全ての投票が終わった。モノクマランドの全てが、その結果を待ち焦がれるように、全ての動きを止めていた。モニターはオーディエンスの反応を伺うように、投票結果を表示させずに沈黙する。全ての結果を知る者は誰もいない。
「・・・」
「オ、オイオイ・・・!?まさか、マジで『失楽園』なんてことになってねえよな!?」
「それはシステムのみぞ知ることだ。我々にはもはやどうすることもできん」
「うぷぷぷぷ!!いいんじゃないっすか!?江ノ島盾子様は言ったっす!!綿密に立てた計画が最後の最後で台無しになる絶望もまた一興と!!」
「救いようがないねえ」
青ざめる者。不敵な笑みを崩さない者。結果を期待して待つ者。落ち着かずにそわそわする者。同じ顔をして待つ者はひとりもおらず、ただ5人の投票結果のみを待ちわびる。自分たちの敗北すら望んでしまう絶望の破綻した思考に、もはや生き残りの5人はリアクションもできない。
「さあ、
「・・・結果を出せ!」
星砂が叫ぶ。停止していたモノクマランドに光と音が戻る。動き出したアトラクションはけたたましい起動音を園内に響かせ、スニフたちの固い決意を揺らがせる。だが、それでもスニフたちは毅然と立つ。そうでないと、投票をした意味がない。自分の投票に後悔しないと決めた意味がない。
モニターが切り替わる。生き残った5人のアイコンと、それぞれの投票結果を映し出す。『失楽園』か『残留』か。スロットのように切り替わる2つの選択肢。
誰かひとりでも『残留』を選べば、自分の選択は意味がなくなる。その不安が脳内を掠める。だが、全員が希望を信じて『失楽園』を選択したはずだ。決して間違いないはずだ。
答えが出る──
生き残り5人の結論が──
それは──
『残留』だった。
「・・・え?」
「ぶひゃひゃひゃひゃひゃひゃ!!!ぶひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」
笑い声が落ちてくる。歪み、淀んだ、耳障りな哄笑。たった二文字を理解できない脳の中で重く響き渡る。
意味が分からない。
理屈が通らない。
信じられない。
あり得ない。
ウソだ。
うそだうそだうそだうそだうそだいありなえみあうしだmばかななんでんかりすっそだすにじられないらいえなりみがくぁいらいらうそだいありあにsじありれないsばあjかなしじsるあしあぎあsらsばおそdそだいさいないrじゃいみがwかりあんしじんらいれなうそだいありねあいじばなんでなんだえなんでなんでなんでなんであなでなんでなんでなんで!!!!!
「なんで・・・だよ・・・!?
なんでだよおおおおおおおっ!!?」
渦巻いて行き場のない感情は絶叫となって飛び出す。それは、怒りだった。悲しみだった。困惑だった。慟哭だった。憤慨だった。そのどれでもあり、どれとも異なっていた。
「・・・ど、どういう・・・?え・・・?なん、で・・・?」
「オマエラの答えは『残留』!つまりこのモノクマランドに残って、終わらないコロシアイに再び身を投じると!結論が出たのだ!!」
「わーい☆やったやったー♡またみんなとコロシアイできるんだね♬よかったー♡」
「いよぉ・・・いよは心穏やかで居られませんでした!或いは『失楽園』も、と肝を冷やしました!」
「んなワケねーだろうがよ!今まで何回見てきたんだよこれ!!今さら『失楽園』なんて選ぶわきゃねーだろ!!ぎゃははは!!
「・・・
「あっはは☆そんなめんどいこと、たまちゃんたちがするわけないじゃん?そんなことしなくても、
「はあっ!?」
「な、なんですか・・・それ・・・!?そんな、人・・・!!」
「なあ、そうだろ?」
野干玉が誰のことを指しているかは、黒幕たちの視線を見れば一目瞭然だった。ただひとり、投票結果が表示されたモニターに目を向けず、俯いたままその結果を知った人物がいた。
「・・・ふっ、くっ・・・!ひっ・・・ひぅぐっ・・・!!」
肩が引き攣るように跳ねる。荒い呼吸が漏れて言葉が細断される。足下は斑に濡れていた。
「うっ・・・み、みんなぁ・・・!はっ、うぅ・・・!えぅ、ぐっ・・・っふぅぅ・・・!ごっ・・・ごめっ・・・!あぁぅ・・・ぅう・・・!!ごめん・・・な、さい・・・!!」
濡れた頬に髪がへばり付いていた。見開いた目は赤く腫れ、なおも大粒の涙をこぼす。視線に応えるように、顔をあげる。その顔は──。
「あぅっ、へぅっ・・・!わ、わ・・・わた、し・・・!!
“死”にたく・・・ないんだ・・・!!」
──笑っていた。
研前は、恐れてしまった。外の世界と、永久の“死”を。
研前は、理解してしまった。終わらない輪廻と、絶望を。
故に、『残留』を選択した。
“死”を回避するには、
安全を望むなら、
恐怖から逃げるには、
他に選択の余地はなかった。
「フフッ・・・!フフフ・・・!!フフフフフフ!!」
「ぎゃははははははは!!!」
「こなた・・・さん・・・!そんな・・・!」
「だから言ってんじゃん!研前おねーちゃんはいつだって『残留』しか選ばないんだって!!」
「今までの何万回のコロシアイ・・・研前はその全てで『残留』を選んできた。いつも、最後の投票直前で、“死への恐怖”という絶望に堕ちるという、幸運によってな」
「こ、幸運・・・!?なん・・・で・・・!?だ、って・・・研前さんは・・・!!」
それが、
「正地ちゃんも分かり悪いなあ。言ったでしょ?100%の複製はできないんだって。クローンにすれば少なからず遺伝子は劣化するの。“才能”だって、同じだよ」
「・・・!!」
「このモノクマランドは常に研前の幸運で守られてんだぜ!?考えてみろよ!いくら絶海の孤島っつったって、数万回のコロシアイの間になんで誰も
「ぁ加えてェ!!此迄のコロシアイの全てで!!研前さんは最終裁判まで生存し、そして『残留』を選択しているのです!!何故か!?」
「それもこれも全て、ファクトリーエリアの地下で眠ってる研前の幸運の力だ。自らの“死”を回避するために、あらゆる外因を排除し、確実に『残留』を選択するように働いている」
「だからアタシが須磨倉に殺されたのも、そこの研前ちゃんの幸運って言うより、オリジナルの研前ちゃんの幸運なんだよねー!」
黒幕たちは当然のことのように話す。幸運で説明するには、あまりに途方もなく、あまりに奇跡的な事実。しかしだからこそ、幸運でしかあり得ない。誰にも見つからず、繰り返しコロシアイをしているという事実の前に、理屈や確率論など何の意味もない。そして同時に理解する。この状況全てがオリジナルの研前の幸運によるものならば、そこには必ず“犠牲”が伴っているはずだ。今、この“幸運”の“犠牲”は──。
「うぷぷぷぷ♬さ♡それじゃあそろそろいってみましょー♡」
「!」
「そうだな。フフフ・・・これが終われば、またすぐ次のコロシアイだ」
「すぐっつっても色々準備とかあるから間が空くけどな」
「それも大した時間ではない。どうせ私たちはみな眠っているのだ」
「えっ・・・!?ちょ、ちょっと待って・・・!そんな・・・!ウソ、でしょ・・・!?」
「ウソじゃなーい!!時間は無限だけどもったいないからさっさといっちゃいましょー!!」
「ま、待て待て待て待てオイ!!なんだよそれ!!?意味分かんねえよ!!なんでオレらが殺されなきゃならねえんだよ!!バカか!!ふざけんな!!」
「バカじゃなーい!!ふざけてもなーい!!これ以上ゴタゴタ引き延ばされてもつまんないし、さっさとおっぱじめよっか!!」
「えっ、や、やだ!いや!!やだやだやだやだやだ!!いやよ!!た、助けて・・・!!」
「フハハ!!笑わせるな凡俗!オマエラが今まで、処刑台に送られる俺様たちに救いの手を差し伸べたか!?ずいぶん虫の良いことを言うものだ!!」
「ヤです!!そんなの・・・!!こ、こなた、さん・・・!!」
「うぅっ・・・!うっ、ふふ・・・!!あぁああぁぁぁあああああ・・・!!あうあはっははっ・・・えうぅ・・・!!」
「ううっ・・・!!ううううううっっ!!なんでえ・・・!!なんでこんなことにいぃぃぃ・・・!!!」
「う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!」
拒みながらも、頭のどこかで分かっていたはずだ。学級裁判で敗れた者が辿る末路を。“超高校級の絶望”の楽園に閉じ込められることの意味を。それが抗いようのないものだと理解していても、人は命乞いをせずにいられない。
モノヴィークルから降り、下越は走る。処刑場へ連行する鎖はそれを逃がさない。
泣き崩れ、嗚咽し、地に伏しながら正地が縋る。振り下ろされる槌を止めることはできない。
証言台に手を叩きつけながら、納見はただ無意味な呻きを溢す。決して時間は巻き戻らない。
スニフはどうしようもない事実を前に、為す術なく頭を抱えている。状況を打開する道はひとつもない。
俯いたままの研前は、慟哭とも、哄笑ともつかない感情に支配されていた。
「うぷぷ♬今回は、『残留』を選んだオマエラ5人のために!」
「スペシャルな♡おしおきを♬用意しました☆」
「さあそれではオマエラ!張り切っていきましょーーーーう!!」
雷堂の言葉とともに、モノクマランドの暗闇から5つの鎖が飛び出してくる。それらは刑を待つ5人の首を掴み、重さのない人形のように引きずっていく。暗闇の中へその姿が消えるとき、5人はただ、ただ──。
絶望していた。
暗闇に包まれたモノクマランド。ありとあらゆるアトラクションが、その時を待っていた。このコロシアイ最後にして、最大の
微かに、音が聞こえてくる。遥か遠くから響いてきて、胸に共鳴する美しい音楽。優雅な弦楽器の音色。軽やかな鍵盤打楽器のリズム。高らかな管楽器の響き。全てをまとめあげる壮大なピアノの旋律。見る者、聞く者の心を高鳴らせるまばゆい光と華麗なメロディ。耳に馴染んだ声が、最後のアナウンスを送る。
『うぷぷ♬Ladies and gentlemen, Boys and girls.Monokumaland proudly presents our most spectacular pageant of night time dreams and fantasy in millions of sparkling lights and brilliant musical sounds. Monokumaland Executional Parade─』
一寸先も見えないほどの暗黒の中から、それらは現れた。見上げるほど高く絢爛な装飾。緩衝器から最後部まで余すところなく細部にまで宿る意匠。数千の電飾が色とりどりに、ひとつの調和を保ちながら煌めいて幻想的な姿を夜の闇に浮かび上がらせる。5つの巨大なフロートは、搭乗する各人に合わせて制作されていた。
先頭を行くのは、“超高校級の美食家”下越輝司の
下越はその装飾の天辺にいた。両手首と両脚を縛られたまま、足は地に着かず顎をあげられ、吊り下げられていた。下越にモノクマが近付く。赤い眼を光らせて笑い、開口器を下越にはめた。
下越のそばに、別の影が近付く。暗がりに隠れて顔は見えない。だがその手に握られているのは、下越愛用の出刃包丁だ。その影の意図を察するより先に、モノクマがホースを口に突っ込んできた。大量の水が噴き出す。口から溢れて体を伝う生暖かい水の感覚。飲むたびに逆流し鼻を突き刺す。呼吸が乱れて身悶えしても拘束は外れない。視界がぼやけ始める──。
「・・・ッ!!ぐぶぁぁっ・・・!!」
朦朧とする意識は、頸部に走る痛みで引き戻された。首の付け根を一周するように、出刃包丁の刃が沈む。だが太い血管には届かない。影は皮膚の裂け目に指を突っ込み、全身の皮膚を一気に剥がした。
「ああああああああああああああああッ!!!」
空気が針山になったような激痛。影はその断末魔を合図に、下越の体に包丁を沈める。腹が開かれる感覚。中に手を突っ込まれ掻き回される不快感。身軽になっていく体。そして、熱く脈動する塊が握られる感覚がした。
「・・・・・・!?」
気が付いたとき、下越の体は既に切り離されていた。縛られた手足も、皮膚を剥がされた胴体も、摘出された臓器も、この首とは繋がっていなかった。そして真っ赤な心臓に刃が通る。下越は、自らの肉体がすっかり捌かれるのを見届けて、絶命した。
次に進むのは、“超高校級の按摩”正地聖羅の
その台座部分には、青ざめ、絶望しきった正地が立っていた。正地のいるところからは、下越がどうなったかが全て見えていた。今朝までは当たり前に食卓を囲んでいた友が、目の前で尋常ならざる責め苦の末に絶命した。そして自分もこれから同じ目に遭う。その絶望で、既に正地の精神は破壊し尽くされていた。首輪に繋がる鎖がモノクマに引かれ、正地はうつ伏せに倒れた。
痛みも顧みず正地は暴れる。そのとき、背後に影が現れた。振り向くより先に頭が軽く叩かれる感覚がした。それが数回連続する。全身から力が奪われた。脳の命令が行き届かない。指一本動かせないが、意識ははっきりしていた。困惑に追い討ちをかけるように、二つの腿裏と肩に重たい感覚。そして、何かが焼ける煙たい空気が鼻に侵入する。
「あッ・・・!!あああああああああああッ!!!あッ!!あうッ!!あづぃッ!!あぶぁあああああああああああああ!!」
もぐさの焼ける臭いは徐々に薄れ、人が焼ける臭いに掻き消された。鼻を貫く悪習。耳を劈く絶叫。だくだくと溢れる血は断面の炎で焼け焦げて周囲の装飾にこびり付く。ぼとり、と鈍い音。正地の四肢が焼き剥がされた音だ。焼き千切られた腿と肩は、半端に焼き塞がれ、血が滾々とわく。
「あああぁッ・・・!!あがッ・・・!!・・・・・・!!」
影はもう何もしない。正地はもう何もできない。身じろぎひとつできず、想像を絶する激痛に支配されたまま。少しずつ血液と生命が霞んでいくのを感じていた。最期のその瞬間、正地の眼には影の姿が映っていた。
3番目を行くのは、“超高校級の造形家”納見康市の
それら全てを背に、納見は屹立していた。その正面には、巨大な木材が置かれた簡易アトリエがある。作務衣を着て白髪とヒゲを生やしたモノクマが笑い、夜風にそよぐように影が揺れていた。モノクマの手には、ノミと槌が握られている。
モノクマが作業を始めた。目にも留まらぬ速さでノミを挿し、槌を振るう。それは人の足だった。両脚、腰、腹、肩、腕、首、頭部・・・最後に顔を彫り、完成した。あまりに粗雑で、写実性も造形美もない、木偶の坊だ。あまりの出来に、納見は自分の立場も忘れて呆れ返る。その納見に、影が近付いてきた。その手には、彫刻刀と金鎚が握られている。
「・・・グッ!!」
納見が気付くと同時に、金鎚が眉間に叩き込まれる。一撃で眼鏡はひしゃげ、ガラスの破片が皮膚にめり込んだ。まずは顔。歪め、潰し、刻む。彫刻の顔とそっくりだった。次は両腕。左右で太さも長さも違う。不要な肉を削ぎ落とす。長すぎる腕は三つ折りにすると丁度良い。
「いッ・・・!!あああがッ!!ぎぃああああああああああああああああああッ!!!」
腹はもっと凹んでいるはずだ。腰に幅が足りない。脚の向きが真反対だ。首はもっと長い。着々と納見の彫刻は本物と近付いていく。仕上げに眼鏡をかけ直して、これで完成──。
──そのとき、車体が大きく揺れた。彫刻に亀裂が走る。モノクマと影が焦って押さえようとするが、遅かった。彫刻は、真っ二つに割れた。
「はぁ・・・!!はぁ・・・!!・・・ッ!」
納見の耳に聞こえてきたエンジン音。空気が割れるような爆音とともに、チェーンソーを持った影が近付いてくる。唸りをあげる刃が真っ直ぐ振り下ろされた。そして、彫刻が完成した。
次に現れたのは、“超高校級の数学者”スニフ・L・マクドナルドの
スニフは車体の中央にあるガゼボの中にいた。子供ひとりにとってはずいぶんと広く感じる空間だ。モノクマと、小さな影がガゼボの外から、まるで檻の中にいる動物を眺めるようにスニフを見ていた。
モノクマが出題する。短くシンプルな問題文。解くには膨大な時間と高度な計算が必要だ。スニフの頭にいくつかの解法が閃く。同じく問題を見た影は、懐から取り出したチョークで足下に式を書き連ね、ほどなくして行き詰まる。
「あっ・・・!」
思わずスニフは口を出した。影は手の平を叩いて、アドバイスの通りに計算を続ける。またもや行き詰まる。スニフがアドバイスする。進む。詰まる。アドバイス。進む。詰まる。アドバイス。進む。詰まる。そこで止まった。スニフにも限界がある。困り果てた影は、再び懐を探る。取り出したのは、注射器だった。
「
影は一切の躊躇なくスニフの首に突き刺した。鋭い痛みと共に襲う何かを注入される感触。しかしその痛みもすぐに消し飛ぶ。スニフの脳は一瞬にして興奮と新しいアイデアに埋め尽くされた。無意識にそれを口にする。影は続きを書く。行き詰まる。新しい注射器を取り出す。スニフに打つ。進む。行き詰まる。打つ。進む。行き詰まる。打つ。行き詰まる。打つ。打つ。進む。行き詰まる。打つ。打つ。行き詰まる。打つ。打つ。打つ。打つ。打つ打つ打つ打つ打つ打つ打つ打つ打つ打つ打つ。
「うあっ・・・!!・・・ッ!!」
経験したことのない多幸感。凄まじい興奮とともに脳が熱く滾る。口が勝手に思考を言語化する。影は手を動かし、計算式がフロートを埋め尽くしていく。影が手を動かすより早く、スニフの口は思考を吐き出し続ける。血流が加速して全身が充血する。体温の上昇で全身から湯気が上がる。眼球が裏返り、視界が計算式に埋め尽くされていく。影は式を書き続ける。汗に血が混じる。シナプスがオーバーヒートし始める。呼吸に割く脳機能が惜しい。生きた計算機になったスニフは止まらない。眼球が茹だり、神経が焼き切れ、脳が溶けても、解を述べ続け──。
──影の手が止まった。ようやく解を出すことができた。モノクマはそれを査読し、合格印と共に影を称える。その背後には、がらんどうになったスニフが、自分の脳だったものに浸って捨ておかれていた。
そして最後に現れたのは、“超高校級の幸運”研前こなたの
だが主役は違う。二つ一組で輪を作り、ピラミッドのように積み上がった蹄鉄オブジェの中央に立つ、研前だ。電飾の光が薄らぐ高さで、研前は冷たい夜風を浴びていた。その蹄鉄の山の麓には、目立たない影がひとつ、研前を見上げて立っていた。
一番高い蹄鉄の組が、接合部から蒸気を噴き出して外れ、落ちる。斜面を転がる蹄鉄はやがて車体脇から放り出された。蹄鉄の山の中には空洞があるが、暗くて中の様子は分からない。二番目に高い組が外れる。まだ中は見えない。三番目の蹄鉄が外れたとき、何かが露わになった。
「・・・ッ!!?」
それは、人の手だった。何かを掴もうと虚空を藻掻く形で、干からび固まっている。四番目の蹄鉄が外れる。首元まで露わになった。顔はよく見えない。5番目の蹄鉄が外れる。他の手や頭も見え始める。6番目の蹄鉄が外れる。干からび小さくなった肉体が、研前のいる頂上に向かって積み上がる。大量に。何かを求めるように。多量に。何かを渇望するように。無数に。しかしそれは決して届かない。
「あぁ・・・!ああッ・・・!!」
頂上に立つ研前は涙した。自分の罪深さに。今まで自分が犠牲にしてきた人の数に。自分は誰かの不幸を踏みにじって生きてきた。不幸を被った誰かの行く末など考えなかった。考えないようにしていた。目を背けていた。それ自体が最も罪深いことだと、今更になって後悔した。
「ご・・・めん、なさい・・・!ごめん・・・なさい・・・!ごめん・・・!!」
影は、屍体の山を登る。干からびた肉体を踏みつけ、飛び出した脚を蹴りつけ、頭を崩しながら。それが屍体であることなど気にも留めず、淡々と山を登ってくる。
そして、しゃがみ込んだ研前の元に辿り着く。人一人分のスペースにいる研前が、涙ながらに影と相対した。薄らかな月明かりが差して影の顔が照らされた。
「・・・あ」
「そこ、どいてね」
風が吹いた。不安定な足場は揺れる。泣き崩れた研前はバランスを失い、屍体の山に落ちていった。山は少し崩れるが、屍体を増やし、再び沈黙する。影は満足そうに微笑む。研前のいた場所に座り込み、後はただ、月を眺めていた。
全てのフロートが停止した。モノクマランドは再び漆黒の中に溶けて消える。風さえ沈黙する闇の中、処刑を終えた5つの影が裁判場に
「うぷ♬」
「うぷ!うぷぷ!うぷぷぷぷ!!うぷぷぷぷぷぷぷぷぷ────!!」
小さく、何回も、ボクはゆらされる。そのゆれを感じながら、押し付けられるような感じもした──。
コロシアイ・エンターテインメント
生き残り:0人+黒幕12人
コロシアイ・エンターテインメント
生き残り:17人
わざとミスタイプしたり、絵をいっぱい描いたり、皆様のご覧になっている画面を贅沢に使ってみたり、いろいろ挑戦しております。
あとQQを意識して書いたところもあります。セルフオマージュってヤツですね。