量産型なのはの一ヶ月   作:シャケ@シャム猫亭

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忘れた人用のさくっとおさらい。

一話 お魚美味しくない
二話 ジュースうまい
三話 腹減った
四話 野菜スープうまい
五話 野菜スープおかわり
六話 別に腹減ってない


投じられた石は水面に波紋を残す

『大丈夫ですか、マスター?』

「……めっちゃ痛い」

 

 蹴られた胸がズキズキと痛い。深く息を吸おうをすると一層痛むので、浅い呼吸を繰り返す。

 バリアジャケットを纏うのが間に合ったというのに、ここまでダメージを受けるとは思わなかった。壁を突き破った背中は無視できる程度の痛みであることから、バリアジャケット自体はしっかり物理ダメージをカットしている。

 つまりは相手の蹴りが物理障壁を貫通するほどの威力ということ。

 

「どうした、もう降参なんて言わないよな?」

「はっ、誰が」

「そう来なくっちゃ」

 

 くるくると回していた槍型のデバイスを、男はパシリと音を立てて構え直す。身体は半身に、姿勢は低く、穂先は獲物の胸に向け。

 同時に俺もクレスを両手で構える。複数の魔法を並行してロードし、攻撃も防御も回避も出来るように。

 視界の端に他の客が逃げるのが映る。入口に居た店員が何事かとこちらへやって───

 

「余計なこと考えてると、あっさり死ぬぜ?」

 

 初動は見えなかった。

 男から目は決して離していない。ただ、ほんの少しだけ心が男から離れた。

 男にはその心の隙が見えていた。見逃さなかった。

 蹴飛ばされたことで空いたはずの距離は、たった一歩でゼロにされ、槍が突き出される。

 受け止めようとプロテクションを張った時、穂先に小さく光る魔法陣が見えた。その三角形の魔法陣でどんな魔法が発動するのか俺は知らない。知らないが、悪寒が走った。

 

 咄嗟に右へ()ぶ。

 

 槍はプロテクションに当たらず(・・・・)、そこに何もなかったかのように進む。隙を突かれた上、一度は防御の判断をした。二手遅れた回避は間に合わず、左肩をバリアジャケットごと抉られる。

 痛みを感じるよりも早く、フラッシュインパクトで床を叩いた。激しい閃光と共に圧縮された魔力が炸裂し、床が崩れると同時に爆風が俺の身体を後ろに吹き飛ばす。

 そうして距離を取れたお陰で、男が繰り出した横薙ぎの追撃は、胸のリボンを裂くに留まった。背中を壁に強く打ち付けたが、致命の一撃を避けれたのだから安いものだ。

 

「ッッッ!!」

 

 ここに来てようやく肩を抉られた痛みが襲ってきた。叫びたくなるのを歯を食いしばって耐え、涙で滲む視界で男を睨む。

 床があった場所には代わりに魔法陣が敷かれ、その上に男は立っていた。

 

「咄嗟の判断も上々。魔導師ランクはAA──いや、A+ってとこか」

「……試験官ごっこなら他を当たってくれ」

「残念ながら、試験官資格持ってんだな、これが。何なら合格証を発行してやるよ。まあ、発行手続き終わる頃には死んでるだろうけど」

「そいつは困ったな。魔導師ランクが無いんじゃ、時空管理局には就職できそうにない。魔導師ランクが関係ない職業紹介してくれよ」

 

 襲撃の際、制限時間があるかのようなことを男は言った。一分か一時間か一日か、リミットはわからないが(むげん)でなく99(ゆうげん)なら、きっと時間は俺の味方のはずだ。

 少しでも時間を稼げるなら、会話だって付き合ってやる。

 

「ケーキ屋なんかどうだ? 俺は甘いものが好きなんだ」

「イイなそれ。翠屋ミッドチルダ支店を開いたら呼んでやるよ」

「チョコレートケーキの準備を忘れるなよ?」

 

 この二度の交錯ではっきりとわかった。向こうの方が力も速さも技術も上だ。

 この軽口の応酬の間も、男は全く隙を見せない。

 逃げの一手を打とうにも室内という不利な空間から脱しなければいけないのだが、少しでも動きを見せればそれを牽制するように殺気が飛んでくる。

 

「いくつお求めで?」

「コイン一個分」

「一個じゃ命も買えないぜ?」

「そいつは残念。うっかり死んでくれるなよ? 生け捕りにしてこいって命令だからな」

「ならそのうっかりはお前のことだろ」

「ははっ、違いない!」

 

 来る──来た!

 今度は初動を見逃さなかった。男が踏み出したのと同時に、クレスのコアを発射台にしてディバインシューターを撃つ。

 男は槍の中程を持ち一閃して魔法弾を弾くと、くるりと槍を持ち替えて石突の方を突き出してきた。こちらにはあの魔法陣がない。

 プロテクションで受け止め、すぐにバリアバーストでカウンターを狙う。爆風が吹き荒れ、店内にあった物がめちゃくちゃに飛び散る。

 小柄な自分も例に漏れず、仕切り板の壁を何枚もぶち破りながら後ろに吹き飛んだ。フライアーフィンを発動して素早く体勢を整える。男の方は咄嗟に後ろに下がったため直撃は免れたようだが、それでも二人の間に大きく距離が空いた。

 

「クレスっ!」

『巻き込まれたら、運が悪かったと諦めてもらいましょう』

 

「『ディバイン、バスター!』」

 

 狙うは真上、確保は外へのルート。桜色の奔流は天井を突き抜け、天井を突き抜け、天井を突き抜け、青空へ消えていった。

 すぐに床を蹴るようにして飛び上がり外へ脱出しようとするが、向こうも黙って見ているわけではない。飛び立とうとしていた俺の足を掴まれた。

 

「おいおい、逃げるなんてつれないじゃねえの?」

「くっ、フライアーフィン全か───」

(あめ)え!」

 

 全力のフライアーフィンの力を物ともせず、投げるようにして床に叩きつけられた。脆くなっていた床はあっさりと崩れ、がれきと共に一階の床に落ちる。

 

「かはっ!」

 

 あまりの衝撃に息が詰まる。だが止まってはいられない。

 痛みを堪え、転がるようにその場から移動した直後、舞い上がった粉塵を突き抜けて魔力で出来た槍が飛んできた。避ける俺を追うように、次々と槍が飛んで来ては床に突き刺さる。

 

「そらそらそらっ! 逃げてないで向かってこいよ!」

「っ、ラウンドシールド!」

 

 槍が放たれる方向に向けて円形の魔法陣を張る。ガキンッと音がして魔力の槍が魔法陣に当たって弾けた。続けざまに三本の槍が放たれたが、円形の魔法陣はびくともしない。

 

()ったいねぇ。並みの奴なら二発で割れるぞ?」

「師匠が良かったからね!」

「じゃあ、もう一度修行してくるといい」

 

 粉塵が収まり見えた二階。そこにはディバインスフィアのような発射台だけが────

 

「今度は駆け引きを重点的に、な!」

『右ですっ!!』

「くっ!?」

 

 警告されたときには既にクロスレンジ。

 振るわれた槍が、クレスの自動詠唱によって展開されたプロテクションをすり抜け(・・・・)、身に迫る。

 右手にクレスを持っていたことが幸運だった。刃をクレスで受け止めることで、身体が切り裂かれることは防ぐことが出来た。だが、それだけだ。

 蹴りとは比べ物にならない衝撃が身体を襲い、吹き飛ばされる。柱を折り、壁を突き抜け、路肩に停車していたトラックを巻き込み、向かいのビルにぶつかってようやく止まった。

 身体を支えられず、ドサリと地面に倒れ伏す。

 

『マスター! マスター!!』

「あ……がっ……っ!」

 

 全身がバラバラになってしまったかと思うような衝撃と痛み。膝をつき、身体を丸めて痛みを堪える。

 

「だい……じょうぶ…だ。まだ、やれる」

 

 安心させようと──それよりも自分を奮い立たせようと──クレスに向かって笑ってみせる。

 そうしてクレスを見て、気がついた。

 

「クレス! お前、(ひび)が!?」

 

 先の一撃を受けた柄の部分が罅割れて、内部の機構が見えている。自動修復は始まっているようだが、とてもじゃないがすぐに直るような傷じゃない。

 

『大丈夫です。パフォーマンスに問題ありません』

「そんなわけ──」

 

 そんなわけがない。しかしそれを遮るように、クレスは言う。

 

『マスターは“大丈夫”なのでしょう? ならば私も大丈夫です』

「…………ははっ」

 

 思わず吹き出した。さっきとは違う笑みが頬に浮かぶ。

 まったく、意地っ張りめ。いったい誰に似たんだか。

 

『そのままお返しします』

「そりゃあ、俺は高町なのは(オリジナル)だろ?」

『ならば私もレイジングハート(オリジナル)ですね』

「じゃ、悪いのはオリジナルってことで」

『異議なしです』

 

 何かがカチリと()まった。

 心が軽くなり、身体に力が入る。

 

 覚悟が決まった。

 

 バリアジャケットをパンパンと叩いて汚れを払い、唇を切ったことで流れていた血を、手の甲でぐいっと拭う。

 左腕の抉られた部分はクレスがバリアジャケットを再構成し、止血帯にしてしっかり縛ってある。

 

「やっべ、勢い余って外に出ちまった………まあいいか」

 

 戦闘の余波やらでボロボロになってしまったビルから、男が悠々と現れた。

 

「うお、トラックが! ご愁傷様だなあ」

「やった本人がよく言うよ」

「いいのいいの、ここ駐車禁止だし。自業自得でしょ」

 

 それよりも、と、男はこちらに目をやる。

 

「ヒュー、イイ目じゃねえか。ここからが本番ってか?」

「ああ。悪いな、待たせちまって」

「全然。いい男は待つのも甲斐性さ」

 

 道路一本分の距離を挟んで、二人はデバイスを構える。

 

「そうだ、良い事教えてやる。怖い死神がこっちに向かってるらしい。到着は、そうさな……三分ってところか」

 

 死神? 誰のことだかわからないが、誰かが来てるならフェイトへの連絡はうまくいったらしい。

 だが、ここに至ってはもう関係がない。時間稼ぎも逃げの一手も、もうしない。

 

「じゃあ二分でカタをつけてやるよ」

「おお、言うねえ。俺の方が強いって知ってるクセに」

「そうだな。お前の方が俺より強いよ」

 

 勝つ。

 降りかかる火の粉は自分で払う。でなけりゃこの先、ずっと人の影に怯えて暮らなきゃならない。

 そんなの真っ平ゴメンだ。

 

「けどな────自分より強い相手に勝つには、自分の方が相手より強くなればいいんだよ」

「これまた懐かしい言葉を…………なら見せてくれよ、俺より強いお前を!」

「上等だっ!!」

 

 二人は同時に地面を蹴る。

 周囲を更地にするほどの激しい戦い、その幕が切って落とされた。

 

 

 

 

 

 

 

…………………

…………

 

 

 

 

 

 

 速く、早く、疾く。

 クラナガンの空を稲妻が切り裂き進む。

 

「っ、やっぱり思ってたよりスピードが出ない……」

 

 フェイトは唇を噛む。

 分かっている。出力リミッターをかけることは必要なことだって。

 けれどこうして事が起きた今は、リミッターさえなければと思ってしまう。

 

「バルディッシュ、到着までどのくらいかかりそう?」

It arrives about ten minutes(到着まで、約10分です)

 

 遅いと勘が告げる。

 いっそエマージェンシーコードを使用してリミッターを外してしまおうか。

 いいや、それはできない。そんなことすれば機動六課にどれだけの迷惑がかかることか。最悪、部隊の解体だってありえる。

 とにかく、今は飛ぶしかない。

 そうして真っ直ぐに目的地へ向かっていたフェイトであったが、そこにはやてから通信が入った。

 宙に映し出されたモニターに、はやてが驚いた顔で現れる。

 

『なんや急に! 緊急回線なんか開いて、なんかあったんか!?』

「え、私は開いてないよ?」

I opened line(私が開きました)

 

 チカチカと明滅しながら、バルディッシュは報告するべきと告げた。

 ただただ目的地へ一直線に飛んでいたフェイトは、それを聞いて少し冷静になる。

 そうだ、これは私だけの問題じゃない。

 

「ありがとう、バルディッシュ」

No problem(どういたしまして)

『……で、何があったん?』

「うん。例のクローンの件、救助要請が来たの」

『ほんまか!』

「今転送するね」

 

 短い文面だ。転送は一瞬で終わり、モニターの向こうではやてがそれを見る。

 

『捨てアカウントからのメールやな。信用できるんか?』

「できる……勘だけど」

 

 ちゃんと自己分析すれば、どうしてそう思ったのかが理路整然と出てくるだろう。

 時期、時間、アドレス、調査していた内容。そうしたものが一本の線で繋がるはずだ。

 だが時間がない今は、それらを全部引っ括めて『勘』なのだ。

 

『フェイトちゃんがそう言うならそうなんやろな。けど、参ったな。勘じゃこっちから応援は──』

 

 失礼します、八神司令!

 

 モニターの向こう側で、はやてを呼ぶ声がする。

 

『ちょっと待ってな……』

 

 そう断りを入れてから、はやては司令室に入ってきた隊員に返事する。

 

 ごめん、緊急じゃなきゃ後にしてくれるか。

 緊急です! 第44地区にて高ランク魔導師による戦闘が発生しました。付近の警備隊より応援要請が入っています。

 っ、アラート2発令! 各員出動準備、自由待機(オフシフト)メンバーは準警戒態勢や!

 了解しました!

 

『……フェイトちゃん、どうやらビンゴみたいやで』

「うん、聞こえてた」

 

 救援を求められた第44地区で戦闘が起きているというのなら、もう一刻の猶予もない。

 

「ごめん、はやて。全速出したいから通信切るね」

 

 魔法の制御を全て速度に回そうとするフェイトに、はやては待ったをかける。

 

『フェイトちゃん、到着予定時間は?』

「後八分──ううん、七分で着いてみせる」

『そっか……なら、“ロングアーチ00よりライトニング01へ。推定AAランク魔導師との戦闘が想定されるため到着までの三分、制圧に一分の計四分間、二ランクのリミッター解除を許可します”』

 

 途端、フェイトの胸の奥でパチンとリミッター外れ、ぶわりと金色の魔力が溢れ出した。

 

『かっ飛ばしたれ!』

「うん!」

 

 力強い頷きとともに、バンッと壁を破る音がした。

 

 

 

 

 

 

…………………

…………

 

 

 

 

 

 

「ディバイン、シュート!」

 

 九つ(・・)ものディバインスフィアは、衛星のように魔導師の周りを巡りながら、次々に魔力弾を発射する。二分の短期決戦ならではの、後先考えない魔力運用方法だ。

 

「はははっ、イイねいいねぇ!!」

 

 さながら機関銃のように絶え間なく撃ち出される魔力弾。そんな弾幕を張っている相手に、男は正面から突っ込んでいく。

 バリアジャケットがボロボロになっていくが、男は止まらない。致命の一撃のみ避け、アームドデバイスで弾き、障壁を張り、相手に迫る。

 魔力弾の全てが魔導師によって制御され、不規則な加減速や機動を描いて男へと迫っているのにも関わらずだ。

 あっという間に二人の距離が半分になったところで、男は相手のデバイスの先に、新たにスフィアが生成されているのを見た。

 九つものスフィアを制御しておきながら更にスフィアを生成できることに、男は素直に感心する。同時に、あれは単純に数を増やしたわけではないと察し、回避行動として急激な方向転換を取る。

 ディバインシューターはそれに追いつけず、未だ誰もいないところに射出しているが、

 

「アクセル、シュート!」

 

 新たなスフィアから発射された魔力弾は違った。高い弾速と誘導性で、回避行動を取る男へと易々と迫る。

 避けきれないと判断してデバイスで弾いたが、威力もディバインシューターとは段違いだ。

 

「中々じゃねえか、手が痺れたぜ!」

「ならおかわりをどうぞ!」

 

 言うやいなや、今度は先程のスフィアから二十四もの魔力弾を発射された。(なお)も九つのディバインスフィアを制御しながら、だ。

 あまりの魔力制御能力に男は舌を巻く。

 高町なのは(オリジナル)の戦闘データは見て知っているが、撃つだけならともかく、その魔力弾の全てを同時に制御することが、果たして本物(オリジナル)に出来るかどうか。しかも、カートリッジシステムなしである。

 

「とんでもねえなあ、おい!」

 

 障壁を張って守っても弾幕に押しつぶされる。デバイスで弾こうにも流石にこの数は捌ききれない。

 そのため、男は手札を一枚切った。

 

「吹き飛びやがれ、烈風衝波(れっぷうしょうは)!!」

 

 魔力を纏わせたデバイスの一閃により爆発的な衝撃波が生まれ、身に迫っていた魔力弾を全て消し飛ばす。本来はクロスレンジで使う技のため、相手に届く頃にはただの暴風になったが、それでも体勢を崩すほどだ。

 出来た弾幕の空白を前に、男が何もしないわけがない。

 一気に加速してクロスレンジに持ち込み、一文字にデバイスを振るう。対して魔導師はフラッシュムーブによる瞬間加速によって距離を取り、槍は前髪を数本切り裂くに留まった。

 お返しとばかりに、衛星軌道をとっていたディバインスフィアが魔導師の前方へ整列し、一斉に魔力弾を発射する。

 

「トライシールドォ!」

 

 避けられないと判断して障壁を張り、そのまま突っ込む。

 一瞬でシールドが破壊され、その反動でリンカーコアに痛みが走るが、無視。すぐに二枚三枚と貼り直し、強引にクロスレンジに踏み込む。

 

「いくぜ、もう一丁ぉ!!」

 

 自分の張ったシールドごと破壊して烈風衝波を放つ。

 相手は回避行動を取っていたため直撃こそしなかったが、逃がし損ねたディバインスフィアは全て破壊し、さらには衝撃波で魔導師は吹き飛ばされてビルに突っ込んだ。

 間髪入れず追撃に移る。

 

「スピーアアングリフゥ!」

 

 槍から後方へ向けて勢いよく魔力が噴射され、一気にトップスピードに乗る。そのまま魔導師が突っ込んだ場所へ突撃し、一階まで貫いた。

 しかし、手応えがない。

 攻撃を受けたビルはその威力に耐え切れず、倒壊を始める。瓦礫が降る中、背後に気配を感じた。

 男は素早く振り返り──瓦礫の影から目が合った。

 

 瓦礫と共に逆さに落ちる魔導師。

 まるで銃でも持っているかように両手で握った杖。

 腕をぴんと伸ばして構えて────

 

 

 

 

レイガアアアアンッッッ(ディバインバスター)!!」

 

 

 

 

 クレスから放たれた桜色の奔流が瓦礫の雨を飲み込み、大地を削りながら男に迫る。

 

「うおおおおおおおおおおっ!!」

 

 咄嗟にトライシールドを張って受け止めたようだが、それもすぐに破れて、ビルの外へと消えていった。

 

「はーっ、はーっ、っかは、はーっ」

 

 汗が頬を伝い、ポタポタと地面へと落ちた。

 砲撃で限界まで魔力を絞り出したため、その場にへたりこんでしまいそうになる。

 

『ここは危険です。早く外に出ましょう』

「っと、そうだな」

 

 今の一撃で完全に支柱がやられたのだろう。大きな瓦礫が次から次へと落ちてくる。

 もう飛べるほどの魔力は残っていない。

 それでも何とか頭だけでもプロテクションを張って、瓦礫の雨を防ぎながら外へと走る。

 俺が外へ脱出するのとビルが崩れるのは、ほぼ同時だった。

 轟音が辺りに響き渡り、粉塵が舞い上がる。

 

「クレス、戦闘時間は?」

『一分四十秒。宣言通りですね』

「当然だろ」

 

 汗を腕で拭い、大きく息を吐く。

 後は、向かって来ているという死神さんを待つだけだ。

 時間は余っている。少し身支度でも整えた方がいいだろうか。精々が汚れを払うことくらいしかできそうにないが。

 取り敢えずボサボサになった髪を直そうと、瓦礫の山に背を向けて髪に手櫛を通した時、

 

 

 パチ、パチ、パチ、パチ

 

 

 勢いよく振り返る。

 瓦礫の山の上で、男がこちらを見下ろしながら拍手をしていた。

 

「すげえな、すげえよ! ここまでやるとは思ってなかったぜ!!」

 

 男は心底楽しそうに笑い声を上げた。

 目元を覆っていたバイザーは半分割れて、辛うじて顔に掛かっている。上半身のバリアジャケットは吹き飛び、無数の傷跡が残る裸体を晒しているが、ジャケットを再構成する仕草は見せない。

 

「デッドコピーって話だったが、どこが劣化(デッド)だよ。まったく遜色ないじゃねえか!」

「そいつは、どうも」

 

 ざっけんな。

 シールドの硬さから言って、オリジナルのような反則的な防御力があるわけじゃない。

 あれを喰らってピンピンしてるとか、どんな身体してやがる。

 

「さあさあ、続きと行こうぜ!」

「くっ!」

「…………と言いたいところだが、生憎時間が迫ってるようだ」

 

 死神の到着まで、後一分もない。

 

「だからよ。最後に一撃、大技で真っ向勝負といこうじゃねえか」

 

 そう言うと男は構えに入った。

 身体を半身にして弓なりに背を反らし、槍型アームドデバイスを持った腕は後ろに大きく引かれる。

 これまでと比べ物にならないほどの魔力が男より立ち昇り、その全てがアームドデバイスに込められていく。

 

 もう僅かしか魔力が残っていない俺に、選択肢は一つしか無い。

 

「……クレス」

『わかってます。耐えてみせますとも』

 

 深呼吸して、カウントスタートと呟く。

 

 

 

『十』

 

 自分の前方に巨大な魔法陣が展開される。

 

 

 

『九』

 

 右手でクレスの先端ギリギリを握り締め、左手で柄の端を掴む。

 

 

 

『八』

 

 左足を引いて半身になり、脇を締めて反動を全て受け止めれるようクレスを構えた。

 

 

 

『七』

 

 クレスのコアの先に淡い桜色のスフィアが現れる。

 

 

 

『六』 

 

 先程まで散々ばら撒いていたお陰で周囲に満ち満ちていた魔力が、一斉に励起する。

 

 

 

『五』

 

 それら全てをスフィアは吸い込み吸い込み吸い込み。励起して光る魔力が渦を描いて吸い込まれていく。

 

 

 

『四』

 

 集めた魔力で膨れ上がりそうになるスフィアを圧縮圧縮圧縮圧縮。

 

 

 

『三』

 

 咎人たちに、滅びの光を。

 

 

 

『二』

 

 星よ集え、全てを撃ち抜く光となれ。

 

 

 

『一』

 

 貫け! 閃光!

 

 

 

『零』

 

 

 

 

 

 

「スターライト・ブレイカアアアアアアアアあああああああぁぁぁぁぁぁッッッ!!!!!」

「穿て!!! メテオリットシュラーク!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 お互いの全力が衝突する。

 極大な魔力の奔流を、極大な魔力を帯びて投じられたアームドデバイスが切り裂く。

 砲撃が押しやる力とアームドデバイスが進む力は拮抗し、二人のちょうど間で一進一退を繰り返す。

 

「くううううっっっ!!!!」

 

 荒れ狂い、少しでも気を抜けば発散してしまう魔力を、歯を食いしばって押さえつける。

 ピシリ、ピシリとクレスのコアに、フレームに罅が走るが、決して魔力の放出を緩めやしない。

 だって、耐えるって信じてるから。

 

「あああああああッッッ!!!」

 

 少しずつ、少しずつ。

 均衡していた天秤が傾く。

 衝突点が、向こう側へと引いていく。

 

「いっっっけええええええええええええええッッッ!!!!」

 

 ついに均衡が崩れた。

 アームドデバイスは砲撃の射線上から弾かれて宙を舞い、投じた男は光に飲まれる。

 瓦礫の山は消し飛び、その向こうに立っていたビルの屋上はスプーンで掬ったかのように抉られ、一筋の光が青空へと昇る。

 砲撃が止んだときには雲にぽっかりと穴が空いていた。

 

「………おつかれ、クレス」

 

 クレスを待機状態にして、手で受け止める。コアには幾筋もの亀裂が入っており、今にも砕けてしまいそうだ。

 それでも、耐えてくれた。

 

『致…的──破損──セーフ…ード………修復……』

「ああ、ゆっくり休め」

 

 安心させるように声をかけると、クレスの明かりが消えた。

 無事保護されたあかつきには、真っ先にデバイスマイスターに見てもらおう。自己修復機能にも限界がある。

 ふっと見上げた空に金色の光が見えた。

 そう、とても見知った光だ。

 今は豆粒ほどの大きさだが、すぐにでもこちらにやってくるだろう。

 

「こっちに来てる死神って、フェイトのことだったのか。死神なんて言われるとか、何やったんだ?」

 

 

 

「片っ端から逮捕したのさ」

 

 ズブリと音がして。

 下を見たら、腹から腕が生えていた。

 

 ああ、前も、こんなことあったな。

 あのときと違って直接的で、腕は血に濡れてぬらぬらと…………

 

「こふっ……」

「悪いな。奥の手は取っておくものさ」

 

 急速に視界が狭まっていく。

 足から力が抜け、身体を支えられない。

 

 そうか、負けたの、か。

 

「さて、急いで転移転移っと」

 

 足元に魔法陣が敷かれ、魔法が起動する。

 豆粒よりは大きくなったが、それでもフェイトは間に合わない。

 だから、薄れゆく意識の中。

 

 せめて、と

 

 

 

 

 

 

 クレスを

 

 

 

 

 投げ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




明けましておめでとうございます。

え、まだ2019年だって?
おいおい、そんな訳無いだろう? だってこの小説は年刊って言われるくらい更新が遅いんだぜ?
逆説的に、この小説が更新される時には一年経ってるのさ。

なに、そんな記憶がない?
そういうこともあるだろうさ。何せ人理が焼却されたときは、その期間の記憶がみんな無かったんだからな。




今話はちょっと長めのガッツリ戦闘回。
カッコよく書けたかな? ちょっと心配。
あとオリジナル魔法も出したから、ちょっとなあって人もいるかもネ。




ところで、モンハンとファイアーエムブレムとカリギュラとデスアンドリクエストとキングダムハーツと怒首領蜂最大往生とレッツゴーピカチュウと大神とガンヴォルトと大乱闘とポッ拳とマリオパーティとボンバーマンとDEEMOとPSO2とFGOとネプテューヌVⅡとEDF追加ミッションパック2と斑鳩とバルドコンプリートコレクションと冬コミ用のFGO短編原稿が積んであるんですけど、どうしましょう?


11月18日追記
コミケ落ちた……

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