ナザリック最後の侵入者   作:三次たま

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 毎度誤字報告してくださった方、どうもありがとうございます。
 今度こそ誤字が起きないように見直し数回やりました。
 今度こそいけるはずだ間違い無い(フラグ)


精神年齢詐称

【マタタビの至高の41人大百科】

No.4:ぶくぶく茶釜

 ぶくぶく茶釜は、豪胆ながらも気遣いがよく出来る姉御肌な印象だ。弟を相手にする時なんかでたまに裏表ある人なのだが、そこまで悪い人ではなかっただろう。しかし他人の気遣いが苦手だったマタタビは彼女にややキツく当たってしまうことがあった。次第にぶくぶく茶釜の方も、マタタビに構ってやることはなくなった。多分、それもマタタビへの気遣いなのだろうと思われた。

トブの大森林〈マタタビ〉

 

 

 トブの大森林の外周部分に立った私は気配遮断のスキルを解除した。すると、こちら目掛けて猛スピードでやってくる森の探索者。

 

 彼女は侵入者が私のことだとわかった途端、鬼気迫る表情を引っ込め吐き捨てるように言った。

 

「……誰かと思ったらあんたか」

 

「どうもこんにちは!アウラ・ベラ・フィオーラ様」

 

 学生服のスカートをちょこっとつまみ上げ、先言後礼に礼儀正しくお辞儀をする。

 これまでメイド長から何度も注意されながらも頑張って習得した礼儀作法は、我ながら完璧な出来だった。ところが相手は嫌なものでも見たように顔をしかめる。

 

「気色悪いからアウラでいいよ」

 

「アッハイ ワッカリマシター」

 

 どうやらお気に召さなかったよう。堅苦しいのが嫌いなのか、それとも私が相手だから?どっちにしてもやるせない。

 

 アインズ様が支配者ポーズを必死に考えてノートに記しているのはこっそり覗いていたから知っているけど、メイド長による教練や影分身による効率強化によって猛練習している私のほうが努力は上だ。

 なのにこの格差である。

 

 やってられっかという気分になるが、おくびにも出さぬようポーカーフェイスは崩さない。

 

「で、こんなところに何の用? あんたはメイドじゃなかったけ」

 

 アウラはどうやら私がアインズ様の命でカルネ村に来ていることは知らないようだった。

 元サラリーマンとはいえアインズ様の情報管理能力にも限界があるのだろう。冒険者になる際、執務はアルベドさんに引き継がれることになったので今後はこういうすれ違いも減るだろうと思われた。

 

「ルプスレギナと一緒にカルネ村へやって来たんですよ。

 村人の話によると、カルネ村周辺のモンスターの生態系が我々がやってくる以前から少しずつ変化しているようでして。それでアウラならなんか知っているのかなと~思って訪ねてきた次第です」

 

 実際は、ルプスレギナの居るカルネ村から距離を取るための口実にすぎない。

 

 デミウルゴスさんによると、この間の玉座の間での私の振る舞いは、シモベの中での好感度を著しく上げたらしい。とは言えまだまだ胡散臭さは拭いきれぬようで、アウラは怪訝そうに私を見つめてくる。

 

「ふーん、でもそれってあたしじゃなくてアルベドとかに報告する内容じゃないの?」

 

 本来異なる部署同士が情報を共有する場合は、無用な混乱を避けるために管理部門を中継ぎして行うのが常識である。つまり私がこうしてアウラを直接尋ねるのは社会常識的にガッツリアウト。

 とはいえ言い訳を考えずやってくる程私も馬鹿ではない。

 

「しかし、私とルプスレギナがカルネ村に在留していることがアウラさんに伝わっていないことから分かる通り、出来て日の浅いナザリックの情報管理システムではまだまだ穴が多い。

 ですから重要な案件はなるべく直接話しておいた方が良いかなーと思ったんです」

 

「そういうもんなのかなー」

 

「まぁ、あんまり褒められた方法ではないですねぇ」

 

 私がメイド新人であるのと同様、本来防衛の為に作られたNPCのアウラも外の仕事は初心である。いくら指揮管理に優れたぶくぶく茶釜のNPCとはいえ、経験不足で幼いアウラを丸め込むのはあまり難しくなかった。

 

 もっとも結局彼女は最後まで煮え切らない様子だったが、ある意味正しい反応だ。

 

「何か心当たりはありますか?」

 

 多少ごまかしを持ち越したまま、私は大森林の生態系についてを彼女に尋ねた。

 

 すると意外にも親切に色々と教えてくれた。

 

「今んところナザリックを中心にして調査範囲を広げているところだけど、結構な種族数が生息してるから、自然淘汰によってあっさり環境が変化することもあるんじゃないかなぁ。

 あるいはまだ調査してない地域に原因があるのかもしれないけど。」

 

「どんなのが生息してるんです?」

 

「戦闘力皆無な小動物がほとんど。確か悪霊犬、ゴブリン、オーガ、トロールにリザードマンなんかの亜人種もいる。トードマンっていうユグドラシルじゃ聞かないのも居たわ。

 強いのでもレベル30くらいで、銀色の良い毛皮持ってるのが一匹、あとはウォー・トロールとショボい不可視化を使うナーガかな。」

 

「その良い毛皮ってのは多分、カルネ村で森の賢王って呼ばれてる奴でしょうかね」

 

「あいつ?……あいつが賢王ねぇ、慈悲深く叡智に富むアインズ様にこそ相応しい称号でしょ。やっぱ人間共の目は節穴よね。そう思わない?」

 

(うわぁ出た人間蔑視のナザリック魂。)

 

「そうですねぇ無知というものは、かくも罪深きことでありますなぁアハハ」

 

「なんか声上ずってない?」

 

「気のせいっすよ」

 

 何故か唐突に某赤髪メイドの口調が移った。

 

「そ、別にどうでもいいけど」

 

 興味の色をなくしたことに、私は内心胸をなでおろした。

 

 アウラと接していると、言動から滲み出る隙の無さが非常に際立つ。

 アインズ様と共にいるときは見た目相応の無邪気さを表すのだが、妹のマーレさんを始めとした他のNPC等と接するときには今のような大人びた具合になる。

 

 周囲が年上ばかりの環境だからこんな人格形成がなされたのだろうか。いやそもそも彼女の人格が誕生したのはついこの間の筈だ。情報のない現在、このあたりは考えても不毛だろう。

 

「あとはまだ見つけてはいないけど、この規模の森林ならドライアードくらいいると思うよ。円周上に調査範囲を少しずつ広げてるから森林全体まで把握するにはもうちょっと時間がかかるね」

 

「そうですか もしこっちの村に何か悪影響のあるものが潜んでたら困りますね

 私はタマにしか来ないし、プレアデスのルプスレギナで手に負えないレベルの魔物とかいたらちょっとマズイんです」

 

「そんなに強いのいなかったけどなぁ~。

 あ、でも思い出した。土地の栄養は十分なのに木々が枯れてるところがあったんだ。原因不明だし調査範囲に入ってないから放置してたけど、あそこなら何かいるかもしれないね」

 

「う~ん気になるなぁ。行ってみてもいい?」

 

 ダメ元の要求は当然アウラの機嫌を損ねる事となる。

 

「やだよ!この森林の調査はあたしがアインズ様から直々に与えられた勅命なのよ。それをあんたなんかに奪われてたまるか!」

 

「ですよねぇ。ダメ元ですあんまりお気を悪くしないで」

 

「でもあんたさぁ、6階層でやったのと同じようにあたしの目を誤魔化してコッソリ森林に入っていくことも出来んじゃないの?」

 

「……あーうんまぁ、できるのかなぁ?」

 

 ぶっちゃけやる気満々だったのだがあっさり看破されて焦る。

 

 ナザリック内で盗賊特化の私の存在を探知できるのは情報魔法特化ビルドであるアルベドさんの姉だけだろう。

 職業を幾らかビーストテイマーに割り振ってるアウラ位なら余裕で誤魔化せるのだ。

 

「それじゃあたしから許可を取ろうが取るまいが変わんないじゃない。アホらし

 いいよわかったわ。入りたいなら好きにすれば?」

 

「いいんですか?」

 

「ただ好き勝手ウロチョロされるのもイヤだし、あたしもついていくわ」

 

「……えぇ」

 

「なによなんか文句あんの?」

 

 あれれぇーおかしいぞぉ?なんで目は子供なのに頭脳は大人なのでしょう。

 

 設定で実は76歳だったからか、それとも茶釜のNPCだからなのか。実際どうなんだろう。

 

(アウラ・ベラ・フィオーラ)

 

 

 アウラのマタタビに対する印象は「得体の知れない気色悪い奴」だ。

 

 6階層のアンフィテアトルムで彼女が自己紹介した際、協力関係と言おうとしたところをシャルティアの剣幕に押されて従属関係と言い直したことは、シャルティア以外に見逃した者はいなかった。

 

 彼女が自分たちと同じシモベでないことは明白である一方、絶対支配者アインズが彼女の従属について不問にしている為、シモベ達もまたマタタビへの追求は許されていないのが現状であった。

 

 経歴不明で話をしたこともないため得体の知れない感が強く、マタタビの存在はただただ不気味であった。

 

 そんな彼女とのファーストコンタクトがアウラの縄張りへの侵入である。

 能力が能力だけに、全面的に信頼できるヤツのほうがどうかしている。

 こんなやつを自身の領域にのさばらせる訳にはいかないが、かといって秘密裏に行われれば止める手立てはない。

 

 自分の作業を止めて彼女をつきっきりで監視するというのが今のアウラにできる精一杯の抵抗だった。

 

「でも大丈夫なの?作業止めてまでって凄く申し訳無い気がするんだけど」

 

「あんたどの口が言ってんのよ……。ま、調査は無理でも魔獣をそのまま行進させて警戒網を広げることくらいは出来るし、怪しいところを先に調べるってのもやり方としては妥当だからね」

 

「そういうことなら私もあんまり気にしなくていいのかな。」

 

「そこは是非とも気にしなさい!」

 

 素直にカルネ村に帰ってくれるならそれ程楽な事はないが、言動が逐一信用できないからこうして面倒見る他ないのである。

 事が終われば必ずアインズ様にチクってやろうとアウラは心に決めた。

 

「フェンリルおいで」

 

 アウラの掛け声に応じて森の中から一匹の魔獣が姿を現す。

 体は全長20メートルにもなる巨大な黒い狼で、尻尾は鋭い眼光を宿す蛇だ。

 フェンリルはアウラの手持ちの魔獣の中でも最高位の強さを誇り、強力な直接戦闘能力を有する。

 

 そんな獰猛な魔獣が、アウラを見た途端子犬のように懐いて戯れてくる姿にマタタビは「おおー!」と言って感嘆した様子。

 アウラは少し得意気になる。

 

 しかし魔獣の方はマタタビの姿を捉えると獣独特の鋭い感性からその危険度を察知し体毛を逆立てた。

 アウラが「どうどう」と宥めて暫くようやく落ち着いたようだった。

 

「私って最近こんなのばっかだなぁ」

 

「あんたのレベルじゃ無理ないでしょ。100レベルなんて守護者や至高の御方を除けば、ナザリックへの侵入者以外会ったことないのよ」

 

 何故かバツの悪そうな顔をするマタタビ。

 

「……アハハ」

 

 以前ナザリックに1500名の大群が来たときには守護者全員が全滅したのだ。

 最終的に戦いは御方々の勝利で終わったものの、その時殺された記憶はアウラの中でも鮮明に残っている。

 

「じゃ、とっとと行ってとっとと終わらせるからフェンに乗って。」

 

「いいの?乗っても」

 

「……早く終わらせたいの。ホントは乗せたくないんだからね」

 

「ツンデレかな?ではアウラさんの面倒見に甘えて、あらよっと。」

 

 マタタビも跳躍し、アウラの後ろフェンリルの上に跨った。

 フェンリルは当然機嫌を悪くしたが、最終的にアウラがテイマーの職業スキルの吐息を使って宥めさせた。

 

(アインズ様や茶釜様が乗ってくれたらなぁ~ 断じてこんな奴ではなく!)

 

「じゃあいくよ フェン!」

 

「うわぁっ!」

 

 フェンリルはアウラの掛け声に合わせて走り出した。

 アウラは普段から慣れているが、魔獣への騎乗が初めてであるマタタビはそのスタートダッシュの勢いの良さに驚かされた。

 無論カンストレベルの身体能力があるため振り落とされることはない。

 

 二人を乗せた魔獣は、樹齢幾許かも知れぬ大樹たちが鬱蒼とひしめき合う中をグングンと風の如くくぐり抜けていった。

 

「凄いっ、気持ちいいっ!」

 

 アウラには知る由もないが、マタタビがかつて住んでいた世界は汚染物質によってあらゆる自然が穢されてしまった死の世界である。

 

 反面亜人や魔獣の跋扈するトブの大森林は、彼女の知る現実世界のように人間が手を加えてしまうことが一切ないありのままの大自然だ。

 

 騎乗感覚に次第に慣れてきたマタタビは、魔獣の上から眺める風景と風になって飛ぶような感覚に魅了され始めていた。

 

 仮想現実では感じ取ることのできなかった森の匂いや風圧を、異形種ケット・シーとして与えられた鋭敏な感覚器官によって感じ取り、魂に強く刻み込んでいく。マタタビは感激の余り思わず涙を零した。

 

(目にゴミでも入ったのかな)

 

 一方アウラはどうしてマタタビがそこまで感動しているのか理解できないでいた。

 

 そもそも住居がナザリック第6階層のジャングルであるアウラにとって、森林の風景は飽きるほどに見慣れている。

 言うなれば都会の風景に感激する田舎者を見る心境か、もしくはその逆である。

 

 アウラの冷めた視線に気づいたマタタビは、一旦興奮を落ち着かせて何か思い出したように、申し訳なさそうな顔をして言った。

 

「……あーそういえば、無理言って森に入れてもらったのにお礼言ってなかったね。ありがと。それと…ごめんね」

 

(なんだよ今更)

 

「…別に」

 

 ややそっけない謝罪。しかしアウラは、何故だかマタタビの謝意が嘘偽りのものではないのだと直感してしまった。

 

 結果、沸騰しきれず怒りの域にまで達せられない、モヤモヤとしたわだかまりがアウラの胸の中で燻る。

 

 扱いに困る

 

 ナザリックというある意味閉鎖された環境で生活してきたアウラにとって、このような対人関係の悩みはかつてないものであった。

 

 数多いるナザリックのシモベは、精神性や価値観が非常にまばらであり、セバスとデミウルゴスを筆頭に分かり合えない者同士も多い。

 

 そんな彼らを結びつける絆こそ、至高の41人への忠誠心なのだ。忠誠こそまさに、ナザリックを治める唯一にして最大の秩序とも言えた。

 

 しかしマタタビは違う。

 

 数多くのシモベが感づいているが、マタタビはナザリックへの忠誠心を持っておらず、他のシモベに対しての接し方も決して友好的とは言えない。

 

 ならば敵なのかというとそれもまた違うらしく、アインズからの一定の信頼は勝ち得ているようだし、玉座の間のあの出来事からも、彼女なりにアインズに対して気を遣う気持ちがあったことも垣間見えた。

 

 ただ実際に話してみると、興奮したアルベドやシャルティアとはベクトルが違うウザさというのがある。一々相手を逆なでして癇に障るような話し方は、ナザリック内でコミュニケーションに長けたアウラをしても心底ウザいと思わせた。

 

「ごめんねー、私の話し方を嫌いな人多いんだよ。わざとじゃないけれど」

 

 その発言も信用ならない。

 

(いっそ本当に敵なら楽なんだけどなぁ。アインズ様から討伐指令が下されれば、喜々として赴いていけるのに)

 

 考えても仕方のないことである。アウラはこのことについて悩むのを後回しにした。

 

 マタタビに対する扱いに苦心しているのはアインズも同様だったりするのだが、これもアウラには知る由もないことである。

 

 

 

 大自然を駆け抜ける快感に大興奮していたマタタビだったが、冷淡なアウラの機嫌を伺っているうちにハイテンションをすっかり抑えていた。

 

 いつのまにか移動中のフェンリルの背中の空気は気まずくなっていた。そんな空気を打ち破ろうと明るい調子でくだらない話を振ったマタタビだったが、その態度が余計にアウラを苛立たせた。

 

 そわそわして落ち着かないマタタビ。

 ふと何かを思い出したような顔をして、アウラの方を向き言った。

 

「そうだ、今回森林に入れてくれたお礼に至高の御方の御話でもしましょっか?」

 

 マタタビが神話とも言うべき至高の御方のエピソードを語っているという話は、シモベの中でも比較的仲の良いペストーニャやユリ、エクレアから聞いていた。

 このトピックスに、当然アウラは強い興味をそそられる。

 

 マタタビが至高の御方々とナザリックの外で共に活動していたという紹介はアインズから直々になされたものである。

 

 それならばナザリックの守護を任されたアウラたちと違い、彼女が外の世界での御方の伝説についてを知っていても別段おかしくはない。

 相手がマタタビでなければ直ぐ様その話に飛びついただろう。

 

 逆にマタタビだったからこそ、アウラは冷静に言動の矛盾をつくことができた。

 

「で、でも今回のお礼っていうなら普段からメイド達にしてるよーな話にするのもどうなの。仕事を一旦休めてるんだからもうちょっとなんか無いの?」

 

「うーん確かになぁ、いいゴネ方です、さすが茶釜様の娘」

 

 アウラの言い分にふむふむと納得したマタタビはさらっと爆弾発言を零してしまう。

 アウラをぶくぶく茶釜の娘と呼び褒め称えたことに対し、アウラは一瞬どう反応していいか分からなくなる。

 

 だが上記への思案は、次のマタタビの発言の衝撃で間も跡形も無く吹き飛ばされた。

 

「じゃあ、ぶくぶく茶釜様について私が知ってることでも教えてあげようかなぁ。どう?聞きたい?」

 

 マタタビはアウラの方を伺う。僅かに微笑み、返事も待たずに話を始めた。

 

「顔にYESと書いてあるから」

 

 アウラは思わず、真っ赤になった自分の顔に手を当てた。

 

====================================

 

 セイユウとは、いわゆる人形劇で人形のセリフを代弁するような声だけの役者なのだそうだ。

 

 それはある意味で花形な職業とされていたが、実態はたった一つの座席を大勢で奪い合うような過酷な競争が待ち受けている厳しい現実がある。

 

 ぶくぶく茶釜は元々語学関連の仕事を目指していたが、その最中彼女の声質に目をつけた人物からセイユウになることを勧められ、セイユウの養成所へ入会し数年後本格的に活動を始めた。

 

 恵まれた声質も然ることながら、仕事を選ばずどのような役でも精力的に演じていこうという気概が評価され、熾烈な競争を勝ち進み有名役者の一員になったという。ぶくぶく茶釜の実弟であるペロロンチーノは複雑な心境を抱えながらもその躍進ぶりを喜んでいた。

 

 演じる役柄の影響らしく何故か芸名が多かったようだが、本人が最も気に入っていたのは「カザミクミ」。そのために至高の一柱やまいこや、彼女の馴染みのファンは「かぜっち」と呼んでいる。

 

 彼女がユグドラシルに訪れたのは、セイユウの活動が軌道に乗って余裕ができ始めた頃だった。

 

 ぶくぶく茶釜の姿は一見男性器そのもの。この異形は世界各地でも生殖器崇拝として恐れ崇め建てられており、その余りある威光の凄まじさによりユグドラシルで彼女に声をかけた者は、純銀の聖騎士たっち・みーをおいて他に無かった程である。

 

 後にたっち・みーが率いるナインズ・オウン・ゴールに加入。タンク役及び指揮官としての頭角を現していき、粘液盾の二つ名を轟かせるに至る。今日のギルド拠点の原型であるナザリック地下墳墓攻略の際にも、他の至高の方々を指揮官としてまとめ上げ、自動湧きアンデットの攻略などに大きな貢献を与えた。

 

 ナインズ・オウン・ゴールがギルド:アインズ・ウール・ゴウンに移行した後も、数多の偉業をユグドラシルに轟かせていった。

 

====================================

 

 「それから数年後、ぶくぶく茶釜様はナザリックからお隠れになられました。

 これが私が知る茶釜様の全てです。私は御方ともそれほど近しい関係ではなかったので、どんな理由があったのかも何処に行かれてしまわれたかも存じませんけども。」

 

 マタタビの話を聞き終わったアウラだが、話を聞けて嬉しいという感情よりも先に、大きな違和感を感じた。

 

(あたしの知っている茶釜様と……違う?)

 

 アウラはマタタビの話を聞いて、自らの創造主のことを自分自身よく知らないのだということに気付かされた。

 

 アウラの知っているぶくぶく茶釜という人物は、至高で絶対なる神の如き存在だ。ナザリックを攻略、統治するという偉業を成し遂げ、そのナザリックの管理を行うためにアウラ達シモベを生み出した。

 

 アウラ自身の居住でもあるナザリック6階層のツリーハウスで、やまいこや餡ころもっちもちと共に談笑したり、時々アウラやマーレを着せ替え人形にしたりする。

 

 ただそれだけの僅かな記憶だが、それは思い出すだけで今でもふわふわするような多幸感を味わえる程に思い入れのある大切な記憶である。

 

 しかし、マタタビが語るぶくぶく茶釜は自分が思っていたイメージとまるで違う、だが何故かフィットしてしまう意外性がそこにはあった。

 

 この感触は、6階層の闘技場で初めて話し、優しげなアインズの姿に感じたものと非常によく似ている。

 

 アウラは知らなかった。創造主が語学について取り組もうとしていたことも、セイユウが声の役者だということも、「カザミクミ」という呼び名を好んでいたことも。

 

 マタタビは「ぶくぶく茶釜様ともそれほど近しい関係ではなかった」と言った。そんな彼女すら知っていることを、作られたアウラは知らない。

 

(どうして……)

 

 これの意味するところは何か。御方にとって自分はどんな存在なのだろうか。自分は取るに足らない存在であり、だから御方に見捨てられたのだろうか。

 

 アウラは階層守護者として与えられた自分の任に高い誇りを持っている。

 

 だが、階層守護者とは言えど敵襲がこなければ存在意義は無いに等しい。

 そういう意味では、現在ナザリックで待機を命じられているコキュートスを見ていると哀れでしょうがない。

 

 たった1度、1500名の大群が攻めてきた際には守護者も駆り出されたが、自身と同格の存在を複数相手にするのは流石に厳しい。

 当時は結局、時間もろくに稼げずあっさり殺されてしまったのだった。

 

 そこでさえマタタビは大活躍をして守護者を差し置き褒美を賜ったというではないか。ならば自分は何なんだ。ただの役立たずではないのか?

 

 森林を駆け抜け感じる冷たくて心地よい空気抵抗は、思考がマイナスに下るにつれて爽快感は薄ら寒さに取って代わり、繊細な心を嬲るようになる。加速していくネガティブシンキングは止めどなく溢れていく。

 

 このままではマズイ。

 

 生存本能によく似た何かが、頭のなかでガンガンと警鐘を鳴らしだした。別のことを考えて、別の考え方を考えろ。考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ考えろ

 

 絶望が漂う思考の海を一人きり、縋るアテを探してひたすら足掻いた。

 

 存在意義は揺らぎ、海に広がる振動は瘋癲の津波を引き起こして少女をより一層飲み込んだ。

 

 狂気の深海に沈んでいく中、朧気に見えたのはアウラがよく知る死の支配者の御顔。

 表情筋は伺えないが、優しげに、心配そうな様子でこちらに向かって……

 

「 ―いじょうぶ!? ねぇだいじょうぶってば! アウラさん!?」

 

(あれ、違う)

 

 突如、内向空間から現実へと引き戻される。目の前に居たのは骸骨ではなく制服を着た女子高生。けど、何故か失望感は小さい。

 

(……白昼夢か)

 

 頭がオーバーフローを起こしてトランス状態になっていたようだった。深淵から帰還したての精神は思いの外落ち着いていた。だが目の前の女子校生はかなり慌てている。

 

「やっぱり働き過ぎのせいかなぁ、大丈夫!?なんかデリカシーの薄いこと言っちゃった?えっとえっと、精神回復系の魔法スクロールあるから使ってあげよっか?たしかアインズ様も常時同じヤツ張ってるから効果はちゃんとあるはずなんだけど……それとも何か具体的なエピソードみたいなヤツのほうが良かった?いやいや子供だからアメ食べる?違う!76歳だから私より年上じゃん、そんな年齢じゃないよねまずいよねえーと」

 

 目を白黒反転させてながら、何やら一人で焦って呟きまくるマタタビ。アウラを気遣って色々考えてるのだろうが、今度は彼女自身がトランスしそうな具合である。

 そんな様子が、アウラにはおかしくてたまらなかった。

 

「あはははははっはっ!あははっ!あはっはは!あははははは!」

 

 笑った

 

 見た目相応、子供っぽい無邪気な笑い方だ。

 腹を抱えて涙目ながらバシバシとフェンリルの背中を叩いた。

 これほどまでに笑ったことがかつてあっただろうかという程の、心の底からの大爆笑だった。

 

 笑いだしたアウラを見て、マタタビの混乱はより一層深まった。

 いよいよ半狂乱でもしたのだろうかという明後日方向の戦慄を抱くが、それがまた、アウラの笑い袋を刺激することになる。

 

(そっか)

 

 ある程度思考が落ち着いて、アウラは先程抱いていた一つの疑念に結論を見出した。

 

(確かにあたしは茶釜様のことを意外と知らないかもしれないけど、それは他のシモベもきっと同じだし、マタタビの地位がちょっと特殊だからかもしれない。

……それに少なくともアインズ様はあたし達を必要としてくださるんだから)

 

 御方にとってのアウラが一体何であろうと、マタタビが何者であろうと、今のアウラにできるのは目の前に与えられた仕事のみ。であるなら抜かりなく全力で取り組むべきである。そうすれば、いつかはきっと……

 

(あたし必ずやり遂げますから、茶釜様!)

 

 ヴェールに包まれた朧気な思い出を抱いて、ダークエルフの少女は自身が知る唯一の神の名に祈り、誓った。

 

 そんなアウラの自己完結のことなどマタタビには理解できるはずもない。ただスキル〈読心感知〉によるとアウラからの好感度が上昇しているらしい。大方また訳もわからない勘違いが生じているのだろうと、マタタビは経験則から勝手に納得した。

 

 実際のところアウラは最も真実に近づいていたのだが

 

 




 10歳の頃ガ○ジだった作者の数万倍賢いアウラは凄い!

※捏造設定
・ぶくぶく茶釜様の経歴(アニメの中の人を参考)
・アウラがカルネ村への人材派遣を知らないこと

 感想気に食わぬところ誤字脱字があったらコメントよろしくお願いします。
 正直句読点の入れ方とか自信ない。

 次の次から山場です。がんばれオリ主

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