Side:納見康市
フェスティバルエリアまでやってきた、ここに来ると未だに虚戈氏の凄惨な死に様と荒川氏の必死の声を思い出してしまう。殺人者が被害者に協力を仰ぐなんて聞いたこともないけれど、それをしてしまうほど、それを受け入れてしまうほど、荒川氏が見つけ出した真実っていうものは、人を変えてしまうらしい。
「はてさてえ、どんなものがあるかねえ」
サ〜カステントの周りを走る山車やエリア中に点在する屋台や神輿の数々。これらを全て調べるのは骨が折れそうだ。だからまずはサ〜カステントを調べることにする。未だにあの光景は瞼に焼き付いて離れない。
「最後の最後までだったねえ・・・いやあ、今もまだ分からないことだらけだあ。虚戈氏も荒川氏もお・・・一体何を知ったって言うんだい」
被害者に殺人に協力するように頼み込むなんてことも、それを受け入れて斬首なんて方法を選ぶことも、学級裁判の仕組みを理解したうえで自分を勝利させてほしいと願うのも、どれもこれも論理的じゃない。しかも自分が死んだ後のことまで考えて手掛かりを遺しておくなんてことも。
「おんやあ?納見クンってばまた考え事ですか?うぷぷ♬いまの生き残りメンバ〜じゃ、納見クンがしっかりしないともしかしたらダメかもね」
「そんなことないよお。スニフ氏だっているしい、下越氏も正地氏もやるときはやるんだよお。それに研前氏の幸運だって味方だからねえ」
「その幸運が一番の問題なんだけどなあ」
「そんでえ、おれに何か用かい?」
モノクマが舞台裏のカ〜テンからひょっこり顔を出した。生き残ってる5人の中では確かにおれが一番裁判ではリ〜ドしなくちゃいけないのかも知れない。そりゃあおれが一番性格悪いからでもある。
スニフ氏は頭がいいけど悪意に鈍感で人が良すぎるから、モノクマの正体を暴く手掛かりを手に入れても結論を認めたがらない可能性がある。黒幕の正体にもよるけども。研前氏と正地氏もそのきらいがあるけど、研前氏は雷堂氏を目の前で亡くしたばかりで精神的に不安定だし、正地氏は真実が明らかになることに臆病なところがある。下越氏の直感は助けになるけど、考え事は得意じゃない性分だから、やっぱりおれみたいに人を疑ったり最悪を想定できる様な人間はいないようだ。
「用っていうほどのことでもないんだけどね。一応ここに来てくれたからヒントをあげようかと思って」
「ヒントお?そういやそんなこと言ってたねえ」
「ここに来たってことは、やっぱり気になってるんでしょ?荒川サンと虚戈サンが何を話したのか!」
「まあ、明らかに最終裁判で話さなくちゃあいけないことではあるよねえ」
「だからそのヒントをあげるってんだよ!喜べもっと!」
「喜んでる場合じゃあないんだよう」
もったいつけたようにモノクマは、カ〜テンの奥から一枚の紙を取り出してきた。もっと大仰なものかと思いきや、コピ〜用紙一枚に収まってしまう程度のものじゃあないか。見ると、地図のようだった。
「こりゃあ・・・ファクトリ〜エリアかい?」
「そうそう。本当だったら立ち入り禁止に設定してあるエリアだけど、最終裁判に向けてその辺の制限も取っ払ってるから!前にどっかの星砂クンが入ってきそうになって焦ったよホントに」
「星砂氏がここに行ったのかい?」
「入る直前になんとか止めたけどね、だってまだ早かったんだもん!あんな段階で明らかにしていいことじゃないんだもん!」
「ここに行けばあ・・・荒川氏が知った『何か』の正体が分かるのかい?」
「さあねん」
くっくっと笑って、モノクマは舞台裏の暗闇に後退りして消えた。追いかけてみたけど、すぐにいなくなってた。本当に神出鬼没だ。それはさておき、こんな急展開になるとは思ってもみなかった。自分でも驚いた。おれの心臓がこんなに早鐘を打つことなんてなかった。冷や汗を流して手が震えるなんてのは久し振りだよ。
これを知れば荒川氏のように何が何でもここを出たくなるのかも知れない。虚戈氏のように死ぬことさえ簡単に受け入れてしまえるようになるのかも知れない。コロシアイを望むような考えに染まってしまうのかも知れない。
「こりゃあ大博打だねえ・・・」
知れば後戻りはできなくなる。知らなければモノクマの仕掛けた裁判に負けてしまうかも知れない。手に入れた情報が有益かどうかは分からない。ベットはおれたち全員の命。こんなしびれるギャンブルはおれじゃあなくて、たまちゃん氏にやらせてあげたかった。
Side:下越輝司
考えてみりゃ、このエリアにはあんまり来たことがなかった。物はたくさんあるくせにどれもこれも持ち出し禁止とあっちゃあ、来る理由がねえからな。薄暗い上にバカみたいに広くて、同じような景色が延々と続くから、方向感覚も時間感覚も狂う。モノモノウォッチがなけりゃ、あっという間に倉庫エリア内だけで遭難だ。
そもそもこのエリアに何か手掛かりがあっても、持ち出し禁止だから裁判場まで持って行けねえじゃねえか。そりゃさっきモノクマが言ってた公平な裁判ってのに反することじゃねえのか?と、そこまで考えて思い出した。そうだ。このめちゃくちゃ広いエリアの中で、一ヵ所だけ、ひとつ何かを持ち出せる場所があるじゃねえか。ってことは、何かが隠されてるとしたらそこか。
「冴えてるな」
自分で感心するくらい頭のいい推理ができたから、自然と口から言葉が飛び出した。それは独り言になって薄暗い倉庫の床に消えてった。
倉庫エリアはモノヴィークルで移動できるから、目的地をモノモノウォッチで調べてそこの場所をヴィークルに入力するだけで勝手に連れて行ってくれる。ここから無事に出られたらこの機械だけでも持って帰ろうかな。ヘッドライトも周りの明るさに反応して勝手に点く。そのライトに照らされて、その扉は道の真ん中に急に現れた。特に鍵もかかってなく、押せば簡単に開く。中は、黒光りするどれも似たような形をした銃とか、光を反射して白い影を浮かべる刀とか、あとは名前もよく分からねえ武器がごろごろしてる。奥にはあんぐり口を開けた宝箱みてえな箱がある。たぶん、星砂はここに入ってたモノモノウォッチを持って行ったんだろう。オレは自分のモノモノウォッチの懐中電灯でその辺を照らす。何か置いてあればすぐ見つかると思ったが、武器以外には何も見つからねえ。
「ちっ、やっぱ冴えてねえぞ」
ずらっと並んだ武器はどれもこれも、人を殺すために造られたもんだ。確か、鉄が作ったもんだって誰かが言ってたな。あんな気の小せえヤツがこんな大層なもんを作れるとは、“才能”ってのは分からねえもんだな。それでこっそり商売までやってたってんだからとんでもねえ。それにしても、鉄が作った武器がなんでこんなところにあるんだ?あいつが死んじまってもモノクマが生きてるってことは黒幕なわけがねえし、こっそり商売してたもんをここまでそろえるなんて、普通できるわけねえよな。
「ん?」
あいつが“超高校級のジュエリーデザイナー”だってのは、あいつとあいつの姉ちゃんがウソ吐いてたからだろ?あの希望ヶ峰学園ですらそれに騙されてたってのに、なんで黒幕はそれを見抜いてたんだ?黒幕は、こんだけの武器をそろえられて、あいつが“超高校級の死の商人”だってことを知ってたってことだよな。どういうこった?
「んん?」
それだけじゃねえ。あいつがオレたちによこした『弱み』もそうだ。オレとか星砂のはともかく、雷堂とか虚戈とか極とか、モノクマランドに来る前のことを『弱み』にしてるっておかしくねえか?ってことは、黒幕はオレたちがここに来る前からオレたちのことを知ってて、しかもオレたちからそんな『弱み』を聞き出せるくらい近くにいたヤツってことになるよな?
「んんん?」
でも、オレたちは全員、希望ヶ峰学園に入学しようとして、気付いたらここにいたんだ。その前の時点では誰も知り合いだったりしてねえ。名前くらい聞いたことあるヤツはいたけど、それでも『弱み』まで知れる仲だったわけじゃねえ。だったら黒幕は、どうやってそれを聞き出した?いつの間に聞き出したんだ?そんなことができんのは・・・。
「おおぅ・・・くらくらしてきた」
一気にいろんなこと考えすぎて頭が熱くなってきた。一旦頭冷やして落ち着かねえと、脳みそが茹だっちまう。あとはここともう一ヵ所だけ調べりゃいいんだから、頭冷やすついでにもう移動するか。このエリアにいるとなんか狭い部屋の中に閉じ込められてるような気がしてきて息苦しい。武器庫にも何も手掛かりらしいもんはなさそうだしな。
オレはモノヴィークルで次のエリアを目的地に設定して、自動運転に任せた。黒幕の正体に繋がるかは分からねえけど、さっき考えたことも覚えておいて、後でスニフたちに話してみよう。
Side:研前こなた
モノヴィークルで島を一周したけど、やっぱりパシフィックエリアに新しい発見はなかった。モノクマランドが絶海の孤島にあるっていうことだけは、改めてはっきりしたけど。モノモノウォッチの地図を確認しながら、私は次にギャンブルエリアにやってきた私は彼の巨大カジノをモノクマに出禁にされたはずだけど、捜査のためだったら入ってもいいのかな。
「クマーーーッ!!」
「きゃっ」
「まーた来やがったなコノヤロ!研前サンは出禁だって言ったはずだぞ!」
「だからあれはわざとじゃないんだってば。それに今回は遊ぶためじゃないよ。捜査のために来たんだからいいでしょ」
「わざとじゃないのが余計に質悪いんだっての!出禁ったら出禁なの!でも、捜査のためと言われちゃったらなあ。ボクは弱いんだよなあ」
「どっちなの」
「じゃあ分かったよ。今からカジノ内のゲームを全部Stopさせるのと、バンクのメダル全部抜く!するから、そしたら捜査していいよ。このエリアにいれば呼んであげるから」
「・・・」
捜査のためと言ったらモノクマは簡単に折れた。だけど、機械を全部止めてメダルも全部抜くなんて大仕事をしてまで捜査をさせるってことは、カジノの中に何か大事なものが隠されてるってことなのかな?
取りあえず15分くらいかかるって言われたから、その間は他の施設を調べることにした。競馬用のトラックとか、貸しマージャン卓とか、ビルのペイントがしてある高い台の間に二本の鉄骨が渡してあるよく分からない装置とかがあった。どれもこれも、この後の裁判に関係ありそうなものはない。手持ち無沙汰になってマージャン卓をいじってたら、ひとそろいになって出てきた。東西南北は読めるけど、あとの緑色の文字は読めない。
「お待たせ研前サン!もういいよ!」
モノクマに呼ばれて、私はカジノに向かった。さっきのマージャン卓を見てモノクマがひっくり返る声が聞こえた。聞こえないふりをして私はカジノに入った。
キラキラした装飾も今は大人しくて、機械が全部止まってるせいで豪華なのにどこか寂しい雰囲気が漂っている。スロットマシーンもルーレットも何もかも停止してて、まるで廃墟だ。
「ねえモノクマ」
「はい!なんでしょう!」
「モノクマは私たちにヒントをくれるって言ったよね?そのヒントは、どういう形でくれるの?」
「ああ。そのことね。別に色んな形があるんじゃない?物だったり紙だったり記憶だったり・・・ボクがしたのは、お前らが真相に辿り着くためのヒントを
「・・・どういうこと?」
「うぷぷぷぷぷ♬自分で考えナー!」
それだけ言うと、モノクマはものすごい勢いで飛び上がってどこかに消えてしまった。毎回毎回ヘンテコな現れ方と消え方をするんだな。なんて思う私はのんきなんだろうか。結局、どんな形で手に入るかは教えてくれなかったし。
ちょっといらっとしたから、本当に機械が止まってるか確かめるために、スロットマシーンのレバーを引いてみた。何も起こらない。ルーレットのボタンを押してみた。やっぱり何も起こらない。本当に止まってるみたいだ。ルーレットに関しては、みんなの顔が描かれていたマスは埋め固められてて、生き残ってる5人分しか残ってない。虚戈さんは気に入ってたみたいだけど、完全に停止してると一層不気味に感じた。もっと奥へ行ってみる。
「あれ?」
モノクマネーとメダルを交換するカウンターの奥に、小さい個室がある。畳が敷かれて安っぽいシンクが見える粗末な部屋だ。休憩室かな。カウンター後ろのスタッフ用ドアの鍵は、軽く引っ張ったら偶然外れたみたいで、難なく開いた。泥棒みたいなことしてるのにちょっとだけ後ろめたさを感じながら、小部屋を覗く。これまた簡素なちゃぶ台が置いてあって、そこに何か乗ってる。
「ん?なんだろうこれ」
合成革のハードファイルで、背表紙にタイトルが書いてある。『“超高校級の絶望”江ノ島盾子』。なんだか文字を見ただけで、頭痛が重くなったみたい。“超高校級の絶望”・・・モノクマのルーレットでスニフ君が引き当ててしまった真相。世界を壊滅させたテロ組織で、江ノ島って人はそのリーダーだったはずだ。そして、雷堂君が極さんを殺した動機にもなった。ひとりで見るのは怖いけど、意を決して開いた。
──“超高校級の絶望”江ノ島盾子──
“超高校級の絶望”とは、江ノ島盾子そのものを指す言葉である。世界中で破壊活動を行ったテロ集団はあくまで彼女の絶望に魅了された信奉者に過ぎず、あらゆる絶望の根幹には彼女の存在があった。
そもそも彼女はなぜ絶望に魅入られたのであろうか。彼女のように容姿端麗、英華発外、金声玉振、才色兼備、秀外恵中明眸皓歯芝蘭玉樹仙姿玉質十全十美仙才鬼才羞月閉花絶世独立全知全能唯一無二の人物が、いったいなぜ絶望に身をやつしたのだろうか。それは、その優れた“才能”があったからこそであった。卓越した頭脳を持った江ノ島盾子にとって、この世界は簡単すぎた。あらゆる物事が計算通りになる。あらゆる物事が計算通りに進む。あらゆる物事が計算通りに終わる。彼女は退屈した。しかしそんな彼女の頭脳をもってしても、絶望だけは予測することができなかった。予測できない行動。予測できない感情。予測できない出来事。予測できない結末。絶望が引き起こす未知を、彼女は愛した。彼女にとって絶望は予測不可能な恐怖そのものであり、全てを見通すことができた彼女にとっては救いでもあった。
ちんぷんかんぷんだった。分かるのは、この江ノ島盾子っていう人が、人並み外れた考えをしてる人っていうことだけだった。予測できない絶望が彼女にとっての救い・・・何を言ってるのか全然分からない。
その後のページは、江ノ島盾子って人の写真がアルバムみたいにまとめられてた。サイケデリックなピンク色の髪が生き物のようにうねっている。ざっくりと開いた胸元のシャツから見えるバストはすごく魅力的だ。ミニスカートからすらりと延びた脚は女性らしいきれいさと威圧感を兼ね備えていて、足下に立つモノクマと同じポーズでカメラに向かっていた。はっきり言って、さっきの難しい言葉の羅列が決して言いすぎじゃないと感じるくらいには美人だ。その水色の瞳を見ていると、なんだか吸い込まれそうになって思わず逸らした。このファイルはきっとモノクマからのヒントだ。私はファイルを抱えて、カジノを後にした。
Side:スニフ・L・マクドナルド
考えてみたら、今までの
なんでか分からないけど、今になってそんなことをたくさん考えはじめる。考えれば考えるほどこわくなってくる。モノクマはボクたちに何をさせたいんだろう。どうしてだれも
「・・・
なんだかふるえてきた。今まではこんなことなかったのに。今さらになって
「・・・」
気付いたときには、かなりながいあいだ、ボクはお店の
Side:正地聖羅
次のエリアに向かう道すがら、アクティブエリアに立ち寄った。モノクマランドに来た最初の日、私が目を覚ましたのは、ここのプールサイドだった。消毒用塩素の匂いが混じった空気を鼻から吸い込むと、あのときのことを思い出す。グラウンドの方から走ってきた皆桐くんとぶつかって、びっくりして腰を抜かしたっけ。その後は皆桐くんと一緒にこのスポーツセンターを探索していたとき、地下のジムでたまちゃんと星砂くんに出会った。たまちゃんは自分の名前をバラされて怒ってたわね。診療所では怪我した皆桐くんと虚戈さんを介抱したし、ジムで鉄くんのことを陰から見つめていたこともあった。雷堂くんと須磨倉くんと納見くんと鉄くんでキャッチボールをしたし、女子のみんなで温泉に入ったこともあった。城之内くんたちが覗きをしていたことが発覚して、極さんに折檻されてたっけ。
裁判に向けての捜査をしているはずなのに、探索すればするほどみんなとの思い出がよみがえってくる。まるでそこにみんながいるみたいに、鮮明な記憶に苛まれる。どうやら精神的に参ってるのは、研前さんだけじゃないみたい。
「あっ・・・」
プールを捜査していて、また思い出してしまった。みんなでバーベキューをしたときのことを。あのときは下越くんをみんなで元気付けようとしてたんだっけ。そのときに雷堂くんが極さんの着替えを覗いちゃって・・・なんだかプールサイドに人が集まるとそういうことが起きるジンクスでもあるのかしら。
「コロシアイなんてしてても結局オマエラは思春期真っ盛りな高校生なんだね!お盛んなことで!盛りに盛ってるんだね!」
「きゃあっ!?」
「あふ〜ん♡」
「な、なによ・・・!気持ちの悪い声出して・・・!」
「そんなに新鮮に驚いてくれるのがすごくうれしくてさ。みんなもうすっかりボクの登場にも慣れちゃって、今じゃ正地サンくらいだよ。そんなリアクションとってくれるの」
「心臓に悪いからやめてちょうだい」
またしもていきなり現れたモノクマのせいで、胸が痛くなるほど驚いた。危うくプールに落ちちゃうところを、モノクマがエプロンの裾を引っ張ったおかげでなんとか留まった。お礼なんて絶対に言わないけれど。モノクマはモノクマで、身を捩らせて気持ちの悪いことを言う。いい迷惑だわ。
「な、なんの用・・・?裁判まで私たちにはかかわらないんじゃなかったの?」
「そんなこと一言も言ってないんですけど?ボクはオマエラがボクと対等に戦えるように準備を進めることはしたけど、その間ノータッチだなんて言ってないんですけど?」
「用があるのかって聞いてるのよ」
「ヒントをあげにきたんだよ。アクティブエリアを見てちょっとおセンチになっちゃってる正地サンを見てると、ボクの優しい方の心がズキズキ疼いちゃうんだ。悪い方の心はドキドキ弾んじゃうんだけどね!って誰がロールパンの戦士だ!」
「ヒントってなんなの」
ひとりでよく分からないことを言ってるけど、要するに私の裁判に向けての手掛かりを与えに来たっていうわけね。モノクマが敢えて寄越すくらいだから絶対にろくなことじゃないと思うけれど、公平にするためにヒントを与えるのが必要っていうことは、私だけの力じゃ手に入れられないっていうことよね。怖いけれど、覚悟しなくちゃいけなさそうね。
「うぷぷ♬いやあ、今にして思えばだよ?ここで雷堂クンが極サンの裸を見ちゃったのって、ホントにすごい
「だから、何が言いたいの?」
「覗きくらいの話で済めばよかったけど、そのときに極サンの裸を見たことが、雷堂クンが極サンを狙う発端になったとも言えるんだなと思ってさ。いやー、運命的だよね!もし極サンがいなくなっちゃえば、なんて思ってる人にとってはすごく
「それもこれも全部研前さんのせいだって言いたいの?バカなこと言わないで。研前さんは何もしてない。あなたみたいに人を陥れようとなんかしてないし、責任もないのに自分を責める優しい子なのよ」
「ふーん、茅ヶ崎サンのことやそれ以外の細々したことを聞いても、そんなこと言えるんだ」
「当然よ。今までの研前さんを見て、そんな風に思う人なんかひとりもいないわ」
「あっそう。ふーん、案外そっちの芯は強いんだね。じゃあストレートにヒントあげようかな」
「え。あ、そうなの?なんだったの今の・・・?」
「極サンが人に肌を見せようとしなかったのは、なんでだと思う?」
「なんでって・・・」
極さんが人に肌を見せたがらないのは、たぶん恥ずかしいからとか視線が気になるとか、そういうことじゃないと思う。もしかしたら、雷堂くんみたいなことを考える人が出てくることを悟っていたからなのかしら。だから私が温泉に誘ったときも断ったんだと思う。でも、それって自分の体の異変に、もっと早くから気付いてたってことよね?でも・・・。
「・・・?」
「うぷぷぷぷ♬まーその意味をしっかり考えてみることだね!どうして極サンは肌を見せたがらなかったのか!ボクが教えられるのはここまでだよ!」
「えっ・・・!ちょ、ちょっと待って・・・!」
「アデュー!!!!」
最後だけやたら大声を出して、モノクマはプールに飛び込んだ。いびつな波紋だけを残して、モノクマの姿はすっかり消えてしまった。ただひとり、プールサイドに遺された私の頭の中で、モノクマにぶつけられた質問がぐるぐる繰り返されてた。
「極さんが肌を見せなかった理由・・・それが、最後の裁判で重要になるの・・・?」
たぶん、自分でもびっくりするくらいしばらくそこにいたんだと思う。予定の探索時間より大幅に時間を取っちゃってることに気付いて、私は残りのエリアを探索しにアクティブエリアを離れた。
Side:スニフ・L・マクドナルド
「
ボクは
「エノシマジュンコ・・・この人が?」
「『
モノクマが言ってた。このモノクマランドが、ボクたちの“セカイ”なんだって。この
色んな
「・・・
「ハイドさん・・・?」
いよさんがこんなにだれかを
「じゃあ、マイムさん?」
ハイドさんじゃなかったら、こんなことをしそうな人は、あとはマイムさんしかいない。だけどそれもなさそうだ。マイムさんはあのとき、まだ死ぬのをいやがってた。エルリさんのときは、何かを知って
「
ここでひとりで考えてるだけじゃ、
またここに来ることになるなんて、思いもしなかった。
モノクマの
また体がふるえた。ボクたちがこれからたたかおうとしてる
「・・・」
また
ちがう
「
ボクたちにはじかんがないんだ。ここにある
「・・・
たぶん、10こよりたくさんの
13こ目をひらいた。これもおんなじだ。14こ目をひらいた。おなじだ。15こ目。おなじ。16こ目。おなじ。17こ目。18こ目。19こ目。20、21、22、23、24、──────。
「
ボクはいま、すごくひどいことを考えてた。
Side:納見康市
ファクトリ〜エリアはちょうどおれが捜査することになってたエリアだったから、その前に近くのインフラエリアを捜査することにした。4回目の裁判が終わってここに来たときからの疑問の一部が解消された気がする。それは、電気・ガス・水道・その他インフラ設備がこのエリアにまとめられて賄われてるんなら、ファクトリ〜エリアの工場は何を生み出してるのかということだ。
「こんなところには何もないよ早くファクトリーエリアにお行きなさいよ」
一応エリアの規則だからってことで、モノクマが付き添っている。さっきの今だってのに、ずいぶんと大人しくなったもんだ。
「あのね。今オマエラがあちこちで同時に捜査してるもんだから、ボクは行ったり来たりで大変なの。もしかして納見クンは、テレビに出てる芸能人がみんな素で出てると思ってるタイプ?あんなんキャラだよキャラ!仮面被らないと商売にならないんだよ!」
「そうなのかい?ってえことはあ、みんなそれぞれで捜査の成果は出てるってことだろうねえ。わざわざお前が出てくるんだったらさあ」
「どうだろね!」
「電気と水道はまだしもお、ガスなんてどこから持って来てるのやらあ。近くにガス田でもあるのかい?」
「ちっちっち!甘いなあ納見クンは!これだからネットで囓った程度の知識でマウントとってくるイマドキのガキんちょは青いんだよ!」
「そんなに浅薄な質問だったかなあ」
「ガスに限らず石油も石炭も所詮は化学物質で化合物なの!つまり必要な元素と十分な設備があれば生成可能なわけ!学校で実験したでしょ?ボクのスーパー科学力を以てすれば、そんなの簡単にできるの!」
「そっちの理論の方が浅はかじゃあないかあ。合成するエネルギ〜の方が取り出せるエネルギ〜よりも多くなりそうだけどお」
「うるさいうるさいうるさーい!もっと勉強しろー!」
「それにそんな技術があるんなら風力発電や波力発電なんてクリ〜ンエネルギ〜に頼ることないんじゃあないかい?」
「人工燃料だけじゃ賄いきれなくなったときや、もしものときのための備蓄が必要でしょ。これだから魚は切り身のまま海で泳いでると思ってる世代は」
「思ってないよお」
マグロの解体ショ〜も見たっていうのに。それはさておき、あんまりモノクマはこのエリアに興味がないらしい。さっさと出て行けとまで言うんだから、ここには有用そうな手掛かりはないってことでいいと思う。重要な証拠があるのにそんなことを言えば、裁判の公平性を重視してきた今までと矛盾してしまう。
「そんじゃあファクトリ〜エリアにでも行こうかねえ」
「うぷぷ!行ってらっしゃい。どんなリアクションするか、ボクも楽しみにしてるよん♬」
どうせろくなことにはならないんだろうなあ。そう思いながら、おれはモノヴィ〜クルのパネルを捜査した。ゆっくり動き出すヴィ〜クルに身を任せて、ファクトリ〜エリアまでのわずかな時間に覚悟を決めておく。何を見ても
Side:研前こなた
最後に私が向かったのは、田園エリアだ。人工の風、人工の芝、人工の川、一見のどかな風景に見えても、それらが全て明らかな造り物だと気付いたとき、このエリアは何とも言えない狂気を醸し出す。造り物なのが明らかな分、まだパシフィックエリアよりマシかも知れないけど。
「ふぅ」
たとえ人工芝でも、寝転がったときにほほをくすぐる感触は気持ちいいし、柔らかく吹き抜ける風が清々しいのは同じだここに腰を下ろすと、いつか極さんと語らったことを思い出す。誰よりも強くあろうとして、責任感が強くて、だけど普通の女子高生に憧れてた普通じゃない彼女。あのときも私は気持ちが参ってた。それを元気付けてくれたのは極さんだ。
「・・・どうして私なんかが生きてるんだろう」
ふと口をついて出たのはそんな言葉だった。頭の中で反響するその言葉に自分で驚く。だけど、そんなことを言う自分の気持ちは理解できた。だって私なんかより、極さんの方がよっぽどみんなを元気付けられたはずだ。私なんて、幸運なんてものがなければただの女子高生でしかないのに。どうして私が生き残ってるんだろう。私はどうやってみんなの役に立てばいいんだろう。私なんかに何ができるっていうんだろう。そんな重いが頭の中をぐるぐる巡る。私なんかが生きてていいんだろうか。きっとよくないんだ。
だって、雷堂君が極さんを殺したのも、その後の裁判で雷堂君が
Side:正地聖羅
前にここに来たときも、確か納見くんと一緒だった気がするわ。二度目の裁判が終わった後で、まだ楽観的で能天気だった納見くんに呆れながら探索したっけ。
瓦や木造建築、道端に井戸と水路があって、看板代わりに屋号がぶら下げてある。お城がない城下町エリアに来ていた。その一角には、いつか鉄くんが物憂げに眺めていた鍛冶場もあった。鍛冶師としての自分と、ジュエリーデザイナーとしての自分。どちらも“超高校級の死の商人”になってしまった罪悪感のせいで、正面から向き合えなかった。やっと心を決めたと思ったのに、星砂くんの策謀に巻き込まれて・・・。
「!」
火のない炉。ぺったんこになったふいご。冷たい金床。無造作に投げ捨てられた金鎚。そんな寂しい鍛冶場でそんなことを考えていて、気付くと涙がこぼれていた。誰も見ているはずがないのに、慌ててそれを拭う。ここで鎚を奮うことができていたら、鉄くんは何か変わったのかしら。お姉さんと決別して、また自分の刀を打つことができたのかしら。私が悔やんでも仕方がないのに、どうしてもそんなことが次々と浮かんできて涙が止まらなくなる。私は鉄くんの苦悩を知った。『弱み』も、過去も知った。すべて鉄くんが私に話してくれたからだ。私は、何をしてあげられただろう。鉄くんの背負う重荷を支えることも、その苦しみを癒すことも、満足にしてあげられなかったんじゃないかと思う。もし、もう一度鉄くんに会うことができたら、私は何を話すだろう。
「・・・ぐすっ」
私は無力だわ。“超高校級の按摩”なんて、ここでは何の力も持たない。このコロシアイ生活では心を癒すことが何よりも大切なのに、私にできるのは体の疲れをほぐすことだけ、勉強不足で力不足な、ただの高校生。それを痛いほど感じていた。せめて、明日の裁判では、みんなの役に立たないと。研前さんだけでも、私が救ってあげないと。
「泣いてばかりじゃ・・・鉄くんに怒られるわね」
めそめそしてないで、自分にできることをしなさいって。いつか私が鉄くんに言ったっけ。今の私を見たら、きっと鉄くんは幻滅する。もっとしっかりしなくちゃ。私はスニフくんや納見くんみたいに推理する力はないけれど、みんなを支えてあげることくらいはやりきらないと。診療所や“才能”研究室にもきちんとした設備が整っているわけだし。
ただ少し気味が悪いのは、その診療所や“才能”研究室にある設備がどれもこれも、素人が準備したとは思えないほど行き届いていることなのよね。マッサージ器とか専用の道具とかならまだしも、実際に施術するときに必要なタオル類やキャンドルの火を扱うのに必要な道具類、ミネラルウォーターに紙コップみたいなものまで。私の研究室以外もそんな感じだったらしい。全部を黒幕が用意したんだとしたら、黒幕はずいぶんと色んなことに精通しているっていうことになる。ここにある鍛冶具だって、刀を打つ上で全く問題ないほど道具が調っているって鉄くんが言ってたし。それも、黒幕の正体に繋がるヒントなのかしら?
コロシアイ・エンターテインメント
生き残り:5人
既に書き上がっていた分、ちゃっちゃか投稿していきますよ。
とは言え、捜査編分しか書けていないので、裁判編はまたお待たせすることになると思います。
取りあえず次の話は今月中にあげられるように頑張ります٩( 'ω' )و