ナザリック最後の侵入者   作:三次たま

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 だって尺長くなっちゃうし……

 淡々と出来レースを消化する回です


八本指? 六腕? 知らない子ですねぇ

王都:八本指麻薬部門:買取窓口兼事務所

 

 

 ゲヘナ作戦の第一段階、王都における八本指所有全施設の制圧と金品の奪取は一切滞ることなく終了した。

 各施設に人員を配置し同時制圧を直ちに済ませ、その後予定に含めていた高価金品、重要書類、生け捕った8割の人間だけを守護者シャルティアが〈異界門(ゲート)〉で順繰りに回って速やかに回収した。

 その後は一応、もぬけの殻では演出が足りないということで残りの人間や死体を適当に散らかしておいた。

 

 そして作戦の二段階目である魔王と刺客の襲撃のために、麻薬部門の3施設にプレアデスを配置する。ただし英雄モモンの襲撃施設には代理としてドッペルゲンガーを配置したらしいが。

 

 かくして襲撃の完了した屋敷にて、ルプスレギナとエントマはこの施設にやって来る予定の『蒼の薔薇』という冒険者チームが来るのを待って、建物の中で時間つぶしをしていた。

 

 壁や床やらに血痕の飛散した会食用の大部屋で、机の上に転がした人間の死体を椅子に座ってお行儀よく食べるエントマ。

 ルプスレギナも同じく椅子に腰掛けながら、床に仰向けとなった男を嗜虐趣向の籠った笑みで冷酷に見下ろしていた。

 

 麻痺で動けない男の太ももの上に、ルプスレギナはゆっくり優しく愛用の聖十字杖(サンタクロス)の先端を乗せる。

 男の血走った白目がルプスレギナに懇願するのは苦痛なき死。ルプスレギナは凄惨に微笑んだ。

 

 そんなもの(苦痛なき死)、お前には勿体ない。

 

 ルプスレギナは聖十字杖(サンタクロス)を持ち上げていた力を少しずつ抜いていった。浮いて失われていた聖十字杖(サンタクロス)の自重が段々と、先端から男の足へと沈んでいく。

 

「っ~~~~~!?」

 

 10秒後、骨が砕ける音がした。しかし男は麻痺状態にされてるので動けない。

 麻痺で喉までやられてしまったから悲鳴を聞くことはできないのが残念だが、叫びによって痛覚が鈍化されることが無いのを思えばそれはそれで悪くない。

 声にならない悲鳴に鼓膜を揺らし、恍惚とした気分でルプスレギナは頬を緩ませる。

 

 ただ時折男の意識が飛びそうになるので、指先を握って反対方向に捻って意識を繋ぎ止める。

 じわじわと皮膚が裂けて血色のいい体液がじわじわと水たまりを作っていった。

 それから約一分かけてようやく男の足は切断された。つまらなそうに傍観する横のエントマにちぎれた足を手渡すと嬉しそうに嚙り付いた。

 ところが目を離した隙に、男はすっかり泡を吹いてこと切れていた。脇腹をえぐってみたが反応はない。ショック死したようだ。つまらない。まだ手足合わせて3本と、目玉も二つ残っていたのに。

 

 脆い玩具だ。せっかく表立ってニンゲンの元に襲撃させてもらって、こうして少し遊ぶ赦しも貰えたというのに。

 回復魔法が使えればまだもっと楽しめるけど、MPは無駄遣いしないようにとのお達しだ。エントマの蟲に協力してもらって麻痺状態にさせたりは出来るけど、サディストの享楽を知らないエントマはそれ以上の協力はしてくれない。第三階層の黒棺(ブラックボックス)みたいなことが出来ればより愉快だったのだが。

 

「せっかくのお食事中にぃ、ぎゃーぴーと横で騒がれちゃたまんないのよぉ」

 

「食いしん坊なエンちゃんらしいっすね」

 

 人間を面白いおもちゃとして捉えるルプスレギナに対し、エントマはあくまで食料として扱っている。人間が下位種族であるという認識はナザリック内ではほぼ一致してるが、このように個人個人で微妙にスタンスが違ったりする。

 

「これでもダイエットしてるのよぉ? アインズ様の思し召しだから仕方ないけどぉ、ここのところずぅーっとヒトの肉はお預けだったんだからぁ」

 

「なら尚の事、今回の作戦でつまみ食いが許可されてよかったっすよねー。カルネ村じゃあそれはそれは退屈で。

 もちろんアインズ様の厳命に元々不満はなったっすけど、こうして気遣ってくださったことには感謝してもしきれないっすよ」

 

 エントマのように食料にしろ、ルプスレギナのように嗜虐趣向を満たすための嗜好品にしろ、ナザリック内で人間を欲する者たちは数多くいる。

 とはいえ他のプレイヤーに敵対理由を作ってしまうことから、人間の供給はナザリック内でもごくごくわずかに限られていた。

 それがナザリックを守るためにアインズ様がお考えになられたことなのだから不満なんてあるわけがない。むしろ、ナザリック全体に対するアインズ様の愛に対して幸福感すら湧いてくる。

 だというのに機会を見計らってはこうして人間を与えてくださるシモベへの気遣いを思えばこそ、感謝なんて言葉では言い表しきれないほどの想いがルプスレギナの胸中で爆発するのだ。それはエントマも同様だろう。

 ぶっちゃけ人間を虐める楽しさよりも、そっちのうれしさの方が強いくらいだ。

 

「私は食堂の料理のほうが好きっすけど、実際どうなんすか? 人間の味って」

 

 普通、雑食や肉食の動物の肉は筋っぽかったり苦くてマズいと相場が決まっている。

 なのにえてして人食を趣向するものが多いのは一体なぜなのだろう。今更ながらルプスレギナは疑問に思った。

 

「んぅー? そりゃあ料理長の料理はおいしいけれどぉ、これはこれでまた違うのよぉ。なんていうかぁ、言葉に詰まるけどぉ」

 

「そっすか」

 

 どうやら味覚が違うらしい。そして多分、料理による食事とはまた少し違う概念なのだと言うことも、なんとなくうかがえる。

 それ以上は興味が向かなかったのでルプスレギナは追及をやめた。

 

 床に伏して死んだ男の襟首をつかみ、既に跡形もなくなっていたエントマの食卓に並べた。

 しかし今はもうおなか一杯らしい。彼女はアイテムボックスから安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)と人一人はいるくらいの大きな麻袋を取り出した。安眠の屍衣(シュラウド・オブ・スリープ)で死体をグルグル巻きにし、麻袋の中に突っ込んで袋ごとアイテムボックスに仕舞い込んだ。持ち帰ってから食べるみたいだ。

 

 さてもう生きてる人間は居なくなった。拷問ごっこもできなくなって、時間まですることがなくなってしまった。

 

「やっぱ拷問には教養が要るって話、ホントだったすねー。私じゃすぐに殺しちまうっす」

 

「よくわかんないけどぉ、大図書館の司書長ならぁ、そういうの詳しいらしいわよぉ?」

 

「マジっすか? そりゃいい話が聞けたっすよ。サンキューっす、エンちゃん」

 

「おしゃべりもいいけどぉ、そろそろぉ、くるわよぉ?」

 

 エントマはピッと触角を立てて食べかけの足を口の中に掻きこんだ。

 ふと、僅かな空気の流動をルプスレギナは感じ取る。音はしないが入口の扉が開かれたのだろう。今頃は、襲いに来たのに既に血塗れになった通路を見て驚愕しているはずだ。

 侵入者達は足音を忍ばせて、ルプスレギナとエントマの待ち受ける部屋に向かってくる。知覚能力に優れた種族であるエントマとルプスレギナにはその動向が手に取るようにわかっていた。

 むこうはむこうでちゃんと知覚能力持ちの盗賊がいるようで、二人が待ち受ける大部屋の扉の前に立つと息を整えるように間を置いた。

 

「来やがったようっすね」

 

 タイミングが良い。丁度退屈していたところだった。

 

「おらぁ!」

 

 野太い掛け声とともに入口の扉の枠が外れて部屋の中へと倒れこんだ。

 そして瞬時に4人が部屋の中へと滑り込み、陣形を組んでルプスレギナたちと向かいあう。

 

 部屋の惨状を見渡して、瞬時にそれを作り出したのがメイドの2名であると確信したようだ。

 

 デミウルゴスから渡された報告書にあった冒険者チーム『蒼の薔薇』の4人だ。 

 赤くトゲトゲした全身鎧(フルプレート)戦槌(ウォーピック)を構えた、ガタイの良い女戦士(?)がガガーラン。小柄で身軽な服装の、クナイを逆手に握るシノビの女が多分ティナ。背面に浮遊剣を並べさせ星空を切り取ったように黒光る魔法剣を向けてくるのが神官戦士ラキュース。そして深紅のローブに白い仮面で全身を隠す小柄な女、報告書において要警戒対象とされていたプレアデスに匹敵しうるという吸血鬼の魔法詠唱者イビルアイ。

 

 このように事前に情報を知っていた二人であったが、悪魔の配下という設定のため初見ということにしておくと話を決めていた。

 ルプスレギナは、事前に考えていたセリフをそのまま『蒼の薔薇』へと言い放った。

 

「んー? あんたらちょっとだけ骨がありそうっすけど、こいつらが言ってた六腕ってやつっすか?」

 

 ルプスレギナは床面に伏した死体の一つを指さした。

 敵側と間違えられて、案の定一行は面食らって顔を顰める。予期せぬ第三勢力の到来で困惑しつつも、神官戦士ラキュースは一歩前に出て毅然と対峙した。

 

「いいえ、私たちは王国の冒険者よ。あなたたちこそ何者なの? どうやら人間ではないようだけど」

 

「私たちは大悪魔・魔皇ヤルダバオト様の忠実なる側近、ベータ」

 

「ゼータですぅ。八本指がぁ、ヤルダバオト様に無礼を働いたのでぇ報復に参りましたのぉ」

 

「そうですか。では報復が終わったなら、あなたたちは帰還するのですか?」

 

「帰るっつったら見逃してくれるんすかー?」

 

 なるべく相手の癇に障るように、ルプスレギナは笑いかける。

 するとガガーランが戦士特有の獰猛な笑みを浮かべて睨み返す。

 

「もちろん、見逃すわけがねーだろうが。人食い化け物の悪魔の配下を放っといちゃあ、冒険者とは名乗れねーからな」

 

「でもでもっすよ? あんたらが六腕じゃないんなら、そんなフル装備で何しに来たんすか? これでも私鼻が利くっすんすよ。

 後ろのアサシンのチビからは隠しきれない死臭がプンプンするし、覆面のチビは何やらアンデッド臭いようなんすが。

 人殺しや化け物が世のため人のため化け物を成敗なんて、傍から見たらマジイミフっす。プークスクス」

 

 ルプスレギナは手を当ててわざとらしく笑って見せるが、ラキュースは動揺することなく真っ直ぐと言い放った。

 

「ただの化け物にはわからないわ。ティアもティナも心を入れ替えたし、イビルアイはあんたみたいに邪悪じゃない。

 ここの奴らは殺すしかないロクでなしばっかりだろうけど、あんたたちが罪のない人間を殺さない保証なんてどこにもないでしょ!」

 

 つまらない手合いだ。自分の中の正義ががっちりと組みあがってしまってる連中には、何を言っても意味がない。

 確かに人間は弱小種族で、それを害するモンスターを敵視するのは種の生存としては間違ってない。ただその罪のない人間とやらも戦争に狩り出されれば他国の同族を殺してでも生存を獲得しようと足搔くことだろう。

 結局『死んでいい奴』というのはその人物の立場に依存した価値観に過ぎず、そういう意味ではナザリックのやってることも『蒼の薔薇』がやってることも本質的には変わらない。

 善性を抱えつつも『正しさ』なんか存在しないと知っているマタタビの方が、まだしも公平な視点だし虐め甲斐もあるのだが。

 カルネ村ではよくわからないうちに居なくなったが、彼女とはまた会いたいものだ。

 

 退屈なので、とっとと言うこと言って始めてしまおう。

 

「……ま、確かに保証なんてしないすけどね。なんせ八本指の無礼に対する代償は、この都市に生ける全ての命っすから」

 

 その言葉を待っていたとでも言わんばかりに、相手方は戦意を強めた。

 

「ならつまんねー御託はもういいだろ。やることは一つだ」

 

 戦槌(ウォーピック)を高く持ち上げ、すぐにでも踏み込めるように筋肉を強張らせるガガーラン。しかし後ろのイビルアイがハンドサインを見せると、全員の表情が一気に険しくなる。

 

「そう……こいつらそこまでの強さなのね。わかったわ、イビルアイの言う通りにする」

「おいおいマジかよ。相手はモンスターだからせめてそこに期待したいがな」

「承知した」

 

 大方、彼岸の戦力差を察知して、急場になったら転移魔法で逃げる手筈にしたのだろう。

 無駄だと言うのに。『戦いは始まる前から終わっている』とは至高の方々の偉大な言葉。既にこちら側は『蒼の薔薇』の情報を知り尽くしている。

 加えて、万一にも億が一にも負けたとしても、バックには既に魔王がついてるのだ。

 

 

 

 





 イビルアイの正体やその他諸々のタレコミは某黄金さんから頂きました。
 事前調査が原作よりしっかりしすぎている理由は、オリ主やツアーを警戒してデミウルゴスが慎重に計画を組み上げたからです。
 代わりに聖王国などの襲撃計画の練り込みが原作よりも遅れています。


 駄犬とか黄金とかIQ調整ミスってるけどまぁいいや
 なんかノリでルプスレギナの武器捏造しちゃったけどまぁいいや

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