アーロニーロでBLEACH   作:カナリヤ

29 / 44
『情け』

 ピカロが第2十刃の座を退き、その後釜はバラガンにされた。空位となった第1十刃には、藍染が自ら連れて来た独自で破面化したコヨーテ・スタークがつく運びとなった。

 アーロニーロの予想通りに、バラガンは荒れた。藍染に忠誠など誓っていない身であるが、全力を出す為に霊圧を貯める必要があるヤミーは基本第10十刃扱い。バラガンが十刃の中での実質的なトップで有ったからだ。

 大帝であるバラガンが二番手に甘んじるのを良しするはずも無く、剛毅なことに藍染に直談判までした。

 その場で何があったかは当人達だけの秘密となり、結果としてバラガンが第2十刃なのが変わらず司る死の形が『老い』となったので、アーロニーロは相当な事があったと予想している。

 尤も、アーロニーロに序列など特に興味は無い。上であればそれだけ有利といった要素が無いので、十刃に入っていればそれだけで十分なのである。

 そんなアーロニーロの目下の問題は一つ。

 

「おいしいわね、コレ」

 

「そうであろう。コレの為だけ何度従属官にしたいと思ったことか」

 

 お菓子目当てに訪れているネリエルにリネであった。

 自らを女王と自負するリネはともかく、常識人であるネリエルがなぜそんな事をしているかと言うと、アーロニーロを説得する為である。

 アーロニーロが他の破面や虚を喰らうのは、破面であるなら誰もが知っている事実である。ネリエルはそういった行為を辞めるか、最小限に止めるように説得しに来ているのだ。

 無論、アーロニーロがそんな事に首を縦に振るなどないので、ネリエルは何度も訪れた。その際に、ピカロにあげるつもりで作っておいたお菓子を提供したからか、来る頻度が多くなっているのが現状である。

 あまりにも来過ぎるので、気がネリエルに行きつつあるノイトラでも呼んでやろうかとさえアーロニーロは考え始めていた。

 

「ところでアーロニーロ、ちょっといいかしら?」

 

「追加の菓子は出さんぞ」

 

 テーブルの上のお菓子を平らげられていたので、声を掛けられたアーロニーロは先んじて制す。

 

「違うわよ。貴方、ノイトラの世話を一時期してたそうね」

 

「向コウガ突ッ掛ッテキタダケドネ」

 

 不愉快そうな目で出された話題は、噂をすれば影が差すと言わんばかりにノイトラのもの。世話と言ってもライバルを用意してやっただけだが、なにかしらしてやるなど珍しい事なのでそう思われているのであろう。

 

「そうなの。でも、その突っ掛ってきたのをどうにかする方法があるのよね?」

 

「……今回は無理だろうな」

 

「どうして?」

 

「アイツハ女性ヲ見下シテイルカラネ。上ト戦場二居ルノガ気ニ入ラナインダヨ」

 

 アーロニーロがノイトラの気をそらした方法は、今の状態では勝てないと力の差を見せつけただけ。頭が足りないようなノイトラであるが、意外と考えて行動する。だから、力の差を見せつけられたら修行に明け暮れもする。

 すなわち、十分に力を付けさえすれば再度挑み掛かるのは目に見えている。つまるところ、ノイトラがネリエルを倒して満足するか、どちらかが消えるまで現状は変わらないのだ。

 

「女十刃ならチルッチもいるのに?」

 

「知るか」

 

 自分より数字が上の十刃に挑むのは度胸のある行為に見えるが、その相手が女では度胸があるのかないのか判らない行為をするノイトラはアーロニーロの理解の範疇にいない。

 尤も、他者とあまり関わろうとしないアーロニーロにとっては、死体が出るまでどうでもいい話でしかない。

 

 

「…はぁ、仲良くできればいいのに」

 

「無理ダネ」

 

「無理に決まっている」

 

 アーロニーロとリネの即答に、なぜそんな事を言うのかと批判的な目を向ける。

 

「俺達は虚。喰うか喰われるか、どちらが上でどちらが下でしか繋がりを作れない獣だからだ」

 

 アーロニーロの言い分の正しさはネリエルも知っている。自我があっても、虚に規律が産まれるのは支配された状況下しかない。現世での民主主義のような体制など望むべきではなく、仲好く手を取り合うなど夢にすら見れない。

 だがしかし、今の自分達は破面である。虚よりもずっと理性的かつ、アジューカスの時のように退化の恐怖に怯える必要も無い。

 少なくとも、これまでよりずっと心に余裕がある。これまでは上か下にしか誰かを置けなかったとしても、破面となった今なら横に置ける筈だ。

 お前も同じ考えなのかと問う視線をリネに向ければ、横に首を振る。

 

「私はそんな根本での否定ではない。ただ、誰しも相性があって、ネリエルとノイトラでは合わないというだけだ」

 

 ノイトラが完全拒否しているだけだがと付け加えて、リネはカップに残っている紅茶を飲み干した。

 

「ノイトラに歩み寄らせるしか無いという事?」

 

 自己主張が強いと言われる破面に、歩み寄らせるという時点で無理難題である。

 

「そうなるな」

 

 逆に言えば、それさえできれば万事解決に繋がるやもしれないとリネはネリエルの考えを肯定する。ノイトラが折れるなど考えられなかったが。

 

「お互いを知れば少しは良くなるかしら?」

 

 歩み寄らせる前段階として、知り合い程度の関係から前進させる為の案をネリエルは思いついたようであった。

 

「無駄ナ努力ニナルト思ウヨ」

 

 止めるつもりも代替案を出すつもりのないアーロニーロであったが、後で「なぜ何も言わなかった」と言わないように口を出しておく。どのような作戦でも、塩から砂糖を作ろうとするくらいに無駄な行為になるとしか思えなかったからだ。

 

 元よりアーロニーロの意見など聞く気が無いのか、発言を無視されそのまま声を潜めてネリエルはリネと自分の考えを煮詰める話し合いをし始めた。

 

(巻き込まれないのはいいが、そんな話し合いをするなら自分の宮に戻ればいいものを…)

 

 特に害は無いので放置を決めたアーロニーロは、とっとと自室に籠るべくネリエルとリネの2人に背を向けて歩き出す。途中、普段たむろしている『迎撃の間』が使えなくなって、「お前の宮なんだからあの2人を追い出せよ」と言いたげな連中とすれ違ったのは余談であろう。

 

――――――

 

「駄目だったわ…」

 

(それでなぜ俺の所に来る)

 

 割と深刻そうな顔で、自分の作戦を上手く行かなかったとの報告された。当事者でもなんでもないアーロニーロには困るしかない。

 

「…話くらいは聞いてやろう」

 

 面倒事に巻き込まれそうな気がしたが、追い返す理由が無いのでアーロニーロは仕方なくネリエルの話を聞くとの運びになったのだった。

 

「……逆効果ダッタネ」

 

 ノイトラとの蟠りを解消すべくした行動を聞き、アーロニーロはとりあえずそう言った。

 

「ええ…視線がきつくなったもの…」

 

 その結果が出てしまっているので、流石にネリエルも否定などできなかった。

 ネリエルがした事は、まずお互いを知るべく一緒に行動をするというものであった。その為に、藍染に掛け合ってヴァストローデを探す任務をノイトラと一緒に行うようにして貰いもした。

 行動をたしなめたり、下手をすれば死にかねない状況になったので助けたりした。ネリエルが一方的に。

 ソレをノイトラはいたく気に入って、敵認定を更に強固にして、今では射殺すような視線をネリエルに向けるようになってしまったのだ。

 

 どうしてこうなったとネリエルは嘆くが、アーロニーロは当然だろと思う。

 ノイトラには最初から拒絶しかない。そこから仲良くしようとするなら、根気良く他愛の無い常日頃から挨拶をしていくという小さな積み重ねが必要であろう。

 そういう意味では、一緒に行動するという選択は悪くなかった。しかし、ただ隣にいるだけでなく、たしなめるのは早過ぎであった。

 ノイトラからすればソレは上から目線の言葉でしかなく、しかもノイトラの在り方を否定するモノ。ハイそうですかと受け入れる筈が無い。

 助けたのもノイトラにとっては屈辱でしかなかっであろう。「仲良くしたいから助けた」などと(のたま)わなかっただけマシである。だが、弱いから助けたなどは傷に塩を塗り込む言葉でしかない。いくらノイトラが死にかけた理由が無謀な連戦であったとしても、そんな理由で納得しないから困りものである。

 

 アーロニーロからすれば、虚が仲良くするのが無理がある。ネリエルに言ったように、虚は獣でしかないとの持論の正しさは己が過去が証明している。その行動の正しさは、ネリエルよりもノイトラの方に分がある。

 

「そこで、何か良い案はないかしら?」

 

「自分で考えろ」

 

 あっさりとアーロニーロは拒絶の意思表示をする。その返答は予想していたようで、ネリエルはやっぱりかと言わんばかりにため息をつく。

 破面に献身を求めて答えてくれるのは従属官くらいのもの。その事はネリエルもよく知っている。それでも、話を聞いてくれるだけアーロニーロが優しい方というのも心得ている。

 

「それでよく、ハリベルと上手くやっていけるわね」

 

「オ互イ深ク干渉シナイ。ソレダケダヨ」

 

 互いの我が相手に不快なら、それぞれが触れない距離にいればそれでいい。衝突を避けるためだけのそのスタンスはアーロニーロなら問題はない。ネリエルの場合は、そのスタンスを取ろうにもノイトラが許さない。敵と見なされている現状で動きは無くとも、いつの日か必ずノイトラはぶつかって来る。

 数少ない虚夜宮の掟など知らないと、獣のように躊躇いなど持たずに襲い掛かってくる。ソレを未然に防ぐために、ネリエルは今こうして動いているのだ。

 

「どうにもならないのなら、殺してしまえ。代わりはすぐにでも見つかるだろうからな」

 

 アーロニーロの提案の幼稚さに、自然とネリエルの目に鋭い光が過ぎ去る。

 

「意味を、判ってるの?」

 

 いつもより低い声はまるでケダモノ。気に入らない提案など、食い破る腹積りなのが滲んでいる。

 ソレをしてしまえば、ノイトラをなぜたしなめられようか。意味などない理由で誰かを消し去るなど、正にノイトラがしようとしている事そのものだ。

 

 だがしかし、今この瞬間にアーロニーロを睨むネリエルの目と、ネリエルを睨むノイトラの目に大した違いは見受けられない。

 違うのは行動だけ。ネリエルはそこを自制できる人と、そうでない獣の違いと言うだろう。だから合わないのだ。その違う一点のせいで、不協和音のように(ねじ)くれてどうしようもなく噛み合わない。

 他人とは元よりそういうもので、隣に置くにはソレを許容しなければならない。生存競争が激しく、退化の恐怖が消えても争いの種を抱え続けている破面は、軒並みその許容範囲が狭い。

 

「下ハ蹴散ラシ、上ニハ従ウ。獣ナラ、ソウイウ物ダロ?」

 

「……そういえば、破面も獣というのが主張だったわね」

 

 破面は獣である虚から進化した人。破面は虚であり獣。

 ネリエルとアーロニーロの主張は決して交わらない別方向に伸びている。どちらかが折れるしか妥協点はなく、そのような事は未来永劫無いであろう。

 

 その事をようやく理解し、ネリエルはアーロニーロに冷めた目で見る。

 コレは、心を見ずに無いと言い張るモノだ。歩み寄る気がなければ離れるつもりもなく、ただただそこに在り続けるモノ。コレと心を通わせるなど、無機物と心を通わせようとするのと同じだと……

 

「話を聞いてくれた事には感謝するわ。だけど、もうこうして話す事もないでしょうね。

 さようなら」

 

 リネがこの前言っていた「誰しも相性がある」との意味を実感してネリエルは第9十刃宮を去った。アーロニーロとの相性は「浅ければ問題無く、深くなれば最悪になる」と思いながら。

 

「…で、藍染様との話はなんだったんだ。ハリベル?」

 

 ネリエルが去り、静かになった『迎撃の間』で隠れて話を盗み聞きしていたハリベルにアーロニーロは軽く問う。そこに咎めるような声音は一切含まれておらず、それにハリベルは少しだけホッとしていた。

 

「…私の破面化を、もう少ししたらするそうだ」

 

「前祝イデモシテオク?」

 

 楽しげな提案しつつも、また十刃が入れ替わると冷徹にアーロニーロは考えるのだった。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。