アーロニーロでBLEACH   作:カナリヤ

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前触れ

「諸君!此度の我輩の招集に集ってくれた事にまず礼を述べよう!」

 

 虚夜宮のとある一室。そこに密かにほとんどの十刃が集っていた。

 召集を掛けたのは第4十刃のドルドーニ。数字としては本来の序列である0~9では真ん中に位置する彼だが、その召集にはほとんどの十刃が集結していた。

 

 『魅惑』の死の形を司る第3十刃、リネ・ホーネンス。

 『甘さ』の死の形を司る第4十刃、ドルドーニ・アレッサンドロ・デル・ソッカチオ。

 『病』の死の形を司る第5十刃、シジェニエ・ピエロム。

 『恐怖』の死の形を司る第6十刃、チルッチ・サンダーウィッチ。

 『信仰』の死の形を司る第7十刃、ガンテンバイン・モスケーダ。

 『嫉妬』の死の形を司る第8十刃、ロエロハ・ハロエロ。

 『強欲』の死の形を司る第9十刃、アーロニーロ・アルルエリ。

 

 十刃が7名も藍染の命令でないのに集結する。その事実は傍から見れば、これから藍染に反旗を翻さんとしようとしているのではないかとさえ思えるものであった。

 仮にそうだとするなら、第1十刃のバラガン・ルイゼンバーンは彼らの側に着く。アーロニーロに餌付けされている第2十刃のピカロも同様であろう。唯一、第10十刃にして第0十刃のヤミー・リヤルゴだけがどちらに着くかは不明となる。

 この場に破面の戦力の8割が集結と言っても過言ではない。そこまで言ってしまえる異常な集会がコレなのだ。

 

「この集会の議題はただ1つ! 今日にでも破面化される雌の虚を誰が従属官にするかだ!!!」

 

 異様に高いテンションで言ったドルドーニの言葉に、リネとアーロニーロは「は?」と言いたげな雰囲気を醸し出した。実はこの集会、ドルドーニが雌の虚を雑用が見たと聞いたので、突発的に掛けたものであったのだ。

 雑用を通して「真面目な話がある」と伝えられた十刃達は、普段はどうにも軽さが目立つドルドーニの言動を知っていたが、真面目なときは本当に真面目なので集まったのだ。ただし、ドルドーニの聞いたのと同じ話を聞いていたバラガンは不参加を決め、ピカロは元々雑用を向かわせていない。ヤミーは特に理由もなく不参加である。

 

「……ハァ、阿呆か貴様は―――」

 

 ドルドーニがそういう男と知っていても、目の当たりするとリネは苦言を漏らす。

 

「―――この『魅惑』の私を前にして他の女の話をするなどとは」

 

 胸を張って言った内容に、アーロニーロは「此処には俺以外は馬鹿しかしないのか」と頭を抱えたくなった。尚、胸を張った事で上下に胸が揺れたので、アーロニーロ以外の男性陣は一瞬だろうとその動きに視線が釣られ、チルッチは自分よりも大きな胸を忌々しげに睨んだ。ちなみに、阿呆呼ばわりされたドルドーニは「正に、魅惑の双子果実…!」と何やら1人で盛り上がっていた。

 

「本当に申し訳ないが、女王(レイナ)は、高嶺の花。吾輩の手では掴めず、掴めたとしてもその美しさから手折るなどと出来ん。

 ついつい、手の届く花を掴みたくなってしまうのだよ……」

 

 「悲しき男の性だ…」とドルドーニは言うが、ぶっちゃけるとドルドーニが女に飢えているというだけの話である。

 そんなドルドーニの内情など勘繰りもしないリネは「それならば仕方ない」と余裕の笑みを浮かべて、取り分けられたクッキーを嬉しそうに頬張る。そのクッキーはアーロニーロがこういった集まりに参加する際は必ず持ってくる物である。

 

「…で、肝心の女破面はどうすんのよ。あたしは別に要らないわよ」

 

 参加者全員が暇だからとの理由もあって参加したが、グダグダとドルドーニの馬鹿に付き合うつもりの無いチルッチは問題の女破面をいらないと宣言する。女手を確保できているので、彼女には本当に必要無いのだ。

 

「私も必要ないな。まぁ、美しさ次第では愛でてやらんことも無いのだがな」

 

 リネは答えを保留とし、雑用が持ってきた紅茶をゆったりと飲む。帰りたいチルッチと違って、どうやら事の成り行きを観戦するつもりのようである。

 

「俺も必要ない」

 

 アーロニーロはチルッチと同じでいらないとした。しかし、男性陣は疑わしくアーロニーロを見る。

 

「ナンダイ、ソノ目ハ」

 

「第一期“刃”で、まず従属官に女破面を3人も入れた奴が言う台詞?」

 

 ロエロハの言葉に他の男性陣も「うんうん」と頷く。雌の虚が少ないので、虚より進化した破面も女破面は少ない。

 その少ない女破面を真っ先に従属官に加えたのはアーロニーロである。それ以降は女破面を従属官に加えるなどしていないが、初代第3刃ミッチェル・ミラルールがよく会いに行っていたとの事実がある。

 そんな―――他の男性陣からしたら―――前科のあるアーロニーロの女性関係の言葉をそのまま信じろというのは無理がある。

 

「まったくだ。誰の従属官でもなければ、スンスンは私の従属官(メイド)に加えていたのだがな」

 

 従属官をメイドや執事と呼んで本当に貴族のような物言いのシジェニエは、従属官にそれらしい服装を強要している。手が隠しても尚余裕のあるまで袖を長くしているスンスンからすれば、服装の強要はそれだけでストレスになるであろうから、彼の従属官にならなかったのは幸運であろう。

 ちなみに、シジェニエの宮にドルドーニが出向いた際には、メイドに奉仕されるシジェニエを見て悔し涙を流したという事があった。

 

「何やら話が本筋が外れているからついでに戻すが、私は女破面が金髪なら欲しい。まだ金髪長髪メイドがいないのでな」

 

 紅茶の香りを堪能しながら話を戻したシジェニエは、目線だけで次を促す。

 

「見てから決める」

 

「俺の宮には必要無い」

 

「意見は出揃ったようであるな」

 

 こんな召集をしたのドルドーニは当然欲しい一択である。

 欲しい1人。女破面次第で欲しいが3人。いらないが3人。この結果にドルドーニは心の中だけで狂喜乱舞する。このまま上手くいけば、念願の女破面の従属官が手に入るかもしれないからだ。

 

 ドルドーニは紳士である。軽いとこがあるが、紳士である。十刃になっても、紳士である事を辞めたりしなかった彼は、女破面を従属官にしようとした際にはまず話し合いをした。

 女性に無理矢理従わせるのは紳士ではないとして、話し合いをしたのだが、ソレが失敗の原因であった。

 本人からしたら緊張を解したり、自分がお堅いだけの堅苦しい人物ではないのを解らせる為に、お調子者な一面を曝け出したのだ。それによって、ドルドーニがヴァスティダと戦った時の印象である渋いおじ様的な印象は見事に打ち砕かれた。結果、幻滅された。

 まさか騙してまでも従属官にしようと考えなかったドルドーニは、一度失敗しようが挫けずに別の女破面でも話し合いをした。その結果がどうだったかなど、女破面のいない彼の宮を見れば解るものである。

 

「そういえば、肝心の女破面の名前は判っているのか?」

 

「ネリエル、との名前だった筈だが?」

 

――――――

 

 ネリエル。フルネームはネリエル・トゥ・オーデルシュヴァンクとの女破面はドルドーニの聞いたとおりに虚夜宮に招かれた。

 ただし、第3十刃の挑戦者としてだった。シジェニエ、ガンテンバイン、ロエロハは気の毒だったなとドルドーニの肩を叩いてやるが、それで癒される訳が無い。せめて、肩を叩くのが女破面でなければ無駄であろう。

 

「まだだ!! 紳士にあるまじき願いだが、負ける可能性もある!!」

 

「死亡率は極高」

 

 ロエロハの突っ込みに耳を塞いで聞きたくないと、まるで子供のような反応をするドルドーニに、まだ近くにいたシジェニエとガンテンバインは苦笑する。

 座を賭けての戦いにおいて、両者の生存率は限りなく0に近い。敗者に生きる価値は無しと、基本的に勝者が命を摘み取ってきた。唯一の例外は、ドルドーニがヴァスティダの命を助けた事だけである。その後で保護として従属官にもしており、そのお陰でアーロニーロに闇討ちされずに生きている。

 

「アーロニーロ、その膝のは何だ?」

 

 野次馬の如く集まっている1人であるアーロニーロは、イスを持ち出してしっかりとした観戦状態であった。ハリベルは、そんなアーロニーロの膝の上でのんびりとしている子供の破面を指摘した。

 

「ピカロの1人だが?」

 

 なぜそんな事を聞くと言ったアーロニーロだが、ハリベルの聞きたい事はそのピカロの1人がなぜ膝の上でアーロニーロにじゃれついているかであった。

 

「コレデモ第2十刃。一応コウイッタ席二参加スル義務ハ有ルンダヨ」

 

 十刃として威厳も何も無いが、ピカロもその座には着いている。そして、現十刃が敗れた際にわざわざ顔合わせをしなくても良い様にと、十刃には十刃と挑戦者の戦いを見るのを義務付けられている。

 尤も、ピカロの1人に見せた所で、同じピカロに正確に情報を伝えるのは絶望的である。そういった情報の伝達は、アーロニーロの『認識同期』で伝えれば齟齬も無い。あくまで、例外を作らない為と、ピカロ全員を解放しない為に1人だけ連れて来られているに過ぎない。

 

「オカシちょ~だ~い」

 

「よしよし、飴をやろう」

 

 そんなやり取りは親子のソレみたいであるが、ハリベルにはピカロの目がそれだけには見えなかった。

 物欲からくる純粋な好意。子供特有のちょっと優しくされたからといった理由で産まれる穢れ無きその感情は、よっぽどの捻くれ者でもなければ拒否しがたいものだ。

 現にアーロニーロも、抑えておくように藍染に言われていたとしても可愛がっていた。膝の上に乗せ、頭を撫で、お菓子を与えて抱きしめる。まるで愛娘(・・)に接するかのような溺愛っぷりである。アーロニーロの格好が格好なので、いたいけな子供にイタズラする不審者にしか見えないが、珍しく行動に感情が乗っていた(・・・・・・・・・・・)

 ピカロとは良好な関係を築いているのはハリベルは知っていたが、ここまでのものとは知らなかった。

 

「アーロニーロ、お前はどちらが勝つと思う?」

 

 そんな2人の邪魔をするように問いを投げて、ハリベルは自分の行動に驚いていた。目の前の光景は微笑ましいモノであった筈なのに、それを中断させるようにアーロニーロが答えてくれる質問をした。

 

「破面化シテ調子ニ乗ッタ新入リガ挑戦スル。ソウ見エルケド、イクラ何デモ早過ギル」

 

 雌の虚と見て判るということは、少なくともアジューカスだということ。ならば人型の慣らしの期間があった筈である。

 虚の姿が人型に近ければその慣らしの期間は短い。だがしかし、新入りの破面が調子に乗ったにしても早すぎる。

 十刃への挑戦は自由だが、誰に挑むかを一度藍染に申告しなければならない。なので、実際には藍染の許可が必要となっている。

 

「十中八九、挑戦者が勝つだろうな」

 

 今回の新入りは藍染の肝入りなのではないか?アーロニーロはそう疑っていた。

 例えそうでなくとも、リネは能力型の破面である。第3十刃の座にいるので、それだけ効率的に殺戮できる。つまり広範囲に能力が使える可能性が高い。

 そういった能力は、多くの場合で一対一には向かない。格下なら問題がなくとも、同格になると効き辛いなどよくあることでもある。自慢の能力が効かなければ、能力型の破面は存外脆いのは宿命か。

 

「マァ、ドッチガ勝トウト僕等ガヤル事ハ変ワラナイケドネ」

 

 尤も、アーロニーロにとってはそんな事はどうでもよかった。司る死が『魅惑』のリネの能力は大まかな予想ができるが、尸魂界にでも殴り込みに行かなければ使えない代物であろう。アーロニーロにとって価値がありそうなのは、十刃として認められた霊圧くらいであった。

 屍を晒せば喰らう。アーロニーロのその行動は、虚となった時から既に決まっていた。


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