ストーリー的にはそこまで必要は無かったんだけど、リハビリとして戦闘シーン描きました。例によって捏造モリモリです
人生、人外に生まれ変わっても思い通りにはいかないのは変わらない。
そんな風に考えると自分の中の根本は結局変わっていないんだなーと思えて、安心半分がっかり半分。人間性への未練はまだ少し残っているようで、どうしてかなと考えてみると親の顔が浮かびあがる。逆にそれさえなければ自分はもっと残酷になっていたのだろうかと、そうを考えるとやっぱり怖い。
ところで今頃
そもそも考えてみれば今こうしてアインズ様に黙って
彼が知れば激怒必至の裏切りを、私はいくつも犯しているのだ。
1つ目、ギルドメンバーを憎んでいるアルベドさんの意向を黙認してること
2つ目、私に手を出したのが法国の連中であるという事実を伏せていること
3つ目、情報握らせたニグンをスレイン法国に送還してしまったこと
4つ目、実は精神支配中の戦闘でツアーの全身鎧をわざと逃がしたのを黙っていること
他にも何かあったっけ? こうして羅列してみると凄まじいものがある。これからは誰かに向かってホウレンソウを説くなんて真似一生出来そうにない。あるいはしくじり先生の卓上で反面教師を振るうのもアリかもしれない。
冗談は半分として、でも実際この4つを私の思い通りに解決しようとするならばやっぱりアインズ様に報告するわけにはいかないと思う。
1つ目がバレればアルベドさんは処分されるというのと、ぶっちゃけ彼女の考えにも一理あるから。2,3つ目がバレれば法国は只では済まずそれは嫌だ。4つ目は……下手したらプライベートに関わるので報告できるかまだ分からない。
え? お願いすれば許してくれるかもしれないって?
馬鹿言うな。それは嫌だと散々言っているだろう。私がアインズ様に甘えればアインズ様がダメになる。あんなヤンデレ骸骨に依存されたくないし、依存するなら私じゃなくてもうちょっとマシな奴を選んで欲しい。例えばアルベドさんとかアルベドさんとか。まぁそれも今じゃややこしい話になってるんだけど。ああひょっとしてこれが5つ目か。
で、何の話だったか。そう今は4つ目の話がしたいのだ。
どうして分身の私がえっちらおっちらマンモスに乗って雪山登山してるかと言いますと、彼もとい、自称ドラゴンの全身鎧に話を付けに行くためだ。
それがまたどうしてって話になると、彼が私のリアルネームを口にしたからである。
『やはり君が、ナツウメサクラだね』
※以下回想
◆◇◆
アウラさんたちを見逃す羽目になった後、夜風を切りながら木々を駆け抜け、人外境地の六感を研ぎ澄ませてその原因の気配を探る。
帳の降りた深淵の森にて我が身を照らす敵意の灯を頼りに前へ前へ。
やがて少し開けたところへ出ると風が止みいつの間にか空が晴れていたのに気づく。
月光と星々に照らされてまばゆく平原の中心に、地面からわずかに浮遊しながらそれは待ち受けていた。
「驚いたね。まさか鎧の私の気配に気付ける者がいるとは。そしてそれがよりにもよって君だなんて」
それは、身に纏う白金色の
ならばコイツはマタタビの敵だ。
彼の姿や気配を消しきるその能力は記憶にないが、ひょっとしてユグドラシルで私にギルドでも荒らされた被害者だろうか?
ご愁傷さまではありますが、ゲームでの感情をこの世界に持ち込むなんてあまり感心はしない。約一名の知り合いがそれをやって友情お化けになり果てたから。
「まったく何のことやら知ったこっちゃないけどその敵意、納めてくれないと困ったことになるよ。
普段ならまだしも今の私は、敵意の灯が消えるまで本気で殺しにかかるから。おかげでアウラさんたちを殺さず済んだのは礼を言うけど」
世界級アイテム〈傾城傾国〉の効力により、今の私は相手の敵意を受信して襲い掛かる殺人マシーンと化している。さっきの二人に王手寸前までかけたところで、こいつが邪魔してくれたから本音を言えば助かったのだ。しかしその恩もあだで返すことになると思えば心苦しいことである。
「君が妙な様子であることは始めからわかっているさ。流石はスルシャーナ
この身にその力が及ぶことを想像するだけで背筋が凍りそうだよ」
スルシャーナと言えばスレイン法国で信仰されている六大神の一柱にして、アインズ様と私の間では推定プレイヤーとして警戒されている要注意対象だ。もっとも伝承通りなら既に八欲王に滅ぼされているはずだけど、
「お前何者? プレイヤーや、どうやら私のことを知ってるようで」
「自己紹介が遅れたね。私はアークランド評議国永久評議員にして
呼びにくいならツアーで結構だよ。もしくは十三英雄『白銀』と言った方が通りが良いかな?」
こいつ呼び名めっちゃ多いなと思いつつも、残念ながら何一つ記憶にかすりません。
「君にはとても及ばないだろうが、おそらく
ついでに言えば君のこともね。マタタビ」
「初対面の女子に凄くキモイこと言いますね。おまえ絶対モテないだろ。」
できればもう少し話していたかったが、こいつを殺せというオーダー待ちがそろそろ限界。
相手が知ってくれてるのなら名乗りをしなくても良いだろう。刀を抜き出し、敵に向かって刃を向けた。
「……彼の言う通りならこの鎧では歯が立たないらしいが。仕方ない、気のすむまで遊んであげよう」
諦めるようにぼやいて、ツアーは数々の神器武具を
――神槍を、妖刀を、宝剣を、聖盾、鉄鎚、魔剣などを召喚し、浮遊させながら自身の周囲に漂わせる。驚くなかれその数は100。
ユグドラシルでは見たこともない戦闘形態である。まったくもって厄介。たどいうのに、ひとたび意識を切り替えた途端体中が熱くなり、全身の細胞が眼前の未知との戦いに歓喜を露にした。
「精々、戦いの中で語り合いましょう」
戦闘狂だった覚えはないのに洗脳のせいか、はたまた段々と肉体が精神を侵し始めたのか。
凶悪な笑みが抑えられない原因は出来れば前者であってほしい。……いや、どうせこのまま死んでいくならどちらであろうと意味はないか。
先手必勝というより後手必敗。基本的に〈地味子の眼鏡〉でも読み取れない未知の敵相手には安易にペースを掴ませるわけにはいかない。
自称ドラゴン、全身鎧、浮遊状態、同じく浮遊する無数の武器、徒手。読み取れる限りの情報から瞬時に取るべき手段を考察。その一瞬の考慮を経て、右手の二本指を突き立て意中の忍術を起動させる。
「〈
十位階ぶんの魔法が込められたその術は直径10メートルほどの氷塊を生み出してそのまま勢いよく飛んでいく。
「ドラゴンだからってただの氷が通用するとでも?」
しかしツアーが右手をかざすとともに浮遊していた武器たちが一斉に飛び掛かってそれを砕きにかかる。魔力を込められたとてたかが氷塊、無数の神器たちにかかれば水を切り裂くことに等しく、破砕音と共に勢いそのまま今度はマタタビへと刃の雨が降り注いだ。
それらはあらかじめ飛び道具として作られた矢や銃弾の類ではない。どの武器にも持ち手があり、すなわち肉体によって用いられるための武具である。見た目としては悪くないが、まさか謎の念動力で操ることを想定されていたわけでもあるまい。
仮にこれらのうち一本を喰らったとして、いくら神器武器であろうとも守護者やアインズなどを筆頭とした同じく100レベルの者たちならば大したダメージにはなるまい。
ところが防御耐久が極めて低いマタタビには一本どころか掠った程度でも深傷になってしまう。
そんなことを誰よりも知っているマタタビが、しかし数多の武具の奔流へと弾丸のように投身した。
◇
無謀すぎる。ツアーはあまりに偏ったマタタビの能力を知っていた。だから彼女の自殺行為を見て攻撃を仕掛けたツアーのほうが驚愕し、まもなく迎えるであろう少女の凄惨な最期に戦慄を憶えた。
だが次の瞬間そんな未来予想図を超えた狂気の光景にツアーは重ねて戦慄した。
「正気じゃないね、君は!」
それは降り注ぐ無数の神器がすり抜けるように躱されていく光景だ。
ツアーとてただ直線的に動かしてるわけはなく、大雑把ではあるものの常に彼女を追尾するように操作している。だというのに、である。
四方八方から向かってくる武器を、まるで全身に目が生えてるかのようにマタタビは躱し続ける。時には蹴り飛ばして他のとぶつけ、別方向から砕けた氷塊の残骸を足場にしながら立体的に動いて攪乱する。ただ素早いだけでは説明がつかない戦技の頂点を極めた神技である。
氷の結晶を弾き飛ばしながら百の神器と共に宙を舞う少女の舞踊はいっそ神秘的ですらある一方、そんな生死の境目を行き交う無茶苦茶な戦い方を何故覚えたのだろう?
「正気で殺し合う方がよっぽど狂ってるでしょう?」
だが相手はわずかな思慮の隙すら与えない。飛び交う武器を今度は軽々足蹴にし、ツアーの視線よりはるか上空から斬りかかる。
刃を携えた彼女が飛び掛からんとする咄嗟のところで受け止めようと腕を交差させるツアー。しかし次の瞬間、刀はツアーの両腕をすり抜けて首の隙間に刺し込まれていた。
「!?」
宙に飛んだマタタビが既に刀を振り下ろしていたのを見て、ツアーの意識がようやく追いついた。
彼女は斬りかかるフェイントを見せ実際には刀を投げつけたのだ。回転させながらちょうど両腕を躱す具合に、かつ寸分たがわず首元を狙ってだ。
防御タイミングを外されて攻撃を受けては大樹のようなツアーの自我すら容易く揺らぐ。生まれた意識の空白を塗りつぶすようにマタタビの追撃はやはり続いた。
「ギミック起動、〈爆裂刀〉」
鎧に突き立てられた鋼色の刀身が赤色発光したかと思えば間も無く空を切り裂く爆撃が舞起こった。
◆
夜空の儚い輝きをかき消すように赤い爆炎と硝煙が勢いよく立ち込める。
自爆効果を持つ神器の刀で急所を貫き、そのまま自壊させてやったのだ。消費は痛いが、敵が未知数であったからこその大奮発である。並みの前衛プレイヤーなら十分仕留められただろう。
しかし期待に反し我が身を貫かんとする殺意は一層強烈なものへと変貌しただけだった。
「……まぁだ生きてやがる」
ならまぁ前向きに考えて、神器を使い捨てただけの意味はあったと言えるのかな? まさか世界級エネミーのような馬鹿げた体力を持ってるわけでもあるまいし、即死級のダメージを回避する方法は非常に限られるはずだ。即死もしくは一定量のダメージを一度だけ無効化する類の特殊効果か、それともそもそも……
私の感知能力を持ってなお読み取れない気配、高すぎる耐久性。一つの仮説が思い浮かぶが、まだ情報が足りない。
すぐさま思考を切り替えアイテムボックスからガトリング砲を取り出し、爆炎に向けてトリガーを回転させる。
けたたましい発射音。空薬莢が転がる音。弾丸が黒煙を貫いて何か硬質の物体へ炸裂する音。どうやら命中はしている。
「うっとうしいね」
手を横へ振って黒煙を薙ぎ払うツアー。向かい来る弾丸が雨風程度でしかないかのように悠然とたたずんでいいた。一方鎧の損傷度はそれなりで多少はダメージがありそうなのに、姿勢は一切崩れていない。
今度は右掌を差し向け光の粒子を収束させる。
「〈
流石にドラゴンを自称するだけあってか、光り輝く炎のブレス攻撃を前方に放ってきた。さらにダメ出しとばかりに背後から武器の嵐で挟み撃ちだ。
「〈千防ガマの術〉」
大地に手をかざし自身を取り囲むように忍術で岩石の壁を生み出して防御する。しかし光波の火炎と刃の嵐を同時に受けて保てるほどマタタビの忍術は強くない。
まもなく
◇
念動力で操れる最大数の武器と限定ブレスの合わせ技。これが容易く防がれてしまったなら今回の勝利はあきらめざるをえなかったのだが、彼女の防御術式を突破できたため一先ず安堵する。
やがて白炎が晴れ渡ると彼女が立っていた場所は剣山のように連なった武器の山と荒れ果てたクレーターだけが残っていた。
「やり過ぎてしまったのかな」
万が一殺害してしまうことがあれば蘇生させるだけのつもりだったが、死体の肉片すら残らない事態までは想定していなかった。リーダーからは彼女の危険性を嫌というほど聞かされていたため油断せず挑んだというのに、これではむしろ合わせる顔がない。マズイことになったと頭を抱える。
『こちとら厄介さが売りなんだ。まさか死んだとでも思ってるんです?』
「!?」
不意にどこからともなく掛けられる声。周囲を見回せど姿は見当たらない。ところが次の瞬間ガリガリと大地に割れ目が生じ、大穴が掘り開かれたかと思えば無数のマタタビが滂沱のごとく大量噴出された。そしてそのまま勢いよくツアーめがけて殺到する。
「イジャニーヤの使っていた影分身だね。これほどの数まで分身できるとは驚きだが、無駄だよ〈
前方発射のブレスとは打って変わり今度は全身から輝く魔力を放出する。飛びついてきた無数の分身体たちは瞬く間に消失。したはいいが、肝心の本体がいない。
不意打ちに備え周囲を見回すと斜め上方向から彗星のごとくこちらへ突っ込むマタタビの姿があった。
「〈瞬間換装〉カモン!〈
黒白のドレスへと姿を変え、魔力を展開させたままのツアーの方へ拳を向ける。
ドレスの恐ろしき魔力強度がツアーの体表に放出した輝く魔力を尽く弾き、換装した金色の
打たれた勢いで背面の大地へ叩きつけられたツアー。マタタビは猛撃の手を緩めず、今度はツアーのヘルムを鷲掴みにして地面の凹凸へ擦り付けながら音速で疾走した。
「おらぁあああああ!」
大地を抉り轟音を響かせながらしばらく滑走し、大岩へと叩きつけられてようやく勢いが止まる。かと思いきや、マタタビは拳鍔を纏わせた両腕を振り上げ、次の瞬間に怒涛の連拳を叩き込んだ。
「シャアアアアアァラァアアァアララララララ!」
拳を一撃受けるごとに地響きのような振動が装甲を徐々に削り取り、鎧の中へと強く響く。
なるほどプレイヤー相手でも只では済まない強烈な攻撃だが、
だから結局気の持ちようなのだ。
濁流のようなラッシュを喰らいながらそれら動作をじっくり見切って、その一撃に向かって掌を向ける。
やがて掌へ吸い込まれるようにして彼女の右手の一撃は止められた。あれだけ恐ろしい攻撃を繰り出す手だが、掴めば意外と小さいものだ。
「チッ! 怯みもしないのですか⁉」
「言っただろう、無駄だって」
◆
「無駄かどうかをぞお前が決めるな。〈行動阻害耐性Ⅳ〉!」
掴まれた手をスキルで振りほどき、後方から迫っていた武器達の猛攻を紙一重で躱していく。躱した武器が勢いそのままツアーの方へとぶつかるが、やはりダメージを受けた様子はない。
決定打のないまま接近していてもらちが明かないので高速移動でツアーからいったん距離を取り、隠形を発動させて夜闇に紛れた。
「怖気づいたかい?」
うるさい黙ってろ。
手の出しようのないツアーは武器達を自身の周囲へ浮遊させこちらが仕掛けるのに備える態勢を整えた。そして手の出しようがないのはこちらも同じだ。
いくら何でもタフすぎやしないか?
メリケンサックを仕舞い込み、アイテムボックス出した上級ポーションのボトルを握りつぶして零れた薬液を掌の傷口へなじませた。
この掌の傷は今のメリケンサックのギミック、〈震動波〉の反動だ。
マタタビのメリケンサックには、本職のソレに劣るマタタビの拳撃を実践レベルで通用させるために、反動ダメージをくらう代わりに高威力を出せるデータクリスタルを込めていたのだ。しかしそれでもツアーには全く効いていなかった。
さっきだって自爆機能を持つ神器をクリーンヒットさせてもびくともせず、あまつさえすぐさま反撃に打って出られるほどの余裕ぶりを残していたし。
これが普通に世界級エネミーみたいな化け物だったら素直に納得できたのだが、仮に防御を140レベル相当であるとしても攻撃能力や機動性能は精々あって80レベル。ありえないだろ。
とはいうものの、今さっき猫パンチ喰らわせたところで大体の種は予測ついた。あとは確証さえ得られれば勝ち目はある。
ツアーから直線距離100メートルほどのところまでとぼとぼ歩き、最も使い慣れた武器の日本刀〈珀狼王〉を抜き出し左手に握ってから隠形を解いた。
「さてそろそろ勝負を付けましょうかツアーさん。もしくは
「ああ良いだろう、勝敗はともかくいい加減君との戦いには飽きてきたところだ。じゃあ
――十三英雄『白銀』」
「わた、いや……クラン:ナインズ・オウン・ゴール『永久欠番』マタタビです」
大地を強く蹴り潰しスタートダッシュを切り飛ばす。加速して4歩目でMAXスピードへ突入し、前方から放射される剣群へと一直線に突き進む。
この超高速では先ほどやったような曲線的回避は困難。だが本当はさっきみたいな技術だけで無理やり乗り切るような曲芸を行う必要は無かったりする。というのも端からちゃんと防御用のスキルは持っているのだ。
「〈旋風陣の術〉!」
「何⁉」
駆け抜けるマタタビの周囲に風の障壁が発生し、向かい来る凶刃の数々はことごとく後方へと受け流される。先ほどの技術だけでの超回避を見た手前、まさか
武器の嵐を乗り超えた先には、案の定オフェンスに全ての武器を費やしてがら空きなツアーの姿。そりゃそうだ、その防御力で更に守りを固める判断なんて普通しないだろう。
「〈
ツアーは両手を前に向け輝く魔力を収束させ間も無く解き放った。
直径20メートルの巨大な光弾は大地を削りながら、突進してくるマタタビをそのまま光の奔流へと飲み込まんとしていた。
負けじとマタタビも日本刀にMPを食わせギミックを起動して対抗する。
「〈氷狼牙〉」
氷属性特化の神器武器〈珀狼王〉、マタタビの掛け声とともにその刀身から凍てつくオーラが溢れ出す。その冷気は大気を凍えさせるのみならず、所有者であるマタタビの腕にすら霜を張りめぐらせる。
しかしそれを一向に気にせず、オーラを纏った剣を振るい猛吹雪のごとき斬撃をツアーの光弾へと撃ち放った。
力と力がせめぎ合い、火花を散らして世界が揺れる。
数秒均衡していた両者。だが徐々に天秤はマタタビの方へと傾いて、氷刃が光を押し退いていく。
「波ッ!」
次の瞬間巨大な光弾の中心から氷晶眩く一本道が切り開かれ、その先に待ち受ける
やがて刃に冷気を宿したままで横薙ぎにツアーの首元へと斬りかかる。
「懐かしい太刀筋だ」
間も無く刃が届くその刹那、ヘルム越しのツアーの瞳が強く輝いてマタタビの視線を捉えた。
反撃だろうか。だとしても、今更刀を振るう腕は止まらない。たとえばそう――
「やはり君が、ナツウメサクラだね」
誰にも言った覚えのない
刀の切っ先は狙い定めた鎧の間隙へ正確に食い込んで、やがて夜空高くへツアーのヘルムを斬り飛ばした。
・
切り跳ね上げたツアーのヘルムは月光に照らされながら空中で放物線を描いて間も無くカツンと音を立て着地した。
すると今度はぷわぷわ浮かび上がって、首なしで屹立していた全身鎧の本体の方へうごめき元の頭部へとおさまった。
「はぁ……やっぱり」
その光景に思わず気抜けした一言がこぼれる。
「その様子だと薄々感づいてはいたんだね」
「まぁね。殴りつけたとき、感触が軽すぎたんだよ」
結果を言えば私の推測は当たっていた。
どれだけ痛めつけてもピンピンし過ぎていたもんだから、おかしいとは思っていたのだ。
なるほど鎧だけならどんなに攻撃しても碌なダメージにはならない。そしてこいつの気配が感じ取れなかったのだって、そもそもここに存在しないからだ。ただの防具を感知するスキルなんて私は持ってないし。
「あーもうまったく、どーりでそっちは余裕だったわけだ。ずるいねぇ、安全地帯からずっと睥睨してただなんて」
「そうでもないさ。直接的な死の危険はないにせよ、この鎧を失う覚悟はそうそうできない。
プレイヤーによって世界法則を歪まされた今ではもう二度と作り出すことは出来ないし、それ以上にこの鎧には強い思い入れがある」
そう言って私にボロボロにされた胸板に手を当てるツアー。
「さいですか。その思い出とやらには興味ないけど、ひょっとして私の名前を知ってる理由と関係あるのかな?
次第によっては思い出ごと、本体のお前も滅ぼさなきゃいけなくなるんだけど」
もしも推測通りなら、ナザリックの連中には絶対に知られるわけにはいかないだろう。
とはいえ今の私にはどうしようもないから、ただの脅し文句にしかならないが。
「ササキマサヨシ、それが今の君に話せるすべてだ。」
「おーけー十分、ぶち殺し確定です! 白銀だか竜王だか知りませんけど精々首を洗って待っててくださいね? 手始めにその鎧をぶっ壊してやる!」
アイテムボックスから一つの拳銃を取り出し引き金へ指をかけ銃口を向ける。
やれやれと両手を手を振るうツアー。気抜けした動作だが、今日一番の敵意が手向けられた。
「真実が怖いのかい? 200年もの間、愛情から逃げ続けてきた愚か者め」
「ドラゴンのお前に私の何がわかるんだよ! つーか200年てなんだ! こちとらユグドラシル最終日からまだ2週間だっての!」
「最終日から……二週間?」
なんだ? 妙なところで食いつきやがって。
2週間って聞いた途端、敵意が急に小さくなっていく。
「……フハハハは、2週間! そうか2週間か! なんていう皮肉な運命だろうね!」
「狂った?」
「狂ってるのは今の君のほうだろう? 真実を語るなら、正常な君の方が良いのだがね。
そのかわりにこの鎧のことは見逃してもらえないかい? やはり今ここで壊されるにはとても惜しいんだ」
何様だろうか?
とはいえ手段がないこともない。真実が怖いだのとほざかれるのは我慢ならないし、せっかくだから乗ってやろう。断じて罪悪感などではない。断じて。
「しょうがないなぁ。どうせ壊したっておまえ本体じゃないし。それならお前の敵意だけを消す方法はなくもない」
拳銃をしまい、アイテムボックスから一枚の呪符を取り出した。
「どうせお前に選択肢はないんだ。精々私を信じて抵抗しないことですね。この札は、貼り付けたマジックアイテムの効力を無効化する札です」
「それで遠隔操作を無効にするんだね? でもそしたら鎧は無防備になってしまうけど」
「今の私はお前の敵意に反応してるに過ぎないんだ。その鎧から感情が読み取れなくなれば、私の方は何もしない。
札の効果時間の5時間後。目覚めた私をまだあなたが恨んでるっていうなら同じことの繰り返し」
「逆に君に対する敵意を消すことが出来れば、そのまま立ち去ることが出来るんだね?
なるほど。理屈はわかったが、それだと君の方はどうなる?」
「余計な心配はしなくても良いよ。私のことなんかどうせ……どうとでもなる」
「今度は正常な君に出会えるのを願っているよ。もしも解放されたなら、私はアゼリシア山脈の霊廟にて待っているから尋ねてくるといい。
あるいは王都にかつての仲間のイビルアイという冒険者がいるから、先に彼女を頼るのもかまわないが」
◆
以上がことのあらましだ。
鎧が機能停止したことにより一旦は敵意が消失したと判断して、私の方は待機状態に戻った。
5時間かけて頭を冷やしたのであろう。ツアーはいつのまにか消えてくれていた。ただ姿だけはニグレドさんにばれていたのが唯一の誤算である。
いや、というかこの一連の流れ全てが誤算だったといった方が正確だろうか。
「ったくマサヨシの野郎!」
※マサヨシはオリキャラではありません。既存キャラのリアルネームを捏造したものです
ヒント:名前を漢字にするとすぐわかる
あと鎧のツアー、原作だと多分ここまで強くないと思います