ナザリック最後の侵入者   作:三次たま

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本当はラナーのエピソードも挟みたかったですが、書いてる途中で解釈違い起こしたので止めました。なので前話でラナーが登場した話を消してオリ主の設定文に書き換えました。


事情説明:下

 

 父母が異世界で繰り広げた英雄譚なんて、娘としてはただただ反応に困るというモノ。

 NPCの皆様方ならそりゃあ嬉々として傾聴するんだろうけども。

 

 

 動機としては、私と妹の手がかりを求め異界を旅するうち、魔神という名のユグドラシルの負の遺物が世界を壊して暴れていることを知って、その名の通りに正義(まさよし)は放っておけなくなったといったところか。

 

 イビルアイさんの口から語られたサーガは、しかし確かなドキュメンタリドラマとして実感を伴い、私の鼓膜に染み込んでいく。

 

 それは決して天から与えられた棚ボタな力で世界を制する物語じゃない。だがその偉大さは、力と浅知恵しかない口だけの賢者や、暴れて自滅して遺恨だけを残した八欲王などとは比べるべくもない。

 

 種族間差をものともせずに鮮烈なカリスマと誑し込みで強大な仲間を呼び集めた父さんと、時にやらかす行き過ぎをなんとか抑える母さん。

 レベル1から二人で始めた小さな歩みは、次第に仲間を伴って世界を一つにまとめるほどの大きなうねりを作り出していく。

 

 幾度の出会いがあり、成長があり、困難があり、死があり、復活があり、決裂があり、別れがあり、悲しみもあり……まぁ、そんな旅。 

 なるほど、結末はともかくとして(・・・・・・・・・・・・)詳細を伺ってみれば如何にも二人らしい話じゃないか。

 

 あるいは当てのない手掛かりを求めることに疲れ、世界の平定に生きる活力を求めたのかもしれない。だから渋々ながら、母さんも父の危険な参戦を止めなかったのだろうか。

 

 砂粒程よりなお小さい私の存在可能性と、あまりにも途方もなくてどうしようもない世界間の壁。

 諦めることは出来なかったにせよ、ただそれだけに向き合い続けることも出来なかったのかもしれない……などというのは私の後ろ暗い願望でしかない。

 

「リーダーとトウコは、二人の娘のことを片時も忘れていなかったよ」

 

 しわがれた老婆のようで、けれど無垢な少女でもある声色で、イビルアイさんはそう言った。

 私の弱さが見抜かれたのかは定かでない。

 

「……私も学ばないなぁ、皆に呆れられるわけだ」

 

 自覚できるだけマシになったと信じたかった。

 

 元来人とは信じたいモノだけを真実として抜粋し現実を捉え生きる物だ。

 明日横断歩道に車が突っ込み死ぬ可能性はゼロじゃないし、流行り病をもらって取り殺されるかもわからない。

 それでも人が心安らかに日々を過ごせて行けるのは、無限に広がる日々の不安をある程度考えないようにしてるからだ。

 

 NPCにとってみれば創造主による不認知がそうであり、かつてのモモンガにとっての友情への虚飾がそうであるように、私にとっては矮小で最厄な自分が愛されている現実が耐え難いことだった。

 まぁなんと贅沢すぎて迷惑な話だ。自分らしいと言えばらしいけど。

「なんか話してたですか? 私やイモートのこと」

 

「うんざりするほど聞かされたさ。お前の能力の自慢話とか、学び舎での暴れようとかな。

 逆に妹のツバキ……だったか、彼女は随分器用に男や大人を手玉とって学び舎生活を謳歌していたらしいな」

 

「そう、イモートは母さん似たのか。羨ましいねぇ、私はどちらにも似なかったけど」

 

「さぁな、トウコに言わせればお前はリーダー似らしいぞ。9歳で自立を始めたりとかはしなかったが、家出なんてしょっちゅうしてたし気に食わない奴にはとことん喧嘩も売ってたらしいじゃないか」

 

「しかし知らなんだそんなの……」

 

 どうやら私も、少し勘違いをしていたらしい。マサヨシが酸いも甘いも噛み分けた底なしの駄々甘ちゃんなのは知っていたが、若年期の様子なんぞ知らなかった。

 やんちゃだったんだなぁ。私が言うのもアレだけどもうちょっとマトモな奴かと思ってた。

 

「そういうものじゃないか。男というのはいつだって見栄を張る」

 

「黙ってた母さんも意地悪だ」

 

「似てると言ったら喜んで直さないかと思ったから言わなかったらしい」

 

「……わかってらっしゃる」

 

 母さんベスト判断過ぎる。劣等感拗らせてたチビの私が父に似てるねなんぞ言われたら、確かに舞い上がって悪化しそうだ。

 幼少時の私のファザコンぶりはそれはそれは酷かったから。

 

 小さい頃はマサヨシの奴滅多に家に居なかったから、帰ってきた時は必ず両親と一緒に寝てもらったものだ。

 そのせいで夫婦の営みを妨害して妹の生誕を遅らせたことを思い至ったのは、皮肉にも家出してからのことである。

 

「似たようなのが横に居る」

「まんま鬼ボス。これは奇遇」

 

「あーたしかになぁ。家出娘だしどこにも噛みつく狂犬だよなラキュースも。

 八本指もそうだが、陽光聖典に喧嘩吹っ掛けたのはヤバかったよな。ニグンって奴がかなりしぶとかったぜ」

 

「う~!」

 

 ガガーランさんが聞き覚えのある名前を言い流しながら、チームリーダーのラキュースさんににやけた視線を集中させ、たまらず彼女は赤面する。

 

「なるほどそれはそれは、妙な奇遇ですね」

 

「……そのことはもう怒られたでしょ。許してくださいな」

 

 アクターさんも同じようにヘルム越しから私の方を横目に見つめてきたので、たまらなくなって視線を逸らした。

 片やニグンが率いたであろう陽光聖典にちょっかい掛けたラキュースさんと、情報抜くために引っこ抜いたニグンに同情して条件付きで祖国に送還した私。プロセスが逆だが奇遇なことは確かだ。

 

 昨日そのことをアインズ様に打ち明けたらまぁ怒られたこと怒られたこと。

 

 重要な機密は渡してないし、あっちでニグンが上手いことやってくれて法国がナザリックに戦意がないということなので、私のことはどうにか許していただいた。

 もっとも更にに大変だったのが、【傾城傾国】にまつわる事件の発端が法国だと知ってブチギレたアインズ様をどうにか宥めすかしたことだけど。いやあれは宥めたというか私が死ぬ気で土下座したんだけども。

 あんなのタダの玉突き事故だし、そうでなくても過剰報復なんて私はまっぴら御免である。んなことすりゃいよいよマサヨシたちに合わせる顔が無くなるのだから。

 

「……まぁなんだ。私はお前の事情なんてよく知らん。だが自身の落ち度を気にするなとは言わないが、それでも自分を受け入れてくれる者が居るなら無碍にしないことだ。二人だっていつまでも、そのことを望んでいるはずだ」

 

「ええ、そうですね」

 

 アルベドさんにも言われたようなイビルアイさんの言葉を噛みしめて飲み込んで、私は少しだけ天井を仰いだ。

 家出してユグドラシルで遊んでても、異世界へ飛ばされても親の存在感は私の人生に残り続けている。偶然にせよ不思議なものだ。

 

 そんなことを考えていたからだろうか。楽しそうに声をかけてくるラキュースさんの姿に何時ぞやの たっち・みー(・・・・・・) の姿が重なった。

 

「ねぇ、サクラさんが良かったら蒼の薔薇に来ない? 一緒に世界を見て回りましょうよ。あなたとならきっと楽しいわ!」

 

 彼女の進言に皆が騒然とする中で私は、「あーこんな感じだったなぁ」とクラン:ナインズ・オウン・ゴール加入時のことを思い出した。

 今でこそ実力もつけて落ち着いているが、ユグドラシルを始めたての私は雑な80レベルの戦士職ビルドでギルドチームに無謀なカチコミを仕掛けまくっては悉く返り討ちに遭いまくる荒みまくった日々を過ごしていた。いつもの如く無謀な喧嘩吹っ掛けて集団リンチに遭っていた時、通りが縋りの たっち・みー が助けてくれて、今のような具合に面白がって勧誘してきたのだ。

 

「……あ~う~ッ!!」

 

 それが忌々しい初恋の記憶だったことも思い出してしまい、私は頭を抱えて悶え苦しんだ。

 

 ……だってカッコよかったんだもん。

 

 数の差をものともせずに颯爽と助太刀を入れてくれた聖騎士の姿。

 これに惚れない乙女は性癖が捻じれ狂っているに違いないと、当時の私は思ったわけだ。

 

 それでどうしたって? ええ、嬉々としてホイホイされちゃいましたとも。……私らしからぬ愛嬌たっぷりのネコナデボイスで

 

 

Q.間もなく実戦演習の剣筋で身バレした時の、私の心情を15文字以内で答えよ。

 

A.死にたい死にたい死にたいクソが

 

 

 結局のところ捻じれ狂ってるのは私の性癖だったらしい。

 

 だからクランに加入以来ヤツに当たりが悪かったのは、私なりの精神防衛でもあったのだ。

 

 同じ病に苦しむ女性の皆さん、希望をもってください。ファザコンは正しい療法と生活習慣で直せる病です。

 徹底的に悪態ついて心理的距離を測りつつ、寝る前になんどもお母さんの顔を思い出して気を鎮めるという精神療法により数か月かかってファザコンは完治しました。

 

 で結局クラン辞めようとも思ったが、ヤツの心底侘しそうな様子に根負けして大炎上するまで抜けれなかった。別に未練があったとかそういうことでは断じて無い。

  

「鬼ボスが闇の力に苦しむ症状に酷似」

「精神支配の後遺症?」

 

「え? あ……いやアレは……これは多分……」

 

 なんか双子忍者の勘違いと、妙に理解あるラキュースさんの視線が痛い。あーあれか、腕に巻いたシルバーはそういうアレか。

 黒歴史のフラッシュバックだとは口が裂けても言えないので無視に努める。

 

「ハハハごめん呆気に取られてさ。でも辞めといたほうがいいですよ? 私が所属した組織は大抵潰れるか崩れるかだから」

 

「だったら蒼の薔薇はそれまでのチームだったというだけ。大丈夫よ、私たち凄くあなたと気が合うと思うから!」

 

 なんか他のメンバーの皆さんも懐かしいものを見る目で私の方を見守ってくださる。

 多分こんな感じで彼女の元に集ったチームなんだろうなぁ、どこぞのナインズ・オウン・ゴールみたく。

 ただ命がけでも背を任せ合えるという、所業冒険者としての結束力だけが違うだけで。

 

「ラキュースもその辺にしとけ。ぷれいやー と我々とではあまりにも力の差があり過ぎる。

 特にこいつは万能の戦技を極めた究極の個だ。我々に出来てコイツに出来ないことはほとんど存在しないと言っていい」

 

「……でもぉ」

 

 イビルアイさんの言い様が怖い。一体マサヨシはどんな触れ込みで13英雄一行の皆さんに私のことをPRしたのやら。赤恥掻きそうで追及するのも恐ろしい。

 ちゃちゃっと断ろう。

 

「いえいえ、誘ってくださって大変うれしいですよ。確かに、あなた達との旅路なら退屈はしなさそうです」

 

「なら!」

 

「でもごめんなさい、今の私にはやることがあるし、守るものもある。しがらみを大事にしようと決めたから一緒には行けません」

 

「……そうですか、仕方ないですね。それなら是非今の仲間を大事にしてください」

 

 きっぱり断るとラキュースさんは潔く諦めてくれて、そんでもってアクターさん達の方を向いた。

 ……仲間……どっちかと言えば彼らは腐れ縁だけど、まぁいいか。

 

 私はおもむろにアイテムボックスへと手を伸ばして、目当てのアイテムを探し始める。そうして手に取った木製に漆塗りの眼鏡ケースをラキュースさんへと差し出した。

 中に入っているのは、我が愛用地味子の眼鏡のプロトタイプ。今私がつけているのに比べていくらか探知性能は落ちているが、たぶんこの世界だと超級だったりするのだろう。

 

「寂しいので、私の代わりにそれを持ってってくださいな」

 

「眼鏡型のマジックアイテム、でしょうか?」

 

「ええ、相手の難度とおおよその能力がわかる眼鏡です。隠蔽魔法とか使われると無効になっちゃいますけど、つまるところこれで調べられない相手は超格上なので逃げてくださいって感じです」

 

「そんな! こんなスゴイものを、壊してしまったら取り返しがつきませんし」

 

「ご安心を。それの上位互換が丁度今私がつけてるヤツで、ついでに言えばスペアも二つ持ってますから。

 

「受け取っておいた方がよさそうだぞ。ぷれいやー の規格ではそれくらいしないとお礼にもならないみたいだからな」

 

「世界中を旅なさるのでしょう? だったらばそのくらい持ってないと死んじゃいますよあなた方」

 

「そういうことなら……ありがとうございます。大切に使わせていただきます」

 

 

 ぷれいやー事情に通じるイビルアイさんの説得のおかげで、どうにか受け取ってもらえて良かった。

 竜王か手癖の悪いプレイヤーにでも遭遇してあっさり死なれては寝覚めが悪いというモノだ。

 逆に眼鏡以上の支援となると、かえって未知の冒険に水を差すようで無粋だろうし。その時はその時だ。

 

 

 さて積もる話はこんなところか。では最後に一つだけ聞くことを聞こう。

 最悪蒼の薔薇の方々と喧嘩するような羽目になったら、これだけ聞いて帰ろうと思っていたのだが、話が弾んで本当に良かった。

 

「ところでさ、イビルアイさんはマサヨシと母さんが殺し合うことになった、詳しい経緯って知ってるの?」

 

「ああ、リーダー本人から聞いた。……お前もツアーから聞いたのではないのか?」

 

「うん、酒を入れながら私とイモートのことで揉めて殺し合ったって聞いた。違う?」

 

 私があまりにもサッパリとし過ぎてしまったものだから、イビルアイさんを無駄に気圧してしまったようだった。

 彼女は粛々と答える。

 

「いや……間違いない。あの時はみんなで酒宴を開いていて、盛り上がっていた中で二人が先に席を外したんだ」

 

「悪いですけど、詳しく教えてくださいまし」

 

 後でアクターさん聞いたことなのだが、この時の私は酷く強張って鬼気迫る表情だったらしい。

 申し訳ない話だ。別に私は、13英雄の皆様方を攻め立てる気など欠片もなかったというのに。

 

「その……夫婦の営みかと思って誰も気に留めなかったんだ。ツアーも酔っぱらってたせいで裏方の気配に気付けなくて……それで翌朝……」

 

 これ以上彼女が知ってることは無さそうだったので、痛々しい言葉の端を私はザックリ切り落とした。

 

「そっか、ありがとうございます教えてくれて。……じゃあもうツアーに直接聞くしかないか」

 

 諦観気味に暴力の気配を漂わせた私に、イビルアイさんは慄きながらも釘を刺した。

 

「……何のつもりか知らんが、ツアーに喧嘩を売るのだけは止めておけよ。

 ただでさえあいつは並大抵のプレイヤーじゃ歯が立たないし、お前では相性が悪いはずだろう」

 

「承知してますご安心を。死ぬ気も殺す気もありませんよ。ただ私みたいな野蛮人は、口よりも肉体言語の方が達者なんです。

 私は絶対に彼と決着をつけなきゃいけませんから」

 

 アクターさんは沈黙していた。他の面々も恐縮していた中で性別不詳戦士のガガーランさんだけが助け舟を出してくれた。

 

「口挟むだけ無駄だぜイビルアイ。コイツの覚悟は決まってる。どんな戦士にも引き下がれない戦いがあるってもんだ」

 

「そういうことです」

 

 歴戦の強者っぽいガガーランさんが私を見て戦士と評してくれたことが、私は地味にうれしかった。

 

 

 

 かくして思い出話を求めての蒼の薔薇さん訪問は、私にしては円満に終わったわけでした。

 

 

 




皆に届け! オリ主のキモさ!(猫並みの感想)
オバロ特有の残念美女に名を連ねさせたい



ラナー様とオリ主の性格が真逆なのでいいカンジの対比表現できるかなと思ったけどくどいので省略しました。……万が一気にかかるようでしたら気軽にご意見か低評価どうぞ。
後でいいカンジの解釈が見つかったら再改変するとは思いますが……


◆本編から省略したクライムの裏話

 クライムが男爵位になりました。
 例の一大事件の時に、ラナーが悪魔にヤラセをお願いして出来る限りクライムが武勲を立てられるように調整してしてもらった結果です。

 まずは最大戦力であった白金の竜王と漆黒のモモンをヤルダバオトとアルデバランが請け負い、次に強いとされるイビルアイと美姫ナーベをメイド悪魔二人が担当。
 ラキュース、ガガーラン、ティア、ティナの相手を、悪魔が精神支配した八本指側の実力者だったらしい六腕の4名(リサイクル)に割り当てさせる。一人暴走しかねないガゼフは作戦前に処理。
 残った最大戦力はレエヴン公率いる元オリハルコン級冒険者チームとクライム。これを2チームに分け、ラナー達王族が幽閉された塔にはクライムとロックマイヤーという盗賊を、貴族たちの方には残りのメンバーを救出に行かせる。
 仕上げに王族の幽閉塔の門番を、六腕の中でも最弱でクライムたちが唯一勝ち目のあるサキュロントという男にさせて、万全の体制でもってクライムに大金星と王族救出という理論上最大値の功績を与えたわけです(原作再現)。

 悪魔に痛めつけられた貴族達は、武勲を上げたクライムの爵位授与を寧ろ諸手を挙げて歓迎。そんな感じ



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