ナザリック最後の侵入者   作:三次たま

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 更新遅れた言い訳

・新作ポケ●ン発売、
・未だ不明なアウラの戦闘設定の補完、
・俺TUEE!を書く俺TUREE!



 これまでのあらすじ☆


1トブの大森林をアウラと散策。ザイトルクワエ撃破

2帰り道で漆黒晴天とシャルティアの気配を感じ取る

4シャルティアの身代わりで洗脳されたマタタビ

5洗脳したチャイナババア達は、色々訳あり暴走したマタタビに返り討ち

6シャルティアVSマタタビ

7負けたシャルティア。四肢切断で動きを封じられた上にMP根こそぎ奪われる

8とどめ刺される寸前で、魔獣軍団引き連れたアウラ登場


※ちなみに今回登場するアウラのモブ魔獣のデザインは、まんまポ●モンのパクり
※更にいうと、マタタビの捏造忍術もN●RU●Oのパクリです

 駄目な方は即座にブラウザバックすることを推奨します


悪神

 カルネ村へ向かっていく者たちと、洞窟内で暴れている存在、マタタビから計二種類の100レベルの報告を受けたアウラ。最近実質的支配地として治めたカルネ村のほうが緊急性が高いということで、ひとまず二人でカルネ村側の100レベルを監視しに行くことを決断する。

 

 より隠密能力の高いマタタビが接近し、遠視に優れたアウラが遠距離で監視するという手筈を組み、二人は別れて行動することになった。

 ところが、監視していた部隊に、突然現れたシャルティアが急襲を仕掛け始めて様子が一変する。

 

 シャルティアに謎の光弾を打ち込まれる寸前で姿を表したマタタビがシャルティアの身代わりになった。

 直後は様子がおかしかったマタタビだが、普段の間抜けた雰囲気を一変させたかと思うと、洗練された手際であっという間に敵部隊を殲滅させる。そこまでは良かったのだが、何故かその後シャルティアと戦闘を始めてしまったのだ。

 

 高速移動で斬り合う二人の速度では、流石にアウラのスナイピングでも捉えきれない。

 一旦手持ちの魔獣を集めてから奇襲援護を仕掛けようとマタタビの感知範囲から退避したのだが、魔獣を集めきった時シャルティアは既に瀕死状態だった。

 

 これほどの短期決戦で守護者最強のシャルティアが追い込めれることをアウラは想定していなかった。

 シャルティアへとどめを刺す寸前に出来た僅かな隙を狙い、アウラは〈吐息〉でマタタビを狙い撃ち酩酊状態にしてから急いで魔獣を動かしマタタビを包囲したのであった。

 

・・・

・・

 

「一応先に手出ししてきたのはシャルティアさんなんですよ?逃げる機会はあったのに、あの人そのまま居残りやがるから……」

 

「全部知ってる。始めっから見てたんだ、あんたが洗脳される前から。まったく……あんたなんか信じなければよかった」

 

 アウラの中には最悪な形で裏切られた期待感への失望、友人を殺されかけた怒り。けれども……

 

「そうですね、きっとそれが正解です。」

 重みの篭った言葉でマタタビは強い同意を示す。まるでアウラの思考を遮ろうとしているようにも思えた。

「さ、そろそろ始めましょうか」

 バッティングフォームのように刀を立て、マタタビは半身で刀を構える。剣先の間合いには濃厚な殺意だけがただ渦巻いていた。

 

 

◆◇◆

 

トブの大森林近郊(マタタビ)

 

 

(よりにもよってアウラさんだなんて、二重に最悪……くそ)

 

 マタタビは心の中で力なく嗤う。ケットシーには相性最悪なビーストテイマーの〈吐息〉の効果で、思考が霞がかかり、正常な機能を著しく侵されているようだった。

 慌てて解毒のポーションを取り出し体に叩きつける。酔い覚めの気分は最悪で、これが俗にいう二日酔いなのだろうかと考えた。

 

 気付けば周囲には、アウラと彼女が従える魔獣たちで包囲されていた。地上だけではなく夜空にも、翼を持つ者や羽虫の群れによって閉ざされている。圧倒的数の暴力が視界いっぱいに広がっていた。感知によると地中にすらもワーム系やモグラ系のモンスターが蔓延っている。

 4πステラジアン全体から徹底的な包囲が完成していた。

 

 これが階層守護者、アウラ・ベラ・フィオーラの完全戦闘態勢なのだろう。

 大森林をともに探検した時の面倒見のよい風情はどこにも残っていない。それが昨日だったか一昨日だったか、更にもっと前だったかは判然付かないが、仲良くなった人から向けられる敵意には、マタタビでも流石に堪えた。しかし、敵ながら同情されるよりは余程マシかもしれない。

 

 もっともそんな感傷は、完成された戦闘マシーンには一切関係ないことだ。

 邪魔な感情だけがピンポイントで溶けて消えていくのがわかる。

 

 刀を構えると、思考形態が戦闘時のそれへ半強制的にシフトされていった。

 

 アウラの戦闘力考察を開始する。

 〈地味子のメガネ〉の能力測定による大雑把な能力分析によると、アウラはビーストテイマー系とレンジャー系の二種類に特化した職業編成のようだ。

 特にレンジャーの中でもスナイパーやシューターを取っているらしく、回避が得意なマタタビでも必中コンボで〈吐息〉を狙われると致命的だ。

 本人に近づいて叩くには、遠距離攻撃に注意しつつ総数100体からなる魔獣軍団を潜り抜けなければならない。回避速度に自信はあるが、100体の猛攻を躱せるかはわからない。

 

 アウラはマタタビにとってシャルティア以上に厄介な相手なのだが、そんな能力編成を組んだぶくぶく茶釜の真意なぞ今更知りようもない。ただ恨めしく思った。

 

(とりあえず、シャルティアのトドメは諦めるかね)

 

 ほぼ無力化した状態だ。アンデットであるシャルティアには、MPが空である現状有効な回復方法は存在しない。

 ともかく今は、目の前の相手に隙を見せるわけには行かなかった。

 

 先程のシャルティア戦でもそうだったが、自律思考を獲得したNPCの戦闘技術というのはユグドラシル内一般の戦術体系とは少しズレている。

 フレンドリィファイアやソニックブームの有無など、この世界特有の物理法則を想定した戦い方を知っていること。使用する武器やスキルに関する技能が完全習熟されていること。反して戦闘行為への経験が圧倒的に不足していることなど.。

 例えて言うなら、ドライビングテクニックは完璧なのに、交通マナーを理解していないようなちぐはぐさがある。

 うかうか信号機で止まってたら、相手に追い抜かれてしまうなんて事があるかもしれない。

 

(悠長な気もするけどまずは様子見かな。)

 

 

 

 

「突撃!」

 

 アウラの発破から、一切に魔獣たちが襲い掛かってきた。

 

 

 一角獣の突進、複眼怪鳥の滑空を、バッティングフォームの日本刀で迎撃。

 蝙蝠からの衝撃波攻撃、巨大マンモスのじならしに対し、希少金属ダイナマイトで相殺する。

 

 こちらは最善手を淡々とこなすが、息を付く暇すら与えず追手は次から次へやってきた。

 

 魔蜂の毒針、ケルベロスの咆哮、魔眼の大蛇、30cm台の蛍蛾の毒鱗粉、

 サボテン型植物モンスターのミサイル針、鉄装甲をかぶった怪獣の尻尾撃ち、火狐の火炎車、電気鼠の雷撃、二足歩行クワガタのギロチンバサミ、

 

 ただ頭数があるだけではない。マタタビの呼吸をずらすように2,3手先まで組まれた多様な連携攻撃が放たれた。

 

 数の利点を活かし、各個体のダメージ量を分散させるようにヒットアンドアウェイを繰り返していく。

 ユグドラシルのビーストテイマーでもこれほどまでに微細に魔獣をコントロールできる者はマタタビの記憶にはない。

 

 以前、マタタビはアルベドに、NPCの戦闘技術について聞いたことがあったのを思い出す。

 その時のアルベドは「ナザリックのシモベは皆、与えられたすべての力をあますところなく使えるようになっている」と答えていた。今ならばそれは非常に恐ろしい事だと理解できる。実践経験が蓄積されていないにせよ、一部プレイヤースキルに於いては究極的高みにあるということではないのか。

 

 ましてやアウラを創造したのは粘液盾の二つ名を冠するぶくぶく茶釜だ。ホワイトブリムに創造された一般メイドが絵描の技術を持っていたならば、指揮官としてユグドラシル屈指のプレイヤースキルを持っていた彼女の因子を受け継いだ場合、一体どうなるだろうか。

 

 

 そろそろ攻勢に出るつもりでマタタビは、自身の習得忍術の中でも珍しい全体攻撃型の技を最大威力で発動させる。

 

「〈爆炎陣の術〉!」

 

 出力最大の忍術は第10位階魔法よりも基礎威力は上である。テイマーのスキルで強化されたといえど、低レベル帯の魔獣ならばまず殲滅できる筈だ。

 間もなく爆炎が噴き出されて周囲一体を焼き尽くした。

 

 ところが魔獣の断末魔は一向に聞こえてこない

 

(そりゃ範囲攻撃の対応も出来るか。マネキンじゃないんだから)

 

 予めマタタビからの範囲攻撃のタイミングは読んでいたらしい。術が発動する間際に高レベルの魔獣を前方配置して攻撃を防いでいたようだ。

 

 アインズやシャルティアならともかく、マタタビの魔法攻撃力では80レベル以上に強化された魔獣では範囲攻撃で倒すことはできない。そもそもマタタビの能力編成ではモンスターを相手取ることを全く想定されていないからだ。そのことをアウラに教えたのは他ならぬマタタビ自身である。

 

 炎の海の干潮際を見計らい一転して、先程の猛攻がお遊びだったような一際大きな攻勢をアウラは仕掛ける。

 

 

 地面から奇襲する八爪口のワーム、自爆し石礫を飛ばす顔岩、回転突進する毒ハリネズミ、鼻から砂埃を巻き上げるカバ、氷柱の鉾を構えるホッキョクグマ、

 追尾する銀色のトビウオ、溶岩の体を持つ蝸牛、丸めた耳でパンチを繰り出す兎、粘着糸を吐き出す巨蜘蛛、目から怪光線を放つ蝶、背に雷雲を背負う虎、

 瘴気を垂れ流すムジナの動物霊、甲羅に放水ランチャーが取り付けられた二足の水亀、巨大な舌をブンブン振り回すピンクのカメレオン、無数の毒手を操る赤目のクラゲ、

 岩の表皮を持つTレックス、綿雲の翼をした歌い鳥、背中にラフレシアを背負う緑の大蝦蟇、鋼の翼を振るう鷹、絶えず自壊する泥の人形、骨棍棒を振り回す骸骨のマスク

 

 

(……こいつら一々相手にしてたらキリねーですね)

 

 消耗戦を繰り返していくとなるとこちらのほうがやや分が悪い。消費アイテムを浪費して持久戦にもつれ込むこともできるが、ナザリックから援軍を呼ばれる可能性も考えてなるべく早期に決着をつけたいところだ。

 

 戦士職や魔法職の戦闘はMPとHPの消費合戦という節があるが、アサシンは違う。

 不意打ちでも陽動でも罠でも良い、とにかく相手の隙を作って一方的にこちらの勝ち筋を押し付ける短期決戦を最も得意とする。

 

 しかしこの対面は非常に不利だ。先手を取ったのはアウラだし、マタタビ一人では陽動も難しい。これほどの数を相手取ると分っていれば事前準備で戦場に多重トラップでも仕掛けておきたかった。

 いつものマタタビなら得意の逃げ足で即座に撤退するところだが「精神支配状態」らしいからそうも行かない。勝ち筋が全くなくならない限り。

 

「〈レインアロー/天河の一射〉」

 

 更に遠方から無数の光の矢がマタタビをめがけて殺到してくる。

 アウラからの遠距離射撃援護だろう。状態異常や束縛系の追加効果持ちで威力はそれほどでもないが、一撃でも当たればマタタビには致命的だった。

 回避しようと移動するが、ホーミング効果が含まれているらしい。軌道を曲げて追尾してくる。

 

 

 マタタビは自身のアイテムボックスに手を突っ込んだ。

 彼女のアイテムボックスは戦闘に最適化された特殊な整頓がなされており、欲するモノがあれば瞬時に取り出すことができる。これはアイテムボックスが乱雑なモモンガの反面教師として考案された、マタタビオリジナルのテクニックである。

 

「〈アクティブデコイ・フレア〉起動!」

 

 マタタビの体から幽体離脱するように、半透明の分身体が複数体現れ四方八方散り散りに走り去っていく。すると光の矢の束は分身体の方へと向かって分散し、やがて分身が突進した魔獣たちへと炸裂してしまう。

 魔獣の苦悶、そして奥にいるアウラの眉間が寄っているのが伝わった。

 

 このアイテムはホーミング攻撃に対し分身体のデコイを放って誘導する事が出来るのだが、誘導先がフレンドリィファイア有効かつ敵味方問わずランダムなのがタマに瑕。

 MPを消費する癖に一対多を想定した混戦でなければまず使い道はないという不人気アイテムだ。マタタビはこれを非常に愛用している。

 

(本丸抑えてちゃちゃっと終わらせますか!)

 

 穴が出来た包囲網を抜け出て、一直線にアウラの間合いに直進するマタタビ。しかし、アウラの周囲には〈吐息〉の酩酊効果が広がっていたらしく、ポーションで抵抗力を上げた状態でも一瞬怯んでしまう。

 

 アウラ一番のお気に入り魔獣、フェンとクアドラシルが主を守らんと立ち塞がる。手榴弾を二発取り出し二体の顔元へ投げつけ爆発させるが、近距離であったためにマタタビも一部爆風にかすってしまう。ゲーム時代ではあり得ない自爆ダメージだったため、思わぬ不意打ちだった。

 

 その一瞬の間で弓をしまい、アウラが居合いの如く腰から抜き出したのは青白く輝く鞭。これまたマタタビには最悪の武器チョイスである。

 

(茶釜ぁ!!絶対私のことメタってるだろ!)

 

 自意識過剰を通り越して半ば確信を抱くに至る。

 

 マタタビの直接戦闘能力は規格外の素早さに大きく依存している。物理防御力は50レベル台であるため、相手の攻撃をすべて躱して自分は急所に当てるという戦法を取る他ない。

 並の前衛であればある程度は通用する戦法なのだが、鞭系の武器だけには最悪の相性だった。

 

 人力で操る武器の中でも、鞭は史上最速の攻撃速度を有する。マタタビの知るホモ・サピエンスでもうまく扱えば最高ヘッドスピードは音速域だ。一方癖の強い武器でもあるため精々サブウェポン止まりで、かつてユグドラシル内に鞭のプレイヤースキルを極めた者は見たことがなかった。

 

 しかし、ナザリック地下大墳墓第6階層守護者:アウラ・ベラ・フィオーラは「与えられたすべての力をあますところなく使える」技能と、レベル100の超常的身体能力を持つ。

 彼女の鞭術を全て回避するなど、生身で針穴をくぐり抜く方がまだ易しかろう。

 

「ちょっと使いたくなかったけど……スキル〈瞬間換装〉!」

 

 体表を覆っていた学生服が掻き消え、代わりに繊細な刺繍を施されたメイド服の姿に変身した。

 

〈メイド・オブ・ヘル・アルマゲドン/メイド服は決戦兵器〉

 普段はただの作業着に成り下がっているが、元々はマタタビがギルド:アインズ・ウール・ゴウンから報酬として与えられた世界級に匹敵する最強防具。

 隠形能力の不能、そして素早さを平均値にまで減少させてしまう代わりに、耐久力と総合耐性を限界まで上昇させるという破格の性能を持つ。

 この装備を纏ったマタタビの攻撃力は前衛戦士としてやや劣るものの、盾役としては十分な防御力をほこる。ただし防御系のスキルは一切持っていないので、本職に比べると性能面では劣ってしまうのだが。

 

 しかし、職業レベルを野伏とビーストテイマーに割り振ったアウラを屠るにはこれで十分だ。

 

「効かないっ!?」

 

 アウラから、神器級の鞭の連撃が暴風の如く押し寄せる。しかし元来攻撃力の低い鞭では、今のマタタビに有効な打点とはなり得ない。

 〈吐息〉のスキルで陽動を仕掛けるも、常識外に広域なメイド服の耐性の前に防がれ、アウラは驚愕以外の反応を示せなかった。

 

「終わりです」

 

 子供の細い胴体の僅かな中心部、小さな心臓へと目掛け必殺の斬撃が叩き込まれようとしたその刹那、鳴り響いたのは肉を抉り切り裂く音ではなく、硬質同士の衝突する金属音だった。

 

 狩人と獲物の二者、突然の乱入に心を一つにして息を呑む。

 先程の自身の失態を非常に悔やむ狩人。

 獲物は間一髪で生き残った安堵と、反転し「何故逃げなかった」という怒りを露わにした。

 

「ちっ、文字通り死に損ないですね」

 

 マタタビの一撃を防いだのは、儚い輝白色の光子が凝固して象られた月光の化身。シャルティア・ブラッドフォールンそのものだった。

 

〈エインヘリアル/死せる勇者の魂〉

 

 発動者のステータスと武装を完全コピーした分身体を生み出す能力。魔法や特殊スキルは使えないとは言え、単純に100レベルクラスの敵を召喚する能力なのだから弱い筈もない。しかし不可解な点がある。

 

 瀕死寸前のシャルティアでも一応は発動できるが、隙を見計らって分身体に自身を担がせて逃げる事も出来たはずだ。

 

 何が彼女を目覚めさせたのか、何故逃げなかったのか。

 浮かび上がった仮設を思い、自分が意外にロマンチストなのだなと自嘲した。

 

(……なんと恨めしい姉弟愛でしょう)

 

 火力不足に加え、先程の戦闘でマタタビの剣技が見切られてしまったらしい。シャルティアの分身体を薙ぎ払おうにも、一撃一撃を堅実に防がれて上手くいかない。この場合異常なのはシャルティアの学習速度だった。

 特殊技術が使えない点も〈血の狂乱〉の誘発が出来ないのでかえって厄介だ。

 

「これでもくらえ!」

 

 起き上がったクアドラシルとフェン、破れかぶれの体当たりが横からマタタビを直撃した。数十メートル吹き飛ばされて、受け身も取れずに大地へと衝突した。

 

「……痛い怖い逃げたい死にたくない嫌だよぅ……」

 

 実質レベル100二人の連携。ゲームのPVPと異なり、実際に死ぬ可能性を秘めた本気の殺し合いだ。有利対面ならまだしも、1週間前までただの少女だったマタタビには恐ろしくてたまらない。

 

 だがそんな思いとは裏腹に、洗脳効果によって思考はたちまち合理化されていき、感情は闇夜に溶けて消えてしまった。

 

 

◆◇◆

(アウラ)

 

 100体もの魔獣による包囲網をいともたやすく潜り抜け、鞭攻撃や〈吐息〉を物ともせずにあっという間にこちらの命を取りに来たマタタビ。

 シャルティアのエインヘリアルに助けられなければまず死んでいただろう。それほどまでに絶望的で恐ろしい相手だ。

 

 しかし、フェンとクアドラシルがマタタビを吹き飛ばしたのを見て、またダメージを受けたマタタビが一瞬元の少女に戻ったのを見て、勝機が見えた気がした。

 このまま連携を組んでいけば勝てるかもしれない。

 

 だが期待を打ち消すように突然エインヘリアルはアウラの手首を強くつかんだ。その手は酷く強張っている。

 

「え、何?」

 

 分身体の造形はシャルティアそのものだが、顔の表情を表すことも意思疎通することも不可能である。ただ親友としての勘で、恐怖しているのではないかと思った。

 けれどそれこそアウラには不可解だ。マタタビを仕留めるチャンスは今しかないだろう。

 

(……いや違う)

 

 相手を見ると、これまで戦闘中僅かに垣間見えていた彼女の感情意識が、最早完全に抜け落ちている。

 吸い込まれそうな真っ暗闇の瞳孔と、鋭く月光を反射する艶やかな黒髪。思わず見とれてしまいそうな恐ろしくも美しい立ち姿。

 意思を持たない「死」という概念そのもののような濃密な気配、死を慈悲とするアインズとは正反対の超理不尽的存在だけがそこにはあった。

 

 先程戦ったシャルティアはこれを知っていて、だからこそいち早く感じ取れたのだろう。

 

 納得して瞬時、示し合わせるように目を通じ合わせる。エインヘリアルは掴んだ手首を振り上げて、アウラのことを思いっきり投げ飛ばした。方角は言うまでもなくシャルティアの本体だ。

 

「〈火遁・鳳仙花〉」

 

 数発の炎弾がアウラを撃ち落とそうとするが、スポイトランスを投擲したエインヘリアルに妨害される。

 エインヘリアルは小手越しの腕を構え、そのままマタタビへと襲いかかった。

 

「………」

 

 小手と日本刀が激しくぶつかり合う。神器級武器と伝説級武器ではやや分が悪く、やはり破片が散っている。

 飛ばされるアウラは後方から激しい金属音が鳴り響くのを無視して、シャルティアの方へ向かっていく。

 

 四肢と両目を切り裂かれた無残な真祖の姿を改めて目にし、マタタビへと強い憎悪が沸いたがそれを振り払った。

 状態的に一番適している姫様抱っこの姿勢で抱え込み、フェン以外の魔獣を全てマタタビの方へと回した。

 

「みんな突撃!フェンは私達を乗せて、逃げるの!」

 

 魔獣の大群を全て陽動として使い捨てる判断にビーストテイマーとして心が傷んだが、今はなりふり構ってはいられない。

 今回の件をどうにかしてアインズに報告しなければ、恐らくナザリックそのものが危ない。あの存在はそれが出来るだけの力を持っている。

 

 のしかかる勢いでフェンに跨り、背中を蹴って逃げるよう指示する。スタートダッシュをかけたところで、後方から凄まじい爆風と爆発音が追ってきた。

 

 振り返ると魔獣達やエインヘリヤルとマタタビが熾烈な攻防を繰り広げている。あれで倒せるかと言われれば怪しい気もするが、足止めはできている。とにかく今を逃げ切れればそれで良い。

 

 そう思っていた矢先、〈メッセージ/伝言〉みたいなテレパシーが脳へと直行した。

 マタタビの声だった。

 

 『〈Welcome to the stomach of the giant./我が胃袋へとご招待〉』

 

 起伏なく、ボソリと呟やかれたそれは、歓迎というより呪詛のよう。

 肌がピリッと逆立ち、「何かが来る」と本能的に身構えた。

 

 

 

 最初の異常

 引っ切り無しだった剣戟、爆音とそれに喘ぐ魔獣の唸り、大地が抉られる音。

 それらが一斉に沈黙へと閉ざされた。

 

 あまりに常軌を逸した現象に、何が起きたのかと振り返るとコールタールみたいな暗黒の波が既に戦場の一切を飲み込んでおり、夜すらも闇へと侵蝕せんと押し寄せてくる。間もなくアウラ達も飲み込まれてしまう。

 

(これは!)

 

 するとそこは、音も光も匂いも無い、死後のような世界だった。

 

◆◇◆

 

異形種:ケットシー:マタタビ

 

 約10年というロングセラーなDMMORPGユグドラシルに於いて、発売当初から最古参のプレイヤーにあたる彼女の、現在の実年齢は19歳。

 旧クラン:ナインズ・オウン・ゴールに加入した当時はメンバーの中でも最年少。幼女だった

 この話の恐ろしいところは、当時の彼女が後にDQNギルドとして名を馳せるクラン:ナインズ・オウン・ゴールの悪質PK戦術を貪欲に吸収していったという点だ。ぷにっと・萌えやたっち・みーを筆頭に、数多の上級プレイヤーの戦闘技術を幼少期から目の当たりにしてきた彼女の境遇は、まさにPKの英才教育といっても過言ではない。

 そういった数々の影響を受けた彼女のビルド選択は「モンスター戦闘は切り捨て対プレイヤー特化」という、ユグドラシル本来の楽しみ方から大きく逸脱したものとなった。クランを離れた彼女が、後のギルド:アインズ・ウール・ゴウンの化身とも言うべき能力を得るとは皮肉な話だが。

 脱退後の彼女は、様々なギルドに忍び込んで荒らし回るギルド荒らしと、人気のモンスター狩場に大量の即死系トラップを仕掛けやってきたパーティを尽く壊滅させる悪質pkをソロで繰り返し行っていった。蓄積された財力は中小ギルドを優に超えて、個人規模として規格外な域に達する。

 

 そんな彼女の職業レベルの中に、ユグドラシルの元ネタの北欧神話の三代神の一柱、悪神ロキを示す〈トリックスター〉というものがある。

 このクラスの会得条件は『単独潜入によるギルド武器破壊回数累計61回以上』。

 職業設定は『数多の悪行と悪戯により世界を引っ掻き回したユグドラシルの悪神』となっており、運営からの害悪プレイヤー認定と言っても過言ではない。

 最大レベル5で会得するスキルの名は、《Welcome to the stomach of the giant》

 

 使用者が単独で、なおかつ95レベル以上の者を二体以上を相手にしている時のみというピーキーな条件だが、その効果は凶悪だ。

 

 発動時半径200メートル内にいる効果対象者の五感を全て奪い取る能力だ。

 

 視覚だけでなく嗅覚、聴覚、感知能力も封印。

 更にアウラの魔獣等にかけられているような強化効果や〈メッセージ/伝言〉などによる通信効果の完全無効化すら引き起こす。

 結果連携が取れなくなるどころか、互いの存在を認識できず同士討ちが頻発し甚大な被害が発生することになる。

 そして加えて効果対象者が自然回復する分のHPとMPは発動者へと吸収されていく効果があるので、多数が被弾してしまえば量的攻撃による消耗戦も困難。

 これこそかつて1500名によるナザリック地下大墳墓侵攻の際、その内50名を「単独」撃破したマタタビの対集団戦最凶の切り札である。

 

◆◇◆

(マタタビ)

 

 ただ一つだけこのスキルには重大な弱点があって、それは五感が閉ざされた暗闇の中でも何故か使用者の姿だけは見えるということだ。

 

 なのでこのスキルを食らった連中は皆私のほうを注目する。

 でもこれだけで十分戦況はひっくり返るのだ。

 

 言うまでもないことだが、指揮官のいる百獣の軍団と、ただ獣が百体居るのとでは戦闘能力に絶望的なまでの開きがある。ましてアウラの強化スキルを引き剥がされたのだから、戦況の悪化は悲惨の一言に尽きるだろう。

 

 緻密な計算によって行われていた巧みな波状攻撃は無謀な神風特攻に成り下がり、回避を繰り返すだけでそこらじゅう同士討ちの火柱が立つ。壊滅するのも時間の問題だろうが、それ以上に包囲網が穴だらけになっていたのでマタタビが相手をする理由がもはや存在しなかった。

 

 アウラとシャルティアを追いかけることに注力する。

 

 一方アウラ達側は、遮断効果により騎乗用のフェンが使い物にならなくなったため、シャルティアを抱えて足で逃亡する他無くなっていた。

 触覚だけは辛うじて生きているので、元から抱えていたシャルティアとはぐれる事はなかった。ただ周囲風景が見えなくなっているので、木々や岩に衝突しながら少しずつダメージが蓄積されている。

 

 こちらが魔獣の幕が薄い部分を縫うように進んでいくと、そこを待ち伏せの如くエインヘリアルが槍による刺突攻撃を仕掛けてきた。

 咄嗟に半身を反らせて回避するが、その時相手の武器に違和感を覚える。

 

 バックステップで距離を取り、改めて相手の方を観察した。

 

 元々持っていたコピー武器は放り投げたときに消失している。今エインヘリアルが持っていたのは、本体の四肢切断の際に消失した本物のスポイトランスだ。どさくさにまぎれ上手く拾ったのだろう。

 

 相手はこちらを迎撃しようと、じっくりこちらを伺いカウンター体勢を組んでいる。

 時間稼ぎであろうことは明白だが、防御重視のメイド服ではエインヘリヤルを振り切れない。逆に学生服では〈吐息〉と鞭を使うアウラに勝てない。

 どうしたものか。

 

「〈烈風刃衝〉」

 

 片手を翳し、乱回転する空気の塊を発生させて投げつける。

 対しエインヘリヤルは直撃すれすれのところをスポイトランスで受け流し、リニアを彷彿させる猛烈な勢いで突進を仕掛けた。

 槍の切っ先は一点の曇なく頭部を目指してくる。

 比類なき防御性能を有する防具ではあるが、メイド服という形に拘った結果頭部だけ無防備なのだ。

 

「〈不動金剛盾の術〉」

 

 虹色に輝く六角形の盾を出現させ防ぎ、逆に盾の硬度を利用してそのまま体当りする。

 続いて装甲の右肩口の隙間へ刀で突き刺そうとするが、相手の左手に刀を掴まれ動きを封じられた。

 

 隙アリと言わんばかりに槍を振り上げて攻撃してくる。しかし端から頭部を狙ってくると判っていれば躱すのは容易い。

 決死の一撃は体幹をずらす極小の動作によって目標を見失い、宙になびく黒髪をかするのみ。

 この一連の流れには憶えがあった。

 

 直後シャルティアから放たれる膝蹴りを、目視するまでもなく膝で受け止める。

 鮮血の装甲と純白のスカートが交差しけたたましい金属音が響いた。

 

 掴まれた日本刀を捨て、数多の神器スペアからギラついた刀身のサバイバルナイフを取り出した。

 

 そのまま首元を狙いとどめを刺そうとするが、遠距離から放たれる光の矢に被弾してしまう。

 ダメージはないものの、ノックバック効果により吹き飛ばされ大地に叩きつけられた。

 地面から這い上がり遠視すると、シャルティアを抱えながら器用に弓射撃するアウラの姿が確認される。

 

 

(遮断状態で援護射撃ですって!?)

 

 驚きのあまり、薄れかかった感情が再び息を吹き返した。

 

 今のアウラ視点からすれば、虚空に武器を振るうマタタビの姿しか見えず、斬り合っているのがエインヘリヤルかさえ不確定のはずだ。

 つまりマタタビの動きを見るだけで状況を悟り、絶妙なタイミングを見計らって矢を放ったということになる。

 

 そして矢の追加効果がノックバックであるという点がミソだ。

 仮に状況が掴めたとして、それでもこの状況での援護射撃では、姿が見えないエインヘリヤルに被弾する可能性も考慮すると愚策でしかない

 しかしノックバックであれば、たとえ被弾した場合もマタタビのナイフによる致命傷を回避することは出来ただろう。

 

(NPC天性の戦闘センス、なまじ柔軟性に富んでいる分下手なプレイヤーより厄介かもしれない。もしこれが実戦経験でも得た暁には……いや違うな)

 

 先程のエインヘリヤルとの斬り合いを思い出す。

 あの時彼女が繰り出した膝蹴りは、マタタビが槍使いの少年に使ったのと全く同じ動作だった。その時に覗き見たのを真似たのだろう。

 当の本人にそれを使う辺りがまだ甘いものの、この戦闘中にも貪欲に経験値を蓄積させていると考えると恐ろしいものだ。

 

(シャルティアが前衛で時間を稼ぎ、逃げるアウラが片手間に援護射撃。

 これじゃ茶釜とエロ翼王のあべこべですね。ならそれを利用してやろう)

 

「〈火炎弾〉!」

 

 口から龍を象る巨大な灼熱業火を吹き出す。

 MP吸収効果に物を言わせた最大出力なのだが、放つ方向はエインヘリヤルから右に大きくそれている。

 一見意味不明の行動だが、半端に回る頭で察した彼女はむしろ自分から炎龍へと飛び込んだ。

 そっちがアウラとは逆方向だとは知らずに。

 

 そして走るアウラへと距離を詰めようとダッシュするものの、今度は追い付いてきた魔獣軍団、――もとい魔獣の群れが襲いかかってくる。

 こちらへの対処は簡単だ。指令塔はもう居ない。

 

「邪魔っ!〈爆炎陣の術〉」

 

 風に乗った火炎が渦巻きを作り出し周囲の魔獣を一掃する。盾役は不在で、尚且つスキル強化が剥がされた分魔法防御も低下しているので先程より圧倒的に被害が多きい。

 

 こちらを遠ざるために走りながらアウラがノックバックアロー連射するが、こちらは魔獣の方へ被弾するような避け方で回避して距離を詰める。

 無駄を悟ったアウラはただ走ることに集中しはじめたが、追いつかれていく恐怖と絶望感は〈読心感知〉を持つマタタビには筒抜けだ。

 

 ようやく囮攻撃を悟ったエインヘリヤルも追いかけてきたが、彼女の召喚時間も無制限ではない。

 シャルティアとアウラにトドメを指すまであと十数メートルまで追いつき、あともう少しでというところ。

 

 しかしまたしても、今夜三度目の妨害がマタタビへと去来した。

 突如強大な敵意がマタタビへと降りかかったのだ。

 

(援軍?……いや違う。こいつ、気配がしない)

 

 記憶では、マタタビの気配感知を潜り抜ける芸当ができるNPCはナザリックには居ない。

 だが半径100メートル範囲の〈読心感知〉で敵意は感じ取れるのに、何故か更に広範囲な別の感知能力に一切反応は無かったのだ。

 

 つまり考えうるは、ユグドラシル由来ではないこの世界独自の異能による気配遮断能力だということ。

 少なくともそいつはプレイヤーではないが、何故かこちらに強い敵意を持っている。

 

(……結構まずいかも)

 

 であるならどうするか。最善手は、間もなく屠れる筈だった眼前の獲物は見逃すということ。

 さもなくば、こちらがとどめを刺している隙間を狙われる可能性がある。

 死ねば最悪、誰も始末することが出来ないで、最悪よりマシな選択肢をマタタビは選んだ。

 

「ッチ、スキル〈瞬間換装〉」

 

 舌打ちしつつ、メイド服から使い慣れた神器学生服へと着替え直す。

 

「……まったく、つくづく命拾いしましたねあなた達。そうね、良ければアインズ様によろしくって伝えてね」

 

 眉間に皺を寄せ憎らし気な視線で睨んだ後、マタタビはそう言い捨ててアウラ達の前から姿を消した。

 

 

 

◆◇◆

 

(アウラ) 

 

 

 結局マタタビが二人を見逃した理由は考えてもわからなかった。謎の暗黒空間は、彼女が姿を消して間もなく解除された。

 

 走りながら振り返ると後方には、アウラの魔獣の死骸がこれでもかと積み重ねられている。

 生き残ったのは80レベル以上の極小数だけで、更にそれすらほぼ瀕死状態であるために、マタタビの脅威を想起させる材料にしかならなかった。

 

 

「うぅ……なんで!」

 

 階層守護者二人がかりでも惨めに敗走する他ないという事実がアウラに死にたくなる程の屈辱を与え、絞り出すような涙を流した。

 何事もなく順調に帰っていれば、魔樹を滅ぼし薬草と木材資源を持ち帰ってアインズから褒められたかもしれないというのに。

 

 常時の頼れる姉御気質は「自分がちゃんとしていれば」という自責を一層強めるばかり。

 唇を噛み締め、重体のシャルティアをぎゅっと抱きしめる。頬から垂れる雫がピタッとシャルティアの頬へと垂れる。

 それに応えようとパクパク口を動かし反応するシャルティア。しかし潰された喉には、掠れた空気の流動しか出すことが出来なかった。

 

「バカ、無茶しないで。もうすぐナザリックよ」

 

 

 冷たい肌から感じる温もりが、今は愛おしくてたまらなかった。

 




 ちなみに最後にやってきた謎の気配は、評議国の鎧ということにしています。
 今後登場させるかは決まっていません。もし王国編を書きおえられたら登場させようかな?無事行けたらいいんだけど……

 あとオリ主の切り札スキル、あれは単独で50人斬り出来る糞チート能力です。
 作者の文章力の問題でめっちゃ分かり辛いですけどね。
 どうしても気になるという方は、これから活動報告に詳細載っけますんでそこからどうぞ



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 次回ようやくアインズ様が主人公がを始めます。 

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