ダンガンロンパカレイド   作:じゃん@論破

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おしおき編

 「はいせいかーい。“超高校級のDJ”城之内大輔クンをあんなにむごたらしく殺したのは、“超高校級の弁士”相模いよサンだったのでした。オマエラよく真実を導いたね偉いぞ・・・と言いたいところだけど、とんだ茶番に付き合わされたよ!」

 「何を言うか。貴様が望んでいたことだろう。喜んで感謝の一つでもしたらどうだ」

 

 ファイアワークスがいくつも打ち上がって、ファンファーレがミッドナイトなんかおかまいなしにうるさくなる。キラキラのイルミネーションにライトアップされて、あたまをかかえるいよさんはムリヤリ目立たせられる。

 マナミさんがころされたクラストライアルのときはコンクルージョンが出たときにエンジョイしてたモノクマだったけど、今はなんだかつまんなさそうにしてる。今ここにいる人でエンジョイしてるのは、ハイドさんだけだった。

 

 「こんなのボクは望んでないよ!ボクが望んでるのは不安と後悔と緊迫と猜疑と裏切りに満ちた絶望なんだよ!正しいかどうか確証のない結論に命を委ねるオマエラの恐怖の顔が見たいんだよ!なのになんだよこれ!始まる前から答えを知ってるシロがいるなんて、学級裁判始まって以来の最悪の展開だよ!こんな茶番劇に付き合わすなんて、星砂コノヤロー!」

 「こちとらは貴様の下らんコロシアイなんぞに付き合ってやっているのだ。茶番はお互い様だろう」

 「こんなことならボクが現場に手を加えてやれば・・・!」

 「それはシロとクロの公平性を欠く行為だ。貴様が己を処刑したいのなら止めはせんがな」

 

 モノクマはツメを立ててかおをまっかにしてハイドさんをにらむ。だけどハイドさんは何のルールもやぶってない。モノクマは今はハイドさんに手を出せない。そのことをアンダースタンドしてるから、ハイドさんはモノクマもこわくないんだ。

 

 「しかしそこそこ楽しませてもらったぞ。真相が分かった上で見る学級裁判はまた新鮮だった。貴様らが無意味な議論で右往左往していたり、その中でクロがどう動くかは実に参考になった。敢えて言おう、この学級裁判は茶番であると!だが俺様にとっては実に有用な茶番であった!」

 「・・・星砂君。それ、どういう意味?」

 「貴様らが感じた通りの意味だ。これくらい警戒されていなければ、フェアではないからな。下手に有利を取り過ぎてモノクマに要らぬ『調整』などされては台無しだ。公平性は自分でとる」

 「星砂」

 

 ハイドさんはそうやってまた笑う。ボクたちはそんなハイドさんの言葉に、またゴウリッシュな気持ちになる。モノクマに思ってたことを、こんなふうにハイドさんに思ってしまうなんて。まさかそんなことになるなんて、ちっともイメージしてなかった。

 

 「もういい星砂。頼むから黙っててくれ」

 「・・・フンッ」

 

 ほんとうに、心のそこからくるしそうにワタルさんが言って、やっとハイドさんは口をとじた。ボクたちがききたいのはハイドさんのセルフプライズなんかじゃない。モノヴィークルによりかかって今にもダウンしそうないよさんの方だ。どうして、どうしてこんなことになったんだ。

 

 「相模。なぜだ。なぜ城之内を殺した」

 「五月蠅いッ!!!五月蠅い五月蠅い五月蠅いッ!!!馬鹿にするのもいい加減にせいッ!!!何奴も此奴も巫山戯おってからに!!!何もかもが穢れて居るわッ!!!目障りにいよを誑かす様な真似をするが故にッ!!!如何様に為ろうと何が不服かッ!!!」

 「うおっ!?びっくりしたあ!」

 

 レイカさんのクエスチョンに、いよさんはモノヴィークルでしゃがみこんだままで大声を出した。今まで見えてなかったバクダンがエクスプロージョンしたような、いよさんの口から大きなパワーがとびだしてきたような、そんな気さえした。

 

 「いよは清らかであるべきで!!いよは潔くあるべきで!!その魂を穢す者を排除した所で何を罪に問えようか!!食うも寝るも着るも見るも話すも全てが穢らわしいッ!!煩悩の塊でしかない下劣な存在ではありませんか!!」

 「何を言っている・・・?城之内が、お前の魂を穢す存在?煩悩の塊とは?」

 「まあ煩悩はたくさんありそうだけど」

 「奴は・・・いよの魂を穢した!!軽率にいよに触れ、軽薄にいよを唆し、軽易にいよの誇りを傷付ける!!いよを外道に拐かす畜生に他ならぬではないかッ!!」

 

 ボクには、いよさんが何を言ってるのかよく分からなかった。だけど、下を向きながらなのに耳がキンキンなるくらいの大声で叫ぶいよさんのかおは、前のとき、ハルトさんがクロだとバレたときのものとはちがった。

 それは、何かをこわがるようなかおだった。何かをあせるようなかおだった。何か大きなミスをしたような、それをかなしむようなかおだった。

 

 「お、落ち着いて・・・!相模さん、どうしてそんなこと言うの?あなた、城之内くんととても仲が良かったじゃない。さっきだって・・・色んな事を教えてもらったって・・・!感謝してるって言ってたじゃない!」

 「・・・ッ!!馬鹿な事を!!彼がいよに何を教えたと言うのです!?何を吹き込み、何を唆し、何を誑かしたとお思いですか!?いよは!!いよは其の言葉に汚されたと言うのに!!」

 「言葉に汚された・・・?」

 「嗚呼っ!!いよは知ってしまった!!下俗なる児戯を!!見てしまった!!下卑たる悪楽を!!口にしてしまった!!下賤なる奇食を!!此の身は内より外より穢され、脳髄の奥には楔が打たれ申した!!一度とて、僅かとて知ってしまえば、其れは抹すること能わぬ因縁なりて!!子々孫々まで此の血を冒す物だと言うに!!」

 「もう何言ってるか分かんないよね。日本語なのに日本語じゃないみたい。人に伝える“才能”だってのに、それじゃ伝えるどころか自分で自分が何を言ってるのかさえ分からないんじゃない?」

 「故にいよは!!いよは我が身を清めるため!!相模家の一女たる務めを果たしたまで!!此で母上も父上もきっとお許し下さるはずでしょう!!っは!!はっはあ!!」

 「おいおいおいおい!!マジやべえんじゃねえか!?笑い出したぞ!」

 「こ、こわれた・・・!どうするんだよ星砂!お前が追い詰めすぎたからだぞ!」

 「俺様が知るか。どうせそいつの運命は決まっている。遅かれ早かれ除かれるのだ。好きにさせてやればよかろう」

 

 ダムから水がながれ出すように、いよさんはノンストップにしゃべりつづける。セイラさんやレイカさん、ワタルさんが何を言っても何をしても、その口は止まらない。おこったりないたりわらったり、くるくるかわるいよさんのかおに、ボクたちはついていけずに言葉のビッグウェーブにのまれていく。

 

 「だが、少々耳障りが過ぎるな。それに、俺様はもう眠い。これ以上付き合う気もない。そういうわけだ。モノクマ」

 「あのねえ。ボクはお前の召使いじゃないんだぞ!鎖で繋がれてなんかないんだぞう!それに、なんで相模さんが城之内くんを殺したのか、その理由をみんな知りたいんじゃないの?」

 「・・・いや、いい」

 

 モノクマのクエスチョンに、みんなの代わりにワタルさんだけがこたえた。ボクたちはワタルさんの言葉に、さんせいもはんたいもしなかった。できなかった。

 

 「もういい・・・!もう止めにしてくれ!!」

 「・・・あっそ。ま、オマエラがそれでいいならいいし、ボクはボクで早くお楽しみのおしおきタイムに突入したいからね!それじゃ、満場一致ということで!」

 「何もかもを忘れよう!!忘れてまた、一から始めよう!!全て無かった事にしよう!!さすればまたいよは高潔なる相模家の弁の教えを乞える!!乞うて、恋ひて、超える!!いよは!!」

 「今回は、“超高校級の弁士”相模いよさんのために!スペシャルな!おしおきを!用意しました!」

 「いよはああああああああああああッ!!!」

 「では、張り切っていきましょーーーぅ!おしおきターーーイム!」

 「斯様な場で朽つる訳にはゆかぬうううぅぅぅ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サガミさんがクロに決まりました。おしおきを開始します。

 

 処刑の開始を告げるように、アトラクションはますます輝きを強めて妖しく嗤う。夜の闇に紛れて相模を連れ去らんとする黒い魔手が伸びる。その気配を察知した相模は、近くの街灯にしがみつく。それと同時に脚に魔の手が絡まり、処刑場へ相模を連れようと引く。力の限り街灯を抱きしめても、脚を裂くほど引かれる力に、為す術無く腕はほどかれる。地面を引きずられる間も地面に爪を立て、爪が剥がれれば手の平で踏ん張り、手を擦りむけば身体全体で抵抗する。

 

 「──あああああああッ!!!!」

 

 どこまでも醜く、どこまでも汚く、どこまでも見苦しく、相模は己の運命に抗う。受け入れ続けてきた抗い難い力に、今際の際になってはじめて逆らう。それが全く無意味なことであると気付くこともなく。

 相模が連れられたのは、闇の中でも一際目立つ聳え立つ鉄塔。取って付けたようなオーナメントに彩られていなければ、無機質な鉄骨をただ組み合わせただけの無骨な造形物。その根元には鉄塔にしがみつく座席が並ぶ。その中の一席に、相模は有無を言わせず固定された。

 

 

 

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 「っぐ!!?」

 

 それが何なのかを理解するより先に、相模は大きな力に突き上げられる。全身にのしかかる反動が四肢を引き裂こうと襲いかかる。あっという間に鉄塔の天辺に到達した座席は停止し、勢いのまま相模の五体は胴体から離れんと引き延ばされる。

 突然に天高くに連れ攫われた相模は、続いて強い力で引きずり込まれる。再び四肢は引き千切られそうになって軋む。地面すれすれで止まった座席から放り出されそうになるが、固く絞まったベルトがそれを防ぐ。

 

 「うぐっ・・・うぶあぁぇ!!」

 

 勢いそのままに込み上がる不快感を耐えることもなく、相模は己の中身を足下にぶちまける。ほんの数秒の間に数十メートルの高さを往復するだけで、身体はこんなにも痛み、壊れる。ヤバい。そう感じた相模の目に映る、『あと999回』の電光掲示板の文字。

 再び座席は上昇し、反動は相模の身体を押し潰す。天辺で一瞬の停止、同時にこみ上げる吐瀉物。下降とともに振り回される首。腕。脚。まるで人形のように。乱暴に。粗暴に。粗笨に。雑把に。上へ。下へ。上。下。上。下。上下上下上下上下上下上下──。

 

 永遠にも感じる重力と浮遊の責め苦は、突然に消失した。上昇した座席はストッパーを破壊して、鉄塔を飛び出した。皮膚を突き破った骨が直に冷える。血と胃液と正体すら分からない体液にまみれた全身が解放される。朦朧とする意識は、風を気付けに僅かに正気を取り戻す。

 家名のしがらみも、肉体の限界も、自らを縛る鎖からも、全てから解放された相模は、まったく自由だった。誰よりも。何よりも。どこまでも。自由で。自由に。落下する──。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うぷ、うぷぷぷぷ♫あーっひゃっひゃっひゃっひゃっひゃ!!」

 

 さいごのさいご、いよさんの目には何がうつってたんだろう。目のおくがいたくなるくらいのイルミネーションか、ナイトスカイに穴があいたようなフルムーンか、それとも何も見えてなかったのか。ボクたちは何も知ることができなかった。いよさんのことを何も分からないまま、かのじょは死んでしまった。ズタズタにやぶかれたパペットみたいに、つぶされてしまった。

 

 「うぅっ・・・も、もうイヤ・・・!なんでこんなことに・・・どうして私たちがこんな目に遭わなくちゃいけないの・・・!?」

 「ちくしょうッ!!」

 「・・・」

 「いいねえ♫やっぱりオマエラはこうでないと!ねえ、相模さんは最後の瞬間、どんな思いだったと思う?」

 「ふざけるな・・・!そんなこと・・・!!」

 「きっとサイッコーのエクスタシーを感じたと思うよ」

 

 モノクマは、にんまり笑って言った。

 

 「仲間の死に絶望し!コロシアイに絶望し!自分自身に絶望し!学級裁判に絶望し!おしおきに絶望し!自分たちの運命に絶望し!死に絶望し!そして最期の最後、それら全ての絶望が快感に変わる・・・うん、きっとそうだよ!これはスポーツや恋愛やブッとべるおクスリなんかじゃ、ましてや希望に満ちた一生なんかじゃ絶対に味わうことができない、極上の快楽なんだよぉ・・・♡」

 「・・・は?」

 「な、なんだ・・・?どうしたんだ一体・・・?」

 「もっともっと絶望してよ!最高の絶望を見せてよ!そしてその絶望を味わおうよ!楽しもうよ!みんなで気持ちよくなろうよ!!もっとゾクゾクして!ワクワクして!ビクビクして!なにもかもどうでもよくなるくらいイっちゃえる絶望を!!ボクに与えてよ!!そうすれば!!」

 

 自分をだきしめてたモノクマが、いきなり大きく手をひらいた。

 

 「きっと生まれるんだぁ・・・!この世界を丸ごと絶望させる、“超高校級の絶望”が・・・!」

 「──!」

 

 うっとりしたようなしゃべり方で、モノクマはそうつぶやいた。ボクたちは、目の前でいよさんをころされたことと、モノクマの気持ちわるさで、何もできなかった。だけどラストにモノクマが言った言葉は、なにか、ヘンなかんじがした。

 

 「“超高校級の絶望”・・・?」

 「あ、コロシアイが起きたから悪夢はナシにしといたからね!よかったねオマエラ!今日からまたゆっくり寝られるね!」

 「ちょっ!?ま、待てよオイ!」

 「じゃーねー!」

 

 アクロバティックにジャンプして、モノクマはまたいなくなった。からっぽになったモノヴィークルがひとりでにホテルエリアに向かってうごき出す。少ししてから、ボクはホテルに向かった。もうつかれた。何もかもをわすれてねむりたかった。それ以外のことは、なんにも考えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今日は、どんなドリームだったかおぼえてない。でも、ぐっすりねむれたことだけは分かった。モーニングに起きたとき、もう二度とベッドなんかいらないってくらいにスッキリしてた。だから、またいつもみたいにホテルのエントランスのまえにいるマイムさんに会いに行った。

 

 「スニフくんおはよ♫よく寝れた?」

 「・・・はい」

 

 ラジオからきこえるミュージックは、なんとなくトロピカルでスローリーなかんじがした。マイムさんはいきなりボクに、レイをかけてきた。

 

 「今日はフラダンスなんだ☆スニフくんも一緒に踊ろうよ♡嫌なことは全部忘れちゃおうよ♡」

 「い、いやボクは・・・。イヤなことって、マイムさんも、イエスタデイ、いよさんがころされたの、イヤでしたか?」

 「うーん・・・マイムはそんなにかな♡だっていよはダイスケのこと殺しちゃったもんね♡でもスニフくんが辛そうにしてたから♫スニフくんは優しいね♢アロハ・オエ〜☆」

 「・・・」

 

 のんきにフラダンスをするマイムさんだけど、ボクはずっといよさんのことを考えてた。どうしていよさんはダイスケさんをころしたんだろう。一体何があったら、あそこまでいよさんはダイスケさんをヘイトしてたんだろう。どこまで考えても、いよさんが死んでしまった今は、もうそれを知ることはできない。

 

 「いよのことを知りたかったらキネマ館に行ってみれば?何か録音されてるかも知れないよ♡」

 「え?」

 「なんでダイスケが殺されちゃったのか、気になってるんでしょ?」

 「な、なんで・・・?」

 「だって結局いよの動機がなんだか分かんないままだったし、マイムは興味ないけどみんな気持ち悪そうにしてたからね☆あとねあとね♫本番前で緊張して潰れちゃいそうな人って結構色んなこと喋るんだ☆緊張紛らわせるためにさ♡」

 

 そう言ってマイムさんは笑う。もういよさんもダイスケさんも死んでいなくなった。ボクたちが何もしなければ、もう二人をきずつけるようなことを知らなくてすむかもしれない。ボクがやろうとしてるのは、パンドラボックスをさがしてあけるのと同じことかも知れない。

 だけど、そうしなくちゃいけないような気がした。どうしても、そうしないと気持ちわるかった。いよさんがダイスケさんをころしたワケを突き止めないと、何かがおわらない。そんな気がした。

 

 「それじゃ、テルジんとこ行こっか♡お腹空いたー♣」

 「はい」

 

 

 

 

 

 

 

 ブレイクファーストのあと、ボクはすぐにキネマシアターに向かった。何かクルーがあるなら、いそがないとと思った。モノヴィークルを近くのパーキングにおいて、キネマシアターに入った。イエスタデイ、まだいよさんが生きてたときとおんなじ、ノスタルジーでエキサイトなかんじがした。プロジェクションルームはサイレントで、ボクたちがいよさんに見せてもらったサイレントムービーのフィルムがまだプロジェクターにはめられたままだった。

 

 「いよさんのログ・・・」

 

 プロジェクションルームに入ってすぐ、ホントにそんなものがあるのかウォリーになってきた。だって、マイムさんが言ってたってだけで、その他にいよさんのログなんてものがあるってエヴィデンスはない。それにもしあったとしても、どうやってそれを見つければいいんだろう・・・。いや、あるんなら、きっとそのメディアは決まってる。

 

 「フィルムだ・・・」

 

 ラックに並んでるフィルムは、インヴェスティゲートで来たときよりももっとたくさんあるようにかんじた。この中に、いよさんがダイスケさんをころしたモチーヴがあるのだろうか。いっこいっこ見ていくのは、とってもたいへんだ。

 

 「heave ho(うんしょ),heave ho(こらしょ)。くっ・・・!」

 

 トップにあるものから見ていくしかないと思って、ステップをもってきてフィルムをとろうとした。でもボクのハイトじゃ手がとどかない。ストレッチしてもまだぜんぜんだ。エブリモーニングにミルクをのんでるのに、もっとトールハイトになってもいいと思うんだ。

 

 「・・・ス、スニフか?」

 「eek(きゃあっ)!!Ouch(いてえっ)!!」

 「うおっ!?」

 

 いきなりバックから声がして、びっくりして思わずジャンプした。そしたらそのままステップからおっこちて思いっきりおしりを打った。そのインパクトでちょっとほこりがふってきて、ノーズがムズムズしてきた。なんかもう、なんかもうだった。

 声をかけてきたのは、そのかっこよさとビビったかんじから、サイクロウさんだってすぐに分かった。

 

 「だ、大丈夫かスニフ?すまん、いきなり声をかけて驚かせてしまった」

 「いたた・・・オーライです。サイクロウさん、どうしましたか?」

 「映写室に来たらお前が背伸びをしていたから、つい気になったんだ。こんなところで何をしている?」

 「ボクは、えっと・・・」

 「どうせ相模の何かを探しに来たんでしょ。たまちゃんたちと一緒」

 「た、たまちゃんさん!?どうしたんですかおふたりさん」

 

 サイクロウさんといっしょにプロジェクションルームに入ってきたのは、たまちゃんさんだった。なんだかよく分かんないペアで、ボクはどんどん何がおきてるのか分からなくなってきた。

 

 「ここに来れば、相模がなんで城之内を殺したのか分かると思ったの。スニフくんもそうなんでしょ?」

 「は、はい・・・」

 「俺たちも気になったんだ。どうして相模みたいに人の良い女子が、あんな非道な殺人をしたのか・・・まあ、半分はぬば」

 「──ッ!」

 「・・・たまちゃん、に、連れて来られたようなものなんだが」

 「そうですか・・・」

 「で、スニフくんはそこのフィルムに相模の真意が隠されてるって思ったわけね。鉄お兄ちゃん、やってあげて」

 「構わないが・・・お兄ちゃん呼びは止めてくれ。なんというか、むず痒い」

 

 たまちゃんさんはもう、みんなにトゥルーキャラクターがバレてるのになんでまだたまちゃんにアドヒアするんだろ。そんなたまちゃんにオーダーされて、サイクロウさんはとってもイージーにフィルムをとってくれた。だけどこれをみんな見るのはたいへんなんだけどなあ。

 

 「フィルムはね、少し取って光にかざせば記録されてるかどうかが分かるの。相模がやったみたいに音だけ記録していても、サラピンのものと違ってキズや埃の形跡がついてるもの。だからまずはこうやって調べてみるの」

 「I see(なるほど)

 

 フィルムをちょっとだけ引っぱってライトを見る。何にもうつってないレッドグレーのフィルムで、これじゃ何のログか分からない。もしいよさんが自分の気持ちをのこしてるなら、もっとキズかなにかがあるはずだ。

 

 「これなんかどうだ?」

 

 引っぱってはもどして引っぱってもどして、フィルムが山みたいにつみあがったところで、サイクロウさんが言った。フィルムを見せてもらうと、そこにはいよさんがうつってた。まっすぐこっちを見てきて、他には何もない。もしかして、マイムさんの言ってたことはホントだったのかな。

 

 「いかにもって感じだね。こんなのも混ざってたの?」

 「棚の下の見つけにくいところにあった。もしかしたら、相模が隠したのかも知れない」

 「見られたくなかったですか?」

 「さあ、そこまでは分からないが・・・」

 「ちょっとかけてみて」

 「これ・・・どうやって扱えばいいんだ?」

 「・・・スニフくんは」

 「ソーリーです。ボクもオールドプロジェクター、ちっとも分かんないです」

 「つっかえない男子ばっかりじゃんもう!これくらいできてよね!」

 

 そう言ってたまちゃんさんは、サイクロウさんにだっこされてプロジェクターにフィルムをセットしてムービースタートできるようにいじくりはじめた。ボクには何がなんだか分からないけど、あっというまにプロジェクターがうごきはじめた。

 

 「Wow・・・Greatですたまちゃんさん!プロジェクター使えたんですね」

 「こんなのちょっといじれば分かるわよ。スニフくんは仕方ないとして、ジュエリーデザイナーのクセして不器用なのよアンタ」

 「すまん・・・」

 

 プロジェクターがスクリーンに、白いムービーをうつし出す。ノイズが少しずつきえていくと、スクリーンにはボクたちの方を向いたいよさんが、バストアップでうつっていた。ほんのちょっとまえまで生きていたのに、なんだかすごく古いメモリーみたいだった。

 

 『此の映像は、他の誰に向けた物でも在りません。いよが、いよの為、いよによって造られた、単なる覚え書きの様な物です。いよが己が宿命を、己が立場を、己が為べき事を迷わぬ様、造る物で在ります。若し此を見る者がいよでないのなら・・・いえ、野暮なる事ですね』

 「何言ってんのこれ?」

 「ボク、ちっとも分かんないです・・・」

 「相模が、自分に向けて記録したもののようだ。いつの間にこんなものを・・・」

 

 いよさんのジャパニーズはボクにはちょっとディフィカルトだから、サイクロウさんにちょっとずつおしえてもらいながら、そのムービーを見る。サイクロウさんが言うには、いよさんが自分にむけた、セルフビデオレターみたいなものだって。なんでそんなもの作ったんだろう?

 

 『いよは、忘れては為りません。例え天地が返ろうとも、例え獣畜生が口を利こうとも、例え人が死のうとも、如何なる事が起きようと断じて変わらぬ不変の理。其れは、いよが相模家の唯一無二の跡取りと言う事です。此のモノクマらんどと言う場所は実に奇怪。閉塞の内に広大が入れ籠と成り、不自由と共に自由が謳われ、鬼畜獄門が如き行いが悦楽快哉を呼び招く。目に映る物を信ずる勿れ、耳に届く音を聞き入れる勿れ、口にする物を味わう勿れ。此処の全てがいよを怠惰へ誑かす悪習の根源也。いよは斯様な誘惑に、斯様な快楽に、斯様な外道に穢されて良い軽々しい存在では在りません。努々忘れる勿れ。其の舌端に三百を超える歴史と歴代が懸かっている事を』

 「・・・?」

 

 やっぱりいよさんが何を言ってるか、ボクには分からない。だけど、なんだすごくヘビーで、それからアンリーズナブルなことを言ってるってかんじがした。ムービーの中のいよさんはすごく苦しそうだった。つらそうだった。こうやってスピークすることもつらいのに、それを自分へのビデオレターにするって、一体どういうことなんだろう。

 

 『迷いが在るならば断ち切る可。思い出せ。怠惰への罰を。失言への報いを。水は低きへ流れるが、いよは高きに(あが)らねば為らぬ。能わねば・・・如何なる仕置きが待つか。骨身に染みて存じている筈で在ろう。然らば、抹せよ。己が煩悩の根源を。煩悩を払う術は、相模家の娘ならば心得ているであろう』

 「煩悩・・・城之内が、煩悩の根源だと言いたいのか・・・!」

 

 なんだかこのムービーを見てると気持ちわるくなってくる。いよさんは、自分で自分になんでこんなこわくなるようなムービーをのこしたんだろう。なんのために、こんなことをしたんだろう。

 そこでムービーはおわってる。ボクにはよく分からなかったけど、サイクロウさんとたまちゃんさんには、いよさんが何を言ってるのか伝わったみたいだった。

 

 「・・・だから、城之内はあんな凄惨な殺され方をしたというのか。相模にとって城之内は、煩悩を与えるに過ぎない存在だというのか」

 「えっと・・・どういうことですか?」

 「煩悩、えっと、なんていうか、悪い考えとか欲求とか・・・」

 「???」

 「スニフには難しいだろうな。うん・・・バッドアイデア?イビルデザイア?そういったものだ」

 「あとでライブラリでしらべます。それで、それがなんですか?」

 「除夜の鐘って言う風習があるのよ。年の瀬に、鐘を108回鳴らして煩悩を打ち消すっていうの。だから相模は、城之内自体を煩悩の塊って認識してたってことよね。だからあんな殺し方をしたのよ」

 

 きっとそれは、ボクたちには分からないセンスだ。あんなにフレンドリーにしてたダイスケさんを、よくないものだと考えて、ベルを使ってころすなんて、一体何をそこまで思いつめてたんだろう。

 

 「相模家の内情は知らないが、今の相模の言葉を聞く限り、厳しい躾と教義に則っているようだな・・・如何なる仕置きが待つか、骨身に染みているはずだと言っていた。体罰、それに準じる何かがあったのだろう」

 「それって、強迫観念ってこと?いくらなんでもそんなののために人を殺すなんてあり得る?だいたい、ここにいればそんなのも気にする必要ないのに」

 「・・・肉親からの強迫観念というのは、思った以上に根深い。そういうものだ」

 「なにそれ。たまちゃん分かんない」

 

 サイクロウさんとたまちゃんさんは、なんだかディフィカルトな話をしてる。このムービーを見てもやっぱりボクには、いよさんがどうしてダイスケさんをころしたのかよく分からない。だけど、いよさんがダイスケさんをころしたのは、きっといよさんがやりたくてやったことじゃないんだろうとは思う。何かにむりやりやらされた、そんな気がしてくる。

 だけどボクは、それよりもっと気になることがあった。このいよさんがうつったフィルム、何か引っかかる。なんだかこれは、いよさんが作ったんじゃない気がする。まるで、ボクたちに見てもらうために作っておかれてたような。そんな気が。

 

 「ともかく、相模が凶行に及んだ理由は分かった。俺たちにはあの二人が仲良く話しているように見えて、胸の内で相模は城之内のことを毛嫌いしていたということだ。そう簡単に人が何を考えているか、分かったものではないということだな」

 「・・・今のってそういう映像?なんかたまちゃんには違う風に見えたけどなー」

 「どういうことだ?」

 

 いよさんがダイスケさんのことをヘイトしてた。それはボクにとってすごくサプライジングなことで、だってふたりがいっしょにランチしたりカラオケしたりカジノでゲームプレイしてるのを見て、すごくたのしそうだなって思ってたから。ホントにいよさんは、ダイスケさんをころすために、イヤじゃないフリをしてたのかなって思いはじめてた。

 だけど、たまちゃんさんはそうじゃないって言う。

 

 「家の事情とか、体罰がどうとかっていうのはたまちゃんよく分かんない。パパとママはたまちゃんのこと応援してくれてるし、親バカかってくらい甘いから。だけど今の相模を見てたら、なんかこれ、まだ相模の本音じゃない気がする」

 「この期に及んでまだ本音を隠す必要などあるのか?」

 「隠すっていうか・・・なんか、今の映像って、相模が自分自身に対して言い聞かせるみたいな感じがしたんだよね。城之内が相模にとって害になるんだって、念を押してるみたいな」

 「・・・なんだそれは?」

 「分かんないけど・・・相模が家の事情で城之内のことを嫌ってたっていうのは嘘じゃないと思う。だけど、城之内ってなんか、あいつ下ネタとか偉そうな態度とかサイアクなんだけど、でも悪いヤツじゃないの。それは相模も感じてたと思う」

 「も、ってことは、たまちゃんさんもダイスケさんのことそう思ってるんですか?」

 「別に・・・相模がそうだったんじゃないかって話よ。だから、あいつのそういう部分を、相模は否定しきれなかったんだと思う。心のどこかで、城之内といると楽しいとか、励まされたとか、気に入らないけど・・・仲良くなってってることを嬉しく思ったりとか・・・そういうことがあったんじゃないのかな。だけど自分の家のことがあるから、それを楽しんでる自分を許せなかったんじゃない?だから、こんなものまで作って自分の覚悟を決めたとか・・・」

 「???」

 「・・・その答えは、相模のみぞ知る。今となっては知る由の無いこと、か」

 

 たまちゃんさんの言うことは、ボクにはよく分からない。ラストにサイクロウさんが言った言葉のいみも、むずかしくて分からない。いよさんがどうしてダイスケさんをころしたのか、クリアーなこたえをボクは見つけられなかった。だけどボクじゃないふたりは、それぞれ何かのこたえを見つけたみたいだ。

 

 「そこまでしないと、あいつを心の底から殺してやろうなんて、思えるはずないもん」

 「・・・城之内のことだ。その一言で救われるだろう」

 「どうだか」

 

 そのままボクたちは、プロジェクションルームから出て行った。いま見たいよさんのムービーのことは、ナイショにするとかいうことはしなかった。言いたい人が伝えたい人に言う。言いたくないなら言わない。それだけでよかった。きっといよさんは、あれをシークレットにする気はなかったから。

 だから、ボクがずっと気になってることは、もっとちがうことだった。

 

 「It must be strange(なんかおかしいんだよなあ)・・・」

 

 いよさんがムービーにうつってるなら、レコーダーをうごかしてたのはだれなんだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

コロシアイ・エンターテインメント

生き残り:12人

 

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ここらでロンカレ二章おしおき解説。ある意味R-18!

相模いよのおしおき、『天にも昇る堕落』の解説です。感想読んでるとあんまり伝わってないのと、伝わるわけねえだろみたいな部分もあるので、ここらで一発解説しておきたい。

まず、相模の動機からおさらい。
相模が城之内を殺したのは、「伝統と格式ある相模家の娘としての自分を守るため」です。徹底して弁士としての勉強をしてきた相模は、それ以外の娯楽には全く免疫がありませんでした。城之内とつるむうちに俗世的な遊びや不摂生な生活習慣、未知の外来文化に触れ、それを「楽しい」と感じていました。
しかしモノクマに与えられた動機の悪夢で、相模は家での厳しい修練を思い出します。徹底的に排除された世俗文化と、伝統文化こそ至上なるものという教えを思い出します。
そして現在の自分を顧みたときに、低俗な文化に染まりつつあることに気付き、嫌悪したのです。つまり、文化的・風俗的に潔癖であろうとしたわけです。そんな相模の目には、城之内は自分を穢す諸悪の根源として映ったのです。
それが相模の動機であり、撞木で頭が潰れるまで撃ち殺した理由です。煩悩を打ち消すといったら除夜の鐘ですからね。

そんな彼女のおしおきですが、これも分かりにくかったみたいですね。すんません。
フリーフォールを使ったおしおきです。まず座席に固定され、高速で上下運動をさせられるのです。運動の切り返し点で、慣性により相模の身体は進行方向に強く引っ張られます。関節なんかは悲鳴を上げますね。内臓も同様の力を受けますので、天辺では胃の中身も噴き出します。しかし直接命を奪うほどの責め苦ではないので、余計に辛いです。
仕上げは座席が勢い余って上側に吹っ飛び、真っ逆さまに落ちて潰れるという次第です。要するに、思いっきり振り回されて潰されるというおしおきです。
天に向かって上昇する様と、最後に落ちる様をまとめて、「天にも昇る堕落」と表してるわけです。

でもそれだけじゃないです。このおしおき、もう一個意味がありましてそれが「伝わるわけねえだろ」な部分なんです。
全体の動きを見て、男の人ならピンと来るかも知れません。このおしおき全体で、男性の自慰行為を表してます。フリーフォールの柱がモノで、座席で扱いてるのです。最後にポンと飛び出すのも同じでしょ。
女性であり高尚な家の出身であり、自分の潔癖さを守るために殺人を犯した相模を乗せてそれをやることこそが、彼女に対する最大の侮辱なのです。そして行為に伴う快楽と下品さを、「天にも昇る(心地になる)堕落(した行為)」と表しました。

という感じで、本編の中で伝えきれない部分でもかなり意味を詰めてます。上手い人はそれとなく察せられるように文を書くんでしょうね。うらやましいなあ・・・

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