孤高剣士の歩む道   作:O.K.O

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こんにちは、O.K.Oです。
いつもこの小説を読んでいただきありがとうございます。お陰様でこの小説も30話まで連載できております。今後も引き続き、よろしくお願いします。

今回は指名依頼の内容についての話です。
それでは第30話、張り切って行きましょう。


第30話 護衛依頼

「一応聞いておくが、指名依頼とは?」

 

「指名依頼はその名の通り、依頼者が直接受注ハンターの指定をした依頼のことです。通常は納品依頼などで状態の良い素材を納品すると、依頼者が再度そのハンターにお願いしたいという場合に使われることが多いのですが……」

 

「なるほどな……。なら何故、面識が全くのない俺に、それも第一王女から指名が入るんだ?」

 

刀夜が淡々と問うと、アリアノーラが顔を引きつらせながら答える。

 

「私共にも詳しいことは分かりません……が、恐らく以前のボルボロス捕獲の件でトーヤさんの事が知られたのかと……」

 

「……」

 

(単純に実力が買われたのか、それとも……)

 

「その依頼、断ることは?」

 

アリアノーラは申し訳なさそうに、というよりは額に汗を浮かべながら顔を強ばらせて口を開く。

 

「非常に申し訳ないのですが……断れば恐らく、フローラ様が黙っていないでしょう。そして、我々ギルドも……」

 

「ちっ……面倒な……」

 

舌打ちしながら刀夜がそう呟く。

 

「トーヤ、依頼内容を聞いてから色々判断してもいいんじゃないニャ?」

 

「……まあそうだな。ツッコミ嬢、依頼内容は?」

 

「だからツッコミ嬢じゃ……いや、なんでもありません……。フローラ様が依頼されたのは、トーヤさんご存知のリエル国第二王女、シーナ=リエル様の護衛依頼です」

 

アリアノーラはいつもの調子で喋りそうになったが、刀夜の機嫌を更に損なうことを恐れ、質問に答えた。

 

「護衛依頼……?それもシーナのか?」

 

刀夜にとって聞き慣れない言葉である。それもそのはず、単純にゲームの世界ではプレイヤーが受注できる護衛依頼がなかったからだ。

 

「はい、通常護衛依頼は大規模なキャラバン、すなわちハンターのアイテムなどの物資を補給してくださる商隊の移動時に依頼されるものなのですが、今回は特例ということで」

 

「王族のシーナが何の護衛もなしに移動するのはまずいってことか。だが、リエルは国なんだろ?軍か何かあるんじゃないのか?」

 

「おっしゃる通りですが、国の軍はなんと言いますか、その……モンスターとの戦闘専門では……」

 

(なるほどな、対人戦専門なわけか。恐らく、他国との戦争が起こった時のための軍なんだろうな)

 

言いよどむアリアノーラに刀夜は自分の中で推測をつける。この刀夜の推測通り、リエル国の軍隊は他国との戦争時の戦闘要員として駆り出されるための兵士だ。モンスター専門ではない。しかし、そうなると刀夜の中で疑問が1つ浮かんだ。

 

「なら、リエルはなぜギルドをこの国から撤廃しようとしている?国の軍はモンスターと戦えないんだろ?」

 

「そこなのですが、フローラ様はギルド撤廃後、ギルドに代わるリエル国直轄の新たな団体を作るつもりだとか……」

 

(つまり独裁政治を目指してるわけか……。勝手なやつだな)

 

「それはそうと、依頼の詳細を教えてくれニャ」

 

話が逸れ始めた2人に痺れを切らしたのか、ヨンが口を挟んだ。

 

「あぁ、そうだったな。ツッコミ嬢、依頼の詳細を教えてくれ」

 

「はぁ……もういいです、それでいいです……。こちらに依頼内容が記載されています」

 

アリアノーラがため息がちになりつつ、刀夜に資料を渡す。刀夜が資料を受け取ると、ヨンも刀夜の肩に乗って2人は資料を読み始めた。

 

「北のアルカナ地方まで行くのか……。このネーヴェ国ってところまで護衛すればいいのか?」

 

「そうです。フローラ様曰く、ネーヴェ国との外交を密にするためとのことでシーナ様をリエル国大使として送られるそうです……。まあそのあたり詳しく分かりませんが、それよりもトーヤさんはネーヴェ国をご存知ないのですか?」

 

「あぁ、生憎世界情勢には疎いんでな」

 

「では、いい機会です。ネーヴェ国についても少しお話しておきますね」

 

--ネーヴェ国、それはこの世界における4つの地方の内、最も北に位置するアルカナ地方西部を治める国である。このアルカナ地方は豪雪地帯として有名で、ネーヴェ国は別名『雪の国』とも呼ばれている。ハンターの狩猟環境としては厳しいもので、ニクス凍土と呼ばれる狩場があるがホットドリンクが無ければ狩猟は愚か、歩くことさえままならない場所である。しかし、ニクス凍土にはセントラル草原には生息しないような珍しいモンスターや、珍しいアイテムの宝庫でもあるため多くの中級〜上級ハンターがそこを狩場として訪れるためネーヴェ国はハンター達で賑わう国である。また余談であるが近年、アルカナ地方東部に隣接するサルザーン帝国との政治的関係が緊迫しており、両国緊張状態にある。

以上が刀夜がアリアノーラから受けたネーヴェ国の説明だ。

 

(凍土があるのか……。ギギネブラ、ベリオロスもいそうな場所だな……ククク……)

 

「あのトーヤ、一応なんだけどニャ……」

 

「ん?なんだ?」

 

凍土、と聞き様々なモンスターとの戦闘を期待し想像を膨らませる刀夜に、ヨンから声が掛かる。

 

「資料にも書いてあるけど、この護衛は帰りもセットになってるから凍土で狩猟はできないと思うのニャ……」

 

「……そうなのかツッコミ嬢?」

 

ヨンの言葉に刀夜は一気に現実に引き戻される。

 

「あ、いえその……一応ニクス凍土はランク星4から7までのハンター推奨狩場となっておりまして……」

 

「そんなことは聞いていない。凍土で狩猟出来る時間は、ないのか?」

 

躊躇いガチに、それも少しずれたことを話すアリアノーラに、刀夜は瞬時に釘を刺す。

 

「こ、今回は外交についての対話ということなので、すぐに戻るということはないと思います……。恐らく1週間ほどあちらに滞在することになるかと……」

 

「ほう……。1週間もあれば十分だ」

 

「でも……護衛依頼を受けている僕達は他の依頼を受けることができないんじゃないかニャ?それに、ランクが星1なのに受けることが出来るニャ?」

 

不敵に微笑む刀夜に、ヨンがそう告げると刀夜は真顔に戻った。

 

「いえ、複数の依頼受注は可能ですが、その分依頼失敗時は重い処分が下ることもままあります。ギルドとしては、もう1つの依頼に気を取られすぎたために、依頼をクリア出来なかったのではないか、ということですね。それとランクに関してですが、今回の護衛依頼後に、依頼中に対峙したモンスターや討伐したモンスターにより総合的に判断してランクを上げさせていただきます。つまり護衛依頼依頼中、ニクス凍土で受けていただいた依頼も護衛中に討伐したモンスターと見なし、考慮させていただきますが……さすがに冗談ですよね?」

 

「……つまり、受注可能なわけだな。ククク……」

 

「え、本当に行くのかニャ?寒いところは苦手ニャ……」

 

ヨンはそう言うと自分の腕を両前足でこする動作をする。それはルーナがこの場に入れば間違いなく暴走し出すような、非常に愛くるしい動作であるが刀夜は意にも介さない。

 

「はぁ……戦闘狂とはこのことを言うんですかね……。まあ、それはいいです。出発は2週間後を予定していますが、もう受注確定ということでよろしいですね?」

 

「あぁ、それで構わないが……パーティーメンバーは8人なのか?」

 

ニクス凍土の話を聞き、刀夜の中で護衛依頼受注は決定事項となった。そんな中、刀夜は自分の持つ護衛依頼書類の受注人数欄を見て疑問を呈する。

 

「はい。今回は護衛依頼、4人では少ないと判断したためです。パーティーメンバーは4人まで、というジンクスもありますが、このような大掛かりな依頼においてはその制限が外されます。ちなみにトーヤさん以外のメンバーは既に確定しています」

 

「なるほどな……。で、その肝心のメンバーはどういうやつらなんだ?」

 

刀夜の問にアリアノーラは意外そうな表情を浮かべる。

 

「と、トーヤさんもメンバーは気にするんですね……」

 

「当たり前だ。足を引っ張るような奴らでは困るだろ」

 

「そ、そうですね……。メンバーは良い意味でも悪い意味でも、トーヤさんの既に知る人達です」

 

「良い意味でも悪い意味でも?」

 

「そうです。良い意味というのは、エルザさんのパーティーがこの依頼に参加されます」

 

(エルザ達がいるのか……。まあ、元ランク5だけあって実力は申し分なさそうだな。プロントだけ少し気にはなるが)

 

刀夜は自分に色々と突っかかってくるプロントが気にかかったが、それ以上でもそれ以下でもなかったため思考を打ち切る。

 

「で、悪い意味のメンバーは?」

 

「えー……私も苦手なのですが、先程のゲダンさんの3人パーティーが受注されてます……」

 

「……」

 

(あいつらがいるのか……。面倒事にならなければいいが……まあエルザ達にあいつらの対処を任せればいいし、いざとなれば……)

 

刀夜は背中に装備中の黛に意識を寄せる。

 

「まあ、うまくやってください。依頼内容についてはこれくらいですかね。そちらの資料に進行路などは記載されております、比較的安全な行路を取っていますが万が一、大型モンスターと遭遇した時は撃退、もしくは討伐をお願いします」

 

「分かった。出発は2週間後だったな?」

 

「はい、それまでに護衛依頼の準備等、お願いします」

 

「じゃあトーヤ!それまでにまた連携を強化しようニャ!」

 

「あぁ、そうだな。そろそろ行くか」

 

「行ってらっしゃいませ」

 

そう言って刀夜とヨンはセントラル草原に向かうためクエストカウンターを後にした。1人カウンターに佇むアリアノーラは思考を巡らせる。

 

(お供ができたことで、彼も少しずつ変わってきたわね……。他人を気にするようになるなんて以前の彼では考えられない。まあ相変わらずの戦闘狂だけど。それよりも……)

 

アリアノーラは護衛依頼に関しての資料を見る。

 

(あの第1王女は何を狙っているの?エルザさんのパーティーもいることだし大丈夫だとは思うけど……何か嫌な予感がする)

 

「アリアー!終わったなら手伝って!カムバーック!」

 

「あ、はいはい今行く!」

 

アリアノーラの不安は拭いきれぬままであった。その不安が現実となるのか、はたまた余計な心配で終わるのかは今は誰にもわからない。




次回から護衛依頼に入ります。
それではまた次話で会いましょう。

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