ナザリック最後の侵入者   作:三次たま

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 そういえば特典小説で42人目のギルドメンバーは男性だと判明したそうですね(遠い目)

 一通り書き終わったあとにwikiで確認したけどビックリしました。TSタグつけたほうがいいのかな。


忠誠の儀

 「あれ?ゲーム終わらない」

 ふとマタタビさんがつぶやいた

 

 

 ユグドラシル最終日、俺とマタタビさんは共にゲーム終了の瞬間を待っていた。

 

 しかし予定時刻を過ぎてもログアウトは行われず、それどころかコンソール、アイコンが消えGMコールも届かなくなってしまっていた。

 

「これは……」

 

「どういうことだ!?」

 

 考えられるのは、サーバーダウンが延期になった、またはユグドラシルⅡなどの新たなDMMORPGに転送されたといったところか。満足にゲーム終了もできないなんて、最後の最後で糞運営のやらかしに腹が立った

 

「ひえっ!?」

 

 マタタビさんが口を抑えながら驚愕した声を上げる。彼女の視線の先に居たのはNPCアルベド、だがその様子がいつもと違うことに気づく。

 

「どうかなさいましたか モモンガ様」

 

 口が動いている!? 誰かが最後にAIでも仕組んだのか? いやしかしこれは……

 

 おもわずこちらが怪訝な様子で見返すと

 

「モモンガ様?」

 

(あ、あれ? 感情が勝手に沈静化されて)

 

 状況についていけず動揺していたところで突然感情の起伏がおさまり、強制的に思考が冷静化される。 

 

「GMコールが効かないようだ」

 

「お許しを、無知なわたくしではGMコールというものに関してお答えすることができません」

 

(NPCが会話をしている!?)

 

「この失態を払拭する機会を頂けるのであれば、これにまさる喜びはございません」

 

「そ、そうか」

 

 アインズ・ウール・ゴウンのNPCは、ヘロヘロさん制作の特殊AIが組み込まれており多少複雑な動作が可能だが、自律的に会話ができるまでの域には達していない。と言うか不可能だ。 ではこの現状は一体……

 

 マタタビさんを見ると、驚愕のあまり口を抑えてガクガク身震いしている。まるで借りてきた猫のようだ。

 

(ありえない、何か異常が発生しているのか)

 

 確認のため、ギルド武器のスタッフを手中から放すと 空中に漂いながら浮遊して止まった。

 

 こういうところはゲームの時と同じなのに、GMコールは効かない、コンソールも開かないしどうすればいいのだろう。 とりあえず、NPCに命令してよいのなら……

 

「セバス。大墳墓を出て、ナザリックの周辺地理を確認せよ。 プレアデスからソリュシャンを同行させ、知的生物と接触した場合丁寧に交渉しこちらに連れて来い。だめだったらソリュシャンを逃し、情報だけ持ち帰るように」

 

「承知いたしました、モモンガ様」

 

 コマンドを用いない命令に従っているのか? よくわからないがとりあえず命令しても良さそうだな。

 

「他のプレアデスたちは9階層に上がり、侵入者が来ないか警戒に当たれ」

 

「仰せのままに」

 

 指示を承けたNPC達は玉座の間から退場していく。

 

(何これ疲れる)

 

 とりあえず上位者として接して於けば間違いはないのかもしれない。まさかゲーム時代にやっていた支配者ロールが役に立つなんて思いもしなかった。でも素じゃないからこれは相当気を使うなぁ。

 

「僭越ながらモモンガ様、よろしいでしょうか?」

 

「何だ。申してみよ」

 

 何だ何だ? 知らぬ間にNG行為に触れていしまったとかか?内心気が気でない俺に対し、神妙な面持ちのアルベドはマタタビさんのほうを一瞥してみせる。

 

「はい、その者は一体、モモンガ様とどのようなご関係なのでしょうか?

 先程からモモンガ様を魔王と敬い、慕っている様子でしたが…」

 

 まるで般若のような鉄面皮で問うてくるアルベド。マタタビさんは増して体を震わせ、怯えているのがわかる。

 

 そうか、NPCが俺には無害だとわかっても、マタタビさんは侵入者だから敵対される危険性がある。 だからさっきから震えっぱなしだったんだ。

 

 ここは出来る限りフォローして置かないと彼女の身が危ない。

 

「とりあえず彼女は敵ではない、よって手出しは許さん。

 

 そうだな シモベ達にも彼女を紹介せねばなるまい。 アルベド」

 

「……はい」

 

 なぜか突然、般若から反転しおらしい反応をするアルベド。タブラさんには悪いが、ギャップ可愛いと思ってしまう自分がいる。

 

「1時間後 第六階層の闘技場に、4階層と8階層以外の全階層守護者達を集めるよう手配してもらいたい。アウラとマーレには私が直接話しておこう。 

 

 そして会議のついでに、彼女についての話をする」

 

「……承りました」

 

 再度マタタビを一瞥するアルベド。

 

 マタタビはというと、何か言いたげな視線を俺のほうに向けている。 どうした?俺なんか悪い事したの?

 

「では失礼させていただきます」

 

 一礼して、アルベドは玉座の間から退場した。

 

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 NPCたちが居なくなった玉座の間で、一段落つき緊張感から解き放たれた私とモモンガさん。 ワールドアイテムの玉座に座る死の支配者はなかなか絵になるが、当の本人が「…はぁ」とか「うわぁ」とか言いながら両手で頭を抱えこんでいて色々と台無しだが。

 

 そもそも制服姿でこの場の世界観と致命的に乖離してしまっている私がどうこう言えるもんではないけれど。

 

 そういえばこの世界に来てからと言うもの、ゲームシステムの能力に様々な変化がもたらされた。玉座の間で行った幾つかの成果を箇条書きで言うと

 

 ・魔法やスキルがフィーリングで発動できるようになった。

 ・自分のMP・HP量などのステータスがなんとなくわかるようになった。

 ・フレンドリファイア有効化された。

 ・黒い穴からアイテムを取り出せるようになった。

 ・精神異常無効化にMP消費がかかる等の一部仕様変更。

 ・18禁に触れても垢バンされない。

 

 まだ要実験ではあるけど、全体的に利便化されているといっていい。このレベルの機能性は現状の技術力だとゲームとして再現不可能だからここが異世界だという確信を後押しすることとなる。

 

「ねぇねぇ魔王さま、やべぇ死ぬかと思った?」

 

「どうしたんですか?マタタビさん、これでも敵対されないよう精一杯フォローしたんですけど」

 

「そりゃ最初は咄嗟の状況判断に『誰だこの魔王様は!?』って思ったけど!

 モモンガ様が別人になって私ひとりきりで異世界転生しちゃったの?って思ったけど!」

 

 突然動き出したNPCに、とっさに的確な指示を出して送り出すその手腕は、流石曲者揃いのAOGをまとめ上げただけのことはあると素直に感心した。

 

 もっとも、自己評価の低い隣人が、私の素直な感心を素直に受け取ってくれることはないだろうけど

 

「いやいやそれは言い過ぎですよ。 で、何が不満なんですか?」

 

「さっきそこにいたNPCのアルベド?でしたっけ、彼女に何したのか覚えていますよね」

 

「そのことはもうなしにしてくださいよ。 ってそれになんの関係が?」

 

「やっぱり気付きませんでしたか……。あの女の人、終始私に殺気を放ってたんですよ。 私を魔王さまの嫁かなんかと勘違いして」

 

 怖かった。死ぬかと思った。生まれてこの方あそこまで体が震えたことはない。吊革を離した通勤電車のほうがまだ安定するだろう。

 

「マジですか!?」

 

「……私、骨じゃなくて普通にお肉の付いた男の人が好きなのですがね。リアルに彼氏はおりませんが」

 

「俺だってリアルじゃ普通の男ですよ!リアルに彼女はいないですが……」

 

「告白ですか?ボーナス全部課金ガチャにつぎ込むような金銭感覚の旦那なぞ、それはそれで普通にお断りです」

 

「ちょっ!? 違いますって! 大体ここは異世界ですよ?魔法スキル色々検証しましたが、リアルに戻れる公算薄そうですし、その話をしても仕方ないでしょう。」

 

「冗談ですよ、私とて低収入のフリーターなんですし。

 しかし魔王さま的にそこのところどうなんですか? リアルに未練とかあります?」

 

「さっきのセバスの《メッセージ/伝言》を聞く限り、少なくとも自然環境はまともなようですね。 この異世界の住民の強さが不明ですが。 

 何にしても未練はありません。 リアルには何もないですから」

 

 まだこの世界に何があるともしれないのにさすがはモモンガさん。自分のギルドが現実化したというゲーマの夢的シチュエーションを逃さないとは。

 

「右に同じです。じゃ、そういうことで行きますか」

 

 私もリアルじゃしがないフリーターだったから、身の安全さえ確保されれば異世界生活というのもまんざらではない。そのへん隣の彼はやたら臆病だが、今の私には妙な慢心があった。

 

「ええ、では手を出してください」

 

 モモンガさんは骸骨の手を差し出した。私がそれを取ると、彼の指についている赤い指輪が煌めく。

 

 突如場が暗転し、気づくとそこは薄暗い石造りの廊下だった。

 

「転移の指輪は普通に作動するようだな」

 

「壁の中に埋め込まれちゃうとかじゃなくて良かったです」

 

「……さらっと怖いこと言いますね。」

 

「では私、これからスキルで隠形しますから。自己紹介のときにお声をかけていただければ」

 

「了解」

 

 さっきのNPCアルベドさんの反応からして、最高責任者っぽい立場のモモンガさんの横に、突然見知らぬ輩がいれば不快感を誘発して良くないという結論に至った。

 

 だから、NPCがモモンガさんに無害だと知れるまで私は姿を隠し、安全とわかってから登場して自己紹介するという手筈を組んだ。私を感知することができるNPCは5階層のホラー的なアレだけみたいだから無難な作戦だろう。

 

「ではスキル《隠形Ⅴ》《気配遮断Ⅴ》《認識阻害Ⅳ》っと。さて魔王さま、私が見えますか?」

 

「はい、自分が見えない誰かと話しているようで恥ずかしい感じがします」

 

 スキル名を宣言してその後果がちゃんと発動しているということを自分自身でもしっかり認識できる。初体験の感覚なのに不思議と違和感を覚えないのが不気味だけど。

 

(とりあえず会話するときにはメッセージ繋ぐので)

 

(かしこまっ!)

 

 ギルド武器の杖をコツコツつきながら歩み出すモモンガさん。置いていかれ無いよう、私も忍び足でついていく。行く先は6階層にあるという円形闘技場だ。

 

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 ほぼ原作通りの流れ。 

 モモンガさんが内心うろたえながら、ビビりまくるマタタビにメッセージを送るだけなのでカットします

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 守護者のNPCとの打ち合わせ、状況確認がひとしきり終わったところで、モモンガさんが質問を投げかけます。

 

「お前たちにとって私とはどのような人物だ まずはシャルティア」

 

 妙に威厳のある言い方ですが、ようは「みんな僕のことどう思ってるの?」ってやつです。

 

「まさに美の結晶 この世界で最も美しい御方でありんす」

 

 美の結晶を自称出来そうな彼女自身がそのようにいうのもなんか不可解ですが。

 

(……彼女ネクロフィリアなんですよ。ペロロンチーノさんが製作者なので)

 

(なるほど…あのエロ翼王ですか)

 

 脳裏に、垢バン覚悟で蕩々とエロスを語るバードマンの姿が浮かんでいく。

 

「コキュートス」

「守護者各員ヨリ強者デアリ、マサニナザリック地下大墳墓ノ絶対ナル支配者二相応シキ方カト」

 

(実際どうなんです? 守護者相手に立ち回るのは)

 

(単機でならまぁ出来なくもないですが……シャルティアがちょっとキツイですね。 あれでもガチ構成ですから)

 

「アウラ」

 

「慈悲深く、深き配慮に優れたお方です」

 

「マーレ」

 

「す すごく優しい方だと思います」

 

 この子だけ妙に頬が紅潮している気がするけど気の所為?

 

「デミウルゴス」

 

「賢明な判断力と、瞬時に実行される行動力を有されるお方、まさに端倪すべからざるという言葉がふさわしい御方です」

 

(……めっちゃプレッシャー感じるんですが)

 

(前半は合ってる気がしますけど……タンゲイスベカラザルって何?)

 

「セバス」

 

「至高の方々の総括であり、最後まで私達を見放さず残っていただいた慈悲深きお方です」

 

 見放さずって、そういう扱いなんだ。

 

「最後になったが、アルベド」

 

「至高の方々の最高責任者であり、私共の最高の主人であります。

 そして私の愛しい御方です」

 

「な!? ぅうんなるほど……各員の考えは十分に理解した」

 

「「「はっ!」」」

 

(何、この高評価っ!?)

 

(……知らんがな。まぁ合っていなくもないのでは?)

 

(他人事だと思いやがって! そろそろマタタビさんの紹介ですよ)

 

 緊張するなぁ。殺されたりとかしないかなぁ。

 

「それと最後になるが、皆に紹介したいものがいる。 気付いたものはいるか?私の側にずっといるのだが」

 

「「「!?」」」

 

 守護者の人たち驚愕です。まぁ自分で言うのもなんですが、100レベルを誤魔化せる隠形使いはユグドラシルでもそうはいないと自負してる。むしろ私にはそれくらいしか能がないからバレたら立つ瀬がないのだが……。

 

「さっさと出てきなさい」

 

「ぼふっ!?」

 

 隠形を解くのを渋ってたらモモンガさんが本気の<絶望のオーラⅤ>出してこっちを炙り出してきた。レジストには成功したが、うっかり隠形を解いてしまう。 

 

 いやだから、そんな能力でバレたりしたらこちらの立つ瀬がないんですって!

 

「……マタタビです」

 

 お間抜けで妙ちくりんな登場の仕方に呆然とするNPCの皆様。

 

「続けて、もっとちゃんと、詳しく」

 

 さっきから他人事のようにからかっていた報復でしょう。なんか普通に怖いです。

 

「種族はケット・シー、得意なことは隠形と罠はずし。

 モモンガ様とは懇意にさせてもらっていて友好かんke「従属の間違いじゃありんせんの?」間違えました、従属関係にあります。 

 ナザリックに直接仕える者ではありませんが、同じ主を持つシモベとしてどうか仲良くさせてもらえると嬉しいです」

 

(マタタビさんっ!?あんた何いってんの!?)

 

 トゥルーヴァンパイアの凄みに負けて、うっかり二言を吐いてしまいました。NPCの皆さんからは訝しるような微妙な視線。あ~あと約一名、殺気も少々。

 

 先程からよく殺意を読み取れるのは、《読心感知》というエネミーの敵対認識を確認するパッシブスキルの効果です。この世界では相手の悪意敵意殺意、好意善意愛情などをフィーリングで感じ取れるように変化した模様。

 

 ちなみに骸骨はわかりません。

 

 なにこれ人間不信まっしぐらなんですが。いやここに人間いないけど。

 

(へるぷ・みー 魔王さま!)

 

「う、うむ。彼女は昔からアインズ・ウール・ゴウンと付き合いがあってだな。

 かつて1500人もの軍勢がナザリックに侵攻を受けたとき、その一人に彼女がスパイとして紛れ込んで、敵司令官その他戦闘員のいくつかを殲滅したという功績があってな、それを認められシモベの一人(フレンド)になったのだ」

 

(シモベ以外は大体同じだね)

 

(アンタが言った嘘だろうが!)

 

 とにかくナイスフォローですモモンガさん。と、内心エールを飛ばしつつNPCを見やると、歓迎の気配が若干。しかし、約一名殺気が尚強くなってるような?

 

「では彼女の配属だが……アルベド、お前に委ねよう。」

 

「では一人、シモベの中で人手を求める者に心当たりがあります故、そちらに配属させようかと思います。」

 

(いつの間にか私の配属先が決まってるのですが…… 魔王さま?)

 

 アルベドさん、女神のように慈愛に満ちた微笑みでこちらを一瞥します。しかし、その内心がこちらへの敵意で満ちているとわかれば戦慄する他ありません。

 

(自分で言ったんでしょう? まぁ、突然来た奴がいきなり上にのさばるのも歓迎されませんし、身の振り方としては妥当かもしれませんね。私も目は通しておきますし、アルベドに決めさせれば問題ないでしょう)

 

(まぁ理屈は分からないでもないですが、一番問題ありそ――)

 ――うなの彼女なんですけどと言おうとした寸前で、

 

「うむ、では今後共、忠義に励め」

 

 突然、モモンガさんの姿が消えました。おそらく先程使った拠点移動のアイテムでしょうか。

 

 それにしてもまずいですね。アルベドさん、っていったけ? 彼女が私の人事を決めるなんて嫌な予感しかしない。途方もなくブラックな職場に務めさせられ過労死させられるENDとか嫌だなぁ。 ま、結局モモンガさんの目を通す訳だし大丈夫かもしれないけど。

 

 モモンガさんも大変だなぁ。部下の異常な忠誠心に当てられ、今頃は見えない胃袋がきゅうきゅう締め付けられていることでしょう。

 

 濃ゆい部下達に突然忠誠を誓われて、御可哀そうに……。

 

 

 濃ゆい部下達に……。アレ……私置いて行かれた? この濃ゆい人達と一緒に……。

 

 

 刹那、私の中に芽生え始めていたモモンガさんに対する同情心は180度反転して憤怒と恐怖心に入れ替わった。

 

(ふざけんなぁー!)




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