アーロニーロでBLEACH   作:カナリヤ

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変わりて

 実験の結果に藍染は静かに思考する。

 

 今までの結果からすれば、まだ中途半端ではあるが前進したのは間違いない。しかし、同時に成功とも言い辛い結果でもある。

 

 アーロニーロの身体の大部分は死神と同等のソレであるが、虚らしさが頭部と左手に存在している。

 

 死神と虚。その二つの存在が決して混じり合わないと言うかのように、見事に違いが見えた。特に、その二面性を表したかのように、カプセル状の容器内に浮かぶ二つの頭が印象的であった。

 何かが足りないのは明白。しかし、理論や方法にはこれといった穴などはない。

 

 ならば問題は実験体なのかと考えを巡らすが、それはないと断じた。虚も死神も人の魂から成り得る存在。壁さえ取り払ってしまえば双方の力を持つ存在へと成れるはずである。そこに間違いはない。

 

 死神の要素をより入れなければならない。そう考えた矢先に、藍染は死神が持っていて虚が持っていないモノに思い至った。

 

 斬魄刀。死神なら己の半身も同然に所持しているそれは、虚が持ち得ぬものだ。だが、斬魄刀は死神ならまず所持しているが、支給品でもあった。死神の特徴でもあるが、上から与えられる物でもある。

 

 藍染はそれも是とした。自分も虚に与えてやればいい。死神が象徴とする斬魄刀のように、虚から死神化した者の象徴になる斬魄刀を。

 

 そこまで考え、再び藍染はアーロニーロを見る。新たな存在にこそ成れなかったが、間違いなくアーロニーロは次への礎となった。なにか、見落としている事は無いかと注視する。

 

 見れば見るほどにアーロニーロはアンバランスな存在であった。死神の体に無理矢理に虚の身体を移植したかのように、頭部と左手は異彩を放っている。これなら、切り落としてしまった方が見栄えが良い。

 その思考が、先程の斬魄刀と結びついた。

 

 斬魄刀は自身の霊力を馴染ませることで、ようやく自身のモノとなる。霊力に眠る力を、斬魄刀として表面化させるのがその主たる機能であり、いくら支給品でも発現したその能力自体は間違い無く自分自身のものである。

 

 これまでは、虚に死神の力と完全に同居させようとしてきた。崩玉ならば、それすらも可能であると考えからそうして来たが、それが間違いであったのだ。

 崩玉はまだ未完成。まだ妥協する必要があるのだ。

 

 無理に一つの器に押し込むのではなく、必要に応じて分けてしまえばいいのだ。

 

 例えば、死神が全力を出すために斬魄刀を解放するように、必要になるまで一種の封印状態にしておけばいい。

 

 虚と死神の境界にある壁を取り払うことばかりに意識を持っていかれてはいたが、壁を一度取り払ってから、自分に都合の良い壁をもう一度作ればいいのだ。

 

 平時の形は死神のようにし、有事の際には虚としての力を解放できるように。

 

 この実験は成功の元であった。そう己の中で結論付けると、新たな駒であるアーロニーロに羽織る物を渡して、居城へと向かうのであった。

 

――――――

 

 虚夜宮(ラス・ノーチェス)虚圏(ウェコムンド)にある唯一の人工の建物であるそれは、虚圏の神であり王であると自称していたヴァストローデであるバラガン・ルイゼンバーンがいた場所に建っている。

 

 現在は、円柱形の高層マンションのような物が幾つか建っており、現在進行形で新たな住居がバラガンの指揮の元で建てられている。

 

 既に完成している宮の一つの最上階。そこにアーロニーロは連れてこられた。

 

「ようこそ、私の虚夜宮に」

 

 部屋の中央に設置された玉座に座り、両脇に市丸ギンと東仙要を控えさせて、藍染はアーロニーロに改めて歓迎の意を表す。

 

「勿体無いお言葉」

 

 主従関係は明白。アーロニーロは服従の意を頭を垂れて示す。

 

「さて、まずは着る物を作る為に採寸を。もし、服のデザインに要望があるのなら先に聞いておくよ」

 

「それでは……」

 

 聞かれたので、アーロニーロは素直に要望を出した。原作でアーロニーロが着ていたのと同じ服と、仮面に手袋。全てを着れば肌の露出はゼロになる予定である。

 

 その要望を聞いた藍染は東仙に目配せをして、一人の部下を入れさせる。

 

「失礼します」

 

 入って来たのは、見た目だけな被り物をした人間であった。だが、その実は藍染による実験から生まれたある種の成功作である。

 

「紹介をしよう。彼は、この虚夜宮の雑用を引き受けている者達の一人だ。

 私が行った虚の死神化、破面(アランカル)化の模索の最中に生まれた副産物でね。人型にする事だけを考え、それ以外は全てを削ぎ落とした結果だよ」

 

 大人しく採寸されながら、アーロニーロは気付く。採寸している者の手が震えていることに…

 

「どんな虚も人型に成れるが、力は巨大虚(ヒュージ・ホロウ)にすら劣る有様でね。戦闘要員には絶対に成りえない存在だよ。

 だが、人型は色々と便利でね。彼等には人の手でなければ不都合な事の多くをやって貰っている」

 

 巨大虚にも劣る。その言葉を聞いて、手が震えていた事に得心がいった。

 

 巨大虚は大虚の様に幾百の虚が寄り集まった存在ではなく、単独で既に巨大な虚を指す。その実力は、メノスにすら劣る場合が普通である。虚圏では、砂漠の下にあるメノスの森と呼ばれる場所でメノスの捕食対象にされる事が多い。

 

 そのメノスより上のアジューカスでもどきであろうが破面化したアーロニーロに脅えない訳が無い。名前も知らないそいつは、藍染を初めて見たアーロニーロの心境に近いであろう。

 

「もし、必要な物があったら彼等を頼るといい。それが彼等の仕事の一つだからね」

 

 雑用の説明を藍染が終えると同時に、採寸を終えた雑用が逃げるように部屋を後にする。

 

「次はここでのルールだが、それは要に説明させよう」

 

「はい」

 

 藍染の命令によって話し始めたルールを、アーロニーロは長ったらしい説教を聞くようなうんざりとした心地で聞くのだった。

 

 無断で虚夜宮から出るな。建物を壊すな。無暗にアジューカス以上の虚を殺すな。

 

 ルールは、要約してしまえばそのくらいしか重要なモノはなかった。勿論これだけではなく、もっと細々したものが数あるが、重要そうなのはこれだけである。

 

「さて、アーロニーロ、これからある命令をこなしてもらう」

 

 ルール説明を終え、再び聞いた藍染の言葉でアーロニーロの体に緊張が奔る。

 いきなりの命令、それが何なのか予想が出来ず、碌でもない物のような気がしたからだ。

 

「そう身構える事はないよアーロニーロ。私はできない事を押し付けるつもりは無い。

 やってもらいたい事は、自分自身を知ってもらうことだ。

 アジューカスであったのなら、能力の一つや二つは持っていただろう? 破面となり、その能力がどうなったのか、新しく能力が発現したりしているか。その確認を、他ならぬ自分の手でやってもらいたいだけだよ」

 

「ハイ、了解シマシタ」

 

 そんな事なら願ってもないことだと迷い無くアーロニーロは頷く。自分でも知っておきたい事であったし、渡りに船と言うやつだ。

 

「それと、もしも他の虚や破面の力を借りたい場合は、私からの命令と言えば快く受けてくれる。

 報告はそうだね、私か二人に口頭で説明するか、実演をしてくれれば構わないよ」

 

 それで説明は終わりとし、また呼ばれた雑用に、与えられる部屋へとアーロニーロは案内されるのであった。

 

――――――

 

「ふん」

 

 与えられた部屋で、アーロニーロは腰を捻る。普通であれば90度回るか回らないであろうが、アーロニーロの身体は90度を通り越して上半身が完全に後ろを向くところまで回った。

 

「ヤッパリ、人型ナノハ見テクレダケダネ」

 

 複数の関節をおかしな方向に曲げながら、アーロニーロは身体の調子を確かめる。そうして、ある一つの可能性に達する。

 

「肌の下はもしかして触手か?」

 

 柔軟過ぎる身体と、アジューカスでの身体を鑑みれば、それが一番自然であった。おそらく、化けの皮を剥がせばかなりスマートになった触手がアーロニーロの体を構成しているであろう。

 

「僕ハ切リ開イテマデ確認ニハシタクナイネ」

 

「安心しろ、俺もだ。ところで、俺達の思考とかはどうなっているんだ?」

 

「……サア?」

 

 頭になっているカプセルの中、アーロニーロは他ならぬ自分自身と見つめ合う。

 目の前にいるのは間違い無く自分自身。しかし、目の前の球体が何を考えているかまでは解らない。

 

「お前は俺か?」

 

「僕ハ僕。ソシテ、アーロニーロ・アルルエリ」

 

「俺も俺だ。そして、アーロニーロ・アルルエリだ」

 

 自問自答し、互いが互いをアーロニーロ・アルルエリと思っているのは間違いが無かった。

 それは間違い無い。確かに、アーロニーロ・アルルエリは自分自身であり、その肉体と共にいるもう一人もアーロニーロ・アルルエリであるべきはずだ。

 

 それに何も問題は無い。思考の共有こそはしていないが、身体を動かすといった事に不便は無い。

 考えが解らないのは怖い面もあるが、もう片方への攻撃は自傷に他ならない。それで悦に浸る特殊性癖ではないので、もう一人の自分に攻撃される事への心配はないも同然。

 

 深く考えた事ところで、答えが見つかるはずもない類いの事柄と判断すると同時に、部屋の戸が叩かれた。

 

「入ッテイイヨ」

 

「ご要望の物をお届けに上がりました」

 

 訪問者は雑用。その用事は、手に持っている物を見れば一目瞭然であった。

 恭しく差し出された服を手に取ると、アーロニーロは雑用に見られているのも気にせずにそのまま服を着る。

 

「仕事が速く、そして丁重だな」

 

 袖を通した服が要望通りであったのと、すぐに届けられたのに気を良くしてアーロニーロは思ったそのままの事を口にした。

 

「それでは、何かありましたらお申し付けください」

 

 アーロニーロ的には褒めたつもりだったが、雑用はその言葉に何の反応もせずにすぐさま部屋から出て行った。

 仕事が溜まっていて忙しいのか、それとも一緒に居たくないのかはアーロニーロには測りかねる事であった。

 

――――――

 

 自身の能力の把握。それは思いのほか難しいものであった。

 アーロニーロの能力と言えば、死した虚を喰らう事でその霊圧と能力を我がものとする『喰虚(グロトネリア)』。それと自分の戦った敵のあらゆる情報を瞬時に全ての同胞に伝えることができる『認識同期』。

 

 どちらも他者がいて初めて効果を発揮できるものであり、その能力の把握には協力が必要不可欠。だが、アーロニーロはそこらへんにいる虚に易々とこの能力を披露するつもりは無い。

 

 しかし、かといって何もしないのも暇であり、能力をお披露目しなくても身体能力を調べる必要はあった。

 

「ソコノ破面、藍染様カラノ命令ダヨ。僕ニ着イテ来イ」

 

 それなら、やはり手合せが一番だと頭がシュモクザメ似の破面に声を掛けるのであった。




虚夜宮建造中
独自です。アーロニーロは第1期“刃”の生き残りなので、かなり初期から藍染側にいた事になります。なので、アーロニーロの加入は建造中にしました。
虚夜宮は1から作られたからという理由もあります。

アーロニーロの肌の下は触手?
独自です。この作品の中では、まだ破面の完成形へと至っていません。なので、アーロニーロは原作よりも虚っぽくという事で軟体生物みたいになっています。

服は支給品
独自です。死神と違って破面は服はそれぞれ違います。なので、支給されているだろうと考えました。

雑用
独自です。食事を運んだり藍染に報告してた奴です。
原作では名前不明でなんか雑用をやっているだけというキャラでしたので、雑用をやらされている非戦闘員としました。

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