「やあ、よく来たねオマエラ」
夜のモノクマランドで、そこだけはいつものようにすごくあかるかった。モノヴィークルはまだしずかに
「まだまだ夜は長いっていうのに、今からそんなに息切らしてて大丈夫なの?」
「誰のせいだと思ってやがんだよ・・・!あんなわけわかんねえもん見せやがって!どういうつもりだ!」
「だからヒントだって言ってるでしょ?あんまり物分かりが悪いと、脳みそいじくって物分かりよく改造しちゃうぞ?ロボトミーしちゃうぞ?」
「そんなことまでできるの、モノクマって・・・」
「やったことないけど、試すくらいならやってみせてもいいよ」
「できないんじゃあないかあ」
「あれ。スニフクンったら、もうモノヴィークルに乗っちゃって。ずいぶんやる気まんまんだね」
「スニフ君・・・」
「
「そ、そういえばそうね・・・。さっきの写真を見てたら時間を忘れちゃって・・・捜査以外ほとんど準備できてないけど、大丈夫なのかしら・・・?」
「やるしかないねえ。少なくとも全部のエリアを隈無く捜査したんだあ。よほど意地悪な隠し方をされてない限りはあ、必要な情報は必ず誰かが見つけてると思うよお」
「そう信じたいけど・・・ううん、信じなくちゃダメだよね。いつもの裁判と違って、ここにいるみんなは仲間なんだから」
「散々バカにしてきやがって!おいモノクマ!覚悟しとけよ!なんもかんもテメエの思い通りにさせねえからな!」
「うぷぷ♬みんなそれぞれ色んな想いを背負ってきてるみたいだけど、情報共有もろくにしてないオマエラがまともに議論できるのかな?」
「今までだって、手掛かり全部を共有してたわけじゃない。だから大丈夫・・・だと、思う」
「やれるだけやってみるさあ」
ボクはというと、やっぱりまだちょっとこわかった。今ボクたちがもってる
「うぷぷぷぷ♬それじゃ、はじめようか!正真正銘、最後の学級裁判を!この裁判が終わるとき、オマエラが全ての謎を明らかにして、巨大な絶望に打ち拉がれていることを期待しますよ!」
「モノクマは裁判に参加するの?全部を知ってるんなら、私たちの議論の邪魔をしたりするんじゃないかしら?」
「いいえ!ボクはいつも通りここでオマエラの裁判の行く末を見守ってるよ。裁判の進展具合によっては、もしかしたら参加しちゃうかもね!」
「信用ならない・・・」
「それでは!ホントにホントの最後の学級裁判をはじめましょう!いざ!」
ハンマーを振り上げたモノクマが、
いよいよはじまるんだ。ボクたちの、
「ではでは、今回はちょっと特殊なので、改めてこの学級裁判のルールを説明しましょう」
モノクマが木槌を鳴らして言った。
「オマエラには、このモノクマランドでのコロシアイの真相について話し合ってもらいます。明らかにすべきテーマは3つ!【コロシアイの目的】、【黒幕の正体】、そして【オマエラは何者なのか】。それぞれを正しく言い当てることができるかどうか・・・うぷぷぷぷ♬!ワックワクのドッキドキだよね!いつものように、ガンガン議論しちゃってください!最終的な結論によって、その後のことも考えるからさ!」
「議題は分かったけど・・・今回は投票とかないでいいんだよね?ほら、いつもみたいにクロがいるわけじゃないから」
「さあ〜どうでしょうね〜」
「まだ何か言ってねえことがあるな」
「ほうっときましょう!それより、
「ちょっと待ってねえスニフ氏」
簡潔に今回の裁判の方向性を示すモノクマだが、研前の質問にはあからさまにはぐらかした。おそらく裁判の最後には何かが待ち受けているのだろうが、それを考えている余裕は今のスニフたちにはなかった。一刻も早くとスニフが手を挙げて情報共有を進言するも、納見がそれを制す。
「おれたちの集めた情報を共有するのも大事だけどお、さすがにそれをしてたら時間がかかりすぎるだろお?慎重になることも忘れちゃあいけないけどお、話しながらそれぞれが情報を出し合う方が効率的じゃあないかい?」
「何言ってっかさっぱり分からん!」
「うん、私も納見くんに賛成だわ。5人で手分けしてモノクマランド中のことを調べたんだもの。一度に覚えきれる自信がないわ」
「そうすると、いつもの裁判みたいな感じになるけど・・・スニフ君はそれでもいい?」
「ボクはみなさんがいいやり方がいいです!」
「ありがとうねえ。そんじゃあ、まず何から話し合うかあ・・・それくらいはスニフ氏に決めてもらうかい?」
「オマエラ緊張感どこ置いてきたの?」
これまでの裁判と違い、明確に誰かの命が奪われたわけではない。裁判後の展開が分からないが命が懸けられていることには変わらないだろう。それを理解していながらも、どこか5人の間には緩んだ空気が流れていた。それは、ここにいる互いのことを敵ではないと確信しているからだった。その確信にどれほどの根拠があるのか、そこまで思考を巡らせる者はいなかった。
「う〜ん・・・【
「いいよ。それから話し合おう」
「【黒幕の正体】だな!うっし!だったらオレがひとつ推理してやるぜ!」
「いきなり最初に言うのは間違いフラグなんじゃ・・・」
「うっせ!取りあえずオレの話を聞け!」
オレンジ色の髪を振り乱しながら、下越がモノモノウォッチをカンニングしながら、持論を展開する。それは単なる思いつきや妄想ではなく、モノクマランドを捜査した結果得られた情報に基づくものだ。だからこそ、一定の説得力を持っていた。
「オレは倉庫エリアを捜査したんだ。お前たちも知ってっと思うけど、あそこにゃ武器庫があった。よく分からねえけど、とにかく人を傷付けたりぶっ殺したりしようってモンばっかり置いてあったぜ」
「武器庫ってのはそういうところだよお」
「で、だ。前に納見か誰かが言ってたように、ありゃ“超高校級の死の商人”、つまり鉄のヤツが造った武器なんだろ?ってことは黒幕は、鉄が造った武器をあんだけ揃えられるようなヤツってことになる」
「うんうん」
「でも、鉄くん・・・というか、鉄くんのお姉さんは、色んな人と商売してたのよね。ただでさえその商売相手も分からないのに、数も多いんじゃ、黒幕の正体なんて分からないじゃない」
「いいや!まさにそこだぜ正地!モノクマのヤツが、オレたちに『弱み』を打ち明けろって言ってきたとき、鉄の『弱み』はなんだったよ!」
自然に浮いた疑問を口にすると、待ってましたとばかりに下越が問うてきた。まさかこんなに推理然とした話を聞かされると思っていなかった周囲は、少し動揺した。下越にこんなことができたのか、と。
「えっと・・・その、“超高校級の死の商人”である事実、だったわ」
「そうだ!けどあいつは“超高校級のジュエリーデザイナー”として入学したんだろ?希望ヶ峰学園だってあいつの“才能”を間違えてたわけだ。なのに、黒幕はホントの“才能”を知ってて『弱み』として強請ってきた。ってことは、黒幕は鉄が“超高校級の死の商人”ってはじめから知ってたヤツってことになる!」
「
「“超高校級の死の商人”の正体をはじめから知ってた人って・・・鉄くん以外だったら一人しかいないんじゃないの?」
「ああそうだ。つまり、黒幕の正体はあいつの姉だ!名前は知らん!」
「ド、ドキィ!?ま、まさか下越クンに当てられるなんて・・・!!いつもおバカな下越クンに当てられちゃうなんてこういう
「鉄幣葉さんでしょ?たぶん違うと思うけど・・・」
「モノクマの態度が余裕過ぎるもんねえ」
「なんだよ!なんで違うって言えんだよ!」
自信満々に推理を披露したモノクマだが、その可能性を正地にあっさり否定される。モノクマも余裕な態度は崩さず軽口を叩く。一応、下越の話に筋は通っているが、正地にも同様に筋の通った論があった。
「下越くんの言いたいことは分かるんだけど、その鉄幣葉・・・鉄くんのお姉さんって、そういうタイプじゃないのよ。鉄くんの話を聞く限りでの印象でしかないのだけれど」
「そういうタイプってなんだよ?」
「幣葉さんって、自分はジュエリーブランドの社長としての顔と“超高校級の死の商人”としての顔を使い分けて暗躍したり、鉄くんを目立たせて自分はその陰に隠れたりして、希望ヶ峰学園だって騙すくらい狡猾に自分の情報をシャットアウトしてたのよ。そんな人が、敢えて自分の秘密をバラしかねないようなことするかしら?」
「希望ヶ峰学園の新入生を17人もさらったりしたら、それだけで大事件だもんね。ここで黒幕としている間は、会社の方も空けることになるし・・・」
「そうですよ。サイクローさんもいるんですよ」
「袋叩きかよ!」
「うんまあ、下越氏の言い分も分かるけどお、みんなの意見を踏まえたらその線は薄そうだねえ」
「もう分かったよいいよ!」
「だけどお、方向性はおれも同じこと考えてたよお」
「お、マジで?」
鉄幣葉がどんな人物かの情報は、鉄の話を聞いた正地の印象という、曖昧すぎるものしかなかった。ただ、それだけの印象を以てしても、ここで黒幕としてコロシアイをすることは、その人物像とかけ離れていた。少なくとも金銭的な、人材的な、嗜好的なメリットがなければ、ここまで大々的なことはしないだろう。正地だけでなく研前とスニフからもそんな一斉攻撃を受ける下越に、納見が助け船を出した。
「鉄氏が“超高校級の死の商人”だってのもそうだけどお、それ以外にも黒幕はおれたちの秘密を『弱み』として突きつけてきただろお?おれみたいなものならまだしもお、雷堂氏や極氏や虚戈氏みたいにい、人に言えなかったり言わなかったりするような『弱み』なんてえ、知れる人は限られるんじゃあないかい?」
「そうよね。たまちゃんだって、本名を自分からは絶対に言わなかったのに、モノモノウォッチには最初から登録してあったみたいだったし」
「それにボクたちの
「みんなの『弱み』を知ることができて、それぞれにとって理想的な環境も用意できる・・・でもそれって、かなり私たちに近しい人じゃないとムリだよね?少なくとも、『弱み』を打ち明けるくらい」
「動機だったとはいえ、みんな自分の『弱み』は打ち明けたのよね。だから、懇意にしてる人に打ち明けることはあるかも知れないわ。それを17人とってなると、相当だけど・・・」
「う〜ん・・・いまいち納得いかねえんだよなあ」
第三の動機として与えられた『弱み』。そしてホテルの上階にあったコロシアイ参加メンバーにとって最適な環境が揃った“才能”研究室。これらのことから納見が持論を述べる。状況から考えてその推理は正しそうに思えるが、納得するにはまだ遠かった。
議論開始
「このコロシアイの黒幕はあ、2つの条件を満たす人物だよお」
「1つは、私たちの『弱み』を知ることができたっていうことよね」
「もひとつ!ボクたちに
「つまりはあ、おれたちの『弱み』も知れて、“才能”のことも理解できる・・・相当近しい人物ってことになるよねえ」
「いや・・・なんか納得できねえんだよな」
「何が納得できないの?下越君」
「だって、オレらがここに連れて来られたのは、希望ヶ峰学園の入学式当日だぞ?それまでお互い会ったこともねえのに、全員共通の知り合いなんているわけねえだろ!」
「それは違うよ・・・!」
ただひとり、釈然としない表情で反論する下越に、研前がぴしゃりと言い放った。その目はどこか物憂げだったが、確信の色に満ちていた。
「私たちは・・・きっと、ここに来た日が初対面じゃないんだよ」
「な、なんでだよ?そりゃ、顔くらい知ってるヤツは何人かいたけど、オレは誰とも会ったことねえぞ!」
「会ったことが、あるんだよ」
「はあ!?」
断定的な研前の言い方に、下越の頭の上をクエスチョンマークが飛ぶ。何を言ってるかさっぱり分からない、という下越に、研前は自分のモノモノウォッチを操作して、下越の方に見やすいように画面を向けた。そこには、既にこの裁判場にはいない人物との写真が表示されている。
「この写真・・・これ、モノクマランドで撮影された写真なんだ。ここに映ってるの、下越君だよね」
「・・・そ、それは・・・!」
研前が見せたのは、ドリンク片手に仲良さげな様子を見せる水着姿の極と茅ヶ崎、その奥で焼きそばを炒める下越を撮影した写真だった。ちょうど今朝の裁判の後、雷堂が犯行の動機として言及したもので、下越も見覚えがあった。そして、それがそのまま研前の論の根拠となっていた。
「他にもたくさんあるけど、この裁判が始まる前、モノクマが私たちによこした写真も、覚えてるよね?」
「・・・あの、希望ヶ峰学園の制服を着た写真よね」
「うん。これって、ここでコロシアイが始まるより前に、もう私たちがお互いに知り合ってた証拠になるんじゃないかな」
「けど・・・モノクマがテキトーに作ったもんって可能性もあるだろ・・・」
「それもちがいます。きっと、これ
「なんでそんなことが言えんだよ!」
「だって、レイカさんは、
「ああ、そうだねえ。極氏にはお尻のところにタトゥーを彫った自覚があるってことだあ。だから極氏にとってもお、まっさらな自分のお尻は不可解だったんじゃないかなあ」
「そうかあ?ケツにタトゥーがあるなんて普通言わねえし、極が自分からケツ見せることなんてしねえだろ。隠してたんじゃなくて、たまたま見るチャンスがなかっただけじゃねえのか?」
「でもそう言えば、極さん、私たちとお風呂入るの断ってたよね。パトロールのためって言ってたけど・・・ホントはお尻見せたくなかったのかな」
「あの、別にいいんだけど、みんな、極さんがタトゥー入れてるのお尻じゃないから。股の付け根のところだから・・・あんまりお尻お尻言わないであげて」
極の遺影を横目に見ながら正地が申し訳なさそうに忠告すると、スニフが顔を真っ赤にした。ともかく、写真を見た極が、タトゥーが彫られた自分、あるいは彫られていない自分に違和感を覚えたことは間違いないだろう。しかしそれを根拠に写真を否定しなかったということは、彫られているはず、と考えた根拠になり得る。それはひいては、写真に映っていることが事実である可能性を色濃くすることでもあった。
「どっちにしろ、断定まではできないけど・・・極さんが敢えて白黒はっきりさせない理由も分からないし、ひとまず本物と考えていいんじゃないかな」
「いいんじゃないかなって言うけどよ、だとしたら明らかにおかしいこともあるだろ。なんでここにいる誰ひとり、ここに映ってることを覚えてねえんだよ」
「・・・それは」
至極真っ当な下越の疑問に、答える者はいなかった。それが分かれば苦労しないのだ。それが分かれば、雷堂が凶行に走ることもなかったかも知れない。極が写真の真偽を迷うこともなかったかも知れない。事実、そうなった理由は、誰もこの写真について、身に覚えがないからだった。
ひらめきコアレッセンス
衣 小 ノ
心 己 口
日 言 口
立 夫 一
記 憶 喪 失
「私たちみんなで・・・記憶喪失になってるとしか・・・」
「・・・!」
ぽつり、と正地が呟いた言葉は、モノヴィークルの駆動音を掻き分けて全員の耳に届いた。その可能性を考えていたのは正地だけではないが、言葉にしようとした者はいなかった。あまりに非現実的で、あまりに突拍子もなくて、仮にそれが真実だった場合、あまりにも絶望的だからだった。
「あっ・・・う、ううん!なんでもないの!今のはただ・・・ま、まんがの読み過ぎかしら・・・?」
「そ、そんなことないです!ボクもそれ
「ヘンなフォロ〜しない方がいいよおスニフ氏。記憶喪失自体は普通にある話だけどお、ただの物忘れとはワケが違うんだあ。それにい、この写真の記憶がないのはおれたちだけじゃあないはずだよお。ここに来た日のことを考えるとお、はじめにこのモノクマランドに拉致された17人全員があ、同じ記憶について記憶喪失になってるってことになるからねえ」
「あり得ねえだろ!全員で同じところに同じように頭ぶつけたのかよ!?」
なぜ正地以外の誰も、記憶喪失の可能性を口にしなかったのか。それは、納見が指摘したような都合の良すぎる状況であるということと、自然に起きにくいことが起きていることの意味を理解できていたからだ。この記憶喪失が、偶然の産物でないとしたら、考えられる可能性はひとつだけ。
「誰かが・・・私たちから記憶を奪った・・・?」
「記憶を奪う・・・や、やっぱりあり得ないわよね。そんな、まんがや映画の話じゃないんだから・・・」
「で、でも!モノクマの
「スニフクン、ボクになら何言ってもいいと思ってない?」
「だ、だけど、やっぱりあり得ないんじゃないかしら・・・。自分で言っておいてなんだけど、確証もないし」
「そもそもあの写真が本物ってのもオレはなあ。あんまし納得いってねえんだよな。極の件だけじゃいまいち説得力に欠けるっつうか・・・あいつがたまたま言わなかっただけなんじゃねえかって思っちまうんだよな」
「まだ言ってんのかい?極氏の件だけで納得がいかないって言うんならあ・・・虚戈氏と荒川氏のことを思い出してみたらいいんじゃあないかい?」
記憶喪失が偶然のものか人為的なものか、その議論に移る前に、全員で見解を統一させる必要がある。ひとり写真の真偽に疑問が残る下越に、納見が提案した。
「荒川氏は虚戈氏にこの写真を見せてえ、その上で自分の犯行に協力するように申し出てただろお?普通の虚戈氏だったらそれを承諾するわけがないのにい、虚戈氏はあっさり納得してたろお?」
「そうですよね。マイムさん、
「つまりあの二人の間ではあ、この写真の信憑性になんらかの根拠があったってことじゃあないかい?」
「根拠・・・?なんだよそれ・・・!?」
「さあねえ。それは話してた二人にしか分からないはずだからあ、今となっちゃあ・・・」
「
「
「あっ!それでした!」
「だったら結局、根拠がねえのと一緒じゃねえかよ!」
「でもヒントはあるよお。荒川氏の研究にその痕跡が残されてるはずだよお」
「荒川さんの研究?」
4回目のコロシアイのとき、荒川が虚戈の協力を得られたのは、荒川が知ったコロシアイの真相を話したからだ。それを聞いた虚戈は、殺すつもりも殺されるつもりもないという考えから、自ら荒川の犯行に協力するほどに考えを変えた。写真のことも荒川は言及していた。一体荒川は何を語り、虚戈は何を知り、自らの命を捨てるようなことになったのか。
「音声しか聞いてないから詳しいことは分からないけどお、虚戈氏が荒川氏に協力したのはあ、荒川氏と虚戈氏が写真やその他の研究から何かを知ったからだよお。それに荒川氏がおれたちに研究資料を託したってことはあ、それがおれたちにとって必要なものだったからのはずだよお」
「その研究資料って・・・」
証拠提出
A.【コロシアイ記録館)
B.【診断書)
C.【モノヴィークル)
D.【モノモノウォッチ)
▶B.【診断書)
「もしかして、あの診断書・・・?」
荒川の死後、納見とスニフが発見し、5度目のコロシアイのときには極の『弱み』を解き明かすトリガーにもなった、診断書の束。それは今、納見の手の中にある。コロシアイに参加している17人全員の身体データがつぶさに記録されていて、その存在だけで全員に気味の悪さを感じさせていた。
「ただの健康診断でここまで細かいデ〜タは取らないよねえ。荒川氏の研究室にあったんだしい、何かしらの関係があるはずだよお」
「でも、ボクききました。エルリさんの
「違うよスニフ君。データを取ってたことよりも、それを何に使ってたかの方が問題なんだよ」
「データを取って何になるのか分からねえし、荒川の研究のこともオレは詳しく知らねえけど、オレらの体のこと色々調べてんだったら、脳みそいじって記憶消したりするとかもできそうな気がしてくるな」
「え・・・で、でもそれじゃあ・・・」
「うん。そうなると、このコロシアイの黒幕は・・・」
人物指名
スニフ・L・マクドナルド
研前こなた
須磨倉陽人
納見康市
相模いよ
皆桐亜駆斗
正地聖羅
野干玉蓪
星砂這渡
雷堂航
鉄祭九郎
荒川絵留莉
下越輝司
城之内大輔
極麗華
虚戈舞夢
茅ヶ崎真波
▶荒川絵留莉
「荒川さん、ってことになるけど・・・?」
「ムッハーッ!あ、間違えた!フフフフフ!よく分かったな!私が黒幕だったのだー!どう?似てる?」
「うるせえよ!」
診断書に記されたデータが、生医学的にどのような意味を持ち、それを利用して何ができるのか。そんな知識はここにいる5人の誰も持っていない。しかし、それだけのデータを集めていて、荒川ほどの専門知識があれば、記憶操作が可能になると考えることもできる。ふざけて荒川のモノマネをするモノクマに、下越が一喝した。
「荒川さんだって、納見くんの『弱み』を聞いてたのよね。それって、それだけ荒川さんが納見くんの懐に入り込んでたってことになるんじゃないかしら?人の『弱み』を知れるっていう黒幕の条件にも当てはまると思うけど・・・」
「そりゃあちょっと苦しいんじゃないかい?」
「ボクもそう思います」
自信なさげな正地の付け足しに、納見とスニフが異論を唱えた。全員の視線が自ずと荒川の遺影に向くが、不敵に笑うその写真は何も応えない。
「あのときは『弱み』を打ち明けなきゃおしおきっていう強制力があったしい、おれの『弱み』も別にい、隠し通さなくちゃいけないほどの大した内容でもなかったからねえ」
「エルリさんがいろんな人に
「スニフクン本当に容赦ないね!?ボクじゃないからいいけども!」
「ま、まあ荒川さんって人付き合いとか苦手な方だったと思うし、納見君ならまだしも、雷堂君や鉄君の『弱み』まで知れるほど近しくなるイメージがつかないっていうか・・・そうだよね」
「むしろその辺はあ、近しい人にだって言える内容じゃあないよお」
全員の頭の中にある荒川のイメージと、雷堂たちに近付いて巧みにその『弱み』を聞き出すコミュニケーション能力は、どうしても合致しない。話の流れでつい明かしてしまう程度の内容ではない、むしろ積極的に隠匿するべき内容であるだけに、荒川がそれを知ることができたとは考えにくい。
「それに!エルリさんの
「まあ、荒川さんは科学者であってお医者さんじゃないからね・・・」
「頭ン中で考えんのと実際にやるのとじゃ全然違うってことか?」
「
「んじゃあ、荒川は黒幕じゃねえってことか」
「・・・私は、あんまりそうは思わない」
荒川絵留莉は黒幕ではない。議論がその方向に流れそうになったとき、それを堰き止める者がいた。ただひとり、俯いてまだ何かを考え込んでいた、研前だった。
「荒川さんと、私たちが思い描く黒幕のイメージがかけ離れてるのは、確かにそう。だけど、それだけで荒川さんが黒幕じゃないって言い切れるのかな・・・少なくとも私は、黒幕と荒川さんは、近いところにいる人だと思う」
「な、なんでですかこなたさん!?エルリさんは
「うん、そこじゃなくてね」
全員の『弱み』を知り、記憶操作技術を持つ黒幕のイメージ。荒川は『弱み』を知れるほど他者を懐柔する力はなく、記憶操作技術を用いられるほどの技術がない。しかしそうでなくても、研前には荒川と黒幕を繋ぐヒントが思い浮かんでいた。
「4回目の・・・虚戈さんが殺されたときの学級裁判で、荒川さんが処刑される前、モノクマが私たちに聞かせた音声があったでしょ」
「よければもっかい聞く?なんなら作業用BGMにする?」
「もうたくさんだってんだよ」
「あの音声の中で、途切れ途切れでよく分からなかったけど、荒川さんと虚戈さんが話してたよね。荒川さんの技術が、黒幕に悪用されてるって」
「エルリってそんなの研究してたんだ♬なんかこわーい♡」
「いいや。むしろ私はこういったものには否定的立場をとっていたつもりだ。ッ──ッを科学的に生み出すなどまさに神の所業。失楽園となるには十分過ぎる大罪だ。皮肉にもな」
「ふーん♢それじゃしょーがないね♡分かったよ♡エルリに協力してあげる♬」
「・・・すまない」
「エルリは謝らなくていいんだよ♬悪いのはエルリのッ──────ッを勝手に使ってる黒幕なんだからね♠」
わざわざもう一度聞かなくても、全員の頭の中にこびり付いて離れない、不可解な荒川と虚戈の会話。確かにその中で、二人は言っていた。荒川の研究に類する技術を、黒幕が利用していると。
「荒川さんが直接黒幕に協力してたのか、それとも勝手に技術を使われたのかは分からないけど、少なくとも黒幕と荒川さんは、同じくらいの知識を持ってたはずだよ。でないと、他人の研究を横取りするなんてできないもん」
「
「いやあ、それもやっぱり荒川氏の研究テ〜マとはズレるからねえ。というかあ、まさにその辺の話でみんなに話しておかなくちゃあいけないことがあるんだけどお」
「なんだよ?」
「ううん・・・まあ、ゆっくり話すよお」
黒幕が利用している荒川の研究は何か。その話題になった途端、納見の顔がみるみる青くなっていった。夜遅く暗いせいか、過剰なほどの灯りのせいか、全員その変化に気付くのが遅れた。気分悪そうに腹の辺りをさすりながら、納見は苦々しい顔で話し出す。
「昼間の捜査でえ、おれはファクトリーエリアを捜査したんだけどお」
「ファクトリーエリア?あんな何にもねえところ捜査してどうすんだよ」
「おれも何もないと思ってたんだけどねえ・・・けどあそこは存在からしておかしいだろお?」
「ど、どういう意味?」
「おれははじめえ、あそこは電気・ガス・水道みたいなあ、生活に必要なライフラインを整えるための設備だと思ってたんだあ。だけどお、4回目の裁判の後になってインフラエリアなんてのが出てきただろお?あそこも大概何もなかったけどお、インフラ用の設備が別にあるんならあ、ファクトリーエリアはなんの為の設備なんだろうって思ったのさあ」
「言われてみればそうだけど・・・そのファクトリーエリアに何があったの?」
「・・・バカデカい工場だよお。ファクトリーエリアの一番奥のさらに奥のところお・・・普通だったら行こうとも思わないようなところにい、めちゃくちゃ大きい工場があったんだあ」
「なんでそんなとこ、ヤスイチさん行けたんですか?」
「モノクマに案内されてねえ。星砂氏は自力で辿り着いたみたいだけどお」
「だってあそこまで辿り着いてもらわないと、裁判が盛り上がらないんだもーん!」
星砂が辿り着いた時には、新たに掟を追加してまで侵入を拒んだ工場。しかし、納見が捜査する段階になると、モノクマの方から積極的に行くよう仕向けてきた。この矛盾する行動にどんな意味があるかは、納見の知るところではないが、とにかくその中で見たことを話す。
「そこで造られてたものは2つあったあ。1つめはあ、やけに小さな精密機械でえ、それがなんなのかはおれには分からなかったんだあ。大方のところだとお、モノモノウォッチみたいな機械に使う基板かマイクロチップってところかなあ」
「それが荒川の研究と関係あるのか?」
「いやあ、これは工学系のものだからあ、むしろおれやスニフ氏の方が専門に近いだろうねえ。荒川氏の研究が流用されてたのはきっともう1つの製造物の方でえ・・・」
「?」
ここで納見は言葉を切る。ここから先のことは、本当にいま全員に伝えるべきなのかと逡巡する。この段階まで来て秘密にすることはできないし、いずれは話すことだ。しかし、これを伝えれば間違いなく全員ショックを受ける。あるいは、感動するかも知れない。何にしても、今更言わないという選択肢はとれなかった。
「あそこで造ってたのはあ・・・ヒトだあ」
「・・・へ?」
「ファクトリーエリアの最奥にある工場ではあ・・・人間を造ってたんだあ」
一瞬、裁判場の空気が止まった気がした。それはすぐに動き出して、その冷たい事実を全員の肌に触れさせる。頭がその言葉の意味を理解するにつれて、全身にざわざわと不快な感覚が蔓延っていく。
納見は語り出す。淡々と。冷静に。事実だけを。そこから何を感じ取るか。何を思うか。それは聞く者たち次第だ。納見が敢えて淡白に語るのは、私見を挟んで事実が誤って伝わらないようにするためだ。自分は見たものを見た通りに話す。それだけで十分、この情報は驚異的だった。
「ヒ、ヒトを造るって・・・え?そ、それって・・・そんなこと・・・ウソでしょ・・・?」
「もっと正確に言えばあ、そこに残されてた資料から察するにい、あれはクローン製造工場とも言えるねえ」
「待てってオイ!?クローン!?お前、バカなこと言うなよ!?映画や漫画じゃねえんだぞ!?クローンなんてあるわけねえだろ!」
「どうなのモノクマ・・・?納見君の言ってることは本当なの・・・?それくらい、答えてくれてもいいんじゃないの」
「うぷぷぷぷ♬はい!本当ですよ!だってボクが行くように仕向けたんだもんね!この話は必ず学級裁判でしてほしかったから、ちょっとルール違反かもだけど、捜査を誘導させてもらいました!まあでも、結果的にはオマエラのためだもんね」
モノクマが笑いながら、あっさりと太鼓判を押した。ファクトリーエリアの最奥部にある工場では、クローンが製造されていた。納見から聞いたことは、どれも想像するだけで不快感を催すものだった。自分たちの身近でそんな超現実的な、超倫理的なことが行われていたなんて、実感すると今更ながら血の気が引いてくる。
「マジかよ・・・!?野菜じゃねえんだぞ・・・!?人間のクローンなんてそんな簡単に造れんのかよ・・・!」
「いろんな
「甘いなあスニフクンったら!できないことをなんで禁止する必要があるのさ?禁止してるってのは、裏を返せばそれができちゃうからなんだよ!」
「コロシアイを強要してる黒幕が、今更そんな条約とか倫理とか気にするわけがないもんね・・・」
どうやらクローンは本物らしい。それをやっと全員が理解し、気味悪がりながらも納得した。モノクマのオーバーテクノロジーなら、そんなこともできるのだろう。常識など通用しないこのコロシアイの黒幕に、倫理観や一般常識を求めることの方が間違いだ。
「で・・・そ、それは、誰だったの?」
「ん?」
「クローンを造ってるってことは・・・その、元になる人がいるはずでしょ?」
「うんん・・・そうなんだけどお、クローンが誰になるかまでを調べてる時間はなかったしい、工場に人はいなかったからねえ」
「でも、フツーにかんがえたら
クローン製造工場という受け入れがたい現実を受け入れても、まだ裁判は終わらない。むしろ、そこから謎は新たに生まれてくる。その工場で造られているクローンとは、一体誰のクローンなのか。元となるオリジナルの素体があるはずだが、納見はついぞ発見できなかった。ここからは、推理していくしかない。
「
「確かに・・・100や200、300でもきかない数だったものね。拉致してくることとかも考えたら、1回のコロシアイだけでも相当な日数が必要なはずよ」
「それをウン百とかムリだろ!?よぼよぼになるわ!」
「だから
「昔そんな映画あったね。健康な自分から臓器だけもらう話・・・」
「なんなんだよそれ・・・?コロシアイなんかするためだけに、わざわざクローンなんか造って、黒幕は何年も生きてるってことかよ?バカじゃねえのか・・・!?」
「でもそれなら、荒川さんの考えとも矛盾しないよね」
「荒川氏の考え?」
「命は神秘的な現象で、人が科学的にそれを生み出そうとするのはまだ早い。神の領域に手を伸ばすようなものだって・・・そんなこと言ってたよ」
「ボクもききました!」
「つまり、荒川さんは研究の中でクローン技術を可能にすることはできたけど、自分の矜恃に反するからそれを封印してた。黒幕はそれを利用して、自分のクローンを造ってるってこと?」
「そんなとこですね」
工場で行われていたことと、荒川の研究。どれほどの繋がりがあるのかは分からないが、少なくともその根幹の部分に荒川が関わっていることは間違いないだろうことは想像できた。そして、黒幕の正体にもぐっと近付いたような気がしてくる。少なくとも、今はこれ以外に黒幕の手掛かりがないのも事実だが。
「ということは、黒幕はやっぱり荒川さんの研究を理解できるくらいの知識がある人・・・」
「もっと言ったら、荒川さんと近い人なんじゃないかって思えるね。例えば、共同研究チームの人とか」
「荒川氏が共同研究チームを作るタイプとは思えないけどねえ。そもそも異端な研究方法を使ってたからこそお、“超高校級の錬金術師”なんて皮肉めいた肩書きになったんだからさあ」
「でも全部ひとりでやるなんてムリだろ?荒川だって誰かに手伝ってもらったはずだろ。そいつが黒幕じゃねえのか!?」
「分かんないです。もしかしたら、エルリさんの
「どうだろう。そもそも、荒川さんはおしおきのときも、その後も、私たちに色んなヒントを遺していったでしょ。黒幕に心当たりがあったら、もっと直接的に言うと思うな」
「なんにしても、エルリさんの
「・・・それは、どうかな」
安堵したように言うスニフに、研前が待ったをかける。黒幕が荒川の研究結果を盗んで悪用し、モノクマランドで行われてきた幾多のコロシアイを見守ってきたという説が事実だとする。しかしそれでも、荒川自身がコロシアイに否定的であったという根拠にはならない。全てを疑ってかからないと、何を見落とすか分からない緊張感がある中で、軽率なスニフの発言はすぐさま拾い上げられた。
「おしおきのとき、荒川さんは私たちに言葉を遺したよね。コロシアエって」
「コロシアエ ココヲデロよね。ココヲデロっていうのはまだ分かるけど、コロシアエって言う方は・・・変よね」
「そうだな。結局、全然意味分からねえし」
「黒幕じゃないとしても、コロシアイに反対してる人が、最後の最後にこんな言葉遺すなんて、そっちの方がおかしいよ。そうでしょ?だって、この言葉があったから雷堂君は・・・私たちが“超高校級の絶望”の生き残りだって、思い込んで・・・」
「それ以上はいいわ、研前さん。言いたいことは分かったから」
「要するにい、誰でもいいから『失楽園』になって絶望の思想を復活させろお、て意味にとったわけだよねえ」
「それは、ワタルさんがかってにそう思っただけで・・・」
「ホントの意味は荒川にしか分からねえだろ。雷堂の考えが間違ってるなんて証拠もねえ」
「だけど・・・考えれば考えるほど、おかしいわよね。この言葉」
裁判の後、荒川は自分が処刑されることを理解した上で、生存者たちにメッセージを遺した。どういった意図があったかは分からないが、結果としてそれは雷堂の破滅的妄想を助長し、凶行に走らせ、新たなコロシアイを起こす一因ともなった。
モノモノウォッチに表示されたその言葉を頭の中で反芻する内に、正地は飲み下せない不快感を口にした。
「荒川さんは、命は神秘的現象で、尊いものだって言ってたんでしょ?それにだからこそ、コロシアイには特に否定的だった。なのに荒川さんは虚戈さんに協力してもらってコロシアイを起こして、裁判の時には自分を『失楽園』させるように頭を下げて、最後にはコロシアエなんてメッセージを遺した。だけど、その後に私たちにヒントとして診断書を見つけさせた・・・なんだか言ってることとやってることが一致してないし、時々で矛盾してると思うんだけど」
「ホントだ・・・。思い返してみたら、あいつなんなんだよ。結局あいつは、オレたちにコロシアイさせてえのかさせたくねえのか分からねえよ!黒幕の味方なのか敵なのかも分からねえ・・・なんで虚戈を殺したのかもまだ分からねえ!」
「・・・」
議論開始
「結局のところ、荒川さんは、私たちにどうしてほしかったのかしら・・・?」
「診断書を遺したのはおれたちの不安を煽るためでえ、言うなれば荒川氏から与えられた動機みたいなものとは言えないかい?処刑のときに遺した言葉もそうだしい・・・荒川氏はコロシアイをさせたかったんじゃあないかなあ?」
「そもそもあの言葉って信じていいものなのかな?荒川さんが実際に言ったわけじゃなくて、モノクマが勝手に作ったんだとしたら・・・?虚戈さんと話してるときの声もなんだか辛そうな印象だったし、やっぱり荒川さんはコロシアイをしてほしくなかったんだと思うな」
「うぷぷぷぷ♬いいね!いい感じにコロシアイの話題で盛り上がって、最終裁判らしくなってきましたね!」
「んああああ!!どいつもこいつもコロシアイコロシアイコロシアイってよ!!それしかねえのかよ!!もううんざりだ!!コロシアイ以外の話はねえのかよ!!」
「・・・!それに、サンセーです!」
丸い裁判場のあちこちを飛び交うコロシアイの言葉。果たして荒川の目的はコロシアイの推進か、抑制か。そのどちらともつかない議論に、嫌気が差した下越が頭を掻きむしる。しかし、その言葉によって議論に突破口が生まれた。すかさずそれに気付いたのは、スニフだった。
「テルジさん。それ、ボクも思います。ボクたちがまちがってたかも知れないです」
「んあ?いや、オレは別にそんなこと言ってはねえんだけど・・・」
「エルリさんの
全員がスニフに注目すると、モノヴィークルが勝手にスニフの立ち位置を中央に寄せる。まるで法廷の真ん中で真実を明らかにするため高説を繰り広げるように、スニフは衆人環視の中で語る。
「エルリさんは、
「そ、そういえばそうよね。もともとコロシアイってそういうものだし・・・須磨倉くんや雷堂くんがコロシアイをしたのも、突き詰めたら外の世界に出るためだし・・・」
「エルリさんは、ボクたちのだれかが
「・・・けど、『失楽園』になった後にどうなるのかなんて、分からないじゃない」
「そうだよな。ここ海のど真ん中みてえだし、島からほっぽり出して終わりじゃあ、結局死ぬことになるし」
「んもーー!!そんな雑なこと、ボクがするわけないでしょ!!『失楽園』になったからって神が人類を見放しましたか!?いいえ違います!!ちゃんと罰を与えた上で、その後も見守ってるでしょ!!アフターケアまで万全でしょ!!ボクもその辺はちゃんとしてます!!」
「外の世界に出てもモノクマに監視されるんじゃあ、こことそんな変わらない気がするけどねえ」
「そうじゃないよ!?」
コロシアイを推進するか、抑制するか。スニフの意見は、そのどちらでもなかった。荒川はコロシアイではなく、その先にあるモノクマランドからの脱出を目的としていた。そのためにはコロシアイをしなければならず、荒川は苦渋の決断の末に、コロシアイをすることを決めたと言う。それが真実がどうかは確かめるべくもないが、それなら命の尊さを重んじる考えとコロシアイを促すような行為の両立に、一応の説明はついた。
しかしそうなるとまた新たな疑問が浮かぶ。荒川は、外の世界の正しい情報を得ていたのだろうか。真相ルーレットで明かされた外の世界の情報は、あまりにも信じがたいものばかりだった。外の世界に出ることが必ずしも正しいことか、疑問が生まれた者もいる。そもそも、このモノクマランドは絶海の孤島だ。どうやって元いた場所に戻すというのだろう。
「今まで聞かれたこともなかったから言わなかったけど、ちゃんと『失楽園』になった人はボクが責任を持って、元いた場所に送り返してあげますよ。ここの場所がバレちゃうとまずいので、一旦眠らせてから、送ってあげます。目覚めたら一発で日常に戻ったと実感できる場所にね。住み慣れた我が家とか、通い慣れたお店とか」
「それを、荒川さんにも言ったの?」
「荒川さんには違う聞かれ方をしたから、違う答えをしましたよ!もちろん、ウソも吐いてないけどね!」
「相変わらず、いまいち何言ってっか分からねえ・・・」
「元の場所に戻すって言うけどお、元の日常が待ってる保証もないよねえ。おれたちに最初に寄越した動機じゃあ、おれたちの大切な人たちがとんでもない目に遭ってる映像だったじゃあないかあ」
「うぷ♬それは出てからのお楽しみだよ!物事は常に諸行無常、移りゆくものなのです。昨日生きていた人が明日も生きている保証はどこにもないのです」
「シンプルにムカつく」
当てつけのように自分の創作テーマを引き合いに出され、納見が分かりやすく苛立った。
「外の世界がどうなってるか?ここで起きたことは現実か?『失楽園』した後はどうなるか?今のオマエラが気にするべきはそんなことじゃないでしょ?どっちにしろ知る方法はないんだから。もしかしたらオマエラが帰るべき日常は跡形もなく破壊され尽くしてるかも知れないし、なにもかも元通りになってるかも知れないし、今までのこと全部が波に揺られるクラゲの夢で、現実では1日にも満たない時間しか経ってないかも知れない!未来はまだ不確定で無限の可能性を孕むんだよ!」
「やっぱり何言ってっか分からねえ・・・」
「モノクマの言うことにまともに取り合っちゃダメよ下越くん。どうせ混乱させることしか言わないんだから」
「今回はやけに喋るよね。最後の裁判だからかも知れないけど、やっぱり鬱陶しいよ」
「
「あー、スニフクンのが一番刺さる。血吐きそう」
「吐け」
英語でなければ全員がスニフに対する見方が変わるような暴言を吐かれ、モノクマが悶絶する。追い討ちをかけるような下越の辛辣な言葉に、モノクマは本当に気分が悪そうになって玉座にもたれかかる。誰ひとりそれを心配する態度は見せない。
「ちょっと話がズレて行きすぎたかな。『失楽園』の後のことも気にはなるけど・・・話を本題に戻そうよ」
「黒幕の正体の話だねえ」
「一旦整理しましょう。今まで話した、黒幕の条件。忘れてるものもありそうだから」
「
いつの間にか、議論のテーマは黒幕の正体から『失楽園』の後に待ち受けているものは何か、に変わっていた。気にはなるが、それを明らかにしたところで黒幕の正体には繋がらないだろうし、知っても自分たちにはどうすることもできない。意味のある議論をするために、スニフたちはこれまでの裁判のポイントを振り返る。
「まず黒幕は、オレたち全員の『弱み』を知れるくらい近しいヤツだ。鉄とか雷堂みてえに、普通だったら話せねえようなことも分かるってんだから、相当近くだ」
「しかもおれたちそれぞれの“才能”についてもなかなか詳しいみたいだしねえ。鉄氏や極氏の“才能”に必要なものも揃えてるあたりい、かなり深いところまで理解しているみたいだねえ」
「それから、ボクたちの
「記憶を奪うっていうのも、薬なのか手術なのか分からないけど・・・どっちにしても、医学とか生物学とか、そっちの方面に詳しい人ってことだよね」
「荒川さんの研究を盗めるくらいだから、彼女くらい専門的な知識を持ってて、その上医療技術も十分にある・・・」
黒幕の条件を挙げていくほど、正体が分かるようで分からなくなってくる。具体的な条件があるはずなのにもかかわらず、それを同時に満たす人物像が浮かばない。浮かばないというより、5人全員に心当たりがない。世界中を探せば該当する人物はひとりくらいいるだろうが、5人の記憶の中にそんな人物はいない。
しかし、モノクマが絶対に当てられない人物を答えに置くとは思えない。学級裁判の大前提は、シロとクロの公平性だ。情報の格差はその最たるものだ。モノクマは必要とあらば、シロやクロが有利になるような介入もしていた。それは、裁判の公平性を保つためだ。この期に及んで理不尽とも呼べる不公平を強いてくるとも思えない。それは、今までのモノクマ自身の行いを否定することにもなるからだ。
「誰か知ってる人のはずなのに・・・全然分からない。思い当たる節がない・・・」
「他に黒幕のヒントはねえのかよ?なんつうか、もっと具体的っつうか、分かりやすい手掛かりとかさ」
「・・・コロシアイってそもそも、江ノ島盾子って人が始めたことっていうのは・・・みんな知ってたっけ?“超高校級の絶望”とかの」
「真相ルーレットでそんなこと言ってたようなあ。記憶が曖昧だなあ」
「実はね。私、捜査の時にカジノで、その江ノ島盾子って人のファイルを見つけたの。そこに、“超高校級の絶望”のこととか、コロシアイのこととかについて書かれてたんだ」
「そんなのあったですか!?」
「言うタイミング逃しちゃって・・・隠してたわけじゃないんだけど」
「そんなこと言ったらおれもだよお。裁判の中でちょっとずつ共有してくって話になったからあ、そこは心配しなくてもいいよお」
「うん、ありがとう」
「んなこたどうでもいいだろ!で、その江ノ島ってヤツとコロシアイがなんだよ。このコロシアイも、その江ノ島ってのが黒幕だって言いてえのか?」
「ううん。江ノ島盾子はもう死んだって、はっきり書かれてる。クローン技術があるって言っても、江ノ島盾子がコロシアイで命を落としたこと自体がかなり昔のことだし、その線は考えなくてもいいと思う」
「じゃあなんですか?」
「このコロシアイってシステム自体が、“超高校級の絶望”を象徴するものってことだよ。モノクマもそうだし」
「つ、つまり・・・このコロシアイの黒幕は、“超高校級の絶望”に関係してるってこと?」
「関係してるっていうよりはあ、そのものって考えた方がいいかもねえ。雷堂氏もそんなこと言ってたけどさあ」
「あれは・・・!ワタルさんの
「・・・なんで雷堂君がそんな
研前の口から語られた、江ノ島盾子とコロシアイ、そして“超高校級の絶望”の関係性。コロシアイというシステムそのものが、江ノ島盾子及び“超高校級の絶望”を連想させる。遥か昔の出来事とはいえ、江ノ島盾子に関するファイルを裁判のヒントとして与えている以上、無関係ではないはずだ。そして、雷堂もその言葉を口にしていた。終ぞその真意を知ることはできなかったが、それを検証すれば何か糸口が掴めるかも知れない。そんな淡い期待を込めて、研前は敢えてその名前を口にした。
ロジカルストラクション
「まず、雷堂君が私たちを“超高校級の絶望”だって思ったきっかけは──」
A.【第3の動機「『弱み』の告白」】
B.【第4の動機「モノクマランドの写真」】
C.【第5の動機「真相ルーレット」】
▶B.【第4の動機「モノクマランドの写真」】
「モノクマランドでの私たちの写真を見て、極さんの足にタトゥーが入ってることに気付いた、って言ってたわね」
「写真の中にあるものが、今の極にはなかった。だから、写真の極と今の極が別人だって思ったのがきっかけか」
「うん。次に、雷堂君が犯行を決意した動機が──」
A.【コロシアイ記録館】
B.【荒川の診断書】
C.【未来機関に関する真相】
D.【江ノ島盾子の詳細が書かれたファイル】
▶C.【未来機関に関する真相】
「
「それがおれたちのことだと思ってたからこそお、極氏を学級裁判のル〜ルを利用しようとしたんだねえ」
「雷堂君は、私たちが直接“超高校級の絶望”だって言える根拠を持ってなかった。だけど、状況証拠からそう推測したって言ってたね。その状況証拠って言うのが──」
A.【モノクマの存在】
B.【荒川の診断書】
C.【ミュージアムエリアの江ノ島盾子像】
D.【第1の動機「大切な人」】
E.【“才能”研究室】
F.【ファクトリーエリア】
G.【コロシアイ・学級裁判のシステム】
H.【第3の動機「『弱み』の告白】
▶A.【モノクマの存在】
▶C.【ミュージアムエリアの江ノ島盾子像】
▶G.【コロシアイ・学級裁判のシステム】
「
「私たちが強いられてきたコロシアイと学級裁判のシステムも、その江ノ島盾子って人が希望ヶ峰学園でやったことそのまま・・・」
「モノクマだって、その江ノ島ってヤツがコロシアイのときに隠れ蓑にしてたらしいじゃんか」
「そんでもってえ、“超高校級の絶望”のリ〜ダ〜が江ノ島盾子だからあ・・・まあ、繋がらないって方がおかしいよねえ。極氏の写真で疑心暗鬼になってたんだしい、おれたちが“超高校級の絶望”だと思っても仕方が無いっていうかあ」
「・・・だからこそ、雷堂君は思ったんだ。私たちはみんな“超高校級の絶望”の残党で、このモノクマランドをアジトにして潜伏してて、いつかまた世界に“絶望”を広めようとしてる、って。モノクマランドにあるもののどれも、江ノ島盾子やモノクマを崇拝してるような感じがするもの」
COMPLETE!
「だ、だけど・・・ボクたち、“
「そう思いたいけどお・・・いまいち“超高校級の絶望”のことが芯掴んで理解できてないからあ、そう言い切れる根拠がないのも事実だよお」
雷堂が口にした、全員が“超高校級の絶望”であるという疑惑。肯定する理由がないが、否定する根拠もない。否定したい気持ちは山々だが、肯定に値しうる状況証拠がある。どっちつかずの曖昧な中で、はっきりした記憶がない自分たちの過去に漠然とした不安が募る。
「“超高校級の絶望”って・・・」
重い空気を払拭するため、正地が口を開いた。
「江ノ島盾子が発端になった、テロ組織でしょ?世界を壊すとかっていう・・・だから、私たちの中でそういう気持ちや考えがないんだったら、“超高校級の絶望”じゃないって根拠になるんじゃないかしら」
「世界壊そうなんて思わねえよ!っていうかなんだよ世界を壊すって!悪の大魔王じゃねえんだぞ!?」
「そうですよ!それより、ボクたちみんな
「?」
正地と下越に同意しているが、スニフはどこか自信なさげだった。その違和感に、研前がいち早く気付く。スニフの様子がおかしい。振り返って見て先程からスニフの発言は、自分たちが“超高校級の絶望”ではないと、そう結論付けさせたいかのようにも感じた。
「ねえ、スニフ君」
「はい。なんですか」
「スニフ君は・・・何か知ってる?“超高校級の絶望”とか、黒幕とかについて」
「・・・?な、なんでですか?」
「だって、さっきから様子がヘンなんだもん。私たちは“超高校級の絶望”じゃないって結論にいかせたがってるような気がするよ。今も、私たちみんなが監禁してコロシアイさせられてるって、確認するような言い方だったし」
言葉遣いは、これまで通り子供に向けた優しい口調だった。だがその声色と目つきは、今までスニフに向けたどんなものよりも、鋭く尖っていた。何かを隠している相手への、追及の色を帯びていた。
「ん?なんだなんだ?スニフ、なんか知ってんのか?」
「えっ、ボ、ボクは・・・そんな・・・!」
「知ってることがあるなら話した方がいいよおスニフ氏。間違ってたって無意味なことはないからねえ」
「そうじゃ・・・なくて・・・!」
「大丈夫よスニフくん。私たち、どんな話でも受け止める準備はできてるから」
「いえ、あの・・・!」
「スニフ君」
その声は、畳みかけられる温かい言葉の中で唯一、冷たい響きを持っていた。
「話しなさい」
黄色く光るその目に睨まれたとき、スニフはもはや話すより他にない、と観念した。同時に、それまでの自分の行いを後悔した。こんなことになるのなら──。
「
「うん?」
「分かりました。ごめんなさい・・・ボク、ずっと言わなかったことあります」
張り詰めたスニフの声。名状しがたい緊張感に晒された4人には、スニフが生唾を飲む音さえも聞こえた。そして少しだけ間を置いて、スニフは口を開いた。
「ボク、
「うぷぷ・・・♬」
「マ、マスターマインドって・・・黒幕の、こと?分かったって・・・!」
「マジかよスニフ!?っつうか、いつ分かったんだよ!?」
「・・・ボクたちで、
「どうして今まで言わなかったんだい?」
「
「いいよ。言わなかったことは。これから話すんだから。落ち着いて、ゆっくり話してくれればいいよ」
先ほどと打って変わり、研前は優しく声をかける。だが、スニフに話させることは変わらない。黒幕の正体に気付いたとは言うものの、モノクマはまだ笑みを浮かべている。それが余裕の笑顔なのか、虚栄の笑顔なのか、あるいは誤った方向へ進む裁判を嘲笑しているのか。それも分からないまま、スニフは語り始める。
「ボク、
「共通点?」
「
A.【心中)
B.【見せしめ)
C.【自殺)
▶B.【見せしめ)
「
5人の頭の中に、あの光景が蘇った。モノクマランドに来たその日に、自分たちの仲間のひとりが残酷に殺された。見せしめとは言うが、その死が必要だったとは思えない。ただの圧倒的な暴力の前に、儚く命を落とした男がいた。
「
「言われてみればそうだけど・・・でも、あの処刑のせいで私たちがモノクマに逆らえなくなったのは事実だし・・・意味がなかったなんて言ったら──」
「
「意味・・・ねえ」
目の前で行われた凄惨な処刑は、思い出すだけでまた体の内側が熱くなるような不快感を催す。しかしスニフは、その処刑のときのことを思い出してほしいと言う。その処刑によって何があり、何が変わったか。
「あの
議論開始
「
「変わったことっつったって・・・人が減ったことじゃねえのか?」
「その前はおれたち全員でモノクマランドの捜査をしてたからあ・・・モノクマランドかい?」
「黒幕の話なんだから、もっと黒幕の正体に近いことでしょ?・・・モノクマとか?」
「
「
「うひゃっ!いきなりボクをご指名!?指名料は1000円だよ!チェンジは2回まで!」
「わけ分かんねえこと言ってはぐらかそうとすんじゃねえよ!」
「うぷぷぷぷ♬」
「スニフ君、処刑の前後で、モノクマの何が変わったの?」
「・・・
「ん・・・そう言えばそうだねえ。アナウンスはともかくう、全員集めておいて自分は出てこなかったなあ」
「その後の探索中も、モノクマがちょっかいかけてきたり、邪魔してきたりなんてしてこなかったわ。お昼の捜査のときはみんな、モノクマと話してたみたいだけど・・・」
「いまいち話も通じてなかったけどな」
「そうなんです。それが、
溜息交じりに呟いた下越の言葉を、スニフが拾い上げた。まさか自分の発言に突っ込まれると思っていなかった下越は、少し肩を跳ねさせてスニフの方を見る。
「あれは、あそこにいるモノクマとちがうんです。あれは・・・
「ビデオ?事前に録画してあったものってこと?」
「確かにちょっと無理問答めいたところはあったけどお、おれたちと会話が成り立ってるところもあったと思うけどお?」
「
「で、でも、あそこのモノクマは明らかに私たちの会話に反応してるし、何より映像じゃないわ。歴とした・・・モノよ」
「いや正地さん、モノって。あ、モノクマのモノってこと?それならOKです!」
「
「ああっ・・・!そうだ・・・!あの処刑の後、いきなり出てきたんだった・・・!」
スニフに向けられていた視線が、徐々にモノクマに向けられるようになる。相変わらず笑みを浮かべているモノクマだったが、ついさっきまでの余裕とはまた違う、何かを待ち焦がれるような雰囲気を醸し出していた。
「い、いや・・・!結局出て来るんなら、なんでオレたちのリアクション予測して映像撮るなんてしちめんどくせえことすんだよ・・・?」
「モノクマは出て
「???」
「はじめ、モノクマの
「うぷ♬ぷっぷっ・・・うっくくく♬」
「・・・ね、ねえ。待ってよスニフくん。それじゃああなたは・・・!このコロシアイの黒幕は・・・!」
口から飛び出しそうなほど強く、次の瞬間に止まるのではないかと心配になるほど速く、心臓が脈打つ。モノクマの押し殺した笑い声が耳にねっとりと絡みつく。論理的なスニフの推理から導かれる結論に、脳が勝手に手を伸ばす。その事実が到底受け入れがたいものであっても。否定の材料がないうちは、暫定的であってもそれを受け止めなくてはならない。
「あのとき、モノクマの
人物指名
スニフ・L・マクドナルド
研前こなた
須磨倉陽人
納見康市
相模いよ
皆桐亜駆斗
正地聖羅
野干玉蓪
星砂這渡
雷堂航
鉄祭九郎
荒川絵留莉
下越輝司
城之内大輔
極麗華
虚戈舞夢
茅ヶ崎真波
▶皆桐亜駆斗
「あのとき
5人全員の頭の中に、同じ人物が浮かんでいた。このモノクマランドで行われたコロシアイにおける、最初の犠牲者。誰かに殺されることも、誰かを殺すこともなかった。それよりも先に、モノクマの常軌を逸した処刑装置の餌食となった哀れなあの男。だがその男がいま、スニフによって全ての黒幕であると追及されている。
モノヴィークルに固定されて裁判場に居並ぶその遺影に、全員の視線が注がれる。遺影の中の皆桐は応えず、ただ爽やかな笑顔を返す。
「い、いや・・・!何言ってんだよスニフ・・・!?皆桐は死んだんだぞ!?オレたちの目の前で、モノクマに殺されただろ!死んだヤツがどうやってモノクマを操作するんだよ!?」
「そのこたえを・・・ボクたちはもうしってます」
証拠提出
A.【絶海の孤島)
B.【記憶喪失)
C.【モノクマランド)
D.【クローン技術)
▶D.【クローン技術)
「
「あっ・・・!」
「だからこそ、アクトさんはあのとき、
「うぷぷ♬うぷぷぷぷ♬うっぷぷぷぷぷぷぷ!!」
スニフの推理を全て聴き、モノクマは堪えきれないとばかりに一層笑い声を大きくする。それが何を意味するのか分からないが、最後にスニフが全てをモノクマに突きつけた。
「ボクたちは、ずっと見られてたんです。いちばんさいしょに死んだとおもってた人に、ずっと。ボクたちをモノクマランドにつれてきて、
こてん、とモノクマの両手が落ちた。ついさっきまでそこにあった生命が、一瞬にして消滅したように。17のモノヴィークルは勝手に動き始める。円形にぐるぐると回り始めた。全員思わず手すりに掴まった。どこからともなく音が響く。緊張を煽り、恐怖をなぞり、混乱を盛り立てる不協和音だ。目の奥に刺さるほど照明が強烈に明滅する。
その裁判場めがけて、影が近付いてくる。目で追えないほど速く、暗闇の中を迷いなく一直線に駆け抜ける。そして回転する裁判場の目の前で、手に持った棒を地面に突き立てた。弾丸のような走力とロケットのような跳躍力で、その影はスニフたちの頭上を、身体を捻りながら通過した。
まるで確信があるかのように。あるいは計算か。その影の真下には、皆桐の遺影が立てられたモノヴィークルがあった。その顔面を蹴り飛ばし、吹っ飛んだ遺影が粉々に砕けると同時に、その影はモノヴィークルに着地した。激しい衝撃とともに回転は止まる。モノクマの玉座から白い煙が噴き出し、その姿を覆い隠す。その背を照らす照明で、シルエットが煙の中に浮かび上がった。
「皆さん!!」
その声は、どこまでも爽快で、どこまでも溌剌として、そしてどこまでもおぞましく聞こえた。煙が晴れ、そこには──。
「ご無沙汰してるっす!!皆桐亜駆斗!!ただいま参上っす!!」
信じたくなかった
「うぷ!!うぷぷぷぷ!!うぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷぷ!!!さあ!!準備はいいっすか!!」
皆桐は声高に叫ぶ。
「このコロシアイ最後の学級裁判!!ここからが本番っすよ!!うぷぷぷぷぷ!!」
コロシアイ・エンターテインメント
生き残り:5人
+黒幕1人
ロンカレもここまで来たかって感じです。
ま、ここからが本番ですがね。
文字書いたり絵描いたり、創作は大変です。ホント大変です