ナザリック最後の侵入者   作:三次たま

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蒼薔薇vsプレアデスとか原作の焼き直しすぎるからダイジェスト。
相変わらず原作キャラの戦闘能力の設定を盛ってますので注意してください


英雄と魔皇と竜鎧と偽妹

 蒼の薔薇とメイド悪魔の攻防は二手に分断されて行われた。

 赤髪のメイドをラキュース、ガガーラン、ティナで抑え込んでいる隙に、蟲使いのメイドをイビルアイが一対一で勝負をつけるという非常に苦しい戦い方だ。

 イビルアイと蟲メイドのゼータが水晶魔法と蟲を飛び交わせている合間、イビルアイより格上であるという赤髪メイドのベータに3人は必至の応戦を強いられる。

 

「ったくもー、ビュンビュン蠅みたいで鬱陶しいっすね」

 

 実際、十字に天輪をあしらったような巨大なメイスを振り回す悪魔ベータの猛攻に、ティナ、ガガーラン、2名はかなり押されていた。

 一報ベータは今にも欠伸をしてしまいそうなほどに顔を弛緩させ、まさに退屈と言った具合だ。

 遊ばれてるなと、ティナは半ば確信していた。

 

 イビルアイの直観では、ゼータは自身と同格でベータは格上らしい。それ相手に2人が直接戦闘でどうにか対応できるということは、ベータの本領が白兵戦に無いのか、それとも単に直接戦闘で手を抜かれているのか。きっと、両方である可能性が一番高い。

 

 ベータがティナへと振り下ろした一撃を紙一重で飛び上がって回避するが、代わりに部屋の椅子に当りバラバラの木片となって辺り一帯へ四散する。

 木片の内ひとかけらが運悪く顔へと命中してティナの意識が一瞬飛んだ。ベータは更に一歩踏み出し、宙で無防備をさらした敵に振り上げるように打ち付ける。

 

「〈不落要塞(ふらくようさい)〉〈流水加速(りゅうすいかそく)〉」

「おおお!?」

 

 ガガーランはその一撃に割って入り、武技で強化した強烈な戦槌(ウォーピック)の一振りで受け止める。結果ギリギリで運動エネルギーは平衡し、それぞれの体を通って衝撃が足から床へと流動した。甲高い金属音と共に、木板の床が軋んで割れて足の形に窪みが生まれる

 

 文字通り流水のごとき一時加速を可能とする〈流水加速(りゅうすいかそく)〉と、不可視の盾のような衝撃波を纏う攻防一体の〈不落要塞(ふらくようさい)〉。

 ガガーラン程の戦士による複数の武技による合わせ技は、本来ならば受け止めるどころかそのまま相手を叩き潰しかねないほどの絶大な破壊力をもたらす。

 それがただの一撃と互角であるなどという事実を前にガガーランは忌々しそうに歯噛みする。しかも互角と言えど、体を通った衝撃はさながら滝に打たれるように強く激しい。一方それを余裕尺々とはにかんで見せるベータの余裕に、改めて悪魔との完全なる力負けを思い知らされる。

 

 だが力が無ければ技で、技が足りなけらば仲間で継ぎ足し高みへ望む。それがチームの戦い方だ。

 瞬時に意識を取り戻したティナが壁に足を強く踏み込み、ベータの首筋めがけて飛び掛かる。一体を一本の矢とするように、矢じりのクナイを強く握って頸動脈を鋭く狙う。

 

「はむ」

 

 しかし敵も曲者。ベータはティナのクナイを口を開き鋭い牙で砕き割った。

 僅かに過った動揺の隙に、ベータはメイスを手放してティナとガガーランを回し蹴りで一閃。横っ腹を蹴られたティナが壁にたたきつけられ、ガガーランは頭蓋側面の耳元を打たれて脳震盪を起こし地に伏した。

 

「〈大治癒(ヒール)〉」

 

 しかしベータから少し離れた後方から、リーダーラキュースの回復魔法が飛来して容体が回復。更にラキュース自身の準備が万端となったことを理解し、二人は半ば捨て身で攻め立てた。

 

「〈爆炎弾の術〉」

「おらぁっ!」

 

 しかしベータは、撃ち込まれた火の玉をメイスで殴って打ち消して、振り下ろされた戦槌(ウォーピック)を爪で掴んで受け止めた。

 まさに余裕の対応だったが、ベータは闘争心をむき出しにして凄惨に口元を吊り上げる。二人への反撃をするより先に、強化魔法(バフ)をかけ終えたラキュースの猛攻がベータに襲い掛かった。

 妨害しようとすれば出来たものを、ベータはあえて見逃していた。それは強大な力を持つが故の傲りに他ならない。

 

「待ってたっすよ!」

「くたばれ悪魔!」

 

 英雄の壁を超越した神官戦士ラキュースの完全戦闘態勢(マックススペック)は、かの王国戦士長をすら凌駕する。しかしベータの肉体能力を超えるまでには至らないだろう。

 だから手数でその差を埋める。ラキュースは愛用の魔剣キリネイラムで切りかかると同時に、マジックアイテム浮遊する剣群(フローティングブレード)を展開。

 全6本の浮遊剣の連撃に加え、ガガーランとティナの手数も足しての飽和攻撃。熟練のチームワークによって攻撃範囲は一切抵触せず、ベータ一人にめがけて混戦一体の濁流のような猛襲がなだれ込んだ。

 

 ここまで押し込みようやっとベータの顔に焦りが表出するも、あと一歩が届かない。

 底知れぬ肉体能力と反射神経によって一手一手を着実に防がれて未だ五分五分。結果今の全力運動の迫り合いをどれだけ続けられるかという体力勝負になるわけだが、格上のベータ相手には分が悪い。

 

 きっと勝機はここにしかないだろう。

 

 散弾虫、千鞭虫、鋼殻虫、穿孔虫その他etc。文字通り多種多様の虫達の猛攻撃に加えて、特異な符術という魔術系統を駆使するゼータと、イビルアイは熾烈な攻防を繰り広げていた。彼女はゼータへの決定力となるうる特攻系オリジナルスペルを保持していたが、陽動が居ない中で下手なタイミングで打ってしまえば防がれて魔力を無駄に消費するだけ。それに警戒も高める羽目になる。

 ゆえに最高の瞬間を求め慎重に粘り続けていた。しかし仲間たちの想像以上の善戦を見て切り札を放つ覚悟を決める。

 

「〈蟲殺し(ヴァーミンペイン)〉」

 

「〈蟲壁〉ぇ」 

 

 突如放たれた白煙を前に、ゼータは羽虫の群れを防御壁のように広げて防御する。

 しかし虫特攻の〈蟲殺し(ヴァーミンペイン)〉を前には軟い盾だ。

 

「ぎゃあああ!!」

 

 蟲の塊を貫通してゼータの手足に煙が降りかかる。すると想像以上の激痛を前に絶叫を挙げた。

 急場で放ったのでガードされクリーンヒットには至らなかったが、今はゼータの気を引ければ十分。むしろ最高以上のタイミングだ。

 

 ラキュースが防御に回していた分も含めて浮遊する剣群(フローティングブレード)を全射出。6本それぞれ両手両足に胸部と頭部を狙いすませて撃たれたそれを、ベータは全て見事に防ぎ切る。

 しかし生まれた僅かな隙で、4人一同息を合わせて、各々の最高威力の技をベータに向けて放つ。

 

「〈流水加速(りゅうすいかそく)〉〈剛腕剛撃〉」

「〈鎧炎手裏剣〉」

「〈|魔法最強化・結晶散弾《マキシマイズマジック・シャード・バックショット》〉」

「〈暗黒刃超弩級衝撃波(ダークブレードメガインパクト)〉!」

 

 ガガーランが武技で振るった戦槌(ウォーピック)のギミックで衝撃波をぶつけ、ティナが身の丈ほどの手裏剣を召喚し炎を纏わせて投げつけ、イビルアイが無数の水晶の槍を射出、ラキュースも魔力を最大開放した魔剣キリネイラムの暗黒の斬撃を切り飛ばした。

 完璧なタイミングの集中砲火。着弾寸前ベータは初めて驚愕を露にしたが、次の瞬間あざ笑うような冷酷な笑みを浮かべた。

 

「〈聖母独唱(アリア・オブ・サンタマリア)〉」

 

 すると突如として鼓膜が切り裂かれんほどの大音響が響き渡る。神聖で荘厳なソプラノの歌声が斥力を纏い、ベータを取り囲んでいた敵をその攻撃もろとも弾き返した。

 

「〈蟲壁〉ぇ!」

 

 唯一ゼータだけが咄嗟に反応して障壁を張り身を守ったが、他蒼の薔薇の面々は四方に飛ばされて床に伏す。そのあまりの威力に天井に巨大な穴が開いて、星空の景色が広がりを見せた。

 叩きつけられた四人はベータの魔法の威力を前に、体が軋み立ち上がることがままならない。イビルアイでさえ、否むしろ彼女こそ最も甚大にダメージを受けていた。衝撃によって仮面が砕け、瀕死寸前の少女の顔が表出する。

 比較的ダメージが少なかったラキュースですら、全身を振り絞って頭を上げるのが精いっぱいだった。

 

「何故、悪魔の手先が神聖魔法を使うの!?」

 

「吸血鬼と組む神官戦士がいるなら、悪魔の手先が神官だっていいじゃないっすか。自分らばっかズルいっすよ

 それとも私がどれだけ手心を加えていたがわかってビビったすか?」

 

「…………」

 

 状況に圧倒されてもはや返す言葉が無い。

 ラキュース自身も直接戦闘に秀でたクレリックではあるが、それでも魔力を使わずに自分たちを追い込めるベータの強さは馬鹿げてる。

 しかもよりにもよって、神聖属性は吸血鬼であるイビルアイには致命的な弱点。瀕死寸前の理由がそれだ。いざと言うときは転移魔法で離脱することを想定していたが、もはや命綱は断たれてしまった。

 

「……わたしもぉ、ちょっとヒヤッとしたんだけどぉ? いきなり範囲魔法なんて使わないでよぉ」

 

 横からゼータが恨めし気にベータを睨みつける。左手は〈蟲殺し(ヴァーミンペイン)〉で爛れていたが、もう痛みを気にした様子はない。

 

「てへぺろっす。エンちゃんそこそこやられたすね。お詫びに〈中傷治癒(マイナーヒーリング)〉っす」

 

 低位階の回復魔法だが、魔力を受けたゼータの左手は見る見るうちに元通りになる。同じ魔法でも術者によって威力は変わる。ラキュースの〈中傷治癒(マイナーヒーリング)〉では同じことはできないだろう。先の神聖魔法と言い、ベータの神官としての能力の高さを思い知らされた。

 

 蟲のメイドも健在で、もはや勝ち目はない。ただでさえ絶望的な状況だと言うのに、更に余計な追い打ちがやってきた。

 空いた天井から、橙の背広に身を包んだヒト型の悪魔が舞い降りてきたのだ。

 

「おやおや。これはまた随分と派手にやりましたね」

 

 あまりにも格が違う。声が出ない。

 今のメイドなど比べ物にならないほどの凄まじい強者の威圧感が、今にも絶叫したくなる喉を締め付け息をすることすらままならない。

 

「ちーっす!えっと、ヤルダバオト様!」

 

「どうもぉ。たった今、この人間たちをぶっ殺すところでしたがぁ、ヤルダバオト様がやっちゃいますかぁ?」

 

 ヤルダバオト、目の前の男が彼女たちの主君ということか。メイドたちはやや親しげだが、ヤルダバオトも極めて寛大に接していた。そこだけ切り取れば微笑ましく映るやり取りだが、身内の外への冷酷さが際立ってラキュースたちには悍ましく思えた。

 

「ではお言葉に甘えまして。せっかくの星空ですし、こういう趣向はいかがでしょう〈隕石落下(メテオフォール)〉」

 

 パチンと景気の良い指鳴りが響く。

 夜空に赤く燃え滾った巨大な岩石の塊が召喚されたかと思うと、こちらめがけて自由落下で降り落ちる。全ての努力を台無しにする無情の鉄槌だ。

 桁違いの力を前に、とっくに死を覚悟していたはずの魂が揺さぶられた。自分たちの命どころではない。こんな者がのさばってしまっては、王国どころか世界が危うい。

 誰か助けて。そんな、あまりにも自分らしくない他人任せな嘆願が心から勝手に沸き上がった。 

 その時だった。

 破滅の紅い輝きの前に、一人の黒い影が立ちふさがる。影は場違いなくらい悠然とした佇まいで一振りの剣を構える。次の瞬間、隕石は中心から両断された。

 勢いを殺され真っ二つとなった岩石は、建物の両端へと墜落して轟音を鳴り響かせるがラキュースたちは無事だった。

 

 影、はそのまま屋根の穴から飛び降て、悪魔たちと対峙する。雲の切れ間から月光が刺し込んで、見えかねていたシルエットが露になった。

 大剣一振りと黒龍の紋様をあしらった盾を持った、漆黒の全身鎧(フルプレート)の偉丈夫。ヘルムからわずかに覗く紅い輝きが悪魔たちを断罪の視線で貫く一方、身を包んだ全身鎧(フルプレート)の漆黒色は夜陰に優しく溶けるようで、場違いな安心感をラキュースへともたらした。

 一瞬、誰なのかわからなかった。しかし理性が記憶を呼び起こし、目の前の男がつい先ほどまで顔合わせしたその人であることを強く意識させる。

 

「モモン!?」

 

 こちらに気付いたモモンは淡々と冷静に状況を説明した。

 

「襲撃場所はメイドの悪魔に先回りされていたので撃退した。我々の班を二分して、こちらには私とティナ嬢が救援に馳せ参じた次第だ」

 

「ほんとうに助かりました。あれと同じのを倒したのね……」

 

 無論メイドの悪魔の実力が横並びである保証はないが、先の光景が目に焼き付いた後ではモモンの実力を認めるほかになかった。

 

「しかしあの三人を前に私一人では荷が重いだろう。時間は稼ぐ。あとは言うまでもないな?」

 

 ラキュースが相槌を打つと、モモンはヤルダバオトへと向き直り毅然と告げた。

 

「貴様の可愛い部下から目的は聞いた。王都の人間の抹殺だそうだな」

 

「可愛いなどと、彼女たちが聞けばさぞ喜んだことでしょう。ええそれで目的ですが、おっしゃる通りにございます

 八本指が我々を呼び出した召喚対価を、この都市のあらゆる生命で持って補填しようと思いまして」

 

「ならばこの私モモンに、切り倒されても構わないと言うことだな?」

 

「困りますので抵抗させていただきましょう。悪魔の諸相 鋭利な鈎爪」

 

 ヤルダバオトが両手の指先から長く鋭い鈎爪を伸ばしてモモンへ向かって飛び掛かり、モモンもまた大剣を構えて切りかかった。

 その攻防の激しさはラキュースの動体視力をもってしても目に追いつかず、回転刃のような残像が二人の間で行き交うのを捉えるのがやっと。けたたましく鳴り響く金属音を余所にして、ラキュースは自身と仲間たちに回復魔法を飛ばす

 

「〈大治癒(ヒール)〉〈大治癒(ヒール)〉〈大治癒(ヒール)〉……〈大致死(グレーター・リーサル)〉」

 

 吸血鬼のイビルアイにだけネガティブダメージの波動を送り付ける。モモンに後で追及されるのではと思わなくも無かったが、なりふり構ってはいられない。今できる最善を尽くすだけ尽くして、後の祭りは後で悔やもう。

 モモンが稼いでくれた時間でなんとかチームを立て直し、ベータとゼータが再び迫ってくるのを迎え撃つ。

 

 そして

 

「……遅くなった」

 

 おそらくモモンに置いてかれたのであろうティナが遅れてこの場に参上する。

 敵方魔皇ヤルダバオトと配下のメイド悪魔2名。対しこちらは漆黒の英雄と蒼の薔薇のフルメンバー。

 

「みんな、行くわよ!」

 

 今夜、王都内での両陣営最高位の主力戦が行われんとしていた時に、更なる動乱が巻き起こる。

 

 熾烈な斬り合いに少し息を切らしたヤルダバオトは一旦夜空へと後退した。

 すると突如、無数の武器がトビウオの様に群をなして一体の悪鬼へ向かって殺到。ヤルダバオトを串刺しにせんと襲い掛かった。

 

「何!?」

 

 モモンとヤルダバオトがそろって驚愕を口にするとと共に、剣群が差し迫り爆発がヤルダバルトを包み込む。

 イビルアイが叫んだ。

 

「ツアーなのか!?」

 

 ツアー、その名をラキュースたちはイビルアイから聞かされたことがある。

 十三英雄の一人『白銀』にして、その真の正体である世界最強の白金の竜王(プラチナムドラゴンロード)

 

 月明かりと同じ輝きを反射する竜装の全身鎧(フルプレート)は悠然と宙を浮遊し、遥か高いところから爆風を見下ろしていた。

 

「何者だ!」

 

 モモンがここで初めて感情を強く爆発させたような声を挙げる。メイド悪魔だけでなく味方であるはずのラキュースたちにすら、背筋が凍るような戦慄が走った。

 比喩ではなくその威圧感に空気が揺らぎ、ラキュースたちの戦闘は手が止まる。

 

「違う、彼は味方なんだ!」

 

「糞がああああ!!」

 

 イビルアイが弁明を叫ぶが、モモンは構わず一足飛びに空へと飛びあがって大剣を振りかぶる。

 ツアーを敵とみなしているのだ。はじめは誰しもそう思った。

 

 しかしモモンが爆風の横を飛び過ぎようとするときに、振りかぶった彼の剣が金属音を立てて静止した。衝撃で爆風が晴れ渡る。

 

 モモンの一撃を止めたのは、ヤルダバオトの肩に手を回してしがみ付いた、長い黒髪をたなびかせた仮面のメイド少女の刀。

 そしてヤルダバオトの背面では、異様な面妖の猫を模した巨大な金像がツアーの剣群を身代わりのように受け止めていた。

 モモンは彼女を狙っていたのだと、ラキュースたちは遅れて理解する。

 やがて数舜の鍔迫り合いの後、モモンは自重によって再び着地。ヤルダバオトを前にして余裕の態度を見せていたモモンの突然の変容。若干冷静になったようだが、ヘルム越しにも彼の動揺は激しく伝わった。

 

「非常に助かりましたが……」

 

 若干冷や汗が垣間見えたヤルダバオトの困惑を余所に、仮面の少女は主人にしがみついたまま高らかに告げた

 

「私は魔皇ヤルダバオト陛下直轄メイド悪魔が筆頭、アルデバラン・シータ。私は陛下ほど甘くはないのでよろしくね!」

 

 まだこのような超越者が仲間に居たことにラキュースたちは戦々恐々するほかない。ヤルダバオトが吐き気を催す邪悪の権化であるとするなら、アルデバランは殺戮のためだけに叩き上げられた一振りの刃であるようだった。どちらも相手にとって最悪だ。

 高みで見下ろすツアーは怪訝そうに尋ねた。

 

マタタビ(・・・・)、これは一体何の真似だい?

 今の君には未だ悍ましき支配力(・・・・・・)がとり憑いているようだが、よりにもよってそんな悪鬼に与してるとはね

 まったく、()が知ればどんなに嘆かれることやら」

 

「ツアー、こいつがそうなのか!?」

 

 ツアーの言葉にイビルアイが驚愕を露にする。

 アルデバランの登場に場が一気に混沌として、流れについて行けず敵味方ともに当惑させられる。

 しかしツアーは周囲の混乱を切り裂くように剣群を掃射してヤルダバオトとアルデバランを狙い撃った。アルデバランはヤルダバオトにくっついたまま刀を振るい、余裕綽々とそのすべてを直下のモモンへと叩き落とす。モモンもまた盾と刀で防ぎきった。

 

「一体君が何をしくじったのかは知らないが、どういう状況にせよ一旦殺せば済むことだろう」

 

「……そうだな」

 

「ならこっちは自慢の鎧を叩き壊してあげようか?」

 

「これは少しマズいですね」

 

 仕切り直すようなツアーの言葉に呼応してモモンも殺気と戦意を浮かび上がらる。アルデバランは嬉々として刀を構え、反してヤルダバオトは苦い表情で蒼を顰める。

 4人の超越者たちによる戦慄のハーモニーが空気を震わせ、間もなく空前絶後の大衝突が起きるかに思われた。

 

 しかしヤルダバオトはアルデバランの手首を握り、凍えるような声で静止した

 

「潮時です。天才剣士モモン様と、そこのよくわからない鎧。二人を同時に相手にするには準備が出来てません」

 

「……はーい、承知しました」

 

「そう易々と逃げれると思うのかい?」

 

 撤退指示に肩を下げるアルデバラン。

 対しツアーは逃がすまいと剣群の発射体制を整えるが、ヤルダバオトに焦る様子はない。

 

「ここで戦うよりは断然易い。お互いにね

 『吸血鬼を討て』」

 

「動かない!?」

「ぐっ……これはっ!」

「体が勝手に!」

「チクショウが!」

 

 ヤルダバオトの号令にラキュース、ガガーラン、ティナ、ティアの体が操り人形のように突き動かされる、ゼータとベータの合わせて6人でイビルアイを囲んで武器を突き付けた。

 

「卑怯だぞ! 悪魔!」

 

「馬鹿々々しい、空が青いと言って何になるというのでしょう。ではアルデバラン、頼みますよ」

 

 イビルアイが質に取られたことによりツアーの攻撃の手が緩む。

 その隙にアルデバランは両手を強く叩き合わせて音を響かせた。

 

「〈暗影融解(メルトシャドー)〉」

 

 するとアルデバランとヤルダバオト、ベータ、ゼータの姿が突然渦巻き向きに歪む。

 やがて渦巻の中心の中に4人はそれぞれ消えていった。

 




次回、オリ主(全ての元凶)の見苦しい言い訳が木魂する!

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