ダンガンロンパカレイド   作:じゃん@論破

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学級裁判編1

 

 まだモノクマCastle()Big clock(大時計)は、まだMidnight(真夜中)の前をさしてた。それでもこのClass trial(学級裁判)がおわるまでには、ボクたちはTomorrow(明日)をむかえるだろう。それは、マイムさんが生きたくても生きられなかった日だ。

 

 「さて、全員揃ったね!オマエラ全員、覚悟は決まってるね!」

 「覚悟決めて臨んだことなんか一度もないねえ」

 「やるしかねえんだろ。ちくしょう・・・けど、マジでこの中にいるのかよ。虚戈をあんな風に殺したヤツがよ・・・」

 「いなければ成立しない。追及すべき犯人が存在しないなど、根本から学級裁判のシステムが崩壊する。フフフ・・・仮にそうなった場合、我々はどうすればいいのだ?」

 「さあね!オマエラが導いた結論に応じて答え方は変わってくるよ!そんなのいちいちボクが答えると思う?」

 「答える気はないってことだね」

 

 Grinning(にやにや笑い)するモノクマがThrone(玉座)にすわったまま言う。やっぱりこの中にいるんだ。マイムさんをあんなCruel(残酷)Kill(殺す)した人が。ボクたちは、Circle(円形)にならんだ自分のモノヴィークルに乗る。

 もういなくなったハイドさんとマイムさんのモノヴィークルを見た。Full confidence(自信満々)なハイドさんと、Full smile(満面の笑み)のマイムさんのPortrait(遺影)がならぶ。

 

 「あの、ごめんなさい。まだ裁判が始まる前で悪いんだけど・・・虚戈さんのモノヴィークルに・・・」

 「待ちなよ正地氏。そりゃあどうせこの後の裁判で話すことになるんだからあ、今は一旦置いとこうよお」

 「裁判の主導権を握るつもりか、納見。議題の選択はお前がすることではない」

 「順序ってもんがあるからねえ。一つ一つを丁寧に整理していくのが何事も大事なのさあ」

 

 まるでClass trial(学級裁判)ではなすことが分かってるみたいに、ヤスイチさんがセーラさんをStop(制止)する。はじまるまえからレイカさんとヤスイチさんがちょっとQuarrel(喧嘩)みたいなMood(雰囲気)になっちゃった。そんなかんじのまま、4回目のClass trial(学級裁判)がはじまる。

 

 はじめて会ったときから、マイムさんはボクたちとはちがうんだって分かってた。Terrible(ひどい)ことを平気なかおして言って、Cruel(残酷)なことだってふざけてやる。Childish(子供っぽい)なこともするし、やることなすことTrouble maker(問題児)だった。それでもマイムさんは、コロシアイの中でも明るくて、Cheerful(陽気)で、いつでもSmile(笑顔)だった。ボクたちをSmile(笑顔)にしようとしてた。いなくなった今になって、マイムさんがいてほしかったと思う。

 

 だけどもう、マイムさんはもどってこない。ボクたちをSmile(笑顔)にようとしてた彼女は、Stage(舞台)できっとSmile(笑顔)のまま死んでいったんだ。そのマイムさんの命をおわらせた人が、ボクたちの中にいる。そしてまたボクたちは、命をかける。

 

 命がけのInference(推理)、命がけのFalsehood()、命がけのBlame(糾弾)、命がけのPleading(抗弁)、命がけのPursuit(追及)・・・命がけのClass trial(学級裁判)が、はじまる。

 

 

 

 

 

コトダマ一覧

【ステージの金具)

機材を立てるための輪っか状の金具。

周囲に細かな黒い汚れがある。

 

【停電)

虚戈のステージの最中、突如として停電が発生。

しばらく経ったあと復旧した。

 

【モノヴィークル)

モノクマランドの移動手段としてモノクマから支給されている。

個人のモノモノウォッチで起動し、ナビシステムや自動運転システム、安全装置なども搭載された優れもの。

 

【ゴムの切れ端)

発電機近くに停止していたモノヴィークルに括り付けられていた。

可愛らしいピンク色。

 

【足跡)

ステージからバックステージへ続いている血の足跡。

虚戈のステージ中には見当たらなかった。

 

【崩れた大道具)

ステージ裏に用意されていた大道具。

事件後は激しく崩れていた。

 

【砂袋)

エアリアルのパフォーマンスを行うときに使う上昇用の重し。

ステージ裏で破けて中身がこぼれていた。

 

【捨てられた靴)

靴底に血が付着したブラウンカラーの靴。

しっかりした造りだが、軽くて履き心地がいい。

 

【ロープ)

砂袋に結びつけられたロープ。

先端は黒くなって千切れていて焦げ臭い。

中程に細い金属が巻き付いている。

 

【細い金属)

ロープの中ほどに括り付けられている細い金属。

引き千切られたように歪に途切れている。

 

【剣呑み用模造刀)

剣呑みのパフォーマンスに使うダミーの刀。

軽く押すと縮む仕掛けがされているが、素人が扱うと危険。

事件後は鞘に血が付着しており、中は血まみれの真剣にすり替えられていた。

 

【崩壊音)

停電中にステージの方から聞こえた、何かが崩れる音。

 

【モノクマファイル⑤)

被害者は“超高校級のクラウン”虚戈舞夢。

死亡推定時刻はついさっき。

首を切断されたことによる即死。

 

【モノクマファイバー)

モノクマが開発した堅くて頑丈な次世代の金属線。

耐熱、耐刃、耐衝撃性に優れたものだが、塩による腐食に非常に弱い。

 

【極の証言)

虚戈の首の切り口は非常にきれいで、刃物の扱いに精通した者でなければできないほど。

 

【サーカステントの発電機)

サーカステントの電力を賄っている大型発電機。

危険物かつ高価なもののため、有刺鉄線で覆われている。

事件後、設置されている地面が湿っていた。

>>>アップデート

高性能ではあるが、ちょっとした衝撃や軽く水に濡れただけで壊れてしまう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学級裁判 開廷

 

 「まずは、学級裁判の簡単な説明から始めましょう!学級裁判の結果はオマエラの投票により決定されます。正しいクロを指摘出来れば、クロだけがおしおき。だけど・・・もし間違った人物をクロとした場合は・・・クロ以外の全員がおしおきされ、みんなを欺いたクロだけが、失楽園となり外の世界に出ることができます!」

 

 モノクマの説明と同時に、エントランス広場をモノクマ型の山車が高速で駆け巡る。愉快な音楽とカラフルなサーチライトでモノクマランドの夜空に彩色線を描きながら学級裁判の開廷を盛り上げる。さながらちんどん屋のようなその風体に、裁判場に立つ全員が難色を浮かべる。

 

 「うるさいな」

 「真夜中だからうっかりしたら居眠りしちゃいそうだからねえ、これくらい目にも耳にも煩い方がいいんじゃあないかい?」

 「学級裁判中に居眠りなんかするつもりなの・・・!?呑気にもほどがあるわよ!」

 「私は・・・スニフ君がちゃんと起きてられるか心配だな」

 「No problem(問題ない)です!マイムさんのShow(ショー)を見るためにCaffeine(カフェイン)たっぷりのTea(紅茶)をのみましたから!」

 「オレンジジュースもバカ飲みしてたろスニフ。トイレ行きたくなっても知らねえぞ」

 

 開始早々、事件とは関係ない話が始まる。いまひとつ緊張感に欠けるメンバーの気を引き締めるために、極が大きく咳払いした。

 

 「まずは事件の状況を振り返る。全員、モノクマファイルは確認しているな?」

 「フフフ・・・やはりまずはそこからか。まあ今回の事件の場合、ファイルに記載される情報に大して期待はしていなかったがな。想像以上に役に立たない」

 「死因は首を切断されたことによるショック死、死亡推定時刻はショーの最中。俺らが見たまんまだ」

 「一応私の検死結果を報告しておくと、ファイルに間違いはないし、ファイル以上の情報は得られなかった」

 「死因も死亡推定時刻もはっきりしてる分、前回みたいにそこから推理してくってのは難しそうだねえ」

 

 誰が見ても明らかな死因と死亡推定時刻。モノクマファイルの意味は、その情報を確定させるだけに過ぎない。故に議論を展開させるためには、自分たちが集めた手掛かりから話していくしかない。裁判を加速させるため、雷堂が裁判場に議題を投げる。

 

 「この虚戈の死因ってさ、どうやってやったんだろうな」

 「フフフ・・・やはりその話になるか。どうやって、というのは単なる方法論の話か?あるいは、その困難性の話か?」

 「両方じゃないかしら?一応、私の専門分野だから分かるけど、人の首って脊椎っていう骨がたくさんあるから、簡単に斬るなんてことできないわ」

 「単に首を斬ることの困難性ももちろんだが、その他にも問題がある。客席とステージが相互に監視できる状況で、気付かれずに虚戈に近付いて首を刎ねることなど不可能だ」

 

 これまでにないほど明確な死因、しかしその実行を考えたときに、困難さはそれまでの事件とは比べものにならない。相互監視の状況で、敢えて難易度の高い殺害方法を選んだ犯人の意図が見えない。裁判は自然と、殺害方法についての話になる。

 

 

 議論開始

 「虚戈さんは首を斬られて殺されたけど、あんなの誰にでもできることじゃないわ!」

 「例えば刀で切断するにしても、脊椎と脊椎の隙間に刃を潜らせなければならない。まさに達人級の腕前が必要だ」

 「っていうか、そもそも虚戈さんのショーは私たち全員が見てたんだよ。殺そうとして虚戈さんに近付いたら、すぐにバレちゃうよ

 「それはちげえぞ!」

 

 

 

 

 

 「虚戈が殺されたのは、テントが停電で真っ暗になってたときだ。あの間だったら、客席を抜け出してステージまで行ってもバレねえだろ」

 「いきなりBlackout(停電)してびっくりしました。あれって、Accident(事故)じゃなかったですか?」

 「ショーの最中に停電して、非常灯が点いたら虚戈が殺されてたんだ。事故だとしたらタイミングが良すぎる。犯人が犯行のために起こしたんだろ」

 「しかし、停電が起きていたのはそれほど長い時間ではない。あれだけの時間で客席からステージへ行き、虚戈の首を刎ねて再び客席に戻るなど、どうやっても不可能だ。一体どうやったというのだ・・・」

 「う〜ん、取りあえずさ、停電中におかしなことがなかったか、みんなで思い出してみようよ」

 

 研前の一言で、話題が分散していた裁判場の方向性が定まる。虚戈のステージの最中に突如として起きた停電のときのことを、全員が頭に思い浮かべる。互いの姿も、自分の足下さえも見えない暗闇の中で、可能な限り手掛かりを探り出す。

 

 

 議論開始

 「虚戈さんが殺害されたのは停電中のことだったんだよね?だったら、みんなで気になることを思い出してみようよ!」

 「つってもあんときは真っ暗だったからなあ。目の前もろくに見えなかったんだぜ?」

 「人の気配くらいなら感じ取れたが、ほとんどの者がパニックになっていたせいで正確な位置や姿勢までは分からなかった」

 「極氏は見聞色の使い手なのかい?」

 「何にも見えなかったですけど、見えなくても分かることがあるはずです!」

 「それだ!」

 

 

 

 

 

 「スニフの言う通りだ。停電中は全員が視界を奪われてたけど、視覚以外の情報だってあったはずだ」

 「視覚以外の情報ってえ・・・そういやあ雷堂氏はミートソースパスタを被ってたねえ」

 「味覚じゃねえよ!音だよ音!」

 「音?」

 「停電の最中に、ステージの方から大きな音がしたのを聞いたんだ。俺だけじゃない、正地だって聞いたんだ。そうだろ?」

 「ええ。なんだか、重たい物が何かにぶつかって崩れ落ちるような・・・崩壊音って感じだったわ」

 「そんなデカい音なんかしたか?」

 「下越君は一番大きい声で騒いでたから分からないんだよ。その音なら私も聞いたよ。聞き間違いかと思ってたけど、やっぱり間違いじゃなかったんだ」

 

 スニフの発言を捉えた雷堂が、停電中に耳にした音について説明する。捜査時間中に話を聞いた正地以外に、研前もその説明に同意する。虚戈のステージでは、舞台上には虚戈以外には何もないし誰もいなかった。その中で何かが崩れ去るような音が、ステージ上からするはずがない。

 

 「じゃあその崩壊音の正体ってのはなんなんだい?」

 「それなら・・・おそらくアレだろう、なあ少年」

 「はい!ボクとエルリさん、その正体知ってますよ!」

 

 

 証拠提出

 A.【崩れた大道具)

 B.【サーカステントの発電機)

 C.【モノヴィークル)

 

 

 

 

 

 「ステージ裏を捜査したとき、無惨な姿に崩れ去った大道具の山を発見した。虚戈が崩した可能性もあるが、他に大きな崩壊音を出すようなものはない。その他の理由からも、停電中に聞こえた音の正体はこれだと言えるだろう」

 「異論はないな」

 「あ、今はもうボクがTidy up(お片付け)したからキレイになってますよ!あのままじゃDanger(危ない)でしたから!」

 「えらいねスニフ君」

 「A-hem(えっへん)!」

 

 捜査においては現場の保存が大原則のため、スニフがしたことは捜査の延長とはいえ避けるべきことだった。しかし今となっては仕方ないことのため、極は言葉を呑む。それよりも、追及すべきことがある。

 

 「ん?でも、その大道具の山ってステージ裏にあったんだろ?」

 「Yes(はい)!」

 「でもあの停電のとき、ステージ裏には誰もいなかったはずだろ。オレたちは客席にいたし、虚戈はステージにいたはずだ」

 「確かにねえ・・・まさか自然に崩れたなんて都合のいいこともあるわけないだろうしい。何か理由があるはずだねえ」

 

 

 議論開始

 「なんでステージ裏の大道具がいきなり崩れたんだ?」

 「あの大道具、ものすごく雑に立て掛けられたりしてたからな・・・自然に崩れたんじゃないか?」

 「そんな都合のいいことなんてあるのかねえ」

 「客席でみんなドタバタしてたよね。その震動で崩れちゃったのかも!」

 「いやあの・・・もう少し現実的に考えてみない?設置されていたものが崩れたんだったら、普通に考えれば、何かがぶつかったって考える方が自然だと思うんだけど」

 「良い勘をしている・・・!」

 

 

 

 

 

 「私は正地の意見に賛成だ・・・というより、私が考えていたことと同じ事を正地が言ってくれた」

 「そ、そうなの?荒川さん」

 

 呆れたように言った正地の言葉を、荒川が拾い上げた。実際に現場を捜査した人間にしか分からないことだが、あの大道具の山が崩れたのは明らかに外力が働いた結果だ。その外力が何なのかも、スニフと荒川には見当がついていた。

 

 「ステージ周辺を捜査した者なら知っているだろうが、ステージからステージ裏まで、足跡がついていた」

 「なにっ!?そんなのあったのかよ!?」

 「あ・・・うん、私も気になってた」

 「虚戈の作った血溜まりの中からはじまり、ステージ裏の途中まで続いていた。事件前にはなかったことやその色から、犯人が残したものと考えられる」

 「で、でもでも!Forgery(捏造)かもしれないです!」

 「少年・・・疑えとは言ったが、今は一旦犯人のものとして考えるのだ。捏造の可能性を疑うのは、矛盾が生じてからでいい」

 「What(あれぇ)!?」

 

 捜査時間と言ってることが違って聞こえる荒川にスニフは戸惑う。議論の場においては信じるものと疑うものの取捨選択が重要なのだが、スニフはまだそのことを理解していない。面食らって目を丸くするスニフをよそに、荒川は議論を進める。

 

 「足跡がついた経緯はこうだ。停電中、犯人は虚戈を何らかの手段で殺害する。そしてステージ裏を通って逃亡するが、そのときに血溜まりを踏んでしまい血の足跡を残す。そしてステージ裏を逃げる最中、あの大道具の山にぶつかったのだ」

 「それであの大きな音がしたってわけか・・・」

 「ん・・・ちょっと待ちなよお。ってことはあ、犯人の靴にはまだ虚戈氏の血が付いてるんじゃあないかい?」

 「いや、さすがにそこまで間抜けな犯人ではないようだ。大道具の山の中に、血の付いた靴が脱ぎ捨てられていた。おそらく足跡が付いていることに気付き、そこで捨てたのだろう」

 「ボクもってきました!」

 

 スニフが足下に置いていた靴を持ち出す。ブラウンのしっかりした造りの靴で、靴底には赤黒い何かが付着している。足跡を詳しく調べていない者でも、それがステージについていた足跡と似ていることは見ただけで分かった。そして同時に、その後の展開まで予想がつく。

 

 「これが捨ててあった靴だ。ここにいる我々の靴を調べたところで、犯人の靴底に血は付着していまい」

 「え・・・でも・・・」

 「そう。しかし、この靴とよく似た靴を履いているものなら、ここにいる。たった一人だけ、な」

 「茶色くて、ブーツ型の靴を履いてるヤツって・・・」

 

 全員の視線が、互いの足下に向く。ヒールを履いた研前、ローファーを履いたスニフ、草鞋を履いた下越・・・それぞれの靴を、スニフの証拠品と照らし合わせて疑わしい者を探す。今、学級裁判場にいる者の中で、茶色のブーツを履いている人物は一人しかいない。自然と全員の目は、その者に集まる。

 

 

 人物指名

  スニフ・L・マクドナルド

  研前こなた

  須磨倉陽人

  納見康市

  相模いよ

  皆桐亜駆斗

  正地聖羅

  野干玉蓪

  星砂這渡

  雷堂航

  鉄祭九郎

  荒川絵留莉

  下越輝司

  城之内大輔

  極麗華

  虚戈舞夢

  茅ヶ崎真波

 

 

 

 「言わずとも分かる。そんな靴を履いているのは私だけだ」

 

 誰かに指摘されるより先に、全てを察していた極が口を開く。この中でブーツを履いているのは、自分だけであると理解していた。腕を組んで鋭い視線を居並ぶ者たちに向けながら、その表情は全く揺るがない。

 

 「ってことはあ・・・この事件の犯人は極氏ってことかい?」

 「で、でも靴があるってだけで犯人と決めつけるのは、いくらなんでも乱暴なんじゃない?」

 「正地氏、大事なのは証拠の寡多じゃあないよお。状況的には全員が同じくらい疑わしくてえ、出てきた証拠で一人疑わしい人がいるんならあ・・・徹底的に追及すべきじゃあないかい?」

 「で、でも・・・」

 「納見の言う通りだ」

 

 納見に同調し、戸惑う正地を諭したのは、極だった。自分が疑われているにもかかわらず、冷静かつ客観的に状況を把握し、次の議論を促している。それに呼応するように、納見も極を睨み付ける。それは、ただ荒川とスニフの言い分を鵜呑みにして極を疑っているわけではなく、信じるべきものと疑うべきものを見分けるために、極を糾弾する意志の表れである。

 

 「そんじゃあ疑わせてもらうよお、極氏。キッチリ反論しておくれよお」

 「受けて立つ。疑わしきは追及すべきだ・・・故に、反論させてもらうッ・・・!」

 

 

 反論ショーダウン

 「スニフ氏が持ってきた靴はあ、現場に残ってた足跡と一致しているんだろお?」

 「おれたちの中で茶色のブーツを履いているのは極氏だけじゃあないかあ」

 「逃亡中に足跡がついてるのに気付いて脱ぎ捨てたってことだろお!」

 

 「この靴に似た物など、ショッピングセンターに行けば誰でも手に入れられる」

 「停電まで引き起こして犯行を見られないようにした犯人が、足跡を残すなどとマヌケなことをすると思うか?」

 「私とて全くの素人というわけではない。あまり私をナメてくれるなよ・・・!!」

 

 発展!

 

 「ショッピングセンターで手に入れられるとしてもお・・・サイズが極氏のものと一致しているんじゃあないかい?」

 「あそこの品揃えを見ればあ、他人が似たものを揃えようとしたって簡単にはいかないことくらい分かるだろお」

 「その点、スニフ氏が持ってる靴は極氏の靴と完全に一致しているじゃあないかあ!」

 

 「浅いッ・・・!!」

 

 

 

 

 

 「私の靴と完全に一致している・・・か。ならばスニフ、その靴を納見に貸してやれ」

 「Eh(え?)?は、はい・・・」

 「何だって言うんだい」

 

 スニフから靴を受け取った納見が、靴を調べてみる。色合いといい形といい、極が履いているものとよく似ている。

 

 「靴底を叩いてみろ。おそらくその靴には、()()()()だろう」

 「どういうこと?」

 「・・・うん、ただのゴムと樹脂の感触だねえ。ごく普通の靴だよお。で、これがなんだってんだい?」

 「では私が今履いている靴だ。よく聞いておけ」

 

 モノヴィークルの上で極が履物を脱ぎ、裁判場を静まらせてから靴底を叩く。同じようにゴムと樹脂の合成物を叩く音の中に、僅かだが金属音が聞こえる。よく聞かなければ分からないが、その差異ははっきりと感じ取れる。

 

 「金属音・・・なんだそれ?」

 「私の靴は特別製だ。いつ何時、何があっても対処できるよう、靴底に金属板が仕込まれている」

 「なん・・・だと・・・!?そんなスパイグッズのような靴が本当にあったのか・・・!?」

 「何があってもって・・・何があると思ってるのよ、極さんは」

 「ちなみにたまたま履いているわけではない。遺跡エリアでこれが役に立ったのを下越が確認しているだろう」

 「お、おう!そういやそうだったな・・・あの罠を防ぐくらいだから、相当しっかりしたヤツなんだよな」

 「In brief(つまるところ)、レイカさんのShoes()とはちがうから、レイカさんが犯人(クロ)じゃなくなったってことですね!」

 「いや待て、こうなることを予測して、敢えて鉄板の仕込まれていない靴を用意したのではないか?」

 「こうなることが分かってたんなら、普通に全然違う靴を用意した方がよかったろ。わざわざ自分に疑いを向けさせる意味なんてないじゃんか」

 「そりゃそうだな!」

 

 荒川の疑問も、雷堂が一蹴する。たった1つの証拠品で全ての結論を出すなどはじめから期待していない。今分かったのは、現場に落ちていた靴が、極のものに似せただけの偽の証拠品であるということだけだ。

 

 「ってことはあ、この靴は極氏に疑いを向けさせるために真犯人が用意したダミ〜だってことかい・・・ごめんよお極氏」

 「謝るな。疑わねば議論が先に進まないし、まだ私が完全に潔白になったわけではないのだ」

 「冷静だね・・・あ、でもさ。ってことは、あの足跡も偽物の可能性が出て来ない?」

 「え、どしてですか?」

 「だって極さんの靴に似せた靴で、わざとらしく足跡が残ってたんだよ?大道具の山に靴を捨てたのも、捜査時間で見つけさせて極さんに疑いを向けさせるためだったとしたら・・・足跡自体が犯人の作った偽の証拠って考えられるよね」

 「おお・・・今日は冴えてるな、研前」

 「そ、そんな、たまたまだよ・・・」

 「ムッ!こなたさんさすがです!Clever(賢い)です!Detective(探偵)みたいです!」

 「スニフくん。そこまで言うと逆に嫌みになるわよ」

 「How come(なんで)!?」

 

 どこまでも冷静な極は、たとえ自分自身への疑いであっても安易になくさせることを許さない。一方、研前は足跡の信憑性を疑い、焦って余計なことを言ったスニフがひっくり返る。議論は残された足跡について動き出そうとするが、誰が残したのか、いつの間に残したのかを追究する手掛かりはない。

 

 「足跡は偽装・・・しかし誰がどのように残したかは不明。その手掛かりも、停電中のことではほとんどない。フフフ・・・この辺りが潮時か」

 「し、潮時・・・?なんだよそれ・・・?」

 「僅かながらも議論が進んだのだ。ここまで話したことは無駄ではない。しかし手掛かりのないことをいつまでも考えていても消耗するだけだ。ならば、話題を変えて違う角度から真相に迫るべきではないか?」

 「そうだねえ。他にも分からないことはまだまだあるんだしい・・・こだわっても仕方ないからねえ」

 「私も異論はない。それで、何か話したいことでもあるのか?」

 「ああ。もちろんだ」

 

 膠着しそうになった議論に、荒川が動きを与える。停滞する前に議論の方向性を変え、無意味に時間だけが過ぎる状況を回避した。この裁判が、いつモノクマの気紛れで途切れさせられるか分からないのだ。

 

 「今回の事件の特異性は、何よりも死体の損壊状況だ。見事なまでの斬首による殺害・・・その難しさが分かる者は・・・私だけではないだろう?」

 「ああ、私も分かる」

 「・・・わ、私も」

 

 極が控えめに、正地がおそるおそる、手を挙げる。議論を始める前提として、いまいちピンと来てないスニフや下越に、人の首を切断することの難しさを改めて説明する。

 

 「一般に脊椎動物の首は、幾つもの骨が連なっている。人間の場合は7つだ。骨というのは生物の身体の支柱となるもので、日本刀のような鋭利な刃物であっても切断するのは用意ではない。おまけに人間の場合はその周囲に筋肉と脂肪の肉壁があり、刃が骨に到達する前にその威力を大幅に削減する」

 「ん・・・なんとなく、言いてえことは分かる。骨ごと切るんだったら包丁じゃなくて機械持ってきた方が手っ取り早いしな」

 「故に人の首を斬るときには、骨と骨の継ぎ目を狙い、なおかつ肉を断つために勢いよく振り抜く必要がある。数㎝の肉塊を一刀両断する力と、数ミリの誤差も許されない精密さが求められる。それが、ろくに固定もされていない生きた人間を相手になれば、もはや神業と言えよう」

 「神、というのは言い過ぎだろう。達人級の腕前くらいがちょうどいい」

 「そこの比喩はどっちでもいいと思うわ。すごいことに変わりはないから。みんな、どれくらい難しいことか、分かった?」

 「I see(はーい)!」

 

 生々しくも具体的な荒川の解説で、裁判場にいる全員が、その難易度を理解する。と同時に、虚戈の死体の状況がどうやって引き起こされたのか、より一層分からなくなる。虚戈が殺害されたのは停電中であることは明らかだが、いま説明されたその神業を、一寸先も見えない暗闇の中で行うというのだ。

 

 「けど、何も見えねえ中でそんな数ミリを狙って首刎ねるなんて、できるわけねえだろ!んなもん神業どころの話じゃねえぞ!もっとすげえ・・・超神業じゃねえか!」

 「もっと端的に言うならあ、無理、だねえ」

 「無理だな」

 

 停電の中ではまともに歩くことさえできなかった。直前まで輝かしいステージを見ていたせいで、暗闇に慣れていなかった目は照明が消えたテントでは何の役にも立たなかった。その中で精密に虚戈の首を刎ねることがほぼ不可能に等しいことは、全員が理解できた。

 

 「ってか、そもそも虚戈を殺した凶器はなんだったんだよ?オレの経験じゃ参考にならねえかもだけど、魚とか鶏の頭落とすのだって、それ用の包丁じゃねえと難しいぞ」

 「まあ、ポケットにしまっておける程度の凶器では不可能だろうな」

 「でも犯人はどっかに凶器を隠したはずだろ!どっかになんか怪しいものなかったのかよ!」

 

 

 議論開始

 「首をはねるのが難しいとか以前に、そんな凶器どこにあったってんだよ?」

 「テントにいた者は、私と雷堂が持ち物をチェックしていた。大ぶりの凶器を持ち込む隙などなかったはずだ」

 「ギロチンみたいな大掛かりな装置があったわけでもないよねえ」

 「でもやっぱり、日本刀とかじゃないのかな?」

 I agree(それに賛成です)!」

 

 

 

 

 

 「ボク、Backstage(舞台裏)で見ました!Props(小道具)犯人(クロ)がつかったようなSword()があったんです!」

 「ほ、本当にそんなのがあったの・・・?」

 「いやでも、舞台裏に刀なんてあったら虚戈が気付くだろ」

 「マイムさんおしえてくれました。Performance(パフォーマンス)Swallowing a sword(剣呑み)につかうSword()は、Trick(仕掛け)があるDummy(ダミー)なんです。でも、ボクがみつけたのは、Real sword(真剣)でした」

 「虚戈のものと思われる血もべっとりと付着していた。間違いないだろう」

 「・・・っていうことは、犯人は舞台で虚戈さんの首を日本刀で斬った後、舞台裏の模造刀に隠して、逃げたっていうこと?」

 「そうなるな・・・いやでも、そうなると停電中に虚戈の首を刎ねたことになるぞ」

 

 スニフが見つけた血だらけの真剣が、人を殺傷するのに十分な力を持っていることは誰の目にも明らかだった。しかし、それを前提とすると、やはり犯人の神業級の犯行が問題となってくる。停電で足下も見えない中で、自由に動ける虚戈の首を正確に切断し、誰にも気付かれないまま客席まで戻る。どうすればそんなことができるのか、見当も付かない。

 

 「やはり犯人の行動に不可解な点は残る。しかし・・・犯人の可能性が最も高い人物ならば、明白なのではないか?」

 「・・・」

 

 メガネを光らせて、荒川が呟く。俯いているせいでいびつに歪んで見える荒川の真っ赤な目が、舐めるように裁判場にいる全員の顔を覗き込んだ後、最も疑わしい人物へ照準を合わせる。

 

 「私たちの中で、日本刀などという大ぶりな凶器を扱える者は、お前くらいだろう。極」

 「ま、また極さん・・・!?さっき疑いは晴れたじゃない・・・!」

 「いいやあ、晴れたのは残された靴が極氏の物だって疑いだけさあ。極氏が犯人だっていう疑いはまだ何にも説明されちゃあいない」

 「・・・しつこいな、お前も」

 「可能性があるならば徹底的に追究する質でな。科学者とはそういう者だ」

 

 極と荒川が睨み合う。それを見守る6人の中で、日本刀の扱いに覚えがある者など、もちろんいない。しかし極が日本刀を扱えるという話を聞いたことがある者もいない。それでも、極ならできてもおかしくない、という共通認識もまた存在した。

 

 「ただしこれはあくまで可能性でしかない。極が日本刀を扱えるというのも私の勝手なイメージに過ぎない。ただ者ではないことは確かだろうがな」

 「・・・日本刀は、触ったことがある程度だ」

 「触ったことはあるんだ・・・!?」

 「あんな重くて長いものを隠して持ち運ぶことなど不可能だ。それに、確実に虚戈を殺害するのなら、首を狙う必要はない。正面から腹を数回刺突するだけで、十分致命傷を与えることができる。わざわざできる者が少ない斬首などする必要がない」

 「その知識は一体どこで身に着けたものなんだい・・・」

 「まあ、今はいいだろその辺は。それより、極の言うことも一理あると思うぞ俺は」

 

 少々強引な荒川の意見に、正地だけでなく雷堂も極への疑いに疑問を持ち始める。しかし極を弁護したところで議論が進むわけでもなく、荒川の指摘も不安定な根拠に基づいていると言えど、一定の説得力はあった。

 

 「おいおい・・・なんだよこれ。真っ二つじゃねえか」

 「真っ二つ?いま、真っ二つって言いました?」

 「え、な、なんだよ」

 「うぷぷぷぷ♬今こそ、モノヴィークルを使った青空学級裁判の真価を発揮するとき!自由自在に変形するこの裁判場で、オマエラの意見を真っ向からぶつけ合ってくださーい!変・形!!」

 

 下越の言葉尻を逃がさなかったモノクマは、決め台詞を吐きながらスイッチを押す。それぞれのモノヴィークルが動き出し、円形だった裁判場は互いに向かい合わせの二列へと変形した。その組み分けは、今まさに議題となっている、極が犯人であるという推理に賛成する者と反対する者、その組み分けと一致していた。

 

 

 議論スクラム

 『極麗華はクロか?』〈クロだ!〉VS《クロじゃない!》

 

 ──虚戈の死因──

 〈虚戈は首を切断され死亡していた。それができるのは極だけだ!〉

  《極さんにしかできなかったって言うのは、結論を急ぎすぎよ!》

 

 ──日本刀の扱い──

 〈極氏はおれたちの中で一番日本刀の扱いに長けてるんじゃあないのかい?〉

  《触ったことがある程度だ。人を斬るなどという高等技術は持ち合わせていない》

 

 ──証拠品──

 〈足跡を付けていたあの靴も、敢えて自分の靴と近い物を選ぶことで濡れ衣を着せられたというイメージを植え付けたかったのではないか?〉

  《そんなことするくらいなら、全く同じ物を用意できるスニフや俺に濡れ衣を着せた方がいいだろ》

 

 「これが俺たちの答えだッ!!」

 

 

 

 

 

 納見と荒川が極を追究し、雷堂と正地がそれに異を唱える。しかしどれほど考えても、極自身の潔白を証明する手段が浮かばない。極だけが特別疑わしいという論を否定することはできるが、それではただふりだしに戻るだけだ。この裁判には、決定的な証拠も、決定的な推理も、まだ現れていない。

 

 「・・・極氏だけが疑わしいってわけじゃあないのは分かったけどお・・・これじゃあいつまで経っても同じことの繰り返しだよお」

 「やっぱり、停電中に犯行に及んだっていうのが大きいよね。このままじゃ何にも分からないままだ・・・」

 「一旦、分かったことをまとめてみないか?ここまで議論してきたことは、ゼロじゃないんだろ?」

 「分かったこと・・・なんかあったっけ?」

 「なんで覚えてないのよ」

 

 状況の整理のため、現状を把握するため、ここまで明らかになったことをまとめる。雷堂が音頭を取って、現状疑惑の中心にいる極がそれをまとめる。しかしそれでも、明らかになったことはまだ少ない。

 

 「ひとまず確定事項としては、虚戈は停電中に首を切断されて殺害されたということだ。そして犯人は停電中に何らかの行動を行い、虚戈の殺害と、私の靴によく似たダミーの靴を使って、証拠の捏造をした。凶器の日本刀を小道具の中に、偽造に使った靴は大道具の中に隠し、非常灯が点く前に客席に戻って来た」

 「うん、それで間違いないと思うよ」

 「こう考えると、あの短い停電のうちに犯人は結構色んなことやってんだな」

 「・・・ホントにそうでしょうか」

 「ん?どしたスニフ」

 

 おおまかな犯行の流れは、全て停電の内に行われたものだ。何をどう考えても、どのように推理を進めても、そこが障害となる。時間的にも物理的にも犯行が不可能なはずの時間帯に、犯人はどうやって虚戈を殺害したのか。その疑問点に、スニフが声をあげる。

 

 「やっぱり、おかしいですよ。ボクたちみんなGuest seat(客席)にいたんですよ。Blackout(停電)なってからマイムさんのところまで行ってまたもどるなんて、ムリです!」

 「いやまあ、それはそうなんだけど・・・」

 「それと、もし犯人(クロ)Footprints(足跡)Forgery(捏造)したなら、それもおかしいんです」

 「おかしいって、何が?」

 「犯人(クロ)Sword()でマイムさんKill(殺す)したら、Props(小道具)にかくすときにそっちにFootprints(足跡)のこすはずです!でも、ボクたちが見たのはStage(舞台)からまっすぐStage set(大道具)の方いってました。これって・・・犯人(クロ)がつくったんだったら、おかしくないですか?」

 「ん・・・ああ、そっか。犯人が足跡でミスリードさせたいんだったら、舞台から一回小道具のところに行って、そこから大道具の方に行くはずだよな」

 「しかし、それがどうしたというのだ?あれは偽造だと分かっているではないか」

 「・・・凶器が、日本刀じゃない?」

 「!」

 「はい。ボクもそうおもいます」

 

 スニフが研前に同意する。舞台裏に残されたダミーの足跡と、血で汚れた日本刀。この2つの証拠は、虚戈殺害の一連の動きを連想させると同時に、互いに矛盾していた。凶器の日本刀が隠された小道具がある場所は、足跡が辿るルートから大きく外れている。

 

 「どっちもDummy(ダミー)なんです。Japanese sword(日本刀)が凶器だったら、Footprints(足跡)がちっともいみないです。Mislead(ミスリード)の役目もできないです」

 「だからどちらも偽物というのは飛躍してるんじゃない?それに、日本刀が凶器じゃないんだとしたら・・・犯人はどうやって虚戈さんの首を斬ったの?」

 「首刎ねるのが難しいってのは荒川が言った通りなんだろ?日本刀でだって難しいってのに、他のもんでできるもんなのかよ!?」

 「・・・できるかも、しれません」

 

 矛盾する証拠から推測されるのは、凶器が日本刀ではないという可能性。しかし斬首の難しさが共有された裁判場では、もはやそれ以外の凶器など考えられるはずもなかった。それでもスニフの言葉で、全員が知恵を絞る。刀を使わずに、虚戈の首を刎ねる方法を。

 

 

 議論開始

 「日本刀でさえ難しいことを、それ以外の凶器でなど・・・想像も付かないな」

 「スニフと荒川は舞台裏を捜査したんだろ?他に刃物とか、切れそうなものはなかったのかよ?」

 「私は見ていないな。人の首を切断できる物など、そこら辺に転がっているものではない」

 「そりゃそうだ。刃物ってのは間違いないだろうけどな」

 That's wrong(それは違います)!」

 

 

 

 

 

 「ボクのIdea(考え)が正しかったら・・・マイムさんの首をきったの、Sword()じゃないです。Cutlery(刃物)じゃなくても、切ることできます」

 「な、なんだそりゃ・・・!?んなことできんのかよ!?」

 「・・・スニフ氏が考えてるものって、一体なんだい?」

 「それは・・・」

 

 

 議論開始

 「Cutlery(刃物)じゃなくても、首を切ることできます!」

 「むちゃくちゃ言ってんじゃねえよ!首切るのがムズいってのは極と荒川が言ってただろ!」

 「ああ。生半可な得物では、あそこまで切り口をキレイに切断することはできん」

 「でも、ダミーの日本刀の他に刃物はなかったんでしょ?」

 「やっぱり、凶器はその日本刀なんじゃないのか?刃物以外でものを切るなんて不可能だろ!」

 You’re overlooking(見落としてます)!」

 

 

 

 

 

 誰一人として、気付いていない。刃物とは異なる手段でものを切断する手段を。スニフだけが、唯一その手段の可能性を見出していた。

 

 「ワタルさん。テルジさん。おふたりだったら分かります。あのTent(テント)には、Cutlery(刃物)くらいよく切れるものあります」

 「え・・・オレ、分かるのか?」

 「テルジさん、ボクにおしえてくれました。Sandwich(サンドウィッチ)切るとき、テルジさんはKnife(包丁)つかわないです」

 「んん?なんだそれ?」

 「サンドイッチ?いつのまにそんなの作って食べてたの?」

 「いや、前にスニフが、部屋で夜中にこっそり食べるもんないかって聞いてきたんだよ。スナック菓子食べるよりは野菜も取れるし部屋も汚れにくいからいいかと思ってさ」

 「あー!テルジさんそんなに言わなくていいですよ!」

 「夜中に部屋でこっそりサンドイッチ食べてたの。そんな美味しそうなことなら隠さなくてもよかったのに」

 「あうぅ・・・だって、おやつでもないのに食べたらおこられると思ったんです・・・」

 「何の話をしているんだ」

 

 思いがけない暴露にスニフが慌てて下越を止める。夜食を食べるくらいで誰もスニフを責めたりしないが、スニフとしては少々背徳的な行為と捉えていたらしい。呆れた極が会話を止めていなければ、サンドイッチにどんな具を挟んでいたかを研前がスニフから聞き出そうとしていたことだろう。

 

 「要はそのサンドイッチの作り方が本旨なのだろう。下越、どう教えたかその場で言ってみてくれ」

 「おう。まあ作り方っつってもスニフでもできるヤツだからな。火も刃物も使わないで作れるやり方を教えてやったんだ。パンと具材はオレが準備して、後はパンにバター塗って具を挟んで糸で切るだけだ」

 「糸?」

 「パンとかケーキとかって、包丁で切ると潰れちまうだろ?あとはゆで卵の飾り切りとかするのに包丁だと難しいんだよ。だから、ミシン糸とかほっそいヤツ使って、それで切るんだ。ちゃんとやれば包丁より使い勝手いいぜ。ただの糸だからスニフが扱っても危なくねえしな」

 「そうか・・・糸か」

 

 下越の話で、スニフが言わんとしていることを下越の以外の全員が理解した。しかし、納得には至らない。まさかただの糸で人体が切断できるわけもなく、そもそもそんな強靭な糸のようなものが、どこにあったというのか。

 

 「糸を使えば確かに、ものを切ることはできるかも知れないね。でもさすがに人を切るなんてことは・・・」

 「あります。とてもStrong(強い)な糸が」

 「・・・ああっ!あれのことか!」

 「雷堂氏、知ってるのかい?」

 「たぶんだけど、スニフが言ってるのってアレだよな?」

 

 

 証拠提出

 A.【モノクマファイル)

 B.【モノヴィークル)

 C.【モノクマファイバー)

 

 

 

 

 

 「モノクマファイバーだよな?」

 「そうです!」

 「モ、モノクマファイバー?なんなのその、胡散臭そうな名前は?」

 「胡散臭くなんかないよ!ボクが開発した、軽量かつ化学的に超強靭ながらも加工のしやすさも兼ね備えた、ハイパー次世代な金属繊維だよ!」

 「金属繊維か・・・」

 

 はじめてサーカステントに立ち入ったときにモノクマから聞いた説明を思い出して、雷堂が声をあげた。雷堂に細かい性質などは分からないが、とにかく強くて扱いやすい金属線ということだけは覚えていた。ごく細いモノクマファイバーを使えば、サンドイッチを切る糸の代わりになるかも知れない。

 

 「い、いや待てよ?確かにモノクマファイバーなら下越が言うみたいにできるかも知れないけど、それはパンとかの話だろ?人の身体なんてさすがに・・・無理だよな?」

 「フフフ・・・そうとも限らないぞ。それほどまでに強靱かつ細い繊維があるのなら、相応の仕掛けを施せば人体を切断することも可能かも知れないぞ。現場にあった証拠品をかき集めれば、それもできそうだ」

 「本当に?」

 「そもそもモノクマファイバーが使われたって証拠だって、ないんじゃないの?」

 「・・・」

 

 現場の状況を思い返し、スニフは考える。刃物の代替品として浮上したモノクマファイバー。しかしその凶器としての性能は、あまりに貧弱過ぎる。そのモノクマファイバーを、斬首すら可能な凶器に変える仕掛けを。そのヒントは、現場で見つけた証拠品に隠されているはずだ。

 

 

 トリックインスピレーション

 連想1.現場にモノクマファイバーらしきものはあったか? 【金属線)

 連想2.モノクマファイバーはどんな状態で見つかった? 【ロープ)

 連想3.そのロープで他に特筆することは? 【砂袋)

 

 「これで証明できるはずだ・・・!」

 

 

 

 

 

 「モノクマファイバーと思われる金属線は、舞台裏の大道具の山に紛れていた太いロープに巻き付けられていた。引き千切られたような痕があったが、間違いないだろう」

 「引き千切った痕?金属線をか?」

 「そしてそのロープには砂袋が結びつけられており、大道具の山の中で破けた状態で見つかっていた。さらにその反対側は輪っか状になっていたようだが、先が焼け焦げていた。これらを総合して考えると、ある仕掛けが連想される」

 「全っ然わからん!」

 「だがそれには証拠が足りん。お前たちの中で、この焦げたロープに関する証拠を持っている者はいるか?」

 「ロープ、かは分かんないけど・・・」

 

 推理を披露しはじめた荒川に、研前がパスを出す。焦げたロープそのものとは異なるが、捜査した中で焦げなどの火を連想するものはほとんどない。少し遠慮がちに、研前は証拠を提出する。

 

 

 証拠提出

 A.【ステージの金具)

 B.【停電)

 C.【発電機)

 

 

 

 

 

 ステージ袖の暗幕の裏にあった、輪っか状の金具。同じ物がステージの四隅にある中で、納見と研前が捜査したものだけは、その輪の中に煤がこびり付いていた。今の荒川の話からして、そのロープの焦げた先端によるものと容易に推測できる。

 

 「ステージの金具の煤・・・あれって、そのロープが焦げた痕なんじゃないかな?」

 「ん?でもステージ袖にあるヤツだろそれ?ロープは舞台裏なんだぞ。間には暗幕があるし、それも犯人が回収して捨ててったのか?」

 「フフフ・・・まさにそういった証拠が欲しかったのだ。その煤はロープが焦げた痕跡で間違いないだろう。そして、ロープは犯人が回収して捨てたのではない。ロープは自動的に舞台裏に移動したのだ」

 「じ、自動的に・・・?言ってる意味が分からないんだけど・・・」

 「今から説明する」

 

 新たに得た証拠で確信を得たらしい荒川が、メガネを光らせて懐から紙切れとペンを取り出した。そしてざかざかと簡単に図を描くと、全員のモノヴィークルを寄せて見えるように出して説明をはじめた。

 

 「まずここがステージで、虚戈が立っていた場所だ。舞台袖の金具がここ、そして舞台後ろの暗幕があり、その裏には大道具の山がある。犯人はここに仕掛けを施して、その場におらずして虚戈を殺害する装置を造り上げたのだ」

 

 全員に見せながら、図にその仕掛けを書き込む。

 

 「ステージ裏には、エアリアルで使うための砂袋があった。ロープの片方にこれを結び、テント屋根裏の梁にかけてステージ側に通す。砂袋が宙に浮くように反対側をステージの金具に結ぶ。こうすると、重い砂袋によってロープがピンと張るのは分かるだろう」

 「ああ。そりゃそうだな」

 「そしてこのロープの中程には、金属線が結びつけてあった。これがモノクマファイバーだろう。これをさらに特殊な結び方にして大きな輪っかにし、ステージ上の虚戈を囲うように配置する。モノクマファイバーは極細い金属線であるから目立たないし、事件当時は照明の演出によって気付きにくくなっていた。客席の我々が気付かないのも無理はあるまい」

 「これがどうなるんです?」

 

 図を使った荒川の説明に全員が頷いた。虚戈の立ち位置と、犯人が仕掛けたという仕掛けの配置は理解できた。

 

 「このロープは金具に結びつけてあった。これが外れると、砂袋の重さでロープが引かれる。それと同時にロープに括り付けられたモノクマファイバーも、引かれる勢いで輪が縮みながら引かれる。そうするとどうなると思う?」

 「細くて丈夫なモノクマファイバーがあ、凄まじい勢いで縮みながら虚戈氏に襲いかかるわけだあ。あの砂袋の重さにもよるけどお、物凄いスピードだろうねえ」

 「こ、これってじゃあ・・・」

 「さながら、逆ギロチンと言ったところか。実際に首を切断できているわけだが、こんな害獣駆除のトラップのような仕掛けで犯行に臨んだ度胸は大したものだ」

 「大道具が崩れてたのは、砂袋が激突したためだろう。犯人がどこまで考えていたかは定かではないが、おそらく計算の内だろう。偽の足跡があったことからもそこは推測できる」

 

 図に矢印などを書き込んで、トラップ全体の動きをさらに説明していく。スネアトラップの応用で、罠となる部分をモノクマファイバーに変えることで殺傷力を大幅に高めた、自動断頭トラップの全体像が明らかになった。これまで明らかになった証拠品から導かれている点や荒川自身の説得力で、納得しかける。

 

 「これを使えば、停電中の短い間であろうと虚戈を殺害できる。そもそも本来なら停電させる必要もなかったはずだ。自分が直接手を下す必要がないのだからな」

 「ではなぜ犯人は、敢えて停電を引き起こしたのだ」

 「ま、待てよ!」

 

 荒川の推理に納得しそうになる裁判場で、下越だけが反論の声をあげる。虚戈を殺害した装置についてはなんとなく理解ができた。極の言う通り、停電を起こす理由が分からないが、それよりもずっと納得のいかないことが、下越にはあった。

 

 「いくらモノクマファイバーが細くて見えにくいっつってもよ!それでもステージの上の虚戈がそれに気付かねえなんてことあるのかよ!足下にあるんだぞ!?それに、ロープや砂袋だってステージやその裏に仕掛けられてたんだろ!だったら、直前までそこにいた虚戈だったら気付くはずだろ!」

 「・・・そうだよな。いくらなんでも、虚戈がそこに気付かないのは不自然だ」

 「ああ。不自然だとも。お前の言いたいことは分かるぞ、下越」

 「だったら・・・!」 

 「それでも、それさえ説明する証拠を、私たちは持っているはずだ」

 「はあ・・・?なんだよそれ・・・!意味が分かんねえよ!」

 「お、落ち着いて下越くん!いきなり全部は分からないわ。荒川さんは、まだ他に分かってることがあるの?」

 「当然だ。私には既に犯人の目星もついている。それが正しいかどうかは全員が考えるとして、私の推理を聞いてもらおう」

 

 きらりとメガネを光らせて、荒川が自信たっぷりに推理を披露する。

 

 「この事件において不可解な点はいくつかある。偽の証拠や、この断頭トラップの存在、停電などだ。しかしこれは全て、1つの可能性で解消することができる」

 

 下越の疑問と、極の疑問の両方を解消しつつ、真相に至る道筋を、端的に提示した。

 

 「虚戈舞夢は単なる被害者ではない、ということだ」

 

学級裁判 中断

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コロシアイ・エンターテインメント

生き残り:8名

 

【挿絵表示】

 




また色々挑戦してみようと思います。

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