『ピンポンパンポ〜〜ン♫死体が発見されました!一定の自由時間の後、学級裁判を行います!』
そのアナウンスは、それまできこえていたいよさんのアナウンスの上からシアターの中にひびきわたった。すっかりムービーのストーリーにのめり込んでたボクを一瞬でリアルに連れ戻して、その上からものすごく大きなホープレスを押しつけてきた。
「・・・!?この放送は・・・!」
「ッ!!全員いるか!?隣同士の者たちは!!」
とっさにレイカさんが声をあげた。となりにいる人、こなたさんは生きているか、それをたしかめようと横を向こうとした。その時──。
「スニフ君!!」
「うっ・・・!?こ、こなたさん・・・!
「・・・う、うん・・・。スニフ君も大丈夫?」
「ボクはなんともないです。あっ・・・ワタルさんも、ダイジョブでした?」
「あ、ああ・・・。正地も納見もなんともないみたいだ。どうやら俺たちには何も起きてないらしい」
「相模!聞こえるか!返事をしろ!」
「・・・は、はい!居ります!皆様ご無事で御座いますでしょうか!?」
「相模氏も無事みたいだねえ。そうなると・・・虚戈氏とたまちゃん氏が心配だねえ」
さっきのアナウンスは、ボクたちがファクトリーエリアでマナミさんを見つけたときにきこえてきたのとそっくりだった。それに気付いたレイカさんとワタルさんが、すぐに近くの人の無事をたしかめたんだ。バタバタと音がしてシアターの後ろのドアが開くと、ぜえぜえ言ってるいよさんがいた。キネマ館にいた人はみんな大丈夫みたいだ。
「皆様!お怪我は!?」
「私たちは大丈夫だ。しかしあのアナウンスが聞こえたのだ。全員、覚悟を決めておけ。
「ま、待て極・・・!下手に動くと何が起きるか分からないぞ。きっとまたモノクマがしゃしゃり出てくるはずだ。それを待ってから──」
「待っている場合か!死体が発見されたということはまた学級裁判が開かれるのだ。捜査時間が限られている以上、時は一刻を争う。誰がどこで死んでいるのかも分からずに何ができる」
「そりゃそうだけど──」
「腑抜けたことを言うな、雷堂。貴様が確りしなければ誰が私たちをまとめるというのだ。冷静になれ、行動しろ。貴様を頼る者たちを不安がらせるな」
すぐに立ち上がったレイカさんをワタルさんが引き留めようとする。何がどうなってるか分からない中で、何をするにもためらってしまう。だけどレイカさんは力強くキネマ館の出口に向かって行く。あわてるワタルさんと小さい声で何かをはなしてたけど、ボクにはよく聞こえなかった。そしてちら、とボクたちを見た。
「・・・ああ、悪かった、極。ありがとう」
「ではどうする」
「相模、今から演芸場に行って城之内たちの無事を確認してきてくれるか?極と納見も一緒に確認しに行ってくれ。スニフと研前、正地は俺と一緒にホテルに戻ろう。何もなければ・・・荒川と鉄と下越がいるはずだ」
「い、いよっ!合点承知!!」
「ワタルさん、急にテリヤキしはじめましたね」
「テキパキでしょ?」
「あ、それでした」
「死体が発見されたってことは、誰かが見つけたってことだ。演芸場とホテルが現場じゃなければ・・・」
「ククッ、ハッハッハッハ!!」
「!」
ボクたちがどこへ何をしに行かなきゃいけないか、ワタルさんは一つロングブレスをした後から人が変わったみたいに決めていった。だけどそのディレクションは、聞き覚えのある笑い声でかき消された。いつの間にか、シアターのエントランスに、モノトーンの彼が立っていた。
「ほ、星砂!?」
「・・・よかった、お前は無事だったか」
「なかなか良い采配だ、勲章。冷静になればできるではないか。やはり貴様は俺様と対立するには惜しいな。盛り髪の喝入れあってこそ、だろうがな」
「何をしに来たかは聞かん。アナウンスを聞いたなら状況把握に協力してもらうぞ」
「そうは言っても、俺様もここに用があってきたのだがな」
「時間がない。知っていることを教えてもらおう。力尽くでもな」
「いよっ!?喧嘩でえ喧嘩でえ!!」
「ちょ、ちょっと極さん!暴力はダメよ!こんなときに!」
何か知ってるようなハイドさんに、レイカさんが手をコキコキ鳴らす。セイラさんが止めるけど、本気になったらきっとレイカさんは本当にハイドさんをぶつ。
「・・・フンッ、いいだろう。付いて来い。死体のある場所などだいたい分かる」
「あ、当てずっぽうじゃあないか!」
「貴様はさっきの放送の何を聞いていた? この広いモノクマランドで死体探しなど、どうやら黒幕もさせたくないようだ。そんな意図も感じ取れんとは。そんなんだからぎっちょうなのだ」
「なんだとこの───」
「ヤ、ヤスイチさん!ストップです!今はハイドさんのごきげんとらないと!」
「ふぬーーーっ!!」
「分からない愚図は付いて来い」
あのアナウンスで、どこに死体があるかなんて分からなかった。こなたさんもセイラさんも、いよさんもレイカさんもワタルさんも分からなかったみたいなのに、ハイドさんは気付いたみたいだ。
ボクたちはハイドさんについて行って、ミュージアムエリアからスピリチュアルエリアに移った。エリアを移ってすぐ、なんとなくエアーがベタベタしてるビッグテンプルに入った。ダークの中で目立つコスチュームを着た二人がいて、その奥に───。
「あっ・・・!あれは・・・!」
「ウソだろ・・・!?な、んで・・・城之内が・・・!」
大きなベルとベルハンマーの間に、ロープで手とクロスビームをしばって吊り下げられてゆれていた。ベルに、ベルハンマーに、そこら中にちらばった血がレッドフラワーみたいに見えて、そのセンターにいるダイスケさんは、もはやダイスケさんとは分からないくらいに真っ赤になっていた。
「これでいいだろう。では俺様は先に───」
「待て。全員が揃うまでここにいろ。一人で行動すると言うなら歩けなくしてやる」
「・・・貴様が言うと洒落にならん」
すぐにどこかに行こうとするハイドさんをレイカさんがつかまえる。こんなときに一人でどこかに行ったらあぶない。ホテルにいるメンバーが来るまでまっていた方がいい。
「ねえスニフくん!見てみて!」
「What's!?なんでボクですか!?わわっ!」
「あっ、スニフ君!虚戈さん!」
せっかくキレイにブラッシングしてあるブーツの底に血がべっとり付くのも気にしないで、マイムさんはボクの手を引いてベルタワーに連れて行く。あわててこなたさんもついてきて、変わり果てたダイスケさんのすぐ近くまで連れてこられた。
「こんなになってるよひどいねー♠︎それにこれ見てよホラ!」
「?」
「ダイスケの頭パッカーンしてるから、
「うっ!?」
「こ、虚戈さん・・・!やめて・・・!元に、戻しておいて・・・!」
「えー?豚や鳥の内臓はおいしいおいしいって食べるのに、なんでそんなに嫌そうな顔してるの♣︎」
「
何かと思ったら、マイムさんのやることはやっぱりよめない。意味も分からないしグロテスクだ。思わず気持ち悪くなって下を向いた。そんなボクの目に、血だらけになったベルタワーの中で、明らかにただの血じゃないものを見つけた。
「・・・?」
「スニフ君、大丈夫?もう虚戈さん!本当にやめて!耐えられない人だっているの!」
「むぅ・・・♠︎ごめんなさい♠︎」
「“JADE DISH killed me”?」
「え?」
「どしたのスニフ君?」
そこに書かれてたのは、明らかなイングリッシュメッセージ。しかも、“killed me”って、どう考えたってこれは・・・!
「ダイイング、メッセージ・・・?」
「ダ、ダイイングメッセージって、推理ものでよくあるあれのこと?これが?」
「おお〜♫よく見つけたねスニフくん♡まいむはこれを君に見せたかったんだよ☆ファイティングアベレージ☆」」
「Dying Messageです」
「タイピングセンセーション☆」
「もういいです・・・」
「どれどれ♢なんて書いてあるのか・・・あっ♠︎」
「「あっ」」
たまたま見つけたダイイングメッセージを、マイムさんがよく見ようとのぞきこむ。その拍子に、手に持ってたさっきの・・・ダイスケさんの
「わわわっ!!うっ・・・!こ、虚戈さん・・・!はやくどけて・・・!」
「あわわあわわあわわわ♠︎」
「
「ぺいっ!」
「投げないであげて!」
おちた
あわててマイムさんがどけたけど、血がまざってさっきより明らかに分かりにくくなった。というか、正解を知らなきゃぜったいによめない。文字かどうかも分からない。メッセージとしては完全に意味がなくなっちゃった。
「・・・マイムさん」
「虚戈さん。こんなのあんまりだよ・・・」
「・・・あはぁ♠︎ご、ごめんねえ・・・♠︎」
さすがにマイムさんもまずいと思ったのか、元気をなくした。スマイルも引きつってるみたいに見える。こんなに大事な手がかりを、こんなふうにロストするなんて。
「もうあっち行っててくださいよ!サイトストレージです!」
「うひ〜〜ん☂ごめんなさ〜〜い♠」
「じょ、城之内!!」
マイムさんが泣きまねをしながらベルタワーから飛び出すとほぼ同じタイミングで、エルリさんたちがホテルからやって来た。ヤスイチさんがホテルまで呼びに行ってきてくれたらしくて、これで全員があつまった。そしてそれにタイミングを合わせたように、モノクマがどこからともなく現れた。
「うぷぷぷぷ♫ワックワックドッキドッキ!コーフンしますねー!こうしてまたコロシアイが起きるとはねー!」
「モ、モノクマ・・・!!」
「しかも前回みたいなちんけな殺し方と違って、今回はかなり凄惨ですねー。完全に頭が潰れててこれじゃあ城之内クンだと分からないじゃないか。まあこんなクソダセえ格好してるのは城之内クンぐらいだけどさ!」
「やることは分かっている。貴様が現れた用件もだ。無駄口を利かずに必要なものだけ渡せ」
「およよ?極さんってば、学級裁判に積極的ですね。興奮してる?興奮してるの?びしょびしょなの?」
「モノクマ、お前の下らない話に付き合ってる暇はないんだ。時間も限られてるんだろ?」
「もう、つまんねーの。はいはい、やるよホラ」
レイカさんとワタルさんに言われて、モノクマはつまらなさそうに言った。ボクたちのモノモノウォッチが小さくバイブして、ニューファイルをダウンロードした。モノクマファイルだ。前に、マナミさんが死んだときのディティールをレジュメにしたのと同じものだ。
「あ、ちなみに今回から、ちゃんと英語版も実装しましたよ。モノクマはカスタマーの意見を取り入れてよりよい運営を目指していくのです。ぶっちゃけスニフクンが生きてる間だけしか意味ないけどねー!せっかく作ったんだからせいぜい長生きしてよねスニフクン!」
「・・・
「モノモノウォッチの機能に不満があったらいつでも言ってね!バグ報告には詫びメダルもあげるよ!じゃーねー!」
「デバッグくらい自分でしなよお・・・」
シンプルにまとめてモノクマはいなくなった。ボクはモノモノウォッチをいじってモノクマファイル②っていうファイルをひらいてみた。ランゲージをイングリッシュにしてあったから、そのままイングリッシュバージョンのファイルがひらいた。
ファイルにのってるフォトは、ベルタワー全体とダイスケさんの死体のアップの2タイプがのってて、見るだけで気持ち悪くなってくる。
「ま、またやらなきゃいけないの・・・?あんなむごいこと・・・」
「やるしかないだろう。モノクマが言う以上、冗談ではないのだ。まさか二度もこんなことが起きるとは・・・」
「おい、もういいだろう。俺様はさっさと捜査に向かうのだ。離せ盛り髪」
モノクマファイルがリリースされてすぐ、ハイドさんはレイカさんの手を払ってどこかへ行ってしまった。さすがにハイドさんもこんなダイスケさんを見たくないんだきっと。でも、ここの他にどこをしらべるっていうんだろう?
「・・・前回と同じように」
ハイドさんがいなくなってだれも何も言えないままのところで、ワタルさんが口をひらいた。マナミさんがころされたときも、みんながどうしていいか分からずに時間をロスしてしまった。それだけはしないようにと、ワタルさんが心を決めたんだ。
「現場の見張りに二人。あとはそれぞれが事件と関係してそうな場所に二人以上でペアを組んで捜査しよう。見張りは誰がやる?」
「あっ!はいはいはーい♠まいむがやるよ☆まいむが見張りするよ☆」
「分かった。もう一人は俺がやる。虚戈一人じゃみんな心配だろうからな。みんなそれでいいか?」
「もうなんでもいいよ・・・」
「たまちゃん?」
あわててマイムさんが手をあげた。ついさっきいきなり大事な証拠をなくしちゃったのをごまかそうとしてるんだなって思った。だけどあのダイイングメッセージは、ボクとマイムさんとこなたさんの三人が見た。これならぜったいにダイイングメッセージがあったことがプルーフできる。
やっと他の人がそれぞれに捜査をはじめようとしたときに、たまちゃんさんが小さくつぶやいた。
「こんなの・・・ひどすぎるよ・・・!なんで私がまた命懸けなきゃいけないの・・・?私が何かしたっていうの・・・?せっかく、せっかく・・・うぅっ・・・!」
「た、たまちゃん!しっかりして!」
「お、おい・・・だ、大丈夫なのか?」
「ショックが強すぎたのよ。呼吸が乱れて発熱もあるわ。このままじゃ裁判どころじゃないわ」
「どどどどうすりゃいんだよ正地!?か、粥でも作るか!?」
「取りあえず楽な格好に着替えて安静にしないと。それにお化粧落としも。ねえ虚戈さん、演芸場の楽屋に行けばどっちもあるかしら?」
「うん♡緩い服がいいならマイムの服貸してあげてもいいよー♡」
「あのトレーナー、だぼだぼの自覚あったのか」
「みんな、ごめんなさい。私は力になれそうにないわ。演芸場でたまちゃんを診てるから、後のこと、お願いね」
「ふふふ・・・随分と信用されたものだ。我々の中に城之内を殺害した犯人がいるかも知れないというのに」
「いよぉっ!?あ、荒川さん!其れは言わずもがなという物です!たまちゃんさんのお心も慮っては如何ですか!」
あまりにショッキングなことがつづいたからか、たまちゃんさんはぐったりしてその場に座り込んだ。すぐにセイラさんがたまちゃんさんによりそって、そのままミュージアムエリアにはこんでいった。あの様子だと、セイラさんとたまちゃんさんは今回は捜査できそうにない。
「も、もう人手が二人減ってしまったぞ・・・大丈夫なのか雷堂?」
「減った分は埋めるしかない。俺たちができる限りのことをするしかないんだ」
「その通りだ。さあ、時間が無い。捜査を始めるぞ。私は今回も検死をさせてもらう。いいな?」
「ああ、頼む」
みなさん戸惑いながらも、少しずつ動き出して捜査に向かって行った。ボクとこなたさんはベルタワーからその様子を見ていた。ボクは、なんだか少し不安だった。クラストライアルが待っているからじゃなくて、前もクールでロジカルだったレイカさんやハイドさんだけじゃなくて、ワタルさんやセイラさん、テルジさんまでが、このコロシアイっていう状況になれてきているような。そんな不安が頭の中にこびりついてはなれなかった。
ーーー《捜査開始》ーーー
「あ、あのう・・・こなたさん」
「なあに?」
「また、ボクといっしょにそうさしてくれますか?」
「・・・うん。私も、スニフ君と一緒だと心強いよ。捜査しよう」
ベルタワーにのこったマイムさんとワタルさんの他には、ビッグテンプルをしらべるエルリさんとヤスイチさん、それからダイスケさんのオートプシーをするレイカさんがいた。ボクとこなたさんはまた皆さんからはなれて二人だけになった。
「まずはモノクマファイルを確認しようか」
こなたさんがそう言ったから、ボクはモノモノウォッチをいじってモノクマファイルをもう一回ひらいた。グロテスクなダイスケさんが表示される。
「死因は殴殺。辺り一帯に血が散ってることや撞木と釣鐘に付着した血から、撞木と釣鐘の間に頭を何度も挟まれて殺されたよう・・・こんなひどいことする人がいるなんて・・・」
イメージすると、それはとてもクリューエルなことだった。きっとダイスケさんは、こわかったし、いたかったし、にげたかったにちがいない。でも、手をロープでしばられてそれもできない。自分の顔が、頭が、命がつぶされていくのをただ感じてたんだろう。これをやった人がボクたちの中にいるなんてことが、ボクにはまだアンビリーバブルなことだった。
「惨いよな・・・。何もここまでしなくてもいいだろうに」
「あっちもこっちも血で真っ赤っかだよ♣チミドロフィーバー!って感じ♡」
「撞木で撞いたとしたら、きっと大きな音がしたよね?死亡推定時刻は・・・ちょうどパーティの時間だね。そんなの聞こえた?」
「俺たちと相模はキネマ館で相模の弁を聞いてたからな。防音設備もあるだろうし、気付かないのも無理はないだろうな。野干玉や虚戈はどうだったんだ?」
「このくらいの時間はまいむとたまちゃんも楽屋にいたからなー♣それにまいむは本番前のストレッチでヨガってたから聞こえてても気付いてないと思うよ♫」
「ヨガってたって、なんでまたそんなことするんですか」
「スニフ君。変な日本語覚えちゃダメだよ」
「なにがですか?」
「どっちにしろさ♫ダイスケの頭を挟んでたんなら音だって鈍るでしょ☆どうせ聞こえないって♫」
そりゃそうかも知れないけど、ダイスケさんの死体の前でそんなことを言うと、その時のことをリアルにイメージしてしまってものすごく気持ち悪くなる。やっぱりマイムさんはその辺のセンスがボクたちとは全然違うんだ。こなたさんがうかべた涙をふいて、ワタルさんが頭を抱えるところに、レイカさんがやってきた。
「お前たち、検死の結果が出たから先に共有しておく。やはりモノクマファイルに間違いはないし、死因、死亡推定時刻、死体の状態の記述にも不足はない。辺りに散った血も城之内だけのものと見て間違いないようだ」
「そうか。ありがとう極。他に気になることはあったか?」
「ヤツの上着のポケットに、こんなものが入っていた」
「なにこれー?」
「スタンガンですね」
レイカさんがハンカチで持ってきたのは、バッテリーが入ったスタンガンだった。かるくレイカさんがスイッチを押すと、ブルーホワイトのスパークがバチバチと光った。思わずびくっと体がはねる。
「なんでこんなもんを城之内が持ってるんだ?」
「それが、ヤツの上着にちょうどこれと一致する焦げ跡があった。おそらく、犯人が使用後にポケットに突っ込んだのだろう」
「ずいぶん雑な処理方法だね。下手に処理して証拠になるくらいなら、いっそ開き直って現場に残しておいた方が足が付きにくいってことかな?」
「その通りだ。別段現場にあったところで極端に不自然なものではないし、誰にでも使えるから犯人の手掛かりにもなりにくい。ショッピングセンターで入手できるしな」
「なるほど・・・。城之内をどうやって縛ったのか気になってたんだが、これで気絶させた隙にってことか。ちなみにあのロープは?」
「あれもショッピングセンターで購入可能だ。須磨倉のように持ち金が減っている可能性がある。全員の所持金を調べるか?」
「いや、パーティの準備や普段の生活で消費しているヤツもいる。今後はそれだけで犯人の手掛かりにはならないと思うぞ」
「あのさあのさ二人とも・・・♠」
スタンガンから色んなことを考えて、マジメにトークするワタルさんとレイカさん。その二人に聞こえないように、マイムさんがボクとこなたさんに近付いてきた。
「さっきのダイイングメッセージのこと、みんなには内緒にしといてね♡まいむ怒られちゃうから☆」
「ええ・・・でもあれって結構重要な証拠なんじゃ・・・」
「でもまだ意味分かんないよね?」
「まあ・・・そうですけど」
「だったら意味分かってから言ってもいいじゃーん♡ね、お願い♡」
まさかダイイングメッセージをなくしたなんて言ったら、レイカさんに何をされるか分からない。クラストライアルがはじまればお互いにバイオレンスはできなくなるから、そのときまでマイムさんはボクたちにそのことを言わないでほしいんだ。なんだかいけないことのような気がする。
「じゃあボクからクエスチョン、いいですか?」
「うんいいよ♡なんでも聞いて☆」
「ダイスケさんがころされたころ、マイムさんとたまちゃんさんは何してましたか?」
「ありゃ?それってアリバイ?もしかしてまいむたち・・・疑われてるぅぅううううう???」
「そんな入れ替わってるようなテンションで言っても緊迫感ないよ。本気で驚いてないでしょ虚戈さん」
「あはっ☆だってそりゃあスニフくんやこなたたちは一緒にいたからいいけど、マイムとたまちゃんはずっと一緒だったわけじゃないから疑われるのも当然だよね♫」
「ずっと一緒だったんじゃないの?」
マイムさんとたまちゃんさんは、ステージシアターでリハーサルをしてたはずだ。だからボクたちがいよさんのムービーをみてるころ、ダイスケさんがころされたころもステージシアターにいっしょにいたんだと思ってたけど、そうじゃないのかな。
「たまちゃんがね☆リハ前に一時間くらいホテルに忘れ物を取りに行ってたんだ♫なんか芸に使うものだったらしいんだけどよく分かんない♠」
「その間、マイムさんは何してましたか?」
「ヨガってたよー☆」
「ヨガってましたか」
「そんな日本語覚えちゃダメだってば」
ボクたちがシアターでお互いにいることを確認し合ってたことから、キネマ館にいた人たちはクロじゃないって考えられる。ホテルにいる人たちも、ミュージアムエリアにいるダイスケさんをスピリチュアルエリアまで連れて行ってっていうのはむずかしそうだ。そうなるとあやしいのは、元々ミュージアムエリアにいたマイムさんとたまちゃんさん、それからどこにいたか分からないハイドさんになるけど・・・。
「そんな単純かなー?」
「まだコンクリュージョン、出すの早いです。なるたけたくさんのこと考えます」
「それがいいよ♫まいむもがんばるからスニフくんとこなたもがんばろ♡」
がんばるって、何をどうがんばるんだろう。マイムさんはやっぱりよく分からない人だ。
獲得コトダマ
【モノクマファイル2)
死因は撲殺。死体発見場所はスピリチュアルエリアの鐘楼。死亡推定時刻は22:00ごろ。撞木と釣り鐘の間に麻縄で吊された状態で、発見される。頭部が激しく損傷しており、撞木と釣り鐘のどちらにも多量の血痕が見られる。
【撞木)
鐘を撞くための丸太。激しく血液が付着している。
【釣鐘)
青銅でできた巨大な鐘。激しく叩きつけられたように血が付いている。そこにあるだけで、定時に鳴らされることはなかった。
【拘束具)
城之内の手首と鐘楼の梁が麻縄で結ばれていた。現場に遺された目隠しと猿ぐつわをされている。手首や口元に擦れた傷などはない。
【服の焦げ跡)
城之内の背中の腰あたりに2つある焦げ跡。
【スタンガン)
城之内の服のポケットに入っていたスタンガン。ショッピングセンターの防犯グッズコーナーで入手可能。
【ダイイング・メッセージ)
城之内の死体のすぐ近くに、“JADE DISH killed me”という血文字が残されていた。ダイイング・メッセージのようだが、掻き消されてしまう。
【虚戈の証言)
野干玉と虚戈はともに演芸場の楽屋で演目の準備をしていた。野干玉は事件発生時刻の1時間ほど前に、部屋に忘れ物を取りに行っている。
「エルリさん」
「・・・」
ベルタワーのダイスケさんをしらべるレイカさんと見張りのワタルさん、マイムさんの他に、ビッグテンプルにはエルリさんがのこっていた。こんなにくらくてこわいのに、一人だけで捜査をしてる。すごいなあ。こわくないのかな。
「ベルタワーをしらべなくていいんですか?」
「いいのだ。向こうは極に任せておけば。それより、スニフ少年と研前。お前たちはあれか?霊的なものには感覚が鋭敏な方か?」
「え?なんですか?」
「れ、霊的なものって・・・オバケとか?」
「所謂な。シックス・センスというものだ。このスピリチュアルエリアという場所は兎角その手の演出に富んでいる。犯人がこの場所を犯行現場に選んだのであれば、そのことも少なからず関係しているのではないかと、この私は考えたわけだ」
「へえ。証拠品だけじゃなくて現場に意味があることもあるの?」
「ふふふ・・・目の付け所が鋭利だろう。茅ヶ崎が廃工場に遺棄されていたのは、あそこが人目に付かない場所だったからだ。突発的な犯行で予定外の行動故に隠蔽をしなくてはならなかったからな。故に、現場一つ取ってもそこから犯行の一部を推理する材料になる」
「だ、だからって、クロがスピリチュアルな方法でダイスケさんをころしたなんて・・・そんなノンサイエンティフィックな・・・!あ、ありえないです!アンロジカルですねー!」
「スニフ少年、この世には科学で解明できないことが多く存在するのだ」
「そうだよ、バームクーヘンの穴だって、塞がってた方がたくさん食べられておいしいのに、絶対空いてるでしょ。あれだって科学じゃ解明できない大いなる謎なんだよ」
「なんだそれは違うぞ研前」
「ドーナツはなぞじゃないんですか」
「なんだその質問は。おいスニフ少年、なんだそれは」
「あれはドーナツを揚げるときに火の通りをよくするための形だよ。なんか、カメみたいな名前の」
「トーラスですね」
「それだね!」
「えへへ、いつもとはんたいですね」
「・・・お前たち、それは今重要なテーマなのか?」
「あ、あれ?いつの間にドーナツの形状の話になってたんだろう?」
「いつのまにジオメトリの話になってたんでしょう?」
「飛躍した話題から得手勝手に話を広げようとするな!」
何の話をしてたんでしたっけ?エルリさんがひとりぼっちでいるからすごいなあって思って、そしたらノンサイエンティフィックなことを言いだしたんだっけ?
「まあどのような超常現象も説明してしまえばただの事象になる。いかなる手段を用いようとも、我々が観測し分析し解明し一般化すれば、それはもう科学の範疇なのだ」
「う〜ん・・・ちょっと難しいかな」
「それで、エルリさんはひとりぼっちで何か見つけたんですか?」
「ひとりぼっちと言うな。スニフ少年、純朴な言葉はときに人を傷付けるぞ。高濃度の酸素が生物にとって毒となるようにな」
「ごめんなさい・・・」
「それで、捜査の成果だったな。事件と関係があるかは断定しかねるが、この境内社を見てくれ」
「小さい祠?だね。スニフ君なら入れるんじゃない?」
「イヤですよ。こわいです」
「少年でなくとも、人1人なら優に入れる。この寺には境内社がいくつかあるのだが、この鐘楼に近い境内社の周りだけ草が踏みしめられているだろう?」
「草?あっ、本当だ」
エルリさんに言われるまで気が付かなかった。たしかにこのスモールシュラインの周りはウィードがぺったんこになってる。ボクたちがふんだだけじゃないみたいだ。モノモノウォッチのライトだけでそこまでしらべるなんて、エルリさんはすごいなあ。
「誰かがこの境内社を物色したか、あるいは本当にこの中に入ったかした証拠だ。そして社の中に、これが落ちていた」
「ドロップキャンディーですか?」
「スニフ君、それドロップじゃないよ。おはじきだよ」
「ドロップでもおはじきでもない。ボタンだ。私が言うのもなんだが、お前たち視力は大丈夫なのか」
「暗いからだよ。そのボタンも黒いから分かんなかった」
「なんでそんなものが?だれのですか?」
「それは分からん。ボタンのある衣類などほぼ全員が身につけているからな。しかし、少なくとも誰かがここで何かをしていたことは証明できる。この、事件現場の鐘楼から近からずも遠からざる場所で」
じっくりとボタンを見つめるエルリさんは、たっぷりと意味ありげに言った。ボクはクロがダイスケさんをここにしばって、ころしてからすぐどこかに行ったんだと思ってたけど、そうシンプルでもないみたいだ。
それから後、テンプルをしらべるのはエルリさんたちに任せて、ボクたちは他のところをしらべに行くことにした。どこをしらべればいいか分からなかったけど、ハイドさんやサイクロウさんたちは他のところに行ったはずだ。それに、たまちゃんさんが心配だ。
「おやあ?2人はまだ寺にいたんだねえ」
「ヤスイチさん。なにしてますか?」
「そりゃあ捜査だよお。ちょっと城之内氏の近くにいるのは勘弁だったからあ・・・せめてスピリチュアルエリアの他のところは捜査しておこうと思ってねえ」
「他のところって、ここお寺の入口だよ。意味あるかな?」
「スニフ氏と研前氏はあ、この場所を見て気付くことはないのかい?」
気付くことって言われても、ここはビッグテンプルのゲートだ。ボクたちのモノヴィークルが並んでて、辺りはやっぱりダークだ。ボクたちのモノヴィークルも、one, two, three・・・seven, eight、ちゃんとあるし。
「eight?」
「これ城之内氏のモノヴィークルだよお。おかしくないかい?」
「城之内君は鐘楼で殺されてたんだよ?モノヴィークルがあったっておかしくないんじゃないの?」
「おれたちがキネマ館にいたころお、城之内氏たちは演芸場でリハーサルをしてたはずだろお?なんでモノヴィークルがここにあるのかなあ?」
「そういえば・・・」
ここからステージシアターまではだいぶはなれてる。モノヴィークルでならそんなにだけど、ウォーキングだとちょっと時間がかかる。それにモノヴィークルはモノモノウォッチでアダプトした人しか動かせないはずだ。どういうことだろう?
「それで今、城之内氏のモノヴィークルに何か残ってないか調べてたのさあ。モノヴィークルには履歴機能があったから、それを使えば城之内氏の足跡を辿れるだろお?」
「そっか!納見君、頭良いね」
「見れるんですか?」
「いや、肝心のそこがどうにもねえ・・・。起動はするんだけどお、履歴機能が使えなくなってるんだよお」
「お困りのようでぃすにぇ〜?」
「何の用ですか」
「うわっ!出てきた途端に冷たい視線・・・!どうしようボク、クセになっちゃいそう!」
「モノクマが出てきたってことはあ、これは故障か何かかい?」
困ってるヤスイチさんのところに、モノクマがとびだしてきた。やっぱりモノクマはどこからでも出てくる。こうやって出てくるってことは、ボクたちに何かをおしえてくれるときだ。きっと分かりやすくなんてしてくれないだろうけど。
「故障じゃないよ!仕様だよ!モノヴィークルは改造や盗難、他人の利用を防止するため、対応者が死亡したら使えなくなります!」
「だったら履歴機能くらいは使えてもいいんじゃないの?」
「ああ、それは必要ないから停止させてるだけ。バッテリー食うしね」
「おれが必要としてるんだけど、それはダメなのかい?」
「だって乗ってる人が死んだんだからこれ以上履歴なんて残るわけないじゃーん!死人がモノヴィークルで移動なんかしないでしょ!」
「じゃあ生きてる人の履歴しか見られないの?」
「そういうこと!まあ生きてる人が素直に履歴を見せてくれるかどうかは分からないけどね!それだけ言いに来ました!」
「ならとっとこゴーホームしてください」
「“とっとと”だろ!ボクはひまわりの種大好きモノ太郎じゃねーぞ!」
「そうですか」
「研前サンの時と違って冷めた対応・・・ボクはそんな風に生んだ覚えはないぞ!」
「ボクにはちゃんとママがいます!お前じゃないです!」
「スニフクンのバカ!もう知らない!」
「行っちゃった・・・」
何言ってるか分からないまま、モノクマはどっかに行った。ダイスケさんのモノヴィークルのログは見られないっていうのを伝えるためだけに、けっこう長いことしゃべったもんだ。なんだかモノクマを見るとすごくイヤな気持ちになる。これがメンドクサイってやつかな?
獲得コトダマ
【ボタン)
鐘楼近くの境内社に落ちていた黒いボタン。
【モノヴィークルの履歴)
モノヴィークルは行き先と時刻が履歴に残るが、死んだ人物のモノヴィークルは履歴機能が停止する。
「たまちゃん、大丈夫かな」
そう言ってこなたさんが心配するから、ボクたちは次にステージシアターに向かった。事件とは関係ないと思うけれど、たまちゃんさんやマイムさん、それにダイスケさんがリハーサルをしてたんだから、何かクルーが見つかるかも知れない。
ステージシアターはステージを囲んでファンシェイプにシートが並んでて、奥に行くほど高くなってた。ハイアーシートにはテーブルもついてて、ディナーを楽しみながらステージを見ることもできる、ゴージャスな造りになってた。
「すごいところだね。演芸場っていうから、もっと平らな客席だと思ってたよ」
「こなたさんこなたさん!ステージもこんなに広いです!見えますか!?」
「うん、見えるよ」
ステージのまんなかでジャンプしてこなたさんを呼んだら、ハイアーシートから手を振ってくれた。ステージからシートは暗くて分からないけど、シートからステージならだれがいるかは分かるようになってるんだ。
「でもここには、事件に関係ありそうなものは見当たらないね。特におかしなところもないし」
「そうですね」
「誰かいるの?あら、スニフくんに研前さん」
「あっ。正地さん」
「うるさくしてたのはスニフくんね、もう。楽屋で野干玉ちゃんが休んでるんだから、静かにしないとダメじゃない。それにここは遊ぶところじゃないのよ」
「あうあう・・・ごめんなさい」
ステージのはじっこから、たまちゃんさんを連れて行ったセイラさんが出てきた。それからいきなりおこられた。
「たまちゃんは大丈夫?」
「落ち着いてるわ。城之内くんのショックが強かったのね。学級裁判でしっかり気持ちを保てるか分からないけれど・・・」
「お話聞いてもいいですか?」
「それくらいなら」
ステージのはじっこから、ステージのうらにあるバックヤードに行けるようになってる。そこにあったドレッシングルームで、ステージコスチュームからいつものモコモコしたクロスに変わったたまちゃんさんが、水のボトルを持って座ってた。
「たまちゃん?具合はどう?」
「・・・うん。だいじょぶ。ありがと」
「ずいぶん弱ってるみたいだけど、ちょっと話聞いてもいいかな?」
「いいよ。どうせたまちゃん、いま何もできないし。みんなに代わりに捜査してもらってるし」
「無理しなくていいし、気に病む必要もないのよ。たまちゃんみたいな反応が自然なの」
いつもはリトルテリアみたいにキャンキャン言ってるイメージだったけど、さすがにグロッキーなのか、大人しくなってた。その方がすんなり話してくれそうだから、今はこの方が助かるかも。
「いよさんのムービーにボクたち行く前、ダイスケさんいないってこと、たまちゃんさん言ってました。ダイスケさん、いつからいなかったですか?」
「えっと・・・昼間から練習し続けて、本番前に一回休憩にしたの。晩ご飯も兼ねて。だから一回解散して、本番前に再集合ってことにしたんだけど、解散してから城之内は見てない」
「っていうことは、解散してから本番の時間までの間が犯行時刻ってことになるね」
「晩ご飯は食べたのかしら?レストランに行ったんなら、下越くんが見てるはずだけど」
「あとで下越くんに聞いてみた方がいいね」
「またあつまってから、たまちゃんさんとマイムさんはどこか行きましたか?」
「んっと・・・虚戈は、30分くらい外に出たときがあったよ。準備運動に踊るって言ってた」
「またダンスしてたんですかマイムさん・・・」
「その時たまちゃんは何してたの?」
「楽屋でお菓子食べてた」
やっぱりマイムさんのやることはよく分かんないな。いつもモーニングに1人でソロダンスしてるのに、リハーサルでもダンスするんだ。とんでもないタフネスだ。
それはそれとして、たまちゃんさんの話だとダイスケさんが殺されたのはみなさんがバラバラになってからだ。でもモノクマファイルだと、ボクたちがムービーをみてるときが殺された時間になってる。たまちゃんさんの話とモノクマファイルとでは、少し時間にズレがある。
「逆にたまちゃんから聞いていい?」
「いいですよ」
「みんなはあの放送聞いた?たまちゃんが城之内の死体を発見してすぐアナウンスがあったんだけど・・・」
「ああ。あのモノクマのヤツですね。ボクたちはムービーを見てました」
「いきなりだったからびっくりしたわよね。雷堂くんと極さんはすぐに対応してたみたいだけど、私はびっくりして何もできなかったわ。なんだったのかしらあれ?」
「それこそこのコロシアイの重要なファクターの1つ!死体発見アナウンスでーす!」
「また出た」
「どんなところで殺人が起きてもすぐお知らせ!せっかく殺したのに誰にも気付かれないんじゃ始まらないもんねー!」
「死体発見アナウンス?」
今度はドレッシングルームのタタミの下からモノクマが飛び出してきた。びっくりしたセイラさんがひっくり返った。モノクマと一緒に飛び上がったタタミはいきなりモノクマがその場に現れたように、自然に元に戻った。
「オマエラ、前回の茅ヶ崎サンといい、今回の城之内クンといい、死体が分かりにくい場所に遺棄されてると見つけるのも一苦労だよね!なので、3人の異なる人物が死体を目視したら死体発見アナウンスを流してみなさんに殺人の発生をお知らせします!これぞデキるクマの気配りってヤツだよねー!」
「茅ヶ崎さんの時になんてなかったじゃない」
「あ、あれは初回だったから
「アナウンスは分かりましたけど、見つけたことだけ言われてもどこか分からないんじゃ同じですよ。ボクたち、ハイドさんに教えてもらわなかったらきっと見つけられなかったですよ」
「・・・うるせー!せっかくの気遣いに文句ばっかり言いやがって!なんなんだよ!」
「あ、逃げた」
死体発見アナウンスって、すごくバッドセンスなネーミングだ。でもいますごく大事なこと言ってた。3人の人がディスカバーでアナウンスするってことは、ダイスケさんの死体をディスカバーしたのはたまちゃんさんの他にあと2人いるってことだ。それは
そんなことを考えてたらモノクマはまた消えた。
「正地さんとたまちゃんはまだここにいるの?」
「うん・・・ちょっと頭痛いし、もうちょっと休む。・・・ごめん」
「私も、たまちゃんを看てるわ。1人じゃ心配だから」
「じゃあ私たちは、キネマ館に行こうか。そっちに捜査に行った人もいるみたいだし、下越君もきっとそこにいるよ」
獲得コトダマ
【オールナイト・パーティ)
コロシアイが加速しないようモノクマの動機に対抗して開かれた会。ミュージアムエリアで行われていて、演目は「相模の映画弁舌」「野干玉のスーパートリックショット」「虚戈の曲芸」。
【野干玉の証言)
野干玉と虚戈はともに演芸場の楽屋で演目の準備をしていた。虚戈は事件発生時刻の20分ほど前に、準備運動すると言って席を外している。
【死体発見アナウンス)
死体を3人以上の人物が発見すると流れるアナウンス。殺人が起きたことを生存者全員に知らせるためのものであるが、コロシアイ参加者に事前の説明されてはいなかった。
ダイスケさんの死体があったビッグテンプルと、殺される前にダイスケさんがいたはずのステージシアター。ここの他に、インヴェスティゲートするところなんてあるのかな。ちょっと考えてみた。あんまり気分がよくないけれど、キネマ館にいた人の中に
「映画の間、スニフ君は何か怪しい物音とか、人影とか見なかった?」
「えっと・・・ごめんなさい。
「ドキドキしてたんだ。そっか。私も」
「へっ?」
「お七さんが庄之介に会いたいがために放火しちゃうところなんてすごかったよね。相模さんの弁も盛り上がってたし、ドキドキしたよね」
「
やっぱりムービーどころじゃなかったのはボクだけじゃないか!こなたさんとドキドキしあってるなんてそんなロマンスなかったんだ!
「だけどあの暗い中を動いたら、どうしたって目立つよね。こっそり抜け出して城之内君を殺してから戻ってくるなんて、できっこないよ」
「ボクもそう思います。あそこにいた人はみんな
「・・・そうだといいけど」
キネマ館にもどって来ると、3台のモノヴィークルがとまってた。えっと、まだ会ってない人はだれだったっけ?
「客席に怪しいところはないか、一回見てみようか」
「ラジャーです!」
シアターのドアを開けて中に入る。ライトが消えて暗くなってたシアターが明るくなってた。しらべやすいようにライトアップしてくれたのかな。でもそうすると、いつもは暗くてよく分からないシートの中でも動くものが見えやすい。ツルンとしたシェーヴヘッドと、オレンジのテールヘアがシートの中からとびだしてひょこひょこ動いてる。
「サイクローさんとテルジさんだ!」
「ん?おおスニフ!あと、研前か。こんなところまでよく来たな!」
「コソコソなにしてますか?」
「お、おいスニフ・・・足下でちょろちょろするな。踏んでしまうぞ」
「うきゃー!サイクローさん足おっきいですね!」
「なんでじゃれてんだよ」
「スニフ君って鉄君のこと好きだよね」
「・・・んん」
おっきくてかっこいいサイクローさんとついあそびたくなって、足下にスライディングしちゃった。見ると、テルジさんとサイクローさんは2人でポップコーンをあつめてた。
「こんなにポップコーンこぼすなんて考えらんねえよな!そういやお前らここで映画観てたんだよな?お前らじゃねえだろうな!」
「うっ!そ、そういえばボク、ポップコーン食べました・・・」
「お前か!」
「ごめんなさい!」
「ったく。いくら掃除しやすいっつってもな、落としていいってことにゃならねえからな」
「それで、掃除してるの?」
「ああ。正直、ここになんか手掛かりが残ってるとは思えねえ。城之内の死体は寺にあったわけだから、こっちには何もねえだろ」
「だからって掃除って・・・鉄君まで付き合って」
「すまん・・・」
ボクがこぼしたポップコーンをクリーンアップしてたのか。悪いことしたなあ。でもこれじゃあ、テルジさんもサイクローさんもまともにインヴェスティゲートできてはないみたいだ。
「もう1台あったモノヴィークルはだれの?」
「ありゃあ相模だな。映写室を捜査するって言ってたぜ」
「そっか。相模さん事件のときもそこにいたもんね」
ボクたちはムービーをみてたけど、いよさんはずっとアナウンスをしてた。だからボクたちとそんなに変わらないと思うけど、もしかしたら外の様子に気付いてたかもしれない。せっかくだから話を聞いてみよう。プロジェクションルームに行ってみると、いよさんがプロジェクターとロールフィルムをしらべてた。
「相模さん。どう?捜査は」
「いよ?お二人様、何故に此の様な所までお越しに?此方には何も御座いませんよ?」
「やっぱり何もないんですか。ここにはいよさんがずっといましたもんね」
「相模さんは何を調べてるの?」
「映写機の方を。いよは考えました。城之内さんの彼の死に様・・・犯人が彼の大鐘を撞いたのは間違いないでしょう。と言う次第に相成れば、鐘の音の一つでも聞こえてなければおかしかろうと思いまして。ですがいよが此処で弁をば立てて居る折、然様な音は一切聞こえませんで」
「そういえばそうですね。でもボクたちはずっとムービーに夢中でしたから、どっちにしろムービーのサウンドとまちがえてたと思います」
「成る程。いよの十八番が裏目に出たという訳ですか・・・いよぉ・・・」
「得意なんだ。『八百屋お七』」
「ええ!いよが弁のお勉強をして最初に身に着けた題目で御座います故!悲哀なる恋情と其れ故の凶行!人情と業の哀しき結末・・・美しくも儚い物語で御座います」
「でもラストはどうなるんですか?」
「其れを訊くのは野暮というものです。きちんと映画をご覧になって下さい。落語でも良いですよ」
「やぼ・・・?」
「ちゃんと相模さんの弁を最後まで聞こうねってことだよ」
やっぱりここには何もないみたいだ。いよさんがおとくいのムービータイトルは分かったけど、他のことは分からない。でもいよさんが言ってるみたいに、ベルサウンドが聞こえてきてないのはなんでだろう。いくらダイスケさんを間にはさんでても、それなりに音はすると思うんだけどな。
獲得コトダマ
【使用済みフィルム)
投影機にセットされていたフィルム。内容は相模の得意な『八百屋お七』。
「これで調べられそうなところは全部調べたかな?」
「・・・あの、こなたさん。一ついいですか?」
「うん?」
事件に関係ありそうなところはだいたいしらべた。だけど、一つだけボクにはまだ気になってることがあった。だれにも教えてないけれど、マイムさんがなくしちゃったあの、ダイイング・メッセージ。あの意味をずっと考えてた。
「『JADE DISH killed me』・・・」
「あのダイイングメッセージ?前半の所って、どういう意味なの?」
「DISHはお皿です。うんと・・・ごめんなさい、JADEのジャパニーズ分かりません。でも、ミュージアムにJADE DISHありました」
「え?じゃあそれ、事件に関係してるよね?」
そうだ。ダイスケさんのダイイングメッセージにあったJADE DISHは、ミュージアムにあった。もしあれが事件にかかわってるなら、しらべておかないといけない。あとどれくらいタイムがのこってるか分からないけど、いそいでミュージアムに向かった。
「あれ?」
ミュージアムに着くと、もう1台のモノヴィークルがあった。キネマ館でもステージシアターでもビッグテンプルでもなくて、なんでここにモノヴィークルが?そう思って中に入ってみると、JADE DISHの前にブラックコートを着たハイドさんがいた。
「ハ、ハイドさん?なんでここに?」
「・・・フンッ、来たか。思ったより遅かったな」
「星砂君、捜査は?」
「捜査?くくく・・・そんなものとうに済ませている。ここで待っていたのだ。お前たちが来るのをな」
「待ってたって、なんでまた?」
「これを見ろ」
そう言ってハイドさんは、JADE DISHを指さした。クリアなブルーグリーンがライトを受けてキラキラ光る。そこに書かれてる漢字はむずかしすぎてボクにはよめないけれど、こなたさんがそのキレイさに目を見開いてるのは分かる。
「翡翠のお皿・・・これがジェイドディッシュ?」
「JADE DISH killed me、普通に考えればこの皿が凶器だと考えられるが・・・しかしこの皿はここにこうして鎮座している。おまけにこのガラスケースはしっかり固定されている。中の物を取り出して凶器に使うなどは不可能そうだな」
「はあ」
「くくく・・・さあ、子供。この謎にどのような解を提示する?真実に至る道を示す言葉を、正しく解することはできるか?」
「ええ?ボクですか?えっと・・・」
いきなりハイドさんにそんなことを言われて、すぐに返せるほどボクはまだこの事件の全体が見えてきてない。ダイスケさんは、ビッグテンプルで頭をぶたれて殺されたんじゃないのか?ダイイングメッセージは何を意味してるんだ?それに、ボクたちやたまちゃんさんにマイムさん、ホテルにいた人たちも、みんな、お互いを見張れてた。なのに、いつどうやって、ダイスケさんをスピリチュアルエリアに殺しに行ったんだ?
獲得コトダマ
【翡翠の皿)
博物館に展示されている古代の遺物。かなり繊細で、触ることは厳禁とされている。
『時間は有限、囁く甘言、コロシアイには一家言YO!オマエラ!学級裁判の時間がやってきましたよ!血湧き肉躍るアゲアゲ学級裁判の幕が今開きますよ!メインゲート前の広場にお集まりください!真夜中だけど青空学級裁判をはっじめっるよー!』
「タイムアップ・・・か。まあいい。この後のことは学級裁判で聞かせてもらおう」
「ちょ、ちょっと待ってよ。星砂君はどうしてこんなところに?私たちが来るかどうかなんて分からなかったはずなのに・・・」
「凡俗ごときの思考回路で俺様は計れんということだ。精々俺様の足を引っ張らないようにすることだな」
それだけ言うと、ハイドさんは先にモノヴィークルで行っちゃった。ボクとこなたさんは、のこってジェイドディッシュを見てた。
「・・・やっぱりハイドさんはよく分からないです」
「でも、さすがだね。ちゃんとJADEの意味分かってたんだから」
「・・・」
こなたさんもちょっとズレてるような気がしてきた。そこじゃないでしょう。ともかく、ボクたちもモノヴィークルでアナウンスのあったところに向かった。また、あのクラストライアルが始まるんだ。ボクは頭の中でずっと、ハイドさんの言葉を考えてた。
「
ハイドさんは、何を知ってるんだろう。
コロシアイ・エンターテインメント
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