孤高剣士の歩む道   作:O.K.O

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こんにちは、O.K.Oです。
この小説を読んでいただき本当にありがとうございます。

今話は同乗者の話です。

では、張り切っていきましょ。


第16話 同乗者の正体

刀夜が戻り、馬車が動き始めた。

女性と老紳士は刀夜の発言に一瞬固まると、吹き出して笑い始める。刀夜は至って真剣である。なんと言っても人殺しの罪に問われるとギルドどころではなくなるからだ。

 

「おい、俺は真面目に聞いている。これは罪に問われるのか?」

 

「いやいや、申し訳ない。まさか盗賊に襲われ正当防衛でそれを斬り殺したことで罪に問われる心配をする方がいらっしゃるとは…」

 

「ふふふ、面白い方ですね。その心配は入りません、むしろ有名な盗賊は賞金首となるくらいですから…。ただ、人の死を見るのはやはり気分がいいものではありませんね…」

 

刀夜はそれを聞き、安心すると同時に疑問に思ったことがあった。

 

「何故お前らはあの光景を見て取り乱さないでいられる。結構残酷な光景だったと思うんだが…。軍のものかなにかか?」

 

刀夜の疑問は最もである。盗賊とは言え目の前で人殺しが行われていたのだ。それを見て通常運転でいられる2人はどうも場慣れしているように思えた。そんな刀夜の疑問に老紳士は驚愕の表情を浮かべる。

 

「今まで素知らぬふりをしてくれていたと思っていましたが…本当にお嬢様のことをご存知ないのですか…?」

 

「知らんもんは知らん。お嬢様ってことはどこかの貴族か?」

 

刀夜がそう答えると女性は老紳士と少し相談し、口を開く。

 

「まずは助けていただきありがとうございました。そして、私の名前ですが…シーナ=リエルと言います」

 

「私はお嬢様の付き人をしておりますヴァイス=シュバイツと申します。この度は盗賊を倒してくださりありがとうございました」

 

その姓、リエルと聞き刀夜は驚嘆するが「なるほどな」と思った。

 

「それは流石に驚いたな…。だが、なるほどな…。てことはお前がリエル王都の王女といったところか。つまり立場上ああいう光景には慣れっこというわけだな。でも良かったのか?聞いておいてなんだが、王女がその正体をばらすのはまずいと思うんだが」

 

そう刀夜が尋ねるとヴァイスが口を開く。

 

「本来はそうなのですが、この度は盗賊から守ってもらった恩義もありますし、何より貴方のお人柄からして大丈夫と判断いたしました。ちなみに、正確にはお嬢様は第二王女で第一王女はお嬢様の姉君でございます」

 

刀夜にとって第一であろうが第二であろうが王女は王女である。刀夜はヴァイスに疑問を呈する。

 

「ヴァイス…もし俺がシーナを王女と知って変な行動を起こしたらどうするつもりだった?」

 

ヴァイスの隣でシーナは「な、名前呼び…」と顔を赤らめているが気にせず続ける。

 

「もしそうであれば…これで刺していたかもしれませぬな」

 

そう言ってヴァイスが杖の持ち手を引っ張ると白銀の刀身が顕になる。

 

「仕込み杖か…。まあ王女の付き人がひ弱なわけないか」

 

そう言って呟くと刀夜はあることに気づく。

 

「ちょっと待て。ならヴァイス、お前盗賊を追っ払うくらい出来ただろう」

 

「可能、ではありましたが、あくまでそれは最終手段でした…。貴方が敵の場合、こちらの手の内を見せることは死に値しますので。とは言え、貴方が真っ先に馬車から降りて盗賊の下へ向かったのと、貴方の強さは想定外でした…」

 

そう言い終えるとヴァイスは心の中で「それに…」と続ける。

 

(それに…もし貴方がその気を起こしていれば私など相手にもならなかったでしょう…)

 

対して刀夜はヴァイスに感心していた。

 

(なるほどな、つまり最初の会話も俺のことを探ってたわけか。ヴァイス…物腰柔らかそうに見えて食えない男だな)

 

そんなことを考えているとシーナが話しかけてきた。

 

「あ、あの、ハンター様のお名前はなんというのですか…?」

 

2人に名乗られ、自分も名乗らない訳にはいかない。

 

「俺の名は霧雨刀夜、霧雨が姓で刀夜が名だ。ただのしがない仮登録ハンターだ」

 

「と、トーヤ様は東洋地方の方なのですか?」

 

初対面の人に名乗る時、必ずと言っていいほど尋ねられる質問だ。シーナは刀夜に名前呼びすることを恥ずかしながら尋ねる。

 

「まあ、そんなところだ…」

 

「やはりそうなんですね!私もいつか東洋地方に行ってみたいです…」

 

刀夜も東洋地方がどのような場所か知らないが、旅の途中でいつか行ってみようと思う。

 

「それにしても…トーヤ様は私がリエル王都の王女だと知っても畏まったり、機嫌を伺ったりはしないんですね」

 

「私もその事について同様のことを考えていました。リエル王都において民はお嬢様を見ると姉君の影響なのか、皆平伏してしまうので…」

 

そんな2人の言葉を聞いて刀夜は疑問に思う。

 

「そのシーナの姉がどうとかは知らないが、何故そんなことをする必要がある?別に俺はリエル王都の民ではないしな」

 

刀夜の返答に、シーナとヴァイスはきょとんとするがすぐに可笑しそうに笑う。

 

「ふふふ…そうですね!でも、トーヤ様は不思議な人です…」

 

「本当に興味が尽きぬ方ですな」

 

刀夜は何が可笑しかったのか分からなかったが、それよりもう一つ疑問があったのでそちらを聞くことにする。

 

「それはそうと、もう一つ疑問がある。なぜリエル王都の王女が王都の外、それもヴェノム地方の西の端にいたんだ?」

 

その問いにシーナは一瞬迷った表情をする。そんなシーナを見て刀夜は内心聞いたことを後悔する。面倒事に違いないからだ。刀夜はシーナに向けて再び口を開く。

 

「あー、言いたくないことなら言わなくていい。別に俺がどうこうできる話でもないしな。それに、面倒事に巻き込まれたくもない」

 

シーナは刀夜が気を使ってそう言ったと思ったのか、「ありがとうございます…」と呟く。

そうして話をしている内にリエル王都が見えてくる。

 

「トーヤ殿、リエル王都が見えてまいりました」

 

刀夜が窓の外に目を向けると、中世の時代のような建物が視界の先に広がっていた。

 

「都市がむき出しだが大丈夫なのか?」

 

刀夜の疑問にシーナが答える。

 

「リエル王都のある場所はモンスターの生息区画ではないので大丈夫なんです!モンスターにとってもリエル王都を襲ったところで食べるものもありませんし、今までモンスターに襲われたという記録もないんですよ」

 

刀夜は「そんなものか…」と納得する。

そして、シーナとヴァイスから刀夜はギルドの詳しい場所を聞いている内に関所のような場所を通りリエル王都に到着した。

3人は馬車から降りると、高級そうな馬車が目の前に止まる。

 

「迎えが来たようです、トーヤ様、本当にありがとうございました!盗賊の件もそうですが、色々なお話も楽しかったです!これはほんのお礼です」

 

そうしてシーナは刀夜に封筒のようなものを渡す。

 

「この中にはギルド宛に私が書いた刀夜様の紹介状が入っています。これがあればギルドで本登録をする際に面倒な手続きを一切やらなくてすむんですよ」

 

笑顔でそう言うシーナに対し、「いつの間にこんなものを…」と刀夜は呟く。

 

「ふふ…。こっそり書いちゃいました。今はこれくらいしか出来ませんが、いずれまた今回のご恩は返させていただきます!なので…」

 

シーナはそう言って言葉を切り、顔を赤らめてその続きを言う。

 

「また今度、たくさんお話を聞かせてください…」

 

刀夜は鈍感ではないのでシーナに好意を持たれていることに気づいたが、それがどうしてかは分からなかった。だが、次に会うときはその好意も無くなっているだろうと思いながら返事をする。

 

「まあ、話くらいならいいだろう。この紹介状の借りもある」

 

刀夜としては盗賊を倒したことが貸しだとは思っていなかった。あくまで自分のために倒したからだ。そのため、紹介状は刀夜にとって大きな借りであった。

シーナは「や、約束です!」と言って馬車の中へ走り込んでいった。

 

「この度は本当にありがとうございました。トーヤ殿、またいずれ」

 

そう言ってヴァイスもシーナを追いかけるように馬車の中へ入っていった。1人残った刀夜は小さく呟く。

 

「まずは本登録、そしてクエストをこなす。一体どんなクエストがあるんだろうな…」

 

刀夜は様々な期待を込め、ギルドに向けて歩み出すのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お嬢様、トーヤ殿に好意をお持ちのようで」

 

馬車の中でヴァイスはシーナに話しかける。

 

「と、トーヤ様に抱いている感情はそういう類のものではなくて、ただまた次にお会いできればと思っただけです!」

 

そう慌てて否定するシーナにヴァイスは頬を緩ませる。

 

「きっとまたお会いできますよ…。それこそ例の件、トーヤ殿に頼んでみては如何でしょう?」

 

例の件、と聞いてシーナの表情は固くなる。

 

「しかし、トーヤ様を巻き込むわけには…。それに、本登録をされに行ったばかりです。実績が無い分狩猟の腕前も如何なものなのか…」

 

「そうでしたな…。今は、様子を見ることしかできませんな…」

 

そんな会話がされつつ、馬車は王宮へと向かうのだった。

 

 

 

 

 




如何でしたでしょうか?

次話はギルドでのお話となります。

では、また次話で会いましょう。

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