今回の話は書き直そうか悩んでたけど、結局そのまま投稿することにします。
ナザリック地下大墳墓10階層玉座の間(マタタビ)
ガゼフさんとの勝負は意外と楽しいものでした。
〈シノビ〉のスキル「影分身の術」、自身の四分の一程度のステータスの分身を作り出すスキルです。これにより25レベル相当の強さとなった私の分身を、ガゼフさん相手にぶつけてみました。
全力ではありませんが、本気ではありました。戦士職でない私の25レベルではガード硬めのガゼフさんに一撃与えることも叶いません。故にあの手この手の卑怯を尽くしたのですが、意外とガゼフさんには受けが良かったようです。
たっち・みーに同じことした時は笑って許してくれましたが、以来二度とPVPしてくれませんでした。ただウルベルトは、私の卑怯さを大層気に入ってくれたらしい。
そしてガゼフの強さが判明し〈地味子のメガネ〉の検証が済み次第カルネ村を去った私たちは、その足で陽光晴天とかいう実にシャイニングな名前の魔法詠唱者集団をコッソリとナザリック送りにしました。
根っからの宗教肌だと決めつけていたレモン頭の隊長さんですが、俗物臭い命乞いをしていたのでちょっと見直しました。無論慈悲はありませんけど。
このままレモン達をガゼフを襲わせて恩を売る事もできたように思えたので、気になってモモンガさんに《メッセージ/伝言》で質問してみました。
(マタタビさんが報告してくださったでしょう? 偽帝国騎士や陽光聖典の装備に比べて、王国の精鋭部隊の装備は圧倒的に魔力耐性が低い。たぶん王国とやらは、魔法詠唱者という存在を軽んじているのでしょう。
そんな連中に恩を売っても大した利益は出てきませんし、ここは出方を伺うべきです。)
とのことです。いやー結構考えてるんですね頭蓋空っぽとか言ってすいませんほんと。いやマジでさすモモですわ。
(聞こえてるんですが……)
……おっと失礼しました。
ところで現在、この玉座の間にはナザリックのNPCたちが全員総出場しております。まさか百鬼夜行を生きてみることになるとは思いませんでした。
私は一般メイドの最後尾、下っ端感パない。
対する我らがアインズ様は、ワールドアイテムの玉座に座して如何にも魔王さまやっています。実はこれで内心ビクついているなんて夢にも思いませんよね。
「面をあげよ」
オーバーロードがそう告げると、場にいたすべてのNPCたちが一糸乱れずに顔をあげます。私も反射でギリギリ間に合いました。
「まずは、私が個人で勝手に動いたことに詫びを入れよう。詳しい話はアルベドから聞くように」
セバスさんに怒られてるときはたっち・みーの時よろしくめっちゃ凹んでいたモモンガさんですが、現状ろくに反省してる気配なしの支配者モード。人間慣れれば成るもんですね、もう人間じゃないけど。
「そして私は名を変えた。これより私を呼ぶときはアインズ・ウール・ゴウン――アインズと呼ぶが良い。異論あるものは立ってそれを示せ」
異論あるものは立ってそれを示せ」
この名称変更にどのような意味があるのかを私は予め聞いていた。
彼はアインズ・ウール・ゴウンの名を世界に広めて、この世界に来ているかもしれないギルドメンバーの道標になろうとしているらしい。
(所詮、ゲーム上での付き合いなのにね)
理解できないわけではなかった。私だって彼と同じでアインズ・ウール・ゴウンの外に気のしれた相手なんていない。たった唯一のものに拘る気持ちはよく分かる。
だけど、ゲーム仲間にここまで執着されるなんて、相手側は思いもしないだろうしいい迷惑なんじゃなかろうか。気持ち悪いし重たい、狂ってる。そんな思いを受け止めてもらおうだなんて大した我儘じゃないか。
でも自分の主義じゃないというだけで彼の一大決心を否定するつもりはないし、居る筈もない人達への心境なんて正直どうでも良かった。
彼の突然の名称変更にNPCの皆さんは騒然とする。やがて他の人達もおのおの納得した雰囲気になりました。私と同じく事前に聞いていたアルベドさんは、表面上冷静だった。
それがなんとなく気に入らなくて私は眉を顰めました。《読心感知》のスキルによって、アルベドさんの悪感情はバッチリ伝わってきていたのです。
彼女が何を考えているのかは知りません。スキルが読み取るのは感情であって思考じゃない。憎しみや悲哀の意味は、原因は私にもわからないから。
愛に呪われし純白の悪魔は、正体不明の激情に蓋をして、間もなく返礼の口上を述べようとした ―その時、
何者かが立ち上がりました。
声にはならない動揺が玉座の間いっぱいに広がり、絶対支配者へ異論を述べる不届き者に対して、これでもかというほどに殺気が集中する。
殺意という名の槍が豪雨のごとく降り注がれながらも、不届き者とやらは妙に平然としていた。というか私だった。
(もうだいぶ慣れたもん)
ここ毎日NPCからの悪感情をダイレクトに受けていた私の心は敵意にすっかり麻痺していたので、NPC達の殺意にもほとんど無関心でいられた。ただアルベドさんの敵意だけが他より一層強く、それがなんだかショックだった。
「静まれ」
骸骨の彼はスタッフをコツンと床へ突いただけで周囲の動揺をあっさりと治めてしまった。そして支配者然とした態度で強く私に問いただす。
「マタタビ、ならば聞こう。何故お前は立ち上がった?どのような不満があったのだ」
無意識か、それとも意識的だったらもっと嫌だ。モモンガさんからは絶望のオーラがうっすら広がっていく。一度は承認した私が公の場でNOって言うの、モモンガさんからしてみれば意味不明でしょう。そりゃ腹も立つ。
私はすうっと息を吸い込み、意を決して全身全霊高らかと、そしてやけくそ気味に言い訳をぶちかました。
「モモンガ様は、40柱もの至高を失ったナザリックにおいて、まさしく夜陰を照らす月光の如き御方にあらせられます」
「各々が造物主という名の太陽を見失ったシモベ達は、その反射光を宿すモモンガ様に蛾のごとく群がっては絶対の忠誠を嘯いているに過ぎません。真の忠誠は、やはり自らを生み出した主にのみあるのです」
「モモンガ様はそんなシモベ共の気持ちを鑑みて自らギルド名を名乗られようとしておられるのでしょうが、私はそれに我慢ならないというわけです」
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[モモンガ]
「ふむ、お前の言いたいことはよくわかった」
(いや全然わかんないんですけど!?)
一体全体どうしてマタタビが、モモンガの一大決心に口を挟むのか、モモンガ自身ちっとも心当りがなかった。ひょっとして何かの嫌がらせではないのか?そんなふうに勘ぐってしまうくらいに動揺してしまい、咄嗟に精神安定化が発動する。
しかし、彼女の言い分はNPCたちには都合の悪い部分であるらしい。全方位からマタタビに向かっていた殺気はかなり減衰していた。モモンガはマタタビとの〈メッセージ/伝言〉による定時連絡のことを思い出した。
彼女曰く、NPCの忠誠心にはギルドメンバー内でも格差があるらしいのである。
自らの創造主 > モモンガ(ギルド長) > 他のギルドメンバー
そして自らの創造主がいない現状では、ギルド長であるモモンガに忠誠心が集中しているのだと言っていた。逆を返せば、彼らNPCたちにとってモモンガは創造主の代替品という側面も確かにあるようなのだ。それを聞いたモモンガは、何かのきっかけで彼らに裏切られてしまうこともあるのではと、多少の危惧を募らせたともあった。
(ひょっとしてマタタビさんははこのことを心配して、俺がNPCたちに敵対されないように泥をかぶってくれているのでは?)
その発想に至った時、モモンガはマタタビに対して申し訳ないような気持ちになった。打ち合わせもなく突然こんなことを始めたとは言え、なんだかんだとモモンガのことを心配してくれている様子であったからだ。
とはいえ今の状況は少々まずい。彼女のセリフが波紋を残して、NPC達は無用に自虐心をつのらせている様子だった。「見捨てられてしまうのでは」という危機感が沈黙によって広がり、まるで通夜のような有様になっていた。それはある意味では、墓にふさわしい雰囲気なのかも知れないが。
マタタビは「絶対の忠誠を嘯く」などと言っていたが、彼らのモモンガに対する忠誠心は紛れもなく本物である。自らの創造主を第一とするのも、モモンガからしてみればそちらのほうが嬉しかった。
モモンガは言った。
「私がお前たちシモベに忠義の在り方を求めることは決してない」
その言葉に、「棄てられるのだ」という確信を見出し、彼らの中で、絶望感が一気に広がった。
しかし、絶望を与えるのがモモンガの声であれば、それを引き上げるのもモモンガの声である。
「忠義を尽くしてくれるのは非常に嬉しい。だが、無理はして欲しくないのだ。
お前たちのありとあらゆる個性は、いいところも悪いところも、かつての仲間たちが作り出したのだ。故に、私はそれに反するようなことをお前たちに求めたくはないのだよ。
その為にも、自分自身がどうあるべきかは自分たちで考えてもらいたい。当然、それについてで思い悩むということもあるだろう。その時は、他のシモベでもいいし、私に言いたいことがあれば彼女 ―マタタビのように堂々と意見してほしい」
モモンガの慈悲深き言葉に、ナザリック総幸福量の折れ線グラフは突如直角の方を向いていった。忠誠心は限界をはるか超越し、地の底から大気圏にまで急上昇していった。
更に追撃と言わんばかりのモモンガの言葉が、彼らを翻弄する。
「そうだな、また反論があると困るし、私がアインズ・ウール・ゴウン、ギルドの名を名乗る理由を話そう」
一瞬、何を思ったか黙り、再び口を開く。
「現在ナザリックは原因不明の自体によりこの平原に転移してしまった。よって、どんな現象が起こるのか予想がつかない。万が一、かつての仲間もこの地に転移していたのであれば、何を持ってしても探し出さねばならない。
だからこそ道標のためにも、アインズ・ウール・ゴウンの名を世界に知らしめなければならないのだ」
「これよりおまえ達の最大となる行動方針を厳令する」と言ってモモンガ
―もといアインズは続ける。
「生きとし生きる全ての者に知らしめてやれ! より強きものがもしこの世界にいるのなら、力以外の手段で。数多くの部下を持つ魔法使いがいるなら、別の手段で。今はまだその前の準備段階にしか過ぎないが、将来、来るべき時のために動け。このアインズ・ウール・ゴウンこそが最も偉大なものであるということを知らしめるためにだ!」
絶対支配者の厳命が玉座の間じゅうに響き渡り、魑魅魍魎共の雄叫びがあちらこちらで起こりだした
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(マタタビ)
彼がそのまま転移でいなくなって、私は九死に一生を得た感覚だった。
名前を訂正させることには失敗したけど、どうにかうまく誤魔化せたらしい。アルベドさんやデミウルゴスに何らかの反論をされるかと思いきや、結局何も言われなかったのは奇跡だ。
これからは二度とこんなことしないように気をつけよう。
ところで3人称で彼をどう呼べばいいのか少々迷いどころですが、とりあえずアインズ様にしておきましょう。
しばらくして玉座の間から転移でいなくなったアインズ様。主役を失った玉座の間は静かですが先程の熱気は確かに残っています。
沈黙を破ったのはアルベドさんでした。
「デミウルゴス アインズ様とお話をした際の言葉を皆に」
「アインズ様が夜空をご覧になられたとき、こうおっしゃいました。
『私がこの地に来たのは誰も手に入れていない宝石箱を手にするためやもしれない』と。そして最後にこうおっしゃいました。
『世界征服なんて面白いかもしれないな』と」
何いってんのデミウルゴスさん?ロマンに焦がれる少年の如き純粋な笑顔で言う事じゃあないでしょう? まさか世界征服なんてそんな……ほらほらアルベドさんもなんとか言ってやって。
「各員、ナザリック地下大墳墓の最終目的は アインズ様に宝石箱を、すなわちこの世界をお渡しすることだと知れ」
『ウオオオオォォォォォ!』
OH~!?
(多分……冗談だよね?)
きっと彼は何気なく夢見がちに呟いたのでしょう。なんだか目に浮かぶくらいリアリティのある話だ。
しかしそんなこと言っちまえば連中がどう解釈するかなんて、普段肩を並べてる私からすれば明白なのでした。
勘違いで無理やりゴリ押しした感じして気に食わない。ひょっとしたらこの話を次回まるごと書き直すかもしれません
けど予定どおりなら次回はメイドの話です
誤字脱字、気に食わぬところ、感想があればコメントお願いします