やりたくてたまらなかった次回予告だけど、尺の問題で分割投稿になるから、微妙に嘘予告になってしまった。
誤字脱字報告してくださりありがとうございます。
とある盗賊団の拠点跡地
シャルティア・ブラッドフォールンは焦っていた。
「……叱られる……どうしよう……。でも……」
彼女はアインズの命により〈武技〉という能力を持つ存在を回収するため、セバスらが誘い出した盗賊の中からそれを探し出すことになった。
ソリュシャンとセバスによる誘い出しは順調に進み、シャルティアは見事盗賊の拠点にいた〈武技〉使いに接触することができたのだが、相手の力量を舐めてかかっていたらシャルティアはうっかり捕縛対象を逃してしまい、隠密活動のためにわざわざ盗賊を狙ったというのに、やってきた冒険者に自分の存在が露見してしまったのである。
何もかも、〈血の狂乱〉が発動してしまったことがいけなかった。あれさえなければ今よりましな対応ができたに違いない。
とはいえ〈血の狂乱〉を自身に与えたのは創造主であるから、そのせいにするというわけにも行かない。
考えるということを苦手とするシャルティアは、失敗続きで結果思考が沸騰してしまいそうになった。
そんな中、苦し紛れに森に放った眷属から消失反応が送られる。
「……見つけたの?」
眷属のレベルはそれほど高くないが、しかし余りあるほど消滅の速度が早い。ひょっとすると先程逃した目的の男が居るのかもしれない。
「後から付いてきなさい! マーカーを準備しておく!」
おざなりに吸血鬼の花嫁へそう告げると、シャルティアは風のような速さで森の中へと駆け込んでいった。
眷属の消失地点まで駆けつけると、そこにいたのは先程逃した男ではなく、装備やら何やらがこの世界で見たものの中でも段違いである12人の人間だった。
(あれは……強い?)
その中でもシャルティアが特に注目したのは、身に纏う装備に反してみずぼらしい槍を持った黒髪の少年。
他の連中は雑魚だが、そいつだけは侮りがたい強者の雰囲気を漂わせている。
シャルティア自身は戦士特化ではないので目視での能力判定に自信はないが、少なくともプレアデスの姉妹では歯が立たないであろうことは明白だった。
始めは彼らをどうするべきか迷ったが、よくよく考えてみるとこれが実に恵まれた巡り合わせなのだとシャルティアは気づいた。
(そうよ!こいつらを生け捕りにすればさっきの失敗をチャラにできるじゃない!)
シャルティアが放つ殺気が狼煙となり、両者は臨戦態勢を整える。
その時『強者』の少年は小さく呟くように言った
「……使え」
その一言がどんな意味を持つのか、数瞬かかってシャルティアはようやく悟った。
12人の陣形の中でも後ろの方にいる老婆、ソレが身に纏う中華服の余りある魔力を感じ取ってシャルティアは戦慄する。
(よく解らないけどあれはまずい、真っ先に処理しなければ!)
第6感とも呼べるその直感は自ずと彼女に最善手をもたらす。
陣形の中心へ捨て身で突進するシャルティアだったが、先程思慮に費やした数瞬が命取りだった。
シャルティアの意図を察した『強者』の少年が彼女の前に立ちはだかり、両者の武器が凄まじい衝突音を轟かせる。
「邪魔!」
全力の拳で少年を殴り飛ばした。
100レベルの腕力によって吹き飛ばされ、大地が弾けるような衝撃波が起きるも少年は無事だ。
やはり、と歯噛みしたくなるシャルティアだったが今はそれどころではない。
老婆を守るように、また別の複数人がシャルティアに襲いかかる。
「〈集団全種族捕縛〉!」
魔法は成功し数人が動きを止める。
今度こそとシャルティアが目標を捉えた次の瞬間、老婆から繰り出される光の束が目鼻のすぐ先に差し迫っていた。
これはまずいと、今更気づいても遅い。こんな一瞬では彼女とて躱しようもないのだ。
しかし―
「危ない!」
―閃光に飲み込まれる直前、甲高い女の声が聞こえたこと思うと、何かがシャルティアの背中を突き飛ばした。
凄まじい威力で遠くに突き飛ばされたシャルティアは隕石のように大地に炸裂する。
「んきゃあ!」
シャルティアを含めた場の一同は、突如現れた乱入者の方に注目した。
その意外な正体に、シャルティアは唖然とする。
(どうしてあいつが!? たしか名前は……マバタキ)
先程までシャルティアが立っていた場所に、夜陰と同化するような黒髪をたなびかせた学生服の少女が佇んでいた。
ただどこか様子がおかしい。目はどこか虚ろで、たった今「危ない!」と声がけした姿とはどうしても結びつかない。
シャルティアの知る限りその状態に当てはまる言葉は一つだけだ。
(精神支配!まさか100レベル相手に通用する程なんて)
状況からして、彼女がシャルティアの身代わりになったということだろうか。
何故彼女がここにいて、どうしてそんなことをしたのかはまるで見当がつかない。
その困惑は、彼女が何者かすら知らないあの人間たちの方がよっぽど強いだろう。
各々状況に対する意見をかわしだす。
「どういうことだ!あの吸血鬼は逃げたのか、そしてこいつは何者なんだ!」
「支配は成功したようじゃ……、この女もさっきの奴の仲間か。」
「人の見た目こそしているが、人間ではないようだ。どうしましょう、隊長」
シャルティアはこの時、またしてもミスを犯した。
さっきあまりにも遠くに吹き飛ばされたためか、敵側からシャルティアは姿を消したのだと思われたらしい。
だからこそ遠目から何が起こっているのか確認して、それから転移で「撤退」しようと考えたのだ。
しかし、何もかも手遅れである。
怪物の名はマタタビ。
最凶最悪の殺戮兵器の産声は、既にあがっている。
最早この場に『彼女』を止められるものは「誰一人」としていなかった。
隊長と呼ばれた少年は、平静を保ち毅然に指示する
「カイレ様、事は一刻を争います。この者を操って尋問しましょう」
「うむ」
謎の少女を睨むように一瞥してから、老婆はアイテムに意識を込めようとする。
だが突如、少女の目に光が差し込んだかと思うと、少女の指先から鋭い獣爪が生えて老婆に襲いかかる。
伸ばされた白魚のような手は、老婆の眼球を的確に捉え潰す。有り余った威力はそのまま頭蓋骨を貫通した。
僅かコンマ一秒にも満たない一瞬の出来事である。
被支配状態にある存在が支配側に反旗を翻すという常軌を逸した現象に、それを見た一同が驚愕する。
「バカな!神々の遺産であるケイ・セケ・コゥクが命中して精神支配は完璧だというのに、何故こんなことが!」
完成された殺人マシーンはゆっくりと声のした方に反応する。今さっきの獣のような雰囲気を一変し、温和で友好的な口調で答えた。
「私が精神支配? へぇーそうなんですかこれが……なぁるほど。思ったよりも悪い気はしませんね。」
両手を夜空にグイッと伸ばして背伸びをする。おおよそ殺戮とは無縁な、無邪気な少女の姿だった。
足元をよく見ていなかったようで、すぐ横に転がっていた老婆の死体を踏んづけて「ぐぇっ」と唸る。靴が血に汚れて不満そうだった。
気を取り直すようにニカッと魅力的な微笑みを浮かべる。
少女は虚空に開いた暗黒の中に、血まみれに汚れた手を伸ばした。
取り出したのは、カタナと呼ばれる刃渡り1メートルにもなる剣である。
少女の風貌にはあまりに不釣り合いな獲物だと思われたが、彼女がそれを掴み取って抜刀した瞬間空気は凍りつく。
「いやはやそう考えると、みなさん本当に運がお悪い。これでも殺しは初めてで、私正直内心ビクつきまくりなんですけれど仕方ありません。
せめてメイドさんが優しく冥土までエスコートして差し上げましょう。冥土の土産に自己紹介、私の名前はマタタビです。」
オーバーに演技掛かった彼女の振る舞いは明らかに滑っていた。
少女―マタタビは口が割けんばかりに頬を引きつらせて獣の如き鋭利さを表す。
一同が、加えて遠くから傍観していたシャルティアでさえも戦慄を覚える程の殺気は、背景に積み重なった死屍累々を容易く想起させる。
そして、もって回した死刑宣告はやはりどこか意味不明だ。
「うーんやっぱ『あの人』みたいに格好良くはならないか。ウルベルトもよくやってたけど、中2口上やるやつって大した勇者ですわ」
吐き捨てるように言うと、老婆の死骸が纏っていたチャイナ服を汚物にでも触れるように刀の切っ先で持ち上げ、先程の暗闇の中へ無造作に放り込む。
続いて取り出したのは1枚の〈羊皮紙〉だ。軽く投げ上げると蒼炎が灯り、あっと言う間に焼失した。
「〈次元障壁〉」
(しまった!転移を封じる魔法、これでは逃げられない!)
逃げられない
シャルティアは、先程から使っていたその言葉に、主に目的語に大きな違和感を覚える。
何から逃げるというのだろう。先程のチャイナ服の効果内容も、効果範囲もすでに見切った。あれがアンデットであるシャルティアに有効なのだとしても、それを扱う者の程度は所詮知れている。最早シャルティアの敵ではない。つまりは……
(あいつを? 御方に創造された私が、あんなやつを恐れているとでも言うの!?)
シャルティアのマタタビに対する認識は非常に薄い。
高位の隠形を使えるという話だが、そもそも探知系の能力を持たないシャルティアにとってはそれがどの位凄いことなのか判らないし、配属先が異なるので交流なんてある訳がない。
面識は、六階層へ招集された時が最初で最後で、シャルティアにとっては覚えている方が奇跡と言えた。
微かに覚えている印象は、ただ臆病で脆弱な小動物。
あの時はこちらが一瞥しただけでも、全身を強張らせて敏感に身を縮ませてしまっていた。それでも無謀に挑んでしっぺ返しを食らった先程の剣士よりは賢明かもしれないが。
噂で自身と同じ100レベルだと聞いたときには、ありえないと一笑に付してやったものだった。
それがどうだろうか。現在彼女を中心に、濃密な死の気配が辺り満遍なく広がっている。
ザラついた猫舌で直接心臓を舐め回されるような悪寒。
少年もシャルティア自身も、彼女の前にしては等しく小動物に成り下がってしまうようだった。
人間たちは動揺を抑えて冷静に、先程シャルティアを手こずらせた陣形を組み直していた。
否、彼らの所業は理性的ではあったが、冷静とは程遠いかもしれない。
殺気に当てられ、かえって理性の暴走を許してしまった。
彼らは本能に従いみっともなく逃げるべきだったのだ。
1%にも満たない誤差だろうが、生存率も上昇してくれただろうに。
捕食者はそれを嘲笑うような目で眺めつつ、自身も刀を構えて臨戦態勢を整える。こうなるといよいよ本当に獣じみてくる。
シャルティアが恋しくてやまない絶対支配者は、死を司る神である。
そう考えると甚だ不敬でしかないのだが、今の彼女を見るとどうしようもなく「死神」という言葉が相応しい気がしてならなかった。
「なんて……綺麗なの!」
殺気に酔いしれ正気を失っていたのは、どうやら彼女も同様らしい。
もしアインズがこの場に居ればまず間違いなく、撤退を指示していただろうから。
◇◆◇
「はっ!」
軽い一呼吸とともに捕食者の狩りは開始された。
彼女の狙いは明らかだ。老婆が死んだ今、彼女の眼中にあるのは少年唯一人。しかし『強者』と付け加えるには、今の彼の背中は小さすぎた。
たった一歩を踏み込んだだけで、転移と見紛う素早さで少年の懐に潜り込んだマタタビは、何の躊躇もなく鋭利な手刀を彼の首元へ突きつける。
彼は体幹をズラし、見事最短の動作で攻撃を交わすことに成功する。
だが上半身への攻撃に気を取られて居る内に、強烈な膝蹴りが少年の股間部に向かっているのを気が付かない。
次の瞬間、男児にのみ与えられた宿命的痛感が少年を襲った。
「ぶぐっ!?」
痛みに耐えかね、マタタビの顔に唾液を吹きかけた少年。それがどうやら彼女の眼球に入りこんだらしく、奇跡的な目潰しとなる。
「ッチ」
瞬時、非常に顔を顰めて目を瞑るも折角の攻撃チャンスを逃す気はないらしい。
両手で刀を構え、装甲を貫いて槍を持っている右側の肩を縦に切り裂いた。
そのまま追撃を仕掛けようとするが、その時陣形の後方から回復魔法を詠唱する魔法詠唱者の姿が確認された。
マタタビは追撃を中断し、バックステップで少年の間合いから離れた。アイテムボックスの〈無限の背負い袋〉から手早く何かを取り出して、尋常ならざる脚力で上空へ飛び上がった。
「失せてください」
彼女の両手にそれぞれ構えているのは、黒鉄色で刃が付いた礫のようなもの。すなわち手裏剣である
マタタビの手から投擲される手裏剣が、雨のように陣形全体をまんべんなく襲った。
手裏剣は忍系統の職業会得者にのみ使える武器だ。
今マタタビが使っているのは、わざわざ一つ一つ作っては使い捨てにするタイプ。これは、威力は見込める代わりに膨大に資源を食うので、わざわざ実践に使っている者は少ないというなかなかのゲテモノである。
数多くのPKとギルド拠点荒らしを繰り返した結果、中小ギルドを容易く凌駕する財力を有しているマタタビだからこそ使える贅沢品といえよう。
圧倒的レベル差から繰り出されるそれらは、一発一発の威力が必殺級。被弾者の肉を容易く貫き、骨を豆腐のように砕いていく。
手裏剣のうちいくらかは〈低位武器貫通〉などの微弱なデータクリスタルを仕込んでいるので、複数回被弾していく間に伝説級のフルプレートを着込んだものですらダメージを免れ無くなっていった。
鋼鉄のゲリラ豪雨がようやく止むと、少年の他の戦闘員は既に全滅していた。
少年自身も手裏剣で全身は傷だらけ、槍を握る腕の肩には大きな切り傷があって使い物にならなくなっていた。
人数差によるアドバンテージをあっという間に覆され、絶望的な戦況を前にしてようやく少年は悟ったらしい。自分が相対しているのが、化物すら超越した怪物なのだということを。
「あなたは一体何者なんだ!!まさか罪人なのか!」
今の彼は、それがどんなに陳腐な質問なのだとしても、尋ねずにはいられなかった。
少年の必死さに反比例するように、少女の顔は冷めていくようだった。
「ただのメイドです。強いて言うなら、あなたより強い、それだけだよ」
そう言い捨てて、今度はまたアイテムボックスを開き、先ほどとは別の〈羊皮紙〉を複数取り出した。
「そういえばあなた達。といっても今は貴方だけだけどさ、私に洗脳アイテムを使ったんだよね?
きっと私を辱める気だったんでしょう?エロ同人みたいに。」
「…………」
「アハハごめん冗談ですよ。でも某国では洗脳って殺人より重罪らしいからさ、仏ならぬ私としてはやり返さないと気がすまないんだよ。」
彼女は持っていた〈羊皮紙〉をバサッと宙へ投げ上げた。
その枚数は11枚、奇しくも先程死んでいった人間と同数である。
「まさか……それだけは止めてくれ!」
「やーですよ」
ふわふわと宙で燃え上がる十一の蒼炎は、夜陰の中で蛍火の如く優雅に揺らめいていた。
無慈悲で単調な詠唱が紡がれていく。
「〈不死者創造/クリエイトアンデット〉〈不死者創造/クリエイトアンデット〉〈不死者創造/クリエイトアンデット〉〈不死者創造/クリエイトアンデット〉〈不死者創造/クリエイトアンデット〉〈不死者創造/クリエイトアンデット〉〈不死者創造/クリエイトアンデット〉〈不死者創造/クリエイトアンデット〉〈不死者創造/クリエイトアンデット〉〈不死者創造/クリエイトアンデット〉〈不死者創造/クリエイトアンデット〉」
彼女が〈羊皮紙〉で発動した魔法は第三位階。
カンストクラスの戦闘に於いてかなり心もとない値だが、この魔法こそ少年に最も大きなダメージを与えるであろうことは明らかであった。
魔法の効果対象となるオブジェクトは、当然彼の仲間の死体。
偽りの生命は阿鼻叫喚の如き産声を上げて現世へと再誕された。
『アアァァアアぁ『ゥアアァァァアアァ『アアアアァァァ』』』
『アァァァアアァアァァア『アアアウウウウゥ『ゥアァァアアアァ』』』
『『アアァァアア『ァッッァア』』ア『ァァ『アアァ『アァアア』』』
瞳は濁れ、不自然極まる青白い肌には幾多の致命傷と食い込んだ手裏剣。変わり果てた仲間達の姿に、少年はただ一人慟哭する。
「罪人めっ!信仰深き同胞の、その死までをも冒涜するか!」
「死を冒涜?」
一瞬何を言われたかわからないとでも言うように呆けた顔をした。
やがて何かを悟り、鉄面皮を崩して呵々と笑い出した。
「あはははははは!バッカじゃねぇの。 洗脳アイテムで生者の尊厳踏みにじろうとした奴が死者の尊厳をほざくとかギャクですか?それともネクロフィリアなの?
さぁさぁ、ゾンビな皆様ハッピーバースデーおめでとう。プレゼントはあの可愛い可愛いショタ野郎です、早い者勝ちだよヨーイドン!」
動死体の強さは、元となった人間の強さに依存する。
今しがた死んだ少年以外の人間もこの世界では屈指の実力者だ。前衛後衛などで差は出るが、生み出されたゾンビはこの世界でも皆伝説級の性能を有するだろう。
11体のゾンビはあっと言う間に少年を取り囲んでは襲いかかる。
仲間の亡骸を相手取り精神をすり減らしながらも、唯一残された信仰心にどうにか寄り縋った。
使えなくなった右腕の代わりに左手で槍を構える。
目の色を変えて、少年は反撃を開始する。
「クソっ!……皆……許してくれ! ウオォォォォォォリャアアアアアアア!」
まず三名。レイピアを持ったゾンビと修道服のゾンビに、ウィッチハットのゾンビを横一閃に槍で切り裂く。
「ハァァァアア!」
巨大な盾を構えたゾンビには、槍で盾ごと貫き頭部を破壊。
大斧を振り下ろさんとするゾンビ、チェーンを身に纏うゾンビ、漆黒のローブと杖を持つゾンビを続々と片す。
そして金髪ボブのゾンビに、大剣を振りかざすゾンビは直線状に一緒に貫いた。
「うわぁぁぁああ!!」
全裸の老婆ゾンビが上から飛びかかってきたのを、槍の槍の峰で地面に叩きつけて頭部を繰り返し、執拗に粉砕した。
今度はマタタビが自ら飛び込んで来て、背後から斬りかかろうとする。
「隙ありですよー」
「お前だけは絶対に許さない!ハアアアアアア!」
憎しみによって超加速された反射神経が、素早い彼女を捉えることに成功する。
「ゴブっ!?なんで……」
槍は彼女の腹部を刺し貫く。致命傷である。
血が滴り、槍伝いに少年の手を濡らした。
突然刺されたことに驚愕するマタタビ。
が、演技とばかりにおどけてみせ、少女はそのまま武器を掴んでニンマリと凄惨な笑みを浮かべた。
「な~んてね〈身代わりの術〉解除」
「なっ!?」
煙が広がりマタタビの姿が隠れた。
そして煙が上がると、槍に突き刺さっていたのはマタタビではなく、彼女によく似た学生服装備を纏ったゾンビであった。
―しかも、体中にダイナマイトを巻きつけている。
どこからともなく声が聞こえた
「ポチッとな」
ダイナマイトは徐々に赤色発光していく。
間もなく凄まじい爆風が舞い上がった。
「ぐわあぁあああああああ!!!」
マタタビがゾンビに仕掛けていた無数のダイナマイトは、火薬の合成材料に微量な希少金属を含有しているというこれまた贅沢品。
アインズが放つ〈現断〉と同等の威力であり、至近距離の爆発に巻き込まれたのであればカンストレベルでも瀕死寸前のダメージ量となるであろう。
「かぁ、かはぁ、かぁ、かぁ」
爆風が止むと、ゾンビの残骸すら焼失したらしい。
その場に残っていたのは、全身黒焦げな少年だけであった。
しかし、そんな原型すらわからない姿の少年に対し、隠形を解いて姿を表したマタタビが送るのは、素直な賛辞の言葉である。
「よく生き残りましたね。それだけの耐久力と技量があるんなら、刀で真っ向勝負してたら絶対負けてましたよ。流石です」
それは皮肉でも何でもなかった。
実は元よりマタタビは、少年たちに対して何も恨みや敵対心など微塵も持っていなかったのだ。
少々卑劣な戦法を組んだのも純粋に戦術的打算によるところが殆どで、先から言っていた皮肉も相手を煽るための布石でしかない。
今の彼女はただの機械。
敵を排除するため最善手を模索し実行する、最凶最悪の思考体。
皮肉な話ではあるが、そんな怪物を生み出したのが、他ならぬ少年たちなのである。
自覚より一回り分聡明なマタタビは、自分の状態が一体どうなっているのか、少ない情報からすでに導き出していた。
「少年や、褒美に一つメイドさんが講釈して差し上げましょう。
精神支配の待機状態の行動は、被支配側のカルマ値に依存します。
私のカルマはマイナス500。この値では、近付いた相手に対する無差別攻撃ですね。
当然支配側に攻撃したりはしませんが、それにもたった1つ例外があります。
被支配側は外部から攻撃されたり敵対認証を察知すると、それに対して反撃するようになるのです。
ですから多分今回の場合は、私のスキル〈読心感知〉が貴方達の「敵意を認識」してしまったことが発端というワケ。」
黒焦げになった少年の前に立って、マタタビはゆっくりと長刀を振り上げる。
「みんな本当に、私のせいで運がお悪い」
神速の剣閃が炭素の塊を透過した。
かつて首だったものであろうか。
サッカーボール大の黒い何かがボトッと大地に転がって、ボロボロ崩れていった。
役目を終えれば、彼女の意識は闇に沈んで指示を待ち続ける。
結局、彼女を御する洗脳アイテムは彼女自身が握っているのでそんなもの来る筈ないのだが。
「……それでも意識を保っているということは、次の敵か。
やだなぁ、魔王さまに殺される。
シャルティア逃げて、超逃げて。
こっちはMPもスキルも殆ど残ってるっていうのに……」
マタタビは、自身の有利を憂鬱気味にぼやいた。
オリ主設定
◇マタタビ[異形種] matatabi
◇性別:女性
◇年齡:19
◇二つ名
・屋台崩し
・42人目の???
◇嗜好
・趣味:恋愛モノの小説・漫画
・好物:なんでもよく食べる
・好きな人:アルベド?
・尊敬する人:モモンガ
・嫌いなもの:集団の和を乱す者
◇役職
・旧クラン:ナインズ・オウン・ゴール 元構成員
・ナザリック地下大墳墓 執事助手秘書官 兼 一般メイド見習い
◇住居
・ナザリック地下大墳墓 第九階層スイートルーム予備部屋
◇属性アライメント
・極悪 [カルマ値:-500]
◇種族レベル
・ケットシー10LV
・ハイケットシー5LV
◇職業クラスレベル
・アサシン:5LV
・マスターアサシン:10LV
・シーフ:15LV
・ファントムシーフ:5LV
・シノビ:15LV
・ハーミット:10LV
・シカケニン:10LV
・ポイズンメーカー:5LV
・スレイヤー:5LV
・トリックスター:5LV
◇[種族レベル]+[職業レベル]:計100レベル
・種族レベル:15
・職業レベル:85
◇能力表(最大値を100とした場合の割合)
・HP(ヒットポイント):70
・MP(マジックポイント):70
・物理攻撃:70
・物理防御:40
・素早さ:測定外
・魔法攻撃:60
・魔法防御:40
・総合耐性:70
・特殊:測定外
◆能力値出典:パンドラズ・アクターの能力形態データNO.42
=======================================
※捏造設定
・オリ主の道具
・精神支配に関する設定
・少年たち御一行の強さ
感想気に食わぬところ誤字脱字があったら報告ください。おねがいします。
次回、シャルティア逃げて!超逃げて!