画面の前のみなさん、おはこんばんにちわ。みんなのアイドル、モノクマだよ。前回までの学級裁判の流れをおさらいするよ。え?テンションが普通?まあボクにだってそういうときはあるさ。ボクだってモノクマである前にひとりのクマなんだ。いつでもみんなのマスコットってわけにはいかないよ。そりゃそうでしょ?四六時中、本当の自分とは違う人格を演じていたら、それはもはやその人そのものになっちゃうわけだよ。無理して、我慢して、取り繕って、一体何を得るっていうんだろうね。支払う対価に見合う何かを、そいつは得られるのかな?うっぷっぷ、だからボクはこうして羽を伸ばすのさ。誰も見てないところでこっそりとね。ところで、四六時中ボクに見られてるアイツラは、一体いつ『本当の自分』をさらけ出しているんだろうね?
はい!それじゃあ前回のおさらい、いってみよー!
モノクマ城でダブルキル!カギを握るのは鉄クン!正地サンに明かした彼の『弱み』は“超高校級の死の商人”!今回の事件は自責の念にかられた彼の陰謀だった!?謎のモノモノウォッチが示すは鉄クンが内通者!?諸々込み込み推理を語った星砂クン!歯止めをかけるは雷堂クン!ウォッチのカウント無実を語る!未だ謎めく野干玉サン!この事件の裏に潜んだ真実とは何か!?たった一つの真実見抜く!見た目は子供!頭脳は大人!その名は・・・!!
うぷぷぷぷ♬誰だと思う?
「野干玉について何も明らかになってないって・・・どういうことだ?あいつの死因は溺死なんじゃなかったのか?」
モノヴィークルの駆動音が幾重にも響く中で、雷堂が荒川に尋ねた。モノモノウォッチに配信されたモノクマファイルの写真を見る限りでは、野干玉は下水道で溺れて死んだのだと、そう思われた。しかし、荒川は確信を持った目で返す。
「いいや、それは違うぞ雷堂。確かに野干玉の死体は下水道で発見されたが、奴は水面に
「なんでだよ!水の中で死んでんだろ!?だったらおぼれ死んだとしか考えられねえじゃんか!」
「この説明をお前にするのは二度目なのだが・・・まあいい。そもそも溺死の定義から話そう」
「なるべく平たく説明してくれると嬉しいな」
張り切った様子の荒川に、小難しい話になりそうな気配を感じた研前がそうフォローする。既に一度荒川の話を聞いた下越には、同じ説明ではおそらく同じ結果にしかならないだろうと、荒川はしばし考えてから話す。
「溺れて死ぬ、というのは、つまるところ窒息死の一種だ。口や鼻を通して水が肺の中に入り、呼吸がままならなくなって死に至る。この時、多量の水を飲むため肺の中の空気は少なくなり、吸水した服の重さもあいまって浮き続けることは困難になる」
「ははあ。なるほど。ってことは、たまの死体が浮いてたってことは、身体の中に空気が残ってたってことだな」
「・・・すげえ、下越が一発で理解した!」
「
「お前らオレのことなんだと思ってんだ!分かるわ!」
「ついでに言っておくと、溺死体で浮いているものは、腐敗が進行して体内にガスがたまった結果浮力を獲得したものだ。検死した結果、野干玉はそんな状態ではなかったし、死後数時間でそんな状態になるとは思えん」
「それだと、たまちゃんは結局なんで死んじゃってたの??う〜ん♣」
「奴の死体には外傷がほぼなかった。溺死でないにしろ、窒息死か中毒死、衰弱死という可能性も考えられる」
「可能性が多いねえ。他に何か手掛かりはなかったのかい?もっとこう、死因が分かるようなさあ」
「死因に繋がるとは思えんのだが・・・手掛かりならある」
そう言って、極は懐から、小さなビニール袋を取り出した。中には、陽の光を反射して色とりどりに煌めく宝石や、見ただけでその純度の高さが分かる金や銀によって彩られた、十字架型のアクセサリーが入っていた。何人かは既に、それが何なのかを理解していた。
「・・・?それは・・・?」
「十字架型のアクセサリーだ」
「
「仏教における数珠のようなものだが、これはアクセサリーとしての側面が強いな。しかし問題はそこではない。我々がこれを見つけた場所だ」
「どこで見つけたの?」
「野干玉の口の中だ。奥まで押し込められていた」
「おえーっ×そんなの食べるのお〜!?」
「何かしらの意図があると見て間違いないな」
「意図って・・・そのロザリオ自体は死因じゃないの?たとえば、毒が塗られてたとか・・・」
「毒を塗ったロザリオを口に押し込んでの中毒死ということか?フンッ、あまりに回りくどすぎるな。証拠もろくに隠滅していない。そんなものが残っている時点で、大した意味はないのではないか?」
「・・・ううん、意味は必ずある、はずだよ」
ド派手なロザリオをめぐり、議論は再び加熱する。何よりもそれが野干玉の死体の口に押し込められていたという異常な状態が何を意味するのか。そもそも意味があるのか。
「なぜそう言い切れる」
「たまちゃんはアクセサリーをたくさんつけてたけど、ロザリオなんて今まで付けてなかったもん」
「あれはネックレスタイプのロザリオだ。もともと鈴の飾りをつけていた野干玉が持っているのは確かに不自然だな」
「じゃあ、あれの意味って一体なんなんだい?ただのアクセサリーとは違うのかい?」
「いいや違うぜ!あのラザニアとかなんとかは、どうやらただのアクセサリーなんかじゃねえようだぜ!」
「
「それか!」
「・・・一応聞くけど、根拠があるんだよな?」
「ったりまえだろ!あのロザリオの出所はちと怪しいようだぜ!だよな研前!スニフ!」
「う、うん」
ロザリオについて判明している情報は少ない。限られた情報は、下越が持っていた。自信満々に語る下越に、不安な視線が集まる。その無礼千万な視線に、下越は怒りながら言い返す。
「たまの検死の後で、オレはショッピングセンターにそのロザリオがどこで売られてるか確かめに行ったんだ。途中からスニフと研前にも手伝ってもらった」
「そうなのか?」
「はい。
「そんで色んなとこ見たけど、そのロザリオとおんなじもんは一個もなかった!どの店もだ!ってえことはだぞ?たまはどこでどうやってそのロザリオを手に入れたんだと思う?」
「・・・どこなの?」
「分からねえから聞いてるんだぜ!」
「知ってる感じの問いかけすんなよ紛らわしいな・・・。でも、ロザリオが店で売ってるものじゃないっていうのが本当なら、結構重要なんじゃないか?」
「たまちゃんが最初っから持ってたんでもないくて〜♬ジュエリーショップで買ったんでもなくて〜♡そしたらロザリオはどこから出てきたんだろね♣」
「・・・あっ」
それは間の抜けた声だが、確実に何かを思い出した声だった。
「もしかしたらだけどお・・・分かったかもだよお。たまちゃん氏がそのロザリオを見つけたとこお」
「ほう、言ってみろ
「ショッピングセンターで手に入らないものならあ、他にこのモノクマランドで新たにものを手に入れられる場所は限られてるだろお?あそこしかないさあ」
武 器 庫
「新しく開放された倉庫エリアの武器庫だよお。動機が発表された後に荒川氏と一緒に行ってみたんだけどお、誰かが武器庫から出てくるのを見たんだよお。誰だったかは分からなかったんだけどお、固い靴音と何か軽い金属の音がしたんだよねえ。今にして思えばあ、たまちゃん氏の格好がばっちり当てはまるねえ」
「音の種類まで特定できてて、なんでそれが誰だか分からなかった」
「おれと荒川氏が衝突して、二人ともメガネが落ちちゃったんだよねえ」
「また古典的でベタなことを」
「いやちょっと待て。確かに倉庫エリアでメガネを入れ違えるという事件があったことは覚えているが、あれが野干玉だっただと?ということは、あのロザリオは武器庫にあったのか!」
「ボクさっきそう言いました」
導かれた結論が新たな事実を語り、その事実がまた新たな謎を生み出し思考を刺激する。なぜ今まで考えなかったのか不思議なほどに、野干玉の死体から議論が展開されていく。
「となると、このロザリオはやはりというか・・・武器庫にあったのなら、間違いなく武器なのだろう。それこそ、人を殺すことができるような」
「お、おい!それ出すのかよ!危なくねえか!?」
「検死のときに触れたが問題はない。だが、それが問題なのだ」
「問題ないのが問題?なにそれ♠」
「ショッピングセンターにないなら武器庫から持ち出したもの、という推論は納得できる。納見と荒川の証言もあるしな。しかし、だとすればこのロザリオは殺傷能力のある武器ということになるが、どこからどう見てもこれはアクセサリーなのだ。だから問題なのだ」
「武器のはずだが武器だと証明できん、それが問題か。なるほど。チェーン部分で首を絞めるのではないか?」
「それ、このロザリオの必然性ないわよね・・・」
「真に受けるな。冗談も分からないのか凡俗は」
「・・・ちょっと貸してくれるかい、極氏」
ビニール袋からロザリオを取り出し、十字架の部分だけでなくネックレスのチェーンまで調べる。しかしそこには殺意のこもったからくりなど、見つからない。その極に、少し考えた様子で納見が声をかける。モノヴィークルを前進させて裁判場の真ん中に進み出て、極からロザリオを受け取った。
「実はあ、おれと荒川氏が倉庫エリアに行ったのはあ、あの武器庫に置いてある物を調べるためだったんだよねえ。おれたちの中にいる“超高校級の死の商人”の正体を探るためだったんだけどお・・・まあ、今となっちゃあ意味がなかったようだけどねえ」
「・・・」
「そんでおれの思った通りにい、あの武器庫にあったのは普通の武器だけじゃあなかったよお。こういうロザリオみたいなアクセサリーの見た目をした物もたくさんあったんだあ。そこにあった物を調べたところお、どれもこれも精巧な仕掛けを施して武器であることをカムフラージュされてたんだよねえ。どうしてそんなことをするのか不思議だったんだけどお、今なら分かるよお。あれはアクセサリーの見た目をした武器として売買するためだったんだねえ」
「ん?いや、おい待てよ納見。そりゃおかしくねえか?」
「また貴様か。今度はなんだ」
「オレが喋るだけでその感じ出すの止めてくんね!?」
ロザリオをいじる納見の言葉を、下越が遮る。武器庫に並ぶ武器の中にある、明らかに武器とはかけはなれた品々の正体は、納見の言うように説明ができる。しかし“超高校級の死の商人”が鉄だと分かった今、その説には明らかな矛盾が存在する。
「武器庫は二回目の裁判が終わった後に開放された新エリアにあったんだろ?そこにあるのが“超高校級の死の商人”の造ったもので、でも“超高校級の死の商人”は鉄で──」
「何が言いたい」
「いやだから、おかしいだろ。それじゃまるで、武器庫にあるものを造ったのが鉄って言ってるみてえなもんじゃねえか」
「言ってるようなものっていうかまさにそう言ってるんだけどねえ」
「はあ!?なんでそこに鉄の造った武器があるんだよ?それじゃあまるで鉄が──」
「だから言っているだろう。奴はモノクマと内通していた。俺様たちとコロシアイ生活を送る裏で武器を造り、来たるべきときに備えてあそこに保管していたのだ」
「まだそれ言うのかよ。鉄が内通してたら打ち明けられた弱みの数が合わないんだって。だから・・・鉄は俺たちと同じように、開放前はあそこには入れなかった、はずなんだけど・・・あれ?」
「いや、鉄が武器を造っていたのはここに連れて来られる前からだ。密売品とは言え、流通していた上に“超高校級”として希望ヶ峰学園にスカウトされる腕前だ。偶然そこにあったということもあり得る。鉄が造った物以外にも武器はあったようだしな」
「まあその辺の話はあ、きっと今すぐ結論が出る話じゃあないと思うよお。モノクマが何者かっていう話にもなってくるしねえ。おれが言いたいのはそっちじゃなくてえ」
武器庫に並んだ武器を造ったのは、“超高校級の死の商人”である鉄。それに間違いはないように思えるが、時系列に矛盾が生じる。偶然なのか、意図的なのか、それともまだ明らかになっていない真実があるのか。その議論は、納見の能天気な言葉で制された。誰が造ったにせよ、あれを用意したのはモノクマだ。モノクマが何者か分からなければ、その議論に答えは出ない。
「このロザリオもその武器、つまりアクセサリーの見た目をした武器っていうことになるよねえ。こういうカラクリ仕掛けなんてえのはおれの領分でもあるからあ、ちょっといじって特徴なんかを見ればあ」
「あっ!?」
そう言いながら納見がロザリオをいじる。彩られた宝石を回したり引いたり押したりして、最後に軽く振りあげた。すると音もなく、十字架の陰からそれは飛び出した。すらりと伸びた流線型の概形のところどころが、わずかだが鋭く波打って強烈な殺意を醸し出す。しかし光を反射して煌めく姿は、その殺意さえも清廉な美しさに変換していた。
「ほれ、この通り。ものすごく精巧な仕掛けだよお。何重にも手順を踏まないと正体が分からない上にい、接合部にまでこだわって究極的に無音だあ。まさに暗殺にはもってこいってことだねえ」
「十字架から・・・ナイフが出てきた・・・!」
「小さいけれど殺傷能力は折り紙付きだろうねえ。むしろ小さいからこそお、急所に致命傷を負わせるのには向いてるとも言えるよお。たとえばあ・・・頸動脈を掻き切ったりとかさあ」
「そ、それって・・・!鉄君のこと・・・!?」
「そういえば、鉄を殺した凶器のこと何にも考えてなかった・・・。あの傷はどう見たって刃物で切られたものだった。犯人が持ち去ったにしたって血を落とすのに苦労するだろうし・・・」
「う〜ん、このロザリオには特殊な加工がされてるみたいだねえ。傘の撥水コーティングみたいにい、血を軽く弾くようなさあ。まあロザリオに血が付いてたら暗殺になんか使えないしねえ」
精巧な仕掛けと、とことん暗殺を想定した加工技術に感心しながら、納見はロザリオを細い目で眺める。単純に造形家として、もの作りの“才能”を持ったプロとしての目線だが、これが鉄を殺害した凶器であるのなら、能天気に感心しているのも無神経というものだ。
「もういいだろう、納見。それを返せ。それが凶器だと判明した以上、重要な証拠だ」
「はいよお。ありがとお」
「・・・ま、まあその十字架が凶器だとしてもよ、やっぱりオレにはさっぱり分からねえぞ。なんでその凶器を、たまが持ってるんだよ?」
「ヌバタマが
「だからお前の推理はさっき否定しただろ!」
「しかしそれは、鉄には野干玉を脅せないという部分だったから、結局モノクマ城に二人がいるのなら、どちらかがどちらかを殺したのは間違いないと考えていいだろう」
「そこはまだ分からないよね・・・この後分かるって保証もないけど。でももっと気になるのはさ、なんでそれが口の中にあったのかっていうことだよね。ロザリオを口に入れるのもよく分からないし、況してやそれが凶器だったんだったら」
「
「雑にもほどがあるな」
ロザリオの正体が分かると新たな疑問が生じる。なぜこんな物騒なものが、野干玉の口の中に詰められていたのだろうか。ロザリオを口の中に含む儀礼などないし、証拠隠滅するにしては無理がある。
「そもそも下水道があるんだから、証拠隠滅するつもりなら、そこに捨てればいいよね」
「ポイ捨ては禁止なんじゃなかったかしら?それも掟にあったと思うけど」
「ん?別にポイ捨てはいいよ?モノクマランドの景観を壊さないのならね!因みに下水道は景観ではないので、お堀の水の色が変わるとか浮遊物できったねえ見た目でもならなきゃ何捨ててもいいよ!」
「この通りだ。だとすれば、なおさらこのロザリオは不審だな。なぜ口の中に入っていたのだろうか」
議論開始
「野干玉の口の中にあったロザリオ・・・これにはどういう意味があったのだろうか」
「意味もなにも、鉄を殺した凶器ってだけじゃねえのか?」
「野干玉が殺したのなら他に隠滅の方法がいくらでもあったはずだ。それをしなかったのは、奴があれを凶器だと認識していなかったから・・・いや、それはあり得ないか」
「・・・そういえば野干玉の死因って分かってなかったよな?もしかして、他にもあのロザリオに機能があって、それが野干玉の死因とか?」
「いやあ、これ以上はさすがにないよお。それにたまちゃん氏の死因は外傷がほとんど残らないものだからあ」
「やはり溺死なのではないか?」
「思考停止しないでよ星砂くん!?さっきまでの勢いはどうしたの!?」
「疲れたんだろ」
「でも、他にロザリオを残す意味なんてあるのか?」
「・・・
議論の中で雷堂が発した言葉を拾い上げ、スニフが何かの可能性を閃いた。正しいという根拠はない。ただの推測に過ぎない。しかし証拠隠滅でもなく、凶器であると分かっているものを敢えて口の中に残す理由などないはずだ。もう一つの野干玉の謎を解く鍵になっていないのなら。
「これは・・・
「なんだと・・・?」
「フライング・・・んと♣」
「考えてまで間違えようとするな」
「てはっ☆」
「ダイイングメッセージってことは、犯人の名前が分かるってことか!?」
「うっ・・・そ、そこまでじゃないと思います。けど、
自信なさげにスニフが言う。まだ推測は推測のままで、具体的な証拠があるわけでもなんでもない。その上、この推理は犯人に繋がる手掛かりかどうかさえも分からない。あくまで、ロザリオが口の中に入っていたことの説明でしか、今のところはないのだ。
「たまちゃんさんの
「ああ。死体が浮いているのは溺死の定義から考えても違うと言える」
「だけど
「あんなところで死んでたらそりゃそう思うよねー♣紛らわしいんだからたまちゃんってばもう♡」
「
「・・・ん?どういうこと?」
少し考えた後、研前が首を傾げた。
「
「そ、そうなのか?荒川」
「ふむ。まあ多少口が塞がるから、溺死を遅らせることはできるだろう。それに、今まさに溺れているときに異物を口に含めるというのも考えにくい。普通は気道を確保するために水面に上がろうと藻掻くか、口から異物を吐き出そうとするはずだ」
「だけどたまちゃんさんの
「・・・ほう」
「たまちゃんさん、きっとボクたちが
「っていうことは、スニフ君、あのロザリオは、たまちゃんが自分で入れたってこと?」
「
にわかには信じがたいスニフの推理だが、実際に野干玉の死因は溺死ではない。あの現場を見て溺死を連想しない者はおそらくいないだろうし、たまたま荒川が詳しかっただけで普通は溺死体の状態などから推理できるとは思わない。
「だからボク、思うんです。たまちゃんさんがサイクローさんを
「・・・それって、スニフくん・・・私たちの中に──」
「少なくとも野干玉を殺した者がいる、ということになるな。鉄を殺したのが野干玉なのか、野干玉を殺した者と同一なのか。確認だが、そういう場合はどうなるのだ、モノクマ」
「まーた確認かよ!えっとね。その2パターンの場合は、どちらも同じです!つまり、野干玉サンを殺した犯人が、今回オマエラが指名すべきクロってことになります!先に起きた殺人のクロを殺すと、クロの権利が移るってな具合です」
「だそうだ。ということは、いずれにせよ野干玉を殺したクロは明らかにしなければならないな」
「え、でもどうやって・・・?野干玉の口に入ってたロザリオは、そういう意味のメッセージだったとして、でもそれ以上の手掛かりってなくないか?」
「あう・・・そ、それは・・・」
「フフフ・・・落ち込むことはない、スニフ少年。存在さえ曖昧だったこの裁判で指名すべきクロが、今の推理で明らかになったのだ。これは大手柄だぞ」
荒川のフォローを受けて、裁判場はまた考え始める。鉄を殺したのは野干玉か、姿の見えないクロか。野干玉を殺したクロは誰か。限られた手掛かりを再考し、裁判の流れをさらい、明らかになった真実を推敲する。
「・・・あれ?」
「どうした、正地?」
「でも・・・それっておかしくないかしら?だって、たまちゃんが他の誰かに殺されたんだとしたら、その場所ってどこになるの?」
議論開始
「たまちゃんが殺されたのって、どこなの?」
「そりゃ下水道だろ!」
「下水道に行けるようになったのはモノクマツアーの後だ。罠があったとはいえ、あんなところに敢えて行く者はいないだろう」
「じゃあ、罠があったお城の入口かな?」
「
「ボクもこなたさんと同じおもいます。たまちゃんさんが
「なんでそう言い切れるんだい?たまちゃん氏は下水道で見つかったんだよお?」
「たまちゃんさんが
「真下ってこと?ふーん・・・あ、そっか!はいはーい♡マイム分かっちゃった☆」
「なんだよ」
「たまちゃんが落とし穴の真下にいたってことはさ♢落ちてからバタバタ暴れたり、どうにか脱出しようとしなかったってことだよね♡つまり下水道に落っこちた時点で、たまちゃんはもう死んでたんだー♬」
「・・・そうです。だからたまちゃんさん、
「ほほう!これで更なる確信が得られたな!ヌバタマは第三者に殺されたと!くくく・・・面白い、面白いぞ
「まあたなんかテンション上がってきたねえ」
「オレ知ってる。これダメなパターンだろ」
「黙って聞け凡俗!いや、黙ってはいられないだろうが黙らせてやる!」
「単純にうるさいな」
下水道の状況と城の構造を思い浮かべながら、スニフが説明する。野干玉が第三者に殺害された状況証拠であり、野干玉が殺された現場の可能性にもなる証拠を。それに便乗した星砂が、再び熱を取り戻して饒舌になる。
「待て。それだけで野干玉が城の入口で殺された証拠になるのか?」
「ぬっ、なんだ
「例えば鉄と同じように『姫の部屋』で野干玉を殺害し、その後で死体を入口の罠に捨てたと。そう考えることはできないか?」
「わざわざ死体を運ぶのか?何のために?」
「マイムたちに勘違いさせるためじゃない♠実際さっきまでマイムたち、サイクローがクロだとか思ってたわけだしさ♬」
「フン、少しはものを考えろ。さっき説明しただろう。あの城の入口は、男女2人以上でないと入ることも出ることもできないのだと。死体がツレになるか?」
「なりません!『生物』から『生』を奪ったら『物』になるように、死体はあくまで死体です!」
目配せでモノクマに問うた星砂に、モノクマが元気に回答する。
「あ、あのね、盛り上がってるところ悪いんだけど、私が聞きたいのはそういうことじゃなくて・・・」
「なんだ
「その、たまちゃんを殺した人は、まず鉄くんじゃないのよね?」
「うん。それは間違いないと思うよ。鉄君はお城の天辺の『姫の部屋』で死んでたわけだし」
「じゃあ、たまちゃんと鉄くんがお城の中にいるのに、そのたまちゃんを殺した人は、どうやってお城に入ったの?」
「・・・ん?」
「あっ!ホントだ!ダ、ダメじゃんかこの推理!」
「う〜ん・・・ダメだねえ」
正地の疑問に、返ってくるのは同調する残念な声ばかりだった。誰もが忘れかけていた超重要事項、モノクマ城に入城するルールは、先程の議論の中で結論付けられたもので間違いないはずだ。
議論開始
「野干玉の殺害現場は、モノクマ城内で間違いないんだな?」
「『姫の部屋』の状況とか、鉄の死因とロザリオとか、その辺のことも考えたら野干玉が城の中にいたのは間違いないと思うぞ」
「でも・・・たまちゃんを殺した人がお城の中にいたっていうのはおかしいじゃない!モノクマ城に男女のペア以外の人が入る方法なんてなかったはずよ!」
「
「じつは・・・モノクマ
「そ、そうなのかい!?」
「いや、あの城は周りを堀に囲まれていたはずだ。あの跳ね橋のある入口からでないと入れないはずではないか?」
「そして入口には落とし穴の罠だ。隙がないように見えるが?」
「それでも、ひとりで入るほうほうあります。それは──」
落 と し 穴
「あの
「ほう。ふむ、では・・・そういうことか」
「えっ・・・ス、スニフくん・・・それって・・・!」
スニフが口にしたのは、今まさに話題の中心となっていた城の入口すぐにある罠の落とし穴だった。モノクマ像により入城条件をクリアしていないと判断された者は、その罠が作動して下水道に突き落とされる。ルールにある通り、そこから脱出できる保証はない。
「あんなところが入口になるの♢スニフくんってば大胆な推理だなー♬」
「くくく、そう大胆でもないかも知れんぞ」
「・・・どういうことだ?」
「話せ
「・・・
「いやあでもお・・・あんなところからどうやって脱出するっていうんだい?おれや虚戈氏は行ったから分かるけどお、あんな真っ暗で右も左も前も後ろも上も下も分からないようなところからの脱出なんて想像つかないよお・・・」
「堀に繋がる水道は、モノクマツアーでモノクマが開放した。それ以前のあの場所は通れない。当然、水中もあの鉄柵は続いているだろうな」
「そんなとこじゃないです。
「!」
いつの間にかモノヴィークルを操作されて裁判場の真ん中にいたスニフは、全員の視線を受けながらモノクマ城の方を指さす。あの落とし穴で落とされる下水から脱出できる唯一の手段を、裁判場から示した。城の中央から右に逸れた、小さな尖塔を。
「モノクマ
「と、時計塔?・・・えっ?も、もしかして・・・」
「どうしたの研前さん?」
「えっと・・・いや、別に大したことないと思ってたから忘れてたんだけど、思い出したことがあって。私はその時は、ただモノクマの整備が杜撰なんだな、くらいにしか思ってなくて」
「お、落ち着けって。ゆっくりでいいから話してみろよ」
「あのね。事件前に鉄君とモノクマランドを歩いてる時に、あそこの時計が少しズレてたの。だいたい2〜3分」
「失礼なこと言うなよ!ボクはモノクマランドの管理を一瞬たりとも怠ったことはないんだからね!だいたいあの時はお前がスロットマシーン全部ぶっ壊すからその修理に手一杯だったんだろコンニャロー!!」
「いや何やってんだよ研前!」
「あはは・・・」
「ん?研前、そのズレてた時間って、ホントに2〜3分か?」
「う、うん。鉄君も見てたから間違いないと思うよ」
「しかし、あれはどう見ても2〜3分どころのズレではないな」
研前の記憶の中の時計塔の時計は、間違いなく2〜3分程度のズレだった。しかし今、モノモノウォッチの時間と照らし合わせて見てみると、そのズレは更に長時間に及んでいる。見間違えるような誤差でもなく、研前がウソを吐いているとも思えない。そもそもウソを吐くくらいならそんな話をしなければいい話だ。
「
「・・・?そうか?」
「それより少年。あの時計が脱出口とは、どういう意味だ」
「はい、あの
「はい、言いました」
「それがどう関係あるんだ?」
「まだ分からんのか?下水に突き落とされても、汲み上げ機関で時計を回しているということは、下水から城の上層まで繋がる動力機関があるということだ。それを利用すれば地下から上がることも可能だ。まあ、多少負荷がかかるだろうから、
「や、やっぱりそうなの・・・?そういうことなのスニフ君!?」
「・・・!」
たどたどしいスニフの説明を、星砂がフォローする。それで勘付いた研前が、青い顔でスニフに言う。それが意味するものが一体なんなのか、裁判場で理解できる者は少ない。その意味を理解しているスニフが、言葉を続ける。
「
「噴水広場から?噴水を通って城に入るってことか?そりゃちょっと無茶なんじゃないか?」
「
人物指名
スニフ・L・マクドナルド
研前こなた
須磨倉陽人
納見康市
相模いよ
皆桐亜駆斗
正地聖羅
野干玉蓪
星砂這渡
雷堂航
鉄祭九郎
荒川絵留莉
下越輝司
城之内大輔
極麗華
虚戈舞夢
茅ヶ崎真波
「あなたにだったら、できましたよね?テルジさん」
「え、おお。できたぞ」
「はあっ!!?」
「今なんつった下越!?」
「いやだから、オレはその汲み上げとかなんとか使って噴水から出て行くの、できたぞ」
「・・・意味を分かって言ってるのか貴様」
「え?え?な、なんだよお前ら?急に色めき立ってよ」
「馬鹿もここに極まれりだな」
「馬鹿って言うな!聞こえてんぞ!」
スニフに指名された下越は、その重大さを理解しているのかしていないのか、あっさりと認めた。自分が下水からの脱出法を知っていたこと。そしてそれを実行可能であり、それを経験済みだということも。
「ボクとこなたさんがモノクマ
「あー、あれはマジで死にかけたわ」
「ああ!そ、そっか!下越くん、しばらくいない日があったから心配してたんだけど、モノクマ城にいたって言ってたわね!それって、下水にいたってこと!?」
「裁判の冒頭でも、しっかり言っていたな。ひとりで入ったら落とし穴に落ちたと」
「言ったけど・・・ん?ちょっと待てよ?」
「もういい。時計塔の汲み上げ機関を使って脱出することができたのは、その存在を知っていた貴様だけだ。不在の三日間のうちに城の内部を調査していたのかなんなのかは知らんが、これ以上の証拠はない。貴様がヌバタマ殺しの犯人だ」
「・・・はああああああああああああああっ!!!?オレがクロォォオオオオオオオオッ!!?」
「遅えよ!!」
周回遅れで理解が追いついた下越が絶叫する。自分がクロ指名されているとは露ほども思わず、しかし理解した途端に今の自分の絶望的な状況に愕然とする。裁判場の視線のほとんどが、自分への疑惑の視線となって降り注ぐ。そして、決定的とも言える証拠も自分の口から語られていた。
「ま、待て待て待て待て!!オレはやってねえよ!!噴水から出たのはスニフと研前に会ったときだけだし、そっからあの城に近付いてもねえよ!!だいたいあんな死ぬかも知れねえこと、二度とゴメンだっての!!」
「それはお前の感想に過ぎない。反論するならせめて論の形をとれ」
「いや、論っつうかなんつうか・・・」
「反論できないのならば貴様の負けだ。その腹立たしい馬鹿の真似事も、いい加減やめたらどうだ」
「ま、真似事なんかしてねえよ!!つうかオレはやってねえ!!」
はっきりと下越は否定する。しかし星砂をはじめ、裁判場で下越を疑惑の目で見る者たちに、その主張は虚しいだけだった。何も根拠がない、アリバイも何もない。あるのは決定的な証拠だけ。あまりに一方的すぎるその状況に、下越はただ頭を抱えるだけだ。
「ま、待てよ!?お前らウソだろ・・・!?マジでオレがやったと思ってんのかよ!やめろよ!んなことしたらお前ら全員死ぬんだぞ!?分かってんのかよ!」
「だ、だけど、下越君が噴水から出てきたのは事実だし。それに・・・他にあんなところから出て来られる人なんて・・・」
「っざ・・・っざっけんな!!オレは何にもやってねえよ!!」
「じゃあお前の他に下水から噴水に出るルートを知っていた者がいるということか?」
「それは知らん!!」
「んむぅ・・・否定はするものの誤魔化す気が全く感じられない。須磨倉や相模に照らし合わせて考えると、この行動はクロらしくない、と言えるのか?」
「それはどうだろうねえ」
「クロらしくねえもなにも、オレはマジでやってねえんだって!!なあお前ら!!信じてくれよォ!!」
悲痛な叫びは虚空へ拡散し、裁判場から消えていく。ただひたすら回り続けるモノヴィークルの駆動音だけが耳に入り、誰も応える者はいない。この事件のクロが下越なのか、全員が決断しかねていた。
議論開始
「ま、まさかお前ら、みんなオレがクロだなんて、信じてるわけじゃねえよな・・・!?なあ!?」
「・・・」
「なんでお前ら黙ってんだよ!?なあオイ!!」
「・・・」
「ふざけんじゃねえぞ!!オレはクロなんかじゃねえ信じてくれよォ!!」
「・・・」
「ちょ、ちょっと待て!!絶対あるんだ!!だから待ってくれ!!証拠があるはずなんだ!!オレがクロじゃないって証拠がさあ!!」
「
下越の必死の叫びに、ようやく1つの答えが返ってきた。それは、この状況を作り出した張本人、下越がクロだと最初に追究した、スニフからだった。
「え・・・!?」
「ス、スニフ君・・・?」
「テルジさん、ごめんなさい。ボク、あなたが
「な、なんだよそれ・・・!?どういうこったよ!?」
「どういうつもりだ
「・・・ボクの
「真犯人の・・・心当たり・・・!?」
「はい、それでした」
「ま、待てよ・・・!まだ何がなんだか分からないんだが・・・。まず、下越が犯人じゃないって理由を教えてくれないか?」
「わかりました」
スニフの発言で、裁判場は犯人と指名された下越を含めて混乱の渦に落とされた。縋るような目でスニフを見る下越は、しかし同時にスニフが何を考えているか分からず怪訝な色を浮かべる。
「たまちゃんさんのモノモノウォッチです」
「はにゃ♣モノモノウォッチ?」
「エルリさん、レイカさん。たまちゃんさんのモノモノウォッチの、
「ああ・・・確か、3つだったな」
「私も覚えている」
「それがなんだよ?」
「
「おれかい?ああ、荒川氏と打ち明けあったよお」
「なっ!?言うのかそれを!?そんなあっさりと!?」
「まあまあ、内容言うわけじゃあないんだからいいじゃあないかあ」
「
「・・・ッ!」
その質問に答える者は、誰もいなかった。答える理由がないのか、或いは
「誰も・・・いない?どういうことだ?」
「たまちゃんさん、3つ『
「下越氏だねえ」
「ちょちょちょ!!ちょっと待てよ!!それはアレだろ!!動機配られたときだろ!!オレはわざと言ったわけじゃねえって!!」
「
「2つ?・・・なるほど、そういうことか少年」
「え?なに?荒川さん分かったの?」
再び自分の名前を出されて過敏になっている下越が、必死に弁明しようとする。しかし、3つのうちの1つが下越であることは、下越がクロではないことの有力な証拠となる。
「たまちゃんさん、サイクローさんと
「ああ。鉄と二人きりでモノクマ城に入ったことや、図書館での反応、ここまでの推理から考えて、鉄の秘密を知っていたことは十分に考えられる」
「じゃあこれで、下越くんのと合わせて2つね。あと1つは・・・?」
「ここにいる誰も、
「はい。最後の1つ、たまちゃんさんに『
ざわっ、と裁判場を囲う空気が変わった。つい数分前まで存在すら不確かだった“真犯人”に繋がる決定的とも言える手掛かりが、スニフの口から語られた。そしてそれは、先程スニフが全員に対して問うた質問とその結果からも裏付けられる。
「この中にひとりだけ・・・さっきの
「そ、そいつが・・・野干玉を殺したクロ・・・!?」
「お前は分かっているのか?スニフ」
「・・・
「だ、誰なの誰なのぉ♣勿体ぶらないで早く言ってよもう♬」
心臓が激しく脈打つ。論理は、間違っていないはずだ。証拠も、推理が正しいのなら存在する。今この裁判場の流れは、スニフが握っている。状況証拠と物的証拠は揃っている。もし足りないものがあるとすれば、それはスニフが持っていなくて、この事件の
身体の芯から震えが止まらない。緊張で喉がカラカラに乾くのに、額から汗が流れる。息が詰まる中で、スニフは真っ直ぐ、その人物を指さした。
「ク・・・
願わくば素直に罪を認めて欲しいと、無意味な祈りと共に。
人物指名
スニフ・L・マクドナルド
研前こなた
須磨倉陽人
納見康市
相模いよ
皆桐亜駆斗
正地聖羅
野干玉蓪
星砂這渡
雷堂航
鉄祭九郎
荒川絵留莉
下越輝司
城之内大輔
極麗華
虚戈舞夢
茅ヶ崎真波
「そうですよね?・・・ハイドさん」
「!!」
「なっ・・・!?なん・・・だと・・・!?星砂・・・!?」
指名された星砂は、余裕の表情で向けられた指を睨み返す。むしろ辛そうに見えるのは、星砂よりも指名したスニフの方だった。
「ハイドさん。ボクたちの中であなただけなんです。だれにも『
「えっ・・・そ、そうなのか?なんでスニフがそんなこと分かるんだよ」
「えっと、下越君は全員の前で大声で言ったよね。それから極さんと雷堂君、荒川さんと納見君が打ち明けあったことはさっき聞いたよ」
「ボクはマイムさんに言いました。こなたさんのもききました。マイムさんは──」
「ワタルに話したよ♡マイムとワタルは秘密を知り合う仲ってことだね♡きゃはっ☆」
「誤解されるような言い方やめろよ!」
「セーラさんはサイクローさんと
「ほ、ほんとだねえ。こうして見るとお・・・いま知ったのもあるけどお、おれらの中で動機をクリアしてないのは星砂氏だけだあ」
「ということは、野干玉の残り1つのカウントは・・・星砂のものということか」
「フンッ!下らんな!確かに俺様は誰にも『弱み』を打ち明けていない!だがそれは、俺様のような完全無欠たる存在にはそもそも秘匿するような『弱み』がない故だ!存在しないものをどう打ち明けろというのだ?神とて全能ではないのだ」
「ならばなおさら疑わしいな、星砂」
『弱み』が存在しないというのは、動機が配布されたときから繰り返し星砂が口にしている。しかしモノクマがコロシアイの動機である『弱み』を、星砂だけ何も用意しないというのも考えにくい。それは、コロシアイにおいて不平等を生み出してしまう。
「我々全員が等しく課されたこの動機で、お前だけ『弱み』が存在しないというのは、明らかに贔屓、あるいは差別とも言えようか?」
「・・・」
「敢えてモノクマがそんな動機を用意したと考えれば・・・黒幕の内通者は鉄ではなく、むしろお前であると、そう考えるのも自然であろうな」
「さあな。そもそも
「えっ・・・」
「『弱み』を打ち明けられるのは1人1度ではない。凡俗共の何者かが、ヌバタマにも『弱み』を打ち明けていた可能性があるだろう。それに、『弱み』であることを認識した上であれば、必ずしも『弱み』の持ち主が打ち明ける必要はないのだ。先ほどの
可能性はいくつもある。モノモノウォッチに表示されるのはあくまで打ち明けられた数に過ぎず、それが誰のものかを証明する手段はない。野干玉のモノモノウォッチの数字に星砂が含まれるかどうかを知るのは、野干玉自身と打ち明けた本人にしか分からない。
「でもだとしたら、どうして
「そんなもの俺様が知るか。貴様が打ち明けた者がクロなどと言うから萎縮でもしたのだろう。己の潔白を証明するのも容易ではないからな。今の俺様のように」
「随分と余裕だねえ。たまちゃん氏のモノモノウォッチの件は星砂氏以外にも可能性があるってだけでえ、星砂氏が一番疑わしいことは変わってないんだよお?」
「貴様に言われなくとも分かっている。だが、それ以外に俺様がクロであると言える証拠もなしに、たった1つの曖昧な推理でクロ呼ばわりとは・・・残念だ、
「・・・
「む」
クロと言われてもなお余裕を崩さない星砂に、スニフは真っ向から反論する。たとえ野干玉のモノモノウォッチの数字が決定的な根拠にならずとも、星砂を相手に一点のみで論破することはできないと、スニフも分かっていた。だからこそ、それ以外の証拠を提示する。
「
「へ・・・?あ、ああ!会った会った!会ったぞ!ホテルに戻る途中でな!くせえって言われた」
「それがどうした。まさか、そのドブ臭さで抜け道に気付いたなどと言うまいな」
「
「・・・」
星砂が先に打った釘を、スニフはそのまま英語で返す。冗談なのか真面目なのか、揚げ足を取るような言い方に、星砂の顔が僅かに歪む。苛立ちから、組んだ腕に力が込められる。
「英語で言っても同じことだ。縦しんば下水にいたことが分かったとして、そこから城に入る方法まで想像できるか?」
「
「どこでそんな挑発を覚えてきたかは知らんがな小僧、それは決定的な証拠を引き出すための手段だ。逆説的に、貴様がまだ俺様をクロだと断定できる証拠がないことの証明をも意味するのだぞ」
「んん・・・確かに、それはちょっと無理があるんじゃないか、スニフ?」
「ハイドのことだからあり得るっちゃあり得るけど無理だって言われても納得できちゃうなー♡マイムには無理だけどね☆あはっ♡マイムってばすきじごー☆」
「この通りだ。残念だったな
「まだ、ほかにもあります!」
未だ判然としない裁判場。スニフの推理は、支持するには根拠が弱い。星砂の潔白は、主張するには不明な部分が多い。真っ向から対立する2人の立場に、他の“超高校級”たちはただ流れを追うことしかできない。
「たまちゃんさんを
「そりゃそうだろうな。下水から入るくらいだし」
「だから、
「何?フン、何を言うかと思えば、あんな作り物の安い城のことなど知ったことではない」
「・・・いいんですね、それで」
「なんだと言うのだ一体」
「モノクマ
「は?」
死体発見アナウンスが流れ、星砂が現場に到着してすぐのことを思い出しながら、スニフが話す。極の手で野干玉が城の前に移動させられた後、なかなか検死に着手しない極と荒川に業を煮やした星砂が、先に鉄の死体を調べに行くためモノクマ城に入ったのだった。迷路のように複雑な城に入っていく星砂を心配したスニフが慌てて追いかけたが、星砂は迷うことなく『姫の部屋』まで到達した。
「そのあとにきたセーラさん、
「そ、そうだよね・・・私とスニフ君が入ったときも順路の立て札があったから迷ったとは思わなかったけど、あちこち廊下や階段があってすっごく複雑だった覚えがあるよ」
「よく下越1人で出口まで辿り着いたな」
「子供かオレは!順路を逆に辿ったら外にくらい出れるわ!」
「ほう・・・」
「感心することでもねえわ!!」
「その通り、感心することでも特筆することでもない。あんな子供騙しの迷路もどきなど、俺様にとっては一本道となんら変わりはない」
「だけど、『
「諄いぞ
「・・・それは、
敢えて選んでいるのか、星砂を相手にして緊張しているのか、スニフの言葉にはいつもと違う棘がある。徐々に苛立ちがエスカレートしていく星砂は、最後のスニフの発言で額に青筋を立ててがなりだした。
「粋がるなよガキが!!貴様も見ただろうが!!
「それはさっきワタルさんが
「・・・!!」
「たまちゃんさんのモノモノウォッチ持ってたの、ハイドさんじゃないですか?」
「なに・・・!?」
「そ、それどういうこと・・・?スニフくん」
「あのモノモノウォッチがあったのは・・・
──探索したらまた良い物が見つかったりするかもね♫──
「モノクマが言ってたいいものは、
「ま、まあ確かに・・・それはそうだな・・・」
「それがなぜ俺様が持ち出した理由になる」
「ハイドさんはそれを見つけて、たまちゃんさんの『
「なるほど・・・」
「サイクローさんを
声を荒げず、冷静に、スニフは推理を口にする。星砂は激昂していたが、話を聞くにつれて徐々に落ち着きを取り戻した。それが、スニフには何か奥の手を隠しているような、確実な逃げ道を持っているかのように思えて、より恐ろしく感じる。
「ククッ・・・!クククッ!よく思い付くものだ。次から次へとありもしない根拠薄弱な誇大妄想をペラペラペラペラペラペラペラペラとォッ!!」
「ひっ・・・!?」
「モノモノウォッチを俺様があんなところに隠しただと!?正体も分からないもののために倉庫エリアの奥の奥にまで赴いただと!?下らん下らん下らん!!何度も同じ事を言わせるな!!貴様の言葉には根拠がない!!俺様が犯人であると言える証拠はあるのか!!ないのならばこの話は根本から全くのデタラメだ!!はっはぁ!!」
「うぅ・・・!」
「おぉ、どうした?どうしたどうしたどうした“天才少年”ンンンッ!!?遂に弾切れか!?どれもこれも俺様を納得させることのできない貧弱な推理だったなあ!!これが“本物”というものだ!!凡俗たる貴様の“限界”というものだ!!どうだ!!根拠はあるのか!?はっきりと言ってみろ!!『根拠もなく疑ってごめんなさい』と!!英語でも構わんぞ!!」
「・・・ハ・・・ハイド・・・さん・・・!」
──お前の推理は拙い。不完全で、未完成で、非完璧だ。なぜなら貴様の推理には物的証拠がない。矛盾はなくとも根拠がない。学級裁判でねじ伏せたい者がいるのなら、徹底的にやれ。状況証拠で追い詰めて精神を削り、物的証拠で反論の余地を奪え。その推理が正しければ、それだけで答えは出る。故に、貴様では真相を暴けない──
「
「はあっ!?・・・・・・・・・ッ!!!」
俯きがちに返されたスニフの言葉に、星砂は固まった。目を丸くし、がばっとモノクマ城の方を見やる。尖塔上部に設置された時計が指している時刻は、現時刻からズレている。僅か
「きっ・・・!!?貴様っ・・・!!?」
「ハイドさん。ウソ言ってごめんなさい。今は、もうおひるの前です」
「ぐっぎぃ・・・!!」
「そうです。モノクマから
「・・・!!」
「
「あっ・・・!そ、そうか・・・!裁判中でも時間が過ぎたら・・・!」
裁判前に極が確認していたことを思い出し、スニフと星砂を除く全員がモノクマの方を見た。モノクマはニヤニヤ笑い、左目が真っ赤に光る。
「うっぷっぷ〜♬24時間が経ちましたので、まだ動機をクリアしてない人は、ボクのエクストリームなおしおきで退場してもらっちゃいましょーーーぅ!」
「えっ!?だ、だれか・・・!?」
「と、思ったけど、残念ながらここにいる全員、昨日の夜の段階でとっくにクリアしてたんだよねー。案外オマエラ簡単に話しちゃうんだね。つまんねーの。はい、裁判続けて」
「終わり!?なんで誰かクリアしてない雰囲気匂わせたんだよ!?」
「・・・だからか、スニフ。さっきお前が、時計のズレている時間を1時間と言ったのは」
「はい。みなさんも、ウソ言ってごめんなさい。でもこうするために
「て、てことはあ、スニフ氏はずっと星砂氏が怪しいって思ってたわけかい・・・?あの時から・・・?」
「・・・」
スニフは、黙って頷いた。その目を星砂からは逸らさず、追撃のチャンスを逃さない。
「ハイドさん、自分で言いました。誰にも『
「がっ・・・!!?ああっ・・・!?ああああああああああああああッ!!!!」
「うおっ!?な、なんだ!?」
はっきりと突きつけられた証拠に、星砂は何も言わないまま俯いてた。かと思えば、聞いたことのないほどの大声を上げる。身体中の空気全てを声に変えたかのような、長く大きな雄叫びだった。
「ふっっっざっっけるなああああッ!!!何が証拠だ!!!何が論理だ!!!何が動機だ!!!くだらんくだらんくだらんくだらんくだらんくだらアアアアアアアアアアアアアッん!!!!貴様ら凡俗共が一丁前に推理などできていたつもりになっていたか!!?足りない知恵を絞って真実の一端でも掴めた気になっていたか!!?滑稽だ!!!実に滑稽で哀れで愚昧だ!!!全てクロの手の平で弄ばれているに過ぎないと言うのに!!!こうして俺様を責め立てているのもクロの策略の一部に過ぎないというのにまんまと嵌まりやがって!!!その間抜けな面を鏡で見てみろ!!!いかに馬鹿馬鹿しい結論で納得しようとしているか分かるだろう!!!馬鹿馬鹿馬鹿!!!どいつもこいつも馬鹿で分からず屋のゴミクズ共だ!!!!」
「なら、ボクが
クライマックス推理
Act.1
モノクマから
Act.2
そのころ、たまちゃんさんとサイクローさんは『
Act.3
たまちゃんさんの『
この
「ぎぎっ・・・!!ぐっ・・・!!」
スニフの推理に、星砂は何も言えず、ただ頭を抱えていた。反論の余地は?ここから議論の流れを奪う方法は?スニフの推理に綻びは?
「・・・!!」
「うっぷっぷっぷっぷ♬なんか面白いことになりそーな予感がしますねー!そんじゃ、結論が出たようなので投票いっちゃってもいいですか!?ボクとしては動機の24時間のリミットも過ぎたし、後はもう退屈な時間なんだけどねー!」
「ほ、星砂・・・!お前・・・ホントに・・・!?」
「そんじゃ、いってみましょうか!レッツ投票タイム!」
雷堂の言葉は弱々しく、星砂に聞こえているのかすら分からない。モノヴィークルの柵のディスプレイには、投票ボタンが表示された。
「ううぅ・・・うううぅうぅぅぅぅぅうぅぅぅうぅぅぅぅうぅ!!!あああああああああああああああああっ!!!!っがあああああああ!!!」
何かを振り切ろうとするかのように、頭を抱え目の焦点が定まらないまま吠える星砂。苛立ちを吐き出すように、身体の震えに苛まれるように、それでも、投票ボタンは消えない。モノヴィークルを壊さんばかりに拳を叩きつける。それはただ、無意味な票が一票増えることだけを意味していた。
コロシアイ・エンターテインメント
生き残り:10人
疲れた。
ギリギリ2月中に投稿できました!