ダンガンロンパカレイド   作:じゃん@論破

5 / 66
【タイトルの元ネタ】
『ハウトゥー世界征服』(Neru/2013年)


Prologue.『ハウトゥー“セカイ”探索』

 地図に示されてたのは、テーマパークのエントランスの近くだった。このテーマパークにエントランスがあったっていうのもなんだか意外だった。すごく広いところのセンターに大きな池があって、植木とフェンスで中には入れないようになってる。ボクたちがいたメリーゴーラウンドからはそれなりに歩いたところにあって、着いたときにはボクたちの他に人がいた。

 

 「あっ・・・だれかいるぞ!」

 

 ボクたちの他に人がたくさんいることに、自然と出られるかもしれないと思ってしまった。池の近くに駆け寄ってその人たちに話しかける。どうやらボクたちと同じようなことになってたみたいだ。ボクだけじゃなくて、みんなも話を聞くうちに高まってた期待がどんどん落ち込んでいくのが分かった。

 

 「やっぱりみんな同じかあ。参ったねこりゃあ」

 「フフフ・・・参ったどころか、これほど奇怪な状況はそうそうないぞ。我々で全員なのか?」

 「1,2,3・・・17人?17人も希望ヶ峰学園の生徒が連れ攫われるなんて・・・。なんだか不安になってきたわ」

 「17?Wow!!Great!!17といえば、1ケタの素数の総和で表される素数ですね!」

 「そすーそすー♡たのしそーなところだねっ♡」

 「っていうか、ここどこなの?こんなおっきい遊園地なのに誰も知らないとか意味分かんなくない?」

 「一旦落ち着こう。俺たちはこの腕時計みたいな機械とアナウンスでここに案内されたんだ。みんなそうなんだろ?」

 

 人が集まったことで安心したり逆に不安になったり色んな人がいる。そんなボクたちを、“超高校級のパイロット”のワタルさんがまとめようと声をあげた。みんなが一度にワタルさんを見る。

 

 「不安になるのは分かるけど、こういう時こそ落ち着くんだ。17人も人がいるんだ。何かこの場所や出口の手掛かりがあるはずだ。話し合って協力しよう」

 「いいこと言うじゃんか雷堂!よっしゃ!オレにできることはなんでもするぜ!腹ァ減ってるヤツはいねえか!?」

 「っていきなり飯の話かよ!?この状況解決すんのが先だろ!」

 「手掛かりと言えるかは分からんが、自分が目を覚ました場所についてなら、各々情報があるだろう」

 「いよーっ!盛り上がって参りましたぁ!ではでは何からお話しましょうかあ!?」

 

 ワタルさんの呼びかけに合わせて、みんな次々に話し合おうとポジティブになってきた。ボクも少ないけれど、今までに思ったことを話そうと思った。

 だけど、17人も人が集まって、同じ方向を向くのはそんなに簡単じゃない。ハイドさんが口を開いた。

 

 「ふんっ、下らん。凡俗らしい無意義な気休めだ」

 「いよっ?なんですか!誰ですか!いよの語りに水を差す輩は!」

 「貴様ら凡俗が16人集ったとて、万傑たるこの俺様の足元にも及ぶわけがない。無駄な議論を囀るくらいなら、がむしゃらに走り回ってきた方が見つかるものもあるだろう」

 「走るのなら得意っすよ!自分、ちょっと行けるところまで回ってきましょうか!」

 「いやバカにされてんだよ!つかテメエなんなんだよ急に!」

 「手掛かりがある“はず”、話し合えば解決する“はず”、協力すれば必ず助かる“はず”・・・根拠も確証もないことを信じ込ませる常套句に、何の意味がある?結局その勲章も、何も分かっていないのだろう?」

 「勲章って、俺のことか?」

 「他に誰がいる」

 「でも・・・、みんな同じ状況っていうのは確かだし、話し合って何かが変わるかどうかも分からないよね」

 「あのねあのね、たまちゃん思うんだ!みんなここに集まって〜!って言われたんだよね?ね?そしたら、またなにか放送があると思うんだ!」

 「へ、下手なことはしない方がいい。あの放送主を刺激するようなことは・・・」

 「まだ我々以外に人間がいる可能性がある。私はそこをはっきりさせたい。まあ、人間以外の何かがいる可能性もあるがね」

 「だから、ここを動かないでできることをするんだよ!そりゃ俺だってみんなと同じだし、気休めにしかならないかも知れないけど、何もしなくちゃ状況は変わらないだろ!」

 

 二つの考えに分かれてぶつかるディスカッションに、ボクはどっちかが正しいのか迷った。ワタルさんの言うことは正しい。だけどハイドさんの言うことも分かる。ボンゾクが何か分からないけど。そもそもあのアナウンスの言うことをきく理由だって、ボクたちにあるんだろうか。

 そんなことを考えてると、またあの音楽が鳴り始めた。まるでボクたちが話すのをジャマするように、さっきより大きな音でボクたちの声をかき消す。

 

 「っああ!!気持ち悪ィ音だな!!」

 「あっ・・・い、池が・・・!」

 

 音が止んだのと同時に、こなたさんのつぶやきでみんなが池を見た。ただただ広くてキレイだっただけの池に波がたってる。いくつもの白いバブルがわいてきてそれはあっという間に池から飛び出して、水のかべを作った。こんなギミックがあったんだ。

 

 「な、なんだなんだ!?」

 「落ち着け。ただの噴水だ。ただ、さっきの音楽といい、何かが始まるのに違いはないな」

 「パレードかなんかだといいんだけどねえ」

 

 飛び出した水に視線をうばわれてると、その水の中に何かがうすぼんやりと見えてきた。水の勢いが強くなればなるほどそれははっきりクリアーになってきて、大きな水のかべに、その姿を大きく映し出した。

 モコモコのファーに全身をおおわれて、丸っこくてプリティな形をした、まるでぬいぐるみか何かのようなもの。体のセンターで色がくっきりわかれて、半分は雪のようなホワイト、もう半分は夜のようなブラック。本当にぬいぐるみみたいにシンプルな目と口のホワイトと、赤くて長く切れた目とキバがのぞくブラックを、半分ずつくっつけたみたいだ。

 

 「んっ!?く、くま?」

 「すごーい!水の中にクマさんがいるよ!これどういうことなのー!」

 「映像を水に投影しているのか。今時、陳腐な仕掛けだな」

 『オマエラ!!おはようございます!!』

 「あっ、この声・・・さっきの」

 

 水の中のそのクマは、放送で聞こえてきたのと同じ声でボクたちにあいさつをした。だけどボクたちの誰一人、突然でへんてこりんな状況に、あいさつを返せずにいた。みんなぽかんと口を開けるか、次に起きることに身構えてるかだ。

 

 『うーんいい返事だね!いいですね!期待が高まりますね!』

 「誰も返事なんてしてねえだろ!」

 『オマエラ、もう自己紹介は済んだかな?済んでても済んでなくてもどっちでもいいよ!これからオマエラはイヤでもお互いのことを知っていくことになるんだからね!』

 「いや〜〜!たまちゃんこわぁ〜い!>_<。」

 「お、おい!俺に引っ付くな!俺だって怖い!」

 「まだそのキャラやってるの。すごいわねぬば・・・たまちゃん」

 『ではまずはこことボクのことを知ってもらおうね。オマエラ、ここがどこか分からなくて困ってるんじゃないの?』

 「そ、そうだ!ここはどこなんだ!お前は誰だ!」

 『オマエラがいるこのセカイは、モノクマランド!!ここはその中のテーマパークエリア!!夢と魔法の国的なエリアだよ!!他にもいくつかのエリアに分かれてるから迷わないように気を付けてね!』

 「モノクマランド?」

 「テーマパークエリア?」

 

 ものすごくチープでシンプルなネーミングに、思わずリピートした。モノクマってなんだ?エリアに分かれてるって、全部でいくつあるんだろう?それよりも、セカイって言った?

 

 「意味が分からん。ここは希望ヶ峰学園なのか?」

 『そしてボクの名前はモノクマ!このモノクマランドのオーナーにして、このセカイの創造主!神と書いてゴッドなのだあ〜〜!!』

 「モノクマぁ?ふざけた名前しやがって!なんなんだお前!」

 『うぷぷぷぷ!さて、自己紹介も済んだことですし、かる〜くオマエラにこれからのことを説明しておきましょう!』

 「全然話きいてないし・・・」

 

 ボクたちの言うことなんてお構いなしに、モノクマと名乗ったそのぬいぐるみは水のかべの中でにやにや笑う。これからのことって、この後に何かが始まるってことかな。なんとなく、嫌な予感がした。そのぬいぐるみが一言発する度に、背中にナイフを突きつけられるような寒気がした。

 

 『オマエラ、自分の腕に機械があるのには気付いてるよね?それはモノモノウォッチ!時計や地図や通信機能も搭載した超ハイテクマシーン!しかもこのモノクマランドでは鍵の開け閉めからお財布代わりまでなんでもこなせるスーパー万能アイテム!耐水耐熱耐衝撃性も抜群!オマエラのプロフィールも載ってなんと無料でプレゼントしちゃうよ!うぷぷぷぷ!!すごいよね!太っ腹だよね!』

 「多機能・・・ふふふ、起爆装置の類ではないとは保証できないわけだな」

 「なぜ不安になるようなことを言う」

 『あ、無理に外そうとしないでよね。モノモノウォッチはオマエラの生体信号を常に監視してるから。もし強引に外そうとしたら・・・痛いじゃ済まないんだからね!』

 「やはりな」

 「すごいハイテクマシーンだ・・・。いったいどんなテクノロジーを持ってるんだろう」

 「こんなものまで配って、あなたは私たちに何をさせようとしてるの?」

 『うぷぷぷ。どうなるかはどうにかなってからのお楽しみだよ!さて、ではここらで自由時間としましょう』

 「やっぱり話は聞いてくれないんだな」

 「自由時間ってなんすか!」

 『このモノクマランドには出口もなければ入口もない、たくさんのエリアに分かれてる超巨大テーマパークなんだ。これからオマエラに生活してもらうこのセカイのことを知ってもらうために、探索する時間をあげようと思ってね。ボクって気遣いのデキるクマだからさ!』

 「出口もなければ入口もない?馬鹿な。上空から投下されたわけでもあるまいし、来た道があるなら出る道があるのが摂理だ」

 『うぷぷぷぷ!その辺のことはオマエラ自身が確かめてみなよ!そいじゃ、またね〜!』

 

 一方的に話したいことだけ話して、モノクマはスクリーンから消えた。そのスクリーンもまもなく消えて、元のおだやかな池に戻った。ボクたちはというと、何がなんだか分からないままその場でスクリーンのあった何も無いところをながめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて、どうやら俺様たちはそういう状況だそうだ。これからどうするというのだ、勲章」

 「えっ?な、なんで俺にきくんだよ」

 「さっきはこの場を仕切ろうとしていた様子だから、俺様がわざわざパスをくれてやったのだ。ぜひともリーダーたる姿を見せて貰いたいものだな」

 

 ハイドさんの考えが透けてみえるみたいだ。本当はワタルさんをアシストしようとなんてちっとも思ってない。モノクマなんてわけの分からないヤツが現れて、出口がないなんて言われて、自由時間なんて言われて、何をどうすればいいかなんて分からない。だからワタルさんに答えを求めた。ボクたちがワタルさんに頼ってしまうように。ワタルさんが答えを出すしかないように仕向けた。

 

 「・・・と、とにかく、自由時間ってことは、ヤツから俺たちに何かしてくるわけじゃないはずだ。出口がないなんて言ってたけど、本当かどうか分からないし、探索するのがいい、と思う。でも絶対に一人ではダメだ。少なくとも2人以上でペアになって動くんだ」

 「まあ、妥当だな」

 

 どう動けばいいか分からなくてなんとなく不安だけど、ワタルさんの考えはそれで正しいと思う。とにかくこの場所について知らないと、出る方法も分からないままだ。みんながバラバラに動くよりも、数人でまとまって動けば、何かが起きても平気なはずだ。

 

 「また歩くの〜♠まいむもう足いたくなっちゃったよ♠」

 「裸足だからだろ。っていうかなんで裸足なんだ」

 「それじゃあみんな、二人一組になってくれ」

 「ふふ・・・ふ、何かのトラウマをえぐられそうな響きだ・・・」

 「オレとペアになりたいヤツ!先着一名女子限定だぜ!カモン!!」

 「貴様は私と来てもらう」

 

 一番に手を挙げたダイスケさんの手首を、怖い顔のレイカさんがつかんで下ろした。リクエスト通りに女の子が来たのに、ダイスケさんは期待が外れたみたいな顔をしてた。なんでだろう。

 

 「おいお前、鉄といったか」

 「お、おう」

 「お前も私たちと来てほしい。こいつが妙なマネをしないよう見張りも兼ねてだ」

 「あぁ・・・おう、分かった」

 

 頼まれたら断れないタイプなのかな。それとも良い人なのかな。サイクロウさんはレイカさんに言われるまま、そのペアに組み込まれた。

 

 「ふえぇ〜〜んっ!たまちゃんこわいよぉ〜〜!おにいさん助けてぇ〜〜!」

 「おっと、なんでおれに頼るのかなあ」

 「なんだか頼りたくなっちゃうんだもん・・・いけない?」

 「別にいいけどお。んじゃあペア組もうかあ。茅ヶ崎氏も来るかい?」

 「へっ、アタシ?」

 「は?」

 「ん?」

 

 ペアを組んだ3人を見てか、たまちゃんさんがいきなりヤスイチさんに飛びついた。急にヤスイチさんを頼った理由はよく分からないけど、どうやらあそこはあそこでペアができそうだ。近くにいたマナミさんをヤスイチさんがペアにさそうと、だれの声か分からない低くて短い声が聞こえてきた。ミスヒアリングかな?

 

 「おれはあっちの賑やかそうなところが気になってるんだあ。茅ヶ崎氏、向こうから来ただろお?案内してくれないかなと思ってさあ」

 「ああ、まあ別にいいよ。うん、っていうか、むしろ助かるっていうか」

 「そうかあ。茅ヶ崎氏も体育の時間に苦労してたクチかあ」

 「うっさい!」

 「ええ〜〜!たまちゃん、おにいさんとはその・・・二人っきりの方が・・・」

 「それはまたの機会だねえ」

 「・・・ちっ」

 

 スティッキングみたいな音が聞こえた気がしたけど、たぶん気のせいだね。これでまた3人1組のペアができた。

 

 「ふん、くだらん。0がいくつ集まろうが0にしかならん。凡俗が徒党を組んだところで足を引っ張り合うだけだ。俺様は俺様だけで探索させてもらう」

 「そういうわけにはいかない。星砂、お前は俺と組むんだ」

 「なぜ貴様の決定に従わなければならない。俺様は凡俗とは違う、万才の傑物だぞ?」

 「俺に答えを求めただろう。お前も俺を頼ったんだ。俺の決定には従ってもらう」

 

 みんながペアを組み始める中、ハイドさんが一人で歩き出そうとした。その腕をワタルさんがつかんで止めて、お互いににらみ合った。張り詰めた空気が周りに漂って、二人の次の動きに注目が集まる。だけど、事はそんなに荒立つことはなかった。

 

 「まあいい。時間は有限だ。貴様とくだらん問答をするくらいなら・・・組んでやる」

 

 つかまれた腕を振り払って、ハイドさんはそう言った。形だけ、っていうことだろうな。

 

 「ありがとう。それから、荒川も連れて行くぞ」

 「私か?」

 「ん?片目か?なぜだ」

 「オロオロしてて見てられないんだ」

 「・・・ふふふ、私をペアに組み込む気遣いができるなら、言葉にも気遣いが欲しかった。いや、贅沢は言うまい。感謝する」

 

 組み分けの話になってからずっと視線を泳がせてたエルリさんを、ワタルさんが目で誘った。エルリさんはメガネを直しながら二人の後に続く。なんだか危なっかしい感じがするトリオになっちゃったなあ。

 

 「ったあ〜!飯食いたくなってきたあ!けど・・・腹減ってねえな」

 「呑気な人ですね!?いま思うことがそれですか!?」

 「食いたくなったら食い時なんだよ!しっかしどうやって腹減らすかな」

 「空かせなければならないのですか!?」

 「ったりめえだろ!料理の最大の敵は満腹だぞ!!空きっ腹で食うのが飯に対する礼儀だろ!!」

 「よく分からないですなあ!!」

 

 なんだかテルジさんが大きい声で何か言ってる。それにつられていよさんの声も大きくなってきて、二人でぎゃんぎゃん騒いでる。なんだろう。

 

 「二人ともあんまり大きい声を出さないでね。耳が痛くなっちゃう」

 「失礼しました!!」

 「なんだよ正地。お前も腹減らしてえのか?」

 「違うわよ。二人して大きい声出してるから、何事かと思っただけよ」

 「袖すり合うも多生の縁と言います!せっかくですから、いよたちで探索しましょう!」

 「それはいいけど、どこを?」

 「俺は腹を減らしてえんだよ!!探索なんか後でもできる!!」

 「いや、探索が優先よ」

 

 正地さんはよくあの二人をいっぺんに相手にして頭が痛くならないんだなあ。えらい人だなあ。ボクも、いよさんやテルジさんと一緒に探索するとなると、いろいろとつかれちゃいそうだ。だからこのままあの二人を連れて行ってくれるとすごくありがたい。

 

 「そんなにお腹空かせたいなら、あっちにジムがあったわよ。探索ついでに案内しましょうか?」

 「マジか!ジムか!腹減らすなら一番じゃねえか!よっし!頼むぜ!」

 「いよもご一緒させていただきます!」

 「いいけど・・・あんまり大きい声を出さないでね」

 「了解しましたあ!!」

 

 分かってるんだか分かってないんだか、セーラさんがいよさんとテルジさんをまとめて探索に連れて行ってくれた。なんだか失礼なことを考えてたような気がするけど、よかった。

 

 「うおおおおおおおおおッ!!!みなさんどんどん探索に行かれて、自分もうかうかしてられないっす!!そこのヒゲのお兄さん!!」

 「うおっ!?な、なんだよ!?」

 「自分とペアを組みましょう!隅々まで探索するっすよ!!自分、ちょっと走って探索してくるんで、合図もらっていいっすか!?」

 「走ってって、お前雷堂の話聞いてたか?ペアで行動するんだから・・・ってクラウチングするな!!」

 「問題ないっす!!何かあったらすぐ戻って来ますし、みなさんに迷惑はかけないっすから!!」

 「そういう問」

 「よーい!ドンッ♡」

 「っしゃあああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・・・!!!!!」

 「おおおおおッい!!?お前なんで合図した!!?ってかあいつ速ッ!!?」

 「なんかアクトが楽しそうだったから、まいむもテンションあがっちゃったー♡」

 

 完全にアクトさんとマイムさんに振り回されて、ハルトさんはアクトさんの走って行った方向を見た。あっという間に見えなくなったアクトさんを追いかけて、そっちに走り出した。

 

 「ああったくもう!!俺はあいつと組むから、お前らはお前らでやってくれ!!」

 「追いつけるの?」

 「あいつほどじゃないけど足には自信がある!じゃあまた後でな!」

 「あっ!楽しそう♡まいむも行くー♡」

 

 アクトさんの後を追って、ハルトさんが走っていって、その後を足が痛かったはずのマイムさんがぴょんぴょこスキップしながらついて行った。大丈夫かな。

 どんどんペアを組んでいくみなさんを見てたら、いつの間にかこの場所にはボクとこなたさんだけ残ってた。これはチャンスだ。みんなが勝手にいなくなって二人きりになるなんて、神様がくれたチャンス以外に考えられない。ここでアタックしなきゃ!

 

 「こ、こなたさん!ボ、ボクとペアをくみましょう!」

 「うん。そうするしかないね。フフフ・・・」

 「はは、ボクもこなたさんとペアうれしいです!」

 「そうだね。みんな元気で楽しくて、本当にみんなで修学旅行か何かに来たみたい。今こんなこと考えちゃうなんて私って呑気なのかな?」

 「ボクそんなこなたさんもステキだと思います!ううん、どんなこなたさんもステキです」

 「ありがとう。スニフくんは優しいね」

 「こなたさんだからです。ボク、こなたさんのこと好きです!」

 

 言えた!いきなりだったかな。ジャパニーズまちがってないかな。言ってからそんな不安がどんどんわいてくる。こなたさんの返事は?さっきまでの会話と同じはずなのに、いきなり返事がおそく感じる。もしかしてヘンな人だって思われたかな?次の言葉が聞きたい。でもこわい。スローモーションみたいに、こなたさんが口を開けた。

 

 「うん。私もスニフくんのことは好きだよ」

 「え・・・Really!!?」

 「本当だよ。スニフくんも、ここにいるみんなも、私は好き」

 「はえっ!?あ、ああ・・・そ、そうですか・・・」

 

 Bullshit!!

 

 「くすくす、それじゃスニフくん。私たちも行こうか」

 「あ、そ、そうですね・・・」

 

 パーフェクトなシチュエーションだと思ったのに・・・こんなことなら、パパにママを口説いたときの話を聞いてからニッポンに来るんだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 テーマパークエリアから他のエリアには、大きなゲートを通って移動できた。エリアは全部ゲートで仕切られてて、向こうがなんていうエリアなのかはゲートを見れば分かるようになってる。だけど池の近くからは外に出られるゲートはなかった。ボクとこなたさんは、まず一番近くにあったギャンブルエリアに向かった。

 ゲートを過ぎると目の前に大きくてキラキラした建物が見えた。カジノハウスとかいてある。奥にはむずかしい漢字がかいてある建物がいくつかあって、こなたさんに教えてもらった。ケイバジョウとかケイリンジョウらしい。レース場のことだ。ボクたちはまずカジノハウスに入ることにした。

 

 「そういえば、カジノって子供は入れるんだっけ?」

 「ボ、ボクは子供じゃないです!ハイスクールスチューデントなんですよ!それにワールドスタンダードでカジノは若くて18才からです。ボクたちが入れないのつくっても意味ないですから、かんけいないですよ」

 「そうなんだ。スニフくんは物知りなんだね」

 「ベンキョーたくさんしましたから!コウセツのケイってやつです!」

 「蛍雪の功、かな?」

 「それでした!」

 

 余計なこと言ってまたまちがえちゃった。でもカジノってボクも入るのはじめてだし、なんだかワクワクする。いけないことをしているような、楽しみなような。キラキラ光るかざりの間にある透明な自動ドアが開くと、すごく広くてゴージャスな空間があふれてきた。

 かべも床も天井も、どこもかしこもカーペットでふかふかで、あちこちについたライトの明かりがこの空間から暗い場所の一切を消し去ってる。柱がないからすごく広く感じて、ささやかなBGMなのにオーケストラみたいに空間いっぱいに音がひびきわたる。それ以外には足音もしない。なんとなく、わけもなくギャンブルをしたくなるような、そんな空間だった。

 

 「へえ、こんなところなんだね」

 「Fantastic!!なんだかついついギャンブルしたくなります」

 「でも私たちお金持ってないよ?」

 「そうですね」

 

 スロットマシーンにビッグルーレットにトランプゲームに麻雀台まである。有名なゲームから見たこともないゲームまで、色んなギャンブルがあちこちに並んでる。でもよく見てみると、スロットマシーンやルーレットのマークはボクたちの顔になってた。ルールはきっと普通のものと同じだと思うけど、こんなバッドテイストなもの、誰が考えたんだろう?

 

 「趣味悪いよね、それ」

 「あ、茅ヶ崎さん」

 

 大きなスクリーンに映し出されたルーレットに目をうばわれてたボクたちに、後ろからマナミさんが声をかけた。パーカーの前をあけて中の水着が見えてる。目のやり場に困るからしめてほしいな・・・。

 

 「そこのパネルで動くみたいだよ。池のとこ集まる前に虚戈ちゃんがやってた」

 「うーん、これはあんまり気がのらないですね」

 「マジ気分悪いよね」

 「茅ヶ崎さんはこういうのやったことあるの?」

 「ううん。アタシはこういうとこ似合わないもん。遊ぶんならいっつも海だった」

 「“Ultimate Surfer”ですからね!」

 「そうなんだ。でも、トランプなら分かるよね?」

 「まあね」

 「もし機会があったら、茅ヶ崎さんと一緒に遊んでみたいな」

 「は?なんでアタシと?アタシと研前ちゃんじゃ、キャラ違いすぎじゃない?」

 「だって茅ヶ崎さん、良い人そうだから」

 

 こなたさんに遊びにさそわれて、マナミさんは冷たく返事した。悪い人じゃないと思ったけど、なんだかボクたちと仲良くしたくないのかなって思った。でもこなたさんはそんなの関係ないとばかりに、マナミさんのことを良い人と言った。ボクもマナミさんも意外だった。

 

 「悪人ってわけじゃないけど、良い人って。無理しなくていいよ」

 「無理なんかしてないよ。だってさっき納見くんにいきなり誘われて二つ返事でOKしてたし、今も私たちにルーレットの使い方教えてくれたし」

 「べ、別にそれくらい普通だって・・・」

 「それに、人のことをちゃんと名前で呼ぶ人は、信頼できる人だから」

 「えっ・・・」

 

 どうしたんですかこなたさん!どうしてそんなにマナミさんをホメるんですか!うらやましい!ボクもこなたさんにホメられたいのに!

 

 「だから、ここを出た後も仲良くしたいな。私たち希望ヶ峰学園の新入生だし、たくさんお話できるよね」

 「ボ、ボクも!」

 「いいけど・・・でもアタシ、そんなおもしろいことしゃべれないよ」

 「いいよ」

 

 たじろぐマナミさんに、こなたさんはなんだか満足そうだ。なんで!なんでボクにそのスマイルを向けてくれないんですか!マナミさんには向けるのに!そんなボクの叫びはしまっておくとして、マナミさんは目を逸らしてうなずいてた。このままじゃこなたさんがマナミさんにとられる!

 

 「そ、そういえば、ヤスイチさんとたまちゃんさんはどうしたんですか?」

 「ああ。あの二人ならあっちで遊んでたよ。たまちゃんが探索するの飽きたんだって」

 「飽きたって、それどころじゃないと思うけど」

 「気になるなら行ってみれば?アタシはもうちょっとカジノの外も見てみようと思うけど」

 「ふふ、二人の分までがんばるなんて、やっぱり良い人だね」

 「もういいから!」

 

 顔を赤くしてマナミさんはカジノハウスから出て行った。一人で大丈夫かな、と思ったけど、それを言ったらこなたさんがついて行っちゃいそうで、言わないことにした。ボクってズルい人間だなあ。

 ボクとこなたさんは、カジノハウスの奥にある、ダーツやビリヤードの並んだブロックに来た。本当はこういうのはギャンブルとは違うんだけど、勝ち負けがあるゲームってことでここにまとまってるんだと思う。そこでは、へろへろになったヤスイチさんと退屈そうな顔をしてるたまちゃんさんがいた。

 

 「たまちゃんと納見くん。ここにいたんだ」

 「お、おおぉ〜!?スニフ氏に研前氏い〜!」

 「はあ!?そんなのあり!?」

 「助かったよお〜!二人とも来てくれてありがとう!」

 「ど、どうしたんですか」

 

 ボクとこなたさんを見るや、ヤスイチさんはすがりつくように頭を下げた。たまちゃんさんは相変わらず退屈そうにしてる。

 

 「おれとたまちゃんで賭けをしてたんだあ。次にここに来るのは男か女かっていう・・・二人同時に来てくれてよかったあ」

 「真波ちゃんはー?」

 「外を探索しに行ったよ」

 「はあー?なにそれ!なに勝手にどっか行ってんの!」

 「たまちゃんが男と女の両賭けなんて言い出すからあ、おれは『両方』に賭けるしかなくてさあ。さすが“超高校級の幸運”だねえ。おれにも幸運を分けてくれたのかい」

 「え、いや・・・私の幸運は、そういうのじゃないから・・・」

 「とにかくこれで負け分も吹っ飛んだよお」

 「あッり得ない!こんなんで今までの全部チャラになるとか!」

 「それはたまちゃんが言いだしたんだろお?」

 

 なんだかよく分からないけどヤスイチさんの話をまとめると、ここのダーツやビリヤードでたまちゃんがヤスイチさんにギャンブルを持ちかけたみたいだ。“Ultimate Hustler”のたまちゃんにヤスイチさんが勝てるわけもなく、借金が増えていって、一発逆転のこのギャンブルでギリギリ勝った。そんなところだ。

 

 「たまちゃんさん・・・そんなことやってる場合じゃないですよ」

 「だってたまちゃん探索とかつかれちゃうしー。それに康市お兄ちゃんだってやってたしー」

 「強引にやらせたんだろお?ルールもよく分からないのにさあ」

 「終わったことねちねち言う人って男らしくなーい」

 「この調子で都合の悪いことはまともに取り合ってくれないんだよお」

 「Wow・・・How terrible・・・」

 「災難だったね・・・」

 

 なんだかヤスイチさん、たまちゃんさんにロックオンされてるような。そういえばペア組みのときも、たまちゃんさんからヤスイチさんに声をかけたんだっけ。ボクたちが来なかったらきっともっとひどいことになってたんだろうなって思うと、はじめにカジノに行こうって言ったこなたさんは本当に幸運なんだなって思った。そういうの、ジャパニーズでなんていうんだっけ?

 

 「ダーツやビリヤードがスポーツに分類される理由が分かったよお。インドア人間にとっちゃ激しい運動と一緒だねえ」

 「それはイカサマ抜きでただの運動不足だから」

 「イカサマの自覚あったんじゃないかあ」

 「あのね、たまちゃんは“超高校級のハスラー”だよ?ハスラーはイカサマ師とか詐欺師って意味。だよねスニフくん」

 「え、ああ・・・そ、そうですね。英語でビリヤードをプレイする人はビリヤードプレイヤーっていいます」

 「だから気を付けないと、たまちゃんに全部搾り取られちゃうよ?」

 「そうなのかい?てっきりビリヤードの“才能”だと思ってたよお」

 「あーあ、なんかつまんない。ね、研前お姉ちゃんもたまちゃんと勝負する?」

 「今の話きいたから、遠慮したいな」

 「スニフくんは?」

 「ボクも・・・ごめんなさい」

 

 むしろ今の話を聞いてたまちゃんとギャンブルしようと思う人の方が少ないと思う。退屈ならマナミさんと一緒に探索しに行けばいいのに。

 

 「誰かさっさと出口見つけてよー!たまちゃんもうここあきたー!」

 

 ボクとこなたさんは、これ以上巻き込まれないうちにカジノハウスから出ることにした。残されたヤスイチさんも外に出てマナミさんと探索することにした。ボクたちは一旦、テーマパークエリアに戻ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゲートからテーマパークエリアに戻ると、次にどこのエリアに行くか考えた。モノモノウォッチでマップを広げると、テーマパークエリアは5つのエリアととなりあってるらしい。そのうちの一つはまだ行けないけど、残りの4つには行ける。その一つがギャンブルエリアだ。

 

 「行ったことある場所は詳しく見られるようになるんだね」

 「次はどこのエリアに行きましょう」

 「スニフくんはどうしたい?」

 「ボクはあっちが気になります!」

 

 本当ならギャンブルエリアから順番に見ていくものだろうけど、ボクはあえて遠いゲートを指した。こなたさんと一緒にテーマパークを歩けるんだから、すぐに人と会わないように遠いところにした。きっとデートみたいで楽しいはずだ!

 

 「じゃあそっちにしようか。はい」

 「ボクがエスコートします。ついて来て下さい」

 「迷子にならないように気を付けてね」

 

 こなたさんの方から手を差し出してきた!きっとこなたさんもボクのことを意識してるんだ!やったね!と思ったら、どうも親が子供と手をつなぐあの感覚らしい。こんな分かりやすい道で迷子になんかならないですよ!子供じゃないんですから!

 そう思ったけど、こなたさんの少しひんやりしてるけど柔らかくて細い手ににぎり返されると、そんなのどうでもいいやと思ってしまった。ボクって単純だなあ。

 

 「こっちは何のエリアかな?」

 「ゲートが見えましたよ。えっと・・・ホテルエリアですね」

 

 なるべく離れてるところと言ったけど、それほど離れてるわけじゃなくて、歩いてたらすぐ着いちゃった。なかなか二人だけの時間は長くとれない。ゲートの向こうはさっきのギャンブルエリアとは違って大きな建物がいくつかひしめき合ってた。

 バイクを停めるようなパーキングがついたホテルがすぐ近くにあって、その隣にはレンガ造りの建物があった。パーキングに停まってるのはセグウェイみたいな乗り物で、丸くて3つタイヤがついてた。ホテルは6階建てくらいで、全部がゲストルームになってるみたいだ。ホテルの前の広場の反対側には、大きなショッピングセンターがあった。テーマパークの中なのに、スーパーやデパートみたいになんでもそろってそうだ。

 

 「大きな建物がいっぱいあるね」

 「Wonderful!!ホテルがあるなんて、このテーマパークはもしかしてハイクラス向けのテーマパークなのかも知れないですね!」

 「スニフくん、泊まるつもりなの?」

 「あっ、いえそういうつもりで言ったわけじゃないです!」

 

 こんなわけわからないところ早く出ていって、希望ヶ峰学園でこなたさんと一緒にハイスクール・セーシュンを過ごすんだ!ホテルなんか泊まってられないよ!と思ったけど、もし本当にこのモノクマランドに出口がなかったら、ボクたちはこのホテルで寝泊まりすることになるんだろうなあ。

 ホテルの中はマーブルでできてて、シャンデリアやキレイなガラスであちこちがピカピカだ。エントランスのすぐ前にカウンターがあって、横にはレストランがつながってた。その向こうはライブラリにつながってるみたいだ。

 

 「きれいなところ」

 「ゲストルームはワンフロアで17つあるみたいです。3階より上は・・・being renovated。ジャパニーズだと・・・」

 「改装中みたいだね。せっかく良い眺めだと思ったのに」

 「はい・・・ってこなたさん泊まる気なんですか!?」

 「気にならない?」

 

 ええ!?どっち!?驚くボクを見て、こなたさんはくすくす笑う。からかわれたのかな。でもそんなイタズラするこなたさんもステキです!

 

 「気になりますけど、それじゃ上へは行けないんですね」

 

 ゲストルームは片方に9つ、もう片方に8つ。長いろうかで全部の部屋の入口が見渡せて、奥にはぽつんとミニテーブルがあって、観覧車のおもちゃが置かれてた。外にあったもののミニチュアだ。

 

 「ここには誰もいないみたいですね。出口の手掛かりもありそうにないです」

 「他のところ行こうか」

 

 ドア一枚でどこにでも移動できればいいのに、と思ったけど、そんなことあり得ない。あり得ないことを考えてしまうなんて、ボク、だいぶ参ってるんだな。こなたさんに手を引かれて取りあえずエントランスまで戻って、レストランを覗いて見た。ここも普通のレストランってことと、ボクのお気に入りの紅茶の葉っぱがあるってこと以外に発見はなかった。

 

 「お腹減ったね」

 「そういえば、起きてから何も食べてなかったです。後でテルジさんに何か作ってもらいましょう」

 「“超高校級の美食家”の料理なんて、期待しちゃうね。私、バームクーヘン食べたいなあ」

 

 今はまだおやつには早いから、後で探索が終わったらテルジさんに頼んでみよう。そんなことをしてもらってる余裕があればいいけど・・・。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホテルの探索はあっさり終わって、ボクたちはすぐにとなりのライブラリに移動した。その間にはカラオケボックスがあったけど、特に発見なんかなかった。ライブラリの中はまどからの明かりでさわやかに光ってて、天井までつづく本棚に数え切れないくらいの本がびっしり並んでた。船のデッキみたいに高い本棚には通路が張り巡らされてる。こんなライブラリみたことない。

 

 「うわあ・・・小説の中みたいです・・・。こんなライブラリはじめてです」

 「何百冊、ううん、何万冊あるんだろう。なんでもありそうだね」

 「ボク、ニッポンのMANGAよみたいです!サイコーにクールです!」

 「しーっ、図書館だから大きな声出しちゃダメだよ。あと走るのも」

 「あ、すいません」

 

 これだけの本があればMANGAもありそうだ。思わずテンションがあがっちゃうのを、こなたさんに注意された。ボクとしたことが、うっかりしてた。それにしても声がよく響く。上の方まで届きそうだ。と思って上を見たら、上からボクたちを見下ろしてる視線とぶつかった。

 

 「おっ!!女子発見!!」

 

 声が届くどころじゃない、耳元でものすごく大きな声を出されたようにはっきり聞こえる声とともに、ダイスケさんが猛スピードで階段を降りてきた。途中で本をとってきて、あっという間にこなたさんの前にやってきた。

 

 「ようお前ら。オレの声に惹かれて来たのか?しょうがねえ奴らだな。ここよく響くし、一曲プレゼントしてやってもいいぜ?」

 「な、なんですかダイスケさん・・・」

 「ほらよ。これ見てみな」

 

 そう言ってダイスケさんが渡してきたのは、自分がフィーチャーされたマガジン、レコードアワードブック、ミュージックマガジン、どれもこれもダイスケさんの活躍が書かれたものばっかりだった。ははあ、これで自分のすごさをアピールしてるわけか。

 

 「お前らも聞いたことあんだろ?『DJダイスケのマジイキレコード』!オレの美声と音楽への愛に酔いしれるリスナーが多すぎて、リクエストはがきで局の廊下が埋め尽くされたって伝説があるあの!」

 「ボク、ニッポンに来たばっかりでよく分かんないです」

 「私もラジオはあんまり聴かないなあ」

 「ウソだろぉ!?」

 

 ニッポンのラジオはマークしてなかった。リクエストレターでろうかが埋まるなんてことあるのかな。ホントかウソかは分からないけど、でもこれだけのマガジンに名前と顔が載ってるんだ。“Ultimate Disc Jockey”はダテじゃないってことか。

 

 「あの感動と興奮の1時間を!この番組のためにラジオは発明されたとまで言われたあの番組を!世界中の音楽の粋を!まだ味わったことねえってのか!?ちくしょう、うらやましいぜ!はじめてあれを聴いた瞬間オレの虜になるって話だからな。そんな経験がこれからできるなんてよ・・・!オレはどう頑張ったってできねえってのに!」

 「もっとすごいラジオをさがせばいいじゃないですか」

 「バカか!オレ以上のDJなんか宇宙中探したっているわけねえだろ!」

 「ポジティブなんだね」

 「ポジティブなんでしょうか」

 「まあそれはさておき・・・研前、だっけ?やわっこそうな手してんなあ。箱入り娘っていうか、あんまり経験なさそうじゃんか」

 「経験?うーん、友達はあんまりいなかったなあ」

 「人の温かみってモンを知らねえだろ?オレが教えてやるぜ。暖かみも温かみもまとめて」

 「友達になってくれるの?ありがとう。私も城之内くんにオススメの曲とか教えてほしいな」

 「曲だけじゃねえ!音楽のことならなんだってだ!ま、オレの手にかかりゃお前も楽器みてえにイイ声(おと)出す・・・うおあっ!?」

 「!」

 

 早口でまくしたてるようにしゃべるダイスケさんと、のんびり的外れな気がする返事をするこなたさんの会話に、ボクは何がなんだか分からなかった。でもなんとなくこのままダイスケさんとこなたさんを話させておくのはマズいと思って来たところで、ダイスケさんが後ろから持ち上げられた。濃いブルーのジャパニーズワーキングウェアで頭にハチマキを巻いた、サイクロウさんだ。

 

 「ギャーッ!?おいこら離せハゲ!持つな!」

 「すまん研前、遅くなった。こいつにセクハラされていなかったか?」

 「ううん?大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

 「城之内。お前あれほど極に釘を刺されて、まだ懲りないのか」

 「バッカ野郎!男が女に興味なくしたら人類は滅亡だろうが!」

 「そこまでは言ってない。自重しろということだ」

 「パワフルなんですね、サイクロウさん」

 

 ダイスケさんを軽く持ち上げてしまえるほど、背が高くて力がある。ウェアの上からでも分かるマッチョな体と物静かな性格のおかげで、すごくかっこいい。ニッポンダンジって感じだ。

 

 「ケーッ!力と身長ばっかりが威張ってんじゃねえよ!“才能間違い”のくせによ!」

 「“才能間違い”?」

 「間違いではない。俺が納得していないだけだ。でもいいんだ、それが俺に求められてることなんだから」

 「鉄くんは、確か“超高校級のジュエリーデザイナー”だったよね」

 「ひゃはは!!ジュエリーデザイナーて!!このナリで!!オカマかよ!!」

 「・・・」

 「ダイスケさん、笑ったら失礼ですよ。Jewelry Designerだって立派なお仕事です」

 「似合わないことは自覚している」

 

 サイクロウさんを思いっきり笑うダイスケさんに、サイクロウさんは文句の一つも言わない。確かにボクも、サイクロウさんはニッポンのトラディショナルアーティストみたいで、ジュエリーデザイナーなんて仕事はミスマッチだと思う。でも、それだけの“才能”があるなんて素晴らしいことじゃないか。

 

 「なんでお前みたいな野郎がジュエリーデザイナーなんて言われるんだよ!希望ヶ峰学園は何をどう間違えたんだ!?」

 「俺の家は鍛冶屋だ。鉄鋼を使ってモノを造る仕事を応用して、アクセサリーを造る仕事を姉が始めたんだ。その手伝いとして力を発揮しすぎた」

 「鍛冶屋の手伝いはしなかったの?」

 「父と仕事のやり方やもの作りに対する考えでぶつかってな。いわゆる反抗期というやつだ。考えてみれば俺が間違っていたのだが、その時はどうも決まりが悪くてな。姉の仕事という逃げ道に頼ってしまった」

 「それでアクセサリー作りに」

 「まあ、若気の至りだな」

 「マ・・・マ・・・!」

 

 そんなのって・・・そんなのって・・・!

 

 「Marrrrrrrrrrvelous!!!」

 「うおっ」

 「んっ!?」

 「すごい!!すごいですサイクロウさん!!Marvelousです!!」

 「な、なにがだ?」

 「カジヤは日本刀つくる仕事だってボク知ってます!日本刀は世界中でもハイレベルのアートなんです!So cool!ニッポンのトラディショナルアーティストのプロフェッショナルって感じでサイッコーにかっこいいです!しかもハンコーキでおとーさんとケンカなんて、すっごくセーシュンしてるじゃないですか!その上、Jewelry Designerの“才能”までブルーミングさせるなんて、サイクロウさんはかっこいいです!あこがれます!」

 「お、おう・・・?」

 「ガキンチョお前オレの話のときそんな目1回もしなかったろ!」

 「ダイスケさんですか?音楽大好きなのGoodだと思います」

 「雑ィ!!」

 「ボクもいつかは、サイクロウさんみたいに強くてかっこよくて大きなジェントルマンになりたいです!」

 「俺は別に紳士じゃないんだが」

 「いいなあ、ボクも言ってみたいなあ。まあ、ワケギのイナリだなって」

 「若気の至り、だね」

 「それでした!」

 

 最初に見たときからかっこいいなって思ってたけど、やっぱりサイクロウさんはかっこいい。ボクのあこがれを全部詰め込んだみたいな人だ。さっきもボクとこなたさんを助けてくれたし、池の前に集まってたときも周りの人のことをよく見てた。頼りになるなあ。

 

 「ところで、図書館の探索はどうなの?」

 「全然ダメだ。隠し扉の一つや二つあるかと思ったけど、マジで本ばっか。真面目な図書館だよ」

 「モノモノウォッチで本の検索や貸し出し・返却もできるらしい。思い付く内容の本は一通りあるな。大衆雑誌から研究資料、歴史書からマンガまで色々だ」

 「退屈しなさそうですね」

 「なあスニフよ。オレ激推しのエキゾチックでエキサイティングな本があるんだけどよ」

 「子供にヘンなことを教えるな」

 「ぐおっ!こ、こら頭つかむな!髪が崩れんだろが!」

 「ボク子供じゃないです!怖い本もへいきです!」

 「3人とも!」

 

 せっかくダイスケさんがボクにオススメの本を教えてくれようとしたのに、なんでかサイクロウさんが止めた。ダイスケさんのことだからボクを怖がらせようとか考えてるんだろうけど、ボクはオバケなんか信じてないからへっちゃらだ。そうやってさわいでたら、こなたさんがよく通る大きい声を出した。

 

 「図書館では静かに」

 

 普通に怒られた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 2人とペアを組んだはずのレイカさんは、別行動でショッピングセンターに探索に行ったらしい。なんだかみんなワタルさんの言いつけを破って1人で行動してるけど、どうもあのモノクマってやつはボクたちに危険なことをするつもりはないらしい。今まであのアナウンス以外に何もしてこないんだから。

 

 「様子を見に行きましょう」

 

 ショッピングセンターはものすごく広くて、大きな吹き抜けの下にモノクマの形をした銅像が建てられてる以外は普通のショッピングセンターだった。色んなショップが並んでて、服とかクツとかおもちゃとか、キッチン用品やトラベルグッズやキャンピンググッズなんかの専門店があった。1階は食べ物がたくさん売ってて、でも店員さんは1人もいない。

 

 「なんでもありそうですね」

 「うん。でも人がいないショッピングセンターはちょっと怖いね」

 「大丈夫ですよ!こなたさんに何かあってもボクが守りますから!」

 「うん、ありがとう。頼もしいよ」

 

 こなたさんに頼られた!YEAH!!

 

 「たくさんグッズがありますけど、どこから持ってきてるんでしょう?」

 「さあ。出口がないんじゃ、持ってくることもできないと思うけど」

 「気を付けろ」

 

 近くにあったガラス工芸品のお店の商品に触ろうとしたこなたさんを、たまたまお店の中にいたレイカさんが止めた。クリアーでキラキラ光るガラスのかざりの中に立ってると、なんだかレイカさん自身もキラキラしてるような気がしてきた。キレイだ。

 

 「安易に触らないことだ。何が起きるか分からない。後で壊したなんだと金を強請られるかも知れないぞ」

 「それくらいで済めばラッキーだね」

 「“超高校級の幸運”が何を言う」

 「レイカさんはこのショッピングセンターを探検してたんですか?」

 「ああ。と言っても、分かったことといえばここの品揃えが常軌を逸しているということくらいだな」

 「ジョーキを?SLか何か走ってるんですか?」

 「考えられないほどってことだよ」

 「下は全体が食べ物の区画だ。口に入れて食べることができるものなら古今東西なんでも揃っている。2階は専門店の区画だが、ここは神経質なほど細分化された専門店が並んでいる。モノモノウォッチで検索も可能だが、品揃えが良いを通り越して逆に不便なほどだ。茶碗と箸が同じ店で揃わないことなどあるとは思わなかった」

 「ふふふ、面白いところだね」

 

 さっきのライブラリも広かったけど、こっちのショッピングセンターもかなり広い。それだけたくさんのショップがあるってことだ。レイカさんは自分のモノモノウォッチを見せて、近くのショップを検索した。うーん、確かに不必要なほど細かくわけられてる。ドッグフードとキャットフードを別々のショップに分ける必要ってある?

 

 「いつの間にかみなさん、モノモノウォッチを使いこなしてますね」

 「モノクマが言っていた通りだ。買い物もこれを使う。所持金が10万モノクマネーある」

 「モノクマネーってなんですか?」

 「おそらくここでの通貨単位だろう。品物の値段を見る限り、日本円と同程度の価値のようだ。下手に使わない方がいいだろうな」

 「慎重なんだね」

 「世の中いつ何が起きてもおかしくない。自分の身は自分で守るしかないんだ。分からないことがあれば警戒くらいする」

 

 そう言ってレイカさんはまた腕を組んだ。分からないことがあればっていうのは、たぶんボクたちに対しても同じだって言いたいんだろう。ボクらはまだここにきて数時間とたってない。こんな風に会話をするのもふつうのハイスクールならいいけど、わけもわからず連れて来られた見たこともない場所だと、気を付けなくちゃいけないんだ。

 強い目付きで辺りをにらむレイカさんは、周りの景色から切り離されてるように見えた。

 

 「ダイスケさんとサイクロウさんがライブラリにいましたよ」

 「ああ、私が指示した。向こうは2人で調べろと」

 「ふつう、城之内くんか鉄くんが極さんを守るように分かれると思うけど」

 「奴らに対処できる危険なら問題ない。これでもそれなりに修羅場はくぐり抜けてきた」

 「シュラバ?」

 「っと・・・しまった、また余計なことを」

 「???」

 「いや、忘れてくれ。私は普通の女子高生だ。そう、普通の女子高生。いいか、普通の女子高生だ」

 「「フツウノジョシコウセイ」」

 「そうだ。さあもう行ってくれ。探索は私一人で十分だ」

 

 何かまずいことを言ってしまったとばかりに、レイカさんはボクたちに何回も念押しした。普通の女子高生ってなんだろう。ホリシって“才能”もよく分からないけど、なんだか分からないことが多い人だ。それはきっと、レイカさんがボクたちを警戒してるからっていうのもあるんだろうけど。またこなたさんが仲良くなりたいって言い出すんじゃないかと思った。

 

 「それじゃ極さん、また後でね」

 

 意外にもこなたさんはあっさりしてた。マナミさんやダイスケさんにはいってたのに、なんでレイカさんには言わないんだろう。不思議だったけど、こなたさんが行くからボクもそれについていった。




少しずつキャラを掘り下げていければいいと思います。掘り下げる間もなく退場したり序盤で掘り下げ切っても生き残ったりするかも知れません。そこは悟られないように上手いことやりたいです(願望)(できるとは言ってない)
文章力きたえよ・・・

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。