ナザリック最後の侵入者   作:三次たま

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マタタビ「アンケートの私の横に居てしっくりくる奴大賞! 
     見事アルベドさんデミウルゴスさんを抜いて受賞おめでとう
      アクターさん!!」ドンドンパフパフー!!
 

パンドラズ・アクター「欠片程もうれしくありません」

マタタビ「知ってる」



 というわけでこの章のエピローグはこの二人でお送りします。
 アクターさんは極度の心労とオリ主の真横ということもあって演技モード皆無で誰コイツ状態かもしれませんがご容赦ください。




エピローグ

◆◇◆

 

 

 魔皇ヤルダバオトが王都に襲来したマッチポンプな一大事件から数日。

 

 けれど王都の街並みや喧騒は特段変わっているようには見られなかった。強いて言うなら衛兵たちの動きが妙に忙しいのと、道行く冒険者の顔つきが若干晴れやかなことくらいだろうか。

 

 実際のところ悪魔が襲いにかかったのは、表向きの諸悪の根源たる八本指の7大拠点と、平民にとっては雲の上に等しい王城ヴァランシア宮殿ぐらいなものだったから。

 

 王城を『ゲヘナの炎』と呼ばれる摩訶不思議な無熱の業火が包み込んだ姿は未だ記憶に新しい。だが、アダマンタイトを冠する二色の者達を代表とした数多くの冒険者と、この世界を遥か太古より見守り続けた評議国の竜王の活躍により今となっては平和そのもの。戦火の傷口は驚くほどに浅かった。

 

 また酒場に浸る酔いどれの事情通からは、連中は悪魔どころか天軍だったのかもしれんと戯言の様にのたまわれたりもする。

 

 というのも、王国を巣食う邪悪であった八本指をあっという間に滅ぼしたのは、黄金の姫達が遣わした勇気ある秘密の先遣隊ではなくて、身の丈に合わぬ悪魔召喚の代償だったらしいから。

 

 それともう一つ。王城を盾にして逃げ込んだ悪魔たちは、人質とした王族や貴族に対して口にするのも憚られる実に凄惨な所業を行ったのだが、どうもその犠牲となったのが後ろ暗く薄汚い業を背負った、いわゆる悪徳貴族に類する者達ばかりだったから。まるで地獄の業火(ゲヘナの炎)は善人には涼しいものだと言わんばかりに。

 

 ちなみに王族で犠牲になったのは、武勲で知られた第一皇子と、その凄惨な最期を間近で見せられ精神を病んだ現国王。

 

 現在の政務は第二王子と補佐役の第一王女が中心になって行われているらしい。王位継承の時期はそう遠くないだろうが、近くもない。

 

 一大事件の直後でしかも6割以上の武官が惨死した今の王宮の忙しなさは、突かれて地に落ちた蜂の巣と同じだ。年度ごとの戦争も近いので国政が落ち着くのはいましばらく先だろう。

 

 だがそれでも、鮮血帝による熾烈なクーデター直後に武官不足を嘆いたバハルス帝国との類似性を鑑みれば、王国の未来はすこぶる明るかった。

 

 むしろ数代に渡って着実に騎士団を掌握し、気難しい大魔法使いの手綱を引いて決死の覚悟で血の改革を成功させた現帝国皇帝は、今頃血の涙を流して悔しがっていることだろう。

 

 棚から牡丹餅の結果的な粛清現象(・・・・)の恩恵をあずかり国家統一を為した王国の姿を見て、全て黄金の姫が悪魔と契約して仕組んだのではと馬鹿々々しい陰謀論勘ぐっているかもしれない。

 

 実のところそれが隠された真実な訳であるが。

 

 ところで彼の毛根を痛めかねないストレッサーは他にもある。それは道行く冒険者たちの晴れやかな表情とも関係があった。

 

 今王都では否王国中の冒険者組合において貴族達による冒険者たちの引き抜きが行われている。当然組合の抵抗は必死であるが、非常に厳しい状況だった。

 

 というのもヤルダバオト達が占拠した王城を開放に導いたのは、宮仕えの衛兵や騎士団では無く冒険者たちだったから。

 

 冒険者たちは漆黒の英雄主導によって立てられた真に完璧な解放作戦に従い、カリスマ優れる蒼薔薇がそれを見事に率いた結果、多少の重軽症はあったものの一切の死者を出さずに王城の奪還を成功させたのである。

 

 蚊帳の外に置かれていた市民達はただ手を叩いて褒め称えるしかできないだろう。

 

 だが多くの生き残った貴族達はその限りでは無かった。悪魔による残虐行為が間もなく自分に降りかかるのを待つ他に無かった、そんなところを救われたのだから。

 

 特に彼ら貴族達のモデルケースは蝙蝠野郎と悪名高いレエヴン公の、そのお抱えの元オリハルコン級冒険者チーム。

 

 囚われて横並びに集められていた貴族たちの中から、彼らの手で一目散に救われたレエヴン公の姿は素晴らしいほど羨望の的となった。

 

 しかも話によると、彼のチームの中の高名な戦士が領地の兵士の訓練を行ってるので、レエヴン公の兵団の練度は他より著しく高いというではないか。

 

 なら自分等も、オリハルコンとは言わないまでも金や白金の粒ぞろいを是非招き入れて自軍の強化を図りたいというそんな魂胆。

 

 そして魔法詠唱者にも再評価の目途が立つこととなる。

 

 彼ら失くしては悪魔の群れを焼き払って突破することも、傷ついた者達の命を繋ぎ止めれることも出来なかった。

 

 今まで国家ぐるみで軽視していた魔法詠唱者、その活躍を文字通り目の当たりにした権力者は手のひら返して重要視し始めた。

 

 引き抜きは当然、そうでなくても神殿や魔術師組合に金を流し関係性の強化を図ろうとか。

 魔法詠唱者の才能が見つかり次第、しかるべき教育者と補助を与えて確実に育て上げる仕組みをつくろうとか。

 

 

 どれもかれも地獄のトラウマで恐怖に駆られた浅慮な魂胆。

 

 だがそれは間違いなく王国にとって利益となる動きだった。

 

 無駄に税金を溜め込んだドケチ共は今後、必死に駆られ国家レベルの公共事業張りに金をばらまいて、確実に富と力を生み出すことになるだろう。

 

 

 

 

「というのが今回の脚本です。これで満足いただけましたでしょうか? マタタビお嬢様」

 

 黒甲冑のいわゆるモモン装備に化けたアクターさんはつまらなそうに、先を歩くマタタビに告げた。

 マタタビはただそっけなく返す。

 

「……別に、殺すなとか平和にしろとか頼んだ覚えはないんだけど」

 

 青く晴れ渡る王都の街並みは、英雄たる彼の姿を否応なしに注視していた。

 

 だが隠形によってマタタビが見られることは無く〈(カーム)〉のスキルによって会話が衆人に聞かれることも無い。

 

 それはアクターさんの後ろを歩くナーベラルさんにも同様だった。数歩分後ろを歩く彼女には、その姿こそ見えるけどマタタビとアクターさんが何を話してるのかは聞き取れない。

 

「ナザリックやアインズ様からすれば世界征服よりお嬢様のご機嫌の方が重要ですから」

 

「はいはいありがとねー。収入は八本指から徴収した分だけになって半減だし、王国の支配からは遠のいたけど」

 

「ご安心を。事を穏当に済ませたのは評議国の竜王との将来的な協力関係を考慮してのことでもあります

 ただでさえ悠久の時を生きる竜王ですから、機密はいずれ明らかになるものと想定して動いた方が賢明でしょう。

 いずれ王国がより富んで平等な国家に育つときに、その切っ掛けとなったヤルダバオトの一切を明かすことでより友好的な関係へと持ち込むという魂胆です」

 

「流石抜け目ないですねー」

 

 そんな七面倒なことをするくらいなら殺せばいいのに。

 そうしない理由は明らかだ。

 

「もちろん全てはマタタビ様と、そしてアインズ様とナザリックの大望の為に。

 世界級アイテムにすら匹敵する始原の魔法の権能が世界の壁を打ち破る可能性を持つ以上放っておく手はありません。

 無事解決した今だからこそ言える結果論ではありますが、マタタビ嬢があの竜王と関係を持てて幸運でした。

 下手を打てば たっち・みー様の死に気付けず、あまつさえそのご友人を殺害し、復活のための足掛かりを完全に消すこととなったかもしれないのですから」

 

「……ありがとう。気遣ってくれて励ましてくれて。その優しさに涙が出るよ」

 

「それは何より。どうかアインズ様とデミウルゴス様にもそう仰ってください

 

 あとそれに、古来より大陸を見聞し、己に世界の守護者を課した竜王は上手く使えば利益となるでしょう。

 もっとも世界征服命令は破棄されましたが。あの時は私も驚きましたが」

 

「破棄とは違うんじゃないかなあれは」

 

 先日デミウルゴスさんの作戦終了報告の時にアインズ様が言ったのだ、

 

『世界征服なんて計画したつもりはない。冗談で言っただけだから本気にするな』

 

 と。

 

 あの時のNPCの皆様の驚愕振りはとてもとても見物だったなぁ。

 

「アインズ様も怒ってないし、あそこまで気に病まなくてよかったと思うけどね」

 

「いえいえ、お言葉ですがむしろ魂に刻み込むぐらいで丁度良いかと。デミウルゴス殿のお気持ちは十二分に察しますが、流石に主人の言葉を勘違いして行動に出るのは忠義云々以前に常識的にタブーでしょう。

 聖誕記念などにサプライズで贈らせて頂くとかなら、確かに悪い試みではないでしょうが」

 

 なまじ出来そうな気がしてうすら寒いわ。

 

「悪い悪い。サプライズ感覚で世界制しちゃうあんたらホント怖いですよ。せめて……いや」

 

 咄嗟に『せめて国家単位とかにしたら?』とか狂った助言しそうになった自分を窘める。徐々にナザリック脳が馴染みつつある自分に戦慄した。

 もっと別の助言にしよう。

 

「苦手な私が言うのもなんだけど、報・連・相なんて上が言うほど簡単じゃないですし。

 ナザリックみたく上長と部下の立場格差が極端過ぎると、どれだけ部下が優秀でも連絡の齟齬は起きますよ

 

 なにせ彼らはアインズ様に、自分の命以上に大切な『存在意義』という命脈を握られてしまっているのですから。

 

 ほんとに些細な確認作業でも、いや些細であればあるほど『聞いたらむしろ怒られそう』とか『自分で考えろとか言われそう』とか『そんなことにお時間を頂くわけには』って考えて間違いが始まる。

 

 私から言わせれば尻ごんで口数少ないアインズ様にも問題はありますし、どっちが悪いかと言われたらどっちも悪い。知ってて黙ってた私はクソ野郎ってね」

 

 

「黄金の如く重く尊き忠言深く感謝します。肝に銘じておきましょう。また、第三者視点たるその立ち位置の重要性も重ねて身に染みました。

 やはりあなた様はナザリックとアインズ様に必要な方だ。それに比べればたかが一国の処遇など、羽より軽い」

 

「……そーですかい。『マタタビを娶るなど酷い冗談だ』というのも尊きアインズ様の御言葉です。忘れないでくださいよ?」

 

「当然、というか私にその気が無かったのは、アナタ様も知っておられたことでしょう?」

 

「ま、そうですけど」

 

 あれを発表した時も酷く爽快だったものだ。

 

 デミウルゴスさんの眼鏡がひとりでに割れ、アルベドさんが再び白目をむいて鼻血垂らして倒れそうになったのはホントに笑えた。彼女はもうちょっとうれしそうにすればいいのに。

 

 ちなみにアウラさんとシャルティアさんが『なんじゃそら』って変な顔してたのは可愛かった。

 

 彼らNPCの精神は妙なところで非常に繊細にできてるようだった。

 

 そのことを頭に入れると、猶の事先日のアルベドさんの大告白はとんだ異常現象だったのだと気付かされる。

 

「ねぇアクターさん、玉座の間でのアルベドさんの仰天行動

 私が思うにあれは愛が為した奇跡なのですよ」

 

「思いのほかロマンチックな表現を好むのですね」

 

 言われて見れば確かに自分でも意外な言葉だった。私は『愛』という言葉がどちらかといえば嫌いだ。

 ロマンを求めるのは恋愛モノのフィクションの中だけにとどめているつもりだったんだけども。

 

「自分でも意外かな」

 

 よもや目の前の男の如くフィクション(・・・・・・)が立体化するとは思いもしなんだから。

 そここそが美しくも不気味な神秘の塊であって、ある意味ではこの異世界においてアインズ様とマタタビにとって何よりの重要事項だった。

 

「あなたがたNPCの皆様の優先順位はまず第一に製作者。次点でアインズ様を含む他のギルドメンバーで、その次くらいにナザリックや他のNPCって感じになってると思う。この時点で異論はある?」

 

「ありません。ほぼその認識で間違いないかと」

 

「なら続ける。上述の性質は本人たちの構成人格でもあるけれど、プログラム的な側面も強いと私は思っているよ。

 たとえばデミウルゴスさんとかがこれから何百何千年以上に渡ってアインズ様と高い信頼関係を築いても、ウルベルトが裏切れと言うなら裏切るでしょう」

 

「その根拠は?」

 

「確たる根拠はありません。実際に彼らに接してみて私がそう思ったというだけです。強いて最たる例を挙げれば、ナザリックの簒奪を命ぜられたエクレアさんになるのかな。彼の精神を一般論で理解するのは不可能じゃないかと思いますよ」

 

「感心します。本当に我々をよく見ておられる」

 

「政治とか経済はちんぷんかんぷんだけど、ヒトを見る目にだけは自信があるので」

 

 ちなみに命ぜられたというニュアンスも非常に怪しいところだけど。アルベドさんのアレ然り、シャルティアさんの似非廓言葉然り、それこそエクレアさん然り、落書き同然だった設定文章に書き込んだというだけで、製作者たちが口頭で言い聞かせたわけじゃないのだし。

 

「余談はともかくこの性質を……仮に【製作者への優先】とでもしましょうか。多分これは不変の法則だと思います

 ただアクターさんも身をもってご存知の通り【製作者への優先】の内容は凄まじく曖昧ですよね」

 

 マタタビがそう言うと、彼の纏う雰囲気が暗くなるのを感じて少し申し訳ない気になった。

 酷な話をふっているのは分かっているが、それでも私はその矛盾に向き合うように後押しをする。これは先延ばしにしたところで仕方のない話だから。

 

「ええ、マタタビ様にはそのことで散々と揺さぶりをかけられましたから。

 私が優先すべきがアインズ様の要望か、幸福か、安全か、全てなのか。

 それらの要素が矛盾した際の行動決定権は、最終的に私自身の意思決定に委ねられることになる」

 

 アクターさんは声色を堅くして絞り出すように続けた。

 

「私がアインズ様の意に背き、統括殿とマタタビ様の忠言に従いその暗躍を認めたのは、アインズ様の幸福と安全をとってのことでした。

 ですがアインズ様にあなた様にかけた精●支×を看破され、結局私はどうしようもない喪失感と恐怖に駆られて御方に秘密の一部を明け渡してしまった。

 

 とんだ不純な半端ものです。流されるばかりで行動の一環を欠いてしまった結果私は、自分が一体は何がしたかったのかわからなくなってしまいました

 

 しかし愛の奇跡とは、言い当て妙かもしれません。

 統括殿が全霊で身の丈をぶつけて御方とあなた様を言い負かした姿は、今の私にはあまりにも眩しすぎる。自分の軟弱が恨めしいものです」

 

 

 アクターさんの自己矛盾。それはマタタビが居なければ無縁のモノだったのかもしれない。

 アインズ様の完璧な演技力に騙されて、彼の全てに妄信し自己矛盾することなく幸せに生きていけたのかもしれない。

 

 NPCの幸福論においてアインズ・ウール・ゴウンを名乗る我が友人は常に最適解を選び続けていたし、マタタビが居なければそれを踏み外してたとも思えなかった。たとえそれが奇跡のような偶然だったり無意識的行動だったとしても。

 そのことを想えば増々彼への尊敬の念は深まるばかりで、天敵たる自分は一体何様だろうかとすら思う。

 

 でもそれでもアルベドさんが、アインズ様が、両親が、今目の前のアクターさんが求めてくれるからマタタビは今ここに居る。

 

 だからマタタビは思い悩み続ける彼の姿を心の底から肯定する。

 

「流されてなんかいないですよ。それならなんでアインズ様に内緒がバレた直後にアルベドさんに事の次第を報告したのさ。

 アインズ様の執行前にそんなことしたら、アルベドさんがどんなことするかわかったもんじゃないでしょ?

 

 現に、あなたが変なタイミングで告げ口したからアルベドさんは私とアインズ様に怒ったんだ。

 計算づくじゃないにせよ、あなたは状況に不満を抱いたからそんな余計なことしたんじゃないの?」

 

 そこまで言ってようやく彼ははっとなって、あごに手をやり俯いた。

 

「……どうなのでしょう。わかりません。その言及でようやく可能性に思い至りました。

 申し訳ありませんが意識の整理がつかなくなりましたので、今その問いへの返答はできそうにありません」

 

「そう、興味ないからいいけど」

 

 ただのうっかりミスだったと言われてもマタタビが信じることはありえなかった。

 

 アクターさんとアルベドさんは、二人合わせて主人への真っ向からの反逆という奇跡を成し遂げたのだ。

 

 アクターさんは無自覚な意識が密告という形で発露して、それにより血圧上昇したアルベドさんは不幸にもコキュートスさんの目の前で理性崩壊してしまい自殺覚悟の反逆声明へと舵を切らざる得なくなった。

 

 本音ではあるにせよ本意では無かったあの大告白は【製作者への優先】の一部に抵触し、NPCであるアルベドさんの精神に大きな負荷を与え最後に気絶へと追い込んだ。

 というのが私の考えだ。

 

「何にせよですが、アルベドさんもアクターさんも既にアインズ様の忠犬には戻れないものと諦めたほうが賢明です

 少なくともアインズ様と私はそれを悪い事とは咎めませんよ」

 

「やはりアインズ様も存じておられるのですね」

 

「私が話して納得していただきましたよ」

 

「……感謝します。今後は己の考えも含めて、アインズ様のために全てを尽くして使え続けていきたい所存であります」

 

「うーん」

 

 そんな捨てられた子犬みたいにしょんぼりしなくてもな―と、マタタビは虚しく思った。

 

 なんだか先ほどからアクターさんを一方的に言い負かしてる風になってるが、元々彼はアインズ様やマタタビなど足元にも及ばぬほどの知性を誇る存在だ。

 揚げ足取りが得意なだけのマタタビが彼のデリケートな部分を刺激したから弱っているだけ。あまりめげないで欲しいものだ。

 

「あなたは賢いから、私みたいに間違えなければ大丈夫ですよ。

 頼りになる仲間や父親はいるし、それでもどうしようもない時は微力ながら私もお力になりましょう。あなたも私の恩人ですから」

 

 そう言うと腑に落ちないというふうにアクターさんは反応した。

 

 謂れのない積んだ恩義に疑問符を浮かべたようだった。

 

「ついこのあいだ、精神支配を食らったマヌケな私を助けてくれたのはどこのネオナチドイツ野郎ですか?」

 

「アインズ様です。アインズ様が全ての作戦を立案し、私を道具として使って貴女の救出を為したというだけですよ。

 あるいは私がおらずとも、評議国の竜王の魂胆と同じく殺して蘇らせれば同じでしょう」

 

「それでもあなたの力があったから、私を殺さず精神支配を解くことが出来た。それは間違いないのでしょう?」

 

「そこに一体、何の意味があるというのです」

 

「……あのね、すごーく今更だけど、救うか殺すかどんな目的だったにせよ多分あの時アインズ様が私のことを殺していたら、私は多分蘇生を拒否してたと思う。

 だってあの時見ただろうけど、私あの時爆弾でアインズ様ごと自爆する気だったんだから」

 

 私の心は強くない。隣人たちを手掛けて尚、生きたいと思える自信はない。

 

 そしてそもそも、我が人生に残した悔いは山ほどあれど、それでも生への執着が元から非常に薄かった。

 

 マサヨシと母さんが心中したきりなのと同じように、

 あるいは先日死んだガゼフさんとアングラウス(・・・・・・・・・・・・)の刹那主義と同じように、

 あの時の私ならばまず間違いなく、二度目の現世を拒絶していたことだろう。

 

 今となっては自分の命の大切さも、少しずつ分かってきたような気がする。否、分からないフリを卒業できたが正確か。

 

 いつかシャルティアさんが無理に私に礼を言った理由を知れて、私は深く納得した。

 

 だから色々落ち着いて考えて、これだけは彼に言うべきだろうと思っていた。気恥ずかしいし、どうせだから今言うか。

 

「ありがとうアクターさん。私の『命』を助けてくれたのは、誰でも無いあなたの力だった

 だからまぁ、もっと自分に自信を持ちな。あなたは割と凄いから」

 

 今日は珍しく素直に口が動いてくれて良かったが、それでもちょっと気恥ずかしかった。

 

 そもこんなお礼、もっと方々に言わなきゃいけないというのに、これでは先が思いやられる。

 

「……マタタビ様に励まされるとは、私もヤキが回ったようだ」

 

 そして彼にはふっと鼻で笑われた。

 

 まぁそんなもんか。アインズ様が言うならまだしも、マタタビに褒められても何にもなるまい。

 今のアクターさんはアインズ様に化けているから〈読心感知〉は使えないが、軽く小ばかにされたくらいはわかるのだ。

 

 ただ会話も聞こえぬはずの後方ナーベラルさんの我々への視線が、妙に粘っこく変わったのを感じ取る。

 私は牽制がてらひと睨みしながら、前に振り戻って目的の建物を遠くに見据えた。

 

「そろそろですね」

 

 場所は王都の冒険者組合本部で、『蒼の薔薇』のホームポイント。

 マサヨシの知り合いだというイビルアイから話を伺うのが目的である。

 

 アクターさんがアインズ様と向き合うのと同じように……かはわからないが

 

 娘として両親と向き合わなくちゃいけなから。

 

 

 

 

 

 

 

 




 はいというわけで王国編終わりです。ほぼ背景だった王国要素は前半の方に詰め込みました。
 グダグダ文にここまでお付き合いいただいた皆様方には感謝と申し訳なさでいっぱいです。

 まだ説明しなきゃいけないこともあるけど、それは次回以降の日常回で描写する予定です。
 それも終わったら最終章になるのですが、細部構成はじっくり考え中です。
 この章みたく泥沼にならないよう、反省を生かして頑張りたいと思います
 

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