孤高剣士の歩む道   作:O.K.O

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こんにちは、O.K.Oです。
この小説を読んで頂き本当にありがとうございます。

それでは第23話、張り切って行きましょう。


第23話 会談

「ま、待て…。今、仮登録と言ったか?」

 

 

「あぁ、そうだが…。お前らは仮登録だった俺が、ドスジャギィを倒したことを、うまく誤魔化してくれたんだろう?俺はモガの村にいた頃、仮登録のハンターだった。エルザがエリスの姉なら、その情報がすでに回っていると思っていたんだが…違うのか?」

 

3人は、途端に無言になる。エルザ達は、自分たちの認識のずれを今この場で確認したのだ。

実は彼女ら、モガの村にはハンターが3人存在すると思っていた。新人ハンター、仮登録のハンター、そして、ドスジャギィを討伐したハンター…。その3人が3人とも、別人だと考えていた。彼女らは新人ハンターがドスジャギィに、あのような傷跡を残せるはずがないと思っていたのだ。ましてや、仮登録のハンターがその張本人だとは夢にも思っていなかった。

そのため、2人の人物とは別の、どこか得体の知れないハンターが討伐したと思い込んでいた。今回の対面は、その得体の知れないハンターが、どのような人物か確認することが、真の目的でもあったのだ。

そして、今回のドスジャギィの件、「キリサメ トーヤ」の名前を見て彼女らがピンと来なかったのにも訳がある。

エリスの報告では、仮登録のハンターの名前が書いていなかったのだ。恐らく、仮登録のハンターがドスジャギィを討伐出来るわけがないという彼女の判断で、切り捨てられた情報だったのであろう。

このような事が重なり合い、事実が発覚したのが、今この場になったというわけである。

 

「仮登録のハンターが、ドスジャギィ討伐…。信じられないです…」

 

ルーナが小さくそう呟く。他の2人もその発言に同意するように、小さく頷いている。だが、考えれば考えるほど、<仮登録のハンターがドスジャギィを討伐できるはずがない>という常識を外せば、辻褄が合ってしまうのだ。3人は信じざるを得なかった。

そんな様子の3人とは別に、刀夜は1人頭を悩ませていた。

 

(余計なことを言わなければよかったな…。まあ、エリスとエルザが繋がっていたんだ。遅かれ早かれ、バレていただろうがな…)

 

そんなことを考える刀夜に向け、エルザは口を開く。

 

「ま、まあ、いずれにしても、この件も内密にしておこう…。ギルドナイトに知られると、それこそ厄介だろうしな…」

 

刀夜はそこで、一つの疑問をぶつける。

 

「それはありがたいが…何故、そこまで俺を庇う?隠蔽工作が罪に問われないわけではないだろう?俺を庇う行為、それは、お前らに何の得がある」

 

刀夜がそう言うと、エルザは笑みを浮かべ、口を開く。

 

「そうだな…。我々は調査隊ではあるが、それ以前に、トーヤと同じ、1人のハンターだ。ハンターの中には野蛮な奴らもいるが、基本はハンターの味方でいたいと思っている。トーヤは無愛想だが、根は悪くなさそうだしな。まあ、それだけじゃないんだがな…」

 

最後の部分は小さく発せられたので、刀夜がそれを聞き取ることはなかった。

刀夜にとっては理解に苦しむ解答であったが、そういうことなら、と納得する。

そして、話が一区切りしたところで、刀夜は明日の準備をしなければないことを思い出す。

 

「さて、俺は明日早い。そろそろ帰らせてもらう」

 

「そうか…。そう言えば、結構な時間が経ったな…」

 

エルザが名残惜しそうにしているが、刀夜は気にしない。

 

「最後に一つ、いいか?」

 

立ち去る前に、刀夜は一つ聞いておきたいことがあった。

 

「あぁ、俺らが答えられる問題なら答えよう」

 

「"上位"、"下位"、この言葉に聞き覚えはないか?」

 

「じょういとかい?ですか、聞いたことありませんね…」

 

「私もそのような言葉は耳にしたことがない」

 

「俺もないな。すまん」

 

「いや、大丈夫だ。その答えだけで、充分だ。じゃあな、俺は帰る」

 

(ランク5と聞いたから、上位種のモンスターの素材がどんなものか、実際に見られると思っていたが…。どうも、この世界に上位と下位の概念は無さそうだな。というより、そもそも上位種が存在していない可能性が高い。少し、残念ではあるがな…。まあ、それだけ知れただけでも充分だ。それに、カーディナル孤島のドスジャギィという、後ろめたい問題もどうにかなったしな。充分な収穫だったと言えるだろう)

 

そんなことを考えつつ、刀夜は宿舎へと戻っていく。

実は、刀夜のこの推測は珍しく外れているのだが、それを知ることになるのは、まだ先の話である。

刀夜が出ていき、部屋にいるのはエルザ、ローウェン、ルーナの三人だけとなった。エルザがローウェンに話しかける。

 

「ローウェン、どう思う?」

 

エルザがそう問うと、ローウェンは思案顔で答える。

 

「難しいかもな…。彼は、恐らく1人での行動を望んでいる…」

 

ローウェンの言葉に、ルーナが反応する。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!このパーティーに彼を入れるつもりですか?!もう上限の4人ですよ!」

 

ルーナの慌て様に、エルザが苦笑しながら口を開く。

 

「ルーナ、何を勘違いしているんだ…。そんなことは百も承知だ、我々のパーティーに入れるとは一言も言ってないだろう」

 

エルザがそう言うと、ルーナは「す、すいません…」と顔を真っ赤にさせて口を閉じる。エルザはやれやれという感じで言葉を続ける。

 

「問題はそこじゃない。ランク2から3に上がるための赤依頼だ。あれは確か、パーティーでの受注が必要だったろう?」

 

「あっ!そう言えばそうでした!」

 

ルーナがエルザの言葉に、思い出したように反応する。

 

「そうだ、だから彼にとっては予想外の関門になるだろう。だが、話を聞く限りだが、実力は申し分ないだろう。それこそ、ランク5の壁を超えるかもしれないくらいにはな…」

 

「彼は、それほどの実力者なんでしょうか…。ランク6以降は本当に高い壁です…。確か、現在のランク7のハンターは3人、ランク6のハンターは7人、だったでしょうか?」

 

ルーナの問にエルザが答える。

 

「そうだな、ランク6と7、つまり紫と黒プレート所持者は化け物だろう。私もここのギルドマスターしか実際に見たことはないが、本当に凄かった…。対して、私たちのような、ランク5の青プレート所持者は100人ほどいるだろう。青と紫の差は歴然、それにランク5の中でも優劣がある…」

 

エルザの言葉にローウェンが続く。

 

「あぁ、俺とルーナ、プロントもランク5とは言え、下の層に属するだろうな…。エルザでさえ、上の層にはいない…」

 

「そう、ですね…」

 

ルーナがどこか落ち込んだように小さく呟く。そんな空気を切るように、エルザが口を開く。

 

「まあ、私たちも更に上を目指すとして、トーヤはそれほどの技術があるかもしれない、という事だ。だが、話を聞く限り、という条件がつく。いずれパーティーを組んで、実際に見てみたいものだ…」

 

「そうだな。そんな機会が訪れると信じよう…」

 

そんな話をしていると、部屋にアリアノーラが入ってきた。

 

「トーヤさんが出ていかれたので参りましたが、お話中でしたか?」

 

「いや、大丈夫だ」

 

「そうですか。プロントさんは、しばし前に不機嫌な様子で出ていかれましたが、よろしいのでしょうか?」

 

ローウェンがアリアノーラに答える。

 

「あいつなら大丈夫だ。恐らく部屋に戻ったんだろう。俺らもそろそろ戻るとするか」

 

ローウェンがそう言うと、3人は部屋から出ようとする。しかし、エルザがアリアノーラに呼び止められる。

 

「エルザさん、申し訳ありませんが、グライスさんが五階の部屋でお待ちです」

 

エルザはため息をつく。

 

「はぁ…分かった。2人とも、先に戻ってくれ」

 

「分かりました。一体どうしたんでしょう…」

 

「大方、この話し合いのことを聞かれるんだろう。ギルドマスターもトーヤに興味を持っていたみたいだしな…」

 

「た、大変ですね…。分かりました、お先に失礼します」

 

「エルザ、お疲れ様」

 

そう言って2人は部屋から出ていく。

 

「では、エルザさん、五階へと向かってください」

 

「あぁ、本当はもう帰りたいんだがな…」

 

そう言ってエルザは1人、ギルドマスターの部屋へと向かうのであった。

 

 

 

 

 

 

ギルドマスターの部屋で、エルザはグライスと会っていた。

 

「エルザ、ご苦労だったな」

 

「お疲れ様です、ギルドマスター」

 

「グライスと呼んでくれていいと言っただろう…」

 

「そういう訳にはいきません。あなたは尊敬すべき人ですから」

 

「相変わらず、固いな…」

 

そう言ってグライスは人差し指で頬をかく。

 

「それはそうと、お前を呼び出した理由は分かるな?キリサメトーヤのことだ」

 

グライスがそう問いかけると、エルザは小さく頷く。

そうして、実際に刀夜と対面して思ったことをグライスに伝えていく。その中で、約束通り刀夜に不利になる情報は伝えなかった。

エルザが話し合えると、グライスは口を開く。

 

「なるほどな…。やはりドスジャギィを1日足らずで討伐したか」

 

「はい、死体から見て、その傷跡も凄まじいものでした」

 

「……エルザ、本当にそれだけか?」

 

「っ!」

 

グライスは、少しばかりエルザを威圧するように問いかける。

エルザはその威圧を感じ、冷や汗を浮かべるがそれ以上の情報は伝えない。

 

「………はい、以上です…」

 

エルザがそう答えると、グライスは威圧を解く。

 

「そうか…。まあ、彼にとって不利になる情報なら言わなくてもいい。エルザ、隠し事はもう少し上手くしろよ」

 

「………」

 

どうやら、グライスにはお見通しであったようだ。

 

「まあ、それはもういい。エルザ、彼の今後を見ておいてくれ。彼は恐らく、今後間違いなく大きなことを成すだろう。彼なら、これからの(・・・・・)ランク制度でも、上へと登り詰めるかもしれん…。それが我々にとって、良いのか悪いのか、どっちに転ぶかはわからないがな…」

 

グライスの発言に、エルザは疑問を呈する。聞き覚えのない言葉があったからだ。

 

「これからの、ランク制度ですか…?何か変更されるのでしょうか?」

 

エルザの疑問にグライスは答える。

 

「ん?まだ言ってなかったか?実は先日、ギルド総本部から連絡があってな。前々から話には上がっていたんだが、ランク制度を近々変更することにしたそうだ」

 

「そんな重要なこと…初耳です…」

 

「…では今言った」

 

「詳しい説明をお願いします」

 

悪びれる様子のないグライスに、どこか恨めしそうにエルザが説明を求める。

 

「悪かったって…。それで、その話だが…。ここ数年、同じモンスターでも強さが全く別物の[凶暴種]が現れ始めただろう?」

 

エルザはコクリと頷き、口を開く。

 

「[凶暴種]は体力、攻撃力、防御力、そのどれを取って見ても通常の個体とは全くの別物です。例えドスジャギィといえど、[凶暴種]であればその強さは通常のリオレウスにも遅れを取りません…」

 

「そうだな、特に[凶暴種]のリオレウスはエルザにとっても因縁深い相手だろう」

 

「………」

 

エルザは固く拳を握っている。

 

「でだ。これまで、その[凶暴種]をある程度倒せるかどうかがランク6に上がる条件だったわけだが…今回改正するランク制度では、そこが重視されている。[凶暴種]のクエストを受けることが出来るものと、そうでないものに完全に分割しようというわけだ。そこで、前者を"上位"ハンター、後者を"下位"ハンターと称することになった」

 

「っ!!」

 

グライスの言葉にエルザは衝撃を受ける。

 

「ん?どうしたエルザ」

 

「……じ、実は先程、トーヤと話している時に、彼に尋ねられたんです…。『"上位"と"下位"、この言葉に聞き覚えはあるか?』と…」

 

「っ!!な、なんだと…」

 

エルザの言葉で、グライスも衝撃を受ける。

 

「トーヤが意味していたのは、何か別のものだったかもしれませんが…」

 

グライスは思案顔で思考を巡らす、

 

「あぁ…その可能性も、ないとは言い切れんな…。…これは今ここで議論しても答えは出ないだろう。エルザ、トーヤの動向を見ておいてくれ。ランク制度に関してはまた正式な発表があるだろう」

 

「…分かりました。では、私はこれで」

 

そう言ってエルザが部屋を出ていく。

 

「彼に関しての情報を集めるつもりが、更にその謎が深まってしまうとはな…。新たなランク制度のこともある、どう転がるか、全く読めないな…」

 

こうしてエルザとグライスの会談は終わりを迎えるのであった。




如何でしたでしょうか?

この世界での[凶暴種]とはいわゆる上位種のことです。

それではまた次話出会いましょう。

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