孤高剣士の歩む道   作:O.K.O

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こんにちは、O.K.Oです。
この小説を読んでいただき本当にありがとうございます。

第25話、張り切っていきましょう。


第25話 土砂竜の狩猟依頼

「シーナの使者だと?」

 

「はい。シーナ様の付き人である、ヴァイス=シュバイツ様がお待ちになられています」

 

「……ヴァイスが来ているのか…」

 

「ご存知なので?」

 

「まあ、少しな」

 

シーナの使者、と聞いて刀夜はここから立ち去るに立ち去れなくなった。なんせ、刀夜がギルド本登録をすぐに出来たのは、他でもないシーナのお陰である。そんなシーナの使者、それも顔見知りのヴァイスが来ていると聞き、無下にもできないと感じていたのだ。

ただ、そのヴァイスが来ている、という点で刀夜は悪い予感がしていた。

 

(俺と世間話をしたいからヴァイスをギルドまで寄越した、ってことはないだろうな…。十中八九、面倒事だろう)

 

このギルドはリエル王都内の領地ではなく、あくまで独立した場所である。そんな場所に、リエル王都の王女に仕える使者がここまでやってきたのだ。おまけに、刀夜ご指名の用事である。面倒事があると疑うのは必然であった。

 

(だが、シーナには前に世話になっている。さすがに恩を仇で返す程、俺も落ちぶれてはいない…)

 

「全く気は乗らないが…分かった。その部屋まで案内してくれ」

 

刀夜の言葉にアリアノーラは驚く。

 

「何かいいことでもあったんですか…?トーヤさんなら、帰ると即答しそうな内容なのに…」

 

「…ただ、借りた恩を借りっぱなしにできないと思っただけだ」

 

「なるほど…。分かりました、こちらです」

 

アリアノーラの先導で、刀夜はギルドマスターの部屋へと向かった。

 

 

 

 

 

「おぉ。トーヤ、来てくれたか!」

 

「トーヤ殿、お久しぶりです」

 

刀夜とアリアノーラが部屋に入ると、グライスは意外そうに、ヴァイスは柔らかな物腰で口を開いた。

 

「あぁ、10日ぶりか…?」

 

「その節はありがとうございました」

 

「礼を言うのはこちらの方だ。紹介状の件は助かった」

 

部屋の奥には一人机、そしてその前には面会用のためと思われる机があり、刀夜から見て左側の椅子にグライスとヴァイスが座っている。

 

「もう少し、説得するのに時間がかかると思っていたが…案外すんなり了承してくれたんだな」

 

「グライス、勘違いしてくれるなよ。俺が了承したのは、シーナとヴァイスには前に世話になったからだ」

 

「ガハハ!やはりお前は相変わらずだな!」

 

刀夜の言葉にグライスは豪快に笑う。

 

「トーヤ様、こちらの席に」

 

アリアノーラはグライスとヴァイスが座っている対面の席に着くよう促す。アリアノーラは扉の近くで立ったままでいるようだ。そうして刀夜が席に座ると、まずはヴァイスが口を開いた。

 

「トーヤ殿、この度は突然の面会、お受け頂きありがとうございます」

 

「まあ、世話になったからな。その点は気にするな。それよりも…今回ヴァイスがここに来た理由だ。わざわざ世間話をするためにシーナがお前を寄越したのではないだろう?」

 

刀夜がそう切り出すと、ヴァイスは少しばかり顔をしかめる。そんなヴァイスの様子を見て、グライスが口を開く。

 

「その件なんだが…。トーヤ、さっき下のクエスト掲示板の前に、人だかりが出来ていなかったか?」

 

「あぁ、そう言えば人がたむろしていたな…。何か珍しいクエストでも貼ってあったのか?」

 

「それ何だが…実は、厄介な依頼が申し込まれてしまってな」

 

「…厄介な依頼?」

 

そこでヴァイスが改めて口を開く。

 

「ここから先は私がお話致します。実は、それはシーナ様の姉君にあたるリエル王都第一王女、フローラ様がこのギルドに依頼したものです」

 

刀夜は「ほぅ…」と小さく呟く。

 

「第一王女直々の依頼なのか…。どういう依頼なんだ?」

 

「''土砂竜''ボルボロスの捕獲です」

 

「ボルボロスか…」

 

ボルボロス--乾燥した砂漠地帯に生息する、冠のように発達した頭殻が特徴的なモンスターである。種は獣竜種に属し、その体は小柄だが、見た目に反したパワーと素早さを持ち合わせている。ゲームでは割と序盤に依頼受注が可能になるが、ボルボロスの強さは序盤の大型モンスターの中では郡を抜いている。実際、刀夜も最初の頃は苦戦したモンスターであった。だが…。

 

「なぜ、ボルボロスが厄介な依頼なんだ?王女様の依頼といっても、高ランクのハンターを駆り出して捕獲すれば済む話だろう」

 

刀夜の指摘は最もである。しかし、グライスとヴァイスは首を横に振る。

 

「本来ならそうしたいところなんだが…」

 

そう言ってグライスがアリアノーラを見ると、アリアノーラは1枚の紙をグライスに渡す。

 

「それは?」

 

「ボルボロス捕獲の依頼書のコピーだ。これの一番下の欄を見てほしい」

 

紙を渡された刀夜は、グライスの言うとおりに目線を下げていく。するとそこには驚くべき記述があった。

 

「この条件…」

 

依頼書の備考欄には、<特殊条件:ランク3以下(・・・・・・)のハンターがこのクエストを受注すること>との記載があった。

 

「本来、ボルボロスの捕獲はランク4でようやく受注できるクエストなんだ。それをこんな形で依頼してくるとは、思ってもいなかった」

 

「どういう事だ?まるで、クエストをクリアさせたくない、そう言っているような内容だな」

 

そこでヴァイスが首を縦に振る。

 

「…トーヤ殿、その通りでございます」

 

「……どういう事だ?」

 

まさかのヴァイスの肯定に刀夜は少しばかり驚く。

 

「このヴェノム地方西部は現状、ほぼリエル家が治めている領地であるのはトーヤ殿はご存知ですか?」

 

「待て…ヴェノム地方西部全域がリエルの家の領地なのか?俺が読んだ本には、リエルの治める地はこの王都のみ、そう書いていたぞ」

 

刀夜が本で得た知識によると、リエル家というのはあくまで1つの貴族であり、王都内のみがリエル家の領地であったはずだ。刀夜が疑問をぶつけるとグライスが口を開く。

 

「トーヤが読んだのは、恐らく少し古い文献だったみたいだな。ここ数年でリエル家は数々の貴族を配下に置き、その勢力を伸ばしている。その力はヴェノム地方西部全域に届くほどだ。そのため、ヴェノム地方西部はリエル国とも呼ばれている」

 

「なるほどな…」

 

「そうは言ったものの…トーヤ殿と会った時のように、王都外にシーナ様がお出になることは滅多にないのですがね…」

 

ヴァイスは、刀夜がカーディナル孤島から渡ってきた直後の、馬車の中でのやり取りについて口にする。

 

「あぁ…。まあその件は話しにくいのなら話さなくていいと言っただろ」

 

刀夜は馬車内でシーナに、何故王女が王都外にいるのかを尋ねたところ、彼女が答えにくそうにしていたことを思い出す。

しかし、そこでヴァイスは首を横に振る。

 

「いいえ、そちらの方も今回の件に関わっているのでお話せねばなりません」

 

「どういう事だ…?」

 

まさかの所で話が通じていたことに刀夜は驚く。

 

「実はあの時、シーナ様と私はノイス地方北部のギルド総本部を訪れた帰り道でした」

 

「……」

 

刀夜は黙ってヴァイスの話を聞いている。

 

「私共が総本部を訪れたのは、他でもないフローラ様のご命令によるものです。その内容は端的に述べますと、『ヴェノム地方西部のギルド施設を解体しろ』というものでした…」

 

「ほぅ…。それはまた随分と大胆な要求だな」

 

「本来、ギルドの存在理由は2つだ。1つはアイテム採取やモンスターの狩猟依頼。そしてもう1つはリエル国のような、強大な国や組織を監視することだ」

 

(なるほどな…。前世で言うところの三権分立みたいなところか…。権力を持つ組織を暴走させたいためのギルド、そんな役割もあったとはな…)

 

ただただ依頼を斡旋する組織ではなく、そういう役割を担っていたギルドという組織に刀夜は感心する。

 

「それでリエル国も権力を暴走しかねないか監視していた訳だが…。その監視役である俺たちギルドの撤廃を求めてきたんだ。そんな内容をいきなり突きつけられて、総本部が受け入れる訳がない」

 

「はい、その通りでございます。シーナ様も勿論反対しておられました」

 

そこで刀夜に疑問が浮かぶ。

 

「ん?なら何故ヴァイスとシーナが、その反対するギルド撤廃の案件を総本部に伝えに行ったんだ?シーナは反対していたんだろう?断ればよかったんじゃないのか?」

 

そこでヴァイスの表情が深刻なものに変わる。どうやら訳ありだったようだ。

 

「それは不可能でございました。リエル家の人間でギルド擁護派だったのはシーナ様だけであったのです。フローラ様、現国王含め他の皆様はギルド排斥を推進されておられました。今回の件、フローラ様には『断れば第二王女の権限を剥奪する』とまで言われていたのでございます」

 

「それで排斥派に周りを固められて断るに断れなくなったと?」

 

「はい、その通りでございます。加えて、フローラ様はシーナ様をノイス地方へ向かわせている間にギルド団体排斥計画を進められていたようです。唯一の擁護派のシーナ様がいなくなった事で、排斥派は随分と自由に動いたようで…」

 

「……なるほど、そういうことか。つまり、シーナをわざとノイス地方へ仕向けていることで、準備を整えたってことか」

 

「はい…。そして恐らく、今回の依頼はギルド排斥計画の一つでしょう。フローラ様は強力なモンスターをいち早く見つけては、ギルドにその狩猟を申し込み、期限内に達成出来なければギルドの不手際として大々的に非難されるおつもりです。グライス様、改めて誠に申し訳ありません」

 

そう言ってヴァイスはグライスに頭を下げる。

 

「あなたが謝る必要はない。嬢ちゃんもヴァイスも、ギルドを庇ってくれたんだろう?その気持ちだけで十分だ。前々からリエルの人間がギルドを煙たがっていたのは知っていた。対処が遅れた俺たちギルドの不手際だ」

 

「本当に申し訳ありません…。本来、フローラ様含めリエルの人間は、欲深い性格ではありませんでした。しかし、ある時を境にフローラ様は変わられました。ギルド排斥の旨を国王やほかの人間に伝え、その魅力を語られたのです。それからというもの、内部の雰囲気は変わっていきました…。何がフローラ様をあそこまで変えたのか…」

 

刀夜はそこであることを考えていた。

 

(こんな展開の小説を見たことがあるな…。こういう場合は必ず、第三者の介入がお決まりだ…。だが、別に確証もあるわけでもないし、何しろ自ら面倒事に突っ込む必要は無い。それよりも…)

 

「で、ボルボロスの件だが」

 

刀夜の声にヴァイスとグライスはハッとする。

 

「あぁ、すまん。随分と遠回りしていたな」

 

「申し訳ありませんトーヤ殿…。聞き苦しい話、お聞き頂きありがとうございました」

 

グライスとヴァイスはそう謝罪を入れる。そしてグライスは深刻な表情を解き、笑顔で刀夜に口を開く。

 

「という訳でトーヤ、お前にはこのボルボロスの依頼を受注してほしいんだ」

 

「今の重たい話をした後で受ける訳がないでしょ!」

 

思わず、といった感じでツッコミを入れたアリアノーラがハッとする。グライスはやれやれという感じでアリアノーラを見る。

 

「アリアノーラ、それは分からんだろう。それと、口調に気をつけろ?」

 

「失礼致しました…。ですがグライスさ」

 

「受ける」

 

「ほら、言わんこっちゃない…。だからそういう説明は入らない…って、えぇ?!」

 

まさかの刀夜の即答に、アリアノーラはプライベート口調全開である。

 

「あなた、この依頼受けるの?!」

 

「そう言っただろう、うるさいぞツッコミ嬢」

 

「何その名前?!私にはアリアノーラっていう名前があるの!変なあだ名つけないでくれる?!」

 

いつもの冷静沈着な仕事仕様の雰囲気は何処にもなく、アリアノーラの素顔がボロボロと表れる。

 

「アリアノーラ、今は仕事中だ。その変にしておけ」

 

テンションがおかしな方向に向き始めたアリアノーラを諭すように、グライスの言葉には少しの凄みが含まれていた。

 

「も、申し訳ありません…」

 

「まあ、俺もさすがに即答は驚いたがな…。トーヤ、本当にこの依頼を受けてくれるのか?」

 

グライスも刀夜の答えに半信半疑である。そんな彼に刀夜が口を開く。

 

「受ける、そう言っただろう。何度も言わせるな」

 

「その答えはありがたい限りなんだが…理由を聞かせてもらえるか?」

 

「トーヤ殿、失礼を承知ながら私もその理由、聞かせていただけますでしょうか?」

 

「わ、私も気になるところです…」

 

何故刀夜が依頼を承諾したのか、三人が三人ともその理由が気になった。

 

「別に俺にとって、リエル王国がどうだとか、ギルドがどうだとかはどうでもいい。リエル王国が無くなろうが、ギルドが無くなろうが俺の今後にはさほど影響ないしな」

 

「なら、嬢ちゃんとヴァイスへの恩返しか?」

 

「違う。確かに2人には世話になったが、そこまでする義理はない」

 

刀夜の発言にヴァイスはなんとも言えない表情をする。

 

「では、どういう理由なんだ?」

 

グライスは刀夜に答えを求める。

 

「……俺はハンターだ。ハンターが大型モンスターの狩猟を求めて何が悪い?」

 

刀夜の答えに3人はポカンとするが、刀夜は気にせず続ける。

 

「狩ったことのない強敵を求めるのは当たり前だろう。ボルボロス戦は俺にとって楽しみ以外の何者でもない」

 

そう話す刀夜から、3人は刀夜の抑えきれていない闘争心剥き出しの感を感じ取っていた。それは敵意にも、殺意にも取れるものであり、グライスでさえも冷や汗をかいている。

 

「ボルボロスの捕獲、喜んで受注する」

 

そうして刀夜の次の依頼が決まったのであった。

 

 

 




如何でしたでしょうか?
やはり対話の回は時間がかかります。

ではまた次話で会いましょう。

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