ダンガンロンパカレイド   作:じゃん@論破

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【タイトルの元ネタ】
『ふ・れ・ん・ど・し・た・い』(学園生活部/2015年)


幕間2
け・っ・た・く・し・た・い


 学級裁判を終えた後の気分っていうのは、きっとこれから何度経ても慣れることはないんだろう。気持ち悪くて、虚しくて、切なくて、やるせなくて、悔しい。救おうとした何もかもが自分の手から溢れていくような、自分のちっぽけな力を思い知らされるような、そんな絶望感。とにかく今は、解放された夢の中に逃げたかった。部屋に戻ってただゆっくりと、全てを忘れて眠りたかった。

 

 「・・・はあ」

 

 深いため息を吐いた。途端に肩が重くなる。このままベッドに倒れ込んで寝れば、ひとまず今は楽になれる。だけど寝てしまえば、明日が来る。絶望的な明日が。城之内と相模を救えなかった明日が。俺はただ無力に、誰かの殺意が通り過ぎるのに気付かずにい続けるのだろう。それがたまらなく虚しかった。

 

 「景気の悪い顔をするな。答えが分かっていたとはいえ、見事に生き延びたのだ。勝利の美酒の味でも噛み締めてはどうだ」

 「・・・・・・うおおおっ!!?」

 「生憎と酒はないからサイダーだがな」

 

 一瞬、理解が遅れた。俺は自分の部屋のドアを開けた。ここは間違いなく俺の部屋だ。飛行機の模型やフライトシミュレートマシン、簡単なトレーニンググッズもあるし、レトルトの機内食も用意されてる。実際の地球の凹凸を再現した音声解説付き地球儀が備え付けられたデスクには航空図が広げられて、ピンや赤ペンのラインが幾何学模様を描いている。その航空図の上に無造作に置かれたサイダーのボトルが、結露した水滴で航空図をふやかしてる。

 

 「なっ・・・!?なっ・・・!?」

 「ピッキングツールを使ってみた。簡単なものだな、あれなら専用の器具でなくてもできそうだ。ああ、この図はどうしていいか分からなかったから取りあえず放置した。後で複製してやるから心配するな」

 「なんで俺の部屋にいるんだよ!?」

 「少し話がある。今の貴様にとっては追い討ちのような話かも知れんが、他の凡俗共に聞かれても面倒だ。今のうちに話してしまおうと思ってな」

 「何しにきたんだよ!?」

 「おそらくは次のコロシアイの動機として与えられるだろう事だ。情報としては以前から与えられていたが・・・その調査に少々進展が見られた」

 「なんだよ話って・・・?」

 「貴様は一つおきにしか話せないのか?さっさと俺様のペースに追いつけ」

 

 そこで俺は気付いた。こいつ、俺が言うことを予測して先に話してる。しかもその上で自分に合わせろって、やっぱりむちゃくちゃなヤツだ。だいたい、こいつは先に部屋に戻ったはずじゃないのか?なんで俺の部屋に・・・話をするためか。何の話を・・・は、まだ答えてないか。

 

 「調査って?お前、何か調べてたのか?」

 「無論だ。貴様は俺が無為に過ごしているとでも思っていたのか?」

 「・・・余計なことはしただろ」

 「くくっ、なんのことか皆目見当も付かんな」

 「ふざけんな!ついさっきの話だろ!」

 「俺様がいつ余計なことをした?俺様のしたことの何が余計だと言うのだ?」

 「言わなきゃ分からないのかよ。優秀なんだろ、考えたら分かることだ」

 

 まるでここは自分の部屋だと言わんばかりの堂々とした態度で、星砂は肘掛けに深々と腰掛ける。疲れと眠気で、自分でも分かるくらい苛立ってきてる。こんなときにこんなヤツの相手をしなくちゃいけないなんて、なんとか手が出る前に帰らせないと。

 

 「・・・どうやら俺様のことをまだ理解していないようだな。優秀とは、優れ秀でると書く。それが褒め言葉になるのは凡俗相手だけだ。俺様が凡俗と比較して優れ秀でているのは当然だろう。貴様は九九ができることを褒められて良い気がするのか?」

 「相模の殺意を利用して弄んだだろ!学級裁判を引っかき回して、俺たちを振り回しただろ!それが余計なことじゃなかったらなんだっていうんだ!」

 「可笑しなことを言うな、勲章。学級裁判とは本来、そういうものだ。クロがシロを振り回し、議論を掻き乱し、殺意によって他人の命をも弄ぶ。それを断罪するための場だ。そのために俺様がヤツの犯行を盗み見て、裁判の結末を操作する。クロだけが裁判を主導するのは可笑しいだろう。だから俺様が逆にクロを揺さぶった。結果的に真実に辿り着いた。それは余計なことか?」

 「お前がやったことは俺たちと、相模に対する冒涜だ!俺たちの命も、相模の命も、城之内の命も、コケにしたんだ!」

 「そう熱くなるな、夜は静かにするものだぞ。まあ命云々の話はどうでもいい。貴様は凡俗側の人間だからな。俺様の行為に腹が立つ気持ちも汲んでやろう。だがな、今は俺様と対立している場合ではないのではないか?」

 「何を言ってんだ・・・?」

 

 相変わらず星砂の言うことはいまいちよく分からない。それに腹が立つ。凡俗凡俗って俺たちのことを見下して、俺たちの命をなんとも思ってない。それがただの強がりだったりハッタリじゃないことは、こいつの普段の態度を見てれば分かる。

 

 「貴様らが真に敵視すべき者の話だ」

 「まさか・・・黒幕の正体が分かったのか?」

 「いいや。それはまだ早い。或いは不要だ」

 「不要?」

 「このゲームの黒幕は実に用心深く冷静だ。しかし一方で軽率であり大胆。狡猾なようで純粋。相反する性質を同時に備えている・・・要は掴み所がない。直接対決するには得体が知れなさすぎる。故に対決は早計。できることならば回避するのが得策だ」

 「お前らしくもないな、逃げ腰なんて」

 「それは悪いことか?」

 「いや、意外だなって思っただけだ」

 「狡猾さも臆病さも卑劣さも、生物が生存競争の中で身に着けた術だ。一概に悪と断じる真似はせんことだな」

 

 いつの間にか哲学的な話になってきてるような・・・なんだか話が全然違う方向に進んでいってるんじゃないか?黒幕との対決もまだ早いかやるべきじゃないって、星砂の頭の中ではどこまで話が進んでるんだ?もしかしてこいつ、黒幕との対決まで想定して動いてるのか?だとしたら、星砂は俺たちの・・・敵、じゃないかも知れない、のか?

 

 「まあ卑怯であることは悪ではないが、愚かではあるかも知れんな。隠れているつもりか、或いは欺いているつもりか知らんが、使い方を誤った知恵というのは滑稽に映るものだ」

 「?」

 「俺様たちが黒幕の他に敵視すべき者・・・以前にモノクマが言っていただろう。俺様たちの中に潜んでいる者のことを」

 「それって・・えっと」

 

 なんとなく、星砂の言ってることが分かってきた。俺たちの中に潜む、モノクマ以外の敵。敵なんて言い方が正しいかどうかは分からないけど、少なくともモノクマがそのことを利用して俺たちを疑心暗鬼に陥れようとしてることは分かる。ってことは、本当にしろ嘘にしろ、危険な要素があるってことだ。

 

 「“超高校級の死の商人”、だ」

 

 1回目の裁判のあと、モノクマが俺たちに告げた“才能”だ。俺たちの中に、そんな不穏な“才能”を持ってるヤツがいると言った。だけどそれがどんな“才能”なのか分からないし、裁判の後から今までモノクマがそれを蒸し返したことはない。だからすっかり忘れてた。危険じゃないって思ってた。

 

 「聞くからに危険な“才能”だろう?希望ヶ峰学園の歴史を紐解いても、そのような“才能”の持ち主はいなかった。殺人鬼や爆弾魔や、それに類する危険な“才能”はいたが、死の商人など一人もいない。まああくまで公式資料で確認したのみだから、確証のある話ではないがな」

 「確証がないって、だったらなんで調査なんかしてたんだ」

 「確証がない故に調べるのだろう。嘘ならば良し、真実なれど良し、真偽を断じかねる宙ぶらりんが最も判断を鈍らせる」

 「ホントか嘘かはっきりさせたかったってことか」

 「凡俗共に分かりやすいよう、平たく言い直せばその通りだ」

 

 つまり、あのモノクマの言葉に一番敏感に反応してたのは、一番余裕そうに見えた星砂だったってことだ。たぶんモノクマは俺たちを疑心暗鬼にさせると同時に、星砂の視線から外れたいがために、その“超高校級の死の商人”を囮に使ったんだろう。ってことは、少なくとも星砂は“超高校級の死の商人”じゃないってことか。

 

 「それがはっきりしたってことは・・・」

 「ああ。“超高校級の死の商人”の正体を掴んだ。決定的な証拠がないのが残念だがな。ヤツを追い詰めることができん」

 「ウソだろ・・・俺たちの中にいるってことなのかよ!」

 「ああ。ヤツは己の“才能”を偽っている。なぜ正体を隠しているのか、なぜこのコロシアイに紛れ込んだのか、黒幕とヤツは何か繋がりがあるのか、ヤツは俺様たちをどうするつもりなのか。分からんことは多いが、ともかく注視すべき者が分かったことは大きな収穫だ」

 「・・・」

 「そうあからさまに警戒をするな。俺様たちが正体を知っていることがヤツにバレれば・・・それこそ何をしでかすか分からん。そうなればはっきり言ってピンチだ!というのも、何を隠そう、俺様は腕相撲で勝ったことがない!いつも手の甲を痛めている!」

 「あっそう・・・」

 

 なんだよ。“超高校級の神童”っつって偉そうにしてるくせに、腕っ節の方はからっきしか。いや、“超高校級の死の商人”だって力があるとは限らないけど、そこまで自信たっぷりに自信のなさを宣言されると、頼もしいんだか頼りないんだか、なんだかややこしくなってくる。

 

 「それで、今後のためにもお前には正体を教えておく。だがお前は余計な詮索をする必要はない。この話は俺様がケリをつけよう」

 「だったら俺に正体を教える意味ってなんだよ?」

 「凡俗共にとって俺様は、“超高校級の死の商人”以上に煙たい存在だ。そういう存在になっている。故に必要なのだ。今この場に生きている者が結託するには、双方を繋ぐことができる者が」

 

 それは、どこまで計算で言ってるんだ?それじゃまるで、今回の裁判の件で孤立したのも、このためだったみたいじゃないか。黒幕のことといい、本当にこいつは、俺たちが脱出するためにずっと先のことまで考えてるのか?今までのことは、黒幕と俺たちを欺くためのフェイクか?いや、だとしたら城之内の死を弄ぶようなことまでする必要がない。なんなんだ。考えれば考えるほど、星砂が何を考えてるのか分からなくなる。

 

 「俺様はな、勲章、貴様を買っているのだ。つまりは・・・そういうことだ」

 

 どういうことだ。俺はどうして星砂に買われてるんだ。どうして星砂は俺に付きまとうんだ。

 

 「“超高校級の死の商人”の正体は──」

 

 ぐるんぐるんする頭に、星砂の囁きがこっそり響く。俺は本当にそれを聞き入れるべきなのか、それを考えるより先に、脳は星砂の言葉を理解した。頭の中に自然と、そいつの顔が思い浮かぶ。“超高校級の死の商人”の正体が、脳に刻まれていく。

 ああ、そうか。あいつが・・・“超高校級の死の商人”か・・・。星砂の声が、遠くから響くように感じた。




書けたのに投稿しない謎の期間が最近長くなってきてますね。
前は書けないなあと思ってたのに、今は投稿できないなあと思ってます。

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