【挿絵表示】
一枚だけかと思いきや実質5枚ですね。
上からアルベドさんが職安してくれるところ *1
ツアレさんにぐうの音言わされそうなところ *2
エクレアさんとハイになってるのをシズさんに覗かれてるとこ *3
デミウルゴスさんの妄想に引いてるとこ *4
アウラさんにチャーム掛けられてるのに気付いてショック *5
嬉しくて泣きたいのと、絵をもらえたのに執筆速度が上がらない悲しみで泣きたいのとで二重に泣けるこの頃です。うぅがんばる
後今回尺の都合で2話編成になります。でもルプスレギナは出てきません
【マタタビの至高の41人大百科】
No.11:獣王メコン川
彼を一言で言うなら狼男。
普段は快活で社交的な割といいひとなのに、戦闘時になると性格含めて本物の畜生に変身する。
獣王の名の通り、戦闘スタイルは四足歩行に爪と牙を武器とするガチもんのモンスター。ブルー・プラネットが感動するくらい本物の獣に近い。
生物学的に言えば2足歩行より4足歩行の方が身体スペックは優れてるから、原始的な迫撃戦闘が馬鹿にできないくらい強い。
裸一貫で競うならギルド:アインズ・ウール・ゴウンでも最強の存在だと思う。人よりも獣の方が向いている。
◆◇◆
ナザリック6階層。鬱蒼と広がる大森林地帯の広さは1500ヘクタールほどとのことで、つまり4km×4kmぐらい。高さはわからないけど上昇限界が200メートル。
雰囲気は、この世界で見たトブの大森林と
私自身趣味のギルド破壊でよそ様のギルドの内装はよく見ているわけだけど、一般的に見るギルド拠点の森林地帯は造り物くさい不自然さがあるのが普通なのだ。
分かりやすく言うと、6階層がジ●リアニメーション傑作『もの●け姫』のシ●神様の森とするなら、一般的なギルドの造林は糞アニメの適当な造林背景って感じ。
後者はただ芝生や地面に木草を生やして並べただけで、日光の向きや水辺の設置場所による植生の偏りとかを一切考慮していない。
その点、前者たるこの6階層は凄い。小さい頃アーコロジー暮らしだった私は、母さんに何度か現実の植物園に連れてってもらったことがあったからよくわかるのだが、本物の植物の植生を見事に再現しているように見える。まぁ、別に私は学者でも何でもないので見る人が見たら粗があるのかもしれないけれど。
なんにせよ、ブルー・プラネットもよくこんなものを作り込んだもんだ。むしろ奴め、どうしてここまで作り込んでおきながら最終日に顔すら出さず消えてしまったのやらとすら思う。いや別に彼の勝手な訳だけど。
そんなことを考えながら私は、造り物の星空を仰ぎながらジャングルの木々をターザンよろしく飛んで伝い、目的地へと悠々移動。「あーあー」とか言いたいけど、守護者のマーレさんアウラさん達に感知されたら泣きたいのでそこは自重。
やがて目的地たる円形闘技場コロッセウムが見えてきた。
わざわざ正門から入るのがかったるいので壁面を駆け上る。外壁頂上から待ち合わせの人物の姿を見定めてから、闘技場中心へと弾丸の如く突っ込んだ。
それこそ何時ぞやの漆黒聖典の時の如く。
「たやぁ!」
そして案の定、着地と共に闘技場の大地から土埃が舞い上がる。
「どもどもお久しゅうございますシャルティアさん。御呼ばれされて参上した次第なマタタビです」
「けほっ!? あなた、毎度私が居るところに突っ込んでくるの、ワザとでありんすか?」
「少なくとも今回はわざとですね。ほら、緊張感とか欲しいでしょ?」
「……不意打ちされたわたしの気が抜けていたって言いたいのなら……確かにその通りでありんすが」
うわスゴイ、適当こいたら誤魔化せた。
口調と性癖はふざけてるのに、根っこはすっごい真面目だなーこのかた。
砂ぼこりが晴れ渡って対峙したのは、1~3階層守護者のシャルティア・ブラッドフォールンさん。
いつもはボールガウンのゴシックドレスにパラソルっていう誰かさんの趣味全開なファッションだけど、今は真紅の全身鎧にスポイトランスという完全戦闘態勢である。
気が抜けているなんてとんでもない謙遜だ。
「そこまでは言ってませんよ。シャルティアさんの能力じゃ私に気付くなんて無理ですし」
感知能力を一切持たない彼女では、気配を直前ギリギリまで消していたマタタビに気付くのは無理。
大事なのは即座に反応し体勢を立てる臨機であって、その点今のシャルティアさんは十二分に合格点なのだけど。
「いんえ、あなたがその気なら今の瞬間で私を殺せたはずでしょう? そうでなくても重傷を負わされて不利対面に持ち込まれていたのは確実でありんす」
「いやいや殺せやしませんよ。確かに腕の一本か片足くらいは貰えたかもしれないですが。それにしたって相性の問題ですし」
感知能力もなく血の狂乱と神聖属性という明確な弱点を持つシャルティアさんは、手札の多いマタタビからすればいいカモだ。
シャルティアさんに暗殺という形で一方的な先制攻撃を仕掛ける場合、マタタビは極めて有利と言える。
もっともそれすら、今の内としか言えない程度のアドバンテージだ。
「確かにこの世界に転移したばかりで未熟だったシャルティアさんなら、不意打ちで一方的に倒すことも出来たかもですね
でも今は違う。精々もってけても四肢の一つぐらい。今の反射速度で確信したけど、そのうち私の不意打ちなんてシャルティアさんには殆ど通用しなくなる」
「そんなことは……」
「あるんですよね悲しいことに。胸は成長しないのに、腕はメキメキ伸びていやがる。妬いちゃいますよまったく」
「一言余計でありんすよ!」
この世界にて自我を持ったNPCは、得意分野における極限の才能を有している。
デミウルゴスさんやアルベドさんアクターさんはアインズ様真っ青のIQをもっているし、奉仕者として生み出された一般メイド達は言うまでもなくプロフェッショナル。
アウラさんのモンスターの指揮能力は、茶釜因子も相まって現時点でもビーストテイマーとして最高峰。接点無いからわからないけど、マーレさんとコキュートスさんも多分ヤバい。
そして何より、ナザリックに於いて総合能力最強を誇るシャルティアさん。生まれてこの方研ぎ澄ましてきた私の剣技を早速見切ったり、今の時点でかなり怖い。
だのに、これが
「褒めてくれるのは嬉しいでありんすが、自分のこと棚上げしておりんせんか?
ユリから、仕事覚えるの速すぎてメイド達に目の敵にされてるって聞いたでありんすけど」
「いやいや、私はアレだから。掃除とかは性格の問題でムラッけあって苦手だし、そもそも協調性ないから集団業務を覚えても無駄になるから」
「そこはかとなく目に浮かぶでありんすね……わかっていて直せない当たり根深さを感じるけど」
うるさーい
「……はいはい。んで、今日私を呼んだご用件は?」
この指定場所とシャルティアさんの武装見たら大体察しが付くわけだけど
「そうでありんしたそうでありんした! マタタビ、あなたにわたしの『血の狂乱』の制御のことで相談したいのでありんす」
「ふーん」
『血の狂乱』は、一定量の血を浴びると攻撃力が上昇する代わりに、酔っ払い運転よろしく身体操作の制御が著しく困難になるというデメリットスキル。
先日の私は『飛龍の血瓶』を彼女にぶつけてコレを誘発し、生じた動作の隙を着いて、彼女の弱点である神聖属性の刀で滅多切りにして勝利した。
確かに動作性を損なうデメリットは大きいが、そもそも返り血なんて彼女の持つスポイトランスやスキル『ブラッドプール』で簡単に回避できる。
こないだの私は不意をついて誘発したけど、シャルティアさんが2度目か3度目のへまを踏むようなマヌケにはとてもじゃないが思えない。
「シャルティアさんは決して馬鹿じゃないのだし、考えすぎかと思えますが。
変に気にしすぎるのも、創造主への不敬というヤツでは?」
そもそも製作者のエロ翼王は『血の狂乱』すらメリットとして彼女の能力編成を造り上げたのだし。
100レベルNPC、シャルティア・ブラッドフォールンの強みはバランス良く積み上げられた総合力にある。
彼女は「カースドナイト」や「ワルキューレ/ランス」「クレリック」といういわゆる前衛信仰系職。魔法攻撃や回復と共に直接戦闘もあって、ユグドラシルでも人気が高かったクラス編成だ。
この手の遠近両用の職業は、遠・近それぞれ専門職には一歩劣ってしまうのが少し弱み。そこを、高ステータスが見込める「
武装にしたってクラススキルとの兼ね合いなどが良く考えられていて大したもんだ。
背中の翼はクラススキルのバフによって本職バードマン並みの機動力が見込めるし、
遠近両用、空中戦でもどんと来なされって無敵かコイツ。
ナザリックで1番強いNPCを決めるとしたら彼女になるし、なんなら相性がいいからアインズ様にも楽勝できる。
よくもまぁエロ翼王も、拠点用NPCにここまでの注力が出来たもんだと思う。
しかしこれでドのつく変態なんだよなこの御方。偽乳で両刀で死体愛好家のSM吸血幼女って何だよ。概念かよ。
「だからそんな沢山褒めても何も出ないでありんすよ!?」
「変態は褒めてませんが。なんならちょっと軽蔑してます」
文字通りに心の底からの軽蔑の眼差しを向けてやる。
のだがどうしてか火に油を注ぐ具合に彼女の瞳の熱気が増した。
……豚かよ。
「嫌味か! 嫌味でありんすか! わたしを持ち上げるだけ持ち上げて、楽勝した自分を更なる高みに置こうとしてるでありんすね!?」
「おまえ、私の話聞いてた?」
どうせ私じゃこれから勝てなくなるんだっつーの!
いかんガチ目に腹が立ってきた。私この人やっぱり苦手だわ。
怒り任せに片足で地面を蹴りつけて、ようやくシャルティアさんは落ち着いた。
「……ごめんなさいでありんす」
「別に、私もその……ごめん」
誰かに似てわりかし素直なシャルティアさん。謝られるとそれはそれで調子が狂うんだが。
やりづらいったらありゃしない。
「わたしも今までは、ペロロンチーノ様に与えられた能力に守護者最強として絶対の自信をもっていんした。
でもあなたに会って、それが酷い慢心だとわかったでありんす。わたし、この世界に来るまで『血の狂乱』がここまで厄介なモノだったなんて思いもし無かったでありんすから。
大事なのは、長所も欠点も理解した上で、冷静に適切な対応を選ぶこと。それを怠ったから……わたしがみんなに迷惑をかけた。アウラにもアインズ様にも……何よりマタタビ、あなたにも。」
「そう……かよ」
「だからあなたに『血の狂乱』のいい制御方法があればと思って、相談しようと思ったのでありんす」
耳が痛いどころじゃない。彼女の自責の1つ1つが私の心を貫いて、穴だらけにしてくるようだった。
その傷から滲みだすようにして、暗く破滅的で獣染みた下等な衝動が全身を駆け巡る。
やっぱり私は、どうしようもなくシャルティアさんが苦手なようだ。彼女を前にして、私はいつも冷静を保てない。
舌を噛んでも堪え切らない。いつものように、限界を超えたナニカが溢れてしまいそうだ。
そんな私の腹のうちなど露知らず、彼女は心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「どうしたの? 気分がすぐれないなら後日にするか、それとも辞めにする?」
『どったのマタタビちゃん?』
ああ、ああ、ああ、クソが。
これじゃ昔から何も変わっていない。エロ翼王に暴言吐いてナインズ・オウン・ゴールを荒らした時と同じじゃないか。
ダメだな私は。
いや違う、馬鹿だ私は。エロ翼王じゃない。彼のキャラクターネームは……
「…………ペロロンチーノ」
「ペロロンチーノ様がどうしたの?」
「なんでも、なくはないけど……ない。ごめん時間とらせた。じゃあ『血の狂乱』のことで話そうか」
「ほんとに大丈夫? 大丈夫なら、よろしくお願いするでありんすけど」
「うん」
本当ならば今ここで、シャルティアさんに謝るべきなのだろう。それこそ神官に懺悔するみたいに。
でも今は無理。気持ちの整理が追いつかないし、諸々の事情がややこしい。
まだまだ素直になれなくてホントにごめんと心の中で謝った。
口に出来ないからせめて、私も一緒に頑張ろう。抑えきれない衝動を抱える辛さは、私にはよくわかる。
だから出来る限り彼女の助けになろうと、心の底で私は決めた。
◇
ところで残念ながら私の知識では、『血の狂乱』の動作性のデメリットを打ち消すような手段は無い。
強いて挙げるなら〈
だからと言ってアドバイスゼロかと言われればそんなことは無いのだが。
「結局のところ精神論かな。身も蓋もない話だけど、『血の狂乱』で大事なのは心構えなんだと思う」
「心構えでありんすか? でも狂乱時は一律に暴走状態になって理性の制御が利かなくなるでありんすが」
シャルティアさんはメモ帳を取り出して私の話をメモってるわけだけど。
気のせいじゃないよね。あのペンの無茶な動き、反射神経総動員してセリフ全部写していやがる。裁判所速記官かよ。最早ツッコむのもかったるい。
「そうなんだけどさ。ほら、私が狂乱を誘発した時のことは覚えてる?
突然のことでパニくって、シャルティアさん最初の数舜は滅茶苦茶動きがおぼつかなかったじゃん。すぐマシになったとは言え」
「言われて見ればでありんす。あとそうだわ、洞窟の中で発動した時は……すごく遊び感覚でやってて結局逃がしちゃったから、そう言うのも良くないでありんすよね!」
「かな、そっちは知らないので何とも言えませんが。狂乱度外視しても、戦闘時のメンタルは本当に大切だからね。
私もなかなか制御効かないから、普段から座禅とかしてどうにか抑え込んでるよ」
その点一番狡いのがアインズ様だ。本人はただの一般人なのに、ちょっとMP消費するだけで沈静化されるのは戦闘者として本当に強い。戦闘以外では不便そうな能力だから、あまり羨ましくはないけれど。
それに「完全なる狂騒」が致命的弱点になることを考えると割と危うい。流石に慎重派の彼なら、今は何かしらの対策を講じてるだろうけど。
「あとは単純に経験を増やすことかな。実戦の少ないシャルティアさんたちが見慣れない手段を打たれて動揺するのは仕方ないよ。
だからユグドラシルじゃ未知の危険地帯に潜り込んで何度も死んで蘇るっていうのが、効率的な鍛錬でありメンタルトレーニングだったんだけど」
高レベルダンジョンやギルド拠点にカチコミして私が死んだ回数は、一体どれくらいだったろう? 多分数千回くらいだったかな。万行っていたかも?
これぞいわゆる死に覚え。古来100年以上前からあらゆるゲームでゲーマーたちに伝統的に伝えられてきた鍛錬作法である。
「……地獄のような修行でありんす。マタタビや至高の御方々は皆それを実践してきたのでありんすね」
「ユグドラシルではこの世界やリアルと違って命の価値は安いから、そんなに難しくは無かったんだけどね」
「それは無いと言いたいでありんす、よくわからないけど」
「そうでもないよ」
彼女は仮想の死を知らないからそんなことを言えるのだろうと思う。
ユグドラシルで何遍死んでも、現実における死の恐怖の足元にも及ばない。
だからこっちはこっちで臨場感があって、体感できる実戦経験の質が違うから一概に良い悪いと言える話じゃないのだが。
言っても仕方がないだろう。ユグドラシルがゲームだったなんて、彼女達には信じられるわけが無いのだから。
「話すだけじゃあ仕方が無いし、そろそろ演習してみましょうか」
「わかりんした。ではこれを――」
私が促すと、シャルティアさんはアイテムボックスから円形闘技場の制御盤と思しきタブレットを取り出した。
「マーレの奴に頼んで借りたでありんす。円形闘技場からは持ち出せないようになってるんでありんすが……これをこうっと!」
慣れない仕草でコンソールを弄ると、コロッセウムの観客席から内側に結界が張り巡らされ、いわゆる演習モードへと移行した。
演習モードの結界内で発生したあらゆるダメージや状態異常や死亡は、結界解除後に無かったことにされる。
今この空間内でなら、どれだけ暴れても問題ないというわけだ。
「ちょっと待ってくださいでありんすね? 今、『血の狂乱』の発動準備を済ませるから」
タブレットを仕舞って、何やら道具――血の狂乱を発動させるためのモノだろう――を探り始めた。
私はそれに待ったをかける。
「最初は『血の狂乱』は使わなくていい。その代わり、円盾と『
「なんのつもり?」
「今から私が『
「あなたそんなことまでできるのね!」
これでも多芸さがウリである。又の名を器用貧乏というのだが。
私はアイテムボックスから、緑色の液体が入った薬品瓶を取り出して見せつけた。
「スキルではないんだけど、ケット・シーはこの『獣化の霊薬』の種族適正がマッチしてるから一応『獣化』できるんだよ
ルプスレギナの創造主*1みたいまでとはいかないけど、それなりに上手く戦える自信はある」
なお『
あと盾に関しては、
「理由は良く分かったでありんすけど、わたし盾持ってないでありんす。あれば一応、使えることには使えるけど」
「そうなの? まぁ要らないっちゃ要らないけど。スキルやMP切れとかジリ貧想定したらあった方がいいと思うけどなぁ。ちょっと待ってて」*3
淡い記憶と共に片手でアイテムボックスを探り、4秒もかかってようやく取り出した。
赤塗装に金紋の装飾と猫マークが刻まれた円盾。名前はとある古典ゲーム由来でキトンシールドという。
ぽいと投げてシャルティアさんは軽く受け取った。
「造ったけど思いの外使わなかったから、アインズ様から新しいの貰うまで持ってていいよ」
「ありがとう。これも神器級ね?」
「うん一応。そんなすごいもんじゃないけど」
一応ランクとしては神器級だけど盗賊職の私が装備できるように無理矢理チューニングしたから、せいぜい伝説級の防御力しかない
でも素手よりはマシだろうと思う。
さて、今度こそホントに始めよう。
「準備万端でありんす! 『
「瞬間換装
獣化用の戦闘用付け爪を装備してから『獣化の霊薬』を一気飲み。
でもここでちょっと誤算。
「……苦っ!」
霊薬の味糞マズい。青汁だコレ。
渋面を浮かべながら、締まらない模擬戦が始まった。