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ついに刀夜のクルペッコとリオレイア戦です。
それでは第14話、張り切っていきましょう。
刀夜が斬りかかったのはクルペッコであった。怒り状態のクルペッコに対し、真正面からの攻撃は分が悪いため素早く側面に回り込む。そして、まずは一太刀、と抜刀攻撃を与える。
本来、クルペッコの側面は硬い翼があるため攻撃は弾かれるが、黛(漆黒爪[終焉])の斬れ味はゲームで言うところの白。凄まじい斬れ味を持つ黛が弾かれることはなく、刃がすらりとクルペッコの体に入っていく。
クルペッコは一瞬怯むがすぐに体勢を立て直し、火打石をかき鳴らして発火攻撃を仕掛けてくる。しかし、刀夜は常にクルペッコの動きを予想して側面に回り込み、すかさず黛で攻撃する。クルペッコの攻撃は空を切るばかりで刀夜には当たらない。
クルペッコは苛立ったのか、常に側面にいる刀夜を払い除けるように体を一回転させる。刀夜はそれさえも予測し、後方に回避して距離を取った。
クルペッコは小賢しい敵を自分の体から離したことでチャンスと思い、可燃性の液体を刀夜にかけようと片足をあげてその予備動作をする。そんな時、クルペッコの瞳に映ったのは邪悪な笑みを浮かべる敵の姿であった。一体何故目の前の敵は笑っているのか、そんな事がクルペッコの頭をよぎったその時であった。
「やはり2頭同時刈りの醍醐味は同士討ちだな」
笑みを浮かべながらそう呟く刀夜はブレスを発射したリオレイアと、そのブレスが直撃したクルペッコを眺めていたのであった。
刀夜はこの場に到着した瞬間から、最初の獲物をクルペッコと決めていた。クルペッコの状態から、ライトの攻撃によりある程度体力が削られていると分かったからだ。
2頭同時討伐クエストのセオリーはモンスター同士の攻撃をお互いに当てさせつつ、弱った方を狙い撃ちすること。ある程度体力が削られているクルペッコと元気なリオレイア、刀夜が前者を狙うのは必然であった。
獲物を決めた刀夜はクルペッコに攻撃しつつ、常に[リオレイア-クルペッコ-自分]と直線状になるように立ち回っていた。そうしてクルペッコと刀夜が戦っている間にリオレイアが刀夜に向けて火球ブレスを放ったところ、前にいたクルペッコに直撃したというわけだ。
そうして強烈なブレスを浴びたクルペッコがその痛みに怯んでいるところに更なる追い討ちがかかる。リオレイアが刀夜に向かって全速力で体当たりをしてきたのだ。もちろん刀夜にあたる前にクルペッコに当たり、その衝撃でクルペッコが倒れる。
刀夜はそれを好機と見て、練気が溜まり薄く発光する黛で気刃斬りを3度放ち、伝家の宝刀、気刃大回転斬りで強烈な1発を加える。だが、刀夜の攻撃はまだ終わらない。更に気刃斬り、そして気刃大回転斬りの猛攻をかける。クルペッコがなんとか立ち上がろうとするも、今度はリオレイアの体当たりによって、また倒れてしまう。
こうして完全に刀夜とリオレイアの板挟みになってしまったクルペッコは成すすべもなく生命力をとんどん削り取られ、最後は刀夜の気刃大回転斬りによって力尽きたのだった。
クルペッコを討伐し、残りはリオレイアのみとなった。すでに刀夜の黛は幾度とない気刃大回転斬りにより、その刀身が真っ赤に発光していた。
「さて、残すはお前だけだ」
刀夜はリオレイアにそう言い真正面から突っ込む。するとリオレイアは火球ブレスを放つ予備動作を始める。刀夜はブレスの進路上を避けるために回避行動を取り、そのままリオレイアに接近して側面に回り込み気刃斬りを放つ。リオレイアは自分の懐にいる刀夜を振り払うために体を一回転させて攻撃するが、刀夜は後方に回避する。
それからというもの、刀夜はリオレイアの真正面には立たず側面から攻撃していき、リオレイアが体を一回転させて攻撃してくると、すかさず後方へ回避行動を取り距離を取るといった攻防が繰り返される。
そんな状況にリオレイアも苛立ったのか、後ろに2歩後ずさる。
(っ!!サマーソルトか!)
その時刀夜はリオレイアの前方に立っていたため咄嗟に横移動斬りを放ちつつ左へと横に動く。それと同時にリオレイアはバク宙の要領で体を縦に一回転させて毒のある尻尾を振り上げると空中で羽ばたく。
(画面越しで見るのと実際に現実で見るのはやはり違うな…。)
一見、2歩下がるという予備動作は刀夜に恐れを成したようにも見える。だがそれは全くの見当違いであり、サマーソルトをする前のリオレイアの予備動作である。サマーソルトは予備動作が小さい上に当たると大ダメージを受け、更には毒状態なるという強力な攻撃だ。これは防具がハンターシリーズのため防御力が低い刀夜が警戒していた攻撃でもあった。
だが、逆に刀夜はサマーソルト以外特に警戒はしていなかった。リオレイアの攻撃は特に意識せずともゲームのイメージで体が勝手に反応していたことに加え、ここまでノーダメージ。刀夜がリオレイアを完全に上回っていることは明白である。
(空から降りてきたら、2回戦といくか)
そうしてリオレイアが地面に降り立つのを待つ。しかし、いつまでたってもリオレイアは地面に降りようとしない。
そして刀夜が早く降りてこいという意味で視線をリオレイアに向けた時だった。リオレイアは刀夜を一瞬見るとそのままどこかへ飛び去っていったのだ。
「っ!!あいつ、まさか逃げたのか?!」
そう、そのまさかである。リオレイアは賢いモンスターである。目の前の小さい敵に適わないと判断したのだ。刀夜は追いかけようと思ったが、索敵用のペイントボールを使っていなかったのでリオレイアがどこに向かったのか分からない。それに加え、傷だらけで尚且つ気を失っているライトがいたのを思い出す。
「依頼内容が1人で無事に生還すること…だったりしたら迷わず追いかけるんだが…。まあいい、見逃すのはワケありの今回だけだ…。これからは逃げても地の果てまで追ってやる」
そんなことを呟きつつ、刀夜は気を失っているライトを肩に担ぐ。元々筋肉がなかった刀夜であるが、ここ2週間、ゲームのハンターの動きを真似て黛を振ってきたのだ。自然と筋肉もそこそこついてきた。そんな刀夜はモガの村へと向かい歩いていくのであった。
刀夜が立ち去った戦闘場所は先程までの轟音が鳴り響いていたが、今やすっかり静寂に包まれていた。
そうしてモガの村に到着すると、ケイル、エリス、そして村人たちが駆け寄ってくる。最初に口を開いたのはエリスだった。
「ライト!ライトは大丈夫なの?!」
エリスは今にも泣きそうな顔で刀夜に尋ねる。刀夜は俺はどうでもいいのか、と文句を言いたくなったがエリスの問いに答える。
「大袈裟だ…。気を失っているだけだ…」
それを聞いてエリスは「よかった…よかった…」とその場で泣き崩れる。そして村人達は歓声を上げる。そしてケイルが口を開く。
「トーヤ!お前さんなら大丈夫だと思ってた!本当にありがとな!今日はお前さんも疲れただろう、ライトは俺が部屋まで運んでおこう」
刀夜に疲れは全くなかったが、重いのも嫌だったのでライトをケイルに受け渡す。そうするとケイルは刀夜を部屋まで運びに行った。
村人達は身軽になった刀夜に「よくやった!」、「本当に無事でよかったよ!」といった声をかける。そしてしばらくして立ち直ったエリスが刀夜に話しかける。
「無事でよかったとして、トーヤはどうやって連れ帰ってこれたの??あの傷…ライト…戦闘してたんでしょ…?」
「もう立ち直ったのか?」
「う、うるさいっ!それは今はいいの!それよりも質問に答えてよ!」
「せわしない奴だな…」
村人達としても気になるところではあった。ライトが戦闘してたのならクルペッコがリオレイアを呼んだはずである。リオレイアはランク4のハンター達がパーティーを組んでようやく安定して倒せるモンスターであり、ソロとなると5は必要だ。そんなモンスターに仮登録ハンターの刀夜がどうやって無事に帰ってきたのか。いつの間にかケイルも村人たちの中に混ざっており、刀夜の返答を待っている。
刀夜としては仮登録ハンターの自分がクルペッコを倒したと言うのは色々まずかった。そのため帰り道に考えついたことを話す。
「まぁ、俺が見た一部始終を話そう。俺が到着した時にはすでにクルペッコは瀕死状態で戦闘が終わろうとしていた」
それを聞いたエリスは口を挟む。
「それは流石にありえないわ…。ライトの実力からすると討伐には丸1日程かかるはずよ」
エリスのような言葉を刀夜は予想できていた。ドスジャギィを倒したとはいえ、ライトはまだ駆け出しのハンターであり、技術も未熟。そんな彼が短時間で狩猟したという言い分は無理があるだろうと考えていた。
「普通ならそうだろう…。だが、その場にはすでにリオレイアがいた。ライトはリオレイアの強力な攻撃がクルペッコに当たるように立ち回っていたのかもな…。そうして俺が到着して間もなく、クルペッコは力尽きた。それと同時にライトも張りつめていた気持ちが切れたのか、その場で気を失った」
それを聞いてエリスだけでなくケイル、そして村人全員が驚く。
「そんなのもっとありえない…。刀夜、あなた自分が何を言っているか分かってるの?その立ち回りの技術を持つのはランク5の人間でも3割、といったところね。モンスター同士で攻撃させ合うなんて相当高度な技術よ?」
エリスのその発言に今度は刀夜が驚く。「あの立ち回り、そんなに高度なのか…?」と疑問に思うが口には出さない。そんな刀夜の様子に気付かずエリスは続ける。
「恐らく、本当にたまたまリオレイアの攻撃がクルペッコに何度か当たっていたのでしょうね…。それなら納得できる…」
そう言って納得し始めたエリスや村人だが、今度はケイルが疑問を刀夜にぶつける。
「だがトーヤ、お前さんリオレイアからどう逃げ切れたんだ?お前さんなら大丈夫と思っていたがリオレイアから逃げるのは簡単ではなかったはずだ…」
ここもまた刀夜は予め答えを用意していた。
「実はクルペッコが力尽きたあと、何故かリオレイアはどこかへ飛び去っていってな…。理由は俺にも分からないがあれは本当に助かった」
飛び去っていったのは嘘ではない。刀夜がそう言うと、村人の1人が「そういえば、俺リオレイアがどこかに飛んでいくのを見た!」と言う。刀夜は密かにその村人に感謝する。
「なるほど…。そんなこともあるもんだな…。ライトとお前さんは何か持ってるのかもな、それも実力の一つだ」
そう言って刀夜への質問タイムは終了した。
そして刀夜を労ったあと、村人の誰かが「今日は宴だぁ!」と叫ぶと、皆それに賛同し、宴会の準備を始めた。
刀夜は「話がある」と、ケイルを引き止める。
「出発の件だが、少しいいか」
ケイルは先程まで2人の帰還に喜びの表情であったが、出発の件、と聞くと途端に寂しそうな表情になる。
「あぁ…そうだったな…。いつ出発する?」
村に残るという返答を微かに期待していたが、期待が現実になることは無い。
「明日の夜明けとともに出発したい。大勢に見送られるのは気が引ける」
あまりにも早すぎる出発にケイルは絶句する。
「っ!!また急なことだな…。でも、また戻ってきてくれるんだよな?」
「あぁ、まあ最後ではないだろう」
そんな刀夜の返答に満足したのか、ケイルはいつもの笑顔になる。
「よし!約束だ!ライトを含め、他のみんなにはトーヤが出発した後話しておこう。お前さんもその方がいいんだろ?」
「助かる。あと、申し訳ないが宴会も参加できそうにない。元々そういうのが苦手っていうのもあるが、出発の準備をしたい」
「まあ村の奴らはライトとトーヤがいなくてもどんちゃん騒ぎだろうから大丈夫だ。特にみんなお前さんのことを少しは理解している。参加を強要することはないだろうから安心してくれ」
「重ね重ねすまない」
「いいってことよ!トーヤ、お前さんも疲れただろう。ゆっくり休んでくれ」
そうして刀夜は部屋に戻り、出発の準備をした後、早めに寝床についたのであった。
如何でしたでしょうか?
今回の話は予め決めていた結末でした。
納得いかない方がいれば申し訳ないです。
ではまた次話で会いましょう。