バラガンとミッチェルに続くように、ヴァスティダとロエロハはアーロニーロ宮に訪れた。ただし、ヴァスティダは開口一番に何か食い物がないか聞いてきたので、アーロニーロに即刻叩き出された。何処で聞いたのかは知らないが、アーロニーロが虚の肉を保存しているのを知っている様子であった。
「……」
迎撃の間にて対面している二人は沈黙を貫いていた。
(こいつは何しに来たんだ?)
不躾なまでに入念に観察する視線がアーロニーロに突き刺しているが、それ以外にロエロハに動きは無い。
観察自体が目的のようだが、アーロニーロにはなぜそうするかが判らない。
ロエロハが自分の一つ上になる第8刃である事と、司る死が嫉妬である事しかアーロニーロは知らない。
ロエロハが観察するなら、自分もとするがロエロハは一言で言えば不安定であった。
霊圧の振れ幅が大きくはないが、その質がどうにも捉えられない。ロエロハ個人の確固たる物を感じられず、複数の破面の霊圧をてきとうに混ぜたかのように感じるのだ。しかも、刻一刻とその質が変化するのだから余計に不安定にしか思えない。
「失礼した」
電子音さながらの無機質な声で短い別れの言葉を言うと、ロエロハは踵を返してそのまま帰ってしまった。
「……」
本当になんだったのだろうか?ロエロハは観察だけして帰るという行動に、ロエロハにとってどんな意味があるか判らないアーロニーロは、ただただ困惑してその背中を見つめたのであった。
――――――
ザエルアポロにヤミー以外と、一対一で顔合わせして早くも数ヶ月。アーロニーロはこれまでとあまり変わらない日々を過ごした。と、言っても、アーロニーロは新しい役職を兼任する事となった。
葬討部隊の主な仕事は二つ。虚夜宮への侵入者を排除する事と、“刃”と従属官以外の破面の処分である。
なぜ“刃”と従属官が処分対象から除かれるかというと、“刃”は同じ“刃”、もしくは藍染、ギン、東仙でなければ抵抗された際に対処できず、従属官は全ての裁量がその主に任されているからである。
その為、実力的に不可能ではなく、直属の上司に当たるのが藍染しかいない―――藍染などの死神が処刑人を務めると役不足である―――ただの『数字持ち』が処罰対象になった際の処刑人が葬討部隊となるのだ。
もう一つの仕事である侵入者の排除は、たまたまルドボーンが向いていたから与えられた仕事だ。
極一部の破面を除けば虚など歯牙にも掛けないのが破面であるが、虚夜宮はそうではない。
外壁どころかほとんどがありふれた材料によって作られており、
その為、虚圏を跋扈しているアジューカスなら外壁を虚閃なり単純な身体能力でぶち抜いて侵入ができてしまう。その侵入してきた虚の処分なら、破面なら簡単にできる。
しかし、虚夜宮になにも損害を与えずにとなると、途端に完遂できる破面は激減する。これは、一部でも喰われたら進化が止まるという虚の特性上、防御などという消極的手段を取らなかった者が多かったからであろう。
その点、ルドボーンは解放状態なら兵士を生み出す『
無限の兵力によって人手には困らず、破面では珍しい防御技を持っていたので、ルドボーンは葬討部隊隊長に任命されたのだ。任期は三日で終わったが。
『髑髏兵団』は頭数を揃えるという点においては、これ以上にない能力である。ただし、この能力においてアーロニーロはある一つの懸念があった。
『喰虚』は、自分が直射日光に当たっていると使えないとの欠点が存在する。その欠点は喰虚を介して使う様々な能力の欠点でもあり、『髑髏兵団』にも当然適用される。
その欠点によって引き起こされる結果としたアーロニーロの懸念は、『髑髏兵団』が日光を浴びたら消えてしまうのではないかとのものだ。
しかし、その懸念は杞憂であった。解放名である『
流石に、繋がった状態で日光を浴びると枝ごと消えてしまうが、敵の目の前で量産など余程切羽詰まって無ければやる必要は無い。
ともかく、『髑髏兵団』は日光に当たっても健在であるというのはアーロニーロにはありがたかった。そして、思わぬ誤算であったが、『髑髏兵団』がもう一つ能力を持っていた。
『認識同期』。アーロニーロの二つしかない自身の能力を『髑髏兵団』が使えたのだ。これによって、アーロニーロの知覚範囲が格段に広げられた。数さえ揃えれば、虚夜宮の全てを監視するのも不可能ではない。
ただし、アーロニーロにソレを活かせるかというと微妙ではあったが……
戦略的価値が高い能力であるが、戦略家でないアーロニーロでは十全には使いこなせない代物であった。戦略など無くとも、力だけで色々とどうにかなるのは別にしてもである。
新たな能力を身に付け、ある程度は使えるようになったアーロニーロの元に、藍染より“刃”召集の一報が届いた。そのタイミングに、アーロニーロは意図的なものを感じざるを得なかった。
――――――
「ミッチェル・ミラルールを第3刃より解任する」
藍染の口から出たのは、突然の第3刃への解任の知らせであった。
「どーゆー事ですか!?藍染様!!」
あまりにも不服な知らせに、言い渡されたミッチェルは抗議の声を上げた。
「
当然と言えば当然の疑問に、藍染は軽く微笑んで返す。
「これからは、君では力不足だと私が判断したからだよ」
柔和な笑みを浮かべておきながら、藍染は冷徹なまでにバッサリと切り捨てた。藍染の言葉は虚夜宮のルールに等しい。こうもバッサリ切られれば、その決定を覆すのは不可能というものだ。
「…つまり、私に力があると証明できればいいのね?」
いくら主人たる藍染の言葉でも承諾出来ないミッチェルは、藍染の言葉の揚げ足をとる。“刃”より外される理由が力不足ならば、その力がまだあると証明できればいいのかと。
「決定が不満なら、そうするといい」
問いに是と返すと、一旦区切ってから藍染はまた口を開く。
「新しい第3刃からその座を守るか、現“刃”の誰かと戦いその座を奪うか。
それとも、戦いを放棄して座を諦めるか」
示された道は三つ。しかし、ミッチェルにとっては道はただ一つしかない。
新しい第3刃は藍染が自分よりも上と認めた破面。そんなのを相手にして、勝てると思い込めるほどに楽天的ではない。戦うとしたら格下だ。
幸いにも、自分より下の“刃”は四人もいる。その中から一番弱そうなのを選べばいいだけの話。
「それじゃあ…」
色欲が選んだのは、強欲であった。
――――――
ミッチェルがアーロニーロを指名した為に、他人事だとして闇討ちの算段を立てていたアーロニーロは内心ほくそ笑んだ。闇討ちしようとしていたのは、これから『
その獲物を、誰も文句が言えない状況で喰えるのだ。正に願ったり叶ったりである。
(っま、アーロニーロなら楽勝ね)
まさかアーロニーロが腹の内で自分を闇討ちをする計画を立てていたと知らないミッチェルは、アーロニーロを軽く見ていた。
アーロニーロは第9刃という
鋼皮が特別硬くはなく、響転は自身が“刃”最速であるから速さ負けなどない。そんなアーロニーロが“刃”に居れるのは、基礎能力がどれも高い水準を持つ物理型か、珍しい上に強力な能力を持っている能力型かのどちらかしかない。
ミッチェルはその2つの後者と踏んでいた。知られてしまえば対策を取られてしまう能力型よりも、物理型の方が優位になる。故に、第9刃のアーロニーロは能力型の可能性が高いと判断したのだ。
考えこそは合っていた。しかし、ミッチェルは最弱の獲物を選んだつもりであったが、その実は最悪の獲物であった。
表層こそ平時と変わらない二人は、目の前の敵をどう潰そうかと腹の中で考えを練り上げていた。
そんな二人の片方であるアーロニーロを、ハリベル達は心配そうに見ていた。
(なぁ、アーロニーロの奴勝てると思うか?)
(正直、厳しいだろうね)
(“刃”に入れたのが謎の霊圧ですものね)
ハリベルはただ静かにアーロニーロを見つめるだけだったが、アパッチ達は小声でこそこそと話しをしていた。
もしアーロニーロが負ければ、彼女たちはただの『数字持ち』になってしまう。アーロニーロは葬討部隊隊長という肩書は残るだろうが、彼女たちには何も残らないのだ。アーロニーロ自身ではなく、アーロニーロの勝敗が心配なのだ。
(にしても、集まりすぎだろ)
アーロニーロとミッチェルを見ているのは、ハリベル達だけではない。“刃”同士の戦いとあって、話を聞いて来た破面が集まっていた。
ほとんどが物珍しさから、野次馬根性丸出しでいるのだろう。円を描くようにして集まっているハリベル達の反対側には、ミッチェルの従属官達が立っている。やつれている集団なので、言われなくともなんとなく判ったであろう。
「……もう少し下がるぞ」
「「「はい」」」
アーロニーロを見ていたハリベルの不意の言葉であったが、三人はすぐに反応して返事をする。しかし、そんな事が必要かと一抹の疑問があった。
アーロニーロの戦闘は、素手による体術が基本だ。虚閃や
それを主に扱うアーロニーロの戦闘は周りへの被害が少なく、地味といえてしまうものだ。だから近くても注意をしていれば巻き込まれる心配はない。
その考えが間違っているのが、すぐに証明された。
灰色の虚閃が、野次馬の一部を吹き飛ばした。
――――――
開幕虚閃。とりあえずアーロニーロは、ミッチェルの出方を見る為に虚閃をぶっ放したのだ。
野次馬が何人か巻き添えをくらっているが、死ぬような威力は出していない。速さが売りのミッチェルに必ず当たるようにと面制圧を意識して広がる虚閃を撃ったのだ。
「遅い」
だが、遅かった。不意を打ったであろう開幕虚閃を余裕で避け、自らの間合いにアーロニーロを入れていた。
響転は破面の
「これで終わり」
アーロニーロの腰にミッチェルは回し蹴りを叩きこむ。その一撃による衝撃は鋼皮を通過し、背骨へと伝わる。背骨は急な圧力に軋みを上げ、悲鳴を上げて砕ける。
まだ致命傷ではない。悲鳴を上げたのは背骨だけではなかったが、肉体の欠落は無い。
だが、致命的ではあった。背骨が砕けたのなら、中に通っている神経も無事では済まない。下半身不随コースはほぼ確実である。
あまりの痛みに、アーロニーロは悲鳴すら上げられずに蹴られたままに転がる。
それを見て、ミッチェルは勝ち誇った笑みを浮かべる。
「私の勝っち~」
これで自分の“刃”残留は決定だろうと、ミッチェルは藍染の方を見る。しかし、一向に藍染は勝者の名を呼ばない。
アーロニーロの首を掲げなければダメかと、ミッチェルはアーロニーロに向き直る。
「っえ…」
その隙を見逃すアーロニーロではない。『剣装霊圧』を突き立てる。
「外したか……」
『剣装霊圧』から滴る血を見ながら、アーロニーロはぼやいた。殺すつもりで突き立てのだが、即死には至らなかった。脇腹に穴を開けただけだ。
「あんた、霊圧を消せたの…」
穴を開けられた脇腹を押さえながら、ミッチェルは唸る。
「ソウダヨ。ダカラ、今ノデ殺セルト思ッタンダケドネ」
霊圧を隠してからの不意打ち。速さに能力の偏りがあるミッチェルなら、『剣装霊圧』で切り裂けば致命傷を与えられる筈であった。
しかし、偏ったその能力でミッチェルは助かった。動体視力に反応速度が高く無ければ、自身の速さに付いて行けずに十全に扱えない。その優れた動体視力と反応速度で、致命傷をなんとか避けたのだ。
「どうして、私に蹴られて無事なのよ」
「超速再生を持っていてな。再生能力なら、“刃”一だろうな」
嗤いながら、アーロニーロは能力の一つを言う。
アーロニーロの言葉にミッチェルは顔を歪める。背骨と内臓を滅茶苦茶にした蹴りを受けて、もう平然としているその再生能力は間違い無く最高クラス。
連続攻撃で再生する前に殺すのは実質不可能であろう。ならば、即死させるしか道は無い。
「それがあんたの“特別”? 嘗めてんじゃないわよ!」
胸の谷間より、ミッチェルはようやく己が斬魄刀を抜く。収まっていた場所から判るように、その大きさは小さい。ペーパーナイフのように頼りなく、武器には見えない頼りなさだ。
しかし、それでいいのだ。ミッチェルにとって斬魄刀は帰刃する為の鍵でしかない。
「そんな受け身な能力なんか、弾け飛ばしてあげるわよ!!」
斬魄刀を腕に突き刺す。
「跳ねろ…『
ミッチェルが帰刃した。
本作品はオサレポイントバトルシステムを採用!
霊圧や膂力の差はオサレさでカバーが可能!!
アーロニーロ+分
能力を小出しにする
余裕の態度
アーロニーロ-分
開幕虚閃
無様に蹴られた
不意打ち
ミッチェル+分
先に攻撃を中てた
能力を中てる
ミッチェル-分
激高
先に解放した
ちなみに、
冗談です。