ナザリック最後の侵入者   作:三次たま

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早くアルベドさん側の話を書きたかったけど、病む負えなく間の茶番をはさみます

というかアルベドさんの話を書き上げてからこっちを書いたので、続きは明日投稿します


借り物闘争

◆◇◆

 

 

 城の上の少し上空。眼下の本丸で鳴り響くモモンとマタタビのけたたましい剣戟音を足元に感じながら、ツアーは眼前の悪魔と渡り合っていた。

 

 南方装束のスーツの背中に蝙蝠の両翼を生やした悪魔、魔皇ヤルダバオト。単純な強さ以上にかの存在そのものから迸る悍ましい邪気が、この世界への脅威を如実にツアーへと物語っていた。

 

 ツアーの駆使する剣群を、悍ましい肉体変化を駆使しながら巧みに躱しそらして迫っていく。

 変化させた鋼鉄の爪で攻撃をはじきながら、道化師のような漆黒の仮面をかぶるヤルダバオトは怪訝そうにツアーへと問いかけた。

 

「一応聞いておきましょう。たかが一国の首都の危機に、なぜあなたほどの強者が腰を上げて力を振るおうとするのでしょう」

 

 それはかつて自分がマサヨシに投げかけたモノによく似ていた。

 

「正義の味方なんて柄じゃないけど、これでも世界の守護を担っている身だ。キミ達ぷれいやーがこの世界を侵そうとするなら、僕はその敵になる」

 

「馬鹿な。我々が侵すまでもなく、この世界には様々な小悪で満ちている。このリ・エスティーゼ王国ひとつとっても民の堕落と腐敗はめざましく、王座ももはや何代と続くかわからないというのに」

 

「かもしれないね。エルフの王は力に溺れた愚者だし、ビーストマンの食人文化は生命倫理を越えて悪逆すぎるきらいがある。

 汚点なんて他にも挙げればキリが無いだろう」

 

「解せませんね。そこまでわかっていて何故、そもそも何を護ろうというのですか」

 

「それでも我が友は言ったんだ。この世界は ぷれいやー の支配した世界より遥かに美しいと。

 今となっては僕も、そう思えるさ」

 

 

 昔のツアーなら考えられない答えだっただろう。

 200年前の魔神戦争でツアーが腰を上げたのは、ほんの気まぐれとマサヨシの粘り強さがあったからだ。

 だけどマサヨシのおかげで独りぼっちだったツアーの世界は広がって、世界の価値に気付かされた。

 

 姿形もバラバラで思想も文化もまるで違う異種族の者達。そんな彼ら弱者が魔神という脅威を前にして手を取り合い、得手不得手を互いに補い合って ぷれいやー の遺物にすらも打ち勝ったのだ。

 確かにマサヨシの言う通り、これを美しいと言わず何というか。この輝きに比べれば八欲王の財宝などまったく虚しいものである。

 

 対してマサヨシ達がかつて住んでいた ぷれいやー たちの世界は酷いものだったらしい。

 種族は皆同じ人間なのに、一部の者達の強欲がその他一切に圧政をしいて奴隷の如く支配したという。それだけならまだしも、大気や土壌、海洋すら私腹のために穢してしまい、今では満足に息をすることすらままならないという有様なんだとか。

 

 ぷれいやー の悪逆の果てがそんな悍ましいディストピアだというのなら、この世界の一員として腰を上げずにはいられない。

 彼らの力がこの世界すら壊しかねないことは、始原の魔法を歪めた八欲王の存在によって嫌というほど思い知ったのだから。

 親友の愛した世界を、ツアーもまた護りたいと思ったのだ。

 

 

「その友とは、まさか彼女の父ですか?」

 

 ヤルダバオトは妙なところで青筋を立てて突っかかってきた。

 たしかにマサヨシはマタタビの父親らしいが、これ以上この悪魔と話を進めても仕方がない。

 

「答える義理はないよ。〈世界絶対障壁〉」

 

「……そうですか」

 

 なぜか歯噛みする悪魔を無視しして、およそ200年ぶりに始原の魔法を発動させた。

 

 ツアーのかざした手の平から淡い光の靄が広がり、ヤルダバオトも飲み込んで直径200メートルほどの球身体となって制止した。

 

「ふむ……〈悪魔の諸相:触腕の翼〉」 

 

 ヤルダバオトは確かめるように自身の翼の一部分を矢のように射出し、それが靄に弾かれて球底に転がったのを確認する。

 さらに壁面に手をふれ

 

「魔力を帯びた物理攻撃、それに外部からの音も遮断されている。このぶんだと転移や〈伝言〉の魔法なども同様なのか。大した隔離能力ですね」

 

「こうでもしないと僕は彼女に瞬殺されてしまうからね。知らないわけではあるまいに、やけに無抵抗なのが解せないけど」

 

「同じ手が二度通用するわけが無いと彼女が申しておりましたので」

 

「そうでもなかったんだけどね。無駄に警戒してくれて助かったよ」

 

 ツアーが始原の魔法(ワイルドマジック)を使ってまでマタタビとヤルダバオトを分断した理由は、単純にツアーがマタタビに勝てないからだ。

 本体ならば彼女の殺害なんて他愛もないことなのだが、今操っている駆動鎧に関しては先日あっさりと無力化された経緯がある。

 

 再び高速で間合いを詰められ、あのマジックアイテムの効力を封じるとかいう謎の呪符を張り付けられれば駆動鎧は簡単に封殺されてしまうだろう。

 だからツアーがヤルダバオトを引き付けている間に、モモンに彼女を殺してもらうこととなった。

 もちろんモモンと言う男がマタタビを倒せるのかどうかはツアーからしてみれば確実性が乏しかったが、本体をこの王国に呼び寄せる訳にもいかないのでそこは賭けるしかない。

 ダメならダメで他の竜王を頼るか、最悪ツアー自身がいよいよ重い腰をあげるだけだ。

 

「あるいは一番確実なのは、今僕が君を殺してモモンに加勢しに行くことかな」

 

 ツアーは自分と同じく上空に佇む敵を見て改めて殺意を強く表した。

 

 魔皇ヤルダバオトは蝙蝠のような翼を広げ、自身を強者と信じ疑わぬ態度で対峙する。

 この世界に生きる大多数の存在が震えあがるツアーの威圧を前に、自身と同格と思しきヤルダバオトはそよ風に吹かれた程度の反応だ。

 

「元々は高みの見物を決め込んだ分際で身の程をわきまえたまえよ白金の竜王(プラチナム・ドラゴンロード)

 既にあなたの手の内はあの女から聞き及んでおりますよ」

 

「そういう君も随分彼女に振り回されたんじゃないのかい? どうやって彼女を支配下に据えたのかは知らないが、影分身は随分自由に動き回っていたようじゃないか」

 

 先の遭遇戦の反応からして、少なくともマタタビの影分身がツアーに接触を図っていたことまで把握してたとは思えない。

 ツアーの介入は間違いなく彼にとっても予想外であったはずだ。

 

「アレが私の手に余る存在であることは端から承知していたことです。唯一信頼できるのがその余りある実力というだけで

 我々の決着がつくよりも下の勝負がつく方が速いだろう」

 

「さぁ、それはモモン次第だ。だがどの道ここで君の命は貰っていく」

 

 話を終わらせ戦いを再開させよう。

 

「とはいっても、数を打ったところで君にはあまり意味はないか」

 

「何のつもりだ」

 

「こういうことさ」

 

 怪訝そうなヤルダバオトを無視し、召喚していた武器群のほとんど全てを帰還させた。

 残るのは一振りの黄金剣。空中都市からの貰い物なので銘は知らない。

 だが一時はマサヨシに貸し与え、今では墓前に刺して飾っていたツアーの持ちうる直剣のなかで最高の業物である。

 

「彼女相手に同じ剣の土俵での勝ち目はない。だが君なら別だ。力技で押せると判断した」

 

「この借り物風情が! 見覚えのある目障りなオーラを放つとは、実に気に食わないことだね

 叶うことなら私の手で直々に粉砕してしまいたいよ」

 

「……キミもマサヨシのことを知っているのか? 」

 

「それこそ答える義理はありませんね。ただ悔しいことに私の願いはどうやら叶いそうもないみたいだ」

 

 心底忌々しいというようにヤルダバオトは眼下の激闘を睥睨した。

 モモンとマタタビが極限の剣戟を切り結んでいたなかで、とうとうマタタビの刀が高く打ち上げられて致命的な隙が出来た。

 その瞬間をモモンが迫り、手のひらから謎の発光体を彼女にぶつけた。瞬間王城一帯を包むほどの眩い閃光が放たれる。

 

「しかし、あまりにも早すぎる。どういうことだ?」

 

 ヤルダバオトが光の中で狼狽する。どうやらモモンがうまくやったようだった。

 光が引いた直後、立っていたのはモモン一人でマタタビはモモンの胸に力なくもたれかかっていた。

 どういう手を使ったのか知らないが、もはや今の彼女に精神支配の気配は感じられない。

 

 本当に良かった。彼女に何かあったらもう二度と二人の墓前に顔を出せなかったから。

 

「さて今度はキミの番だ。潔く死んでもらうよ」

 

「そうはいきませんね。生憎と、悪魔という生き物は潔さと縁が無いものです」

 

 するとヤルダバオトの背後から、黒々しい時空の孔が出現した。

 

「かなり高位の転移門だね。それに外部からこの障壁に干渉してるということは、術者は世界の加護を持つ者か」

 

 はじめから逃げる算段が付いていたらしい。

 どこから漏れたのか、ツアーの能力を把握していたようだ。マタタビには全てを見せていたわけではないのだし。

 

「さらばです、借り物の正義に酔う竜王よ

 最後にあの女からの伝言を送りましょう。『まだ何かやましいことを隠してるだろ』だそうですよ?

 いつか必ず、彼女に全てを話してやりなさい」

 

「……どういうつもりだ!」

 

 背面から黒渦に沈むその瞬間、ヤルダバオトという名の悪魔は悍ましい邪悪さの鳴りを潜めた。

 それからまるで、出来の悪い妹でも思い遣るかのような慈愛に満ちた声色だけを残して消えていった。

 

 

 

 

◆◇◆

 

 

 

 転移門を潜り抜け、一時拠点としている屋敷に戻ってきたデミウルゴス。

 仇敵モドキとの戦闘を中断され若干の苛立ちを覚えつつも、表には出さず事務的に、転移発動術者のシャルティアに問いかけた。

 

「作戦終了時刻が予定より10分早い。シャルティア、一体何があったんだい。またマタタビが何か面倒ごとでも起こしたのか?」

 

「失礼なやつね、今度はマタタビじゃないでありんすよ! 問題があったのはゴリラ女のアルベドのほう! 急にコキュートスから連絡がきたんでありんす」

 

 デミウルゴスの決めつけにシャルティアは憤慨する。デミウルゴスは失言だったとは思いつつ、マタタビも良好にやれてるようなので安堵した。そういえばシャルティアはマタタビにいくつか借りがあるから、それが由縁かと考える。

 

「しかしアルベドが? 一体何があったというのです」

 

 シャルティアは「詳しいことは秘密らしいけど」と言って続けた。

 

「なんでも、『守護者統括アルベド ガ反旗ノ意ヲ示シタノデ、氷結牢獄ニ幽閉シタ』って言ってたでありんすよ」

 

 言われた内容が理解できず、ようやくシャルティアの言葉が脳にしみ込んだデミウルゴスは間の抜けた言葉を口にする。

 

「……はぁ!?」

 




 ツアーの行動原理が原作時点ではギリギリ不明瞭なので盛大に捏造させていただきました。
 マザーとか竜帝とかスルシャーナ様とかよくわからないのでその辺は完璧スルーです。ぷれいやーにヘイト高いのは大体マサヨシ(たっち・みー様)のせいってことで。

 

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