段強い訳ではない。攻撃力こそ鋼皮をも削り取る左手の斬魄刀で高いが、所詮は最初期組。他の能力は高くは無い。

 そんなシャークスが一護に猛攻が出来ているのは、的確にホーロスが一護の動きを阻害しているからだ。いかに強くとも、脳を揺さぶられる狂音は対応できる能力がなければどうしようもない。

 だがしかし、黒崎一護という男を止めきるにはそれだけは足りなかった。家族が危機に陥っていると判れば、低級と言えども縛道を無理矢理に破り、初めて見聞きするバケモノに立ち向かえる男だ。

 そもそも、一回でも狂音の中で動いたのだ。また動くなど、できない筈がなかった。

 

月牙天衝(げつがてんしょう)!」

 

 本来より威力も速度もない月牙天衝であった。予備動作が斬魄刀を振り上げるという判り易いのもあって、シャークスとホーロスは事前に察知して避けられた。

 

「チャド!」

 

 狙いが初めから目の前の2人でなかった一護は、信頼する仲間の名を呼ぶ。月牙天衝は泰虎に迫っていた爪弾を飲み込み、その発射元さえも食い破ろうとする。アイスリンガーは、ソレをギリギリでなんとかかわした。

 ほんの僅かな時間。数秒も無い時間だけだが泰虎は完全にフリーとなった。その時間を無駄にしまいと、泰虎は一護が見ていた方に右腕から砲弾如き拳撃を放つ。

 狙うは雨竜を追い回しているデモウラだ。霊子が安定しない為に霊子兵装を構築できず雨竜は逃げ回っていた。泰虎の援護攻撃が来ると判ると、当たるであろう場所で立ち止まった。

 狙い通りにデモウラが泰虎の拳撃で倒れれば、ようやく戦えると新調した霊弓『銀嶺弧雀(ぎんれいこじゃく)』を構築し、矢を放つ。

 正式名称『神聖滅矢(ハイリッヒ・プファイル)』は、狙い通りにシャークスとホーロスを牽制する。

 

「さあ、反撃開始だ」

 

 停滞していた流れは、一護の一撃により傾き低きへと落ちていく。

 狙いをそのままアイスリンガーに切り替えた一護は一刀の元に斬り伏せ、泰虎はデモウラを真正面から叩き伏せ、千二百まで可能な連射力よって雨竜はシャークスとホーロスを滅却した。

 

「フフ…」

 

 あまりの実力差に、アイスリンガーは笑うしかなかった。自分も含めて番人は虫の息。

 ならば、()()()()()()()()()()。そうなればやる事は一つであった。

 

「申し訳ありません、アーロニーロ様!我ら第9従属官は任務を果たせませんでした!」

 

 何かしらの手段で見聞きしているであろう主へと謝罪し、霊圧を収束させる。

 

「これが我ら4人の()()です!」

 

「ッ!?」

 

 残り滓のような霊圧で作られた虚閃は、酷く弱々しいものであった。下手をすれば巨大虚すらも殺せないものでは、一護等3人には脅威すら感じられなかった。

 それでも驚いたのは、敵である自分に向けられたのではなく、仲間であった筈の者に向けて放たれたからだ。致命傷を負い、残った力の全てを虚閃に注ぎ込んでしまえば、流石の破面でも死ぬ一歩手前であった。放たれた虚閃が着弾すれば、全員が絶命していた。

 

「なんだ、ここ崩れるぞ!?」

 

 番人が死ねば運命を共にする。そんな仕掛けが施されていた地底路は、正しく仕掛けが作動して崩れていく。

 問答すらしている余裕は無いと3人は駆けて行くが、一護だけはチラリと死んだ4人を見てから駆け出すのだった。

 

――――――

 

「ほんとーーにっ、申ス分けあるまスんですたっ!!」

 

「悪かったな」

 

「……」

 

 フードを目深に被っていた為に、人間と間違えた相手からの謝罪に一護は何とも言えない表情をしていた。

 人間が虚に追われているようにしか見えなかったので、3人はソレを助けたのだった。なのだが、娯楽が無いので無限追跡ごっこと名付けられた遊びで暇を潰しているだけだったのだ。

 

「まぁ、こっちこそ悪かったな。遊びの邪魔しちまって……」

 

 事情を聞く限り、邪魔をした自分達も謝るべきだろうと一護も謝罪を口にした。そこからとりあえず自己紹介となり、長女リネ・ホーネンス、次女ネル・トゥ、長男ドンドチャッカ、次男ペッシュ、ペットのバワバワと破面の家族?構成を把握する事になった。

 

「待て待て待て待て」

 

「何スか?」

 

「破面に、姉弟とかペットとかあんのかよ!?」

 

 破面が大虚より生まれるのを知っている身として、姉弟などはほぼ在りえない存在なので思わずのツッコミである。

 

「失礼な!あるスよ、そんくらい!」

 

「バッタリ合って、あんまりかわいらしかったもんで、兄キになっちまったでヤンス」

 

「同じく!」

 

「姉になってやった」

 

「えへへ☆」

 

 恥ずかしげにネル、ドンドチャッカ、ペッシュは頭を掻き、リネは偉そうに腕を組んで踏ん反り返る。

 

「だから姉弟っていわねえだろ、そういうの」

 

 姉弟といったのは血の繋がりがあるべきとの常識を持つ一護は、その場のノリで決められたっぽい感じがする姉弟を否定してしまった。

 

「………………………!!

 じゃっ…

 じゃあネルたつは、一体何者…!?」

 

 姉弟の否定から自身の存在への懐疑に、絶望の表情をして至った4人。大げさかと思うが、ネルにとっては当然であったソレを否定されてしまったのだ。精神的に追い詰められるのも仕方ない。

 

「…イヤ、いい…

 俺が悪かったよ。姉弟でいいよオマエら…」

 

 よもや其処まで行くとは思っていなかったので、罪悪感に駆られて一護は早々に前言撤回をするのであった。

 

――――――

 

(想定通りか…)

 

 もう住人が1人だけとなった宮で、アーロニーロは『反膜の糸』を通して一護達の様子を伺っていた。

 アーロニーロは虚夜宮を中心として、『反膜の糸』を砂中に張り巡らせている。ある種のテリトリーとなっており、一歩でも立ち入ればまずアーロニーロは捕捉できる。できないのは、藍染などの一部の例外くらいであろう。

 

(ようやく、ようやく此処まで来たか)

 

 前回の襲撃の裏で井上織姫を攫い、護廷十三隊の隊長格などを虚圏に誘い込む藍染の作は半分は達成されたも同然であった。

 仮面と手袋を外し、アーロニーロは珍しく誰に見せるでもなく自らを曝し出す。

 此れからが、危ない橋を渡るしかないのだ。

 

―――軋む、音がする

 

 避けようとも思えば避けられるが、そうしてしまえば後で足らなくなってしまうのだ。

 

―――目を向けろと主張する

 

 力が、経験が、自信が。

 

―――壊れきるその前に

 

 より強く在る為に必要なモノが。

 

―――取り戻せと叫んでいた


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