【マタタビの至高の41人大百科】
No.2:モモンガ
アインズ・ウール・ゴウンのギルド長。個性の強い面々をまとめ上げてギルドを運営していた手腕は尊敬に値する。温厚でおとなしい性質だが、しかしいつもギルドの中心にいるのは彼である。28人とは普通に仲が良いし、るし★ふぁーみたいなはぐれものすら受け入れる度量の持ち主はそうそういない。
とはいえその根底にあるのは異常なまでの執着心であり、マタタビはそれが自身に向けられることを嫌がっている。
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ナザリック地下大墳墓 9階層 モモンガ執務室(モモンガ)
ユグドラシルサービス終了直後、ナザリックが素知らぬ平原に転移した。拠点用NPCが自我を持って動き出し、魔法やスキルなど世界法則が大きく変異していた。そしてそれから数日が経った。
とりあえずNPCたちは自分に忠誠を誓ってくれているため、一先ず身の安全を確保することは出来た。
新たな世界法則については未だ要実験だが、それと同等にこの異世界の情報を集める必要がある。それにいるかわからないが他のユグドラシルプレイヤーがどう出てくるのかわからない。
現在はアウラのシモベ達がナザリック周辺の警戒網を構築しつつ森林の調査をしてもらっているが、それだけでは時間がかかり過ぎる。
「この〈遠隔視の鏡(ミラー・オブ・リモート・ビューイング)〉の操作方法がわかれば、ナザリック周辺の警戒網作成に役立つはずだが……」
今格闘している〈遠隔視の鏡〉は、距離に関係なく指定ポイントを見ることができるマジックアイテムだ。一見すると便利アイテムだが、魔法による隠蔽や攻性防壁に対しての脆弱さがありユグドラシルでは微妙なアイテムだった。とはいえ未知の多いこの世界では非常に有用だろう。
この世界に来て操作方法が変化しているらしく、それが何なのか確かめるために現在悪戦苦闘している。
「ん?」
コマンド音がしたと思いきや、ようやく鏡の情景が動き出した。どうやらタッチパネル方式だったようだ。
「おめでとうございますモモンガ様」
「ありがとうセバス、付き合わせて悪かったな」
傍にいた執事のセバス・チャンが賛辞の拍手を叩いた。しかしこんなことに一々拍手されてぶっちゃけ気恥ずかしい。頼まなくてもずっと側についてくるんだよなぁこいつら。
「主のそばに控えご命令に従うこと。それこそが、たっち・みー様によって生み出された執事としての私の存在意義です」
「……そうか」
上位者として振る舞おうと決めたからにはそれを辞めることはできない。しかし
(疲れるんだよなぁ)
普段慣れないことをしていたからか、存在しないはずの胃がキリキリ痛む。
「さて、人がいる場所を探してみるか」
鏡の情景を動かしてしばらくすると、村のような人里が見えてきた。ただその様子が少し変だ。人々が慌ただしく村中を走り回っている。
「祭か?」
「いえ、これは違います」
画面を俯瞰図からストリートビューに変化させてみると、馬に乗った騎士風の者たちが村人を一方的に虐殺しているのがわかった。かなり惨たらしい死に方をしているものまでいる。
「野盗ではないようだが」
おかしい。この世界にやってくる前であれば卒倒していた筈なのに、何故冷静に見ていられるのだろう
どうやら体だけでなく、心までもがアンデットのものに変貌してしまったのだろうか。マタタビさんも、来たばかりの俺に「誰だこの魔王」とか言っていたけど、彼女自身はどうなのだろう?
「どう致しますか」
「……本来であれば、助けに行く理由も価値もないのだが」
この世界に来て初めて発見した知的生物の集落。襲われる前であれば友好的に親交を結びこの世界の情報収集の足掛かりとすることができた。しかし助けるという場合、敵の戦力があまりにも未知数なため危険が大きすぎる。正直な話、村人は見捨ててしまいたかった
(マタタビさんはこのことどう思うんだろう)
今の彼女がどういう精神構造をしているのかまるで不明だ。俺のように倫理観を排した思考が出来るのか、最悪ここで袂を分かってしまうのかも判らない。ギルメンではないとはいえ、最後まで残ってくれた友人が消えていく姿は想像したくはなかった。
どうすればいいのかわからず俺が頭を抱えていたところ、心配したセバスが声をかけてくれた。
「如何なさいましたか? モモンガ様」
(たっちさん!?)
一瞬、セバスの姿が懐かしい白銀の騎士のそれと重なるも、直後それが気のせいだと気付いた。
思い起こすのはとあるオーバーロードがまだスケルトンメイジだった頃。ユグドラシルにすら絶望しかけた自分に、彼はなんと言っただろうか。
(誰かを助けるのは当たり前……か)
「セバス、私はこの村に行く。ナザリックの警備レベルを最大限引き上げろ」
「御意」
「アルベドに完全武装で来るように伝えろ
次に後詰の準備だ。この村に隠密能力のある者か、透明化の特殊能力が使えるものを複数送り込め」
「畏まりました」
気づくといつの間にか勝手に口が動いていた。支配者としての振る舞いにある程度慣れたからなのか、億劫なくNPCたちに指示が出せていた。
迂闊な行動かも知れないが、どのみちこの世界に来たあとの自分の戦闘能力は確かめておく必要があったのだ。幾分かは私情で動いていると言えど、おかげで躊躇う気にならなかった。
「《ゲート/転移門》」
俺はギルド武器試作版の杖を取り出しユグドラシルでの最上級の転移魔法を発動させる。空間が裂けては捻じれ曲がり、やがて虚空に混沌の穴が現れた。
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1分後 カルネ村近郊(マタタビ)
さて休憩も終わったしメイドとしてしごかれますか、マジだる~い。そんな具合に腹をくくっていたところで、執事長のセバスさんがやって来て突然後詰をやれと言いなすった。
神器級学制服に急いで着替えて執務室のゲートから出るとそこは森の中。なにげに異世界に出るの私初めてなんですよね~。ずっと昼夜の区別もつかない地の底でメイドさんやっておりました故。
出れなくもなかったですが、万が一バレたら怒られちゃいますし。ま、その話は置いておいて
転移門から飛び出すと、《アンティライフ・コクーン/生命拒否の繭》と《ウォール・オブ・プロテクションフロムアローズ/矢守りの障壁》を被った姉妹らしき女の子達が森のなかで失禁しておりました。
面倒だから無視(ちなみにケット・シーの嗅覚は尿臭を鋭く察知します)。
10メートル先でモモンガさんとアルベドさんが仲良くのんびり歩いておりましたが、せっかくの逢瀬を邪魔するのはいけないのでこれまた無視します。
というか二者の間で一体何があったの?事案発生ですか?
まぁともかく仕事仕事。後詰をやればいいんですよね。あれ、でも後詰めってどういう意味?
仕方がないので普通に敵情視察というのをやってみたいと思います。
ワタクシめの十八番、偵察です。まずは隠形の次くらいに得意な気配察知系スキルで周囲5キロ程度のフィールドに検索をかけます。ユグドラシルでは漁業でやるソナー映像みたいなのが浮かんでくるのですが、この世界に来てからはこれまたフィーリングでわかるようになりました。
ただ脳みそに負担かかっちゃうみたいで、使うとちょっとだけ頭が痛くなります。精神だけでなく、物理的に頭痛の種が増えてしまったみたいだ。
ともかく、頭痛をこらえた結果見えてきたのは3種類の人間種集団でした。
ひとつが今モモンガさんたちが歩いている方向、村で騎士風の人たちが村人と一緒にレッツパーリーしているところです。デスナイトが現れて若干かき乱されましたが。
もうひとつは少し離れたところから村へ直進する集団、村の騎士の奴とおんなじかも?いや、村の殲滅程度に別働隊なんて普通は必要ないから別物と考えるのが自然か。
最後の集団は、二つ目の集団をちょこまか付け回しているようでした。ただ隠密について一家言もつ私から言わせてもらうと、高い統率力は見受けられるのですが尾行に慣れているとは思えません。ちょうど、傭兵魔法職ギルドの連中が最上級不可視化魔法ごときで幼稚な隠密ごっこやってたのに似ている気がしました。
これらの話を総合すると
「村を囮に後ろからグッサリ作戦」
という筋書きでしょうか?これではまだ仮説に仮説を重ねたペテン未満ですけども。
なんにせよ、一番動きが怪しいのは最後の尾行集団です。偵察に行くならばそちらから先が一番良いでしょう。
隠形スキルを目一杯使ってから、全速力でダッシュ開始。私のステータスはあらゆる防御を捨てての素早さ一点振りとなっておりますのであっという間でしょう。
3番目の集団のところに到着しました。スカッシュレモンみたいな頭の男性がリーダーでしょうか。整列状態の集団に何やら御高説唱えています。
「各員傾聴、獣は檻にかかった。汝らの信仰を神に捧げよ!」
宗教家のようです。言ってるセリフからして私の予想してたグッサリ作戦がビンゴっぽい。
しかし妙なことに、皆さん弱そうですね。私が普段装備しているこの〈地味子のメガネ〉の特殊効果にはド○ゴン○ールのスカ○ター的能力がありまして、目視でおおよそのレベル、能力値、職業系統、所属ギルドが判るようになっています。
スカッシュレモンさんのレベルは20代後半、年齢は30代後半、第四位階を齧った程度の信仰系魔法詠唱者、スレイン法国・陽光聖典所属?
他の隊員たちは三位階までしかない初心者集団、かと思いきや統制力やチームワークが今まで見てきたどのプレイヤーものよりも抜きん出ているからそこのチグハグがなんとも言えない。
あれ? おかしいな、隊員全員目がガラス玉みたいになっちゃってる。どういうことでしょう。 スキルで調べてしまいましょか。
ふむふむ、皆さんどうやら条件付きデスペナルティ系統の呪術がかけられているようですね。どういうつもりかわかりませんが、これも一応報告しておきましょう。
では次に戦士集団を見に行きますか
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カルネ村 村長宅個室 デスナイトによる騎士殲滅から間もなく(モモンガ)
「という次第にございます魔王さま。 殲滅するもよし、友好を結ぶもよし、拷問するもよしと言う具合にどうとでも料理できる連中でした」
「後詰の意味についてはあとで教えてやるとして……ともかく報告ご苦労」
突然現れたマタタビさんが、頼んでもないのにいつの間にか周辺情報を網羅していた事実に、思わず精神沈静化が起こってしまっていた。
かつて彼女を敵に回して崩壊したギルドがどれほどあったことか。こっそりギルド拠点深奥まで辿り着き持ち去ったギルド武器は数知れない。「屋台崩し」の異名を取るほどだ。
ぶっちゃけ今回はオーバーワークもいいところだが、やはりこの人は一番敵に回したくない。
ところで幸いにもマタタビさんも俺同様に精神構造が変化していたようで、人間が虐殺されているところを見ても特に何も思わなかったようだった。
『チンパンジーの虐殺動画見てるのと同じ感じですね』
……そう感じて何も思わなかったのもどうかと思うが、まぁいいか。
今後ナザリックを運営するにあたって、仄暗い部分も確実に出てくるだろう。NPCは全体的にカルマ値が低く、食人を好むものも多いのだから。それに対して悪感情を持たれて彼女に離反されてはたまらない。
マタタビさんは昔から何考えてるのかさっぱりわからない掴みどころのない人だった。最終日に侵入してきたのもそうだし、突然メイドになるって聞いた時は度肝を抜かされた。アルベドが本人の希望と言ってたけど未だ信じ難い。
ひょっとして彼女は外敵よりもよっぽど警戒するべき相手なのではないだろうか
ひととおりマタタビさんからの報告が終えたところで、アルベドは窘めるように言った。
「マタタビ、御方は現在アインズ・ウール・ゴウンと名乗られておいでなのです。
お呼びする際には気をつけなさい」
自分がこんな感じに注意されたら恐縮してしまうだろう、そんな感じの口調だったが、マタタビさんはどこか慣れた具合に軽く切り替えした。
「あー ひょっとしてアルベドさん、私がひとりだけ『魔王さま』呼びしてるのに嫉妬してました? ごめんなさい、これからは普通に呼びます」
「っちち違うわよっ!?」
「いえいえ女性にとって男性の唯一はかなり大きいものでしょう。なんでしたら二人の時だけ『あなた』とか呼んでいいか頼んでみたらどうです?」
「ちょっと、おま、何いってんの!?」
「くふーっ!!」
「アルベドさん大丈夫ですか!? アルベドさんっ!?」
顔を真っ赤にして両耳と頭頂部から『クフーッ』っと蒸気を上げながら憤死するアルベド。どうやらマタタビさんもアルベドとはだいぶ仲良くなったらしい。
自分もこんな風にNPCたちと打ち解けあえたらどんなに良いだろう。かつての仲間達の時みたいに面白おかしく楽しくて、それはきっと素晴らしいことのはずだ。
二人の楽しそうなやり取りに、かつてのアインズ・ウール・ゴウンの姿が重なる。懐かしくも愛おしい日々が
俺は思わず、うつろな幻視に手を伸ばそうとうした。
だが当然といえば当然、過去の思い出は時間の流れに遮られ、今目の前の彼女たちとは主従の壁が立ちはだかる。伸ばされた手は人知れず膝下に戻った。
一瞬こちらを見たアルベドが何か言いたそうだったが、思い出したようにマタタビさんの方を一瞥し、結局何も言ってこなかった。
俺は柄にもなく、マタタビさんが羨ましいと思ってしまった。まるでかつての仲間たちがそうであったように、彼女はNPCと肩を並べている。昔の俺がそうであったように。
そして今の俺は、昔の彼女のように一人きりだ。
(まるであべこべみたいじゃないか)
昔の彼女はあの事件の後も、他のメンバーがいなくなっても、アインズ・ウール・ゴウンと友好的に付き合い続けてくれていた。しかし、ナザリックに招待されても固辞するなど一定の距離間を欠かさなかったのも事実だ。
多数決という形をとりなし結果的に彼女を追い出すようにした俺のことを、一体どう思っているのだろうか。彼女の中でどのような折り合いがなされているのかはわからないが、それを一歩踏み出して問いただす手段を俺は持たなかった。
アルベド「モモンガに寄り添いたっかったけどオリ主が邪魔で出来なかった」
マタタビ「自業自得じゃね?」
今回の捏造設定
・オリ主の能力全般
・地味子のメガネ
今回のオリ主はちょっとテンションおかしいかも。作者も後詰の意味がわからなくて辞書引いたのは内緒。
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