ダンガンロンパカレイド   作:じゃん@論破

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学級裁判編1

 いつもよりずっと分からないことがおおくて、このままでボクたちはちゃんと犯人(クロ)Expose(暴く)できるのか、ボクはずっとWorry(心配)してた。こなたさんに手をひかれて、またあのEntrance plaza(入口広場)にあつまる。なんだか、ボクやこなたさんのほかにもAnxiously(不安そう)になってる人がおおい気がする。

 

 「くくく・・・ずいぶんと数が減ったな。7人も死ねば当然か」

 「・・・」

 「どうした(盛り髪)?いつものように俺様に苦言を呈しはせんのか?」

 「時間の無駄だ」

 「ようやく学んだか」

 

 ハイドさんとレイカさんが、Short(短い)なことばをなげあう。レイカさんとエルリさんはずっとモノモノウォッチでサイクローさんのモノクマファイルを見てた。ワタルさんは、たまちゃんさんの方だ。しっかり見れてない人もいるんだ。どっちも見てるボクたちがちゃんとExplain(説明)してあげなくちゃ。

 

 「やあやあみなさんお揃いで。そんなに学級裁判やりたい?やりたいんだね?もう〜、なんだかんだみんな楽しみにしてるんじゃない!」

 「お前が集めたんだろ」

 「そんじゃあ今日も吐き気がするほど快晴な空の下、青空学級裁判を始めようか!」

 「どんな体質だよ」

 

 Today(今日)、空はどこまでも広がるBlue sky(青空)だった。こんなNice day(良い陽気)の日なのに、ボクたちはこれから、命をかけてClass trial(学級裁判)をする。ボクたちのFriend(仲間)をころした犯人(クロ)を見つけるために、目のまえの人をCondemn(糾弾する)する。

 

 「それじゃあオマエラ!各々自分のモノヴィークルに乗ってください!ちゃ〜んと、自分のものに乗らなくちゃダメだよ?」

 「ま、また遺影があ・・・」

 「今回は二人も死んじゃって、遺影の準備がいつものきっかり2倍大変だったよ!あ、違うや。2枚が3枚になったんだから、1.5倍か」

 

 もこもこでろくに折れないゆびを折って、モノクマが言いなおした。ボクたちは自分のモノヴィークルにのって、またCircle(円形)にならぶ。Last trial(前回の裁判)Execution(処刑)されたいよさんと、This time(今回)ころされたたまちゃんさんとサイクローさんのPortrait(遺影)がふえてた。

 

 「始める前に、モノクマ、貴様に一つ確認することがある」

 「はにゃ?なんでしょう?」

 「貴様が我々に与えた動機、『24時間以内に「弱み」を自分以外の誰かに打ち明けなければ強制的に処刑』は、学級裁判中も有効なのか?」

 「ん?なんだそりゃ?」

 「要するに、裁判中に動機のリミットを迎えたらどうなるかってことだろ?」

 「そういうことだ。全員の命が懸かっている以上、処刑による中断などという余計な混乱は避けたい」

 「なるほどね〜」

 

 レイカさんがモノクマにQuestion(質問)した。ボクはもうClear(クリア)したけど、まだこの中にClear(クリア)してない人がいたら、どうなるのか。モノクマはGrining(にやっと笑う)して、Answer(答える)した。

 

 「そりゃもちろん、学級裁判中であろうとなんであろうと、ボクの動機は絶対だよ!学級裁判中に動機のタイムリミットを迎えたら、その時点で未クリアの人たち全員が即おしおき!その後、クロを見つけるための裁判は続行します!」

 「しょ、処刑なんか見た後で裁判なんてできるわけないだろお・・・」

 「みんな、聞いただろう。無意味な犠牲をこれ以上増やさないためにも、まだクリアしていない者は速やかに名乗り出てくれ」

 「ふん、下らん。クリアしていようがしていまいが、こんな相互監視の下で堂々と言えるのなら、はじめから動機になるほどの『弱み』ではなかったということだ。(盛り髪)、貴様のしていることは全くの無意味、自己矛盾だ」

 「ま、その辺のことも裁判中に話し合ってみればいいんじゃない?ボクとしてはもう裁判始める気まんまんだから、どうでもいいことで焦らされると中学生の男子みたいにイライラしちゃうから!」

 「こわ〜い♡」

 

 レイカさんがみんなに言うけれど、ハイドさんとモノクマがそれをはなすこともゆるさなかった。そしてモノクマの合図にあわせて、モノヴィークルたちがボクたちをのせたままSpeed up(加速)する。

 体がおっきくて、Manly(男らしい)で、カッコイイJapanese man(日本男児)だったサイクローさん。あんまりおしゃべりじゃなかったけど、ボクがこまってたらたすけてくれたし、人がいやがることはしないGentle(優しい)人だった。

 ちょっぴりSelf-indulgence(わがまま)だったけど、自分にHonest(素直)で人をEntertain(楽しませる)ことがとくいだった、たまちゃんさん。たのしいことをたのしいと、かなしいことをかなしいと、Straight(率直)に言える、Exhilarating(爽快な)人だった。

 

 そんなふたりをころした犯人(クロ)が、ボクたちの中にいる。その人をExpose(暴く)してExecution(処刑)するか、できずにボクたちがExecution(処刑)されるか。命をかけた三回目のClass trial(学級裁判)が、はじまる。

 

 

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コトダマ一覧

【モノクマファイル③)

被害者は“超高校級のハスラー”、野干玉蓪。死体発見場所はモノクマ城地下下水道、貯水槽。死亡推定時刻は午前0時台。

 

【モノクマファイル④)

被害者は“超高校級のジュエリーデザイナー”、鉄祭九郎。死体発見場所はモノクマ城『姫の部屋』。死亡推定時刻は午前0時台。死因は頸部裂傷からの出血過多による失血死。

 

【モノクマ城)

二度目の裁判後に開放されたアトラクション。男女二人でペアにならないと出入りできず、入場には専用のデートチケットが必要。

 

【下越の証言)

モノクマ城に一人で入ろうとすると入り口の床が開いて下水道に落とされる。脱出するには時計塔の動力になっている汲み上げ機関を利用して噴水から出るしかない。

 

【野干玉の死体)

地下下水道に浮いているところを発見された。モノクマによるモノクマ城地下探索ツアー中に発見された。

 

【荒川の証言)

野干玉の死因は溺死とは考えられない。明確な死因は不明だが、溺死体としての条件を満たしていない。

 

【“超高校級の死の商人”)

コロシアイ・エンターテインメント参加者に潜むという謎の人物。少なくとも二度目の裁判を生き残ったメンバーの中にいるということだが詳細は不明。

>《アップデート》

極によれば、“超高校級の死の商人”の正体は幼い女の子のような姿をしているらしい。

 

【動機その3)

自分の『弱み』を打ち明けなければ24時間後に強制的に処刑されるというもの。打ち明けたかどうかと、打ち明けられた回数は、それぞれのモノモノウォッチに表示される。

 

【打ち明けられた『弱み』の数)

鉄は2つ、野干玉は3つの『弱み』を打ち明けられていた。

 

【時計塔)

下水道の水を利用した汲み上げ式機関を動力としている。示す時間が、モノクマ城の大時計やモノモノウォッチの時間とずれている。

 

【ロザリオ)

野干玉の口の中に詰められていた、色とりどりの宝石や金銀によって彩られた十字架。

>《アップデート》

下越たちの捜査によれば、ショッピングセンターのジュエリーショップに類似品はなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

学級裁判 開廷

 

 モノヴィークルはエンジンの回転数を上げ、円形に並んだ10人の高校生たちの運命を回し始める。数を増やした遺影は無表情にその回転に乗って、沈黙を以て失われた命の代わりを務める。裁判が始まると同時に、モノクマランド中の空気が僅かに震え、爆発音が轟いた。

 

 「まずは、学級裁判の簡単な説明から始めましょう!学級裁判の結果はオマエラの投票により決定されます。正しいクロを指摘出来れば、クロだけがおしおき。だけど・・・もし間違った人物をクロとした場合は・・・クロ以外の全員がおしおきされ、みんなを欺いたクロだけが、失楽園となり外の世界に出ることができまーす!今回は真っ昼間だから、開廷の空砲にしてみました!」

 「び、びっくりしました・・・」

 「余計に気が散るから、こういう演出やめてくれない?モノクマ」

 「え!?裁判始まっていきなりボクに話しかけるの!?止めないし止めろよ!ちゃんと学級裁判しろよ!」

 「まずは被害者の状況の確認からだ。今回は死体発見現場が離れた2箇所になるから、片方しか見れていない者もいるだろう」

 「ではまず、二つの事件の情報を整理しよう。私も野干玉の検死を担当した者として、所感も述べようと思う」

 

 荒川が主導し、裁判はまずかけ離れた二つの現場についての情報を整理することになった。それぞれの現場で検死や捜査を同時並行した結果、各自の持つ情報量に差が出来てしまった。裁判が始まるにあたって共有を宣言したのは、シロであればまずすべき行為だからでもある。

 

 「まずは野干玉の方だ。発見場所はモノクマ城地下の下水。モノクマとスニフ少年の話を総合すると、地下の貯水槽というところで死亡しているところを発見されたとのことだ」

 「間違いない。発見者は私とスニフと虚戈の3人だ」

 「発見場所はモノクマ城ってことになってるみたいだけど・・・あの下水道はモノクマツアーで初めて行った場所なんだろ?」

 「Yes(はい)、あんな行き方あるなんてしらなかったです」

 「マイムもー♡」

 「ど、どうしてたまちゃんはそんなところで死んでたのかしら・・・?みんな行き方を知らないなら、たまちゃんだって・・・」

 「それはどうだろうな。まあ、今は情報共有が先決だろう。凡俗共に教えてやれ、雷堂(勲章)

 「名指しかよ!?」

 「名前は指してないよねえ」

 

 野干玉の死体発見現場は、通常では立ち入れない場所であった。なぜそこで野干玉が死んでいるのか、モノクマツアーがなければ発見することすら不可能な場所で何があったのか。しかしその議論を深めるには、今はまだ早い。まずは捜査状況の全容を把握しなければ、全員が同じ目線に立てない。

 

 「鉄の方は俺と星砂で検死した。捜査はその後、正地と一緒にした」

 「え、ええ・・・」

 「基本的にはモノクマファイルにある通りで間違いなかった。『姫の部屋』の玉座に座った状態だ。喉の元を鋭利な刃物で切り裂かれて出血死したみたいだ」

 「血の量とかエゲつなかったな・・・うあっ、思い出したら首がぞわぞわしてきた」

 「だけどサイクローの首を切るってできるかな♣あんなのに向かって行ったらマイムだって投げられちゃう自信あるよ♠」

 「確かに・・・鉄君ってあんまり乱暴したりする人じゃなかったけど、命が危ないってなったらさすがに抵抗くらいはするよね」

 「でも、あそこResist(抵抗)したあとなかったです」

 「ということは、(ハチマキ)は無抵抗で殺されたということになるな」

 「無抵抗なんてことあり得るのか?」

 「考えられる可能性は幾つかある。抵抗する暇もなく瞬殺されたか、あるいは抵抗する意思すら見せることなく不意打ちをされたか。だろうな」

 「こわーい♬」

 

 鉄の死の状況は一見単純に見えるが、しかし実際の殺害状況を想定してみるとそこには謎が多い。何事に対しても奥手な鉄ではあったが、自分が命に危機に瀕して何もできないほど臆病でもない。しかしその謎の前に、二つの現場について正地が気付いた。

 

 「っていうことは・・・たまちゃんの場合も鉄くんの場合も、どっちもモノクマ城が現場っていうことになるのかしら?」

 「そうだと思うぞ。鉄は間違いなくあの部屋だし、野干玉も普通は入れなかったとはいえ、モノクマ城の地下ってことは城のどこかから行けるようになってたんだと思う」

 「でもそうすると分からないことがあるのだけど・・・モノクマ城って、デートチケットがないと入れないわよね?」

 「チケットだけじゃないよお。条件はもう一つあったはずだけどお・・・」

 「男女一組のペアでないと入城できない、というものだったな」

 「Date(デート)ですから」

 「デートだからって男の人と女の人だけじゃないよ♬マイムの友達にもいろんな人がいたんだからね♂」

 「そこはいま別にどうでもよくね?あの城には、相方見つけて一緒に行かなきゃ入れなかったってこった。で、それがどうかしたか?」

 「なぜそこまで分かっていてその先が分からないのかが俺様には理解不能だ」

 

 首を傾げる下越に、星砂が容赦なく吐き捨てる。しかし実際に星砂を含めたほとんどの者は、正地が何に疑問を感じ、何を言いたいのかを多かれ少なかれ察している。

 

 「あの城に入るには、男女一組のペアにならなければならない。そして今回死んでいたのは、男が一人と女が一人。ここまで言っても下越(馬鹿)には分からんのだろうな」

 「全然分からん!どういうことだ!」

 

 

 議論開始

 「野干玉の死体と鉄の死体・・・2人の死体はどちらも、モノクマ城で発見された。殺害場所もおそらくモノクマ城内だろう」

 「モノクマ城は男女ペアにならないと入れないんだったよな。デートチケットを使う必要はあるけど、基本はペアさえいれば誰でも入れたはずだ」

 「でもそうなると・・・」

 「分かった!犯人はたまと鉄が城に入った後にこっそり忍び込んだんだな!そんで2人を殺して、また1人で出て行ったんだ!」

 「それはちがうぞー♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「んもー、テルジってば勘が鈍いんだから▼しょうがないからマイムが教えてあげるよ☆」

 「なんだよ!犯人が城に忍び込んだんじゃねえのかよ!」

 「そうじゃないから、ペアになってデートチケットを使わないと入れないっていうのを確認したんじゃないかな?」

 「じゃあ何がどうなってああなったってんだよ!」

 「それはね・・・♬」

 

 唯一正地の疑問の意味を理解していない下越が、他の全員から冷ややかな目で見られつつ虚戈にその意味するところを教えてもらう。

 

 「サイクローとたまちゃんがコロシアイしたってことだよねー♡」

 「・・・はあ!?」

 「本当に分かっていなかったのね・・・」

 「正地がそういうことを考えたっていうのは分かったんだけど・・・鉄と野干玉が殺し合ったっていうのはなんか想像できないんだよな」

 

 虚戈が包み隠さず言うことで、全員の認識が一致した。モノクマ城に入城する際のルールと今回の被害者2人を考えれば、それは自ずと辿り着く結論ではある。しかし同時にその結論に対する反論も、全員の頭の中に浮かぶ。

 

 「何を言うかと思えば雷堂(勲章)・・・貴様はまだこの中の誰も、コロシアイをしないなどと甘い幻想を抱いているのか。コロシアイの状況に身を置いている以上、誰もが殺人鬼になり得るのだ」

 「雷堂が言っているのはそういうことではない。野干玉と鉄ではコロシアイにならないと言っている」

 「どういうことだい?」

 「方や2mを越える長身の大男。方や女子にしては高い方だがせいぜい170cm弱だ。しかも鉄はあの身体付きだ。野干玉からしたらあまりに分が悪い相手だ」

 「でもでも〜♡いよだって女の子だけど男の子のダイスケのことを殺したよね♬不意打ちして気絶させたりしちゃえば体格差なんかカンケーないよ♬」

 「そうもいかない。野干玉と鉄がモノクマ城でコロシアイをしたということは、あの2人がチケットを使って城に入ったということだ。野干玉が鉄の不意を突くつもりだったのなら、これは全く意味の分からない行動だ」

 「そうだよね・・・、。モノクマ城に入れるのは2人までなんだから、鉄君がたまちゃんを警戒するのは当然だよね」

 「じゃあなんであいつらはモノクマ城にいたんだよ?普通にデートでもしてたってのか?」

 「What(えっ)!?サイクローさんとたまちゃんさんはCouple(カップル)でしたか!?」

 「本当に貴様ら凡俗に任せていては議論が遅々として進まんな。俺様が舵取りをしてやろう。一旦全員口を噤め」

 

 チケットを使って城に入った以上、2人の間にどのような認識があったかは不明だが、二人きりの空間に身を置くことになることはどちらも理解していたはずだ。その上で野干玉が仕掛けるには、鉄はあまりにリスクが大きい相手だ。

 その疑問を解消し、議論を先に進めるべく、星砂が頭を抱えて言う。前回の裁判と違い推理で犯人を突き止める必要があるためか、多少積極的に議論に参加しようとしている。

 

 「(ハチマキ)の死に様を見れば、奴がどのように殺されたかは明白だ。正面から喉を刃物で斬られたのだ。体格に差があればヌバタマの勝ち目は薄いが、それは(ハチマキ)がヌバタマの殺意を認知していればこその話だ」

 「・・・具体的に話してもらおうか」

 「貴様らも知っている通り、ヌバタマは媚びを売ることにかけてはそれこそ“才能”を持っている」

 「ああ・・・たまちゃん氏のその辺の恐ろしさはおれは身を以て知ってるよお」

 「納見(ぎっちょう)と同じように、(ハチマキ)も同様に誑かされ、それこそ奴に気があるようなフリをしてデートに誘うことなど容易かろう。そして殺害現場は『姫の部屋』・・・デートの目的地としては誂え向きなのではないか?」

 「ベッドもあることだしな」

 「Bed?Japan(日本)ではDate(デート)Last(最後)Nap(お昼寝)でもするんですか?」

 「そうだよ」

 「ヌバタマがあそこで(ハチマキ)に迫り、抱きしめるほど密着する。こうすれば、隠し持っていた刃物で首を掻き切るなど造作もないだろう」

 「確かに鉄は押されると弱い奴だし、野干玉がそんな雰囲気出して来たら戸惑いそうだな」

 

 星砂が展開する推理を大まかにまとめると、野干玉は鉄に色仕掛けをしてモノクマ城に誘い、不意を突いて殺害したというものだった。体格差のある2人のコロシアイや、モノクマ城という特殊なルールが存在する場所で2人の死体が見つかったことの説明はつく。しかし、まだ納得しない者もいた。

 

 「状況的にその可能性はまず考えられる。というよりも、モノクマ城のルールを考えればそれが最も自然な考え方だ。しかしだ諸君、私はそこで新たに疑問を持つのだが、これに対する答えはあるかね?」

 「荒川さん、勿体ぶらないで分からないって言えばいいのに」

 「分からないことがある」

 「素直に言ったね♡」

 「いま星砂が披露したような推理には、一見矛盾がない。しかし野干玉が鉄を殺害したのであれば、野干玉は生き残って我々と共に裁判に臨んでいるはずではないのか?現実にそうなっていないことの理由は説明できるのか?」

 「確かにそうだねえ。鉄氏がたまちゃん氏に殺されたんならあ、たまちゃん氏は誰に殺されたんだろうねえ」

 「でもお城にはたまちゃんと鉄君しかいなかったんでしょ?だったらたまちゃんが誰かに殺されちゃうのはおかしいんじゃないの?」

 「ふっ、やれやれだ」

 

 新たに荒川によって提示された疑問から議論が起こりそうになるのを、呆れたような星砂の声が止めた。ため息交じりにほくそ笑む星砂に、全員が面倒な気配を感じ取る。

 

 「いかに凡俗と言えどそこに疑問を持つことは予想できた。もちろんそれにも理由がある」

 「勿体付けずに言え。外すぞ」

 「な、なにをですか・・・!?」

 「モノクマ城の特殊なルールだ。それを理解すればなぜヌバタマがあそこで死んでいたかの説明もつく」

 「また特殊ルールか」

 「それに、ヌバタマが(ハチマキ)を殺した後にどのような行動を取るかも合わせて考えればいいだろう」

 

 全員が頭の中で、事件現場を思い浮かべる。鉄を殺害した野干玉が、その後に起こす行動。特に現場を直に捜査した面々は、城の内部を頭の中で辿りながら考えた。

 

 

 議論開始

 「たまちゃん氏が鉄氏を殺した後、どういう行動をとって、どこでどうやって死んだかかあ」

 「人をKill(殺す)したときのことなんてわかんないですよ・・・」

 「まずは現場に偽装工作をするのが定石だが、痕跡はあったのか?」

 「いや、血が散らばってる以外は特に何もなかった」

 「それより先に、急いでお城から出ようとするんじゃないの?」

 「そいつぁ違えぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「おいおい研前よぉ、お前忘れてんのか?あの城はただ出ようとすんのでも大変なんだぜ?」

 「え?そうだっけ?」

 「マジで忘れてんのか!」

 「下越くん、何か知ってるの?」

 

 議論の最中に大声を出した下越に注目が集まる。モノクマ城を出ることについて一家言あるようだが、その発言自体がほとんどの者にとっては意外なものであることに、本人は気付いていない。

 

 「オレはあの城の入口じゃドエラい目にあわされたんだ!入ろうとしちゃあ落とし穴に落っこちて、出ようとしちゃあ落とし穴に落っことされかけて・・・」

 「ま、待て!下越・・・お前、モノクマ城に入ったのか?」

 「入ったぞ?言ってなかったか?」

 「誰とだ?」

 「1人で」

 「いやいやいや!それじゃあ辻褄が合わないじゃあないか!あの城は男女ペアでないと入れないんだろお?だから鉄氏とたまちゃん氏が殺し合ったっていう話になってるんじゃあないかあ!」

 「テルジさん、ひとりで入ろうとしたからPitfall(落とし穴)におっこちてSewer(下水)にいました。だからA few days(何日か)いなかったんです」

 「ったくひでえ目にあったぜ」

 「初耳だぞ、そんなこと・・・。なぜ言わなかった」

 「いや別に言う必要ねえかなって。だって2人で行きゃあ関係ねえんだろ?」

 「問題はそこじゃないんだけど・・・」

 「とにかく、あの城は1人じゃ入れもしねえし出られもしねえ。言いつけ破って1人で行ったら下水に叩き落とされるってこった!」

 「あっけらかんとしてるけど、お前死にかけたんじゃないのかそれ・・・」

 

 かっかと笑って言う下越に、全員が呆れて言葉もなかった。しかし下越の証言が真実だとすれば、モノクマ城のルールは文字通り以上の意味を持つことになる。そして野干玉の死の状況についての大きなヒントにもなる。

 

 「まあ下越(馬鹿)が馬鹿だというのは周知の事実だ。それはさておいてだ」

 「馬鹿って言うな!」

 「モノクマ城には、入ってすぐモノクマ像が設置されている。捜査時にあれを少し調べたのだが、目の部分にカメラが仕込まれていた。入城する者たちがルールを守っているかを確認するためのものだろう」

 「そう言えば、スニフ君とデートしたときに写真撮られたね」

 「えー♡スニフくんとこなたってデートしたの♡モノクマ城行ったんだ♡なんでマイムお姉さんに話してくれないの水くさいなあもう♡このこの♡」

 「や、やめてください・・・」

 「そこ!勝手に席を離れない!おしおきしちゃうよ!」

 

 モノクマに注意されて、スニフにちょっかいをかけていた虚戈が自分の席にすっ飛んで戻る。モノクマ城に入った者が共有されていないため、そしてその条件が条件なため、公言するには多少の照れが伴っている。それを研前が気にしないことに、スニフは少し傷ついた。

 

 「条件を満たさない者は、落とし穴の罠にはまって下水に落とされる。しかしその条件は、『入ってくる者』だけでなく、『出る者』にも適用されているのだ」

 「まだちょっとよく分かんないんだけど・・・」

 「つまりあの城は、『男女2人以上の組でなければ、入ることも出ることもできない城』ということだ。チケットなんぞを使って入城条件と回数を制限したのも、その事実に気付かせないようにするためだろう」

 「ああ〜、だから1人で出ようとしたら落ちそうになったのか」

 「下越は行きにも落ちたのだろう?学習能力がないのか?」

 「ということは、鉄を殺害した後に野干玉が正面の出入り口から出ようとすれば、当然あの罠にはかかることになるな」

 「え・・・じゃあ、たまちゃんが死んだ理由って・・・」

 

 姫の部屋で鉄を殺害した後に何をしようと、最終的に野干玉は正門から出なくてはならない。そしてそこを1人で通れば、落とし穴の罠は必ず作動し、地下の下水道に落ちる。そして野干玉は地下の貯水槽で発見された。このことから導かれる結論は、実にシンプルだ。

 

 「鉄を殺した後に落とし穴の罠にかかって、下水で溺れて死んだってことか・・・!」

 「・・・」

 「やっぱり溺死ってことになるんだねえ。あの現場を見たら予想できてたけどお、そのまんまだったんだねえ」

 「えー?でもでも〜♣テルジもたまちゃんとおんなじ落とし穴にはまったんでしょ♢でもテルジは生きてるよ♬どーしてどーして?どーしてテルジは死んでないの♡」

 「こえーこときくなよ!オレは落ちてすぐにあちこち泳ぎまくって、なんとか出口を探して上がって来たんだよ!」

 「だけど、たまちゃんさん、Pitfall(落とし穴)のすぐ下にいました。テルジさんみたいにSwim(泳ぐ)したらすぐ下にはなりません」

 「なら、落ちてすぐ溺れたんじゃないのかしら?」

 「下越と野干玉に多少の体力差はあっても、落とし穴に落ちた後に泳げないほどではないだろう?」

 「おそらく着ている服の吸水率の差によるものだろう。それに加えて、ヌバタマは(ハチマキ)を殺す際に体力を消費していたはずだ。落下の衝撃と水の低温などにより意識を失い、藻掻くこともできず溺れる可能性はある」

 「・・・確かにあり得る」

 「そんな・・・たまちゃんさんとサイクローさんがコロシアイしたってだけでもTerrible(ひどい)なおはなしなのに、たまちゃんさんがTrap()にはまって亡くなったなんて・・・」

 

 呆気ないほどあっさりと、野干玉の死の状況は全員がイメージできた。鉄を誘惑して暗殺に近しいやり方で殺害することに成功した野干玉が、落とし穴などという単純な罠にはまり、光のない暗闇で為す術なく溺れ死んだという。一から十まで現実味がないが、モノクマ城という特殊なルール下にある奇妙な事件現場を説明するには、それしかないように思えた。

 ただ、その場合にはまた新たな疑問が生じる。

 

 「でもさあ、そうしたらおれたちは誰のことを追及すりゃあいいんだい?」

 「なに?」

 「鉄氏はたまちゃん氏が殺した。たまちゃん氏はモノクマ城の落とし穴にはまってひとりでに溺死した。これじゃあ、『2人を殺したクロ』なんてものは存在しないじゃあないかい?」

 「・・・あっ!そ、そうです!どうするんですか!?」

 「いや、鉄を殺したのが野干玉ならば、今回の事件で野干玉はクロの条件を満たしている。フフフ・・・クロの生死を問わないのであればの話だがな」

 「その辺どうなんだ、モノクマ」

 「んー?別にいいよ。そしたら野干玉サンに投票すればいいじゃん?ボクとしてはお楽しみのおしおきができないのは残念だけど、展開上そういうこともあり得るからね!」

 「っていうことは・・・俺たちは・・・」

 

 雷堂の言葉で、全員の視線が裁判場の一箇所に集まった。この裁判で指名すべきクロの正体を、もうそこにはいないクロの顔を、全員が見つめた。血色にペイントされた遺影の奥で、無表情にこちらを見返す灰色の瞳は、今は何も語りはしない。

 

 「たまちゃんに・・・投票すればいいの?」

 「マジかよ・・・いや、でもたまはもう死んでんだぞ!?なのにクロなんて・・・おかしくねえか!?」

 「さっきも言ったはずだ。肉体の生死はクロの条件には含まれない。死んでいようが生きていようが、殺人を犯した者がクロだ」

 「だとしても・・・だって、なんか・・・おかしくないんだけど、納得できないっていうか・・・」

 「死んだ者を追及することに後ろめたさを感じることはおかしいことではない。人の道に唾吐く行為かも知れない。だが、命を捨ててまで守ることではない。私はそう思う」

 「・・・そ、そうだよな。だってそれが・・・」

 「それが真実であるならば、だ」

 「え?」

 

 既に死亡している野干玉に投票することに、後ろめたさを感じる者たちがいる。しかしクロが判明すれば、それ以外に投票する理由はない。そうでなければ、自分の命が危険に晒されるからだ。納得できなくとも、人の道を外れるとしても、その推理を受け入れようとしかけたところで、極がそれを止めた。

 

 「私は、この事件がこれだけで終わるとは思えない。今まで話したこと以外にも、議論すべきことがあるはずだ」

 「そーなの?でもサイクローが死んだ理由もたまちゃんが死んだ理由も分かったのに、まだ何か話すの♣」

 「当然だ。ヌバタマは確かに今回の事件の()()()()()()()。しかしこれが、全て計画されたことであるとすれば・・・果たしてヌバタマはクロであるだろうか?」

 「な、なんだそりゃ・・・?どういうことだよ!」

 「ククク・・・ハッハッハ!!貴様ら凡俗は本当に愛愛しいな!!俺様が推理すればそれが全く真実であると思い込み、そのように深刻な顔をする!!己の命可愛さと至らぬ覚悟の狭間に揺れて、人の道に反することさえ躊躇する!!まったく、それでよくコロシアイなどしているな」

 「やりたくてやってんじゃねえよこちとら!」

 「星砂、じゃあお前は、野干玉がクロじゃないって言いたいのか?」

 「俺様だけではなかろう。(盛り髪)も同じ意見なのではないか?」

 「・・・」

 

 横目で極を見る星砂だが、その視線には一切応えない。しかし、野干玉がクロであるという結論だけで終わらせる気がないことには賛成なようだ。

 

 「事件の前日、私は図書館で野干玉を見た。言葉を交わすことはなかったが、奴は怯えていた様子だった」

 「怯えてるって、なにに?」

 「“超高校級の死の商人”」

 

 極の言葉に、裁判場の空気が変わった。事件の衝撃で全員の頭の中から薄れていた、自分たちの中に潜んでいるという危険人物。モノクマがその存在を仄めかしたものの、これまで具体的な動きがなかったため、一層その存在や行動目的が不明となっている。

 

 「ちょ、“超高校級の死の商人”って・・・そいつがこの事件に関係してるってのかよ!?」

 「無関係ではなかろう。野干玉は事件前日に、私と極がそれについて話しているところに出くわして、怯えた様子で逃げ出した。その次の日に死んだ。偶然、と言い切れるか?」

 「・・・たまちゃんが“超高校級の死の商人”の正体を知っちゃって、口封じに殺されたっていうこと?」

 「それはないな」

 「ええ・・・もうわけがわからないよお。たまちゃん氏が“超高校級の死の商人”の正体に気付いて殺されたっていう方が自然じゃあないのかい?星砂氏はなんでないって言い切れるんだい?」

 「Ah!わかりました!“Ultimate Marchant of Death(超高校級の死の商人)”なんてホントはいないんです!」

 「そーだそーだ♬モノクマがマイムたちにコロシアイさせるためにウソ吐いたんだ☆」

 「失敬な!ボクはウソなんて吐かないよ!そんなこと言ったら、コロシアイしなきゃオマエラ全員殺すぞー!って脅した方が手っ取り早いもんね!」

 「そりゃそうだな!」

 「俺様たちの中に“超高校級の死の商人”は確実に存在する。その者がこの事件を裏で手引きしていたとしたら・・・この事件は全く異なる様相を見せることだろう」

 「え・・・じゃ、じゃあこの事件のクロは・・・!?」

 「“超高校級の死の商人”ってことだねー♡」

 

 一度結論が出たと思った議論に、再び熱が戻る。極と星砂が同じ意見を口にする。この事件の当事者は、死んだ2人だけではなく、“超高校級の死の商人”もいる。その“超高校級の死の商人”こそが、この事件のクロなのだと。

 

 「で、でも死の商人は・・・今まで私たちに何もしてなかったじゃない!どうして今になってこんなことをするっていうのよ・・・!」

 「フン、これだから凡俗どもは。今は“超高校級の死の商人”がこの事件にどう関わっているかを議論すべきだ。奴がなぜこの事件を起こしたかなど、どうでもいい」

 「どう関わってるかって言ったって・・・そもそも“超高校級の死の商人”が誰なのか分からないんじゃ、議論のしようもないんじゃないの?」

 「いいえ。モノクマがボクらにMotivation(動機)くれたとき、ハイドさん言ってました。“Ultimate Marchant of Death(超高校級の死の商人)”の『Weak point(弱み)』は、自分が“Ultimate Marchant of Death(超高校級の死の商人)”ってことだって」

 「その通りだ、スニフ(子供)。『弱み』を打ち明けなければ死を免れ得ない状況で、彼奴は誰かに打ち明けたはずだ。己の本当の“才能”をな」

 「ということは・・・いるのだな?この中に。“超高校級の死の商人”の正体を知る者が・・・!!」

 

 全員が、荒川の一言に合わせて互いを見合う。三つ目の動機が配られた瞬間から、互いの腹の内を探ったり、その可能性に怯えたりしていた、“超高校級の死の商人”の正体を知りながら、口を閉ざしている者が誰なのか。その答えが、僅かな表情の変化や挙動に表れないかと、知らず知らずのうちに疑い合う。

 

 「よせ。たとえ正体を知る者がこの中にいるとしても、何の罪もない。むしろ下手に言いふらして混乱を招いたり疑心暗鬼を強める可能性もあったはずだ。何が正しいかなど、誰にも判断できない状況だったんだ」

 「庇保はいらん。それとも、貴様がそうだと言うのか?」

 「残念ながら知らんな。そういう貴様こそ、知っていて敢えて何もしなかったのではないか?」

 「ククク・・・疑い合うなと言っておきながら、俺様は例外か?」

 「や、やめてよ2人とも。モノクマの思う壺じゃない。“超高校級の死の商人”のことでケンカしたら・・・」

 「・・・すまん」

 「フンッ」

 「で、結局“超高校級の死の商人”のことを知ってる奴ってのぁ誰なんだよ?」

 

 極と星砂のにらみ合いを正地が制し、裁判場はしばし膠着する。誰も名乗りを上げないということは、“超高校級の死の商人”の正体を知る者などいないのか、或いは知っていて言えない理由があるのか。そして、スニフは思い返す。“超高校級の死の商人”に関する僅かな情報が残されていないか、過去の記憶を辿る。

 

 「Perhaps(もしかして)・・・」

 「どうした少年?」

 「あの、ボクのStudy shortage of Japanese(日本語の勉強不足)だったらゴメンナサイ。だけど、もしかしたら知ってる人・・・ふたり、分かったかもです」

 「勉強不足なんかどうだっていい、スニフ氏が頼りだよお。なんだかんだでおれらの中じゃ一番おつむが優秀だからねえ」

 「聞き捨てならんな納見(ぎっちょう)

 「教えて、スニフ君」

 

 情けない納見の言葉や敵愾心剥き出しの星砂にもめげず、スニフは自分の記憶と意見をまとめる。これが正しいかどうか分からない。ただの勘違いかも知れない。だが、少しでも議論が前進する可能性があるのなら、言うべきだと決めた。そしてスニフは、指さした。

 

 

 人物指名

 スニフ・L・マクドナルド

 研前こなた

 須磨倉陽人

 納見康市

 相模いよ

 皆桐亜駆斗

 正地聖羅

 野干玉蓪

 星砂這渡

 雷堂航

 鉄祭九郎

 荒川絵留莉

 下越輝司

 城之内大輔

 極麗華

 虚戈舞夢

 茅ヶ崎真波

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ワタルさん・・・あなたです!」

 「えっ・・・!?」

 

 スニフの指を追って、全員が雷堂を見る。指された雷堂は一瞬驚いたような顔をするが、すぐに平常心を取り戻し、指越しにスニフを直視する。

 

 「マ、マジかよ!?雷堂お前・・・知ってんのか!?」

 「なぜそう思うのか、理由も必要だぞ」

 「・・・」

 「ワタルさん。ボクたちと“Ultimate Marchant of Death(超高校級の死の商人)”のはなししてたとき、こう言ってました」

 

 ──『動機が配られたときに星砂が言ってたように、“超高校級の死の商人”だっているんだ。そいつの『弱み』は十中八九、自分が“超高校級の死の商人”である事実だ。だからそれを打ち明ける相手が必要なんだ。そいつが無事でいられるかも分からない・・・だから、俺たち全員が協力してそいつを助けてやらなきゃいけないんだ』──

 

 「それがどうかしたか?」

 「そのとき、ボクとワタルさんとセーラさんとテルジさんいました。だけど、『おれたちぜんいんが』って言いました。“Ultimate Marchant of Death(超高校級の死の商人)”がだれか分からないんだったら、どうしてボクたちのだれでもないってわかってましたか?」

 「・・・あっ」

 「あ?」

 「いや、それは“超高校級の死の商人”以外の俺たち全員がっていう意味で・・・」

 「一回あっ、て言っちゃったからねえ。誤魔化すのは無理だよお」

 

 スニフの指摘に、雷堂はあっさりボロを出した。苦し紛れの言い逃れをしようとしたが、すぐにその目は潰された。そして、簡単に雷堂は白状する。

 

 「・・・いや、ごめん。知ってるし、その確証もある。黙ってて悪かった」

 「ウソ・・・雷堂君、知ってたの?」

 「隠してたわけじゃない。ただ・・・あんまり言いふらしたら、そいつに悪いかなって思ったんだ。俺が見た限りじゃ、そいつは“超高校級の死の商人”なんて物騒な肩書きを持つような奴には見えなかったから」

 「危険かどうかを判断するのに、自分一人で十分と思ったのか?私は別に雷堂を信用していないわけではないが、それは軽率と言わざるを得ないな」

 

 正体を知りながら隠していたことに、冷ややかな視線と言葉が降りかかる。しかし極が事前に釘を刺していたことで、非難したり追及するようなことは出なかった。

 

 「雷堂、お前はいつから知っていた?いつ気付いたのだ?」

 「相模がおしおきされた、その後だ。でも俺は、自力で気付いたわけじゃない。その夜に・・・教えられたんだ」

 「教えられた?“超高校級の死の商人”が、自ら正体を明かしたのか?」

 「俺様が教えた」

 

 質問責めに遭いそうになる雷堂に助け船を出した星砂の言葉は、しかし一層周囲からの不信感を増す言葉だった。再び星砂に注目が集まり、全員が雷堂と星砂を交互に見る。

 

 「どういうことだ?なぜ星砂は雷堂に“超高校級の死の商人”の正体を教えた?」

 「そもそも星砂氏はどうやって正体に気付いたんだい?」

 「ま、まさか!お前がそうだってのかよ!星砂よお!」

 「一度に質問するな」

 「お、俺はこの前の裁判の後に星砂に聞かされたんだよ!部屋に押しかけられて、突き止めたから知っておけって・・・!」

 「突き止めた・・・ということは、星砂は“超高校級の死の商人”ではないということか」

 「当然のことをいちいち言うな荒川(片目)。俺様は“超高校級の神童”だ。死の商人程度の“才能”に落ち着くなどあり得ん」

 「じゃあお前は結局なんなんだよ!どうやって死の商人の正体に気付いたんだよ!」

 「俺様なりに考えてな。正体を探るために図書館の資料やコロシアイ記念館のファイルばかりを見ていたが、凡俗共の中にいるのなら凡俗共の行動を観察した方が早いと気付いたのだ。そうしてみたら、意外にもあっさり気付いた。こうした発想の転換の速さこそが、俺様が“超高校級の神童”たる由縁だな」

 「そんなにExaggerated(大袈裟)じゃないとおもいますけど」

 「雷堂(勲章)にだけ話したのは、全員にその事実が知れ渡ったときに奴が何をするか分からなかったからだ。最低限の共有だけで助力を得られるように、雷堂(勲章)を選んだ。それだけの話だ」

 

 雷堂と星砂だけが、“超高校級の死の商人”の正体を知っていたことの説明をする。普段の行動から導き出したと言うが、“超高校級の死の商人”という曖昧な存在の行動を追うなどということが、果たして可能なのだろうか。そんな疑問も湧いてくるが、研前がその話を切る。

 

 「うんと、確認なんだけど、スニフ君はそのことに気付いてたの?星砂君が、“超高校級の死の商人”を知ってたこと」

 「No(いいえ)。ボクいまはじめてしりました」

 「でもさっき、()()って言ってたわよね?」

 「・・・星砂と雷堂以外に、“超高校級の死の商人”の正体を知っている者がいると、そういうことか?」

 「はい、そうです」

 「ま、まだいるのかい!?」

 「もうひとり、“Ultimate Marchant of Death”知ってる人、いるはずです」

 

 円形に並ぶ全員の顔を見て、狙い澄ましてスニフが再び指をさす。

 

 

 人物指名

 スニフ・L・マクドナルド

 研前こなた

 須磨倉陽人

 納見康市

 相模いよ

 皆桐亜駆斗

 正地聖羅

 野干玉蓪

 星砂這渡

 雷堂航

 鉄祭九郎

 荒川絵留莉

 下越輝司

 城之内大輔

 極麗華

 虚戈舞夢

 茅ヶ崎真波

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「セーラさん。あなたです」

 

 自らに向けられた指に、驚きと焦りで引き攣る顔を堪えきれず、青くなった顔をさらすことになった。

 

 「・・・あわ、わ・・・?」

 「ワタルさんとおなじです。ボクたちと“Ultimate Marchant of Death(超高校級の死の商人)”のはなししてるとき、こう言ってました」

 

 ──『そうね。だけど、もしその人がみんなに自分が“超高校級の死の商人”だって言って・・・その後はみんな、その人のことを信用してあげられるの?』──

 

 「あ」

 「ホントだ!オレらん中に“超高校級の死の商人”がいねえの分かってるみてえじゃんか!」

 「それになんだか、“超高校級の死の商人”が誰なのか具体的に分かってるみたいな言い方だよね。じゃあやっぱり・・・知ってるのかな?」

 「ど、どうなんだよ正地!」

 「へあっ・・・!ううっ・・・!」

 

 ろくに音の出ない口をぱくぱくさせるだけで、認めることも反論することもできないまま、正地は全員の視線を一身に受けていた。突然の指名に動揺しすぎて何もできない正地を見かねて、虚戈が助け船を出す。

 

 「こら〜!スニフくん女の子のこと指さしたらいけないんだよ♠それにいきなりでセーラがびっくりしてるじゃん♣かわいそーだよ☂」

 「えあっ・・・ご、ごめんなさい・・・」

 「今はそこではないが・・・言葉が出ないのなら急かしても仕方がないな」

 「大丈夫だよセーラ♡リラックスリラ〜ックス♬学級裁判じゃこういうこともあるから困っちゃうよね♢マイムもダイイングメッセージ消したのバレて焦っちゃったから分かるよ♡」

 「あれと一緒にしちゃダメだと思うけど・・・」

 「う・・・うん・・・ごめんなさい・・・。ちょっと、びっくりしちゃっただけだから・・・」

 「そうそう♬落ち着いて落ち着いて♡フォールアライブだよ♡」

 「“Calm down(落ち着く)”です!」

 

 背中をゆっくり摩られて、正地は少しずつ落ち着きを取り戻した。脂汗を拭い、乱れた呼吸を整え、激しく鳴る鼓動が平常を取り戻しつつあった。

 

 「あ、ありがとう虚戈さん・・・だいぶ、楽になってきたから・・・」

 「そっか♡じゃあちゃんと言わなきゃね♡“超高校級の死の商人”のこと♬」

 「・・・へ?」

 「だってセーラは“超高校級の死の商人”が誰か知ってるんでしょ♡だったらみんなにちゃんと説明してよ♬誰が死の商人なの?どうやって知ったの?どうして言わなかったの?サイクローとたまちゃんが死んだことで何を知ってるの?ぜーんぶ、教えてくれないとダメだからね☆」

 「はわ・・・!」

 「いやまた動揺してるって!虚戈を剥がせ!」

 「何がしたかったのだ虚戈(ピンク色)は・・・。それより、学級裁判において名指しされた程度で動揺するな正地(エプロン)。貴様が真に“超高校級の死の商人”の正体を知っているというのなら、答え合わせをしてやる。言え」

 

 指名されたときほどではないが、虚戈の言葉で正地は再び気が動転する。極に首根っこを掴まれてモノヴィークルまで戻された虚戈は、自分を軽く小突いて舌を出して戯ける。正地は自分の胸を押させてゆっくり深呼吸し、星砂に促されるままに、生唾を飲んで意を決した。

 

 「ご・・・ごめん・・・なさい・・・!知ってたわ・・・“超高校級の死の商人”のこと・・・」

 「本当に知っていたのか・・・!」

 「言わないと・・・裁判が終わらないのよね・・・。本当のことを明らかにするためには・・・必要なのよね?死の商人が誰なのか・・・言わないと」

 「はい、そうです。おしえてください」

 

 ぽつぽつと呟くように語る正地は、その名前を言うことを恐れているというよりも、躊躇っているように見える。それを言ってしまうことに、大きな不安と戸惑いを感じている。しかしそれでも、学級裁判で真実を明らかにするために言わなければいけないと、自分自身を奮い立たせ、視線だけでその正体を示す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今はもういない、その人物の遺影に向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ちょ、“超高校級の死の商人”の・・・正体は・・・!く、鉄祭九郎くん・・・!」

 「・・・!!」

 「なにぃ!?鉄がぁ!?」

 「え・・・サイクローさんが・・・Marchant of Death(死の商人)・・・!?」

 「やはりな!!俺様の推理に狂いはなかった!!そうだろう雷堂(勲章)よ!!」

 

 指名されたその人物に、雷堂は口を堅く結び、下越は過剰なほど驚き、星砂は得意気に笑った。モノトーンの遺影の中、血色の×印の向こうに映る顔は、その視線に何も応えてはくれない。一瞬だけ静まりかえった裁判場に、ピロン、という軽い機械音が重なった。

 

 「あっ・・・モノモノウォッチが・・・!」

 「なんだこりゃ!?おいおい!打ち明けられた『弱み』のカウントが一個増えてんぞ!」

 「つまり、いま正地が語ったことが真実であり鉄の『弱み』でもあった、ということだろう」

 「ていうことはあ、星砂氏が突き止めた人物もお、雷堂氏が聞いたのもお、鉄氏ってことかい?」

 「・・・ああ、そうだ。あいつの言う通りだった」

 「俺様が出した結論に誤りなどあるはずがない。しかし正地(エプロン)よ、凡俗ごときの貴様がよくその答えに辿り着いたものだ。女のくせにやるではないか」

 「あっ!今の発言は女性蔑視だよハイド!訴えちゃうぞ!」

 「ち、ちがうの・・・!私はそんな・・・正体を探ったりとかじゃなくて・・・!聞いたのよ。鉄くん本人から・・・!」

 「それはつまり、『弱み』を打ち明け合ったということか?」

 「・・・」

 

 極の問いに、正地は静かに頷いた。

 

 「星砂くんの言う通り・・・鉄くんの『弱み』は、自分が“超高校級の死の商人”だっていうことだったわ。鉄くんは、全部私に話してくれた。ジュエリーデザイナーの“才能”は・・・元々自分の“才能”じゃないんだって・・・」

 「自分の“才能”じゃない?なんだそりゃ?どういうことだ?」

 

 ゆっくりと、思い出しながら正地は語る。鉄に打ち明けられた『弱み』と、それに伴って明かされた鉄の『過去』を明かす。その口から語られた言葉は、ただの『過去』に過ぎない。しかしその事実が孕む意味は、学級裁判に臨む“超高校級”たちの『現在(いま)』を、その『未来』をも変える事実であった。

 

 

 

 

 

コロシアイ・エンターテインメント

生き残り:10人

 

【挿絵表示】

 




裁判編って一通り書かないと投稿できないんですよね。
なんとか1月中にできあがりました。続きを書きます(矛盾)

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