アーロニーロでBLEACH   作:カナリヤ

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揃いし刃

 “刃”の招集。滅多な事で行われないソレは、虚夜宮に新しい風が吹き込む合図と同様であった。

 十刃(エスパーダ)が完成する。事前に知らせれた召集理由は、ほとんどの十刃が興味を引かれるモノではなかったが、それが命令であるのだから逆らわずに集合した。

 

「全員揃ったようだね」

 

 全員揃ったという言葉に、アーロニーロは疑問を覚えた。

 おそらくは十刃が顔を合わせる為だけに設えた部屋にいるのだが、十席の内埋められている席は六席。後1人、姿を現さないザエルアポロ・グランツが座るべき席が空いている。

 その疑問に答えるように、藍染はただ簡潔に言った。「ザエルアポロ・グランツは、自ら第2十刃の座から退き、十刃(エスパーダ)()ちとなった」すなわち、初の“十刃落ち(プリバロン・エスパーダ)No.100(シエン)が生まれたと。

 それと、ついでのように十刃最強である第0十刃は帰刃したヤミーが成るようにと告げられた。

 

「それでは、空いている席に着く彼等と彼女等を紹介しよう。

 第2十刃、ピカロ。司る死の形は、好奇心」

 

 「彼等と彼女等」との藍染の言葉は事実であった。藍染の十刃としての紹介と共に現れたのは、百を超える子供の破面であった。その登場に、半数の“刃”は目を丸くした。

 悪戯小僧(ピカロ)。一斉破面化にてハリベルと同様に破面化が先送りにされた彼等と彼女等は、元はバラガンの部下であった。ただし、姿はともかく当時から子供とあまり変わりのない性格であったので、本人等には上下関係の意識があったのか疑わしい事この上ない。

 そういう意識の低さも先送りの一因であるが、先送りの主因は2つある。『群であり個である』という虚でも極めて珍しい特性と、急速に霊圧を回復する手段を持っていた事だ。

 

 この2つは、ピカロの子供の同然の精神と相まって非常に厄介な物となっている。

 『群でも個でもある』とされているは、特殊な音波によって命、具体例を挙げるなら霊圧を共有するという『命の共有』があるからだ。

 これだけならばさして脅威ではない。数こそいるが―――個々の能力は特別高いという訳ではないので―――逆に言えばそれだけだ。

 所詮数だけと言えないのは、急速に霊圧を回復する手段を持っているからだ。ピカロは一カ所に留まるなど基本的にせず、必ずある程度散らばっているのだ。いくら離れた位置に居ようとも『命の共有』は遺憾無く発揮できるので、やろうと思えば永遠と回復ができる。

 数と共有に回復。この3つで、ピカロは見た目からは想像もできないタフネスさを持っている。

 

 簡単にその脅威を言うなら、ピカロは実質不死身である。一体一体はそこまで強くはないが、それが多少の事と言えない数と不死性を持っている。それがピカロが第2十刃であれる理由だ。

 

 そんなピカロに与えられた死の形は好奇心。猫すら殺す感情であるが、ピカロへの好奇心ではなく―――尤も、下手に近付けば死ぬ事には変わりないのだが―――ピカロの好奇心によって殺される事となる。

 子供の精神にソレに不釣り合いな力。そこに数も加わって、ピカロは他者を好奇心で殺すのだ。

 そういった意味では、どの十刃よりも残虐で危険極まりない破面である。

 

「ねーねー、遊ぼうよー」

 

 ピカロの誰かがそう言えば、それに追従する形で他のピカロも遊ぼうコールをする。今この場にいるのは同じ破面であろうと「強さの次元が違う」と恐れられる十刃であるが、ピカロにそういった恐怖は無い。

 ピカロにとって、相手が強かろうが弱かろうが遊べる時間に差があるだけだ。

 

「静かにせんか餓鬼ども!!」

 

 その自由気ままなピカロをバラガンが一喝する。老人と子供というその構図は、孫を叱る祖父といった様子であるが、声と共に発せられた霊圧は並の破面なら膝を着くものだ。

 その声と怒気に驚いて泣くピカロもいるが、大半は「怒られたー」と軽く笑っていた。

 

「はぁ…」

 

 そろそろ藍染が場の鎮圧に動こうとしているのを感じて、アーロニーロは葬討部隊を部屋に突入させてピカロの口を塞がせる。今の所、数で数を潰せるのはアーロニーロぐらいである。

 

「すまないね、アーロニーロ」

 

「勿体無イ御言葉」

 

 口でこそ礼を言った藍染であるが、その態度は「やって当然」という支配者側の物。

 

(霊圧に潰されるのはこちらとしても嫌だしな)

 

 言って聞かない相手に藍染がやる事は霊圧をぶつけて押し潰すという力技。十刃であろうとも膝を着くソレは恐怖すら覚える重圧となる。

 いくら無邪気で自由奔放なピカロでも、それを受ければ顔を青ざめて怯える。尤も、3日もあれば簡単に持ち直してまた藍染を怒らせるような事を仕出かしたりもするので、本当に一時的な措置にしかならない。

 そしてそれは、部屋に散らばるピカロを押さえつける為に無差別にかけられるのが目に見えていた。

 まだまだ弱いアーロニーロからすれば堪ったものではない。だからわざわざ葬討部隊を使ってまでもピカロを押さえつけたのだ。

 

「第5十刃、シジェニエ・ピエロム。司る死の形は(やまい)

 

 漸く場が落ち着いたところで、第5の席に座る厳格そうな初老に見える男が紹介された。服装は長袖の基本服装に普通のズボンと取り立てて変わった所の無い恰好であった。

 まず目を引くのは顔を縦断する仮面の名残り。逆十字のそれは額から顎までしっかりと伸びており、どことなくピエロの化粧の一部を思わせる。

 バラガンと同じように生やされた髭は厳格さを助長すると同時にやや老練さを醸し出している。かと思えば、金色のその髭とオールバックしたその髪の艶はどこか若々しさが見て取れる。

 仮面の名残りと青白い死人のような―――悪霊に分類されるであろう破面は死人その物の気がしなくもないが―――その肌を除けば、どこかの理想的な貴族のような出で立ちだ。

 藍染に礼をした後、先任者たる十刃の面々に目礼をして席に着く。その動作だけで、まるで貴族の出ではないかと考えてしまう礼儀正しい所作であった。

 

「第6十刃、チルッチ・サンダーウィッチ。司る死の形は恐怖」

 

 続けて告げられた名は女性の物であった。仮面の名残りは額の左側に髪飾りのようについている。ドーナツ状の楕円に棘とチェーンのような物が生えているその形状は、元は目元にあった仮面の一部と見て取れる。

 服装はドレス。俗にいうゴスロリ調に見える膝上の丈が短いスカートに、胸に沿うように作られているそのドレスは男に挑発的である。

 紫がかった黒に近い髪は顔の横で縦ロールと女性にしては鋭い目つきは「女王様」との単語を想起させる。パッと見で高飛車そうと思えてならないのはやはり髪型に対する印象か。

 

「第7十刃、ガンテンバイン・モスケーダ。司る死の形は信仰」

 

 空いている最後の席に座る男は、一言で言えばアフロであった。

 仮面の名残りに星のマークがあり、更にソレが額にある。これも十分に印象的だ。

 大体ヘソの辺りから開き、その鍛えられた腹筋と胸板を露出させ、襟がなぜかモコモコと言いたくなるように丸く膨らんで似たようなのが太腿部分にもある。この服装も十分に印象的である。

 だがしかし、その印象が焼き付くよりも先にアフロという非常に珍しい髪型が印象として焼き付けられる。自分の顔が縦に2つは入るご立派なそのアフロは、彼を見た人ならアフロの人で通じそうであった。

 

――――――

 

 

 

 第1十刃  『傲慢』  バラガン・ルイゼンバーン

 第2十刃  『好奇心』 ピカロ

 第3十刃  『魅惑』  リネ・ホーネンス

 第4十刃  『暴食』  ヴァスティダ・ボママス

 第5十刃  『病』   シジェニエ・ピエロム

 第6十刃  『恐怖』  チルッチ・サンダーウィッチ

 第7十刃  『信仰』  ガンテンバイン・モスケーダ

 第8十刃  『嫉妬』  ロエロハ・ハロエロ

 第9十刃  『強欲』  アーロニーロ・アルルエリ

 第10十刃 『憤怒』  ヤミー・リヤルゴ

 

 

 ようやく揃った十刃に藍染は笑みを浮かべる。しかし、まだ十刃は未完成であった。

 十刃に求めるのは護挺十三隊の隊長を無力化する戦力なのだが、現状では隊長の相手はまだ荷が重いと藍染は考えていた。

 バラガンやピカロは実力だけ(・・・・)なら問題は無い。3以下の数字でも隊長格に喰い付いて行けるだろうが、やはり一対一では負ける線が濃厚という有様だ。

 約半数が直接的な戦闘能力でなく、特殊な能力で護挺十三隊を引っ掻き回せる能力型を選んだのもあるのだろう。

 

「さて、これで私の十刃は揃った(・・・)事になる」

 

 されども、未完成。もし、十刃を完成したと言える時が来るとすれば、藍染の要求する露払いを誰も欠けずに遂行できた時だ。

 そのような未来が来るかは藍染にもわからないが、選んだ十の刃にはまだ研磨の余地が残されている。

 

「早速で悪いが、挑戦者が1人来ている」

 

 『数字持ち』の中から自分の方がその座に相応しいと、自らの命を賭した者がいるとの藍染の言葉に、ピカロ以外の十刃の面々は「そんな事か」とどこか無関心であった。

 過去に何人も挑戦者はいたが、全員が全員実力を見誤った馬鹿者として葬られてきたのだから当然と言えば当然の流れだ。

 第4十刃に挑むと聞かされれば、もはや他人事だと十刃の面々は完全に興味を無くした

 

 十刃相当の霊圧を感じるその瞬間までは……

 既に10の霊圧を知覚した面々は11個目の十刃相当の霊圧に失くしていた興味を取り戻す。

 

 ドルドーニ・アレッサンドロ・デル・ソカッチオ。

 自らの座を脅かさんとする男の名を聞きヴァスティダは笑うと、久々に戦いができると喜び勇む。

 まだ座を脅かされない他の十刃は一様に、どちらが勝とうが荒れると予感めいたものを感じていた。

 

――――――

 

 十刃の反応の良さに藍染は微笑む。

 これは新たな出来事であるが、中身こそはアーロニーロとミッチェルの戦いの焼き直しだ。前回は『数字持ち』が奮起し多くの破面が本能を呼び覚まされた。

 しかし、“刃”は冷めたままだった。いくら有象無象が騒ぎ立てようとも、それでブレる面々ではないと思っていたがそれにしては冷淡過ぎた。

 既に“刃”が安定しきっていた為にそうであったが、藍染にとっては都合が悪い。横の関係が希薄というかほぼ断絶状態なのも相まって、“刃”同士での潰し合いもインパクトに欠けていたのだろう。

 

 ならば藍染はより強い波を起こさせるだけだ。その為の男がドルドーニ・アレッサンドロ・デル・ソカッチオ。

 そう、全ては藍染の手の上で踊らせられる人形劇。




十刃
順番は独自。

ただ、ザエルアポロの十刃落ちはもう少し後だったかもしれません。
過回想で、ノイトラがザエルアポロに「もう十刃でも無え」と言っているので、ノイトラが十刃入りした後に十刃落ちになって顔見知り程度にはなっていたかもしれない。
でなきゃ接点が皆無。
実験をしたくてイラついていたノイトラに話しを持ちかけたとかも普通にありそうですけど。

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