ナザリック最後の侵入者   作:三次たま

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 誤字脱字報告して下さった方々、どうもありがとうございます。作者の国語力が追いついて、いつかはミス無しで出せるといいな。

 これやって残り2話で書き溜が切れます。そうなったら更新速度が遅くなります。




肉球に埋もれし魔爪
辺境集落への出向


城塞都市エ・ランテルのとある宿屋〔モモンガ〕

 

 

 エ・ランテルに着くなり冒険者組合で登録を済ませてきたアインズと戦闘メイドナーベラル。先輩冒険者に絡まれたりもしたが難なく退き、現在宿屋にて今後の打ち合わせをおこなっていた。

 

 なぜ二人がわざわざエ・ランテルに赴いて冒険者になろうとしたのか。理由は2つある。一つはこの世界独自の慣習や一般常識を生身で体感するため。二つ目は、支配者ロールに疲れたモモンガのストレス発散のためだった。

 

「冒険者……予想以上に夢のない仕事だな」

 

 組合にて受付嬢から伺った業務説明によると、冒険者の仕事は要約すれば「対モンスター用の傭兵」であるらしい。

 

 「冒険」という言葉にユグドラシル的な未知への探求を期待していたアインズにとっては非常につまらない肩透かしだった。冒険者の起源はスレイン法国にあるらしいので、この世俗とズレた紛らわしい名前も六大神とやらのネーミングかも知れない

 

「陽光聖典とやらの情報から、六大神が数百年前に転移してきたユグドラシルプレイヤーの可能性が非常に高いからな。」

 

 現在のところナザリックの捕虜としている陽光聖典は、「三回質問に答えたら死ぬ」というペナルティがかけられており、情報の引き出しに非常に苦労している。

 

 事前にマタタビからの情報がなければ一番情報を持っているであろう隊長の男を真っ先に殺してしまったであろうから、彼女の功績は大きい。

 

 お陰で順調に情報収集ができているため、この世界での情勢にもかなり迫れてきている。

 

「御身を惑わすなど、たとえ意図がなかろうとも無礼極まりません」

 

「落ち着け、ナーベよ。たかが名前の一つくらいだろう」

 

 アインズ個人としては、気を使わないで済むマタタビと二人だけで行きたかったのだが、それではマズイとマタタビが言ってきたのだ。

 

 アインズは《メッセージ/伝言》で彼女と相談した時のことを思い出す

 

 

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『二人きりで外になんて……NPCの皆様方相手にそんな信頼関係を見せつけたら、私がアインズ様の妃だと勘違いされちゃいますよ?』

 

「へ?」

 

『9階層のバーに飲みに行ったとき、デミウルゴスさんがそんな感じで勘違いしてました。

 至高の41人の居住区である9階層スイートルームを与えられた一般メイドという不自然な待遇。そして私が元々、ナインズ・オウン・ゴール所属でありAOGに協力していたという経歴。

 結果、デミウルゴスさんが辿り着いた結論は『花嫁修業のためメイドとして礼儀作法を学んでいる』ということらしいです。そんな風習があったのは初耳でしたが』

 

「えー!? ホントですかそれ…正直さっき教えてもらった世界征服よりインパクト大きいんですが……

 それでどうなったんです?その話は」

 

『あの人の思い込みが強過ぎて、説得したけどダメでした。幸い口封じの方はできたんですけど、

 もしこんな話が他の一般メイド共にバレれば、肉を貪るハイエナの如く喰らいついてはあっという間に拡散、既成事実化してしまうでしょう』

 

「あぁそれで二人で行くのがダメなのですか。

 100レベルの随伴がいればアルベドとかにも反対されないと思ったんですけど。」

 

『いっそアルベドさんを連れてっては?

 人間蔑視なんて、ナザリックのNPCではほとんど共通していますよ』

 

「角や翼の見た目も人間社会ではかなり目立つし、彼女にはナザリックの管理運営を任せたいから外には出せません。ですから今回の供はプレアデスのいずれかにしようと思います」

 

『仕方ありませんね。アルベドさんには『愛する殿方の家を守るのは妻の役目』とでも言っときますよ。多分、納得してくれるんじゃないかな?』

 

「……妙にアルベドを推しますね」

 

『設定変えたんだから責任取れーなんて無責任なことは言いませんが、アインズ様も、勘違いで私と結婚するより彼女を嫁に取ったほうがマシでしょう?

 まぁこれもただの身勝手な保身ですけど』

 

「さいですか。じゃあ随伴してくれるNPCを選びたいのですが、差し当たってナーベラルかルプスレギナのどっちかを考えているんですけど、どっちがいいと思いますか? メイドとして働いているマタタビさんの意見を聞きたいです」

 

『うーん 二人のどっちって言われると悩みますねぇ。人間への対応力という意味ではルプスレギナさんに軍配が上がりますが、彼女には少し問題があってですね……』

 

「問題ですか?」

 

『なんていうか、ルプスレギナさんは、るし☆ふぁーさんみたいに、自分の快楽を優先しちゃうところがあるんです。 ナーベラルさんは、若干ポンコツだし人間蔑視が凄まじいけど、基本的には従順で致命的なこともありません。

 アインズ様はどっちがいいですか?』

 

 

 

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 アインズはナーベラルの方を向いた。

 

 対人コミュニケーションに優れるルプスレギナにすれば良かったのではないか?と後悔する気持ちがなくはない。しかし、「るし☆ふぁーみたい」という評価から、彼女が致命的な失態をする可能性も考えられる気がした。

 

 ナーベラル・ガンマは、言ってはなんだがかなりのポンコツだ。物覚えは悪いし人間を虫けら呼ばわりしてしまうところがあるが、それでも自分に対して忠実に動いてくれている。

 

「アインズ様、如何なさいましたか」

 

「少し考え事をしていた。……それと今の私はモモン、お前は冒険者仲間のナーベだ」

 

「承知しましたモモン様」

 

「モモンだ」

 

「はい、モモンさーん」

 

「ちょっと間抜けだが……まあよい」

 

 最終的にナーベラルを連れて行くことを決定したのはアインズだ。後悔するかどうかは彼女たちの今後の働きを自分の目で見て考えよう、そう決心したアインズであった。

 

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同時刻 カルネ村〔マタタビ〕

 

 

 ナザリック地下大墳墓から10km程のところにあるカルネ村。

 

 国王直轄領であるため王国では比較的徴税が軽いのと、森の賢王という魔獣のテリトリー付近であるため襲ってくるモンスターが少ないこと以外は取り立てて見るところもない、そんな程度の村である。

 

 先日の帝国騎士(偽)の襲撃により村の人口が激減したため、人手が足りず農作業をこなす村人たちはどことなく忙しそうであった。そしてその様を眺めるのが、最近メイド服が様になり始めてきた新人メイドのマタタビだった。

 

 彼女は天候影響無効のデータクリスタルが組み込まれたパラソルテーブルの座席に淑女然と腰掛けて飲み物片手に読書をしていた。その優雅な佇まいには、1週間みっちりメイド長に叩き込まれた礼儀作法が既に染み付いていた。

 

 この上達速度のからくりは、〈シノビ〉の職業スキルの一つ〈影分身の術〉にある。自身の思考形態と25%の能力値を持つ分身体を発生させるこのスキルは、実験の結果、転移後の世界では解除後に経験値をオリジナルにフィードバックする効果があると判明した。

 

 つまるところ、分身体を大量(体数制限はあるが)に作って作法の練習をすればとてつもない練習効率を得られるということである。上司にとやかく言われるのを嫌った彼女がなるたけ早く技術習得する手段を考えた成果だった。

 

 ところでマタタビがどうしてここにいるのかというと、それはアインズに週三回のペースでカルネ村に視察に向かうよう命じられたからだ。

 

「入社して1週間で辺鄙な村に出向とか、ナザリックブラックすぎアハハハ」

 

 などと彼女はふざけて呟いたが視察とは名ばかりで、これはアインズがマタタビに休暇を与えるための口実であった。こうでもしないとナザリックのシモベという立場ではおいそれと休暇を取ることもかなわないからであり、マタタビ自身重々承知している。

 

 以前アインズに冒険者となって共に羽根を伸ばさないかと誘いを受けたが、結婚関連の面倒事が増える(のと、単純に面倒くさい)ので遠慮したため代案としてこのような手段を取ることとなったのだった。

 

 日がなジュースを片手に少女漫画を読みふける。リアルの世界では逆立ちしてもありえない職場環境を堪能していたとき、バッシブスキルの〈読心感知〉によって何者かの悪意が近づいてきていることに気づいた。

 

「……ルプスレギナさん、不可視化で近づいて何かイタズラしようとすんのやめてください」

 

「あちゃー、バレちまったっすか。プレアデスの他の娘たちはこれで引っかかるんすけどね。やっぱマタちゃんは一筋縄ではいかないっすわ」

 

「その下半身みたいなあだ名もやめてくださいね」

 

 接近者の正体は、戦闘メイドプレアデス:ルプスレギナ・ベータだった。

 

 表面上は太陽の如き笑顔で接しているが、内心マタタビへの敵意で満ちていた。マタタビと同じくカルネ村への監視が命じられている彼女は、マタタビのことを自身の仕事の領分を奪っている存在として疎ましく感じているらしい。

 

「えー、折角親睦を深めようと二三日の間ずーっと考えてたんすよ、このあだ名。」

 

「それって単に暇なだけでしょう。」

 

「仕方ないじゃないっすか。アインズ様に監視を命じられたとはいえこの村って何にもないんすから。殺戮の一つでも起これば面白いんすけどね~」

 

 マタタビは内心嫌な顔をしたが、冷静な表情であろうと努める。

 

「だからって不可視化の魔法使って悪戯するのもどうかと思いますけども。それに暇だったら村近郊の弱い魔獣相手にでも無双してればいいでしょう?」

 

 ゲーマー思考で言えば雑魚敵無双というのはそれなりに快感である。体感覚が現実化されているのだからマタタビからすれば尚の事だ。

 

「ちっちっちっ、私の趣味を全然わかってないっすねーマタちゃんは。悲鳴が飛び交い恐怖に慄きながら絶望していく相手をじっくりと嬲るからこそ殺戮は面白いんすよ。動物本能しかない雑魚敵とかを虐めまくるのは趣味じゃないっす。」

 

 マタタビにとっては殺戮の嗜好なんて聞いてて不快な話だ。ルプスレギナもそれを承知しているからこそ、そんな話を自慢げに語るのであった。

 

「ふーん」

 

 ルプスレギナはマタタビに何かと嫌がらせをしようとしているが、それら全てはマタタビ相手に通用するものではなかった。

 

 ただ、悪意に敏感なマタタビにとって、かまってくるルプスレギナの存在そのものがひたすら鬱陶しかった。

 

 冒険者モモンの随伴相談を受けたときも、自分がルプスレギナのことを正直に話してしまえば慎重派のアインズがナーベラルを選ぶだろうと予測していたためなお座りが悪い。事実を知ればルプスレギナはマタタビをさらに敵視するだろうと思われたからだ。

 

(不運な人事、というか私が自分の待遇をアインズ様に話してないから当然といえば当然だよね。万一バレたら彼の気苦労を増やしてしまうし、アルベドさんに火の粉がかかるのはまずいからなぁ)

 

 アルベドがマタタビをメイドたちの間で孤立させようと画策していることは、こっそり彼女の執務室に行ったときに気づいていた。彼女の悪意は端から解っていたことだったので、ショックというより合点がついたような感じだった。

 

 表面上は取り繕っているが、モモンガとマタタビは折り合いが悪い。それに勘付いたからこそ、アルベドは隙きを突いたのだ。

 

 結果どんな形にしても、この異世界に来てマタタビを初めて受け入れてくれたのは、彼女にとってアルベドに違いなかったのだった。だからこそ、マタタビはアルベドの悪意は黙認し続けていた。

 

(ルプスレギナさんは駄目だけどね)

 

 アルベドと違い、彼女の悪意は明確な敵意であって、マタタビを排除しようとするものだ。つまり暗に、アインズの人事をルプスレギナが不満に感じているということでもある。

 

(ブラック企業出身だし、職場でいじめとか絶対アインズ様ショック受けるだろうな。)

 

 マタタビ自身は嫌になったらいつでも逃げられる気でいた。しかし、真実を知ったアインズが心を痛める姿を想像して眉をしかめる。彼にはそんな表情をして欲しくないと思った。

 

(何か仕返しして二度とちょっかい出さないようにした方がいいかな)

 

 どんな方法が良いか、直接痛めつけるのではなくて、屈辱を与える系統が良いだろうか。サディストは受けにとことん弱い。

 

 

 良い方法が閃いた。マタタビは突然ルプスレギナに向かって言った。

 

「すいません、ちょっと私お手洗いに行くのでついてこないで下さい」

 

 あからさまな嘘である。

 

「なにいってんすか?」

 

 しかしマタタビはユグドラシル最高クラスの隠形スキルによって姿を消してしまった。普段マタタビは自身の力量を警戒されないように、このような隠形の発動などは極力控えてきたのだが、今回は特別だった。

 

 

「居なくなっちまったすね、つまんないっす」

 

 マタタビは人狼の種族スキルによる感知にもさっぱり引っかからなくなったようだ。

 ルプスレギナは殺戮に関する話でマタタビが、実は嫌なのに強がって無関心ぶっていたのをちゃんと勘付いていた。

 

 嘘の理由は当然ルプスレギナにあるだろう。楽しみが逃げ出してしまうのは少し残念でもある。

 

 だがつまらないと言う割に、彼女の胸のうちには相手を追い出せたことへの達成感も確かにあった。

 

 そういえばと思い出し、ルプスレギナは先ほどマタタビが座っていたパラソルテーブルを見やった。飲みかけのジュースと少女漫画の横に、キャンディやらチョコレートやらが入っているお菓子の入りの皿を見つけた。

 

 ルプスレギナはプレゼントを貰った子供のような無邪気な笑顔を浮かべる。その実、邪気に満ち満ちた笑顔でもある。これを彼女は、自身のささやかな勝利の報酬にしようと身勝手に決めた。マタタビも当分戻って来ないだろう。

 

 ルプスレギナは躊躇なくお菓子に手を伸ばす。キャンディの包みを開き、自分の口の中に放り込んだ。

 

 刹那、彼女の意識はそこで途絶えた。

 

 

「警戒心なさ過ぎ」

 

 一部始終を眺めていたマタタビは、自身にかけていた隠形を解除し、いびきを嗅いてぐっすり眠っているルプスレギナを改めて眺めた。

 

 催眠効果のあるお菓子をテーブルに配置しただけなのだが、あっさり引っかかったルプスレギナに若干引いていた。上手くいくにしても、もうちょっと考えると予想していたのだ。

 

 何はともかく、これでルプスレギナはダメージを与えない限り数分は目覚めない。ここから弱体化系統の魔法をかけまくるのがユグドラシルでの一般的な催眠の使い方である。だがマタタビがここで取り出したのはサインペン。

 

 それによってルプスレギナのおでこに『駄犬』と書いた。丁寧に異世界文字と日本語の両方で。

 

 彼女が起きた頃には村人やナザリックにて大恥を書くこととなるだろう。顔色と髪色を同化させて顔中真っ赤になるルプスレギナを思い浮かべ、マタタビは僅かに微笑んだ。

 

 しかしこのままにしているのもどうかと思い、崩れ落ちたルプスレギナを起こさないよう慎重に椅子に腰掛けさせる。そしてマタタビはその場を後にした。

 

 

 ちなみに起き上がったルプスレギナは、机に置いてあった菓子を再び食べて眠るのを、皿の菓子が尽きるまで延々繰り返すことになる。期せずして文字通り一杯食わせることとなるのだが、マタタビには知る由もなかった。

 

 ルプスレギナが寝ぼけて顔をテーブルに擦り付けるうちに、マッキーのインクは落ちて『駄犬』の文言は次第に読解不能となっていくのである。

 

 

 

◆◇◆

 

 

 ルプスレギナを片したマタタビは、機嫌よくスキップで村の周りを歩き回った。

 

 何もなかった村の外周には木の柵が置かれている。村人たちは集まってゴブリンたちから護身法を学んでいた。先日の襲撃が彼らの意識を一変させたのは間違いなかった。

 

 収穫時が近いようで、普通に農作業に従事するものもいる。その中に見知った姿があったので声をかけた。

 

「こんにちはエンリさん」

 

「ゴウン様の娘さ……お嬢様ですか!? どうしてこちらに」

 

(あぁ、そういえばアルベドさんの茶番で娘ってことになってたんだっけ)

 

 拙い口調でお嬢様と言い直したのはエンリ・エモット。騎士襲われていたところがアインズの目に止まり、奇跡的に助かった強運の持ち主だ。

 

 彼から賜った〈ゴブリン将軍の角笛〉で召喚したゴブリンは、パワーデフレの激しい異世界ではそこそこの強さに位置するらしい。それにより現在の彼女は実質的に村長的なポジションに収まっていた。本人は断固否定しているが

 

「普通にマタタビでいいよ。私達、同い年くらいでしょう?」

 

 人間化スキルによって変身したマタタビの外見年齢は16歳程度。リアルを換算した実年齢ではもう少し上なのだが、エンリの年齢に合わせてついた虚言だ。

 

「わか、うん なんかこう言うの馴れないけど、よろしくねマタタビ」

 

 現状では互いに同性の知り合いは少ない。二人は軽く握手をしてからなんとなしに話しだした。

 

 

「なんかマタタビって不思議な感じ。

 あんま詳しくないけど礼儀作法とかしっかりしてるぽいし、すごーく上流階級だってことはわかるけど、全然気取った感じがしないのね。」

 

 エンリの何気ない洞察にマタタビは冷や汗をかいた。彼女は上流階級……な訳ないのだ。

 

「うんまぁ……どっちかって言えばウチは引きこもり気質だからね。礼儀作法はうるさく言われてるから結構頑張ったの。」

 

「やっぱりゴウン様の家って厳格なんだねぇ!私は普通の村娘だからそういうのよくわかんないけど、ゴウン様とかすっごい厳しかったり?アルベドさんは絶対そうだってわかるけど」

 

(なんで貴方は私が答えたくないところをピンポイントで捉えられるのでしょう。これがいわゆるタレントってやつですか?そうなのですか?)

 

「あーうん そういうのはリョウシンより使用人の人たちがすごいの。私ってあんまり使用人たちの受けが良くないから、必要以上にスパルタされちゃってさ」

 

「大変なんだー」

 

 マタタビはどうにか話題をそらそうとする。

 

「村の生活のほうがよっぽどだと思うよ。農作業なんて私できるかなぁ?すぐ逃げ出しちゃいそうだよ」

 

「ふーん」

 

ねぇ、と続けてエンリは言った。

 

「なにか隠してない? というのもゴメン、なんかマタタビってゴウン様の話になると途端歯切れ悪くなるし、こないだもちょっと仲悪そうだったけど」

 

(なぜばれた!?)

 

「えっとそれは……」

 

「ごめんね? 話したばっかの人にこんなこと聞くのは間違ってる気がするけど、私の両親、ちゃんと親孝行する前に……いなくなっちゃったから、そういうすれ違いがあったらほっとけなくて」

 

(そんなヘビーな話を偽親子相手にされてもどうしろと?)

 

 両親をなくしたばかりのエンリにとって、親子関係の不和など見える限りではあって欲しくなかったのだ。そしてエンリの直感はかなり鋭く的を得ていた。マタタビがアインズと若干気まずいのは事実である。

 

 あれからアインズとは《メッセージ/伝言》で何度か話をしたが、元々仲の良い方ではないため結果的に気まずいことのほうが多かった。

 

 エンリの直感は正しかったが、状況認識のほうがどうしようもなく間違っていた。

 

(あはは、悪意よりも、勘違いからくる善意のほうが質が悪いなんてね)

 

 マタタビは、先日のバーでのデミウルゴスとのことを思い出す。彼らの厄介さに比べたら、ルプスレギナやアルベドなんてかわいいもんだとシミジミ思った。

 

「別に大したことない話だよ。

 トウサンは今の家族よりもいなくなった友達のことばっか気にしてるんです。カアサンが哀れでなりませんが、本人が重々承知してるっていうんだから救いようがない、ただそれだけ」

 

 マタタビはいかにもどうでも良さそうな冷めた調子で、その場しのぎに虚実織り交ぜた話をする。事実本人にはどうでも良いのだが、かえって無関心な雰囲気が作り話に真実味を吹き込むことになるのを彼女は気づかない。

 

「ゴウン様が最近まで引きこもってたってそういう……」

 

 アインズが友人のことが忘れられずに引きこもっていたのだと、エンリは考えたようだった。

 

 的はずれなようでいてその実妙に的を射るエンリの直感に、マタタビは吹き出しそうになるのをこらえた。こらえきれずに口元が緩んでしまうのだが、それをエンリは苦笑いだと納得する。

 

「面倒なのでこれあんまり人に言わないでくださいね?」

 

 マタタビはこれ以上勘違いが加速するのを防ごうと、件のアルベドと同じ台詞回しを使った。なんだか聞いてはいけないようなアインズの人間的一面を知ってしまった気になったエンリは、頭を縦に振って頷く。

 

 彼女は非常に同情的な眼差しをマタタビに向けていた。

 

 その眼差しが鬱陶しいため、マタタビはまた違った話題を持ち出した。

 

「そういえばこの村に少しモンスターがやってきてるようですけど、今までゴブリンが居なかった時はどうしてたんです?」

 

「この村は森の賢王という魔物の住処の近くだから、あまり他のモンスターは寄ってこなかったの。もしも来たときにはラッチモンさんっていう野伏の人が対処してきたわ。」

 

「ラッチモンさんは見たけど、あの量の魔物をやっつけるなんて本当にできるの?

 馬鹿にするつもりじゃないけど、あの調子で村に来る魔物をすべて追い払えるとは思えないよ」

 

 マタタビの感知能力は秀でている。村周囲までの敵感知であれば造作も無いことだった。

 

 そしてマタタビが戦士長とも立ち会いすることができる程度の実力者だとエンリは知っていたので、マタタビの言葉を完璧に誤りだとは考えられなかった。

 

「え?」

 

「うん?今まではそれで大丈夫だったてことかな。なんか最近変わったのかも」

 

「それって大丈夫なの?今はゴウン様から賜ったこの角笛があるけど」

 

「しっかり外周の守りを固くできれば、ゴブリン達もいるし今のところ余裕だよ。

 ただ、ウチから外周調査で派遣している人も今のところは派手にやってるわけじゃないし、生態系を崩すとかありえないと思うんだけどねぇ。もし他の要因があるなら詳しく調査したほうが良いかも。」

 

 階層守護者アウラがトブの大森林の調査を命じられていることは、カルネ村に在留しているルプスレギナとマタタビに予め知らされている。

 

 そしてアウラが入り込む前後で村の周囲を感知したことのあるマタタビは、森林の様子があまり変わっていないことを知っていた。

 

(つまり変化はナザリックがやってくる以前からのものってことだよね)

 

「ごめんねもう時間なの。またねエンリ 私はこれくらいで」

 

「うん、ゴウン様にもよろしく言っておいてね」

 

 二人は互いに手を降って別れた。別れた直後、マタタビは再度隠形によって姿を消した。

 

 さてこれからどうしようかと、マタタビは今後の予定を考えた。ルプスレギナがここにいることを考えれば、カルネ村で羽根を伸ばすことなどもとより不可能である。ならば別の場所での暇つぶしが必要だった。

 

(さしあたって、トブの大森林でもほっつき歩いてみますかね。こういうのはどっちかって言うと、アインズ様の領分だけど)

 

 本来マタタビはユグドラシルで言われているような冒険の類があまり好きではなかった。とはいえルプスレギナの居る村に残り続ける気にもならなかったので消去法としてそうすることを選ぶ。

 

 実際のところこれから彼女が行おうとしていることのほうが、冒険者になったアインズよりも『冒険』らしいという具合になるのだが、これまた彼女には知る由もない。

 

(一般メイドからは不穏分子、デミウルゴスさんやエクレアさんからは嫁候補、村人からは魔王の娘って、私は一体何になりたいんだろうか)

 

 自身に向けられたバリエーション豊かなレッテルに、マタタビは頭が痛くなる感じがした。彼女の状況をキチンと理解しているのは、良くも悪くもアルベドだけである。

 

(ともすれば、アインズ様よりは幾分マシかなぁ)

 

 自身がアインズの理解者であることをすっかり失念しながら、彼女は思った。

 




 作者はナザリックのメイドが特別嫌いなわけじゃないんだけど、オリ主のポジション的にアンチな表現になってしまうのが悲しい。やっぱキャラ再現って大変ですね。つい話の都合で動かしてしまうから不自然になる。

※独自設定
・ルプスレギナがカルネ村に来るのが原作より早いかも
・影分身の経験値効率はNA●UT●のパクリです

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