今回はエクレアもぺスも出しません。
【マタタビの至高の41人大百科】
No.12:あんころもっちもち
無類の動物好き。エクレアやペストーニャなどの作成したNPCからもそのことは読み取れる。
世話の難しいペットを複数種飼育しているらしく、一匹でも死んでしまうと、翌日以降2週間も寝込んでしまうらしい。ここまでくると肉親に匹敵する情の強さと言えるだろう。
そんな彼女のペットに尽くす様子を思うと、果たしてどっちがご主人様なのかわからない。
◆◇◆
ウルベルト・アレイン・オードルが残した御言葉を戎訓にし、妄信を切り離してフラットにこれまでの出来事を思い返す。
ふと、主人は自分たちシモベのことを恐れていたのではないかという、そんな気がした。これは余りに信じがたく突飛な推測でしかない。
けれどアルベドにはしっくりと引っかかってしまう。根拠と言うほどではないが、小さいとっかかりはいくつも思い起こされる。
その中で特に強いのは、冒険者モモンとして共連れを着けずに外界へと繰り出されようとした時の事。
あの時のアルベドは主人の中に逃げ出したい子供のような幼い感情を読み取っていた。後に、冒険者モモンが世界征服計画の重要起点となることに気付いて、これを気のせいだと当時のアルベドは断じたのだが。しかし世界征服計画はアインズ様の一声であっさりと無に帰したわけで、ではアルベドの読み取った推察は本物だったのかもしれない。
何を恐れて逃げ出したかったのかと言えば、やはりシモベたちのことなのではないか。
御方がナザリックから逃げ出したいとするなら、よくよく考えてみればそれ以外に考えられない。シモベの精神構造上、思考から除外せざる得なかっただけで。
その根拠として、
『お前たちにとって私とはどのような人物だ』
この世界に転移した直後、6階層に守護者を集めた主人はこのように問質していた。
シモベにとって至高の存在が絶対者であることは、物理法則よりも上に来るレベルで常識だ。
しかしそれでも主人が問質したと言うことは、違う可能性も視野に入れていたのではないか。
あえて玉座の間ではなく6階層の闘技場に招集したということは、ひょっとすれば何らかの反逆と戦闘すら視野に入れていた可能性も考えられる。
己の常識が相手には是であるとは限らない。話さなければ何もわかり合えず、無駄に擦れ違い続けるだけだ。それはマタタビとの関りを経て嫌というほど思い知った。
何せ、何せ、アルベドが初めてアインズ様と言葉を交わしたのは、マタタビがナザリックに現れた直後であったのだから。
ノイズが奔る思考を掻き分けてアルベドは思索し続ける
仮にアインズ様がシモベを潜在的に恐れていたとしても、一方で慈悲深く愛してくださっていたことは確かだ。
主人はシモベ各々の個性を造物主の存在と共に是とし、可能な限りそれを尊重してくださっていた。また失敗すれど決して見捨てず、もたらす導きは常に前向きである。具体例は枚挙にいとまがないけれど、最たる例を挙げるなら、
武技使い蒐集に失敗した挙句未確認な敵対者に突進してしまったシャルティアを窘めつつも、アウラと共にマタタビから逃げ延びたことは称賛したこと。
王国ではツアレにまつわるセバスの報告不足を処断したが、その善性と行いそのものは否定しなかったこと。
リザードマン侵攻計画など、コキュートスには織り込み済みで失敗させ学習する機会を与えたくらいだ。
以上のことからアインズ様の中には、シモベに対する恐怖心と個性を重んじる深い慈愛、相反する二つの感情が同居していると思われる。そして世界征服計画の黙認という事例。これらの要素を考察して行くと信じがたい推察が成り立ってしまう。
アインズ様は、シモベの一方的な期待に応えるために、冗談だった筈の世界征服を実現しようとしていたのではないか
まるで、サンタクロースを信じる無邪気な子供の寝床にプレゼントを仕込むかのように。
そして推察に伴って、これの最悪な類似例が脳裏に過った。
アルベドは知っている、似たような虚勢を張る賢者のことを。
リ・エスティーゼ王国の王女、ラナー・ティエール・シャルドロン・ライル・ヴァイゼルフだ。
◇
彼女は空虚な人間だった。
王女という人間の中での最上の地位、あらゆるものが賛美する美貌、そして何より人智を超越した類稀なる叡智。
多くのモノを生まれ持った彼女はけれど孤独だった。
余りあるほどの明晰な頭脳は不幸を招いたのだ。
IQが20違うとその人と会話が成立しなくなると言う通説がある。彼女の場合、特にそれが顕著だった。
彼女の思考思想は常人にはただただ異質で不気味だったし、常人の常識は彼女にとって愚かで理解しがたかった。
なので周囲は訳の分からない戯言を宣う彼女を気味悪がって敬遠し、また愚かな猿に囲まれた彼女は周囲を悉く拒絶した。
それでも尚、異形の精神を生まれ持ったラナーですら社会的生物という枠組みは越えられない。力のままに唯我独尊に生きられる竜種のようにはいかないのだ。
過ぎた叡智を宿しただけの少女は、尋常ならざる孤独感に苛まれてその精神を徐々に歪めてしまっていた。そしては儚げな美貌に虚ろな瞳を宿す少女の姿を、周囲は一層に気味悪がる悪循環。
それを救ったのが、クライムという少年の純真な憧憬であった。
彼は、虚ろ気な瞳の不気味な少女を見てこう言った、
『太陽のようだ』と。
果たしてどういう気違いがあったのかは彼のみぞ知るところ。何かの勘違いだったのかもしれないし、あるいはこの時の不気味な少女こそ彼にとっては何より美しい太陽だったのかもしれない。
何にせよ、ラナーがこのように羨望を向けられるのは生まれてかつてない事。未知のものへの強い恐怖を抱いたはずである。
けれど他ならぬ彼の羨望によって、ラナーは社会的欲求であるところの承認欲求を生まれて初めて獲得した。
この時ラナーはクライムの為だけに、クライムの為だけの『太陽のよう』な王女を目指すことを決めたわけだ。
クライムの為に、愛らしい人間の表情を憶えた。クライムの為に、理解できない愚者共への理解を拡張させた。クライムの為に、民を想う慈悲深いお姫様のフリをした。
全てはクライムの憧憬と期待を満たすため。そのためにラナーは己の全てを塗り替えたのである。
愛は人を変えるとはよく言ったものだ。厳密には、
◇
アルベドは話に聞くラナーの素性から、彼女とは仲良くなれそうだと思っていた。
けれど仮にアインズ様が彼女と同類だったなら、アルベドがクライムという少年の立場だったとしたら、それほど悲しいことは無い。
マタタビと接する時の、青年のような声をするアインズ様こそが真の姿で、支配者としての威厳のある一切の振る舞いがシモベの為に象られた虚構なのだとしたら、
だとしたらアルベドは――
◆◇◆
あくる日、パンドラズ・アクターはエ・ランテルにてアインズ様より引き継いで、モモンとしてナーベラルと共に冒険者として繰り出していた。
このところ訳あってアインズ様はお忙しく、パンドラズ・アクターが代理を務める機会が非常に多いのだ。マタタビ絡みと、そうでないのと一件ずつで面倒な事案を解決せねばならないから。
今回は珍しく指名依頼が早く済み時刻も正午に差し掛かったので、拠点である組合の一室に戻り主人に厳命された
ナーベ装うプレアデスのナーベラルは、一般メイドが常用するのと酷似した棒状の甘味栄養食を頬張りながらベッドの上に腰かけていた。モモンの中身がアインズ様であったならあり得ないくつろぎ方だが、パンドラズ・アクター相手に気を緩めても咎められる謂れは無いだろう。
「一つ、聞いても良いでしょうか」
一本丸々食べ切ったナーベラルは一息ついて、窓際の椅子に腰かけるパンドラズ・アクターに尋ねた。
さっぱりした甘い香りが仄かに自分の鼻腔をくすぐる。
「パンドラズ・アクター様はマタタビ……さまに、恋慕の情を抱いておられるのでしょうか?」
あまりに藪から棒過ぎて、パンドラズ・アクターは椅子から滑り落ちそうになった。
「……一体何がどうなって、その発想に至るのですか」
「何がも何も、先日『蒼の薔薇』と面会した際やその道中、彼女と大変親し気に話されていたようなので。よもやと思いまして」
「聞かなかったこととしましょう。お気をつけなさい、彼女に聞かれれば殺されますよ」
マタタビは見当違いの色恋話を極度に嫌う。自分がまきこまれるような話は特にである。
好奇心でネコに殺されるなど笑えない冗談だろう。もちろん彼女は癇癪で殺しはしないので冗談には違いないが。
「失礼しました。よもやここにあの方が耳を澄ますことは無いでしょうが。しかし、冒険者間での
とってつけた言い回しでナーベラルは悪戯気に微笑んだ。パンドラズアクターはこれに無性に腹が立つ。
二人チームの間に詮索も何もあったものでは無いし、御法度になるプライバシーとは基本色恋沙汰しかありえない。
つまりここでパンドラズ・アクターが黙りこくれば、そういうことだと認めたようなものになる。
「まったく、あなたという方は」
ナーベラルはニンゲンに対しては一律に見下して不器用にしか立ち回れないが、同僚には割と冗談も言う人物だ。
普段からこうなら、アインズ様も自分もずいぶん楽が出来るのだが。
しかしこれでも最初期よりはマシになっているらしい。
ならマタタビよりは数百倍マシであると考え、パンドラズ・アクターはひとまず心を落ち着けた。
「あなたが期待するような関係ではありませんよ? それならお聞かせご覧にいれましょう、私がどれだけあの方を嫌悪しているかを!」
ありのままに全て話して興味を失ってくれるのが一番良いだろう。
そう思ってパンドラズ・アクターは、マタタビと己の関係を思い起こした。
◆
パンドラズ・アクターはマタタビのことが嫌いである。
何をどう嫌いなのかという意識以前に、まず魂に刻み込まれた原初の階層意識レベルから彼女のことが嫌いである。彼女のことを思い浮かべるだけで、パンドラズ・アクターの大脳新皮質には蕁麻疹が広がって、尋常じゃない虫唾が奔るのだ。
理由はさっぱりわからない。デミウルゴスとセバスの仲が異様に悪いのと同じぐらい、深淵な謎に包まれている。このことについてはマタタビ曰く、創造主の思想や関係性が影響しているのではとの推察であるが、眉唾もいいところだろう。
何せマタタビ曰く たっち・みー様とウルベルト・アレイン・オードル様の
そしてパンドラズ・アクターの目から見てアインズ様とマタタビは互いを酷く敬愛してる。溺愛とも言っていい。二人は溺れるように、互いの在り方と生き様を敬い愛し合っている。異性愛とは全く異なる関係であるが、守護者統括アルベドが勘違いして自信を喪失するほどには強固な繋がりだ。
そしてアルベドがそうであるように、主人の心の大部分に居座るマタタビの存在が妬ましい。だからパンドラズ・アクターはマタタビのことが嫌いである。
同じようにマタタビの主人への敬意が嫌いである。ナザリックのシモベの誰よりもアインズ様を精神を尊敬している、重い感情が嫌いである。己を含め他のシモベの盲目的な忠誠が一気に安っぽくなってしまうから。
パンドラズ・アクターの中でこのような小さな嫌悪は本当に枚挙にいとまがない。数えればキリがなく、そして彼女の新たな一面を知るたびに無駄に増幅されていくのだ。
マタタビの戦い方が嫌いである。至高の御方々の奥義を我流で極めた手広い御業。それを
マタタビの武器財宝が嫌いである。ナザリックの宝物殿を至上と信じ切っていたのに、これ見よがしと潤沢な盗掘品や武器を見せつけられては価値観が揺るぎかねない。精神支配騒動の直後にアイテム全部を宝物殿に仮置きした際なんか、見聞調査の為に寝食すらままならない羽目になった。
マタタビの性悪な喋り方が嫌いである。捻くれた子供のようでいて、恐ろしいほど正確にこちらの心を慮る、うざい温もりのある喋り方が嫌いである。
マタタビの身勝手な気遣いが嫌いである。己は一人でに抱え込むかと思えば、アルベドが暴発しないようアインズ様の隠した秘密の一部を開示するような無神経さが嫌いである。
マタタビの信頼が嫌いである。本人は誰よりも信用ならない人物なのに、「アインズ様に不利益になるような真似はしないだろう」などと宣う無駄に重すぎる信頼が鬱陶しい。自分が精神支配されてることなど気付きもしないのだから、その能天気さには呆れかえる他にない。
マタタビの自立心が嫌いである。偉大な父より生まれながら、されど己の考えを突き通し家出すらしてしまった強固な精神が嫌いである。アインズ様に付き従おうとする忠実な己を、揺さぶろうとしてくる在り方が嫌いである。裏切った己をアルベドと一括して『愛の奇跡』だなどと揶揄した時には眩暈がした。
マタタビの弱さが嫌いである。感情本意で無鉄砲で、ついつい足元がおろそかになる弱さが嫌いである。眼を離せば何を起こすかわからない危うさが、パンドラズ・アクターにアインズ様を裏切らせたと言っても過言ではない。アインズ様に被害が被っては困りものというだけで、本人の安全は次点でしかないのだが。
マタタビの――
◆
「あっはい、もう結構です。十二分に理解できました」
まったく何もわかっていなさそうなツラだった。
己の感情に整理がつかない者を生暖かくも蔑むような視線。心の底から鬱陶しい。
わからず屋には閉口するしかないだろう、所詮誰しも自分の信じたいことしか信じられないのだから。
「しかしあなたが彼女に興味を持つとは意外です」
「一応彼女は同士なので。アルベド様をアインズ様の妃に推す会の」
「はぁ」
「ついでに個人的な都合を述べさせていただければ、あなたがマタタビを口説いていただければとても都合が良いのですよ
そうすれば、アルベド様の誤解は完膚なきまでに消滅し、アインズ様へのアプローチも再び積極的になられるでしょうから」
「馬鹿々々しい」
ナーベラルは根本的な部分をはき違えている。
アルベドがアインズ様へのアプローチを自粛した理由に、勘違いはそこまで関係ない。
彼女が絶望したのはマタタビと比べた自身のアインズ様への理解度の差であり、心の距離の差なのだから。
アインズ様が胸襟を開くか、アルベドが己で理解し踏み込んでいくかしか解消する術はないのだ。
その点パンドラズ・アクターは知っていた。マタタビと同じように知っていた。
造物主であるアインズ・ウール・ゴウンの本質が受け身的な演技者であることを。
知った上で見ないふりをすることに決めたのだ。
きっかけはこの世界に転移してから初めてアインズ様が宝物庫に訪れた時だ。
主人に訊ねられマタタビの姿に変身したパンドラズ・アクターに対し、デミウルゴスとプレアデスの二人は強い敵意を浴びせかけた。彼女が精神支配に掛けられ反旗を翻した事情があるにせよ、それはそれとしてパンドラズ・アクターは腹を立てた。
けれど本人たちにそれを口にすることはしなかった。激しい怒りを覚えながらも、仕方なしと平然として注意を促すだけに留めた主人の姿を見たからだ。
憐れむのは不敬であろう。器でないにもかかわらず、残された最後の主人として41人に向けられるべき忠誠心をたった一人で背負われるアインズ様はなにより偉大に思われた。それこそ、フィクションである完全無欠の絶対支配者などとは比べるべくもないくらい。
寂しく悲しいことには違いないが、時に矜持は幸福よりも重たいのだ。何せ矜持を捨てるのは時に何より不幸だから。
故に主人はシモベに己が受け入れられる安楽よりも、ナザリックの絶対支配者として君臨することへの誇りを選び取った。
口を挟むのは無粋であり、パンドラズ・アクターに許されるのは密かにその御心を誇りに思うことだけ。口の軽いマタタビすらも、口を挟むにせよ虚構を剥すような横槍はだけは決して入れなかったのだから。
アルベドがどう思うかはわからないが。
◇
マジックアイテムフェチでありマジックアイテムに関することだけでご飯が食べれるという設定を持っているという点。また、仲間大好きモモンガ様のNPCでかつドッペルゲンガーの能力上、ギルドメンバーの技能をリスペクトしてるだろうという点。偉大な父を持ちながら裏切ってしまう苦悩を共有できる存在。
以上の3つのことから考えれば、パンドラズ・アクターさんにとってのオリ主は、シャルティアさんにとってのアインズ様みたいなもんじゃないかと考察しました。
ここに加えて、モモンガ様因子によるマタタビアレルギーと、オリ主自身の性格や境遇などの要素が加わり、手が付けられないくらい情緒を拗らせてしまったという寸法です。
なおオリ主視点だと『読心感知』でもひたすら嫌悪しか感じないので、詳しい情緒は知らないまま「めっちゃ嫌われてるな」って思ってます。
よくよく考えたら元はアインズ様の為ではあるとはいえ、オリ主を精神支配して創造主の意向を背くってNPC的にかなり常軌を逸してる気がする。
解釈違いだったらまんべんなく意見ください。低評価ぽちってくださっても嬉しいです。