ナザリック最後の侵入者   作:三次たま

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2話連続投稿につき注意です

この先色々な読者やキャラの期待を踏みにじった展開が続きます。
作者は完璧に自己満足で開き直ってしまうので、それでも読み進める御方はどうかお覚悟を





偽物対決

 

 支援能力に特化した ぷにっと萌え様 の切り札スキル『血の契約』は、速力と筋力を1.25倍に強化する破格の力をもたらしてくれる。

 

 これが、パンドラズ・アクターがタブラ・スマラグディナを欺いてマタタビの演技を続けられた要因の一つだった。

 しかしユグドラシルのゲームシステム(・・・・・・・・・・・・・・)は、強大な力に対して相応の代償を支払わせるのが常だ。

 

 『血の契約』の代償は時間制限。

 バフ付与から5分間は対象者に恩恵をもたらすが、それを過ぎると以降10分間は全能力20%ダウンと状態異常耐性の低下を引き起こしてしまう。

 つまり諸刃の剣なのである。

 

(……現在戦闘開始から三分と十数秒、残りは約一分半)

 

 しかしパンドラズ・アクターは焦ることなく、状況に適応し続ける。

 

(取り囲む8頭の70レベル近い骨畜生どもは速力特化。ドラゴンゾンビは90レベルほどの身体性能))

 

 タブラから引き離すように己を取り囲み、四方八方から跳弾のように襲い来る8体の高レベルネコ型スケルトン。

 

 そしてドラゴンゾンビの負属性吐息による範囲攻撃とのコンビネーションは、簡単に凌ぎ切れるものではない。

 

「ちっ!」 

 

 いくらアンデッドに相性の良い聖騎士たっち・みー様の姿をお借りしようが、それだけではまだ足りない。

 

 後衛に引っ込んでしまったタブラ・スマラグディナまで、あと少しで届かない。

 タイムリミットは刻一刻と迫っている。

 

 しかし、届かないならば足すまでだ。

 足しても足りないなら掛け算だ。

 不要な自我を引き算し、そして演じてみせよう。パンドラズ・アクターの考え得る完全無欠の最強戦士を

 

 つまり、考えられる理想の姿はマタタビと たっち・みー様のスタイルの融合。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 意識を切り替えた次の瞬間から、戦況は一変した。

 

 あれほど素早かったネコ型スケルトン達の動きが、ひどく緩慢に感じられたのだ。

 

 己の内に宿る黒い少女の影法師が、悪戯気に指をさした。

 

『ほらここと、そことあそことあっちとそっち、むこうにも』

 

 そして見えてしまったならば、あとはその軌道上に一分の狂いなく剣閃を振るえばいい。

 何せ一瞬だから、時間制限などあって無いものだ。

 

 骨畜生の群れが、聖騎士の鋭い剣技によって瞬く間に切り崩されていく。

 それはさながら聖騎士と骨畜生の舞踏のような光景。

 

 アンデッドの放つ死臭が満ちる死の舞踏会場において、唯一つ清浄なる存在として聖騎士は舞い踊る。

 まもなくネコ型スケルトン達はことごとく、亡骸の山へと還って逝った。

 

 つづいてようやく動き出すドラゴンゾンビ。だが覚醒したパンドラズ・アクターを前には遅すぎる。

 

 単なる肉体能力以上に、動体視力の処理速度がパンドラズ・アクターとは天地の差だ。

 

 GrAAAAAAAA!!!

 

 強大な竜爪が風を切って豪快に振り下ろされるが、パンドラズ・アクターは既に裏手に回り込んでいる。

 

 そしてアインズ様より与えられた高度な戦闘頭脳を回転させた。

 

(死体製アンデッドは元の肉体の損傷部位が弱点となるはず……)

 

 ドラゴンゾンビの体表を舐めるように見回して、幾ばく古傷から辿るべき剣筋を見定める。

 

 

 あとは再び、理想とする軌道に乗せて力強く刃を奔らせた。

 聖剣がこじ開けた古傷に神聖属性の魔力が流れ込み、腐肉が焼け溶けて切り裂かれる。

 

 弱点部位、しかも神聖属性が付与された聖剣による斬撃だ。いかに真なる竜王を贄に作り出した90レベルクラスのアンデッドといえど無事では済まない。

 

 GI!?GI!GI!!Ahh!

 

 狼狽し痛みに悶えるドラゴンゾンビ。アンデッドとして感情を抑制されてなお余りある激痛と恐怖に押しつぶされて、大口を上げて絶叫を上げた。

  

「……隙だらけです」

 

 こうなればもはやパンドラズ・アクターにとって眼前の相手はまな板の上の肉塊に等しい。

 

 故にパンドラズ・アクターは冷徹に剣を振るう。

 まずは両翼を切り落とし、続いて前足2本を切断し、とどめの一撃で脳天を叩き割る。

 ただただ容赦無く、作業のような流れでドラゴンゾンビの巨体を細切れにした。

 

 実に他愛ない。

 

 そして

 

「いつまで呆けておられるのですか、タブラ様」

 

「……あ、あ……あ」

 

 貴重な己の手駒が解体されていくのを、動揺のまま傍観したタブラには呆れかえるほかなかった。

 

 死霊使いとしてアインズ様とは比べようもないほど愚かであり、戦士としての心構えは佐々木正義に遥かに劣っていて、かと思えばいつぞやのマタタビの如く俊敏に逃げ腰を立てるわけでもない。

 

 愚か、愚か、実に醜い。幾千の戦士や魔法詠唱者の脳髄を啜り彼らの経験を吸い取ろうとも無意味なのだ。

 

 この世界で数百年の堕落を経たタブラ・スマラグディナの精神はそれらを十全には生かしきれない。

 どれだけ優れた食材であろうと料理人の腕次第では産業廃棄物にすら成り果てるのだから。

 

「なぜだ! この私が!」

 

「冒涜的な簒奪を重ね上げ、挙句あなたは何物にも成れなかった。ただそれだけのことでしょうに」

 

 タブラはつまらない『勘違い』に躓いたのだ。

 閉塞的な支配構造にとらわれた現実世界の只人が、カンストしたステータスを得て外敵の居ないこの世界で驕らないわけがない。

 『脳食い』という権能の存在が全能感に拍車をかけ、とうとうタブラは己を運命を弄ぶ上位存在とでも思いこんだ。

 

 だから佐々木正義やアインズ様の運命を弄ぶという究極の大罪を平然と犯し、今その報いが与えられようとしている。

 

「精々思い知りなさい、所詮あなたは邪神気取りの小悪党に過ぎません」

 

「黙れ!」

 

 ここでようやく己の武器を握りなおしたタブラ・スマラグディナ。

 生きたいなら今にでも逃げれば良かったろう、殺すと決意したならドラゴンゾンビたちと連携して攻め立てるべきであっただろう。

 

 しかし今タブラは数百年拗らせたくだらないプライドを刺激され、感情論で再びこの戦場へと踏み込んだ。

 それは元来、タブラがマタタビに望んだ流れであるはずなのに。

 

『アハハハ! ばかみたい!』

 

 心の内の黒い少女が呵々と嗤う。パンドラズ・アクターも心から同調した。

 

 戦いは始まる前から終わっているとは、偉大なる ぷにっと萌え様の格言だ。

 

 ともすれば、感情の支配者たるマタタビ相手に感情込みの心理戦を仕掛けようとした時点で、タブラ・スマラグディナは負けていたのだろう。

 

 そしてタブラが駆け出した。

パンドラズ・アクターは剣を構えて迎え撃つ。

 

 一合、二合、三合、四合── パンドラズ・アクターとタブラの剣が鏡写しのように交差する。

 ほぼ同じ剣技、ほぼ同じ筋力、ともすれば大体は同じ装備。

 

 ならばどちらが上かというと、心の持ちようが明確な差を生み出した。

 そして五合目で、ついにパンドラズ・アクターの聖剣がタブラの魔剣を、彼の両腕ごと斬り飛ばした。

 

 カランと乾いた音を立てて転がった剣を眺め、尻餅をついたタブラ・スマラグディナの顔が恐怖に染まる。

 

「死になさい」

 

 そしてパンドラズ・アクターは容赦なく、聖剣を振り下ろした。

 

 

 

 しかし、

 

「この馬鹿アクター!」

 

 聞きなれた声が響くと同時に、聖剣の軌道が見えない何かに弾かれる。

 

 一瞬遅れて、パンドラズ・アクターの腹部に鋭い痛みが生まれた。

 視線を下げれば、いつの間にかそこにあった漆黒の闇が己の腹を貫いている。

 

 

「なぜ君が! マタタビ!!」

 

 

 驚愕の声を上げるタブラもまた彼女の刃に深々と貫かれており、背面と腹部から血を吹き出していた。

 

 だがそんなことは意に介さず、マタタビと呼ばれた少女は口を開く。

 命を懸けた死闘の只中、まるで愚弟を りつける姉のような場違い極まる雰囲気でだ。

 

「ねぇアクターさん私言ったよねぇ!? 絶対に殺すなって! コイツ殺すと色々面倒くさいんだからさぁ!」

 

「は、はて、なんのことでしょう?」

 

「……とぼけんじゃねぇのですよコラ」

 

 舌打ちとともに、マタタビはパンドラズ・アクターの腹部に刺された刀を力任せに引き抜いた。

 途端に鮮血が溢れ出し、辺り一面に撒き散らされる。

 

 激痛とともに、意識までも持っていかれそうなほどの喪失感がパンドラズ・アクターを襲うが、間もなくマタタビが取り出した回復ポーションを振りかけられて傷が癒えていく。

 

「ぐえぇ」

 

 しかしとうとう『血の盟約』の効果が切れて、反動のデバフ効果によりパンドラズ・アクターの変身が解除された。

 脱力とともに倒れ伏すパンドラズ・アクターをわき目に、マタタビはタブラへと語りかけた。

 

「久しぶりだねタコヘッド」

 

「いや、あの……」

 

「御託はいいからさぁ、タブラ。殺さないから言うこと聞いて? 会わせて欲しい人がいるのよ、時間が無いから今すぐに」

 

「……うん、いいよ」

 

 

 

 子と親の仇の血塗られた再開ではなくて、そこにあるのはありふれた旧友の再会だけだった。

 

 一片の憎悪すら垣間見えない澄んだ瞳を前にして、タブラは盛大に困惑を噛み締めながらも即答していた。

 

 パンドラズ・アクターはただ一点、マタタビの理不尽な思考回路に翻弄されるタブラを前に深く深く同情した。

 

 


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