アーロニーロでBLEACH   作:カナリヤ

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独自解釈などは後書きに書きます。


選刃編
移ろい


 現世と尸魂界(ソウルソサエティ)の狭間にあるという虚圏(ウェコムンド)。そこには現世や尸魂界の基準で言えば夜しかなく、常に闇と月明かりが存在する場所である。

 

 虚圏は悪霊に分類される虚の楽園であった。ただし、その楽園と言う意味は闊歩する存在が虚だけと言う意味である。

 

 どんな場所であろうとも、弱肉強食の自然の摂理は存在し、虚圏もまた例外ではない。

 

 だとしても、天敵と言って差し支えない死神や滅却師が滅多に足を踏み入れないという点では楽園だ。同じ虚であれば―――これもまた滅多に無い事ではあるが―――腹が満たされていれば出会った瞬間に殺し合いなども起きない。

 

 見渡す限りの砂漠に、石でできたような枝しかない木。それらを照らすのは月。そんな虚園に、三人の死神がいた。

 

「何度来ても、虚圏(ここ)は静かでいいね」

 

 優しげに見える顔立ちと眼鏡が印象的な男、藍染惣右介。

 

「そうですか? ボク、静かすぎて耳が()とうなりそうや」

 

 狐のお面を彷彿させる顔立ちに、飄々した雰囲気を常に纏う男、市丸ギン。

 

「……」

 

 盲目でありながら、常人となんら変わらない立ち振る舞いの男、東仙要。

 

 死覇装。そう呼ばれている死神の正装である服装で、自分達が死神というのも隠そうともせずに堂々とその三人は虚園を闊歩していた。

 

 通常であればありえない事だ。死神が虚圏に来ていることもそうだが、なによりその三人の纏っている空気はまるで家の近くを散歩しているかのように穏やかである事だ。

 

 死神にとって虚圏は敵地に相当する。そんな場所で、気楽でいられるなど通常ではありえない事だ。下手をすれば、餌に群がるアリの如く虚を相手にしなければならなくなる。

 

 尤も、三人にとってそれこそありえない事であったが。

 

 一般の隊士であれば、犬死するだけであったであろう。だが、この三人は一般という枠から簡単にはみ出る存在である。少なくとも、霊圧を閉じていないだけで並大抵の虚が尻尾を巻いて逃げ出すか、息を潜めて身を隠す程に強かった。

 

 雑魚と呼ばれるような虚は、通常であれば霊圧差など微塵も気に掛けない。気に掛ける知能さえ有していない。そんな虚が、本能的に逃げ隠れするのだから三人の実力が解ると言うモノだ。

 

 

「これでよしとしようか」

 

 目的の物を霊圧知覚した藍染惣右介はほくそ笑む。何も暇潰しに虚園まで来たのではない。散歩のように気軽に歩いていたが、しっかりとした目的があって虚圏までわざわざ足を運んだのだ。

 

「この程度の霊圧でええんですか?」

 

「ああ、あくまで実験だ。手始めとしては、大虚(メノスグランデ)を使うだけでも十分に破格だよ」

 

 藍染惣右介がやろうとしているは、虚の死神化。本来であれば、完全に区別されている二つの存在の壁を取り払って新たな存在に押し上げようという実験だ。

 

 その実験自体は既に何度も行われている。しかし、そのほとんどは出来損ない(・・・・・)としか言いようの無い虚でも死神でもない存在も力も中途半端な存在を生み出すだけだった。

 

 だが今度は違う。理論を根本より見直し、過去の実験とのデータと照らし合わせてより効率的かつ強力になるようにした。今回は、今迄とは違う結果が出るはずである。

 

「では私が…」

 

 実験体を捕らえようと、東仙が自らの斬魄刀を抜こうとする。この三人の中で、東仙の斬魄刀が最も生け捕りに適している。

 

 尤も、そういった理由が無くとも藍染を盲信している東仙は自分の役目として、同じように動いたであろう。

 その動きを、藍染は手で制する。

 

「要、その必要はないよ」

 

 笑みを更に深くして、愛染は少し手前で盛り上がり始めた地面を注視する。その場所から、砂を巻き上げながらタコのような触手が飛び出る。

 

 飛び出したそのままの勢いで、触手は藍染を弾き飛ばさんと薙ぎ払われる。

 

「その程度かい?」

 

 触手に打たれたというのに、藍染は先程となんら変わらずにそこに立っていた。変化があったのは、むしろ打った触手の方であった。

 

 骨の無い軟体であるが、明らかに藍染を打ち据えたであろう場所は変形して赤く腫れている。どちらにダメージがあったかなど、火を見るより明らかであった。

 

「えらい気色悪い大虚やね」

 

 砂を巻き上げて姿を現した虚は、まるで触手を束ねたかのようであった。虚を構成するパーツは触手だけではなく、臼歯がずらりと並んだその巨躯に吊り合う口もある。

 

 しかし、逆に言えば判り易い構成するパーツは触手と口ぐらいだ。捕まえ、喰らう。必要最低限なその二つの要素だけを持っている。

 そんな虚を見て、三人とも悠然と構えるだけであった。

 

――――――

 

 虚、アーロニーロ・アルルエリは恐怖していた。

 

 彼は、元々は転生者と呼ばれる前世の記憶を持って生まれたイレギュラー。しかし、前世の記憶があるなど誰にも気づかれずに二度目の生をそこそこ楽しんだ。霊力を一般人程度にしか持たなかった彼は、虚や死神どころか幽霊すら見ずに二度目の生を終えた。

 

 死んで初めて知ったのだ。自分が生きていた世界がBLEACHの世界であると。

 

 地縛霊となり、死神に魂葬されることも虚に喰われる事も無く、彼は虚となった。

 

 前世を憶えているといったところから自我を強く持てた彼は、それから同族になる虚を襲い喰らって行った。そうしていれば、行き着く先は一つ。大虚(メノス・グランデ)へと進化するだけだ。

 

 満たされぬ渇きによって、お互いを食らい合う為に自然と惹かれあった虚の中でも、彼の自我は他を圧倒していた。

 そうして大虚の中の最下級大虚(ギリアン)になれば、今度は同じ最下級大虚を喰らう日々であった。

 

 渇きはいつの日からか明確な飢えになり、それを消さんと満たされたいと喰い続けると同時に、より高みに行かんと欲した。いつの日か、最上級大虚(ヴァストローデ)へと至らんと。

 

 その通過点にあたる中級大虚(アジューカス)へと進化して、彼は気付いた。自身のその身が、帰刃(

レスレクシオン)したアーロニーロ・アルルエリのモノと同一であると。

 

 それから、彼はアーロニーロ・アルルエリと名乗る事にした。名乗る相手などいなかったが、それはそれでよかった。そのうち、向こうから現れるのは判り切っていたのだから……

 

「ギイャアアアアアアアアアアア!!!」

 

 その出会うべくして出会った相手、藍染惣右介にアーロニーロは恐怖していた。

 桁違いに強いと言う事は知っていた。ヴァストローデにでもならなければ、手傷を負わせるのすら不可能とすら予想していた。だが、アーロニーロには実物を見てその想像が甘っちょろいものだったと恐怖と共に理解した。

 

 感じる霊圧は次元が違うと錯覚するほどに離れ、その挙動は圧倒的な力と研磨された技術によって鋭さと柔軟さを持つ。

 

 今の自分には決して勝てないと悟り、それから恐怖で錯乱状態となった。

 

 その様子を、藍染惣右介は不敵な笑みで眺めるだけであった。

 

――――――

 

 触手の先に霊圧を固めて、それを虚閃として放つ。

 

 触手による直接攻撃が効かないとなって、アーロニーロは錯乱状態であっても最善の手を選択した。鍛練によって、アーロニーロはその赤黒い閃光を全ての触手から放つことを可能としていた。

 触手全てから放たれる虚閃は、たとえ同じアジューカスであってもまとめてくらえばひとたまりも無い。正に死の閃光。

 

 多方向より放たれるそれを避けるのは困難であり、ある程度の硬度を持つモノに当たれば爆発するように拡散する虚閃はお互いにぶつかり合って近距離では絶対に回避は不可能。

 

 そんな攻撃を藍染は見てから斬魄刀を悠々と抜き、傍目からは軽く振っただけで(わか)った。

 

 避ける場所が無ければ自ら作ればいいと、まるで王の前に道を開けるかの如く幾つもの虚閃は藍染に道を譲った。

 

「ゴアァアアアアアアアアア!!!」

 

 アーロニーロは叫ぶ。道を譲ったのが虚閃だけではない現実に向けて。

 偶々、切っ先の延長線上にあった触手の幾本かまでもが、持ち主の意志に反して離れて道を譲ったのだ。

 

 あまりの切れ味に、アーロニーロが痛みを知覚したのは数秒遅れた。血が滴り、足元の砂漠に落ちるまで斬られたのすら気付かなかった。

 だが、その程度は大した痛手ではなかった。

 

「やはり、持っているようだね」

 

 血を撒き散らす傷口は、沸騰した液体の如く泡立ったかと思えばその下から新しい触手が生えて万全へと戻った。

 

 超速再生。アジューカス以上の虚がよく保持しているその能力は、その名の通りに超速で体を再生させる能力。

 この能力の前では、下手な攻撃など無意味であり、霊力が続く限り不死身を思わさせるその再生力でもって体よりも先に心を折る能力。

 

 頭のような重要な器官以外は、たかがで済ませられる犠牲にできるこの能力は、敵に回せば厄介極まりない能力であった。

 

「だが少し、騒がしいよ」

 

 しかし、だがしかし、藍染惣右介の前では無用の長物であった。即刻再生した触手を含めて、愛染はアーロニーロの全ての触手を一瞬で斬りおとした。

 

 いくら再生できようとも、その再生能力を上回る速度で攻撃できれば打ち破れる。馬鹿正直な正攻法、それで藍染はアーロニーロの超速再生に勝った。

 

「苦しいかね」

 

 全ての触手を切り落としたが、生存な重要な器官は一切傷付けていない。その証拠に、アーロニーロは再び超速再生を開始する。

 

「痛いようだね」

 

 欠落した触手は再生したが、見るからにアーロニーロには覇気が無かった。身体は万全でも、既に意志が完全に圧し折られてしまったのだ。

 

「ならば、私についてくるといい。そうすれば、“あらゆる苦痛から解放してあげよう”

 弱さから、孤独から、痛みから、辛さから、虚ろさから。君が感じている、その“あらゆる苦痛から解放してあげよう”」

 

 強者の余裕が笑みとなって顔に張り付いている藍染の言葉には自信が満ちていた。自身の歩むべき道を必ず走破できるとの自信が。

 

 故に眩しい。魂魄と心に決して埋められない穴があき、恐怖と隣り合わせで心が休まる事を知らない虚には、その歩みは月光のように輝いていた。

 

 それを見て、アーロニーロは落ち着きを取り戻すと、静かに(こうべ)を垂れた。

 藍染惣右介は、ただ優雅に微笑を浮かべるだけであった。

 

――――――

 

「それでは、始めようか」

 

 場所を変え、準備を終えた藍染は懐から一つのモノを取り出す。

 名を崩玉。意思を持つ物質であるそれは、崩玉の周囲にいる者の心を崩玉の意思によって具現化する力を持っている。

 

 しかし、具現化できるモノには制限も存在する。

 具現化するものが人物や物に影響を及ぼす場合は、単独でそこに至れる可能性がなければらない。

 言い方を変えれば、崩玉は可能性を現実にする力を持っているのだ。正に、有限にして無限の可能性を引き出せる物質。

 

 そんなモノを持ち出してまで藍染は虚の死神化を成し得たかった。てっとり早く、強力な手駒を得る為に。

 

「覚悟はいいかね」

 

 問われたアーロニーロは沈黙で返す。覚悟などとうに決めてあり、怖くなっても逃げ出すのも不可能な実力差である。選択肢など最初から存在などしない

 

 沈黙の返事もそれでまた良しとし、藍染は崩玉との融合を開始する。

 これは、今回が初めての試みであった。

 

 崩玉はまだ未完成であった。満足(かんせい)させる為だけに幾人もの魂の死神の才を削り取って与えたが、崩玉は一向に満足はしなかった。それでも、力は発揮できたので原因を捜す毎日であった。

 そうして、未完成であってもより強力に力を発揮する瞬間を藍染は見つけた。

 それは、死神の才を与えられた直後であった。

 

 その結果と、霊力の高い人物であればあるほどに効果が高いのを知った藍染が下した結論が融合であった。

 融合と言っても、永久的なモノではない。ほんの一時的なものではあったが、多くの死神の才を食い潰した崩玉と自身を喰わせるかのように融合するのはかなり危険な賭けではあった。

 

 意志を持つ物質故に、もし融合によって内側から支配しようとされれば無事では済まないかもしれない。そういった危険もあったが、藍染は実験を重ねてついには安全に融合する術を手に入れた。

 

 一瞬、ほんの一瞬だけの現在における最大の力を発揮した崩玉は、アーロニーロの虚と死神の壁を取り払って新たな存在へと昇華させる。

 

「それでは、自己紹介といこうか」

 

 一瞬で蛸から人のような物になったアーロニーロを見て、藍染は目を細める。

 

「僕ラハ、アーロニーロ・アルルエリ」

 

 カプセル状の頭部に、その中に浮かぶ二つの球体。そこ以外は人型かと疑って視線を下げれば左大腿部に虚の孔があり、左手は虚の時の姿を思い出させる触手。

 全体的に見れば、これまでよりもずっと死神らしくはなった。しかし、人型を離れすぎているその姿(けっか)に、藍染はやや失望した視線を送るのだった。




アーロニーロがアジューカスに進化。
独自です。原作ではアーロニーロはギリアン級と自分で言っています。
しかし、その前にアジューカスだったグリムジョーの従属官を藍染がギリアン級と言っているので、もしかしたら破面化した際の実力による格付けかもしれない。

アーロニーロが超速再生持ち
独自です。意外と作中では持ってる奴が少ないけど、ウルキオラの台詞で「超速再生能力の大半を失う~」とあるので、アジューカス以上ならポピュラーな能力のよう。

それは、死神の才を与えられた直後~以降の崩玉の説明
独自解釈。
でも、「封印状態から目覚めた崩玉は隊長格の~」との藍染の台詞からこういったのがあるのではないかと想像しました。

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