「パンパカパーーーン!!!うっぷっぷっぷっぷ!!!大大大せいか〜〜〜〜い!!ちょっと曖昧なままになってる部分もあるけど、犯人は見事正解!!“超高校級のジュエリーデザイナー”改め、“超高校級の死の商人”鉄祭九郎クンと、“超高校級のハスラー”野干玉蓪サンを殺した殺意MAXな犯人はあ!!」
「ぐっ・・・がああっ!!あ゛あ゛ああああああああああああああああああああッ!!」
「“超高校級の神童”星砂這渡クンだったのでしたーーーー!!!お見事!!!」
「はあ・・・!はあ・・・!ぐっ、クソッ・・・!!」
「なんで・・・なんでだよ・・・?お前、言ったじゃんか・・・!黒幕を倒すって・・・!」
「ら、雷堂君?」
「何やってんだよッ!!お前、俺と結託するんじゃなかったのかよ!?俺とお前でみんなを導いて・・・黒幕と戦うって言ってたじゃんかよ!!」
「ちょっ・・・雷堂くん!?」
「お、落ち着きなよ雷堂氏!下手なことしたら君にもペナルティがあるかも知れないよお!」
「あんな大口叩いておいて・・・俺はお前を信頼してたんだぞ!!“超高校級の神童”のお前ならできるかもって、期待してたんだぞ!!なに勝手なことしてんだよ!!」
「答えろよおい!!
「おい!」
「この野郎ッ!!なんとか言えよ!!」
がくがくと、ワタルさんにされるまま頭がうごくハイドさんは、まるで
「やめろ雷堂」
「・・・!」
「お前と星砂の間に何があったかは知らないし、追及するつもりもない。だが、今お前がしていることには何の意味もない」
「・・・クソッ!」
レイカさんに
「いやいや、雷堂クンもだいぶキてるね〜。ま、そりゃそうか!雷堂クンと星砂クンは最初っからなんだか知らないけど仲良くしてたもんね!星砂クンもだいぶ雷堂クンのことは評価してたみたいだし?」
「・・・!」
「雷堂クンもちょっと頼りないところあるしね〜、そういう意味では星砂クンのこと頼りにしてたんじゃないの?うぷぷぷ♬でも、ホントのところはどうなんだろうね?」
「・・・やめてよ・・・!もうやめてよ!これ以上何も聞きたくない!」
「正地さん・・・」
「えー♣セーラ聞かなくていいの?サイクローを殺したのはハイドなんだってよ♬なんで殺したか聞きたくないの♣わけもわからないでサイクローが殺されちゃったってことでいいのかな♡」
「虚戈」
「はむっ×」
マイムさんは目だけでレイカさんに
「うぷぷ♬雷堂クンも気にしてるみたいだし、オマエラも気になってるよね?どうして星砂クンが鉄クンと野干玉サンをぶっ殺したのかがさ!なーんか一部じゃボクのことを倒すなんて息巻いてたみたいだけど?探偵気取りかと思いきや犯人だったなんて、下手くそな叙述トリックじゃあるまいし、ちょー凡庸って感じィーーー!!」
「ぐっ・・・!」
「聞き流しなよ極氏。モノクマに手を出したらそれこそ終わりだよお」
「分かっている・・・!そんなことは・・・!」
「星砂クンはなんか精根尽き果てたみたいだし、ボクが代わりに発表してあげよっか!星砂クンが人を殺してまで隠したかった『弱み』を!」
「・・・ッ!ま・・・待て・・・!それは・・・!!それだけはやめろ・・・!!」
「どーせクロなんだから全部ぶちまけてスッキリしちゃいなよ!はい!みんな池のウォータースクリーンにちゅうも〜く!!」
「それだけは・・・!!それだけはやめろォ!!!やめてくれェエエエッ!!!いやだあああああああああああああああっ!!!!」
『
「・・・は?」
「あ、ああぁ・・・ああぅっ!あ゛あ゛あ゛あああああああぁぁぁっ!!!」
「これが星砂這渡クンの『弱み』・・・いや、『本心』とか『本性』と言ってもいいかな?とにかく、動機でした!どう?意味分かる?分かんないよねー!」
ひとりだけたのしそうなモノクマが、苦しそうにさけぶハイドさんを
「どうする星砂クン?自分で話す?それともボクが全部ぶっちゃけようか?どっちでもいいよ!っていうか?大丈夫?ボクのモフモフボディ揉む?」
「くう゛っ・・・!!ふざっ・・・!!」
「そんなの、どうでもいいです!」
「・・・ッ!?」
「ボクが・・・ボクたち知りたいの、そんなことじゃないです!ハイドさんが知ってほしくないこと、ボクたちは知りたくないです」
「スニフ君・・・!」
「だけど・・・ハイドさん。どうしてたまちゃんさんとサイクローさんを
今まで
「うるさい・・・もういいだろう」
「クロになるなら、ボクが
「黙れ・・・!黙ってくれ・・・!!」
「どうしてたまちゃんさんとサイクローさんなんですか!あなたたち、何がありましたか!」
「黙れと言っている!!お前に何が分かるってんだ!!何が分かるんだよォォオオオオオオッ!!!」
「!」
「
「えっ・・・」
「何が“超高校級”だ!!ただ自分が得意なことをやってただけの自分勝手なヤツらと俺様を並列に語るなどなんという侮辱!!なんという軽視!!ものの価値が分かってないバカの基準なんかクソ食らえだッ!!俺はお前らなんかとは違うんだッ!!」
「な、なんか変わってるような変わってないようなあ・・・言っている意味がよく分からないんだけどお」
「錯乱しているな・・・」
「俺様は万能だった!!何でもできた!!何にでもなれた!!無限の可能性を持ってたんだ!!多すぎる選択肢と無責任なバカ共に囲まれて、誰一人として俺に手を差し伸べてくれる奴はいなかった!!優れているからこそ俺様は孤独だった!!与えられたレールを何も考えず辿っていた貴様らには一生分からないだろうがなあああっ!!」
「なんだと・・・!」
「フッ・・・図星か!くん──、雷堂!コナミ川の奇跡?大勢の命を救った天才少年パイロット?馬鹿馬鹿しい!
「堪えろ雷堂!」
「くっ・・・!お、お前・・・!自分の立場を分かってんのかよ!」
「人類の最高傑作・・・天才を超越した天才・・・!神に愛された人類!人類史上最大の逸材!!空前絶後の傑物!!!それが俺だ!!俺様だ!!俺様は貴様らよりも!!世界中の誰よりも優れているはずなんだ!!」
めちゃくちゃだ。ボクにはハイドさんの言うことがなにも分からなかった。だけど、それがワタルさんやみなさんをきずつけるヒドいことだっていうことだけは分かった。でもそれとおなじように・・・ハイドさんがすごくかなしんでるっていうのも、分かった。
「なのに!!!どうして貴様らは刃向かう!?どうして凡庸な自分に誇りを持てる!?俺様より劣っていたくせに・・・胸を張っている!?どうして俺様よりも楽しそうに笑えるんだ!!」
「・・・!」
「俺様は勝ち続けてきたはずだ!!学業も、運動も、芸事も、何事でも俺様は貴様らより秀でていた!!貴様らのようなたった1つの取り柄に縋るしかない奴らにさえ・・・況してやただの凡俗共になど!“その他大勢”共など話にならなかったはずだ!!」
モノヴィークルをがっしり
「無限の可能性を持っていたのに・・・持ち続けていたはずなのに・・・!!貴様らが早々に少ない可能性を閉ざしている間も、俺様は吟味していた!!真に極めるべき“才能”を!!なろうと思えば貴様らよりも優れた存在になれた!!“数学者”にも“美食家”にも“ハスラー”にも“死の商人”にも“錬金術師”にも“パイロット”にも・・・“希望”にすらなれたんだ俺はッ!!!なれるんだッ!!!」
「じゃあなんでならなかったの?」
「はっ・・・!?」
その声をきいたとたんに、ボクは体中がつめたくなった。そして、どうしてボクたちは
「すごいねハイドは♬なんにでもなれたんだ♡もしかしたらマイムとおんなじクラウンにもなれてたのかな☆
「はぁ・・・はぁ・・・!」
「でも今のハイドは“超高校級の神童”なんでしょ♣“才能”を手に入れる“才能”かあ♬すごいね♡すごいすごい☆万能の人じゃん♡でもそれって普通のおこちゃまと何が違うの?小さい頃はだいたいの人が何にでもなれるんだよ♡マイムはちょっと違ったかもだけど☆」
「う、うるさい・・・!うるさい!!」
「小さい頃の自慢話ほどつまんない話ってないよね×そういうのはいいから今のハイドはどうなのさってマイムは思うな♬それだけすごい子供だったならすごい人になってるんだよね♡なってなきゃおかしいよね♡」
「黙らせろ!!そいつを・・・黙らせろォオオオオ!!!」
「結局さあ、ハイドは
「・・・ああぁうぅぅ・・・!!ち、ちがう・・・!!違う!!ちっがああああああああああああああああああああうッ!!!!」
ハイドさんは、あたまをかかえて
「あ、マイムたちだけじゃないか♠アクトもマナミもハルトも、ダイスケもいよもたまちゃんもサイクローも♬ここにいないみんなもハイドとは違うんだねー♡」
「いい加減にしろ虚戈!!お前それ以上言ったらオレもマジでキレるぞ!!」
「わぷっ♡」
「はいはい!裁判後の乱闘はやめてね!ここでコロシアイが起きたらややこしい上にクロもすぐバレでつまんないから!」
「くっ・・・!」
「はーい♬ごめんなさーい♣」
ホントにおこったテルジさんの声で、マイムさんはやっと大人しくなった。まだあたまの中がぐちゃぐちゃなままのボクだけど、テルジさんのおこった声はすごくこわかった。本気で、ハイドさんのことをもうきずつけたくないって思ってるんだ。
「ううっ・・・くそっ・・・!くそっ!」
「救いを求めてるっていうのは・・・そういうことなのか、星砂」
「・・・」
「あんな偉そうな態度とってたけど・・・お前はずっと、誰かに示して欲しかったんだな。何になればいいのか・・・どうやって生きればいいのか・・・」
もう大きい声を出すげんきもなくなったハイドさんは、くやしそうに
「・・・で、でも待ってよ。それじゃあ、答えになってないわ」
「ま、正地さん・・・?」
「どうして鉄くんを殺したの・・・!どうしてなの!どうして鉄くんが殺されなきゃいけなかったのよ!納得できないわよ!」
「お、落ち着け正地・・・!今の星砂にはそれに答える能力がない。責め立てても・・・!」
「う〜ん、くどいね。喋りすぎだよ。もう飽きちゃった」
「ッ!!」
ハイドさんがしずかになったとおもったら、こんどはセーラさんが
「オマエラ忘れてるかも知れないけど、ボクはこれでもずっとお預けくらってんの。前の相模サンの時からずっと。やっとこの時が来たっていうのに、オマエラのためにこれ以上我慢するっていうのは生殺しって奴だよ。うん?殺し?ボクが辛抱溜まらなくなってテクノブレイクでもしたら、生殺されたってことでオマエラ全員クロってことになるのかな?」
「はっ・・・はっ・・・!!や・・・や、ま、待って・・・!」
「極限までタメてからの一発が最高に気持ちいいって言うしね!さあて!それでは今回のクロには、ボクの特濃エクストリームを味わってもらいましょうか!」
「い、いやだ・・・!!いやだ!!ふざけるな!!絶対におかしい!!こんなのは許されない!!俺が何をした!!明らかに不公平だ!!1対9など認められるか!!」
「それをキミが言うの?前の二回は多数派なのをいいことに好き勝手したクセに?二回目の裁判じゃクロを事前把握とか興醒めなことしてくれたキミが?うぷぷ・・・ねえ、星砂クン」
「・・・!!」
「いい加減にしろよ、オマエ」
ぞくっ、とした。
「ボクたちがオマエの自己陶酔と自己保身と自己満足に付き合ってやる筋合いはないんだよ。何者でもない時点で、オマエはただの凡人以下なんだから」
「ううっ・・・あっ、ああああっ・・・!!」
「うっぷっぷっぷ!では気を取り直して。今回は“超高校級の神童”、星砂這渡クンのために!スペシャルな!おしおきを!用意しました!」
「いやだ!!!死にたくない!!!助けてくれ雷堂!!極!!ス、スニフ・・・!!誰でもいいから助けてくれ!!!こ、こわい・・・!!こわいこわいこわいこわいこわいこわいこわいこわい!!!ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!」
「ではいってみましょーか!!おっしおっきターーーーーイムッ!!」
「いやだあああああああああああああああああああああああああああああッ!!!!!」
腰を抜かしていたと思われていた星砂這渡が、飛び上がって駆けだした。焦りすぎて走り出しの脚がもつれて、靴が片方脱げ落ちる。それでも構わず、星砂は走った。逃げ出した。今まさに命を奪わんと迫り来る無機質なアームの数々から。しかし数m走ったところで、呆気なく星砂は掴まった。首も、手首も、脚も掴まれて、引きずられていく。その行く先は、自らが二人の命を葬った『モノクマ城』だ。正門扉の向こうから伸びるアームに連れられて、星砂の姿は城の中に消える。
連れ攫われてほどなく、星砂は再び姿を現す。どんでん返しに磔状に固定され、眩いスポットライトの中へ躍り出る。そこは、モノクマ城中央塔の最上部。大時計のⅫに当たる場所だった。白亜の城の周囲は巨大な暗幕が張られ、幻想的な光に城は彩られる。
刻一刻と、針は動く。短針が文字盤を回って迫る。長針が役目を放棄してⅫへと戻る。その先に何が起きるか、モノクマランドを一望する位置にいる星砂は理解した。理解できてしまった。その事実に嗚咽を漏らす。その星砂の下には、白い城壁をスクリーンにして大きく星砂の顔が映し出されている。
それは、
万能の才能、天才を超越した天才、人類の最高傑作、それがこの俺様だ。俺様にできないことはない
そう言って自分を守っていただけだ。何でもできると思い込んでいたかっただけだ。自分が、凡庸だと知っていたから。
長針がカチリと一歩近付く。
貴様ら凡俗が16人集ったとて、万傑たるこの俺様の足元にも及ぶわけがない
本当は誰よりも恐れていた。コロシアイを。“超高校級”を。自分の化けの皮が剥がれることを。ムリヤリにでも人を見下さないと自分が保てなかった。
短針がチクタク音を立てて近付く。
俺はお前らなんかとは違うんだッ!!俺様は勝ち続けてきたはずだ!!
勝ったつもりになっていただけだ。下らないことで相手を貶して悦に入っていただけだ。本当の意味で誰かに勝ったことなんかなかった。
時計の針はもう見えない。
なろうと思えば貴様らよりも優れた存在になれた!!
俺様は貴様らよりも!!世界中の誰よりも優れているはずなんだ!!
俺様は万能だ!!!
違う。違う・・・違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う違う!!!!そんなものは俺じゃない!!!俺の本心じゃない!!!!本当の俺じゃない!!!!
「俺・・・!俺は・・・!!」
壁面の星砂が高らかに自らを讃えるたび、時計の上の星砂は顔を歪める。思い知らされる。痛々しい自分を。小さく惨めな自分を。誰よりも凡庸で矮小な存在を。
無骨な鉄の冷たさを両手に感じた。
「俺はッ──!!!」
俺様は“超高校級の神童”だ
カチリ、と針が重なる。城は時が来たことを知らせる鐘を鳴らした。鐘の音とともに暗幕は剥がれ、陽光が城に照りつける。全てが幻だったかのごとく、針は再び時を刻み始める。その後ろに、ありふれた色の軌跡を残して。
「ぶひゃひゃひゃひゃ!!あっけねーーー!!無敵の天才神童は中二病で朽ち果てたってとこだね!!ホント、くっだらない動機だったよね!!」
モノクマ
そして
「あいつはボクも見てて痛々しかったからね〜、正直消えて清々したよ。あ、またモノクマネーボーナスは振り込んでおくから。これで美味しいものでも食べな」
「・・・動機、って言った?」
「はにゃ?」
やっぱりモノクマはハイドさんの死をバカにするようなことを言って笑う。だけど、そんなモノクマに、セーラさんはこわい声で
「あなた・・・知ってるの?星砂くんがどうして鉄くんを殺したのか・・・!」
「うぷぷ!もちろん知ってるに決まってるじゃんか!だってボクは全てを見てたし聞いてたからね!どうして脅迫したのが野干玉サンだったのか。どうしてターゲットが鉄クンだったか。ぜ〜んぶ知ってるよ!だからってオマエラに教えてやったりしないもんね!」
「正地さん・・・やめて。もうこれ以上・・・!」
「・・・うぅっ」
「あー、おっかし!ま、でもこれで“超高校級の死の商人”の脅威はなくなったわけだし?不確定要素も一人は消えたわけだし?次からはまた自由度が高くなって面白くなってくるんじゃないかな?」
「つ、次って・・・!ふざけんなよ!次なんかあるわけねえだろ!」
「へえ、下越クン。ホントにそう思ってんの?もうコロシアイは起きないって?」
「あっ・・・あったりまえだろ!」
こなたさんに
「そうやってまたオマエラは騙されるんだなあ。須磨倉クンはオマエラの命よりも弟と妹の命を優先したじゃないの。相模サンはここでの生活よりも実家の生活を選んだじゃないの。星砂クンは・・・おっと、言っちゃうところだった。まあとにかくオマエラよりももっと大事なものがあったんだよ。人が一線を越えるのなんて簡単なんだよ。ちょっとばかし余裕がなくなって、後先考えられなくなっちゃえばさ」
「そっ、そんな・・・!」
「いま生き残ってるオマエラが、次そんな一線を越えないなんて保証はあるわけ?何よりもここでこうしてぬるま湯に浸かりながら生きていくことを選ぶなんて、断言できるわけ?」
「で、できる!もう三回もおんなじこと繰り返したんだぞ!いくら頭悪いオレだって分かる!こんなことしてる場合じゃねえんだって・・・!」
「もういい、下越」
モノクマに
「失せろモノクマ。処刑が済んだら私たちに用はないはずだ」
「まーそうだけどね!そんじゃま、今日一日くらいはボクもゆっくりするから、オマエラもゆっくりぬるま湯を楽しんで風邪でも引けば!?べーっだ!」
大きなベロを出して、モノクマは消えていった。まただ。ボクはこういうときに何もできなくて、いつもワタルさんやレイカさんがモノクマを
「スニフ氏?大丈夫かい?」
「えあっ・・・ヤ、ヤスイチさん・・・」
「無理してるんじゃあないかい?スニフ氏はまだ子供だっていうのにあんなの見せられてねえ」
ヤスイチさんは、かわらないふにゃふにゃな
「スニフ氏は賢いからねえ。色々と難しく考えちゃってるんじゃあないかと思ってさあ」
「・・・へいきです」
「“平気”かあ・・・スニフ氏は頑張り屋さんだねえ。ただ心配だから言っておくよお。星砂氏を殺したのはモノクマであって、絶対にスニフ氏なんかじゃあないよお」
「へ・・・?」
「もしスニフ氏に責任の一端があるって言うんならあ、それはおれたち全員が背負うべき責任さあ。そもそもおれは、“死”に責任なんかないと思うけどねえ」
「で、でも・・・」
「とにかく考えすぎるなってことさあ。今は休むのが大事だよお。ほらほら、子供は早いところ帰った帰ったあ。おうい、下越氏」
そう言ってヤスイチさんは、テルジさんを呼んでボクを
「行こうぜスニフ」
テルジさんはモノヴィークルを使わないで、ボクの手を引いた。やらわかい
「ううぅ・・・!こんなの・・・こんなのあんまりよ・・・!」
星砂君のおしおきが終わった後、ううん、おしおきの前から、正地さんはずっと泣いてた。鉄君が殺された悲しさ、悔しさ、遣る瀬無さが、全部涙になって目から溢れ出す。私は、ただその背中を摩ることしかできなかった。今の正地さんに、私が言えることなんて何もないから。
「ま、正地・・・!」
「どうして鉄くんなのよ・・・!どうして・・・!鉄くんはやっと・・・やっと自分の人生を生きるって決めたばっかりなのに・・・!やっと決心したところなのに・・・!」
「正地さん・・・」
「こんなの・・・あんまりよ・・・!私、これからどうしたらいいの・・・!?どうやって生きてけばいいのよ・・・!」
「あははっ♡」
その笑い声は、空っぽだった。悪意なんてこれっぽっちも感じなくて、困惑なんか微塵も混じらない、楽しいっていう感情すらカケラも込もってない。ただただ、形だけの笑い。無邪気さだけを纏った、中身のない笑い声。
「セーラってばおもしろーい♫どうやって生きればいいかなんて分かり切ってるのにさ♡また誰かが誰かを殺そうとするんだよ♣︎殺されるのが自分にならないように、学級裁判で死んじゃうのが自分にならないように、疑って騙して隠れて詰って逃げて責めて、そうやって絶望に負けないように生きてくしかないんだよ♫マイムたちはさっ☆」
「なっ・・・!?バ、バカなこと言うなよ!コロシアイなんてもう・・・!」
「やめておけ雷堂。どうせさっきのモノクマと同じことだ」
「でも・・・!」
「サイクローのことなんか忘れちゃいなよ♫もういない人に振り回されて笑えなくなっちゃうなんてバカバカしいもん♡ほーら、お口の両側リフトアップ♢笑って笑ってセーラちゃん☆」
「い、いや・・・やめて・・・!近づかないで!」
「照れない照れなーい♡」
「や、やめてよ虚戈さん!」
俯く正地さんを覗き込むように、小躍りしながら虚戈さんが近付いてくる。拒絶する正地さんを追いかけて無理矢理笑顔を作らせてようと袖の中の手を伸ばす。すぐに私は正地さんと虚戈さんの間に割り込んだ。
「正地さんの気持ちも考えてあげなよ!やっと鉄君が前を向けたのに、訳もわからずこんなことに巻き込まれて・・・正地さんはそれが悔しいんだよ!?悲しいんだよ!?どうしてそんな風に言えるの!?」
「どうしてってどうして?悲しいのはサイクローの方だよ?前向きに変わったのも、変わったそばから殺されたのも、セーラに励まされたのもサイクローなんだよ?セーラはサイクローじゃないのに、何が悲しいの?そんなのおかしいよー♡」
「おかしくなんてないよ!正地さんは・・・正地さんがそれくらい鉄君のことを想ってたっていうことでしょ!大切に想ってる人がいなくなって、悲しくないなんてあるわけないよ!」
「でもサイクローが死んだからってセーラの人生に何の関係もないでしょ♡マイム知ってるよ☆どんな仲良しでも、双子の兄弟でも、好き同士の子たちでも、いなきゃいないでなんとかなるもんだよ♨︎だから悲しいことは忘れるに限るっ♢モーマンターイ♫」
「忘れちゃダメだよ!そんな簡単に人との思い出を切り捨てるなんて、絶対にダメだよ!私たちが鉄君やたまちゃんや・・・星砂君のことを忘れたら、そんなのあんまりだよ・・・」
正地さんを庇うようにして、私は自分でも信じられないくらいの大声で叫ぶ。前から虚戈さんが少しヘンなのは知ってたけど、いくらなんでも今は見過ごしておけない。死んだ人のことを忘れちゃったら、みんなとの思い出の全部が無意味になっちゃう。そんなこと、絶対にしちゃいけないのに。
「うーん♠︎マイムには分かんないよー×でもマイム知ってるよ♡人は笑うと幸せな気持ちになれるんだよ☆だからセーラも笑おうよ♫スマイルスマイル♡」
それでも虚戈さんは、無理に正地さんに近寄っていく。そんなことしても正地さんは絶対に幸せになんてなれない。なるわけがない。とっさに私は正地さんを守ろうとして手を───。
「やめなさい!」
嫌がる正地さんと虚戈さんの間に割り込んで、無邪気な微笑みを浮かべる虚戈さんの顔をはたいた。ぱんっ、と乾いた音がして、そこにいた全員が固まるのが分かった。はたいた瞬間に冷静になって、少しだけじんじんする自分の手を摩りながら実感する。
私、いま虚戈さんのこと───。
「・・・・・・いたい」
「あっ・・・ご、ごめんなさい・・・!今のは・・・その・・・!」
「・・・いたいよ・・・こなた。どうして痛いことするの・・・?やめてよ・・・マイムが悪いんだよね。ごめんなさい、謝ります。ごめんなさい。だからぶつのはやめて・・・ぶつのだけは・・・」
「こ、虚戈さん・・・?」
思わず手が出たことをすぐに謝ったけど、虚戈さんはさっきまでの明るさが完全になくなった。今まで見たこともないような怯えた表情で、聞いたこともないような声色で、考えたこともないような言葉が、虚戈さんの口から溢れでてくる。
「そんなか弱い声をしても無駄だ。今のは完全に虚戈がやり過ぎだった」
「ていうかあ、止めなくてよかったのかい?」
「私だったら平手では済まなかった」
「れ、冷静だな・・・」
「いくら研前が手を出したとは言え、その原因は虚戈にある。今さら私たちはそんな弱々しい声になど靡かない」
「え・・・なんで?マイムがおかしいの?どうして?マイム何も間違ったこと言ってないよ?それにマイムはこなたにもセーラにも痛いことしてないよ?ぶたれたのはマイムだよ?なのに・・・なのに悪いのはマイムなの?怒られるのはマイムなの?なんで?ねえなんでなんでなんで?」
「虚戈、お前はいい加減に気付くべきだ。ここにいる誰も、お前に共感している者はいない。お前はずっと、私たちとは違う場所にいる。それを理解しない限り、分かり合うことはできないだろう」
それだけ言うと、荒川さんは自分のモノモノウォッチでモノヴィークルを起動して、裁判場からいなくなった。極さんは私と一緒に正地さんをホテルまで送ってくれた。納見君も歩いてどこかに行っちゃった。遠目に見える裁判場には、雷堂君と虚戈さんだけが残ってた。
「なんで・・・?みんなひどいよ。マイムは何にも分かんないよ・・・!どうしてマイムは悪いの?みんなとマイムは何が違うの?マイムはただ・・・」
「虚戈・・・」
「ワ、ワタル・・・!ワタルは分かってくれるよね?マイムは悪いことしてないよね?だってマイムはクラウンだもん。クラウンはみんなを笑わせてあげるんだよ。だからマイムは・・・!」
「お前にとって、俺はなんだ?」
「へ・・・?ワ、ワタルはワタルだよ?マイムはワタルのことが好きだし、ワタルもマイムのことが好きなんだよ♡だからワタルはいつだってマイムの味方・・・そうだよね?」
「・・・」
「えっ・・・!?ま、待ってよワタル・・・!ヤだよ・・・!行かないでよ!待ってってば!ねえ!」
そこで何が話されたのかは、私には分からなかった。だけど、たった一人残された虚戈さんが、どんどん小さくなっていくのだけが見えた。
「ねえ・・・!どうしてなの!?みんなどこ行っちゃうの!?マイムはどうしたらいいの・・・!?こんなのヤだよ・・・!独りぼっちは・・・イヤだよ・・・!」
朝はあんなに晴れてたのに、空は今にも泣き出しそうだった。
コロシアイ・エンターテインメント
生き残り:9人
意外とここは早く書けました。ずっと書きたかったところなので、1日1000字書くっていう目標を立ててるんですけども、2000も3000も苦じゃなかったですね。モチベって大事。
おしおきの意味については別の所でお話して、その後ここに概要を載せようかと。
あと関係ないですけど、三作目のアイデアが止まりません。誰か助けてください。