ダンガンロンパカレイド   作:じゃん@論破

12 / 66
学級裁判編1

 「待ってたよオマエラ!いや〜、やっぱりいいよねこれ!この、これからとんでもないことが始まるぞ!っていう感じ!腹の底からぞわぞわしたビッグウェーブがわき起こってくる感じ!うぷぷぷぷ!」

 

 あつまったボクたちの前で、モノクマはエキサイトしてでロウブレスする。エンジョイナブルに。ハッピーに。フラストレーティングに。イノセントに。クリューエルに。キバをむいて。目を吊り上げて。おなかを抱えて。よだれを垂らして。パペットとは思えないほどエモーショナルなモノクマに、ボクたちはみんな気分がわるくなった。

 

 「くだらねえこと言ってねえで説明しやがれ!オレたちに何さす気だ!」

 「せっかちだなあ。前にも言っただろう?学級裁判だよ!あ、でも説明はしてなかったか。じゃあ、改めて学級裁判について説明するね。一度しか言わないからよく聞いてね。いい?一度しか言わないからよく聞いてね」

 「もう二回言ってるわよ!?」

 

 ふざけたトーンのモノクマだけど、それに比べてボクたちはみんなこわいフェイスをしていた。エクスプレインなんかされなくても分かっていることが一つある。今からボクたちはムリヤリ命をかけさせられる。そのことがボクたちのほとんどをストレインさせて、スケアーさせた。

 

 「オマエラの間でコロシアイが起きた場合、オマエラ自身によって学級裁判を開いてもらいます。内容は簡単!オマエラの中に潜むクロ、つまり仲間の誰かを殺した罪人が誰なのかを議論するんだよ。掟にもあるでしょ?誰かを殺したことを誰にもバレてはいけないって。それを審査するための制度なワケ」

 「要するに推理ゲームか。で、クロを見つけたらクロが処刑。クロを見つけられなければクロ以外の全員が処刑。だったな?」

 「うぷぷぷぷ!さすが“超高校級の神童”だね!よく覚えてるゥ!」

 「単純なルールだ。一度で覚えられないヤツの方がどうかしている」

 

 なんでもないとでも言うようなフランクな言い方で、ハイドさんがモノクマの言うことをイージーに言いなおす。まるでアシストしているみたいなコンビネーションだ。きっとそれはハイドさんのマージンから来るものだった。ハイドさんはここにいるマイノリティ、クラストライアルをたのしみにしてる一人だ。

 

 「しょ、処刑とは・・・」

 「決まってるでしょ?モノクマランドでの処刑って言ったら、おしおきのことだよ!オマエラ全員、皆桐クンがどうなったか忘れたわけじゃないよね?」

 

 モノクマの言葉でボクたち全員に同じヴィジョンがフラッシュバックした。ボディをマシンアームにおさせつけられて、かぞえ切れないほどのバレッツで首から上を吹きとばされたアクトさんの死が。ぞわり、背中をアイスでつつかれたみたいにイヤなかんじがした。

 

 「うぷぷぷぷ!遂にこの時が来たんだね!待ちかねたよ。やっぱりコロシアイ生活の醍醐味と言ったらこれだよね!これがなきゃ始まらないよね!さあ!ではスタートしていきましょう!」

 「ス、スタートって、ここでやんの?今から?」

 「まあ良い天気だしい、外ってのもたまには悪くないとは思うけどさあ。曲がりなりにも裁判なら裁判らしく必要なものがあるんじゃあないかなあ」

 「おっとっと。ボクとしたことがうっかりしてたよ。さすがに何もない場所ではできないよね!と、思ってオマエラのために裁判場を用意しました!」

 「そんなものあったか?オレたちは行けるところは隅々まで調べただろ?裁判場なんかどこにも・・・」

 「バッカだな下越。こういうのは地下に隠してあるって相場が決まってんだよ」

 「バカって言うな!」

 

 これからクラストライアルがスタートするって言うのに、なんだかのんきな感じがする。だけどだれもかおの力が抜けてる人はいない。みんな、リラックスしようと必死になってるんだ。そんなボクたちをスニアするみたいに、モノクマはぷぷぷと笑う。

 

 「もう、考え方が古いんだなあオマエラは!こんな広いモノクマランドを用意したのに、薄暗くてほこり臭くて湿っぽくて陰気くさい地下に潜るなんてボクの趣味じゃないよ!なので、今回はこんな感じにしてみました!ヘイカモン!」

 「!」

 

 モノクマが(どうやってやったのか分かんないけど)フィンガーパッチをすると、ボクたちを押しのけるようにどこからかモノヴィークルたちがやって来た。全部で17台。そしてそれらはオートコントロールでサークルを作って、そこでストップした。

 ボクたちはみんな、自分のモノヴィークルをレジスターしたはずだ。これはもしかして・・・とモノクマを見ると、空に向かってモノクマはサティスファイしたようなかおをしてた。

 

 「このモノヴィークル一台一台が、オマエラにとっての証言台!オマエラにとっての法壇!オマエラにとっての検事席!オマエラにとっての弁護席!そしてこのモノヴィークルが集まったこの場所こそがオマエラにとっての裁判場ってわけだよ!うぷぷぷぷ!我ながら素晴らしい演出!場所の移動も席の移動も配置も並びも自由自在!なんという機能性!合理性!」

 「自画自賛が過ぎるだろ」

 「すごーい♡『どこでも裁判場』だねー♡」

 「そんな未来の道具は使いたくないな。いや、私たちは今から実際に使用するのだから、この場合は使いたくなかった、が正しいか?」

 「ゴチャゴチャ言ってねーでさっさと乗れよ!」

 「なにきっかけでキレた!?」

 

 言われるままに、ボクたちはボクたちのモノヴィークルにのった。サークルになってるから、一目でみなさんのかおが見える。オポジットのテルジさんの目までしっかりだ。だけど、そのテルジさんのレフトサイド、そしてボクのライトサイドには、乗る人がいるはずのないそこには、バッドテイストなポートレイトがおいてあった。

 

 「おいモノクマ・・・これは一体どういうことだ」

 「これってどれ?」

 「アクトとマナミだー♡」

 「ああなんだ。それはあれだよ」

 「分かるかその説明!」

 「死んだからって仲間はずれにしちゃうのは可哀想でしょ?皆桐クンも茅ヶ崎サンもオマエラの仲間なんだから、一緒に学級裁判をしてみるのもいいだろうってボクの粋な計らい!」

 「血色のペイントまでして、粋も何もあったものではないな。実に不愉快だ。人の命を馬鹿にしている」

 

 テルジさんのレフトサイドにはアクトさんの、ボクのライトサイドにはマナミさんの、それぞれブラッドカラーでクロスがペイントされたポートレイトが立ってた。モノクロームのフォトの中の二人は自分たちがいる場所になにも思ってないようなかおをしていた。死んでまで、モノクマのプランクに付き合わされるなんて、ボクは心のそこからモノクマにヘイトをかんじた。

 

 「それじゃあ始めようか!うぷぷぷぷ!ワックワクで、ドッキドキの、学級裁判を!」

 

 いよいよ始まる。クラストライアルが。

 

 マナミさん。見た目とちがってとってもやさしくて。とってもピュアで。ボクたちのためにパンケーキも作ってくれた。こなたさんと仲がよくって。ワタルさんのことが気になってて。ちょっとシャイで。そんなマナミさんが・・・ころされた。ボクたちの中のだれかに。

 

 ボクたちの一言が。ボクたちの声が。ボクたちの目線が。ボクたちの考えが。すべてがボクたち自身の生き死にを決める。

 命がけのDiscussion。命がけのInference。命がけのProof。命がけのCondemnation。命がけのApology。命がけのDesicion。

 

 マナミさんのために。ボクたちのために。ボクたちは命をかける。その先にあるラストがどんなものであっても、ボクたちはやるしかない。それ以外のチョイスなんて、ボクたちには用意されてないんだ。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 獲得コトダマ一覧

【モノクマファイル①)

 被害者は“超高校級のサーファー”、茅ヶ崎真波。死体発見場所はファクトリーエリアの廃工場。死亡推定時刻は1:10頃。死因は失血と呼吸困難による心停止。刺し傷は腹部に1ヶ所あり、肺に達している

 

【ナイフ)→【キッチンの包丁)

 茅ヶ崎の腹部に刺さっていた包丁。腹部からの出血が伝っているが、刃のあご部分だけでなく柄の部分まで伝っている。元はキッチンにあったもの。

 

【廃工場の血痕)

 茅ヶ崎の死体の周囲には血痕が残されていた。それなりの出血量ではあるが、極曰く死に至るほどの量ではなさそう。

 

【虚戈の証言)→【木造彫刻)

 アクティブエリアの武道場に、納見が夜通し造形していたという木造彫刻があった。かなりサイズが大きく、運ぶにはかなりの労力が必要だという。納見によれば、深夜2時までかかった大作だという。

 

【納見の運動神経)

 普段はインドア派の納見は、運動神経が壊滅的に悪い。また体力もないため、段ボール箱を2,3箱動かしただけでへとへとになってしまっていた。

 

【ショッピングセンター)

 ショッピングセンターには様々な商品が揃っており、おむつの専門店まである。モノクマ曰く、ここにあるものは全て生徒の誰かが必要としているもの。

 

【鉄の証言)

 凶器に使われたナイフは、厨房にあったナイフと刃渡りも素材も全く同じだという。実際に、厨房からはナイフが一本なくなっていた。

 

【研前の証言)

 事件前日に厨房に出入りしていたのは、片付けをしていた下越と研前とスニフと茅ヶ崎。途中で大きな食器を片付けに、須磨倉と鉄が立ち寄った。

 

【昨夜の茅ヶ崎)

 昨夜の片付けが終わった後、茅ヶ崎は一人で厨房に残って雷堂の夜食としておにぎりを作っていた。しかし捜査時、厨房におにぎりはなかった。

 

【エントランスのトイレ)

 朝方、ホテルのエントランスのトイレが使用不可能になっていた。前日の夜までは普通に使えていたが、モノクマ曰く誰かが詰まらせたらしい。

 

【廊下の血痕)

 研前の部屋の前の廊下の隅に、一滴の血のあとがあった。よく見なければ分からない。

 

【雷堂の証言)

 寝ずの番をしていた雷堂によれば、夜中に部屋の鍵が開いていたのは、星砂・納見・茅ヶ崎の3人の部屋だった。納見は夜中にレストランで会った。

 

【個室のロック)

 個室はスライド式の簡易な鍵で施錠されている。外側の小窓から開錠中は青色、施錠中は赤色のパネルが覗く。雷堂曰く、一目で鍵がかかっているか分かるのでとても便利。

 

【ピッキングツール)

 コロシアイ参加者全員に配布されている、モノクマ製スペシャルピッキングツール。初心者にも分かりやすい図説付き。茅ヶ崎の部屋にあったものは、使用した痕跡がある。

 

【ナビ履歴機能)

 モノヴィークルのナビには履歴機能が搭載されており、ナビした場所と時間が記録される。何回か同じ場所に行くと、学習して自動で連れて行ってくれるようになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 【学級裁判 開廷】

 

 「まずは、学級裁判の簡単な説明から始めましょう!学級裁判の結果はオマエラの投票により決定されます。正しいクロを指摘出来れば、クロだけがおしおき。だけど・・・もし間違った人物をクロとした場合は・・・クロ以外の全員がおしおきされ、みんなを欺いたクロだけが、失楽園となり外の世界に出ることができまーす!はい!では自由に議論をスタートさせていってください!」

 「自由にって言われても・・・どうしたらいいの?私たちみんな普通の高校生なのよ?犯人を見つけろって言ったって・・・」

 「一人だけは確実に分かってるはずだよなあ?出て来いよこのやろう!女に手ェ挙げるなんて最低野郎だ!ぶん殴ってやらあ!」

 「そんなんで出てきたら苦労しないっての。バッカみたい」

 「いよーっ!ここはひとまず、各々が怪しいと思しき人物を指差してみるのは如何でしょうか!」

 「そんな・・・仲間同士で責め合うようなことしたくないよ・・・」

 「ようなことも何も、今この場がそのための場だ。だが、相模の提案では互いに罪のなすり付け合いだ。埒の開きようもない」

 「じゃ、どうやって議論展開(はこ)んでくんだよ?」

 

 互いの顔が見える円形の裁判場では、自分以外の全員の視線に晒されることになる。些細な動揺や失言がすぐさま自らへの疑念の眼差しへと変わる張り詰めた場。自然と各人の声を緊張が覆う。それを最初に打ち破り、放言飛び交う場を議論の場へと展開させたのは、極だった。

 

 「まずは、何が分かっていて何が分かってないか、それを明確にすることだ。分かっていることは共有し、分からないことは議論する」

 「なるほどね〜♢まず何のお話からするの?」

 「一番分かりやすいのは・・・死因、だろうな」

 「シイン、コーズオブデスですね。うう・・・」

 

 落ち着いた調子で、極は議論の方向性を示した。茅ヶ崎を殺した人物が誰かを明らかにするには、残された手掛かりから犯人の正体に迫るしかない。それを誰よりも理解し、実践しようという行動だった。

 

 

 【議論開始】

 

 「茅ヶ崎の死因は何か、まずははっきりさせるぞ」

 「まあ現場の死体を見る分にはあ、腹をナイフで刺されてたよねえ」

 「それって要するに刺殺よね?ひどいことするわ・・・」

 「ヘソ出しの腹を狙うなんざふざけてやがるな!犯人は茅ヶ崎の腹を“滅多刺しにした”ってわけだ!」

 「That's wrong!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ダイスケさん、それちがいます!」

 「ん、なんだよ?」

 「マナミさん、おなかさされたの一回だけです。メッタざしなんて何回もさされてません!」

 「んん?そうだったか?服まで血だらけだったからよく分かんなかったなあ」

 「いい加減なこと言って子供に指摘されるとか、ダッサ」

 「るせー!」

 

 文字通り回りだす議論の場の中に潜む微かな矛盾を、スニフは見逃さずに射貫く。言葉に込められた感情は言霊となり、論理の綻びを打ち砕く。たとえ議論の結果が分かり切ったことの確認であっても、そこから広がる議論によって分かることは多い。

 

 「モノクマファイルの記述からも、腹部に傷が一つと分かるな。わざわざ確認するまでもないことだが、こうして見るものも見ていない者がいたことが分かったのだ。やはり念には念を入れておくべきだな」

 「追い討ちかけてくんじゃねーよ!」

 「あいや待たれぃ!!そのモノクマファイルとやらですが、信用に足るものなのでしょうか?いよはまだモノクマのことを信用しきってはおりません!」

 「そうだよな。確か、極が検死してくれてたよな?モノクマファイルに書いてあることって正しいのか?」

 「ああ。取りあえずウソは書いていない。素人に毛が生えた程度の知識しかないが、私が見た限りではここに書いてあることは正しい」

 「当然でしょ。ボクはシロにもクロにも平等なんだよ。ウソなんか吐いて簡単にクロが勝っちゃったら面白くないじゃん!」

 「あっそ・・・。で、疑うみたいで悪いんだけどよ、その極が犯人じゃないって保証はあんのか?」

 「なにそれハルト?どーゆーことぉ♣」

 「いや、こうやって誰が犯人か分かんない状況がある以上、検死するっつって証拠隠滅とかされてねえかとか・・・やっぱ気になるんだわ」

 「須磨倉、それは当然の疑惑だ。負い目を感じる必要はない。それについては下越が証人だ。私が検死している間、そばで監視していた」

 「おう見てたぞ!極はちゃんと検死してた!」

 

 モノクマファイルの記述を、検死していた極が保証する。その極の言葉を、下越が保証する。しかしその下越の言葉が真実だという保証は誰がするか。どこまで突き詰めようとも、限りなく疑いは湧き続け、消して涸れることはない。どこかでキリをつけるしかないと、全員が薄々勘付き始めた。誰の言葉を信じ、誰の言葉を疑うか。その選択の一つ一つが、自分の命の行方を左右するという重圧にも。

 

 「疑うというのなら、私からも一つ言わせてもらうぞ。極の検死を見張っていたという下越だが、二人が共犯という可能性を先に考えておきたい。私の記憶が正しければ、どちらも立候補で決まっただろう?共犯であったとしたら、私たちは迂闊だったと言わざるを得ないだろう」

 「きょ、共犯だと!?ふざけんな!オレも極も殺しなんかしねえよ!」

 「なぜ私まで庇う」

 「検死なんて、ぶっちゃけ普通したくねえことだからな!進んで名乗りをあげたお前はいいヤツだ!殺しなんかするわけねえだろ!」

 「荒川さんのお話きいてなかったのかしら・・・」

 「けど、本当に共犯だとしたら、二人ともクロになるのかな」

 「どうなんですかモノクマ!」

 「んなわきゃねーだろ!クロっていうのは、直接手を下した一人だけ!あ、一人とも限らないパターンもなくはなかったり・・・でも基本は一人!今回みたいに刺殺された場合は、茅ヶ崎サンをブッ刺したその人がクロになるわけ。どれだけクロを手伝っても、共犯者はシロと同じ扱いにしかなりません!」

 「つまり手伝い損な上にクロを勝たせれば自分は処刑、何のメリットもないってわけだな」

 「ってか、共犯者なんていつ裏切るか分からないんだから、だいたい殺されちゃうもんだけどね」

 「たまちゃんさんこわいです・・・」

 「ないと考えていいんだな。ということは、極の言うこともモノクマファイルの内容も信じていい・・・で合ってるよな?」

 「うん、それでいいと思うよ」

 

 誰かの言葉を信じるだけでも、それなりの議論と根拠が必要となる。これだけ話して分かったことは、『モノクマファイルにウソはない』の一つだけだ。その事実に気付いた者は一様に不安と寒気を感じた。この後、何度命懸けの選択を強いられるのか、分かったものではない。

 

 「ではこの俺様が話をまとめてやろう。モノクマファイルの内容に偽りはない。半裸は腹を刺されたことによる刺殺だ。死因が分かったら次は何について話すべきか、分かる者はいるか?」

 「あはは〜♫ハイドえらそー♫」

 「死因が分かったらあ・・・凶器のことでも話そうかあ。何か分かったことがあるかも知れないからねえ」

 

 

 【議論開始】

 

 「半裸を殺した凶器を答えてみろ」

 「死因が刺殺ってことは、刃物で刺されたってことだろ?」

 「茅ヶ崎の腹に深々と刺さっていたあのナイフ・・・あれが凶器と考えて間違いないだろう。傷口もあのナイフと“完全に一致”していた」

 「ナイフなんて、犯人はどこから持ってきたのかしら?」

 「まいむ分かったー☆きっと犯人は、最初から誰かを殺すつもりで“隠し持ってた”んだよっ☆ナイフ投げの達人はみんなそうしてるんだ♢」

 「否ッ・・・!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「虚戈、残念だがそれは違う。茅ヶ崎の腹に刺さっていた刃物は俺も見たが、あれはモノクマランドに元々あったものだ」

 「え〜っ♠そうなの?」

 「あれは厨房に揃えてあった包丁の中の一挺だ。霞の合わせ方や反りの特徴、鎚目のクセから同じものだと判断した」

 「ごめんなさい鉄くん・・・何の事だか全然分かんないわ」

 「“超高校級のジュエリーデザイナー”のくせに、包丁のことなんて分かんの?」

 「サイクロウさんはJewelry designerじゃなくてBlacksmithなんです!ナイフくらい丸っとお目通しです!」

 「惜しいけど、お見通しだね」

 「それでした!」

 「“才能”違いがこんな所で役立つとは思わなかったぜ。バカにして悪かったな鉄!」

 「いや・・・俺は別にそんなつもりでは・・・」

 

 突如として注目の的になることに動揺する鉄。途端に自分の目利きに自信がなくなるが、先に自分が述べた根拠から同じものだと断定できることは変わらない。凶器の特定はできたが、それがレストランの厨房にあったものだと分かったことで、新たな疑問が浮かび上がる。

 

 「じゃあ別にいいんだけどさ、そしたらもっと大きい問題があると思うんだけど」

 「なんだヌバタマ。言ってみろ」

 「たまちゃんって・・・はあ、もういいよ。えっとだから、凶器が厨房にあったものなんだったら、その包丁を持ちだしたヤツが犯人ってことになるんじゃないのって言ってんの」

 「いよ?おお!!そういえばそういうことになりますね!!なんと!!いきなり犯人の正体に急接近ですよ!?いよーーーっ!!」

 「つまり厨房に出入りしてたヤツが怪しいわけだな!えーっと・・・」

 「一番多く出入りしてたのは下越氏だねえ」

 「あれえ!?」

 「わーい犯人が分かったぞっ☆テルジが犯人だ♡」

 「ちょ、ちょ、ちょっと待て!待て待て待て待て!オレじゃねえぞ!?」

 「何やってんだか・・・。厨房なんて誰でも出入りできるんだ。包丁がいつまで全部揃ってていつ使われたかが分かれば、その間に出入りしてたヤツってことになるんじゃねえの?」

 「須磨倉の言う通りだ。まだ犯人を決める段階じゃない」

 「ちぇー♠テルジのせいだ♠」

 「疑われた上に責任まで押しつけられんのか!?」

 

 常にギリギリの緊張の中で行われる議論は、ちょっとしたきっかけで暴走し、整然を失う。誰かがその流れを止め、整理し、道筋を示さなければたちまち混沌と化す場において、冷静な思考ができる者の発言はある程度の力を持つ。須磨倉と雷堂によって議論は再び落ち着きを取り戻し、回り始める。

 

 

 【議論開始】

 

 「包丁が揃ってることを確認した最後の時間と、事件の発生した時間を確認しとくぞ」

 「モノクマファイルによれば、茅ヶ崎の死亡時刻は深夜1時ごろだ。包丁が持ち出されたのは当然、それより“前”の時間になるな」

 「いよーーーっ!“昨日の晩食の前”に持ち出されたのではありませんか!?」

 「飯作る前には全部揃ってたはずだぜ。片付けのときは・・・乾かしてるものもあったからちゃんと数えてねえな」

 「そういうことなら、“昨日のディナーのあと”に持って行かれたってことですね!」

 「その意見を採用してやる」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「当然、夕食の後だろうな。バカが言っていたように、片付け以降ならば持ち出しも容易だ」

 「バカって言うなっての!」

 「そしてその夕食の後の片付けの時間、この前後に厨房に出入りしていた人物こそ怪しい。そうは思わんか?」

 「まあ・・・普通に考えたらそうよね」

 「なんだ星砂。やけに確信めいた言い方をするな」

 「アンテナ、昨日の片付けをしていた者の名前を言ってみろ」

 「えっ、わ、私?いいけど・・・。えっと、私と、スニフ君と、下越君と、茅ヶ崎さんの4人で片付けをしたよ。私と下越君が洗い物で、茅ヶ崎さんとスニフ君が食器ふき。あ、あと途中で鉄君と須磨倉君がおひつとか大きくて重い物を持ってきてくれた」

 

 研前が指を折りながら昨晩のことを思い出し数える。ほんの少ししか厨房にいなかった鉄と須磨倉を除いて、片付けに参加していたのは4人。そのうちの1人は、殺害された茅ヶ崎だった。わざわざそのことを研前に言わせた星砂は、満足そうに頷き、次の言葉を続けた。

 

 「で、それがなんだっつうんだよ」

 「要するに、その4人の中から被害者の茅ヶ崎を省いた3人の中に犯人がいるって展開(はこ)びたいんだろ?その3人の中だったら・・・」

 「くくく、まったく、やはりどいつもこいつも凡俗というのは浅薄な思考しかしないのだな」

 「あん?」

 「逆だ」

 「逆、というと?」

 「この4人の中で最も凶器である包丁を持ちだした可能性が高い人物・・・それは、今回の事件の被害者である半裸自身だ」

 「・・・ど、どういうことだ?」

 「凶器の包丁を持ちだしたのが茅ヶ崎氏ならあ・・・なんで茅ヶ崎氏は殺されてたんだい?」

 「ヌバタマの言葉に囚われていては真実は見えてこない。包丁を持ちだした人物が即ち犯人だという証拠などどこにもないだろう」

 「な、なんだよ!じゃあ意味わかんないこと言ってないで、アンタの考え言いなよ!」

 「半裸は返り討ちに遭ったのだ」

 「・・・返り、討ち?」

 「カエリウチ?ゴーホームですか?」

 「城之内。説明してやれ」

 「・・・あーっと」

 

 端的に述べられた星砂の考えに、全員の言葉が止まった。ようやく絞り出した研前の言葉も、ただ星砂の言葉の反芻でしかなかった。返り討ち、それが意味するところは、スニフを除いて全員が理解した。そのスニフにも、城之内が流暢な英語で説明をする。そしてスニフも同様に、その意味から推測できる星砂の考えを理解した。

 

 「それってさ・・・茅ヶ崎さんが誰かを殺そうとしてたってことだよね・・・?」

 「凡俗にしては理解が早いではないかアンテナ。その通りだ」

 「・・・そんなわけ・・・そんなわけない!」

 「ほう?」

 「茅ヶ崎さんはそんなこと考える人じゃない!そんな、根拠のないこと言わないでよ!」

 「あり得ないという根拠こそないだろう。聞いた話によれば、その片付けの後で最後まで厨房に残っていたのは半裸だという話ではないか」

 「お前、そんな話いつ誰から聞いたんだ?」

 「厨房を捜査した時に着物とはちまきがそんなことを言っていた」

 「すまん。言ってはいけなかったか・・・?」

 「いけなくないです。ホントのことなんですから」

 「最後まで1人で厨房に残っているなど、包丁を持ち出すためにした行動としか思えんな。誰もいなくなった厨房で、ヤツはゆっくりと凶器の包丁を持って・・・」

 「それは、違うよ!」

 

 他人の考えなど寄せ付けないというほど自信満々に話す星砂に、研前は堪らず切り込んだ。既に言葉を持たない茅ヶ崎に変わって、返り討ちの汚名をはね除けようと声を上げずにはいられなかった。

 

 「茅ヶ崎さんはそんなことのために残ったんじゃない!あの子は、そんな人じゃない!」

 「話にならんな。人間性などという経験則からくる妄想に耳を貸すつもりはない。意見を通したくば根拠を示せ!」

 

 

 【反論ショーダウン】

 

 「凶器の包丁は厨房から持ち出されたものだ」

 「持ち出された時間帯は昨夜の夕食後の時間だったな」

 「片付けの時間以降、1人で厨房に残った半裸を疑うのは当然だろう」

 「それとも他に疑わしい人物でもいるのか!?」

 

 「茅ヶ崎さんが厨房に残ったのはちゃんとした目的があるんだよ」

 「彼女はおにぎりを作るために残ったんだ」

 「寝ずの番をする雷堂君に夜食を作ってあげるって言って残ったんだ!」

 

 「はっ!!下らん下らん下らん!!」

 「夜食を作るなどという言葉のどこに確証があるというのだ!1人残れればどうとでもウソを吐けばいい!」

 「貴様はまんまとそのウソを真に受けた間抜けということだな!」

 「その半裸の言葉を裏付ける“証拠”がどこにあるというのか!」

 

 「その言葉、斬るよッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「証拠ならあるよ。捜査のとき、おにぎりは厨房にはなかったの」

 「それならますます信憑性などないな」

 「ううん。おにぎりがなくなってたってことは、それを食べた人がいるってことだよ。そうだよね!雷堂君!」

 「ぅんっ!?」

 

 普段の温厚でのらりくらりとした雰囲気と違い、声を大にして熱く話す研前に急に名指しされ、雷堂は狼狽えた。それだけ研前が本気になっていたということだが、生憎それに応えるだけの情報を雷堂は持ち合わせていなかった。

 

 「い、いや・・・俺はおにぎりなんて食べてないぞ。番をしてる間、厨房にも行ってないし」

 「えっ・・・!?」

 「それに、茅ヶ崎が俺に夜食を作ってくれてたなんて、今始めて聞いた。そんなことしてたのか?」

 「What's!?マナミさん、ワタルさんに言ってないですか!?」

 「ま、まあ・・・茅ヶ崎さんの性格上、直接そんなことを雷堂君に言えるわけないわよね・・・」

 「でもおにぎりは・・・どうして?」

 「どうしたアンテナ。この俺様に刃向かっておいて、デマカセで論破したつもりになっていたということか?ふん、無駄な時間を過ごした」

 「ち・・・ちがう・・・!茅ヶ崎さんは昨日の晩、キッチンでおにぎりを作ってて・・・!」

 「あのお」

 

 自らの主張の根拠となる言葉が雷堂から聞けなかったことに、研前はひどく動揺する。言われてみれば、星砂の言う通り、自分はおにぎりを作る茅ヶ崎を見たわけではない。おにぎりそのものすら見ていない。いかに自分の主張が脆く曖昧な根拠によるものかをじわじわと知る。それは焦りとなって研前の心臓を早打たせる。が、その張り詰めた空気にのんびりとした声が投じられた。

 

 「なんだか話を聞いているとお、おにぎりって厨房に置いてあったもののように聞こえるんだけどお、合ってるかい?」

 「う、うん・・・きっと厨房に置いておいたはずだよ。茅ヶ崎さん、雷堂君に渡してないみたいだから」

 「厨房にあったおにぎりかあ・・・おれそれ食べたかも知れないなあ」

 「はっ!?」

 「な、なんですかヤスイチさん!?くやしくおしえてください!」

 「詳しく教えて納見君」

 「い、いやあ、そんな大したことじゃあないんだけどお・・・昨日の晩に武道場で創作をしたんだよお。夜中の2時くらいになって完成したからあ、部屋に帰って寝ようと思ったんだよお。小腹が空いたから厨房に行ったらおにぎりが置いてあったからあ、丁度いいと思ってねえ」

 「そのとき、茅ヶ崎は厨房にいたのか?」

 「いやあ。誰もいなかったよお。時間的には茅ヶ崎氏の死亡時刻を過ぎてたしねえ」

 「誰が作ったかも、いつ作られたかも分からないおにぎりを食べたのか。フフフ・・・信じられん不用心さと無神経さだ。1周回って賞賛に値する」

 「別に疑うわけじゃねえけど、その納見の言うことをどうやって証明するんだ?一応その確証はあった方がいいだろ?」

 

 念のためという城之内の言葉に、全員が思考を巡らせる。全ての行動、発言に裏付けが必要な場面では、些細なことが何の証拠になるか分からない。納見の発言が虚偽か真実かによって、今後の議論は大きく変わるからだ。そして一人、思い当たる。納見の発言が真実だと裏付けることができる人物に。

 

 

 【人物指名】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「そうだ!ワタルさん、ヤスイチさんの言うことプルーフできるはずです!」

 「えっ・・・ああ、そういえばそうだな」

 「そうだねえ。確かにそのとき雷堂氏に会ったよお」

 「ああ。夜中に2時頃にレストランに寄って、その時に納見に会った。ちょうど武道場から帰ってきて、これから寝るって言ってたな」

 「・・・っていうことは、やっぱり茅ヶ崎さんはおにぎりを作るために厨房に残ったんだよ!本当は雷堂君にあげるためのものだったけど、間違えて納見君が食べちゃったんだ」

 「いよーっ!となりますと、やはり茅ヶ崎さんは潔白ということで宜しいですね!その言葉に嘘偽りは無いということが判りました故!」

 「だそうだが、何か言いたいことはあるか、星砂」

 「・・・フンッ、おめでたい連中だ。たとえ夜食を作っていたとしても、それが真の目的であると決まったわけではあるまい。言い訳を言い訳に留まらせず、アリバイ工作に利用したと何故想像しないのか」

 「アンタ、まだ食い下がる気?おにぎりなんてそれこそ食べられてなくなっちゃうようなものがアリバイになんかなるわけないじゃん。本当にあげたかった人にも渡せないような子なら、なおさらだよ」

 「誰かが食べた、という他者の証言こそが何よりのアリバイ証明となる。たかだかおにぎりの一つや二つで、俺様の推理を却下しようなどと烏滸がましいにも程があるぞ凡俗共ッ!!」

 

 いつの間にか議論の場において周囲から孤立し、自身の推理を後押しする者がいなくなる。その不利な状況に反比例して熱くなる星砂が、その他全員を相手に強引に議論を展開する。

 

 

 【議論開始】

 

 「包丁を持ち出したのは半裸だ。ヤツ以上にその機会に恵まれたものはいまい」

 「“最後まで厨房に残っていた”茅ヶ崎を疑うのは分かるが・・・本当にそう言い切れるものなのか?」

 「茅ヶ崎さんはおにぎりを作るために厨房に残ったんだ。そのおにぎりを食べた人がいるんだから間違いないよ!」

 「おれが間違えて食べちゃったんだよねえ。いやあ悪いことしたあ」

 「たとえ夜食を作っていたのが事実でも、それでヤツが潔白になるわけではないだろう!」

 「ほんっとにしつこいよアンタ!だいたいアンタこそ、茅ヶ崎が犯人だって“証拠がない”んだから黙ってなよ!」

 「哀れだな凡俗ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「この俺様が、何の根拠もなしに論を立てていると?本気でそう考えているのだとしたら、貴様らの愚かしさに涙さえ出てくるぞ。証拠などあるに決まっているだろう」

 「えー?証拠があるんだったら先に教えてよー♣」

 「さすがに今更だぜ。デタラメじゃねえのか?」

 「全員、自分の部屋にピッキングツールが用意されているのは知っているな?半裸の個室にももちろんあった。開封され、使用済みになっていたピッキングツールをがな」

 「あっ・・・!」

 「使用済み・・・!?それは・・・つまり・・・!」

 「ピッキングツールなんぞ何に使ったのでありましょうな?」

 「もちろん、ピッキングのためだろうな。つまり茅ヶ崎が誰かの個室に忍び込もうとしていたと?」

 「証拠と言って申し分ない、否、証拠と言わずしてなんと言う!!これこそ半裸が包丁を持ちだし、誰かを殺そうとしていた確固たる証拠に他ならない!!異論は認めん!!」

 「た、確かに・・・ピッキングツール使ってんだったら反論も言い逃れもできねえよな・・・」

 

 劣勢かと思えた星砂が、強引に自らの主張を押し通す。だがそこには確かに看過できない物的証拠があり、断じて暴論などではない論理性がある。茅ヶ崎が厨房で夜食を作っていたことが事実だと認める傍証でしか成り立たない研前の主張に対して、星砂の主張は遥かに論として強固だった。

 

 「研前さんには悪いけど・・・でも、横で聞いてても、星砂くんの意見の方が論理的よ。私も茅ヶ崎さんが誰かを殺そうとしてたなんて信じられなかったけど・・・」

 「Just a moment!まってください!」

 「気持ちは汲み取るがなスニフ少年。感情論と状況証拠による傍証しかない研前の主張と、物的証拠と状況証拠に基づいた論理的主張の星砂とでは、理性的に考えてどちらを採るかは明白だぞ」

 「もし星砂の主張が事実と異なれば、どこかで矛盾が起きるはずだ。可能性の高い方から考えるのは当然だろう」

 「・・・」

 「こなたさん・・・。わ、わかりました。ボクとこなたさんはハイドさんのオピニオン、ディナイします。みなさんにそれをアンダースタンド、してもらうために、ディスカッションします」

 「どんな形であっても議論に参加することに意味がある。むしろ多様な視点は必要なものだ」

 

 完全に星砂に賛同している者は少なかれど、ほとんどの者が首を縦に振る中、研前とスニフだけはその意見に異を唱えた。しかし学級裁判は基本的に多数決制だ。一人でも多くの者を納得させた意見が全員の総意とされる。自ずと議論の流れは星砂を中心に回り始める。その流れを食い止めんと、二人は襟を正す。

 

 「じゃあ星砂の意見を採用するとして、そうすっと茅ヶ崎は夜中に誰かの部屋の鍵を開けたってことだよな?そしたら、そいつが犯人なんじゃないのか?殺そうとして、逆にやられたって感じの経緯(はこ)びだろ」

 「いよーーーっ!なるほどです!ということはここで愈々、寝ずの番をしていた雷堂さんの言葉が力を発揮するわけでございますな!さあさあお立ち会い!!刮目し傾聴なされよ!!」

 「あのさ相模、別に盛り上げなくていいんだぞ。むしろ、盛り上げられると逆にそれがプレッシャーになって言いづらくなるっつうか」

 「いよっ!?なんと!良かれと思っていたいよの弁が逆に邪魔をしてしまっていたのですか!?これは失敬、ではいよは口を閉ざしまふ。ふぁあ!おふぉぅふぉんぬんおはわいも!」

 「閉ざし切れてない!」

 「いいから話なさいよ。あんなのに構ってたらいつまで経っても話が進まないでしょ」

 「ああ。えーっと、夜中に鍵が開いてた部屋、だよな?昨晩は、ずっと鍵が開いてたのは三部屋あって、被害者の茅ヶ崎と、武道場にいたっていう納見と、あと星砂の部屋だったな」

 「ふうんなるほど・・・・・・・・・・・・ってええ!?ほ、星砂くんも昨日部屋にいなかったの!?」

 「待て待て待て待て待て!自然と犯人はそいつらの中に絞られてくるよなあ!?そういう話だったよなあ!?んで夜中に部屋の外にいた理由があった茅ヶ崎と納見を除いたら・・・」

 「事件のあった日の夜、特に理由もなく、部屋の外に出ていて、アリバイを証明できない者・・・星砂が最も疑わしい人物になる、な」

 「でもこの話の言い出しっぺ星砂だったよな!?ん!?なんだこれ!?」

 「騒ぐな凡俗共。まったくもって馬鹿馬鹿しい」

 「馬鹿馬鹿しいのはアンタだ!ってかどういうつもり!?アンタ何がしたいの!?」

 「決まっている。半裸を殺したクロを暴くのだ。そしていま、勲章から貴重な証言が出たではないか」

 「その証言で自分が疑われてるっていうのに、ずいぶん余裕だね、星砂君」

 「勿論、俺様はクロなどではないからな。それに貴様らは本当に勲章の話を聞いていたのか?」

 「はっきり言って私には、今のお前のやっていることが何ら理解できんのだ。自己矛盾?いや、筋は通っている。故に尚更、だからこそ、より一層、意味が分からない。お前は自らの首を絞めていることを分かっていながら、その主張に正当性を認めるのか?詳しい説明を求める」

 「仕方が無い。勲章、こいつらは先ほどの説明では理解も納得も承認も推理もできんようだ。もっと次元を下げて、分かるように説明してやれ」

 「お前は本当にヘイトを集めるのに余念がないよな」

 

 一度は星砂への賛同でまとまりかけていた場の空気が、一瞬にして混沌へと陥る。星砂の言う通りに推理をしていった結果、最もクロであると疑わしくなったのは他の誰でもなく、星砂自身であった。しかし混乱する周囲に憐憫の眼差しを向け、星砂は再び雷堂に言葉を促す。

 

 

 【議論開始】

 

 「包丁を持ちだしたのが茅ヶ崎だとして・・・殺そうとしてたヤツに返り討ちに遭ったとしたら・・・昨日のように茅ヶ崎と会ってたヤツが怪しいってことになるよな?」

 「ピッキングツールには“使用した痕跡があった”そうだな。つまり部屋の鍵を開けられた者がいるということだ」

 「それならワタルさん、ディティールわかります!」

 「昨日の夜ずっと鍵が開いてたのは3人だ。“茅ヶ崎”と“納見”と“星砂”だ」

 「そんな夜遅くの時間に、星砂くんは何をしていたの?」

 「俺様が何をしていたかなどさして重要ではない。そうだろう?」

 「いやなんでだよ!んなもん怪しむに決まってんだろうが!茅ヶ崎は今回の被害者だし、納見は“夜中は彫刻を造ってた”からアリバイがあるじゃねえか!お前以外に誰を疑うっつんだよ!」

 「夜中の行動など、俺様を含めて誰にも証明などできない!ぎっちょうが彫刻をしていたなどという証拠など“どこにもありはしない”ではないか!」

 「ブッブーだよそれ♠」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「・・・なんだピンク色」

 「ハイドったらダメだよ♢ヤスイチはちゃんとすっごーいの造ってたんだから♫マイム見たもん☆感動したっ♢」

 「おおっ!分かってくれるのかい虚戈氏!おれの作品に理解を示してくれるのかい!」

 「もちろんだよ♡あの黄色くてぐねぐねぐね〜〜〜ってヤツ見たら一発で分かっちゃうよ♫やっぱりおもちは黄粉に限るよね〜♡」

 「ちっがああああああああああああっう!!!そんな浅いテーマなんかじゃあないんだあああああああっ!!!」

 「うるっさい!」

 「納見君の彫刻なら私とスニフ君も見たよ。正直芸術はよく分からないけど・・・確かに夜中のアリバイを証明するには十分だよ」

 「フンッ、そんなもの、置いてある彫刻を見ただけだろう?実際に彫っている所を見たわけでもあるまいし、今までどこかに隠していたものを事件後に持ってくるだけで済む話ではないか」

 「それは・・・インポッシブルだとおもいます」

 「なぜだ」

 

 スニフの言葉に、星砂は視線を鋭くして尋ねる。自分の思うように議論が進まないことに少しずつ苛立ちを覚えている星砂は、比例して冷静さを欠きはじめていた。己の推理の入口が認められただけで、それが絶対の自信となって後の推理全てを保証するように思えてしまう。それが早とちりであると気付くことはできても、認めることは困難なものだ。

 

 「ヤスイチさん、タフネスほとんどないです。カードボードボックスだけでぐったりするのに、グレートヘビーなカーヴィングもってくる、できるわけないです」

 「納見君の体力の無さを知らないなんて言わせないよ。だってショッピングセンターでへとへとになった納見君に呆れてたのは、他でもない星砂君なんだから」

 「・・・ッ!!」

 「それならたまちゃんも知ってるよ。ビリヤードもろくにできないくらい体力ないなんてホント、情けなくてだらしなくてあり得ないよね〜」

 「そうよね。キャッチボールもまともにできてなかったものね」

 「みんなおれの無実を証明してくれてるからいいんだけどお、もうちょっとオブラートに包めるものは包んで欲しいねえ」

 「しかし、彫刻と言っても元々はショッピングセンターに置いてある丸太なのだろう?須磨倉に運んでもらっていたようだし、無理ということはないのではないか?」

 「俺だって馬鹿正直に丸太抱えてばねえよ。転がすなり機械使うなりやり方はあるさ。まあ納見にできるかっつうと頷けねえけど」

 「ということは、納見が夜中に彫刻を彫ってたっていうのは本当だってことでいいんだな?」

 「いいんじゃねえか?よくわかんねーけど!」

 「下越さんはもっと考えてください!」

 「オレは考えるのを止めた」

 「いよっ!?究極生物ですか!?」

 

 皮切りとなるスニフの言葉と共に、矢継ぎ早にエピソードが語られる。いずれも納見の体力のなさ、運動能力の低さを語るものばかりであった。それが何よりも納見による犯行の不可能性を表していた。それはつまり、次に議論の矢面に立たされる者が誰なのかを如実に示していた。

 

 「ということは、次に怪しいヤツってのは・・・」

 「星砂。どういうつもりか説明してもらおうか。なぜわざわざ自分が不利になるようなことを言ったのか」

 「・・・下らん。お前たちは、俺様が己が不利になることを予測できずに論を立てていたと本気で考えているのか?この俺様が。この、“超高校級の神童”である俺様が?人類の最高傑作にして稀代の天才であるこの俺様がか?笑えんな!」

 

 心の底から不思議そうに。信じられないという風に。星砂は目の前に並ぶ者たちを見た。この程度の先読みなど当たり前にできるに決まっている。それを理解した上で主張を通したに決まっている。自分の無実、犯行の不可能性を証明できる手段があるに決まっている。そう言いたげな表情だった。

 

 「随分な物言いだ。まあ自信があるのは結構だが、そこまで理解していたのなら、もちろんこの状況を説明するだけの根拠と論理を持っているのだろうな。あまりにも当たり前のこと過ぎてわざわざ用意などしていなかった、というのは無しだぞ」

 「はッ!!この凡俗共がッ!!俺様が予想外だったのは貴様ら凡俗の発想の貧弱さだ!!いいだろう、貴様らの邪推に付き合ってやるッ!!」

 

 高らかにそう宣言した星砂は全員に向けて大見得を切った。円形に走るモノヴィークルが風を巻き起こし、上着の裾をたなびかせる。全身を黒に染めた星砂の身体が大きく見える。果たしてこの男は、自分たちの敵なのか味方なのか。それすらも定かでないまま、14人の“超高校級”は、巡る車輪と飛び交う議論に身を委ねる。

 学級裁判は、まだ終わらない。




仕込める伏線は全部仕込む。本編中に限らずこういうキャプションでもね

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。